説明

架橋アクリレート系繊維

【課題】 従来技術では提供されていなかった、産業資材分野において、他の産業資材用繊維と併用しても外観上の違和感を惹起しない色を有し、コスト面でも有利な架橋アクリレート系繊維を提供する。
【解決手段】 JIS−Z−8729に記載の表示方法において、Lが60〜75、aが5.0〜14.5、bが23.0〜30.0である色を有する産業資材用架橋アクリレート系繊維。架橋アクリレート系繊維中の少なくとも一部のカルボキシル基がマグネシウムイオンを対イオンとすることにより、高難燃性と高吸放湿速度の両方を達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋アクリレート系繊維およびその製造方法に関する。詳しくは、本発明は、産業資材分野において、他の産業資材用繊維と併用しても、外観上の違和感を惹起しない色を有する架橋アクリレート系繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
架橋アクリレート系繊維は、吸放湿性、吸湿発熱性、消臭性、抗菌性、難燃性などさまざまな機能を有することが知られており、さまざまな分野への展開が期待されている繊維である。しかし、該繊維の色は桃色であるうえに、後加工や経時によりさらに濃い色相となるため、用途展開が制限されるという課題を有している。この課題に対して、衣料分野への展開を目的に多くの検討が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1〜3では白度を向上させる検討がなされており、実用的な白度を有する架橋アクリレート系繊維が得られている。また、特許文献4には黒原着アクリル繊維を原料として得られる黒色の架橋アクリレート系繊維が開示されている。さらに、特許文献5、6では架橋アクリレート系繊維を染色によってさまざまな色とする検討がなされている。しかし、染色については、色相の安定性、染め斑、染色堅牢度などの面から実用上十分とするにはさらなる検討が必要である。
【0004】
以上のように、従来技術においては、架橋アクリレート系繊維の色について、衣料分野への展開を目的として、さまざまな検討が行われてきたが、実用上、限られた色しか提供されていない。
【0005】
一方、架橋アクリレート系繊維の色の制約は産業資材分野においても無視できないものである。産業資材分野においては、さまざまな種類の産業資材用繊維を混用して製品化が行われることが多く、かかる産業資材用繊維の色としては、ゴールド色に近似する色のものが多い。このため、上述のような色の架橋アクリレート系繊維を併用した場合、製品の外観に違和感を生じてしまう。白については桃色や黒に比べ違和感は小さくはなるが、白度向上に多くの工程を費やすためコストが高く採用しにくい。このように、従来の架橋アクリレート系繊維は、上述のようなさまざまな機能を有しているにもかかわらず、産業資材分野に展開しにくい状況にある。
【0006】
また、上述のように架橋アクリレート系繊維は難燃性を有するが、中でも、繊維中のカルボキシル基をマグネシウム塩型とした場合、架橋アクリレート系繊維は一般の有機系繊維にはみられない極めて高い難燃性を有することが知られている(特許文献7)。さらに、かかるマグネシウム塩型架橋アクリレート系繊維は徐吸放湿性、すなわち、吸放湿速度が遅いという特徴も有している(特許文献8)。このため、吸湿による持続的な発熱が可能となり、特に衣料分野において有用である。
【0007】
しかしながら、このことは従来技術において、マグネシウム塩型架橋アクリレート系繊維では、高難燃性と高吸放湿速度を両立できないことを示しており、かかる特性を求められる用途には展開できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−158040号公報
【特許文献2】特開2000−303353号公報
【特許文献3】特開2002−294556号公報
【特許文献4】特開2003−89971号公報
【特許文献5】特開2003−278079号公報
【特許文献6】特開2006−70421号公報
【特許文献7】国際公開第2006/027911号パンフレット
【特許文献8】国際公開第2006/027910号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来技術では提供されていなかった、産業資材分野において、他の産業資材用繊維と併用しても外観上の違和感を惹起しない色を有し、コスト面でも有利な架橋アクリレート系繊維を提供することである。また、本発明の別の目的は、高難燃性と高吸放湿速度の両方を有する架橋アクリレート系繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、以下の手段により達成される。すなわち、
[1]JIS−Z−8729に記載の表示方法において、Lが60〜75、aが5.0〜14.5、bが23.0〜30.0である色を有する架橋アクリレート系繊維。
[2]アクリロニトリル系繊維に対して、(a)ヒドラジン系化合物による架橋導入処理、(b)過酸化物による処理、(c)アルカリ性金属化合物による加水分解処理の各処理を、(a)、(b)、(c)の順に施すか、または、(a)を施した後、(b)および(c)を同時に施して得られることを特徴とする[1]に記載の架橋アクリレート系繊維。
[3]架橋アクリレート系繊維中の少なくとも一部のカルボキシル基がマグネシウムおよび/または亜鉛のイオンを対イオンとしていることを特徴とする[1]または[2]に記載の架橋アクリレート系繊維。
[4]架橋アクリレート系繊維中の少なくとも一部のカルボキシル基がマグネシウムイオンを対イオンとし、限界酸素指数が30〜50であり、かつ飽和吸湿率が20〜60重量%であることを特徴とする[3]に記載の架橋アクリレート系繊維。
[5]アクリロニトリル系繊維に対して、(a)ヒドラジン系化合物による架橋導入処理、(b)過酸化物による処理、(c)アルカリ性金属化合物による加水分解処理の各処理を、(a)、(b)、(c)の順に施すことを特徴とする架橋アクリレート系繊維の製造方法。
[6]アクリロニトリル系繊維に対して、(a)ヒドラジン系化合物による架橋導入処理、(b)過酸化物による処理、(c)アルカリ性金属化合物による加水分解処理の各処理を、(a)を施した後、(b)および(c)を同時に施すことを特徴とする架橋アクリレート系繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の架橋アクリレート系繊維はゴールド色に近似する色を有しているため、産業資材用繊維と混用しても違和感を生じず、また、製造工程数が少なくコストを抑制できるため、産業資材分野において好適に使用することができる。また、本発明の架橋アクリレート系繊維においては、マグネシウム塩型を採用した場合でも、高吸放湿速度を発現させることが可能であり、従来の架橋アクリレート系繊維では実現できていなかった高難燃性と高吸放湿速度を両立させることが可能であるため、かかる特性を求められる用途への展開が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は実施例1、2および比較例1、2の架橋アクリレート系繊維の吸湿曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の架橋アクリレート系繊維は、従来の架橋アクリレート系繊維にはないゴールド色に近似する色を有しており、産業資材用繊維と混用しても違和感を生じさせることがない。かかる色は、具体的には、JIS−Z−8729に記載の表示方法において、Lが60〜75、aが5.0〜14.5、bが23.0〜30.0である色であり、Lが65〜75、aが7.0〜13.0、bが23.5〜27.0である色であることが好ましい。
【0014】
かかる本発明の架橋アクリレート系繊維は、アクリロニトリル系繊維に対して、(a)ヒドラジン系化合物による架橋導入処理、(b)過酸化物による処理、(c)アルカリ性金属化合物による加水分解処理の各処理を、(a)、(b)、(c)の順に施すか、または、(a)を施した後、(b)および(c)を同時に施すことにより得ることができる。
【0015】
本発明に採用するアクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリル系重合体から公知の方法に準じて製造されるものであるが、該重合体の組成としてはアクリロニトリルが40重量%以上であることが好ましく、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。本発明においては、後述するようにアクリロニトリル系繊維を形成するアクリロニトリル系共重合体のニトリル基とヒドラジン系化合物を反応させることで繊維中に架橋構造を導入する。架橋構造は繊維物性に大きく影響するものであり、アクリロニトリルの共重合組成が少なすぎる場合には架橋構造が少なくならざるを得なくなり、繊維物性が不十分となる可能性があるが、アクリロニトリルの共重合組成を上記範囲とすることで良好な結果を得られやすくなる。
【0016】
アクリロニトリル系重合体におけるアクリロニトリル以外の共重合成分としては、メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体及びその塩、(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のカルボン酸基含有単量体及びその塩、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド等の単量体などが挙げられ、アクリロニトリルと共重合可能な単量体であれば特に限定されない。
【0017】
また、本発明に採用するアクリロニトリル系繊維の形態としては、短繊維、トウ、糸、編織物、不織布等いずれの形態のものでもよく、また、製造工程中途品、廃繊維などでも採用できる。
【0018】
処理(a)においては、アクリロニトリル系繊維をヒドラジン系化合物を含有する溶液で処理することにより、アクリロニトリル系繊維のニトリル基とヒドラジンが反応し、繊維中に架橋構造が形成される。ヒドラジン系化合物としては、水加ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、中性硫酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジンなどを挙げることができる。処理条件としては、ヒドラジン濃度として3〜40重量%となるように上記のヒドラジン系化合物を添加した水溶液に上述したアクリロニトリル系繊維を浸漬し、50〜120℃、5時間以内で処理する方法などが挙げられる。
【0019】
処理(b)においては、処理(a)を施されて得られた繊維を過酸化物を含有する溶液で処理する。かかる処理を施すことにより、最終的に得られる架橋アクリレート系繊維の色をゴールド色に近似する色とすることができる。該処理に用いる過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどを挙げることができる。処理条件としては、過酸化物濃度1〜15重量%、好ましくは3〜8重量%の水溶液に繊維を浸漬し、50〜120℃で0.5〜20時間処理するといった例を挙げることができる。なお、この処理の前には、繊維を十分に水洗し、処理(a)で残留した薬剤をできるだけ除去しておくことが望ましい。
【0020】
処理(c)はアルカリ性金属化合物による加水分解処理である。該処理により、繊維中に存在しているニトリル基やアミド基が加水分解され、カルボキシル基が形成される。カルボキシル基は架橋アクリレート系繊維において吸放湿性、吸湿発熱性、消臭性などの特性を発現させる要因であり、一般的には全カルボキシル基量として1〜12mmol/g、好ましくは3〜10mmol/g、さらに好ましくは3〜8mmol/gのカルボキシル基を形成することが望ましい。形成されるカルボキシル基の量は、処理条件によって調整することができる。なお、アミド基は処理(a)の際に一部のニトリル基から生成される。
【0021】
処理(c)に用いるアルカリ性金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物や炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩を挙げることができる。処理条件としては、アルカリ性金属化合物の濃度1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の水溶液に繊維を浸漬し、50〜120℃で1〜10時間処理するといった例を挙げることができる。なお、形成されるカルボキシル基の対イオンは、使用したアルカリ性金属化合物に対応した金属イオンとなる。
【0022】
上述した処理(b)と(c)は同時に施すことも可能である。この場合、上述した過酸化物およびアルカリ性金属化合物の両方を含む溶液に処理(a)を施されて得られた繊維を浸漬して処理すればよい。
【0023】
以上のように、アクリロニトリル系繊維に対して、処理(a)〜(c)を施すことにより、本発明の架橋アクリレート系繊維を得ることができるが、さらに、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などの金属塩によるイオン交換処理、硝酸、硫酸、塩酸、蟻酸などによる酸処理、あるいは、アルカリ性金属化合物などによるpH調整処理などを施すことにより繊維中のカルボキシル基を所望の塩型カルボキシル基あるいはH型カルボキシル基に変換したり、異種の塩型カルボキシル基を混在させたりして、吸放湿性、吸湿発熱性、消臭性、抗菌性、難燃性など特性を調整することも可能である。
【0024】
ここで、塩基カルボキシル基を構成する金属種類としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、マンガン、銅、亜鉛、銀などのその他の金属などから1種あるいは複数種を必要な特性に応じて選択することができる。
【0025】
例えば、吸放湿性に関しては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの塩型カルボキシル基が適しているが、本発明の架橋アクリレート系繊維においては、過酸化物処理を施さない従来の架橋アクリレート系繊維と比較すると、両者で塩型カルボキシル基の金属種類が同じで飽和吸湿率も同等である場合でも、相対的に吸湿速度を高くできるという特徴を有しており、より優れた吸放湿性を発現できる。
【0026】
また、産業資材分野で重視される難燃性を高めるには、塩型カルボキシル基としてマグネシウム塩型カルボキシル基あるいは亜鉛塩型カルボキシル基を選択することが望ましい。そして、これらの塩型カルボキシル基の量としては、好ましくは、絶対量として2mmol/g以上かつ全カルボキシル基量に対して50%以上であり、より好ましくは、絶対量として2mmol/g以上かつ全カルボキシル基量に対して60%以上、あるいは、絶対量として3mmol/g以上かつ全カルボキシル基量に対して50%以上であり、最も好ましくは、絶対量として3mmol/g以上かつ全カルボキシル基量に対して60%以上である。かかる塩型カルボキシル基とする方法について、マグネシウム塩型カルボキシル基を例に挙げて以下に説明する。
【0027】
マグネシウム塩型カルボキシル基を有する架橋アクリレート系繊維とするには、処理(c)後の繊維を硝酸マグネシウム水溶液などのマグネシウムイオンを含有する水溶液に浸漬することで得ることができる。また、マグネシウム塩型カルボキシル基量をより正確に制御したい場合には、以下に示す方法を採用することもできる。
【0028】
まず、処理(c)後の繊維を、硝酸などの酸水溶液に浸漬して繊維中のカルボキシル基を全てH型カルボキシル基とする。次いで得られた繊維を水酸化ナトリウム水溶液などのナトリウムイオンを含有するアルカリ性水溶液に浸漬して、H型カルボキシル基をナトリウム塩型カルボキシル基とする。このとき、pHを調整することでナトリウム塩型に変換されるカルボキシル基量を変化させることができる。
【0029】
続いて、硝酸マグネシウム水溶液などのマグネシウムイオンを含有する水溶液に浸漬することにより、マグネシウム塩型カルボキシル基に変換することができる。ここで、マグネシウム塩型カルボキシル基に変換されるのはナトリウム塩型カルボキシル基であって、H型カルボキシル基はマグネシウム塩型カルボキシル基にほとんど変換されない。すなわち、pH調整によってナトリウム塩型カルボキシル基量を制御することを通じて、マグネシウム塩型カルボキシル基量を制御することが可能である。また、ナトリウム塩型カルボキシル基のマグネシウム塩型カルボキシル基への変換は可逆反応であるため、マグネシウムイオンを含有する水溶液中のマグネシウムイオンの量により化学平衡を移動させ、マグネシウム塩型カルボキシル基量を制御することも可能である。
【0030】
上述のようにして得られる本発明のマグネシウム塩型架橋アクリレート系繊維は、従来知られているマグネシウム塩型架橋アクリレート系繊維と同等の難燃性を有しており、限界酸素指数30〜50、好ましくは35〜50を発現することができる。さらに、該繊維は20〜60重量%、好ましくは30〜60重量%の飽和吸湿率を有し、吸湿速度については、20℃65%RH雰囲気下での5分間吸湿率が同程度の飽和吸湿率を有する従来のマグネシウム塩型架橋アクリレート系繊維に比べて2倍以上高くなり、従来になかった高難燃性と高吸湿速度の両立を実現するものである。
【0031】
また、亜鉛塩型架橋アクリレート系繊維ついても、上述したマグネシウム塩型架橋アクリレート系繊維と同様の方法で得ることができる。この場合、上述の硝酸マグネシウム水溶液などのマグネシウムイオンを含有する水溶液に代えて、塩化亜鉛水溶液、硝酸亜鉛水溶液、硫酸亜鉛水溶液などの亜鉛イオンを含有する水溶液を用いればよい。
【0032】
本発明において、ゴールド色に近似する色の架橋アクリレート系繊維が得られる理由は定かではないが、従来の架橋アクリレート系繊維の桃色がヒドラジン系化合物による架橋導入処理よって形成されるテトラジン環構造に由来するものと考えられていることから、本発明における過酸化物処理により、テトラジン環構造が変化したことによるものと推察される。
【実施例】
【0033】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。まず、各特性の評価方法および評価結果の表記方法について説明する。
【0034】
[全カルボキシル基量]
十分乾燥した試料約1gを精秤し(W1[g])、これに200mlの1mol/l塩酸水溶液を加え30分間放置したのちガラスフィルターで濾過し水を加えて水洗する。この処理を3回繰り返したのち、濾液のpHが5以上になるまで十分に水洗する。次にこの試料を200mlの水に入れ1mol/l塩酸水溶液を添加してpH2にした後、0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求める。該滴定曲線からカルボキシル基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(V1[ml])を求め、次式によって全カルボキシル基量を算出する。
全カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×V1)/W1
【0035】
[塩型カルボキシル基量]
十分乾燥した試料を精秤し、常法に従って濃硫酸と濃硝酸の混合溶液で酸分解したのち、カルボキシル基の塩の形で含有される金属を常法に従って原子吸光光度法により定量し、該金属の原子量で除することにより塩型カルボキシル基量を算出する。
【0036】
[飽和吸湿率]
試料約5.0gを熱風乾燥器で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W2[g])。次に該試料を温度20℃、65%RHに調節した恒温恒湿器に24時間入れる。このようにして吸湿した試料の重量を測定する(W3[g])。以上の測定結果から、次式によって算出する。
飽和吸湿率[%]={(W3−W2)/W2}×100
【0037】
[吸湿曲線]
試料約2.5gを熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W4[g])。続いて試料を円筒状メッシュカゴ(直径7.5cm、高さ9.8cm)に素早くふんわりとした状態となるように押し付けずに入れ、カゴごとすぐに20℃×65%RHに調節した恒温恒湿器に入れる。恒温恒湿器に入れた時点を吸湿開始時点として、5分、10分、20分および30分経過した時の吸湿した試料の重量を測定する(W5[g])。以上の測定結果から、次式によって各測定時点での吸湿率を算出し、吸湿曲線を求める。
吸湿率[%]={(W5−W4)/W4}×100
【0038】
[限界酸素指数(LOI)]
試料繊維を用いて目付180g/mの不織布を作成し、該不織布に対してJIS−K−7201−2測定法に準拠してLOIを測定した。この数値が大きいほど難燃性が高いことを意味する。
【0039】
[繊維の色]
解繊した試料をミノルタ株式会社製測色計CR300(D65光源)を用いて3回測色し、JIS−Z−8729に記載の表示方法によるL、a、bのそれぞれの平均値を求める。
【0040】
[実施例1]
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%のアクリロニトリル系重合体を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液で溶解した紡糸原液を作成し、常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理をして、0.9dtex、70mmの原料繊維を得た。この原料繊維を15%水加ヒドラジン水溶液に浴比1:10として浸漬し、120℃、1時間の条件で処理した。得られた繊維を水洗した後、4%過硫酸アンモニウム水溶液に浴比1:10として浸漬し、100℃、1時間の条件で過酸化物処理した。次いで、得られた繊維を、5%水酸化ナトリウム水溶液に浴比1:10として浸漬し、110℃、1時間の条件で加水分解し、水洗を行うことでナトリウム塩型架橋アクリレート系繊維を得た。得られた繊維の特性の評価結果を表1および図1に示す。
【0041】
[比較例1]
実施例1において、過酸化物処理を行わないこと以外は同様にして、ナトリウム塩型架橋アクリレート系繊維を得た。得られた繊維の特性の評価結果を表1および図1に示す。
【0042】
[実施例2]
実施例1で得られた架橋アクリレート系繊維を1mol/l硝酸水溶液で処理して、カルボキシル基をH型に変換し、水洗後、1mol/l水酸化ナトリウムでpH12に調整後、水洗し、ナトリウム塩型カルボキシル基を有する繊維を得た。該繊維を該繊維のカルボキシル基量の1.2倍等量の硝酸マグネシウムを含有する水溶液に浸漬し、50℃、1時間の条件でマグネシウム塩型への変換処理を行い、水洗を行うことでマグネシウム塩型架橋アクリレート系繊維を得た。得られた繊維の特性の評価結果を表1および図1に示す。
【0043】
[比較例2]
実施例2において、実施例1で得られた架橋アクリレート系繊維に代えて比較例1で得られた架橋アクリレート系繊維を用いること以外は同様にしてマグネシウム塩型架橋アクリレート系繊維を得た。得られた繊維の特性の評価結果を表1および図1に示す。
【0044】
[実施例3]
実施例1において、過酸化物処理を3%過酸化水素水で行うこと以外は同様にして、ナトリウム塩型架橋アクリレート系繊維を得た。得られた繊維の特性の評価結果を表1に示す。
【0045】
[実施例4]
実施例1で採用した原料繊維を15%水加ヒドラジン水溶液に浴比1:10として浸漬し、120℃、1時間の条件で処理し、水洗した。得られた繊維を4%の過硫酸アンモニウムと5%の水酸化ナトリウムを含有する水溶液に浴比1:10として浸漬し、100℃、1時間の条件で過酸化物処理・加水分解処理の同時処理を施し、水洗を行うことでナトリウム塩型架橋アクリレート系繊維を得た。得られた繊維の特性の評価結果を表1に示す。
【0046】
[実施例5]
アクリロニトリル88%及び酢酸ビニル12%のアクリロニトリル系重合体を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液で溶解した紡糸原液を作成し、常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理をして、0.9dtex、70mmの原料繊維を得た。この原料繊維を15%水加ヒドラジン水溶液に浴比1:10として浸漬し、120℃、1.5時間の条件で処理した。得られた繊維を水洗した後、3%過硫酸カリウム水溶液に浴比1:10として浸漬し、60℃、30分の条件で過酸化物処理した。次いで、得られた繊維を、5%水酸化ナトリウム水溶液に浴比1:10として浸漬し、110℃、1時間の条件で加水分解し、水洗を行うことでナトリウム塩型架橋アクリレート系繊維を得た。続いて該繊維を1mol/l硝酸水溶液で処理して、カルボキシル基をH型に変換し、水洗後、1mol/l水酸化ナトリウムでpH12に調整後、水洗し、ナトリウム塩型カルボキシル基を有する繊維を得た。該繊維を該繊維のカルボキシル基量の1.3倍等量の硫酸亜鉛を含有する水溶液に浸漬し、50℃、1時間の条件で亜鉛塩型への変換処理を行い、水洗を行うことで亜鉛塩型架橋アクリレート系繊維を得た。得られた繊維の特性の評価結果を表1に示す。
【0047】
[実施例6]
実施例1で得られた架橋アクリレート系繊維を1mol/l硝酸水溶液で処理して、カルボキシル基をH型に変換し、水洗後、1mol/l水酸化ナトリウムでpH12に調整後、水洗し、ナトリウム塩型カルボキシル基を有する繊維を得た。該繊維を該繊維のカルボキシル基量の1.6倍等量の硝酸マグネシウムを含有する水溶液に浸漬し、50℃、1時間の条件でマグネシウム塩型への変換処理を行い、水洗を行うことでマグネシウム塩型架橋アクリレート系繊維を得た。得られた繊維の特性の評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1からわかるように、比較例1および2の架橋アクリレート系繊維は桃色を有するものであるが、過酸化物処理を行った実施例1〜6の架橋アクリレート系繊維はゴールド色を有するものである。また、図1からわかるように、実施例1および2の架橋アクリレート系繊維はそれぞれ比較例1および2の架橋アクリレート系繊維に比べて塩型カルボキシル基量が低いにもかかわらず、吸湿開始5分後の吸湿率で見ると、ナトリウム塩型の場合、比較例1の20%に対して、実施例1では28%であり、マグネシウム塩型の場合、比較例2の2%に対して、実施例2では6%となっており、マグネシウム塩型において、吸湿速度の向上が顕著である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS−Z−8729に記載の表示方法において、Lが60〜75、aが5.0〜14.5、bが23.0〜30.0である色を有する産業資材用架橋アクリレート系繊維。
【請求項2】
架橋アクリレート系繊維中の少なくとも一部のカルボキシル基がマグネシウムおよび/または亜鉛のイオンを対イオンとしていることを特徴とする請求項1に記載の産業資材用架橋アクリレート系繊維。
【請求項3】
架橋アクリレート系繊維中の少なくとも一部のカルボキシル基がマグネシウムイオンを対イオンとし、限界酸素指数が30〜50であり、かつ飽和吸湿率が20〜60重量%であることを特徴とする請求項に記載の産業資材用架橋アクリレート系繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2010−95843(P2010−95843A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21928(P2010−21928)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【分割の表示】特願2009−531508(P2009−531508)の分割
【原出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】