説明

架橋アクリレート系繊維の染色方法および該染色方法で染色された架橋アクリレート系繊維を含む繊維製品

【課題】本発明は、従来、耐久性のある染色は不可能とされていた架橋アクリレート系繊維をに対して、吸放湿性、消臭性等の性能を損なうことなく、反応性染料を用いて、実用的な耐久性を有する染色を施す方法を提供する。
【解決手段】アクリル系繊維に、ヒドラジン系化合物でによる架橋導入処理およびアルカリ性金属塩水溶液による加水分解処理が施された架橋アクリレート系繊維を、酸性条件下、反応性染料で処理し、場合によっては、続いてアルカリ条件下で処理することを特徴とする架橋アクリレート系繊維の染色方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来、耐久性のある染色は不可能とされていた架橋アクリレート系繊維に対して、吸放湿性、消臭性等の性能を損なうことなく、反応性染料を用いて、実用的な耐久性を有する染色を施す方法および該方法で染色された架橋アクリレート系繊維を含む繊維製品を提供する。
【背景技術】
【0002】
架橋アクリレート系繊維は優れた吸放湿性、消臭性、抗菌性を有し、近年、注目されている。かかる繊維は、色相が淡桃色から褐色であることが知られている。かかるアクリレート系繊維は、染着座席として機能するカルボキシル基を有しており、カチオン染料で繊維に色を付けることは可能であるが、繊維自身の持つ水膨潤性のために、染色堅牢度が悪いことから、実用的なレベルの染色は出来ないものとされていた。したがって、かかる繊維を単独で使用したもののみならず、混用した繊維構造体においても、染色が必要とされる分野への応用は制限されていた。
【0003】
かかる問題点を解決するために特許文献1においては、黒色化するために原料繊維であるアクリル系繊維にあらかじめ、0.5〜5重量%のカーボンブラックを含有させておき、該原料繊維にヒドラジン系化合物による架橋の導入および加水分解によるカルボキシル基の導入を行っている。しかしながら、この方法は黒色に限定されたものである。仮に種々の色に着色した原料繊維を使用するとしても、多岐にわたる色の種類に対しては工業的には到底対応しうるものではない。
【0004】
また、特許文献2では、架橋アクリレート系繊維に実用レベルの染色性を付与するため、1分子中に水酸基およびアミノ基を有する可染性化合物を含有させておく方法が記載されている。該方法はアクリル系繊維にヒドラジン系化合物による架橋導入処理、アルカリ性金属塩水溶液による加水分解を施して得た架橋アクリレート系繊維を、1分子中に水酸基およびアミノ基を有する可染化化合物水溶液にて含浸処理するものであり、湿潤摩擦堅牢度3級以上の染色性を示している。
【0005】
しかしながら、この方法では実質的に処理工程が増えることになり、工業的には生産性が下がることは否めない。また、可染化化合物のアミノ基と架橋アクリレート繊維中のカルボキシル基を反応させることにより可染化するため、多量のカルボキシル基を有する架橋アクリレート系繊維を処理する場合には、均一に付与することが難しい。また、カルボキシル基が可染化化合物によって封鎖されることにより、架橋アクリレート系繊維の本来有する吸放湿性能や消臭性能が低下してしまう恐れもある。
【特許文献1】特開2003−89971号公報
【特許文献2】特開2003−278079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた吸放湿性、抗菌性、消臭性を有する架橋アクリレート系繊維を、その性能を損なうことなく様々な色に染色することができ、染色堅牢度にも優れる染色方法および該染色方法で染色された架橋アクリレート系繊維を含む繊維製品を提供することである。本発明者は、架橋アクリレート系繊維の染色に焦点を絞り鋭意研究を続けてきた。その結果、反応性染料を酸性条件下で吸着させた場合に、染色堅牢度が高くなること、次いでアルカリ条件下で処理することでさらに染色堅牢度を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1)アクリル系繊維に、ヒドラジン系化合物による架橋導入処理およびアルカリ性金属塩水溶液による加水分解処理を施すことによって得られる架橋アクリレート系繊維に、酸性条件下で反応性染料を吸着させることを特徴とする架橋アクリレート系繊維の染色方法。
(2)アクリル系繊維に、ヒドラジン系化合物による架橋導入処理およびアルカリ性金属塩水溶液による加水分解処理を施すことによって得られる架橋アクリレート系繊維に、酸性条件下で反応性染料を吸着させた後、アルカリ性条件下で該染料を反応させることを特徴とする架橋アクリレート系繊維の染色方法。
(3)アルカリ性条件下での染料を反応させた後の浴pHが9以上であることを特徴とする(2)に記載の架橋アクリレート系繊維の染色方法。
(4)酸性条件がpH5以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の架橋アクリレート系繊維の染色方法。
(5)反応性染料が、アミノ基と反応するものであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の架橋アクリレート系繊維の染色方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の染色方法で染色された架橋アクリレート系繊維を含むことを特徴とする繊維製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の染色方法を利用することにより、種々の色の架橋アクリレート系繊維を得ることが可能となる。これにより、従来実用的な染色が不可能とされていたために使用が制限されていた用途に展開でき、ますます多様化するファッションニーズに対応できるばかりではなく、架橋アクリレート系繊維に特別な処理を施すことなく、また、汎用の染色設備で染色が可能となった点は工業的にも非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。まず、本発明においては、「−COO」に対イオンが結合している官能基を「カルボキシル基」、カルボキシル基の対イオンが水素イオンであることを「H型」、金属イオンであることを「金属塩型」と表現する。たとえば、「−COOH」は「H型カルボキシル基」と表現される。
【0010】
本発明の染色方法において染色対象となる架橋アクリレート系繊維は、アクリル系繊維にヒドラジン系化合物による架橋導入処理およびアルカリ性金属塩水溶液による加水分解処理を施すことによって得られるものであればよい。該架橋アクリレート系繊維は、通常、以下のようにして製造することができる。
【0011】
まず、架橋アクリレート系繊維の出発原料となるアクリル系繊維としてはアクリロニトリル(以下ANという)を40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上含有するAN系重合体により形成された繊維であればよい。形態としては、短繊維、トウ、糸、編織物、不織布等いずれの形態のものでもよく、また、製造工程中途品、廃繊維などでもかまわない。AN系重合体はAN単独重合体、ANと他の単量体との共重合のいずれでもよいが、AN以外の共重合成分としてはメタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体及びその塩、(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のカルボン酸基含有単量体及びその塩、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド等の単量体など、ANと共重合可能な単量体であれば特に限定されない。
【0012】
該アクリル系繊維は、ヒドラジン系化合物により架橋導入処理され、アクリル系繊維の溶剤では最早溶解されないという意味で架橋が形成されて架橋アクリル系繊維となり、同時に結果として窒素含有量の増加が起きる。架橋導入処理の手段としては特に限定されるものではないが、この処理による窒素含有量の増加を好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは1〜10重量%に調整しうる手段が望ましい。なお、窒素含有量を0.1〜10重量%に調整しうる手段としては、ヒドラジン系化合物の濃度5〜60重量%の水溶液中、温度50〜120℃で5時間以内で処理する手段が工業的に好ましい。
【0013】
ここで使用するヒドラジン系化合物としては、特に限定されるものではなく、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネ−ト等の他に、エチレンジアミン、硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、リン酸グアニジン、メラミン等のアミノ基を複数含有する化合物が例示される。
【0014】
かかるヒドラジン系化合物による架橋導入処理を経た繊維は、該処理で残留したヒドラジン系化合物を十分に除去した後、酸処理を施しても良い。ここに使用する酸としては硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液、有機酸等が挙げられるが、特に限定されない。該酸処理の条件としては、特に限定されないが、大概酸濃度5〜20重量%、好ましくは7〜15重量%の水溶液に、温度50〜120℃で0.5〜10時間被処理繊維を浸漬するといった例が挙げられる。
【0015】
ヒドラジン系化合物による架橋導入処理を経た繊維、或いはさらに酸処理を経た繊維は、続いてアクリレート系への変性のためにアルカリ性金属塩水溶液により加水分解処理される。この処理により、アクリル系繊維のヒドラジン系化合物による架橋導入処理に関与せずに残留しているCN基、又は架橋導入処理後酸処理を施した場合には残留しているCN基と一部酸処理で加水分解されて生成しているアミド基の加水分解が進行し、カルボキシル基が形成される。なお、形成されるカルボキシル基は、加水分解処理に使用されるアルカリ性金属塩由来の金属イオンと結合するので、大部分が金属塩型カルボキシル基である。ここで使用するアルカリ性金属塩としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩等が挙げられる。加水分解処理の条件は特に限定されないが、1〜10重量%さらに好ましくは1〜5重量%の水溶液中、温度50〜120℃で1〜10時間以内で処理する手段が工業的、繊維物性的に好ましい。
【0016】
加水分解を進める程度即ちカルボキシル基の生成量は本願の目的である染色という観点では特に限定されるものではなく、最終的な繊維に求められる性能を勘案して設定すればよい。例えば、吸湿性を持たせるには、金属塩型カルボキシル基量1〜10mmol/g、好ましくは3〜10mmol/g、さらに好ましくは3〜8mmol/gで好結果が得られやすく、これは上述した処理の際の薬剤の濃度や温度、処理時間の組み合わせで容易に制御できる。金属塩型カルボキシル基の量が1mmol/g未満の場合には、充分な吸湿性が得られないことがあり、また、10mmol/gを超える場合には、実用上満足し得る繊維物性が得られないことがある。なお、本発明の染色方法においては、架橋アクリレート系繊維を一旦酸性条件下に置くため、カルボキシル基がH型となるが、後述するように染色後にイオン交換処理を行うことで金属塩型カルボキシル基とすることができる。また、かかる加水分解を経た繊維は、CN基が残留していてもいなくてもよい。CN基が残留していれば、染色性に影響を及ぼさない限り、その反応性を利用して、さらなる機能を付与できる可能性がある。
【0017】
また、上述のとおり、アルカリ性金属塩により加水分解処理された繊維は金属塩型カルボキシル基を有しているが、酸処理を施すことによりH型カルボキシル基に変換することもできる。この際使用される酸は特に限定されるものではなく、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液、有機酸等を使用できる。
【0018】
なお、本発明の染色方法で染色する架橋アクリレート系繊維としては、本発明の染色方法で染色できる限り、上述した架橋導入処理、酸処理、加水分解処理、加水分解後酸処理以外の処理を施したものであってもかまわない。
【0019】
上述してきた架橋アクリレート系繊維には、ヒドラジン系化合物による架橋導入処理の際に、一部架橋せずにアミノ基が形成される部分があり、この部分のアミノ基が反応性染料の染着座席となり染色されると考えられる。また、加水分解処理後に還元処理を施した架橋アクリレート系繊維の場合には、濃色染めが容易となるが、これは、還元処理を施すことによりヒドラジン系化合物によって導入された架橋部分にもアミノ基が形成され、このアミノ基についても反応性染料の染着座席となるためと考えられる。
【0020】
次に本発明で使用される反応性染料としては、アミノ基と反応する反応性染料であることが望ましく、例えば、モノクロロトリアジン染料、ジクロロトリアジン染料等のクロロトリアジン染料や、クロルピリミジン染料、ビニルスルホン染料等が挙げられる。また、スルファートエチルスルホン基を2個有する染料やモノクロロトリアジン基を2個以上有する染料等の複数の同種官能基を有する染料、さらには、スルファートエチルスルホン/モノクロロトリアジン系染料、スルファートエチルスルホン/ジクロロトリアジン系染料、スルファートエチルスルホン/ジフルオロモノクロロトリアジン系染料等の複数の異種官能基を有する染料等も使用することができる。
【0021】
かかる反応性染料で、架橋アクリレート系繊維を染色するには酸性条件下で反応性染料を架橋アクリレート系繊維に吸着させる染料吸着処理が必須である。酸性条件としては繊維を浸漬する前の浴、すなわち反応性染料と酸が添加された状態の浴のpHが5以下であることが好ましく、より好ましくはpH4以下、さらに好ましくはpH3以下である。一般的に反応性染料による染色は弱アルカリ性〜アルカリ性条件下で行われるが、該条件では反応性染料は架橋アクリレート系繊維には吸着されにくい。これは、架橋アクリレート系繊維内部に多量に存在するカルボキシル基が、弱酸性条件〜アルカリ性条件では電気的に解離しており、マイナスの電荷を有している一方で、上述の反応性染料についてもマイナスの電荷を有することから、電気的な反発を生じるためと考えられる。しかし、酸性が強くなるに従い、言い換えるとpHが低くなるに従い、架橋アクリレート系繊維中のカルボキシル基の解離が抑えられて電気的に中性に近づき、反応性染料を吸着して染色されるようになる。このため、pHが低いほど濃色染めが容易となる。
【0022】
なお、上述した染料吸着処理においては、必要に応じて更に染料溶解剤、金属封鎖剤、分散剤、促染剤、緩染剤、均染剤などの汎用の染色助剤を併用することも可能である。pHを調整する酸としては、特に限定されるものではないが、酢酸、蟻酸、乳酸、酒石酸等の有機酸、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液が挙げられる。中でも、酸性度の強さや染色機の腐食の観点から蟻酸の使用が好ましい。処理温度については特に限定されないが、60℃以上であれば染料の吸着速度も速く、工業的には好適といえる。
【0023】
上述のようにして、反応性染料を吸着させた架橋アクリレート系繊維は、実用レベルの染色堅牢度を有するものであり、染色された架橋アクリレート系繊維として使用することができる。なお、得られた架橋アクリレート系繊維の吸湿性能を高めるなどの目的で該繊維中のカルボキシル基をイオン交換により金属塩型に変換しようとする場合には、反応性染料が脱離してしまうことがある。このような現象を避けたい場合やさらに優れた染色堅牢度が必要とされる場合には、上述の染料吸着処理の後に、アルカリ性条件下で架橋アクリレート系繊維と染料との間に化学的に共有結合を生じさせる固定化処理を行うことが有効である。
【0024】
この固定化処理はアルカリ性条件下で実施すればよいが、処理後の浴pHが9以上となるように行うことが望ましい。上記、染料吸着処理で架橋アクリレート系繊維に吸着した反応性染料は、アルカリ性条件下で脱酸反応により活性化し架橋アクリレート系繊維と共有結合を形成するのであるが、処理後の浴pHが9未満となるような弱アルカリ性条件下では、前述の架橋アクリレート系繊維中のカルボキシル基との電気的反発が優先し、共有結合を形成する前に反応性染料が水中へ溶出し、染色後の被染色物の色相が安定しない場合があり、実用上好ましくない。
【0025】
固定化処理を処理後の浴pHが9以上となるように行うには、処理後の浴pHが9以上となるような量のアルカリ性化合物を加えながら固定化処理を行うことが好ましい。ここで、アルカリ性化合物としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩、炭酸塩、水酸化物やアミン化合物、アンモニア等が採用できる。反応温度としては室温でも採用しうるが、反応速度を上げるために60℃以上が好適に採用できる。なお、当該固定化処理においては、一般的に反応性染料による染色に使用される汚染防止剤、固着剤等の染色助剤など各種薬剤を併用することも可能である。
【0026】
上述したようにアルカリ性条件下での固定化処理は、酸性条件下での染料吸着処理の後に行うのであるが、染料吸着処理の後であればよく、必ずしも直後に行わなければならないということではない。例えば、染料吸着処理の後に被染色物を水洗してからアルカリ性条件下での固定化処理を行うことや、被染色物が架橋アクリレート系繊維と他素材とからなる繊維製品であれば、染料吸着処理の後に他素材の染色工程を行い、それからアルカリ性条件下での固定化処理を行うことなどが可能な場合がある。
【0027】
また、固定化処理後の架橋アクリレート系繊維中のカルボキシル基は、要求される機能によっては、さらにイオン交換することにより所望の金属塩型カルボキシル基あるいはH型カルボキシル基に変換することもできる。例えば、アンモニア消臭機能を付与させる場合であれば、酸を添加することにより金属塩型カルボキシル基をH型カルボキシル基に変換すればよい。また、pH緩衝機能を付与させる場合であれば、酸またはアルカリでpH調整して、金属塩型カルボキシル基とH型カルボキシル基の割合を調整すればよい。なお、染料吸着処理のみを行った場合と異なり、反応性染料は架橋アクリレート系繊維と共有結合を形成しているので、イオン交換の際の染料の脱離は起こらない。
【0028】
上記処理を経て染色された被染色物は、水洗、ソーピング、また必要により湿潤染色堅牢度向上のためのフィックス処理や風合い向上のための仕上げ剤処理等を施し製品となる。ここで、本発明の染色方法の染色対象としては糸、ヤーン(ラップヤーンも含む)、フィラメント、織物、編物、不織布、紙状物、シート状物、積層体、綿状物(球状や塊状のものを含む)等の繊維製品が挙げられる。これらの染色対象は、架橋アクリレート系繊維のみで構成されたものであっても、他素材を併用して構成されたものであってもよい。併用しうる他素材としては特に限定されず、綿、麻、絹、羊毛、カシミヤなどの天然繊維、レーヨン、キュプラ、リヨセル、再生蛋白繊維などの再生繊維、酢酸セルロース繊維、プロミックスなどの半合成繊維、ナイロン、アラミド、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどの合成繊維等が用いられ、さらにはガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維などの無機繊維等も用途によっては採用し得る。また、併用される他素材は繊維に限らず、樹脂や粒子等の素材であってもよい。
【0029】
染色対象が架橋アクリレート系繊維と他素材を併用して構成された繊維製品である場合においては、本発明の染色方法と他素材の染色に適した方法をそれぞれ別に施すことによって染色を行うことができる。
【0030】
例えば、他素材として綿を併用している繊維製品であれば、まず、本発明の染色方法を施して繊維製品中の架橋アクリレート系繊維を染色した後、必要に応じてソーピングを実施し、次いで、綿の通常の染色方法を施して繊維製品中の綿繊維を染色し、ソーピング、フィックス処理を行うといった方法を採用することができる。
【0031】
特に綿繊維の染色にも反応性染料を使用する場合においては、アルカリ性条件下での染料の固定化処理は、架橋アクリレート系繊維および綿繊維のそれぞれの染色工程において別々に実施してもよいが、両繊維同時に固定化処理を実施することも可能である。すなわち、まず、酸性条件下で架橋アクリレート系繊維に反応性染料を吸着させた後、水洗し、次いで、綿の通常の染色方法により綿繊維に反応性染料を吸着させた後、架橋アクリレート系繊維および綿繊維の両方に同時にアルカリ性条件下での染料の固定化処理を行い、ソーピング、水洗、乾燥等を行うという方法を採用することが好ましい。
【0032】
一方、先に綿繊維を染色する場合には、後から行う架橋アクリレート系繊維の染料吸着工程における酸性条件下で綿繊維から染料が脱離しないように、各繊維の染色工程毎にアルカリ条件下での固定化処理を実施することが好ましい。
【0033】
また、他素材としてアクリル繊維を併用している繊維製品であれば、まず、カチオン染料を用いてアクリル繊維の通常の染色方法を施し、繊維製品中のアクリル繊維を染色した後、必要に応じてソーピングを実施し、次いで本発明の染色方法を施して繊維製品中の架橋アクリレート系繊維を染色し、ソーピング、フィックス処理を行うといった方法を採用することができる。なお、先に架橋アクリレート系繊維の染色を行うと、後から行うアクリル繊維の染色時に架橋アクリレート系繊維がカチオン染料によって汚染され、望ましい染色結果が得られないことがあるため、先にアクリル繊維を染色することが好ましい。
【0034】
他素材としてアクリル繊維および綿繊維を併用している場合、すなわち、アクリル繊維、綿繊維、架橋アクリレート系繊維の三者から構成される繊維製品の場合には、上述した綿繊維/架橋アクリレート系繊維およびアクリル繊維/架橋アクリレート系繊維の染色手順の組み合わせで染色することができる。
【0035】
他素材が羊毛である場合には、まず羊毛の通常の染色方法を施して繊維製品中の羊毛を染色した後、必要に応じてソーピングを実施し、次いで本発明の染色方法を施して繊維製品中の架橋アクリレート系繊維を染色し、ソーピング、フィックス処理を行うといった方法を採用することが好ましい。なお、アルカリ性条件下での染料の固定化処理については、綿繊維を併用する場合と同様に、それぞれの染色工程において別々に実施してもよいが、両繊維同時に固定化処理を実施するほうが好ましい。
【0036】
また、反応性染料を用いて羊毛と架橋アクリレート系繊維を同色に染色する場合には、同一浴で染色することも好ましい方法の一つである。ただし、羊毛と架橋アクリレート系繊維とでは染料の吸着速度に大きな差があるため、羊毛は濃色、架橋アクリレート系繊維は淡色というイラツキが発生する可能性がある。従って、染色浴に緩染剤や均染剤などを添加するなどして、染料の吸着速度を調節することが望ましい。
【0037】
また、本発明の染色方法においては、特別な染色設備は不要であり、被染色物に応じた汎用の染色設備を使用することが可能である。このことは、工業的に見て有用な点である。
【0038】
以上述べてきたとおり本発明は、アクリル系繊維に、ヒドラジン系化合物による架橋導入処理およびアルカリ性金属塩水溶液による加水分解処理が施された架橋アクリレート系繊維を、酸性条件下、反応性染料で処理し、場合によっては、続いてアルカリ条件下で処理することにより、優れた吸放湿性、抗菌性、消臭性を有する架橋アクリレート系繊維を、その性能を損なうことなく様々な色に染色することができ、染色堅牢度にも優れる染色方法を与えるものであり、その意義は極めて重要である。
【実施例】
【0039】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。
【0040】
(1)金属塩型カルボキシル基量(mmol/g)
十分乾燥した架橋アクリレート系繊維約1gを精秤し(Xg)、これに200mlの水を加えた後、50℃に加温しながら1mol/l塩酸水溶液を添加してpH2にし、次いで0.1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求めた。該滴定曲線からカルボキシル基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(Yml)を求め、次式によってカルボキシル基量(mmol/g)を算出した。
(カルボキシル基量)=0.1Y/X
別途、上述のカルボキシル基量測定操作中の1mol/l塩酸水溶液の添加によるpH2への調整をすることなく同様に滴定曲線を求めH型カルボキシル基量(mmol/g)を求めた。これらの結果から次式により金属塩型カルボキシル基量を算出した。
(金属塩型カルボキシル基量)=(カルボキシル基量)−(H型カルボキシル基量)
【0041】
(2)飽和吸湿率(%)
試料約5.0gを熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W1g)。次に試料を温度20℃で65%RHの恒温槽に24時間入れておく。このようにして吸湿した試料の重量を測定する。(W2g)。以上の測定結果から、次式によって算出した。
(飽和吸湿率 %)={(W2−W1)/W1}×100
【0042】
(3)耐光染色堅牢度(級)
JIS−L−0842(第3露光法)に準拠し、ブラックパネル温度計の温度を63±3℃として試験を行い、変退色の程度を判定した。測定装置は、スガ試験機(株)製 Standard UV Long Life Fade Materを使用した。耐光染色堅牢度は3級以上であれば実用に耐えうるものである。
【0043】
(4)汗染色堅牢度(級)
JIS−L−0848に準拠し、アルカリ性人工汗液を用いて試験を行い、変退色用グレースケールを用いて試験前の試料と比較し、変退色の程度を判定した。汗染色堅牢度は3級以上であれば実用に耐えうるものである。
【0044】
(5)湿潤摩擦染色堅牢度(級)
JIS−L−0849に準拠し、摩擦試験機II形によって試験を行い、汚染用グレースケールを用いて摩擦用白綿布の着色の程度を判定した。湿潤摩擦染色堅牢度は3級以上であれば実用に耐えうるものである。
【0045】
[架橋アクリレート系繊維の紡績糸Aの作成]
アクリロニトリル(AN)90%、酢酸ビニル10%からなるAN系重合体(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]=1.2)10部を48%ロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸(全延伸倍率:10倍)した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥、湿熱処理して単繊維繊度0.9dtexの原料繊維を得た。該原料繊維に、水加ヒドラジンの20%水溶液中で、98℃×5時間架橋導入処理を行い、洗浄した。本処理による窒素含有量の増加は5%であった。次に、硝酸の3%の水溶液中、90℃×2時間酸処理を行った。続いて水酸化ナトリウムの3%水溶液中で90℃×2時間の加水分解処理を行い、イオン交換水で洗浄した。以上の処理を経て得た架橋アクリレート系繊維はカルボキシル基を5.5mmol/g有しており、飽和吸湿率は45%であった。該架橋アクリレート系繊維を1N塩酸水溶液に30分間浸漬して、カルボキシル基をH型に変換し、水洗、乾燥したものをメートル番手1/52の紡績糸(紡績糸A)として染色の評価を行った。
【0046】
[架橋アクリレート系繊維の紡績糸Bの作成]
上記紡績糸Aの作成において、作成したカルボキシル基をH型とした架橋アクリレート系繊維と汎用アクリル繊維を30:70の割合で混紡し、メートル番手1/52の紡績糸(紡績糸B)を作成した。
【0047】
[架橋アクリレート系繊維の紡績糸Cの作成]
上記紡績糸Aの作成において、作成したカルボキシル基をH型とした架橋アクリレート系繊維と木綿を30:70の割合で混紡し、メートル番手1/52の紡績糸(紡績糸C)を作成した。
【0048】
[架橋アクリレート系繊維の紡績糸Dの作成]
上記紡績糸Aの作成において、作成したカルボキシル基をH型とした架橋アクリレート系繊維と羊毛を50:50の割合で混紡し、メートル番手1/52の紡績糸(紡績糸D)を作成した。
【0049】
[実施例1]
反応性染料Sumifix Supra Blue BRF(住友化学製)0.03gおよび90%蟻酸水溶液を水に添加し、100ml、pH2.4の染浴を作成した。染浴に3gの紡績糸Aを浸漬し、60℃で30分間維持することで染料吸着処理を行った。次いでソーピング、水洗、乾燥を行い、染色された紡績糸を得た。得られた紡績糸の評価結果を表1に示す。表1にあるように得られた紡績糸は、濃色に染色され、染色堅牢度も実用に耐えうるものであった。飽和吸湿率ついては高い値を示していないが、これは、カルボキシル基がH型に変換されたままの状態であることによるものと思われる。
【0050】
[実施例2]
反応性染料Sumifix Supra Blue BRF(住友化学製)0.03gおよび90%蟻酸水溶液を水に添加し、100ml、pH2.4の染浴を作成した。染浴に3gの紡績糸Aを浸漬し、60℃で30分間維持することで染料吸着処理を行った。得られた紡績糸を水洗した後、100mlの水に浸漬し、60℃まで昇温した。次いで、炭酸ナトリウムを添加し、30分間温度を維持することで固定化処理を行った。処理後の浴pHは10.0であった。引き続きソーピング、水洗、乾燥を行い、染色された紡績糸を得た。得られた紡績糸の評価結果を表1に示す。表1にあるように得られた紡績糸は、濃色に染色され、染色堅牢度は実施例1を上回るものであった。また、飽和吸湿率はもとの架橋アクリレート系繊維と同等であったが、これはカルボキシル基が染着座席ではなく、固定化処理時のアルカリ条件下でNa型カルボキシル基に変換されるためと考えられる。
【0051】
[実施例3]
反応性染料Sumifix Supra Yellow 3RF(住友化学製)0.03gおよび酢酸を水に添加し、60ml、pH2.8の染浴を作成した。染浴に3gの紡績糸Aを浸漬し、60℃で30分間維持することで染料吸着処理を行った。得られた紡績糸を水洗した後、60mlの水に浸漬し、60℃まで昇温した。次いで、炭酸ナトリウムを添加し、30分間温度を維持することで固定化処理を行った。処理後の浴pHは9.0であった。引き続きソーピング、水洗、乾燥を行い、染色された紡績糸を得た。得られた紡績糸の評価結果を表1に示す。表1にあるように得られた紡績糸は、淡色に染色され、良好な染色堅牢度を有するものであった。また、飽和吸湿率はもとの架橋アクリレート系繊維と同等であった。
【0052】
[実施例4]
反応性染料Sumifix Black ENS 150%(住友化学製)0.21gおよび90%蟻酸水溶液を水に添加し、180ml、pH2.4の染浴を作成した。染浴に3gの紡績糸Aを浸漬し、60℃で30分間維持することで染料吸着処理を行った。得られた紡績糸を水洗した後、180mlの水に浸漬し、60℃まで昇温した。次いで、炭酸ナトリウムを添加し、30分間温度を維持することで固定化処理を行った。処理後の浴pHは8.2であった。引き続きソーピング、水洗、乾燥を行い、染色された紡績糸を得た。得られた紡績糸の評価結果を表1に示す。表1にあるように得られた紡績糸は、黄味がかった黒となり、良好な染色堅牢度を有するものであった。
【0053】
[実施例5]
カチオン染料Nichilon Black G 200%(日成化成製)0.05gおよび酢酸を水に添加し、100ml、pH4.0の染浴を作成した。該染浴に3gの紡績糸Bを浸漬し、30分間ボイルした後、水洗することで、紡績糸B中のアクリル繊維を染色した。得られた紡績糸を、反応性染料Sumifix Black ENS 150%(住友化学製)0.13gおよび90%蟻酸水溶液を水に添加し、100ml、pH2.8とした染浴に浸漬し、60℃で30分間維持することで染料吸着処理を行った。得られた紡績糸を水洗した後、100mlの水に浸漬し、60℃まで昇温した。次いで、炭酸ナトリウムを添加し、30分間温度を維持することで固定化処理を行った。処理後の浴pHは10.9であった。引き続きソーピング、水洗、乾燥を行い、染色された紡績糸を得た。得られた紡績糸の評価結果を表1に示す。表1にあるように、得られた紡績糸は黒色であり、紡績糸中のアクリル繊維および架橋アクリレート系繊維のそれぞれが黒色に染色されたことがわかる。
【0054】
[実施例6]
反応性染料Sumifix Black ENS 150%(住友化学製)0.13gおよび90%蟻酸水溶液を水に添加し、100ml、pH2.8の染浴を作成した。染浴に3gの紡績糸Cを浸漬し、60℃で30分間維持することで紡績糸C中の架橋アクリレート系繊維に対して染料吸着処理を行った。得られた紡績糸を水洗した後、さらに、反応性染料Sumifix Black ENS 150%(住友化学製)0.14gを水に添加し100mlとした染浴に浸漬し、80℃まで昇温した。次いで、無水硫酸ナトリウムを添加し、30分間温度を維持することで綿繊維に染料吸着処理を行った。続いて、染浴温度を60℃まで降温し、炭酸ナトリウムを添加し、30分間温度を維持することで固定化処理を行った。処理後の浴pHは10.9であった。引き続きソーピング、水洗、乾燥を行い、染色された紡績糸Cを得た。得られた紡績糸の評価結果を表1に示す。表1にあるように得られた紡績糸は、黒色に染色され、良好な染色堅牢度を有するものであった。
【0055】
[実施例7]
反応性染料Lanaset Blue(CIBA製)0.015gおよび酢酸を水に添加し、100ml、pH3.5の染浴を作成した。染浴に3gの紡績糸Dを浸漬し、98℃で30分間維持することで紡績糸D中の羊毛に対して染料吸着処理を行った。得られた紡績糸をソーピングした後、さらに、反応性染料Sumifix Supra Blue BRF(住友化学製)0.015gおよび90%蟻酸水溶液を水に添加し100ml、pH2.7とした染浴に浸漬し、80℃まで昇温し、水洗した。続いて、60℃100mlの水中に浸漬し、炭酸ナトリウムを添加し、15分間温度を維持することで固定化処理を行った。処理後の浴pHは10.4であった。引き続きソーピング、水洗、乾燥を行い、染色された紡績糸Dを得た。得られた紡績糸の評価結果を表1に示す。表1にあるように得られた紡績糸は、青色に染色され、良好な染色堅牢度を有するものであった。
【0056】
[比較例1]
実施例1において、蟻酸水溶液のかわりに炭酸ナトリウムを添加したこと以外は同様にして染料吸着処理を実施した。染浴pHは8.0であり、染料が吸着されず、染色することができなかった。
【0057】
[比較例2]
酸性染料Telon Blue GW(ダイスター製)0.03gおよび90%蟻酸水溶液を水に添加し、60ml、pH2.2の染浴を作成した。染浴に3gの紡績糸Aを浸漬し、60℃まで加熱し30分間維持することで染料吸着処理を行った。次いでソーピングを行ったが、染料が溶け出し、染色することができなかった。
【0058】
[比較例3]
比較例2においてソーピングを行わず、水洗、乾燥を行い、染色された紡績糸を得た。得られた紡績糸の評価結果を表1に示す。表1にあるように得られた紡績糸は、見かけ上は染色されているものの、汗に対する染色堅牢度が1級しかなく、実用に耐えるものではなかった。
【0059】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系繊維に、ヒドラジン系化合物による架橋導入処理およびアルカリ性金属塩水溶液による加水分解処理を施すことによって得られる架橋アクリレート系繊維に、酸性条件下で反応性染料を吸着させることを特徴とする架橋アクリレート系繊維の染色方法。
【請求項2】
アクリル系繊維に、ヒドラジン系化合物による架橋導入処理およびアルカリ性金属塩水溶液による加水分解処理を施すことによって得られる架橋アクリレート系繊維に、酸性条件下で反応性染料を吸着させた後、アルカリ性条件下で該染料を反応させることを特徴とする架橋アクリレート系繊維の染色方法。
【請求項3】
アルカリ性条件下での染料を反応させた後の浴pHが9以上であることを特徴とする請求項2に記載の架橋アクリレート系繊維の染色方法。
【請求項4】
酸性条件がpH5以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の架橋アクリレート系繊維の染色方法。
【請求項5】
反応性染料が、アミノ基と反応するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の架橋アクリレート系繊維の染色方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の染色方法で染色された架橋アクリレート系繊維を含むことを特徴とする繊維製品。

【公開番号】特開2006−70421(P2006−70421A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187653(P2005−187653)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】