説明

板厚の測定装置および板厚の測定方法

【課題】被測定材に酸化皮膜が形成されていても、感度良く板厚を測定できる板厚の測定装置および板厚の測定方法を提供すること。
【解決手段】被測定材2の表面にレーザを照射し超音波を発生させるとともに酸化皮膜を除去する超音波発生手段11と、被測定材2の搬送方向下流に配設される超音波検出手段12と、被測定材2を搬送する被測定材搬送手段14と、超音波発生手段11に被測定材2の所定の位置にレーザを照射させて酸化皮膜を除去し、所定の位置が被測定材2の搬送方向下流側に所定の距離だけ移動した後に、前記所定の位置から見て搬送方向上流側に位置する他の所定の位置にレーザを照射させて酸化皮膜を除去するとともに超音波を発生させて、前記所定の位置を通じて超音波検出手段12により検出させる制御を行う制御手段15と、超音波検出手段12の検出結果に基づき被測定材2の板厚を算出する演算処理手段13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板厚の測定装置および板厚の測定方法に関するものであり、特に好適には、被測定材にレーザを照射して被測定材の内部に超音波を発生させ、この超音波のエコーを検出することによって、被測定材の板厚を非接触で測定することができる板厚の測定装置および板厚の測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材などの被測定材の板厚を、非接触で測定する装置および方法としては、たとえば、X線板厚計やγ線板厚計を用いた板厚の測定装置および板厚の測定方法が知られている。これらの板厚計は、発信部と受信部とを有し、これらが被測定材を挟んで対向するように設けられる。そして、発信部からX線やγ線を発射し、発射したX線やγ線を、被測定材を通して受信部で受信することによって、被測定材の板厚を測定することができる。
【0003】
ただし、X線板厚計やγ線板厚計を備える板厚の測定装置は、一般的に高価である。また、X線板厚計やγ線板厚計は、放射性物質を内蔵していることから、それらの取り扱いには注意を要する。そこで、X線板厚計やγ線板厚計を備える板厚の測定装置に比較して、安価で取り扱いが容易なレーザ超音波方式の板厚計を備える板厚の測定装置を使用したいという要求がある。
【0004】
レーザ超音波方式の板厚計を用いた板厚の測定方法の概略は、次のとおりである。まず、被測定材の表面の所定の位置にパルスレーザを照射する。パルスレーザが照射されると、被測定材の表面が局所的な温度上昇により変形し、弾性波(超音波)が発生する。また、被測定材の表面でアブレーションが発生し、このアブレーションの反力により、被測定材の内部に超音波が発生する。このように、まず被測定材にレーザを照射して被測定材の内部に超音波を発生させる。発生した超音波は被測定材の内部を伝搬し、被測定材の表面に達する。これをレーザ干渉計などの超音波検出装置を用いて、非接触で検出する。検出した超音波に基づいて、被測定材の板厚を算出する。
【0005】
ところで、鋼材などの熱間圧延において、圧延後の圧延材(鋼材など)の板厚を所定の寸法精度に維持するために、圧延後または圧延中の圧延材の板厚を測定し、圧延材が所定の板厚となるように、圧延ロールの圧下量などをフィードバックして調整する板厚の制御が行われることがある。たとえば、熱間圧延機の下流側(圧延材の出側)に板厚計を配設し、この板厚計で圧延材の板厚を測定する。そして、圧延材の実際の板厚と目標の板厚とを比較し、その差をフィードバックして、圧延ロールの圧下量を制御する構成が用いられることがある。このように、熱間圧延において、圧延材(鋼材など)の板厚を測定する必要性があることがある。
【0006】
しかしながら、レーザ超音波方式の板厚計を用いて、熱間圧延の圧延材の板厚を測定する場合には、次のような問題が生じることがある。熱間圧延の圧延材(すなわち高温の鋼材など)を空気中におくと、時間の経過にしたがって、その表面に酸化皮膜が形成される。また、熱間圧延の圧延材の表面に、酸化物が付着することがある。熱間圧延の圧延材の表面に、酸化皮膜が形成されたり酸化物が付着していたりすると、レーザ干渉計のような、圧延材の表面にレーザを照射して超音波エコーを検出する構成では、レーザが酸化皮膜や酸化物に吸収されるから、板厚の検出が困難となる。
【0007】
【特許文献1】特開2002−213936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、被測定材の表面に酸化皮膜などが形成されている場合であっても、レーザ超音波方式の板厚計によって被測定材の板厚を測定することができる板厚の測定装置および板厚の測定方法を提供すること、または、熱間圧延において、圧延材の板厚を、レーザ超音波方式の板厚計により測定することができる板厚の測定装置および板厚の測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、被測定材を搬送しつつ該被測定材の板厚を非接触で測定できる板厚の測定装置であって、前記被測定材の表面にレーザを照射して超音波を発生させるとともにアブレーションして前記被測定材の表面に形成される酸化皮膜を除去する超音波発生手段と、該超音波発生手段から見て前記被測定材の搬送方向下流に配設され前記被測定材の表面にレーザを照射してその反射波を検出する超音波検出手段と、前記被測定材を搬送する被測定材搬送手段と、前記超音波発生手段と前記被測定材搬送手段と前記超音波検出手段とを同期的に制御するものであって、前記超音波発生手段に前記被測定材の所定の位置にレーザを照射させて酸化皮膜を除去し、前記所定の位置が前記被測定材の搬送方向下流側に所定の距離だけ移動した後に、前記超音波発生手段に前記所定の位置から見て前記被測定材の搬送方向上流側に位置する他の所定の位置にレーザを照射させて酸化皮膜を除去するとともに超音波を発生させて、該発生させた超音波を前記所定の位置を通じて前記超音波検出手段により検出させる制御を繰り返す制御手段と、前記超音波検出手段の検出結果に基づいて前記被測定材の板厚を算出する演算処理手段とを備えることを要旨とするものである。
【0010】
また、本発明は、被測定材を搬送しつつ該被測定材の板厚を非接触で測定する板厚の測定方法であって、(1)前記被測定材の表面の所定の領域にレーザを照射してアブレーションし前記被測定材の表面に形成される酸化皮膜を除去するとともに超音波を発生させる段階と、(2)被測定材を所定の距離だけ搬送する段階と、(3)前記(1)の段階においてレーザを照射した領域の被測定材の搬送方向の上流側の他の所定の領域にレーザを照射してアブレーションし、前記被測定材の表面に形成される酸化皮膜を除去するとともに超音波を発生させる段階と、(4)発生した超音波のうち被測定材の底面に反射したエコーを前記(1)の段階においてレーザを照射した領域を通じて検出する段階と、を有し、前記(1)から(5)の段階を繰り返すことを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レーザ干渉計などで超音波を検出する場合において、レーザ干渉計のレーザを照射する位置に形成される酸化皮膜などを、あらかじめアブレーション(除去)しておくことになる。このため、超音波の検出のためにレーザ干渉計を用いた場合に、レーザ干渉計が照射したレーザが、酸化皮膜などに吸収されることを防止または抑制できる。したがって、熱間圧延の圧延材のように、被測定材の表面に酸化皮膜が形成されるような場合であっても、高い感度で超音波エコーを検出することが可能となり、被測定材の板厚を測定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明の実施形態にかかる板厚の測定装置は、レーザ超音波方式により、被測定材の板厚を測定することができる。レーザ超音波方式による被測定材の板厚の測定方法については、公知であることから、以下簡単に説明し、詳細な説明は省略する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態にかかる板厚の測定装置1の構成の概略を、模式的に示した図である。図1に示すように、本発明の実施形態にかかる板厚の測定装置1は、超音波発生手段11と、超音波検出装置12と、演算処理手段13と、被測定材搬送手段14と、制御手段15とを備える。超音波発生手段11は、所定の出力で所定の波長のパルスレーザを発生させることができる。そして発生させたパルスレーザを、被測定材2の表面に照射することができる。この超音波発生手段11には、公知の各種レーザ発生装置が適用できる。
【0015】
超音波検出装置12は、被測定材2の表面の微小な振動(換言すると微小な変位)を測定することができる。この超音波検出装置12には、たとえば、レーザ干渉計など、公知の各種変位計が適用できる。たとえばレーザ干渉計は、レーザ発振器と、光干渉計とを備える。レーザ発振器は、所定の出力で所定の波長のレーザを、被測定材2の表面に連続的に照射することができる。光干渉計は、レーザ発振器が被測定材2の表面に照射したレーザの反射波(被測定材の表面で反射したレーザ)を検出することができる。そして、被測定材2の表面で反射したレーザを検出することによって、被測定材2の表面の微小な振動(微小な変位)の絶対量を測定することができる。
【0016】
被測定材搬送手段14は、被測定材2を所定の方向に搬送させることができる。図中の矢印aは、被測定材2の搬送方向を示す。そして、被測定材搬送手段14が被測定材2を搬送することによって、被測定2材と、超音波発生手段11および超音波検出装置12とを相対移動させることができる。この被測定材搬送手段14には、ローラコンベアなど、公知の各種搬送手段を適用することができる。
【0017】
制御手段15は、超音波発生手段11と超音波検出手段12と被測定材搬送手段とを、同期的に制御することができる。これにより超音波発生手段は、搬送される(移動する)被測定材2の表面の所定の位置にパルスレーザを照射して当該書低の位置を起点として超音波を発生させることができる。また、超音波検出手段12は、搬送される(移動する)被測定材2の表面の所定の位置における微小な振動(微小な変位)の絶対量を測定することができる。なおこの制御手段15には、パーソナルコンピュータやワークステーションなどが適用できる。
【0018】
演算処理手段13は、超音波検出装置12による被測定材2の表面の微小な振動の検出結果に基づいて、超音波発生手段11が被測定材2の表面にレーザを照射してから、超音波エコーを検出するまでの時間(すなわち、超音波の伝搬時間)を計測する。そして、計測した超音波の伝搬時間に基づいて、被測定材2の板厚を算出する。この演算処理手段13には、制御手段15と同じパーソナルコンピュータやワークステーションなどが適用できる。
【0019】
図1に示すように、超音波発生手段11と超音波検出装置(レーザ干渉計)12とは、被測定材2の同じ側の表面にレーザを照射できるように配設される。また、図1に示すように、超音波検出装置(レーザ干渉計)12は、超音波発生手段11から見て被測定材2の搬送方向の下流側に配設される。そして、超音波検出装置(レーザ干渉計)12は、超音波発生手段11がレーザを照射した領域と同じ領域に対して、超音波検出用のレーザを照射して、超音波を検出することができる。
【0020】
すなわち、被測定材搬送手段14が被測定材2を搬送すると、超音波発生手段11がある瞬間にレーザを照射した被測定材2上の領域は、時間の経過にともなって被測定材2の搬送方向の下流側に移動する。そして、超音波検出装置12は被測定材2の搬送方向の下流側に配設されているから、被測定材2がその搬送方向の下流側に移動すると、超音波検出装置12は、超音波発生手段11がレーザを照射した領域と同じ領域に、超音波検出用のレーザを照射することができる。
【0021】
次に、本発明の実施形態にかかる板厚の測定装置1を用いた被測定材の板厚の測定方法について説明する。図2は、本発明の実施形態にかかる板厚の測定方法の流れの概略を示したフローチャートである。図3および図4は、本発明の実施形態にかかる板厚の測定方法の流れの概略を、模式的に示した図である。
【0022】
ステップS1からステップS4にかけては、制御手段15が、超音波発生手段11と超音波検出手段12と被測定材搬送手段14とを同期的に制御することにより実行される。図2に示すように、ステップS1において、被測定材搬送手段14に被測定材2を載置し、被測定材2の搬送を開始する。図中の矢印aは、被測定材の搬送の向きを示す。被測定材2を被測定材搬送手段14により搬送すると、被測定材2と、超音波発生手段11および超音波検出装置12とが相対的に移動する。この相対移動の方向は特に限定されるものではないが、被測定材2の板厚に直角の方向であることが好ましい。
【0023】
ステップS2において、超音波発生手段11は、制御手段15の制御により被測定材2の表面の特定の領域に、パルスレーザを照射する。被測定材の表面にパルスレーザが照射されると、アブレーション機構により、レーザが照射された領域においては、その表面に形成される酸化皮膜が除去される(図3(a)参照)。
【0024】
ステップS3において、被測定材2がステップS1の位置から所定の距離だけ搬送された後に(換言すると、被測定材2と、超音波発生手段11および超音波検出装置12とが所定の距離だけ相対移動した後に)、超音波発生手段11は、再度、制御手段15の制御により、被測定材2の表面の特定の領域に、パルスレーザを照射する。具体的には、図3(b)に示すように、被測定材2が被測定材搬送手段14により搬送されて、超音波検出装置12のレーザ干渉計が、超音波発生手段11がレーザを照射した領域を検出できる位置に達したときに、被測定材2の表面にパルスレーザを照射する。
【0025】
超音波発生手段11がステップS2においてレーザを照射してから、ステップS3において、再度、レーザを照射するまでの間に、被測定材2は、被測定材搬送手段14により搬送されるから、超音波発生手段11がレーザを照射する領域は、ステップS2とステップS3とで相違する。すなわち、ステップS2においてレーザが照射される領域は、ステップS3においてレーザが照射される領域の、被測定材2の搬送方向の下流側となる。
【0026】
ステップS3において、被測定材2の表面の所定の領域にレーザが照射されると、アブレーション機構により、被測定材2の表面に形成される酸化皮膜が除去される。それと同時に、アブレーション機構および熱弾性効果により、当該レーザが照射された領域を起点として超音波が発生する。発生した超音波は、被測定材2の内部を伝搬し、被測定材2の底面(レーザが照射された側の表面とは反対側の表面)において反射する。そして反射した超音波の一部は、ステップS2においてレーザが照射されて酸化皮膜が除去された領域に到達する。
【0027】
そしてステップS4において、超音波検出装置12は、ステップS2においてレーザが照射されて酸化皮膜が除去された領域の微小な振動(微小な変位)を検出する。前記のように、超音波検出装置12のレーザ干渉計が、ステップS2において超音波発生手段11がレーザを照射した領域の微小変位(微小振動)を検出できるタイミングで、超音波発生手段11は特定の領域にレーザを照射する。したがって、超音波検出装置12は、酸化皮膜が除去された領域を通じて、超音波エコーを検出することができる。
【0028】
ステップS5において、演算処理手段13は、超音波検出装置12による超音波エコーの検出結果に基づいて、超音波発生手段11が被測定材の表面にレーザを照射してから、当該レーザのアブレーション機構および熱弾性効果により発生した超音波の底面エコーを検出するまでの時間(すなわち、超音波の伝搬時間)を計測する。すなわち、ステップS3において、超音波発生手段11が被測定材2の表面の特定の領域にレーザを照射してから、ステップS4において、超音波検出装置12が超音波の底面エコーを検出するまでの時間を計測する。そして演算処理手段13は、計測した超音波の伝搬時間に基づいて、被測定材2の板厚を算出する。
【0029】
被測定材2の板厚の測定を継続する場合には(すなわち、複数の箇所において板厚を測定する場合には)(ステップS6において「Yes」)、ステップS3に戻る。
【0030】
被測定材2が所定の距離だけ搬送された後に、超音波発生手段11は、制御手段15の制御により、被測定材の表面の特定の領域に、パルスレーザを照射する。具体的には、図4に示すように、前回のステップS3においてレーザが照射された領域が、被測定材2の搬送にともなって移動し、超音波検出装置12のレーザ干渉計が発射するレーザが当該領域に照射されるタイミングで、超音波発生手段11がレーザを照射する。したがって、今回のステップS3においてレーザが照射される領域は、前回のステップS3においてレーザが照射される領域とは異なる。
【0031】
今回のステップS3において、被測定材2の所定の領域にレーザが照射されると、アブレーション機構により、被測定材2の表面に形成される酸化皮膜が除去される。それと同時に、アブレーション機構および熱弾性効果により、当該レーザが照射された領域を起点として、超音波が発生する。発生した超音波は、被測定材2の内部を伝搬し、被測定材2の底面で反射する。そして、反射した超音波の一部は、前回のステップS3においてレーザが照射されて酸化皮膜が除去された領域に到達する。
【0032】
今回のステップS4において、超音波検出装置12は、前回のステップS3においてレーザが照射されて酸化皮膜が除去された領域の微小な振動(微小な変位)を検出する。超音波検出装置12のレーザ干渉計が発するレーザが、前回ステップS3において超音波発生手段11がレーザした領域に対してレーザを照射するタイミングで、超音波発生手段11は特定の領域にレーザを照射する。このタイミングは、制御手段15により制御される。したがって、超音波検出装置12は、酸化皮膜が除去された領域を通じて、超音波エコーを検出することができる。
【0033】
今回のステップS5において、演算処理手段13は、超音波検出装置12による超音波エコーの検出結果に基づいて、超音波発生手段11が被測定材2の表面にレーザを照射してから、当該レーザのアブレーション機構および熱弾性効果により発生した超音波の底面エコーを検出するまでの時間(すなわち、超音波の伝搬時間)を計測する。すなわち、今回のステップS3において、超音波発生手段11が被測定材2の表面の特定の領域にレーザを照射してから、今回のステップS4において、超音波検出装置12が超音波の底面エコーを検出するまでの時間を計測する。そして演算処理手段13は、計測した超音波の伝搬時間に基づいて、被測定材2の板厚を算出する。
【0034】
このように、連続的に被測定材2の複数の箇所の板厚を測定する場合には、ステップS3〜ステップS5の動作を繰り返す。この際に、ある回のステップS4において、超音波検出装置12がレーザを照射する領域は、当該回の前の回におけるステップS3において、超音波発生手段11がレーザを照射した領域とする。
【0035】
すなわち、当該回の前の回におけるステップS3においては、超音波を発生させるために、被測定材2の所定の領域にレーザを照射し、アブレーション機構および熱弾性効果により超音波を発生させる。この際、アブレーション機構により、レーザを照射した領域の表面に形成される酸化皮膜を除去する。この、アブレーション機構により酸化皮膜が除去された領域を、次の回において、超音波検出装置12が超音波の底面エコーを検出する検出領域とする。そしてこのような動作を繰り返す。
【0036】
このような構成によれば、被測定材2の表面に形成される酸化皮膜をアブレーション(除去)した領域を通じて超音波エコーを検出することができる。このため、超音波エコーの検出のためにレーザ干渉計を用いた場合に、レーザ干渉計が照射したレーザが酸化皮膜に吸収されることを防止または抑制できる。したがって、熱間圧延のように被測定材2の表面に酸化皮膜が形成されるような場合であっても、高い感度で超音波エコーを検出することが可能となり、被測定材2の板厚を測定することが可能となる。
【0037】
そして、本発明の実施形態にかかる板厚の測定装置1および板厚の測定方法を、熱間圧延に適用すれば、インラインで被測定材2の板厚を測定することができる。したがって、熱間圧延における圧延材の板厚の制御に適用することができる。ここで、本発明の実施形態にかかる板厚の測定装置1は、構成が簡単であり、また、放射性物質を使用しないことから、安価で取り扱いが容易である。したがって、たとえば製造ラインのコスト削減を図ることができる。
【0038】
なお、図2に示すステップS1からS5の動作を一回だけ行うことにより、被測定材2の特定の位置の板厚を測定することができる。また、図2に示すステップS3〜ステップS5を繰り返すことにより、被測定材2の搬送方向の全長にわたって、板厚の測定を行うこともできる。
【0039】
なお、ある回のステップS3において、被測定材2の表面にレーザが照射される領域(すなわち、次の回において超音波検出装置12が底面エコーを検出する領域)と、次の回のステップS3において超音波を発生するためにレーザが照射される領域との間隔(以下、単に「レーザの照射間隔」と称する)は、次のとおりであることが好ましい。
【0040】
すなわち、次の回のステップS3において超音波を発生するためにレーザが照射される領域から、ある回のステップS3において被測定材2の表面にレーザが照射される領域に到達する超音波には、被測定材2の表面を伝搬して到達するものと、被測定材2の内部を伝搬し底面に反射して到達するものがある。本発明においては、被測定材2の内部を伝搬し底面に反射して到達する超音波を検出する必要があるため、この超音波に被測定材2の表面を伝搬して到達する超音波が重ならないようにすることが好ましい。
【0041】
被測定材2の表面を伝搬する超音波の伝搬速度は、被測定材2の内部を伝搬する超音波の伝搬速度より小さいことが知られている。また、被測定材2の表面を伝搬する超音波の経路は、被測定材2の内部を伝搬し底面に反射する超音波の経路よりも短い。このため、被測定材2の板厚の値とレーザの照射間隔の値によっては、被測定材2の表面を伝搬する超音波と、被測定材2の内部を伝搬する超音波とが、略同時に次の回において超音波検出装置がレーザを照射して超音波の底面エコーを検出する領域に到達することがある。そうすると、底面エコーと表面を伝搬する超音波とが合成された状態で検出されるため、底面エコーを識別することが困難となることがある。
【0042】
このため、レーザの照射間隔は、被測定材2の表面を伝搬する超音波が到達する時間と、被測定材の内部を伝搬する超音波が到達する時間とが異なるようにすることが好ましい。具体的には、d=2×(v’/v)×(T+(d/2)(1/2)を充足しないようにすることが好ましい。ここで、dはレーザの照射間隔、v’は被測定材2の表面を伝搬する超音波の伝搬速度、vは被測定材2の内部を伝搬する超音波の伝搬速度、Tは被測定材の板厚である。このような条件を充足しないようにすれば、被測定材2の表面を伝搬する超音波と、被測定材の内部を伝搬する超音波とが重ならないようにすることができる。したがって、被測定材2の表面を伝搬する超音波と、被測定材2の内部を伝搬する超音波とが別々に検出されるから、底面エコーを感度良く検出することができる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の実施例について説明する。表1は、本発明の実施例における実施条件を示したものである。
【0044】
【表1】

【0045】
超音波を発生するための励起レーザは、発信波長が1064nm、発信出力が最大で430mJ、パルス幅は8nsec、発信周期は10Hz、ビーム径はφ3mmである。超音波検出装置のレーザ干渉計が発するレーザは、発信波長が532nm、発信出力が200mJ、ビーム径はφ50μmである。被測定材は、S50C炭素鋼であり、板厚は10mm、板の幅は100mmである。表面は光沢圧延肌である。そして加熱炉により1000℃に加熱して用いている。被測定材と励起レーザとの距離は450mmである。
【0046】
まず、被測定材の表面の所定の領域に励起レーザを照射し、アブレーション機構によって、表面の酸化膜を除去した。次に前記酸化膜を除去した領域とは異なる領域に励起レーザを照射し、アブレーション機構および熱弾性効果により、被測定材の内部に超音波を発生させた。そして、前記表面の酸化膜を除去した領域にレーザ干渉計のレーザを照射し、超音波エコーを検出した。
【0047】
図5は、本発明の実施例にかかる超音波エコーの検出結果を示したグラフである。図6および図7は、比較例にかかる超音波エコーの検出結果を示したグラフである。具体的には、本発明の実施例においては、アブレーション機構によって表面の酸化膜を除去した後、ただちに前記酸化膜を除去した領域とは異なる領域に励起レーザを照射し、超音波エコーを測定した。図6に示す比較例は、アブレーション機構によって表面の酸化膜を除去した後、被測定材を20秒間大気中に放置してから前記酸化膜を除去した領域とは異なる領域に励起レーザを照射し、超音波エコーを測定した。図7に示す比較例は、アブレーション機構によって表面の酸化膜を除去した後、被測定材を30秒間大気中に放置してから前記酸化膜を除去した領域とは異なる領域に励起レーザを照射し、超音波エコーを測定した。比較例においては、被測定材を所定の時間だけ大気中に放置することにより、被測定材の表面に酸化皮膜が形成されるものと考えられる。
【0048】
図5、図6については底面エコーを楕円で囲んである(図7は判別ができないためしるしを付していない)。図5に示すように、本発明の実施例においては、底面エコーがはっきりと検出された。これに対して、図6に示す比較例においては、検出される底面エコーのピーク値が小さくなり、底面エコーの検出感度が低くなった。また、図7に示す比較例においては、底面エコーのピーク値はほとんど検出できなかった。このように、本発明によれば、底面エコーを感度良く測定できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上、本発明の各種実施形態および実施例について説明したが、本発明は、前記実施形態または実施例に何ら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変が可能であることはいうまでもない。
【0050】
たとえば、前記実施形態においては、被測定材の表面に酸化皮膜が形成された場合に、レーザの照射によってこの酸化皮膜を除去する構成を示したが、被測定材の表面には、膜厚の厚い異物(たとえば酸化物)が付着することがある。このような場合には、被測定材の表面に向けて高圧の気体(空気など)や液体(水など)を噴射することによって、これら異物を除去し、被測定材の表面に形成される酸化皮膜をレーザの照射によって除去する構成であっても良い。
【0051】
また、被測定材の表面に形成される酸化皮膜が厚いため、レーザを照射した場合に、アブレーション機構によって酸化皮膜は除去されるが、超音波が発生しない(または振幅が小さい超音波しか発生しない)ことがある。このような場合には、たとえば、二回連続してレーザを照射し、一回目のレーザの照射によって酸化皮膜を除去し、二回目のレーザの照射によって超音波を発生させる構成であっても良い。なお、レーザを照射する回数は二回に限定されるものではなく、三回以上であっても良い。この場合には、最後の一回のレーザの照射により超音波を発生させ、それ以外のレーザの照射によって酸化皮膜を除去する構成が適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態にかかる板厚の測定装置の概略構成を、模式的に示した図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる板厚の測定方法の流れを、模式的に示したフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態にかかる板厚の測定方法のプロセスを、模式的に示した図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる板厚の測定方法のプロセスを、模式的に示した図である。
【図5】本発明の実施例にかかる板厚の測定結果を示したグラフであり、超音波エコーの検出結果を示す。
【図6】比較例にかかる板厚の測定結果を示したグラフであり、超音波エコーの検出結果を示す。
【図7】比較例にかかる板厚の測定結果を示したグラフであり、超音波エコーの検出結果を示す。
【符号の説明】
【0053】
1 板厚の測定装置
11 超音波発生手段
12 超音波検出手段
13 演算処理手段
14 被測定材搬送手段
15 制御手段
2 被測定材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定材を搬送しつつ該被測定材の板厚を非接触で測定できる板厚の測定装置であって、
前記被測定材の表面にレーザを照射して超音波を発生させるとともにアブレーションして前記被測定材の表面に形成される酸化皮膜を除去する超音波発生手段と、
該超音波発生手段から見て前記被測定材の搬送方向下流に配設され前記被測定材の表面にレーザを照射してその反射波を検出する超音波検出手段と、
前記被測定材を搬送する被測定材搬送手段と、
前記超音波発生手段と前記被測定材搬送手段と前記超音波検出手段とを同期的に制御するものであって、前記超音波発生手段に前記被測定材の所定の位置にレーザを照射させて酸化皮膜を除去し、前記所定の位置が前記被測定材の搬送方向下流側に所定の距離だけ移動した後に、前記超音波発生手段に前記所定の位置から見て前記被測定材の搬送方向上流側に位置する他の所定の位置にレーザを照射させて酸化皮膜を除去するとともに超音波を発生させて、該発生させた超音波を前記所定の位置を通じて前記超音波検出手段により検出させる制御を繰り返す制御手段と、
前記超音波検出手段の検出結果に基づいて前記被測定材の板厚を算出する演算処理手段と、
を備えることを特徴とする板厚の測定装置。
【請求項2】
被測定材を搬送しつつ該被測定材の板厚を非接触で測定する板厚の測定方法であって、
(1)前記被測定材の表面の所定の領域にレーザを照射してアブレーションし前記被測定材の表面に形成される酸化皮膜を除去するとともに超音波を発生させる段階と、
(2)被測定材を所定の距離だけ搬送する段階と、
(3)前記(1)の段階においてレーザを照射した領域の被測定材の搬送方向の上流側の他の所定の領域にレーザを照射してアブレーションし、前記被測定材の表面に形成される酸化皮膜を除去するとともに超音波を発生させる段階と、
(4)発生した超音波のうち被測定材の底面に反射したエコーを前記(1)の段階においてレーザを照射した領域を通じて検出する段階と、
を有し、前記(1)から(5)の段階を繰り返すことを特徴とする板厚の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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