説明

板材打抜装置

【課題】部材の厚みが大きい場合であっても、これを小片に打ち抜くとともに好適に真空吸着および脱着して小片を位置精度よく移送することが可能な打抜装置を提供する。
【解決手段】板材打抜装置10は、板材210を環状の打抜刃20で所定形状の小片212に打ち抜くとともに、この小片212を真空吸着する装置である。環状の打抜刃20の刃先部24は、打抜刃20の外側面26より内側面28に近接している。これにより、打ち抜かれる小片212が内側に歪む歪エネルギーが低減されため、打ち抜き時に小片212に蓄えられる弾性エネルギーが減少し、板材打抜装置10に対する真空吸着、および板材打抜装置10からの脱着が好適におこなわれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は板材打抜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム状やシート状の部材を打抜刃によって小片に打ち抜く打抜装置が知られている。この種の装置に関し、特許文献1から3には、L形状などの環状の打抜刃でロール状フィルムを小片に切断する装置が記載されている。打抜刃はヘッドユニットの下面に形成されている。このヘッドユニットをフィルムに対して上方から押し付けることで、打抜刃はフィルムをL形状などの小片に切断する。環状の打抜刃の中央は開口しており、この開口には棒状の固定用ヒータが昇降可能に挿通されている。また、打抜刃の内部には吸引用ポートが開口して設けられている。吸引用ポートは、打ち抜かれた小片を真空吸着する。小片を吸着したヘッドユニットを駆動して、小片をロール状フィルムから被定置対象部材まで移動させる。被定置対象部材の上方にヘッドユニットが位置した状態で吸引用ポートの吸引を停止し、さらに固定用ヒータを降下させて打抜刃の中央開口から下方に突出させる。これにより、小片は打抜刃から取り外されるとともに被定置対象部材に押圧される。
【0003】
従来の打抜刃は、たとえば特許文献1の図19(b)に示されるように、刃先部が打抜刃の板厚の中心に位置している。この打抜刃は、尖鋭の刃先部から打抜刃の外側面および内側面に向かって両側に等しく傾斜するテーパー形状である。
【0004】
また、従来の吸引用ポートは、たとえば特許文献1の図2に示されるように、打抜刃の板厚中心にあたる刃先部と、固定用ヒータが突没する中央開口との中間に形成されている。これにより、吸引用ポートは、刃先部で切断されるフィルムの外縁と、打抜刃の中央開口の周縁との中間位置を吸着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−166001号公報
【特許文献2】特開2010−166002号公報
【特許文献3】特開2010−166003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1から3の打抜装置では、打ち抜かれる部材の厚みが大きくなると種々の問題が発生する。図7(a)から(d)は、従来の打抜装置130の課題を説明する縦断面図である。図7(a)は、打抜装置130のヘッドユニット120の下面に装着された環状の打抜刃110を、板材210に向かって下降させる状態を説明する図である。従来の打抜刃110においては、尖鋭な刃先部114は打抜刃110の板厚の中心線上に位置している。すなわち、従来の打抜刃110は、刃先部114から打抜刃110の外側面116および内側面118に向かって同じ角度で傾斜するテーパー刃である。ヘッドユニット120の中央には中央開口122が形成されている。中央開口122には、棒状の固定用ヒータ128(図7(d)を参照)が突没自在に挿入される。吸引用ポート124は中央開口122の周囲を囲うように形成されている。従来の吸引用ポート124は、打抜刃110の板厚中心にあたる刃先部114と、中央開口122の中心との中間の位置に形成されている。
【0007】
打ち抜かれる板材210は、一般にセパレータ220を介して打ち抜きテーブル140の上面に被着された状態で提供される。セパレータ220はPET粘着性の樹脂材料からなり、板材210を打ち抜きテーブル140に固定するとともに、打抜刃110が打ち抜きテーブル140に突き当たって刃こぼれすることを防止するためのスペーサとして機能する。
【0008】
図7(b)は、打抜刃110を板材210に押し当てた状態を説明する図である。打抜刃110の環状の刃先部114が板材210を小片212に打ち抜くときに、打抜刃110は小片212をドーム状に撓ませる。打抜刃110が板材210に進入するに従って、打抜刃110の厚み分だけ打抜刃110が小片212を内側に歪ませるためである。具体的には、刃先部114から内側面118に至る内側傾斜面117が小片212を内側に歪ませ、この歪エネルギーによって小片212が弓状に撓む。このように板材210の打ち抜き時に小片212が弾性エネルギーを蓄えて弓状に撓むことにより、以下の問題が発生する。
【0009】
第一には、図7(b)に示すように吸引用ポート124で小片212を真空吸着してこれをセパレータ220から引き剥がす際に不具合が発生する。図7(c)に示すように、上に凸(破線で図示)の弓状に撓んでいた小片212が、セパレータ220の粘着性によって下に凸(実線で図示)に撓み方向が反転して、ヘッドユニット120から落下する。これにより、小片212を板材210から打ち抜く作業の歩留まりが低下する。
第二には、仮に小片212を打抜刃110の内側に吸着保持することができたとしても以下の問題が生じる。すなわち、図7(d)に示すように、固定用ヒータ128を押し出して小片212を打抜刃110から脱着する際に、弓状の小片212が上に凸(破線で図示)から下に凸(実線で図示)に撓み方向が反転して打抜刃110から勢いよく落下する。これにより、貼り付けテーブル150の上面に設けられた貼付対象部材310等に対して小片212を貼り付ける位置精度が低下するという問題があった。
【0010】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、部材の厚みが大きい場合であっても、これを小片に打ち抜くとともに好適に真空吸着および脱着して小片を位置精度よく移送することが可能な打抜装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、板材を環状の打抜刃で所定形状の小片に打ち抜くとともに前記小片を真空吸着する板材打抜装置であって、環状の前記打抜刃の刃先部が前記打抜刃の外側面より内側面に近接していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の板材打抜装置によれば、打抜刃の刃先部が外側面より内側面に近接していることにより、打ち抜かれる小片が内側に歪む歪エネルギーが低減される。このため、打ち抜き時に小片に蓄えられる弾性エネルギーが減少し、板材打抜装置に対する真空吸着、および板材打抜装置からの脱着が好適におこなわれる。よって本発明の板材打抜装置によれば小片を位置精度よく移送することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる板材打抜装置を示す縦断面図である。
【図2】(a)から(d)は第一実施形態の板材打抜装置の動作を説明する縦断面模式図である。
【図3】第一実施形態にかかる板材打抜装置の平面模式図である。
【図4】(a)は環状の打抜刃を備える切刃ユニットの縦断面図であり、(b)は切刃ユニットの平面図である。
【図5】打抜刃の刃先部の拡大図である。
【図6】(a)は第二実施形態の刃先部の部分縦断面図、(b)は第三実施形態の刃先部の部分縦断面図、(c)は第四実施形態の刃先部の部分縦断面図、(d)は第五実施形態の刃先部の部分縦断面図である。
【図7】(a)から(d)は、従来の打抜装置における課題を説明する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。本実施の形態では、打抜刃を鉛直下方に向かって駆動する場合を例示するが、本発明はこれに限られない。打抜刃を水平方向、鉛直上方またはその他の方向に向かって駆動してもよい。
【0015】
なお、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。たとえば、打抜刃が複数の部材で構成されていてもよい。
【0016】
図1から図5を用いて本発明の第一実施形態にかかる板材打抜装置10を説明する。
【0017】
はじめに、本実施形態の板材打抜装置10の概要について説明する。
板材打抜装置10は、板材210を環状の打抜刃20で所定形状の小片212に打ち抜くとともに、この小片212を真空吸着する装置である。そして、本実施形態の環状の打抜刃20の刃先部24は、打抜刃20の外側面26より内側面28に近接していることを特徴とする。
【0018】
次に、本実施形態の板材打抜装置10について詳細に説明する。
図1および図2(a)に示すように、板材打抜装置10は、打抜刃20、板材保持機構60、真空吸着機構62および板材打抜機構64を備えている。
板材保持機構60は、打ち抜かれる板材210を保持する打ち抜きテーブルである。真空吸着機構62は、板材210を真空吸着する吸着ヘッド34を備える吸着手段である。板材打抜機構64は、打抜刃20を降下させて板材210を打ち抜く駆動手段である。
【0019】
吸着ヘッド34は板材打抜装置10の駆動本体部にあたる。吸着ヘッド34の下面には、刃先部24を下方に向けて打抜刃20が取り付けられている。刃先部24は、打抜刃20における尖鋭な環状の稜線である。本実施形態では、板材打抜機構64は吸着ヘッド34を主として昇降方向(図1の上下方向)に駆動する。板材打抜機構64は、たとえばエアシリンダである。
【0020】
真空吸着機構62は、たとえば揺動ピストン型のドライ真空ポンプである。吸着ヘッド34は、環状の打抜刃20の内部空間と連通した吸着口32を備えている。吸着口32は吸着ヘッド34の下面に開口形成されている。吸着口32を開口端とする流路が吸着ヘッド34の内部に形成されており、この流路が真空吸着機構62により負圧に吸引される。なお、板材打抜装置10が小片212を真空吸着するとは、大気圧以下の負圧によって小片212が吸引されている状態をいい、吸着圧の高低は特に限定されない。
【0021】
また、本実施形態の板材打抜装置10は、板材移動機構66と板材貼付機構68をさらに有している。板材移動機構66は、板材210を真空吸着した吸着ヘッド34を移動させる移動手段である。板材移動機構66の移動方向は、主として水平方向(図1の左右方向)である。板材移動機構66は、たとえばレールおよび搬送モータ(図示せず)である。板材貼付機構68は、移動した板材210(小片212)を貼付対象部材310に圧接させて貼り付ける押圧手段である。
【0022】
打ち抜かれる板材210としては、フレキシブルプリント基板(FPC:Flexible Printed Circuits)の表面を保護する補強板を挙げることができる。本実施形態の板材打抜装置10は、FPCの製造装置の一種であり、具体的にはFPCに対する補強板の貼り付け装置である。
【0023】
板材210は、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、芳香族ポリエステル、ガラスエポキシ樹脂などの樹脂材料からなる。板材210の板厚は、一例として50μm以上かつ250μm以下である。かかる材料かつ板厚の場合、板材210は高い曲げ剛性をもつ。このため、打抜刃20の刃先部24が板材210を小片212に打ち抜く際にこの小片212に対して面内方向の歪みが与えられると、これが弾性エネルギーとなって小片212に蓄えられて上記の課題が発生する。これに対し、本実施形態の板材打抜装置10では、打抜刃20の刃先部24が内側面28に偏って位置しているため、刃先部24が板材210を打ち抜く際に小片212に与えられる面内方向の歪みが低減される。
【0024】
板材210の下面には熱硬化性接着剤層214がコーティングされている。さらに、熱硬化性接着剤層214の下面側にはセパレータ220が被着されている。セパレータ220には、一例として、PETなどの樹脂材料からなる易剥離性のテープを用いることができる。
【0025】
本実施形態の刃先部24は、打抜刃20の内側面28の延長線上、すなわち内側面28の直下に位置している。また、打抜刃20の内側面28は、打ち抜かれる板材210の表面に略直交している。したがって、図2(b)に示すように打抜刃20の刃先部24が板材210を貫通してセパレータ220に突き立てられると、環状の打抜刃20に囲まれた打ち抜き領域が小片212となる。板材210の下面の熱硬化性接着剤層214も、小片212とともに打ち抜かれる。このとき、小片212は打抜刃20によって面内方向の内側に歪むことがないため、弓形等に湾曲せず、板材210と同じ平坦形状を維持する。
【0026】
なお、図2(b)から(d)および図3では、板材打抜機構64および板材移動機構66の図示を省略する。
【0027】
図2(b)の状態で、真空吸着機構62を駆動させて小片212を打抜刃20の内側の吸着口32に吸着させる。小片212は平坦であって弾性エネルギーを蓄積していないため、吸着口32に確実に吸着される。図2(b)の状態から吸着ヘッド34を上昇させると、小片212および熱硬化性接着剤層214は、易剥離性のセパレータ220から剥離する(図2(c)を参照)。
【0028】
この状態から、板材移動機構66(図2(a)を参照)を用いて吸着ヘッド34を水平方向に駆動し、貼り付けテーブル70の上方に吸着ヘッド34を位置合わせする。貼り付けテーブル70の上面には貼付対象部材310が予め固定されている。板材打抜機構64を駆動して吸着ヘッド34を貼付対象部材310の上方近傍にセットした状態から、図2(d)に示すように板材貼付機構68を駆動して小片212を打抜刃20から脱着させる。
【0029】
板材貼付機構68は、押出ロッド71と、これを昇降駆動するエアシリンダ72とを備えている。打抜刃20の中央には中央開口51が形成されている(図1を参照)。吸着ヘッド34には、この打抜刃20の中央開口51と連通する貫通孔73が形成されている。貫通孔73の内周にはシール部材74が設けられている。押出ロッド71はシール部材74と気密に摺動する。シール部材74の気密性により、吸着ヘッド34の下面と小片212との間に真空吸着機構62が形成した負圧が、貫通孔73によって消失することが防止されている。エアシリンダ72を駆動して押出ロッド71を下降させ、押出ロッド71の下端を吸着ヘッド34の下面より下方に突出させることで、小片212は打抜刃20から脱着する。このとき、真空吸着機構62による吸着を停止する。
【0030】
押出ロッド71の下端にはヒータ(図示せず)が埋設されている。このヒータに通電することで押出ロッド71の下端面は発熱する。小片212は貼付対象部材310に押圧されるとともに、熱硬化性接着剤層214が熱硬化して小片212を貼付対象部材310に固着させる。
【0031】
図3に片側矢印で示すように、板材210は長尺方向に順送りされる。吸着ヘッド34は板材移動機構66(図2(a)を参照)により水平方向に駆動されて板材保持機構60に接離する。板材移動機構66による吸着ヘッド34の移動軸の方向は、板材210の送り方向に対する交差方向である(二点鎖線で図示)。
【0032】
貼り付けテーブル70は、図3に両側実線矢印で示すように、吸着ヘッド34の移動軸に対して交差する方向に移動する。貼り付けテーブル70の移動軸は、板材210の送り方向と平行でもよい。貼り付けテーブル70の上面にはFPCなどの貼付対象部材310が載置される。貼り付けテーブル70と吸着ヘッド34を、それぞれの移動軸に沿って移動させることで、吸着ヘッド34は貼り付けテーブル70に対して水平方向に位置合わせされる。したがって、板材210を打ち抜いた小片212を貼付対象部材310の所望位置に固着することが可能である。
【0033】
つぎに、本実施形態の打抜刃20をより詳細に説明する。図4(a)は、環状の打抜刃20を備える切刃ユニット12の縦断面図である。同図(b)は切刃ユニット12の平面図である。
【0034】
切刃ユニット12は、平坦なフランジ部22と、このフランジ部22に対して着脱可能に組み付けられた環状の打抜刃20と、からなる。フランジ部22および打抜刃20は、ともにステンレス鋼などの金属材料からなる。一例として、フランジ部22の一方面(図4(a)では下面)に装着溝を削成し、この装着溝に対して環状の打抜刃20を嵌め込んで一体化してもよい。また、フランジ部22と打抜刃20とは、同一材料により一体形成されたものでもよい。
本実施形態では、簡単のため、フランジ部22と打抜刃20とが一体形成された形態を例示的に図示している。
【0035】
本実施形態の打抜刃20の特徴として、刃先部24が内側面28の延長線上に位置している。すなわち、本実施形態の打抜刃20は、刃先部24から外側面26に向かう外側傾斜面27のみを刃面とする片側テーパー形状である。
【0036】
図4(b)に示す本実施形態の打抜刃20は円環状をなしている。このほか、打ち抜かれる小片212の形状にあわせて打抜刃20の外周形状を選択することができる。その一例として、矩形環状やL形環状などでもよい。
【0037】
フランジ部22には、中央開口51と、その中央開口51の周囲に配置された吸引開口52と、吸引開口52のさらに外周に配置されたボルト孔53がそれぞれ貫通して形成されている。
ボルト孔53は、切刃ユニット12を吸着ヘッド34(図1を参照)の下面にボルトで緊締するための孔である。フランジ部22の下面側にはボルト頭を収容する座ぐりが設けられている。図1に示すようにフランジ部22が吸着ヘッド34の下面にボルトで固定されると、中央開口51は吸着ヘッド34の貫通孔73と連通し、吸引開口52は吸着ヘッド34の吸着口32と連通する。板材貼付機構68を駆動して押出ロッド71を昇降させると、押出ロッド71の下端は切刃ユニット12の中央開口51を通じて突没する(図2(d)を参照)。フランジ部22が吸着ヘッド34に対して着脱可能であることにより、選択された所望の形状および寸法の打抜刃20を吸着ヘッド34に対して容易に装着して用いることができる。
【0038】
本実施形態の切刃ユニット12は、図4(b)に示すように中央開口51を中心とする回転対称形状である。中央開口51の中心が、打抜刃20の重心Gにあたる。複数の吸引開口52は、打抜刃20の重心Gを中心とする円周上に配置されている。複数の吸引開口52の開口中心C(一点鎖線で図示)を結ぶ円周の直径は、打抜刃20の内側面28の直径の二分の一よりも小さい。言い換えると、内側面28と重心Gとの中間に対して、吸引開口52は重心Gの側に偏って配置されている。
【0039】
打抜刃20の内側面28および外側面26は、フランジ部22に対して垂直に起立している。したがって、打抜刃20の内側面28は、打ち抜かれる板材210の表面に略直交する。
【0040】
図5は打抜刃20の刃先部24の拡大図である。同図は、打抜刃20で板材210を切断する状態を示している。本実施形態の打抜刃20のように内側面28が板材210に直交し、かつ刃先部24が内側面28の延長線上にある場合には、刃先部24の進入深さによらず、打抜刃20の内側面28と板材210との界面が打抜刃20の内側(同図の右側)にシフトしない。このため、板材210から打ち抜かれる小片212に対して圧縮方向)の歪みが生じることがない。一方、板材210のうち、打抜刃20で打ち抜かれずに外側に残置される外周残部213は、板材210に進入する打抜刃20の外側傾斜面27によって外方に押圧される(同図に矢印で図示)。このため、打抜刃20の刃先部24で板材210を切断すると、外周残部213は小片212と分離され、かつ小片212は平坦な形状を維持した状態で打抜刃20の内側面28の内側に収容される。
【0041】
板材210から分離した小片212は、吸引開口52に真空吸着される。板材打抜装置10の吸着ヘッド34は、環状の打抜刃20の内部空間と連通した吸着口32を備え、かつ吸引開口52が吸着口32と連通しているためである(図1を参照)。
ここで、吸着口32および吸引開口52は、打抜刃20の重心Gを取り囲み、かつ吸引開口52は、この重心Gと内側面28との中間位置Mよりも重心Gに偏って配置されている。言い換えると、打抜刃20の内側面28から吸引開口52の開口中心Cまでの距離L1は、吸引開口52の開口中心Cから打抜刃20の重心Gまでの距離L2よりも大きい。このため、本実施形態の切刃ユニット12が装着された吸着ヘッド34によれば、小片212の比較的中央近傍を真空吸着することができる。したがって、かりに打ち抜かれる小片212が打抜刃20の内側面28で僅かに面内方向に圧縮されて弓状の撓みが発生したとしても、かかる小片212を吸引開口52で好適に真空吸着することができる。なぜならば、かりに小片212に僅かな弓状の撓みが発生したとしても、小片212の外縁から吸引開口52までの距離が長いことで小片212の撓み長さが大きくなるためである。これにより、小片212の上面と吸引開口52との間に隙間が生じることなく、小片212が吸引開口52に気密に密着して吸引される。
【0042】
かかる効果は、図6(a)、(b)に示す第二・第三実施形態の打抜刃20において特に良好に発揮される。これらの打抜刃20は、その刃先部24が内側面28の直下ではなく、内側面28と外側面26との間、かつ内側面28に近接する側に偏って位置している点で共通している。
【0043】
図6(a)は、第二実施形態の打抜刃20の部分縦断面図である。同図は、環状の打抜刃20の軸心に沿って当該打抜刃20を切断した断面を表している。図6(b)から図6(d)も同様である。水平面Hは、フランジ部22と平行な仮想面であり、打抜刃20で打ち抜かれる板材の表面を示している。
【0044】
第二および第三実施形態において、打抜刃20の厚み寸法はT1+T2で表される。刃先部24から外側面26までの厚み寸法はT1であり、刃先部24から内側面28までの厚み寸法はT2である。本実施形態の打抜刃20では、T1とT2はともにゼロよりも大きく、かつT1はT2よりも大きい(T1>T2>0)。
【0045】
第二実施形態の打抜刃20は、刃先部24から外側面26に連続する外側傾斜面27と、刃先部24から内側面28に連続する内側傾斜面29と、を有している。本実施形態の打抜刃20では、外側傾斜面27の傾斜距離は内側傾斜面29の傾斜距離よりも長い。外側傾斜面27または内側傾斜面29の傾斜距離とは、縦断面形状における刃先部24から外側面26または内側面28に至る長さをいう。
【0046】
本実施形態において、打ち抜かれる板材210の表面に対する外側傾斜面27の傾斜角θ1と内側傾斜面29の傾斜角θ2とは同等である。本実施形態によれば、刃先部24を内側面28に近接させることで小片212(図5を参照)の面内方向の圧縮を低減するとともに、打抜刃20の板厚を所定に確保することで第一実施形態よりも高い刃先強度を実現している。また、外側傾斜面27の傾斜角θ1と内側傾斜面29の傾斜角θ2とを同等とすることで、打ち抜かれる板材210から刃先部24に対して打抜刃20の軸方向にまっすぐに圧縮応力(反力)が負荷されることとなる。これにより、打抜刃20は内側または外側に倒れる向きに圧縮応力を受けないため打抜刃20が強度に優れる。なお、傾斜角θ1と傾斜角θ2とが同等であるとは、両者の角度差が製造誤差範囲内である場合を含む。そのほか、上記効果が発揮されるかぎりにおいて傾斜角θ1と傾斜角θ2とが近接している状態を含む。
【0047】
図6(b)は、第三実施形態の打抜刃20の部分縦断面図である。本実施形態の打抜刃20においては、内側傾斜面29と外側傾斜面27の傾斜距離は同等である。
【0048】
本実施形態の打抜刃20においては、打ち抜かれる板材210の表面に対する外側傾斜面27の傾斜角θ1よりも、内側傾斜面29の傾斜角θ2が大きい。これにより、外側傾斜面27によって板材210の外周残部213を外方に押し出して小片212と分離する一方で、内側傾斜面29が小片212を内側に圧縮することが抑制される(図5を参照)。また、第一実施形態と比較して、刃先部24から内側面28までの厚み寸法T2を非ゼロとしたことで、打抜刃20の刃先強度を高めることができる。
【0049】
図6(c)は、第四実施形態の打抜刃20の部分縦断面図である。本実施形態の打抜刃20は、刃先部24から外側面26に連続する外側傾斜面27を備えている。また、第一実施形態と同様に、刃先部24は打抜刃20の内側面28の延長線上、すなわち内側面28の直下に位置している。一方、本実施形態は、外側傾斜面27の傾斜角θ1が第一実施形態のそれよりも小さく、具体的には25度以上75度未満、より好ましくは40度以上60度未満、更に好ましくは45度以上55度未満である。これにより、打抜刃20の刃先部24近傍の厚みを大きくすることができるため刃先強度を高めることができる。また、傾斜角θ1を上記角度とすることで、打ち抜かれる板材210が外側傾斜面27を内側に付勢する抗力F2を、外側傾斜面27を打抜刃20の軸方向にまっすぐに付勢する抗力F1と同等またはそれ以下とすることができる。すなわち、板材210を打ち抜くたびに打抜刃20が受ける繰り返しの圧縮応力のうち、打抜刃20が内側に倒れる向きの成分が良好に低減されるため、打抜刃20の刃先強度を高めることができる。
【0050】
図6(d)は、第五実施形態の打抜刃20の部分縦断面である。本実施形態の打抜刃20は、フランジ部22側の基端から刃先部24側の先端に向かって、内側面28が内側に傾斜していることを特徴とする。すなわち、打ち抜かれる板材210の表面(水平面H)に対する内側面28の傾斜角θ3が90度を超えた鈍角である。本実施形態の打抜刃20でも、板材210から打ち抜かれる小片212を内側面28が面内方向の内側に圧縮することがない。また、打抜刃20の内側の空間はフランジ部22の近傍ほど大径であるため、打ち抜かれた小片212が内側面28と干渉することなく、これを吸引開口52および吸着口32(図1を参照)で好適に真空吸着することができる。
【0051】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)板材を環状の打抜刃で所定形状の小片に打ち抜くとともに前記小片を真空吸着する板材打抜装置であって、環状の前記打抜刃の刃先部が前記打抜刃の外側面より内側面に近接している板材打抜装置;
(2)前記刃先部が前記内側面の延長線上に位置している上記(1)に記載の板材打抜装置;
(3)前記打抜刃は、前記刃先部から前記外側面に連続する外側傾斜面と、前記刃先部から前記内側面に連続する内側傾斜面と、を有し、前記外側傾斜面は前記内側傾斜面よりも傾斜距離が長い上記(1)に記載の板材打抜装置;
(4)打ち抜かれる前記板材の表面に対する前記外側傾斜面の傾斜角と前記内側傾斜面の傾斜角とが同等である上記(3)に記載の板材打抜装置;
(5)打ち抜かれる前記板材の表面に対する前記外側傾斜面の傾斜角よりも前記内側傾斜面の傾斜角が大きい上記(3)に記載の板材打抜装置;
(6)前記打抜刃の前記内側面が、打ち抜かれる前記板材の表面に略直交する上記(1)から(5)のいずれかに記載の板材打抜装置;
(7)前記刃先部から前記外側面に連続する外側傾斜面を備え、打ち抜かれる前記板材の表面に対する前記外側傾斜面の傾斜角が25度以上75度未満である上記(2)に記載の板材打抜装置;
(8)打ち抜かれる前記板材を保持する板材保持機構と、前記板材を真空吸着する吸着ヘッドを備える真空吸着機構と、前記打抜刃と、前記打抜刃を降下させて前記板材を打ち抜く板材打抜機構と、をさらに有する上記(1)から(7)のいずれかに記載の板材打抜装置;
(9)前記板材を真空吸着した前記吸着ヘッドを移動させる板材移動機構と、移動した前記板材を貼付対象部材に圧接させて貼り付ける板材貼付機構と、をさらに有する上記(8)に記載の板材打抜装置;
(10)前記吸着ヘッドは、環状の前記打抜刃の内部空間と連通した吸着口を備え、前記吸着口は、前記打抜刃の重心を取り囲み、かつ前記重心と前記内側面との中間位置よりも前記重心に偏って配置されていることを特徴とする上記(8)または(9)に記載の板材打抜装置。
【符号の説明】
【0052】
10・・・板材打抜装置、12・・・切刃ユニット、20・・・打抜刃、22・・・フランジ部、24・・・刃先部、26・・・外側面、27・・・外側傾斜面、28・・・内側面、29・・・内側傾斜面、32・・・吸着口、34・・・吸着ヘッド、51・・・中央開口、52・・・吸引開口、53・・・ボルト孔、60・・・板材保持機構、62・・・真空吸着機構、64・・・板材打抜機構、66・・・板材移動機構、68・・・板材貼付機構、70・・・貼り付けテーブル、71・・・押出ロッド、72・・・エアシリンダ、73・・・貫通孔、74・・・シール部材、110・・・打抜刃、114・・・刃先部、116・・・外側面、117・・・内側傾斜面、118・・・内側面、120・・・ヘッドユニット、122・・・中央開口、124・・・吸引用ポート、128・・・固定用ヒータ、130・・・打抜装置、140・・・打ち抜きテーブル、150・・・貼り付けテーブル、210・・・板材、212・・・小片、213・・・外周残部、214・・・熱硬化性接着剤層、220・・・セパレータ、310・・・貼付対象部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材を環状の打抜刃で所定形状の小片に打ち抜くとともに前記小片を真空吸着する板材打抜装置であって、環状の前記打抜刃の刃先部が前記打抜刃の外側面より内側面に近接している板材打抜装置。
【請求項2】
前記刃先部が前記内側面の延長線上に位置している請求項1に記載の板材打抜装置。
【請求項3】
前記打抜刃は、前記刃先部から前記外側面に連続する外側傾斜面と、前記刃先部から前記内側面に連続する内側傾斜面と、を有し、前記外側傾斜面は前記内側傾斜面よりも傾斜距離が長い請求項1に記載の板材打抜装置。
【請求項4】
打ち抜かれる前記板材の表面に対する前記外側傾斜面の傾斜角と前記内側傾斜面の傾斜角とが同等である請求項3に記載の板材打抜装置。
【請求項5】
打ち抜かれる前記板材の表面に対する前記外側傾斜面の傾斜角よりも前記内側傾斜面の傾斜角が大きい請求項3に記載の板材打抜装置。
【請求項6】
前記打抜刃の前記内側面が、打ち抜かれる前記板材の表面に略直交する請求項1から5のいずれかに記載の板材打抜装置。
【請求項7】
前記刃先部から前記外側面に連続する外側傾斜面を備え、打ち抜かれる前記板材の表面に対する前記外側傾斜面の傾斜角が25度以上75度未満である請求項2に記載の板材打抜装置。
【請求項8】
打ち抜かれる前記板材を保持する板材保持機構と、前記板材を真空吸着する吸着ヘッドを備える真空吸着機構と、前記打抜刃と、前記打抜刃を降下させて前記板材を打ち抜く板材打抜機構と、をさらに有する請求項1から7のいずれかに記載の板材打抜装置。
【請求項9】
前記板材を真空吸着した前記吸着ヘッドを移動させる板材移動機構と、移動した前記板材を貼付対象部材に圧接させて貼り付ける板材貼付機構と、をさらに有する請求項8に記載の板材打抜装置。
【請求項10】
前記吸着ヘッドは、環状の前記打抜刃の内部空間と連通した吸着口を備え、
前記吸着口は、前記打抜刃の重心を取り囲み、かつ前記重心と前記内側面との中間位置よりも前記重心に偏って配置されていることを特徴とする請求項8または9に記載の板材打抜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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