説明

果菜発酵物及び果菜発酵物含有飲食品

【課題】摂食することによって腸内細菌(善玉菌)を増加させる効果を有する、果菜発酵物及び果菜発酵物含有飲食品を提供する。
【解決手段】果菜処理物に、ペディオコッカス・ペントサセウスに属し、腸内ビフィドバクテリウム増殖能を有する微生物を接種し、発酵させて果菜発酵物及び果菜発酵物含有飲食品を得る。
【効果】前記菌体を含む果菜発酵物を摂食することにより、腸内細菌が有意に増加し、また、生体内のインターロイキン12産生能も賦活される。この果菜発酵物は風味良好で、常温流通可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵食品を取得源とする乳酸菌を用いた果菜発酵物及び果菜発酵物含有飲食品に関する。より詳細には、摂食すると腸内の善玉菌であるビフィドバクテリウムが有意に増加し、また、生体内のインターロイキン12産生が有意に増加する果菜発酵物及び果菜発酵物含有飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、野菜や果実の処理物を乳酸発酵することにより原料由来の不快臭味を抑制し、官能的に優れた果菜発酵物を得るための技術が知られている。例えば、トマト搾汁液を殺菌し冷却した後、ラクトバチルス・ブルガリカスを加えて発酵を行った後に菌体を分離して発酵液を得ることを特徴とする発酵飲料の製造方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、Brix2〜30の濃度に調整した人参汁に、不快臭味の改善効果を有するラクトバチルス・プランタラムL−051株を加えて発酵させた発酵人参ジュースが開示されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、果菜処理物を、糖類に対する固有の資化性を有するラクトバチルス・プランタラムにより発酵させる、乳酸菌飲料の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
発酵飲料用素材としては、カボチャ、トウモロコシ、サツマイモ、有色サツマイモ、ニンジン、ほうれん草、赤ピーマン、セロリー、ケール、ブロッコリー、レタス、トマト、赤ビート、キャベツ、赤キャベツ、カブ、ダイコン、明日葉及びモロヘイヤ等が挙げられ、これらの処理物をペディオコッカス属に属する微生物を用いて発酵させて得られる野菜発酵飲料が知られている(例えば、特許文献4参照)。また、果菜処理物に、ペディオコッカス属に属する低温感受性変異株を作用させて発酵させた後、低温で保存する果菜発酵飲料が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【0005】
また、インターロイキン12産生促進剤及びそれを含む飲食品として、果汁飲料、豆乳飲料、又は野菜飲料を含む培地でテトラジェノコッカス・ハロフィラスKK221株、ペディオコッカス・ペントサセウスTUA0122株、ペディオコッカス・アシデラクテシィTUA0124株、ロイコノストック・メセンテロイデスNISL7201株若しくはロイコノストック・メセンテロイデスNISL7219株を培養して得られる培養物及びそれを有効成分とする飲食品が知られている(例えば、特許文献6参照)。
【0006】
しかしながら、摂食することによって腸内細菌(いわゆる善玉菌)を有意に増加させる果菜発酵物及びその製造方法はこれまでに知られていない。
【特許文献1】特公平07−4204号公報
【特許文献2】特公平07−100025号公報
【特許文献3】特開平09−63977号公報
【特許文献4】特開2001−292720号公報
【特許文献5】特開2001−321161号公報
【特許文献6】特開2006−28047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、摂食することによって腸内細菌(いわゆる善玉菌)を有意に増加させる果菜発酵物及び果菜発酵物含有飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、白菜を主原料とする漬物中より単離同定したペディオコッカス・ペントサセウスOS株(以下OS株)を摂食することによって、腸内の善玉菌であるビフィドバクテリウムが有意に増加することを見出した。また、OS株の摂食が、生体内のインターロイキン12産生能も賦活することを知った。そして、OS株を用いて果菜処理物を発酵させて腸内細菌を有意に増加させる果菜発酵物を製造するための好適な条件を見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関する。
(1)果菜処理物に、ペディオコッカス・ペントサセウスに属し、腸内ビフィドバクテリウム増加能を有する微生物を接種し、発酵させて得られる果菜発酵物。
(2)微生物がペディオコッカス・ペントサセウスOS株である、上記(1)記載の果菜発酵物。
(3)果菜処理物が、果菜の破砕物、磨砕物、搾汁液、酵素処理物、濃縮物及び希釈物並びにこれらの膜処理物である、上記(1)〜(2)記載の果菜発酵物。
(4)果菜が、トマト、赤ピーマン、ほうれん草、ケール、人参、タマネギ、オレンジ、グレープフルーツ、パッションフルーツ、パイナップル及びバナナから選択される1以上である、上記(1)〜(3)記載の果菜発酵物。
(5)上記(1)〜(4)記載の果菜発酵物を含有する飲食品。
(6)ペディオコッカス・ペントサセウスOS株菌体を1×10個/ml以上含有することを特徴とする上記(5)記載の飲食品。
(7)飲食品が、飲料、調味料、デザート、サプリメントである上記(5)〜(6)記載の飲食品。
(8)果菜処理物に、ペディオコッカス・ペントサセウスOS株を接種し、発酵させることを特徴とする果菜発酵物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のOS株を用いて得た果菜発酵物は、摂食することによって腸内細菌(いわゆる善玉菌)を有意に増加させる。さらに、本発明の果菜発酵物は良好な香味を有し、インターロイキン12産生能を賦活する効果も有する。本発明のこれらの効果は加熱殺菌処理されたOS株菌体においても有効であり、常温流通や常温保存時にもその効果を維持することができる。本発明の果菜発酵物を原料として、高い健康効果を有する飲食品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いる微生物としては、ペディオコッカス属に属し、腸内ビフィドバクテリウム増加能を有する微生物が挙げられ、特に、ペディオコッカス・ペントサセウスOS株が好ましい。ペディオコッカス・ペントサセウスOS株は、本発明者らが調製した白菜のキムチ漬けから分離同定したものである。この微生物は、野菜汁や果汁等の果菜処理物中で旺盛に繁殖し、その結果得られる果菜発酵物は、腸内の善玉菌であるビフィドバクテリウムを増殖させる効果を有し、並びに、生体内のインターロイキン12産生能を賦活させる効果をも有する。
【0012】
なお、このペディオコッカス・ペントサセウスOS株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターにNITE P−354として2007年4月24日付けで寄託されている。
【0013】
以下、OS株の菌学的性質を示す。
(a)形態的性質
・細胞の形及び大きさ:球状、0.5〜1.0μm
・細胞の多形性:有り(単球、双球及び4連球)
・運動性の有無:無し
・胞子形成能:無し
(b)培養的性質
生育状態:MRS寒天培地(表2参照)で1〜2日後に、円形、平滑、白色のコロニーを形成する。
(c)生理的性質
・グラム染色性:陽性
・好嫌気性:通性嫌気性
・ガス生産性:無し(ホモ発酵)
・リンゴ酸分解:有り(マロラクティック発酵)
・糖の資化性の有無:表1に示す通りである。
【0014】
【表1】

【0015】
果菜の破砕物、磨砕物、搾汁液、これらの酵素処理物、これらの濃縮物及び希釈物並びにこれらの膜処理物から選択される1以上である果菜処理物に、前記のOS株を接種し、発酵させることにより、本発明の果菜発酵物を得ることができる。
【0016】
本発明に使用する果菜としては、任意の野菜が使用可能であるが、例えば、ナス、トマト、ピーマン、黄ピーマン、赤ピーマン、唐辛子、キュウリ、カボチャ、シロウリ、インゲン豆、エンドウ豆、ソラ豆、枝豆及びトウモロコシ等の果菜類や、白菜、キャベツ、ほうれん草、レタス及び小松菜等の葉菜類、大根、カブ、ゴボウ、人参、サツマイモ、山芋、チョロギ、ジャガイモ、サトイモ、クワイ、レンコン及びワサビ等の根菜類や、ネギ、タマネギ、ニラ、ラッキョウ及びニンニク等の鱗茎菜類、カリフラワー、食用菊及びミョウガ等の花菜類、ウド、タケノコ及びアスパラガス等の茎菜類が挙げられる。特に、トマト、赤ピーマン、ほうれん草、ケール、人参及びタマネギが、風味も良く、OS株の増殖にとって好適であり、香味も良く、好ましい。
【0017】
本発明で用いる果実としては、任意の果実が使用可能であるが、例えば、仁果類のリンゴ、梨、枇杷、マルメロ及びカリン等や、柑橘類の温州ミカン、早生温州、ポンカン、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、福原オレンジ、日向夏、三宝甘、ハッサク、夏ミカン、伊予甘、ブンタン、スダチ、柚子、グレープフルーツ及びレモン等や、核果類のモモ、アンズ、スモモ、ウメ及びサクランボ等や、漿果類のブドウ、イチジク及びイチゴ等や、堅果類のクリ、シイの実、トチの実、カヤの実、胡桃、銀杏、ハスの実及びアーモンド等や、パイナップル、バナナ、スイカ、メロン、パパイヤ、マンゴー、パッションフルーツ、ライチー、クランベリー、ブルーベリー、ブラックベリー、エルダーベリー、ラズベリー、柿、キウイフルーツ、ザクロ及びイチジク等が挙げられ、特に、オレンジ、グレープフルーツ、パッションフルーツ、パイナップル及びバナナが、風味も良く、OS株の増殖にとって好適であり、香味も良く、好ましい。
【0018】
果菜処理物の調製には、各種の公知の方法を使用すればよい。破砕物、磨砕物及び搾汁液調製のためには、例えば、上記果菜を洗浄しブランチングした後、スライサー、ダイサー、クラッシャー、コミトロール、マスコロイダー、パルパーフィニッシャー、フィルタープレス等で処理して調製することができる。また、上記果菜の搾汁液を、精密濾過(Micro Filtration)や限外濾過(Ultra Filtration)することで膜処理物を調製することができる。酵素処理物は、上記破砕物、磨砕物、搾汁液に例えばセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ等で処理して調製することができる。濃縮物は、上記破砕物、磨砕物、搾汁液、これらの酵素処理物及びこれらの膜処理物を、減圧濃縮や凍結濃縮等によって濃縮することにより、希釈物は、上記処理物等を水で希釈することにより調製可能である。
【0019】
前記OS株を用いた発酵は、果菜処理物に直接接種して行うことができるが、より安定した発酵を行うためには、予めスターターを用意し、このスターターを上記果菜処理物に接種することが好ましい。
【0020】
スターターとしては、通常の殺菌処理(90〜121℃、10〜20分間等)を行った果菜処理物等の、乳酸菌の増殖に適した培地に、OS株の凍結乾燥菌体又は凍結保存菌液等を接種する。果菜処理物中でOS株をより好適に増殖させるためには、本培養液と同じ果菜を含む前培養液でスターターを調製することがより好ましい。スターターの濃度は果菜の種類や発酵条件等により適宜調整できるが、例えばOS株を生菌数で10〜1010個/ml含有するように調整することが好ましい。スターターを本培養液に接種する量は、本発明の果菜発酵物を安定的かつ効率的に製造することができるように適宜調整できるが、例えばOS株を生菌数で1×10個/ml程度となるように接種することができる。接種量が少なすぎる場合は、発酵時間が必要以上に長くなり、その間に雑菌汚染を生じる可能性も高まるため好ましくない。一方、接種量が多すぎる場合にも、良好な発酵状態が得られず、また、多量のスターターを必要とすることになり、操作上も経済上も好ましくない。
【0021】
上記のように、OS株を直接接種、又は前培養したスターターとして接種した果菜処理物を、好適な条件下で発酵させる。発酵温度は、15〜40℃程度であり、好ましくは、20〜30℃である。この範囲の発酵温度で、OS株の菌濃度が著しく増大する。発酵時間は、果菜処理物の種類やその発酵条件、又は果菜発酵物に含有させるOS株の菌数に応じて適宜決定すればよいが、例えば10〜48時間程度で行うことができる。当該果菜発酵物の微生物汚染を防止するためには、この発酵時間はより短い方が良い。
【0022】
なお、果菜処理物のpHはその原料に依存するため、原料によってはOS株が良好に増殖できない程度までpHが低下する場合があり得る。このような果菜処理物における発酵性を改善し、発酵物中でのOS株菌体量を十分に増加させるためには、例えばOS株接種前に、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いて、果菜処理物のpHを4.0以上、好ましくは5.0〜8.0に調整することができる。
【0023】
本発明の果菜発酵物を製造するためには、OS株を果菜処理物に接種後、菌体数が10個〜5×10個/mlとなるまで発酵させることが重要である。このように発酵を行う場合、得られる果菜発酵物は腸内の善玉菌であるビフィドバクテリウムを有意に増加させる効果を有すると同時に、良好な風味を有する。また、この果菜発酵物を飲食品の原料として使用する場合にも、腸内細菌増殖効果を有するOS株菌体を十分に含有させることが可能である。発酵が不十分であり、十分な菌体増殖が見られない段階で発酵を停止した場合には、得られる果菜発酵物は十分な腸内細菌増殖効果を有さず、また発酵物としての香味も乏しいものとなる。一方、当該菌体数以上に発酵を行っても、OS株は死滅期に入ってしまい、菌体数の増殖は見込めず、発酵物の香味も悪くなってしまう。
【0024】
上記のように得られた本発明の果菜発酵物は、各種飲食品の原料とすることができる。飲食品は特に限定されないが、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む)、スープ類、ウスターソース、中濃ソース、濃厚ソースのウスターソース類やトマトケチャップ、トマトソース、チリソース等のトマト加工調味料、たれ類やマヨネーズ、ドレッシング等の各種調味料、ヨーグルトやゼリー、ババロア、アイスクリーム等のデザート類、蕎麦、うどん、中華麺、即席麺等の麺類、グミ等の半固形状食品、ペースト状食品、ガム、サプリメント等の固形状食品等が挙げられる。
【0025】
原料として配合する本発明の果菜発酵物の割合は任意であるが、例えば飲食品中に、OS株菌体を1×10個/ml以上、好ましくは1×10個/ml以上含有するように配合することが好ましい。この場合、飲食品中に存在するOS株は、生きた状態であってもよく、又は加熱殺菌等により死んでいる状態であってもよい。OS株は加熱殺菌された状態で配合された場合でも腸内細菌増殖能を失わないため、常温流通や常温保存時にもその効果を維持することができる。飲食品中に存在するOS株菌体が10個/ml未満の場合には、摂食した場合の腸内細菌増殖効果を十分に得ることができない。
【0026】
本発明の果菜発酵物をサプリメントとして利用する場合には、公知の各種賦形剤、糖類、香料、乳化剤及び保存料の一種又は二種以上を適宜含んで製造することができる。これらサプリメントの製品形態は特に制限されず、使用形態に合わせて適宜選択でき、例えば錠剤、粉末、顆粒、カプセル剤、ペースト、乳化液、溶液等が挙げられる。
以下、実施例を示して本発明を説明するが、本発明の技術的範囲はこれによって何ら限定されることはない。
【0027】
(実験例1 ペディオコッカス・ペントサセウスOS株の分離)
ペディオコッカス・ペントサセウスは漬物等の多くの発酵食品に存在する乳酸菌であり、その発酵に関与していることが知られている。そこで本発明者らは、白菜を使用したキムチ漬けを調整し、ペディオコッカス・ペントサセウス菌株の分離源とした。
【0028】
<キムチ漬けの作成方法>
(1)白菜1kgを半分に切り、約4時間天日に干した。
(2)切った白菜の葉と葉の間に食塩約60gをすり込み、ポリ袋に入れて冷蔵庫で約16時間寝かせた後、白菜を絞って水切りした。
(3)頭とハラワタを取った煮干10gを60mlの水に約30分間浸した後、乾燥昆布3gを加えて、加熱沸騰し、分別濾過してダシ汁を得た。
(4)剥皮したリンゴ100g、生姜20g及びニンニク10gをフードカッターでピューレ状に破砕したものに、中荒唐辛子10g、糸唐辛子10g及び松の実7gを加え、さらに上記ダシ汁を混合して調味液とした。
(5)上記水切りした白菜の葉と葉の間に上記調味液を塗り付け、密閉容器に入れて15℃の暗所内に保存し、白菜のキムチ漬けとした。
【0029】
<乳酸菌の分離方法>
ペディオコッカス・ペントサセウス等の乳酸球菌はキムチ漬けや糠漬等の漬物において、漬け始めから10日前後で優勢菌種となるが、上記作成したキムチ漬けから、保存開始後24時間毎にサンプリングして、以下の方法によって、乳酸球菌を分離した。
(1)キムチ漬け白菜に付着しているキムチ漬け汁を1白金耳取って、酸性トマト液体培地(培地組成は表2参照)10mlに接種し、35℃で24時間静置培養した。
(2)上記酸性トマト培地培養液を1白金耳取って、酸性トマト寒天培地プレート(表2参照)20mlに画線接種し、35℃で24時間培養した。
(3)上記トマト酸性寒天培地プレート上のコロニーを400倍で顕微鏡観察して、球形のコロニーをBCP加プレートカウントアガー培地(表2参照)20ml(日水製薬社製)に画線接種した後、35℃で24時間培養して、該BCP培地中のブロムクレゾールパープルの変色によって、酸の生成を確認した。
(4)上記酸生成したコロニーをダラーム管中のMRS液体培地(表2参照)に接種して、35℃で24時間培養した後、上記MRS培地中のガス発生のない菌を1,000倍で顕微鏡観察して、上記接種菌がペディオコッカス・ペントサセウスと同じ四連球菌であることを確認した。
(5)上記四連球菌をアピ 50CHL(日本ビオメリュー社製)で同定を行ったところ、7〜11日目に分離した菌の全てが同一の糖資化性を示して、ペディオコッカス・ペントサセウス99.9%と判定され、さらに遺伝子解析により、ペディオコッカス・ペントサセウスと同定し、これをOS株と命名した。得られたOS株の菌学的性質は、前述した通りである。
【0030】
【表2】

【0031】
(実験例2 OS株による腸内善玉菌の増殖効果)
OS株の菌体凍結乾燥粉末が、ラット腸内の細菌に与える影響を調査した。
【0032】
<OS菌体凍結乾燥粉末の作成>
(1)トマトエキスST−60(トマト搾汁液をMF濾過してリコピン色素を除去し、減圧濃縮したBrix60の糖度を有するトマト処理物、日本デルモンテ株式会社製)を蒸留水でBrix4.7に希釈してpH6.0に調整し、121℃で15分間加熱殺菌したトマトエキス培養液に、−85℃でグリセロール保存しておいたOS株を1白金耳接種して、30℃で24時間培養した。培養終了時の生菌数は2×10個/mlであった。なお、生菌数の算出にはcfu(colony forming unit)を使用し、1cfu/mlを1個/mlとして記載した。
(2)上記培養液を100℃で10分間加熱処理し、遠心分離(3,000G×20分)して、上清を捨て、菌体ペレットを得た。そして、この菌体ペレットに生理食塩水を適量加えて懸濁し、遠心分離して集菌した。この生理食塩水による菌体の洗浄をさらに2回繰り返して合計3回洗浄し凍結乾燥して、OS菌体凍結乾燥粉末を得た。
【0033】
<ペディオコッカス・ペントサセウスOS株による腸内善玉菌の増殖効果>
SD系ラット(雄、6週齢)を使用し、試験期間中は通常の餌と水を与え、さらに一日2回、下記表3の調整品3mlを経口投与しながら1ヶ月間飼育した。
【0034】
【表3】

【0035】
飼育終了後、当該試験ラットを12時間断食させて、二酸化炭素で窒息させた。死亡確認後開腹して、盲腸部分全体(前端の結腸部分を含む)を切り取り、無菌嫌気試験管に入れた。一般環境で盲腸を開いて、その内容物を50ml無菌試験管に入れ、9倍体積の無菌嫌気性希釈液(表4参照)と20粒の無菌ガラス球を加えた後、シェーカーで振動して、検体の10倍希釈液を得た。
【0036】
次いで、10倍ずつの系列希釈を行って、それぞれをTSC平板培地、TOSプロピオン酸寒天培地及びRogosa平板培地(表4参照)に塗布して、また、1ml検体の10倍希釈液を取って、未凝固のTSC平板培地7ml(約55℃)に加えて、検体希釈液と培地を均等混合し、これを第一層のTSC平板培地上に載せて凝固させた。なお、嫌気性菌である乳酸菌が酸素との接触で死滅するのを防ぐため、以上の操作は全て30分以内に完成させた。
【0037】
その後、上記TSC平板培地を嫌気操作台内に置いて、37℃で一日培養し、また、TOSプロピオン酸寒天培地及びRogosa平板培地は嫌気ジャーに入れ、37℃で3日間培養した。培養後に上記平板培地を観察して、各種選択培地の特性と、菌形の鏡検結果を合わせて、コロニー数を計数した。
【0038】
【表4】

【0039】
乳酸菌の計数は、クロストリディウム・パーフリンゲンス、ラクトバチルス属及びビフィドバクテリウム属を計数対象とした。クロストリディウム・パーフリンゲンスは、TSC平板培地上に黒いコロニーを形成し、コロニー周囲に透明の輪を形成したものを計数した。また、ラクトバチルス属は、鏡検によって数個のサンプルの菌株形態を確認後、TOSプロピオン酸寒天培地及びRogosa平板培地において、直接培地上のコロニー数を計数した。ビフィドバクテリウム属は、平板培地上の全てのコロニーを選び出し、鏡検によってコロニー数を計数した。その結果を表5に示す。なお、クロストリディウム・パーフリンゲンスについては、サンプルからこの菌を培養することができなかったため、各組の差異を判断することはできなかった。この原因は、SD系ラットの腸管中にこの菌株の存在量が非常に少ないためと考えられる。
【0040】
【表5】

【0041】
表5より、1日当たりOS菌体1.4×10個/mlの懸濁液6ml(OS菌体数8.4×10個)を摂食することによって、腸内善玉菌であるビフィドバクテリウムが、菌数にして100倍近く有意に増加することが分かった。そして、OS株菌体を豊富に含む果菜発酵物を摂食することにより、腸内善玉菌を増加させるのに必要とされる量のOS株菌体が容易に摂食できることがわかる。
【0042】
(実験例3 OS株培養液のインターロイキン12の産生誘導試験)
MRS培地5mlにペディオコッカス・ペントサセウスOS株を接種し、30℃で24時間前培養を行った。そして、この前培養液をスターターとして、別のMRS培地5mlに0.1重量%接種し、30℃で24時間及び30℃で72時間静置培養した。培養終了後、100℃で10分間殺菌し、5,000rpmで10分間の遠心分離を処理して集菌した。集めた菌体を生理食塩水で希釈し、600nmにおける吸光度を、0.5(菌数10個/ml程度)、0.25(菌数5×10個/ml程度)、0.125(菌数3×10個/ml程度)、0.062(菌数1.5×10個/ml程度)、0.031(菌数10個/ml程度)及び0.016(菌数5×10個/ml程度)とし、インターロイキン12の産生誘導試験のサンプルとした。
【0043】
上記試験サンプルを用いて、マウス腹腔滲出マクロファージのインターロイキン12産生反応に対するOS株菌体の増強効果を試験した。チオグリコレート1mlを腹腔内に投与し、刺激したマウス(BALB/c、雄、7週齢)から無菌的に腹腔滲出マクロファージを調製した。腹腔滲出マクロファージ細胞浮遊液の細胞数を測定した後、細胞数を2×10/mlの濃度にRPMI1640培地で調製し、96穴組織培養プレートに1穴当たり100μlを播種した。これにRPMI1640培地(対照)と、OS株菌体を1×10個/mlの濃度でRPMI1640培地に溶解した液を、それぞれ1穴当たり100μl加え、37℃の5%炭酸ガス培養器内で1日培養し、培養後の培養液上清のインターロイキン12をエンザイムイムノアッセイで測定した。
【0044】
エンザイムイムノアッセイは、ラット抗マウスインターロイキン12抗体(Pharmingen社製)を0.2M、pH6.0のリン酸緩衝液で2μg/mlに調製した溶液を、96穴組織培養プレート1穴当たり100μl加え、室温で一晩放置し、ラット抗マウスインターロイキン12抗体を各穴に付着させたプレートを用いて行った。培養上清を1穴当たり100μl加え、室温で90分間放置後、培養上清のマウスインターロイキン12をプレートに付着したラット抗マウスインターロイキン12抗体と結合させた。洗浄後ラットビオチン化抗マウスインターロイキン12抗体(Pharmingen社製)を加え、プレートに結合させたマウスインターロイキン12に結合させた。洗浄後、ストレプトアビジンで標識したペルオキシダーゼ酵素(Vector社製)を加え、ビオチンと結合させた。TMB基質溶液(Moss/コスモバイオ社製)を1穴当たり100μl加え、室温で20分間反応させて、反応を0.5N塩酸で停止し、マイクロプレートリーダーで吸光度450nmを測定して、リコンビナントマウスインターロイキン12(Pharmingen社製)で作成した標識曲線から、培養上清中のインターロイキン12の濃度を求めた。その結果を図1に示す。
【0045】
図1より、加熱殺菌済みのOS株の菌体懸濁液は、各種濃度において、インターロイキン12を大幅に産生させる効果を示した。すなわち、OS株菌体は、腸内細菌を増殖させるのみならず、インターロイキン12産生についても効果を有することが確認された。
【実施例1】
【0046】
(OS株による果汁の発酵)
(1)果汁原料
各種果汁をOS株によって乳酸発酵し、発酵物を調製した。本実施例で用いた果汁とその調製法を表6に示す。
【0047】
【表6】

【0048】
(2)スターターの作成
トマトエキスST−60(前出)を蒸留水でBrix4.7に希釈してpH6.0に調整し、121℃で15分間加熱殺菌したトマトエキス培養液に、−85℃でグリセロール保存しておいたOS株を1白金耳接種して、30℃で24時間の培養条件で、2回の植え継ぎ培養した培養液をスターター(生菌数2×10個/ml含有)とした。
【0049】
(3)果汁の発酵
表6の果汁各400gをそれぞれ500ml容デュランビンに入れて、上記スターターを1/1000量となるよう接種(初発菌数:約10個/ml)し、30℃で静置培養した。培養開始時、18時間後、24時間後及び42時間後毎に、20mlずつ培養液をサンプリングして、これらサンプリング液をMRS寒天培地上35℃で3日間培養し、出現するコロニーを計測することにより生菌数を測定した。結果を表7に示す。
【0050】
【表7】

【0051】
表7より、オレンジ果汁、グレープフルーツ果汁、パッションフルーツ果汁、パイナップル果汁、バナナピューレ及びパイナップル果汁とバナナピューレの各種比率での混合物の発酵において、OS株の生菌数が1×10個/ml以上となった。これらの果汁及びピューレにおいてはOS株の発酵が良好に進み、特にパイナップル果汁とバナナピューレの発酵においては、生菌数が、1×10個/ml以上となり、非常に高い発酵能を示した。得られた各種の果汁発酵物は、いずれも香味良好な果汁発酵物であった。
【実施例2】
【0052】
(OS株による野菜汁の発酵)
(1)野菜汁原料
各種野菜汁をOS株によって乳酸発酵し、発酵物を調製した。本実施例で用いた野菜汁とその調製法を表8に示す。
【0053】
【表8】

【0054】
(2)スターターの作成
実施例1と同様の方法でスターターを作成した。
【0055】
(3)野菜汁の発酵
表8の各種野菜汁400gずつを500ml容デュランビンに入れて、上記スターターを1/1000量接種し、初発菌数を10個/ml程度にして、25℃で静置培養した。そして培養開始時、10時間後、20時間後、24時間後、34時間後及び44時間後に、20mlずつ培養液をサンプリングして、これらサンプリング液をMRS寒天培地上で35℃3日間培養し、出現するコロニーを計測して、生菌数を測定した。その結果を表9に示す。
【0056】
【表9】

【0057】
表9より、OS株は、トマトエキス、赤ピーマン汁、ほうれん草汁、ケール汁、人参汁及びタマネギ汁のすべての発酵において、その生菌数が1×10個/ml以上となり、上記野菜汁の発酵能が高いことが判明した。特にトマトエキス、赤ピーマン汁、ホウレン草汁、ケール汁の発酵においては、生菌数が1×10個/ml以上となり、非常に高い発酵能を示した。得られた各種の野菜汁発酵物は、いずれも香味良好な野菜汁発酵物であった。
【実施例3】
【0058】
(OS株によるトマト処理物の発酵)
OS株とペディオコッカス・ペントサセウスNRIC0122株(以下NRIC0122株と記載、特許文献6記載のTUA0122株と同一菌株)を用いて、トマト処理物を以下の条件で発酵し、発酵能を比較した。
【0059】
(1)スターターの作成
実施例1と同様の方法で作成したトマトエキス培養液に、OS株とNRIC0122株をそれぞれ1白金耳接種し、25℃で24時間の培養条件で、2回植え継ぎ培養した培養液をスターター(それぞれ生菌数1×10個/ml含有)とした。
【0060】
(2)トマトエキスの発酵
トマトエキスST−60(日本デルモンテ社製)に、活性炭処理水を加えてBrix4.7に希釈し、pH6.0に調整したトマトエキス希釈液400gを、500ml容デュランビンに分注し、105℃で1分間加熱殺菌して本培養液とした。次いで、OS株とNRIC0122株のスターター1mlを、初発菌数が1×10個/ml程度となるように、当該本培養液にそれぞれ接種し、25℃で56時間静置培養した。
【0061】
これらの培養期間中、経時的に該本培養液をサンプリングし、これらサンプリング液をMRS寒天培地上35℃で3日間培養し、出現するコロニーを計測することにより、菌の生育状況を測定した。OS株とNRIC0122株の定常期における菌数を100%としたときの相対的な比率で示した各菌株の生育状況を図2に示す。
【0062】
図2より、OS株とNRIC0122株のトマトエキスST−60希釈液の発酵における細胞倍加時間(世代時間)を算出したところ、OS株、NRIC0122株共に対数増殖期は、培養時間8時間から16時間の間であり、OS株の倍加時間は64.8分、NRIC0122株は87.1分であった。また、当該トマトエキスの発酵が定常期に達する時間は、OS株では24時間であったが、NRIC0122株では48時間であった。すなわち、OS株は、より短時間で増殖し、定常期に到達することがわかる。従って、本発明における発酵停止の指標菌数である1×10個/ml以上に増加するまでの時間も短く、果菜発酵物の製造時間を大幅に短縮することができ、このことは、発酵過程での雑菌汚染防止等の観点からも非常に好ましい。
【実施例4】
【0063】
(乳酸発酵トマト入り野菜・果実混合飲料の作成)
実施例3同様に、OS菌株を用いて30℃、24時間培養を行って得られたトマトエキス発酵液(生菌数1.7×10個/ml含有)を85℃達温で加熱殺菌し、乳酸発酵トマトエキスを得た。この乳酸発酵トマトエキス3%に、りんごストレート果汁(日本デルモンテ社製)37%と、人参濃縮汁(Brix42、日本デルモンテ社製)を活性炭処理水で希釈してBrix6.0に調整した人参汁60%を混合し、121℃で1秒間殺菌して冷却し、本発明の果菜発酵物を含有する飲料である、乳酸発酵トマト入り野菜・果実混合飲料を作成した。この野菜・果実混合飲料は風味良好であり、OS株菌体濃度は5.1×10個/mlであった。従って、コップ1杯約200ml中にOS株菌体1×1010個(100億個)を含有し、これを摂食することにより、実験例2に示すような腸内善玉菌を増加させるのに必要とされる量のOS株菌体を容易に摂食できる。
する。
【実施例5】
【0064】
(錠剤状サプリメントの作製)
実験例2と同様に作成したOS菌体乾燥粉末(1g当たり7.1×1012個のOS菌体を含有)を用いて、表10の配合量を混合撹拌後打錠して、1錠当たりOS菌体を1×1012個含有する、1錠0.35gのサプリメントを調整した。得られた錠剤状サプリメントを摂食することにより、実験例2に示すような腸内善玉菌を増加させるのに必要とされる量のOS株菌体を容易に摂食できる。
【0065】
【表10】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実験例3の結果であって、OS株菌体懸濁液の各種濃度におけるインターロイキン12産生量を示すグラフである。
【図2】実施例3の結果であって、定常期の菌数を100%としたときのOS株とNRIC0122株のトマトエキス中での生育状況を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果菜処理物に、ペディオコッカス・ペントサセウスに属し、腸内ビフィドバクテリウム増加能を有する微生物を接種し、発酵させて得られる果菜発酵物。
【請求項2】
微生物がペディオコッカス・ペントサセウスOS株である、請求項1記載の果菜発酵物。
【請求項3】
果菜処理物が、果菜の破砕物、磨砕物、搾汁液、酵素処理物、濃縮物及び希釈物並びにこれらの膜処理物である、請求項1〜2記載の果菜発酵物。
【請求項4】
果菜が、トマト、赤ピーマン、ほうれん草、ケール、人参、タマネギ、オレンジ、グレープフルーツ、パッションフルーツ、パイナップル及びバナナから選択される1以上である、請求項1〜3記載の果菜発酵物。
【請求項5】
請求項1〜4記載の果菜発酵物を含有する飲食品。
【請求項6】
ペディオコッカス・ペントサセウスOS株菌体を1×10個/ml以上含有することを特徴とする請求項5記載の飲食品。
【請求項7】
飲食品が、飲料、調味料、デザート、サプリメントである請求項5〜6記載の飲食品。
【請求項8】
果菜処理物に、ペディオコッカス・ペントサセウスOS株を接種し、発酵させることを特徴とする果菜発酵物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−295352(P2008−295352A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144290(P2007−144290)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000104559)日本デルモンテ株式会社 (44)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】