説明

架橋剤としての官能基化された包接複合体

【課題】官能基化されたポリマーを使用して架橋される、官能基化された包接複合体を提供すること。
【解決手段】組成物であって、1つ以上の反応性基で官能基化された包接複合体、および該包接複合体に存在する該反応性基と共有結合し得る1つ以上の補完的反応性基で官能基化されたポリマー、を含有する、組成物。上記官能基化された包接複合体は、1つ以上の環状オリゴ糖および線状ポリマー鎖を含み得る。上記1つ以上の環状オリゴ糖は、シクロデキストリンであり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2008年7月11日に出願された、米国仮出願番号61/079,833の利益および優先権を主張する。この米国仮出願の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示は、一般に、架橋ポリマー網目構造およびこれらを含む組成物に関する。より特定すると、官能基化された包接複合体が、官能基化されたポリマーを使用して架橋される。このような架橋ポリマー網目構造を使用する方法もまた記載される。
【背景技術】
【0003】
包接複合体およびホスト/ゲスト化学の形成および使用に関する多数の開示が存在する。具体的には、数件の米国特許は、包接複合体を形成するためのシクロデキストリンの使用、およびこの包接複合体を用いて種々の化学組成物を形成することを議論する。いくつかの非限定的な例としては、以下が挙げられる:
特許文献1は、外側の宿主への浸透剤の放出を遅延するために、多くのポリマーのうちでもシクロデキストリンを記載する。
【0004】
特許文献2は、シクロデキストリンまたはシクロデキストリンと発泡剤との複合体を、熱可塑性樹脂に組み込んで、特定の特性を改善することを記載するが、本発明の処方物も、本発明の組成物を処方する手段も、開示しない。
【0005】
特許文献3は、本発明とは関連のない種々のポリマーに、生体触媒を固定する方法を記載する。これらの生体触媒は、固定され得る生体触媒のうちでも、シクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼを含む。
【0006】
特許文献4は、ニコチン−β−シクロデキストリン複合体の調製を記載する。
【0007】
特許文献5は、フィルム形成組成物中の水不溶性ポリマー粒子の合体を防止するための水溶性成分のリスト内に、シクロデキストリンを含む。
【0008】
しかし、包接複合体を、この複合体を別のポリマーと架橋させる様式で官能基化することも、架橋ポリマー組成物を形成するために補完的反応性基で官能基化された包接複合体も、開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,906,488号明細書
【特許文献2】米国特許第5,258,414号明細書
【特許文献3】米国特許第5,268,286号明細書
【特許文献4】米国特許第5,362,496号明細書
【特許文献5】米国特許第5,416,181号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、官能基化されたポリマーを使用して架橋される、官能基化された包接複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
組成物であって、
1つ以上の反応性基で官能基化された包接複合体、および
該包接複合体に存在する該反応性基と共有結合し得る1つ以上の補完的反応性基で官能基化されたポリマー、
を含有する、組成物。
【0012】
(項目2)
上記官能基化された包接複合体が、1つ以上の環状オリゴ糖および線状ポリマー鎖を含む、上記項目に記載の組成物。
【0013】
(項目3)
上記1つ以上の環状オリゴ糖がシクロデキストリンである、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0014】
(項目4)
上記1つ以上の線状ポリマー鎖がポリエチレングリコールである、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0015】
(項目5)
上記官能基化された包接複合体が、1つ以上の環状オリゴ糖およびマルチアームポリマー鎖を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0016】
(項目6)
上記官能基化された包接複合体が、求電子性基、求核性基、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1つ以上の反応性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0017】
(項目7)
上記官能基化されたポリマーが、求電子性基、求核性基、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1つ以上の補完的反応性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0018】
(項目8)
上記官能基化された包接複合体が、連結基、生分解性基、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される鎖長延長剤をさらに含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0019】
(項目9)
上記官能基化されたポリマーが、連結基、生分解性基、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される鎖長延長剤をさらに含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0020】
(項目10)
組成物であって、
1つ以上の求電子性基で官能基化された包接複合体、および
1つ以上の求核性基で官能基化されたポリマー、
を含有する、組成物。
【0021】
(項目11)
上記官能基化された包接複合体が、1つ以上の環状オリゴ糖および線状ポリマー鎖を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0022】
(項目12)
上記1つ以上の環状オリゴ糖がシクロデキストリンである、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0023】
(項目13)
上記1つ以上の線状ポリマー鎖がポリエチレングリコールである、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0024】
(項目14)
上記官能基化された包接複合体が、1つ以上の環状オリゴ糖およびマルチアームポリマー鎖を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0025】
(項目15)
上記官能基化された包接複合体が、−CON(COCH、−COH、−CHO、−CHOCH、−N=C=O、−SOCH=CH、−N(COCH)、−S−S−(CN)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される求電子性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0026】
(項目16)
上記官能基化されたポリマーが、−NH、−SH、−OH、−PH、−CO−NH−NH、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1つ以上の求核性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0027】
(項目17)
上記官能基化された包接複合体が、連結基、生分解性基、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される鎖長延長剤をさらに含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0028】
(項目18)
上記官能基化されたポリマーが、連結基、生分解性基、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される鎖長延長剤をさらに含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0029】
(項目19)
組成物であって、
1つ以上の求核性基で官能基化された包接複合体、および
1つ以上の求電子性基で官能基化されたポリマー、
を含有する、組成物。
【0030】
(項目20)
上記官能基化された包接複合体が、1つ以上の環状オリゴ糖および線状ポリマー鎖を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0031】
(項目21)
上記1つ以上の環状オリゴ糖がシクロデキストリンである、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0032】
(項目22)
上記1つ以上の線状ポリマー鎖がポリエチレングリコールである、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0033】
(項目23)
上記官能基化された包接複合体が、1つ以上の環状オリゴ糖およびマルチアームポリマー鎖を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0034】
(項目24)
上記官能基化されたポリマーが、−CON(COCH、−COH、−CHO、−CHOCH、−N=C=O、−SOCH=CH、−N(COCH)、−S−S−(CN)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される求電子性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0035】
(項目25)
上記官能基化された包接複合体が、−NH、−SH、−OH、−PH、−CO−NH−NH、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1つ以上の求核性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
【0036】
(項目26)
組成物であって、
1つ以上の求核性基で官能基化された第一の包接複合体、および
1つ以上の求電子性基で官能基化された第二の包接複合体、
を含有する、組成物。
【0037】
(項目27)
組成物を調製する方法であって、
1つ以上の求電子性基で官能基化された包接複合体、および1つ以上の求核性基で官能基化されたポリマーを提供する工程;
該官能基化された包接複合体を該官能基化されたポリマーと混合することによって混合物を形成し、架橋を開始させる工程;ならびに
該官能基化された包接複合体および該官能基化されたポリマーを、架橋を続けさせて、架橋ポリマー組成物を形成する工程、
を包含する、方法。
【0038】
本開示は、1つ以上の反応性基で官能基化された包接複合体、および1つ以上の補完的反応性基で官能基化されたポリマーを含有する、架橋ポリマー組成物に関する。
【0039】
(要旨)
架橋ポリマー網目構造は、1つ以上の反応性基で官能基化された包接複合体、および1つ以上の補完的反応性基で官能基化されたポリマーを含む。この包接複合体の反応性基は、このポリマーの補完的反応性基と共有結合して、本発明の架橋ポリマー網目構造を形成し得る。
【0040】
ある実施形態において、包接複合体は、1つ以上の求電子性基で官能基化され、そしてポリマーは、1つ以上の求核性基で官能基化される。
【0041】
他の実施形態において、包接複合体は、1つ以上の求核性基で官能基化され、そしてポリマーは、1つ以上の求電子性基で官能基化される。
【0042】
なお他の実施形態において、ポリマーは、1つ以上の補完的反応性基で官能基化された第二の包接複合体であり、これらの補完的反応性基は、第一の官能基化された包接複合体の反応性基と共有結合し得る。
【0043】
特に有用な実施形態において、環状オリゴ糖(例えば、シクロデキストリン)が、線状ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)と組み合わせられて、包接複合体を形成し、次いで、この包接複合体が、この環状オリゴ糖の第一級ヒドロキシル基または第二級ヒドロキシル基から延びる求電子性基を含むように、官能基化される。次いで、この官能基化された包接複合体は、求核性基を含む官能基化ポリマー(例えば、アルブミン、コラーゲン、ポリリジン、または第一級アミノ基を含むように合成されたPEG)と組み合わせられる。これらの2つの成分が反応して、網目構造を形成する。
【0044】
一般に、架橋組成物を使用する方法もまた、本明細書中に記載される。このような使用方法としては、生体接着剤として、外科手術用封止剤として、止血剤として、組織強化のため、外科手術における接着の防止において、または合成移植物(例えば、薬物送達マトリックス)の表面をコーティングするため、および眼への適用のための使用方法が挙げられるが、これらに限定されないことが意図される。
【発明の効果】
【0045】
本発明により、官能基化されたポリマーを使用して架橋される、官能基化された包接複合体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、シクロデキストリン分子の図式表現である。
【図2】図2は、包接複合体の形成の図式表現である。
【図3】図3は、本明細書中に開示される超分子化合物の図式表現である。
【図4】図4は、本明細書中に記載される超分子化合物の図式表現である。
【図5A】図5Aは、本明細書中に記載される超分子化合物の図式表現である。
【図5B】図5Bは、本明細書中に記載される超分子化合物の図式表現である。
【図6A】図6Aは、本明細書中に記載される超分子化合物の図式表現である。
【図6B】図6Bは、本明細書中に記載される超分子化合物の図式表現である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
(詳細な説明)
本開示によれば、架橋ポリマー網目構造が、2つの成分を反応させることにより調製される。第一の成分は、2つ以上の反応性基で官能基化された包接複合体である。第二の成分は、この官能基化された包接複合体に存在する反応性基と共有結合し得る2つ以上の基で官能基化された、ポリマーである。
【0048】
ある実施形態において、包接複合体は、2つ以上の求電子性基で官能基化され、これらの求電子性基が、官能基化されたポリマーに存在する求核性基と反応する。
【0049】
他の実施形態において、2つ以上の求核性基で官能基化された包接複合体は、2つ以上の求電子性基で官能基化されたポリマーと組み合わせられる。
【0050】
包接複合体またはポリマーのいずれかに存在し得る適切な求核性基としては、−NH、−SH、−OH、−PH、および−CO−NH−NHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
求電子性基の例示的な例としては、−CON(COCH、−COH、−CHO、−CHOCH、−N=C=O、−SOCH=CH、−N(COCH)、−ON(COCH)、−S−S−(CN)、ベンゾトリアゾール、p−ニトロフェニル、カルボニルイミダゾール、ビニルスルホン、およびマレイミドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
官能基は、各存在において同じであっても異なっていてもよいことが、本発明により企図される。従って、包接複合体は、2つの異なる求電子性基を有してもよく、2つの異なる求核性基を含んでもよく、またはポリマーもしくは包接複合体の官能基は同じであってもよい。同様に、官能基化されたポリマーは、異なる種類の官能基を含んでもよく、またはこれらの基は、所定のポリマーにおいて同じであってもよい。
【0053】
反応性基は、連結基によって、包接複合体またはポリマーの骨格に結合され得る。適切な連結基としては、−O−(CH−、−S−(CH−、−NH−(CH−、OC−NH−(CH−、−OC−(CH−、OC−CRH−、および−O−R−CO−NH−が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
さらに、生分解性基が、包接複合体、ポリマー、反応性基または連結基のいずれかの間に挿入されて、例えば、薬物送達用途において使用するために、インビボでの架橋ポリマー網目構造の分解を増加させ得る。いくつかの有用な生分解性基としては、ラクチド、グリコリド、ε−カプロラクトン、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(酸無水物)、および種々のジペプチドまたはトリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
(官能基化された包接複合体)
本開示中に記載される組成物を調製する目的で、最初に、2つ以上の反応性基で官能基化された包接複合体、およびこの官能基化された包接複合体の反応性基と共有結合し得る2つ以上の補完的反応性基で官能基化されたポリマーを提供することが必要である。
【0056】
本明細書中で使用される場合、用語「包接複合体」とは、ホスト−ゲスト化学を使用して形成されたポリマーをいい、ここで一方の化合物であるホストは空洞を形成し、この空洞内に、第二の化合物であるゲストの分子の少なくとも一部分が、通過するかまたは位置するかのいずれかである。換言すれば、このホスト化合物は、このホスト化合物の空洞によって、このゲスト化合物の少なくとも一部分を囲む。ある実施形態において、ゲスト化合物の少なくとも一部分は、ファンデルワールス力、およびより少ない程度で双極子−双極子相互作用によって、このホスト化合物の空洞内で安定化される。ある実施形態において、ゲスト化合物の少なくとも一部とホスト化合物とは、互いに共有結合する。
【0057】
ある実施形態において、1つのホスト化合物が、1つのゲスト化合物と組み合わせられて、1つの包接複合体を形成し得る。ある実施形態において、複数のホスト化合物が、共通のゲスト化合物を共有して、一連の包接複合体を形成し得る。他の実施形態において、1つのホスト化合物が複数のゲスト化合物を共有して、1つの包接複合体を形成し得る。なお他の実施形態において、複数のホスト化合物が複数のゲスト化合物と組み合わせられて、複数の包接複合体を形成し得る。
【0058】
本明細書中に記載されるような包接複合体を形成し得る任意の分子またはポリマーが、本発明の組成物を形成するために使用され得るが、特に有用な包接複合体は、環状オリゴ糖(例えば、シクロデキストリン)をホスト化合物として使用することによって、形成され得る。
【0059】
図1に示されるように、シクロデキストリン10は、第一級ヒドロキシル基20および第二級ヒドロキシル基30を外側表面および中心の空隙空洞に有する、環状オリゴ糖である。シクロデキストリンは、しばしば、6個〜8個のグルコピラノシド単位から構成され、そして位相幾何学的に、第二級ヒドロキシル基30を露出させる大きい方の開口部と、第一級ヒドロキシル基20を露出させる小さい方の開口部とを有する、円環として表され得る。この配置に起因して、その外側は、充分に親水性であり、シクロデキストリン(またはその複合体)を水溶性にし、そして円環の内側の親水性を外側よりかなり低くし、これによって、他の疎水性分子のホストになり得る。適切なシクロデキストリンとしては、α−1,4−結合した6つのグルコース単位からなるα−シクロデキストリン、7つのグルコース単位からなるβ−シクロデキストリン、および8つのグルコース単位からなるγ−シクロデキストリンが挙げられるが、これらに限定されない。これらの単位の数は、空洞のサイズを決定する。シクロデキストリンの包接特性、すなわち、ゲスト化合物とシクロデキストリン分子との間での複合体形成は、水溶液中で、疎水性相互作用によって安定化されると考えられる。この疎水性相互作用は、例えば、溶媒の「最も起こりそうな構造」を達成し、そして系全体における最小のエネルギーを得る目的で、溶媒である水が、適切なサイズおよび形状の疎水性溶質を、本質的に疎水性である空洞に押し込む傾向による。
【0060】
図2を参照すると、ホスト化合物110は、ゲスト化合物140と組み合わせられて、包接複合体150を形成する。この例示的な実施形態において、シクロデキストリンホスト化合物が、ポリエチレングリコールゲスト化合物と組み合わせられて、包接複合体を形成しているところが示されている。示されるように、ポリエチレングリコールゲスト化合物の一部分が、シクロデキストリンホスト化合物の空洞を通過している。ゲスト化合物は、疎水性ポリマー、親水性ポリマーおよび両親媒性ポリマーが挙げられる、種々の化合物から選択され得ることが予測される。ゲスト化合物は、天然材料であっても合成材料であってもよい。ゲスト化合物は、線状であっても、分岐状であっても、樹状であってもよい。
【0061】
本発明の組成物のために有用な疎水性ポリマーとしては、ポリエステル(例えば、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(ヒドロキシブチレート));カプロラクトン、グリコール酸、乳酸、およびヒドロキシブチレートのコポリマー;ポリ酸無水物(例えば、ポリ(アジピン酸無水物));ポリ(パラ−ジオキサノン);ポリ(リンゴ酸);ポリアミン;ポリウレタン;ポリエステルアミド;ポリオルトエステル;ポリアセタール;ポリケタール;ポリカーボネート;ポリオルトカーボネート;ポリホスファゼン;ポリ(アミノ酸);キチン;キトサン;ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ブチレンオキシド)、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリイミドならびにこれらのコポリマーおよび混合物が挙げられる。
【0062】
両親媒性コポリマーとは、親水性ポリマーの少なくとも1つのセグメントに接続された、疎水性ポリマーの少なくとも1つのセグメントを含む、ポリマーである。これらのコポリマーは、ブロックコポリマーであっても、ジブロックコポリマーであっても、トリブロックコポリマーであっても、マルチブロックコポリマーであってもよく、そしてこれらのコポリマーは、線状鎖として構成されても、グラフト鎖(櫛型コポリマーおよび星型コポリマーが挙げられる)として構成されてもよい。好ましくは、各セグメントは、他のいずれのポリマーセグメントからも離れて生物中に存在する場合に、非毒性であるポリマーから作製される。
【0063】
親水性ポリマー(そのセグメントは、両親媒性ブロックコポリマーに含まれ得る)の例としては、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ヒドロキシ化セルロース、カルボキシ化ポリマー(例えば、カルボキシセルロース)、およびスルホン化ポリマー(例えば、スルホン化ポリスチレン)が挙げられる。ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、およびポリホスファゼンなどのポリマーの一般的なクラスは、ペンダント基および骨格のセグメントの組成に依存して、親水性または疎水性のいずれでもあり得る。
【0064】
特に有用な実施形態において、シクロデキストリンは、線状ポリマー鎖に対して包接親和性を有する。線状ポリマー鎖のいくつかの例としては、ポリエチレングリコール、ポリエステル、およびポリエステル−ウレタンが挙げられるが、これらに限定されない。図3に示されるように、ポリマー鎖240は、複数のシクロデキストリンホスト分子210a〜210cと会合し得、これによって、超分子化合物260を形成する。超分子化合物の形成の際に、ポリマー鎖の少なくとも一部分は、1つより多くの環状オリゴ糖の空洞を通過する。複数の包接複合体は、ゲスト/ホスト化学または他の任意の種類の化学引力(例えば、ファンデルワールス力、共有結合、架橋、水素結合など)を使用して、このポリマー鎖を介して互いに連結され得る。
【0065】
ある実施形態において、超分子化合物は、ホスト−ゲスト−ホスト−ゲストの様式またはゲスト−ホスト−ゲスト−ホストの様式で、ゲストポリマー鎖を介して互いに連結された、複数の包接複合体を包含する。図4に示される例示的な実施形態において、分岐ポリマーまたは樹状ポリマー340(例えば、マルチアームポリエチレングリコール)は、複数のシクロデキストリン310a〜310dに接続されて、超分子化合物360を形成する。任意の数のシクロデキストリンが、分岐ポリマーの任意の部分に沿って配置され得ることが予測される。他の実施形態において、1つより多くのシクロデキストリン分子が、1つより多くのポリマー鎖を共有するかまたは1つより多くのポリマー鎖に接続されて、異なる種類の超分子化合物を形成し得る。もちろん、これらの超分子化合物は、本明細書中に記載されるホスト/ゲスト分子のうちの任意のものを使用して形成され得、そしてシクロデキストリンと線状ポリマーまたは分岐鎖ポリマーとに限定されることを意図されない。
【0066】
包接複合体の形成後、シクロデキストリン分子510a〜510cの第一級ヒドロキシル基520a〜520eまたは第二級ヒドロキシル基530a〜530eは、官能基化され得る。図5Aおよび図5Bに示されるように、第一級ヒドロキシル基520a〜520eまたは第二級ヒドロキシル基530a〜530eのうちの少なくとも1つは、求核性基(図中で文字「X」により表される)または求電子性基(図中で文字「Y」により現される)を含むように修飾され得る。求核性基のいくつかの例としては、アミノ基およびチオール基が挙げられるが、これらに限定されない。求電子性基のいくつかの例としては、スクシンイミジル基、N−ヒドロキシスクシンイミジル、ベンゾトリアゾール、カルボニルイミダゾール、イソシアネート、ビニルスルホン、マレイミドおよびp−ニトロフェニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
さらに、本明細書中で先に記載されたような連結基および生分解性基の使用は、さらに、官能基化された包接複合体の形成に含まれ得る。より具体的には、環状オリゴ糖の第一級ヒドロキシル基または第二級ヒドロキシル基は、図6Aおよび図6Bに示されるように、複合体に求核性基または求電子性基を付加する前に、連結基(図中で文字「L」により表される)および/または生分解性基(図中で文字「B」により表される)あるいはこれらの両方と組み合わせられ得る。
【0068】
官能基化された包接複合体のアーキテクチャは、ポリマーゲスト化合物の少なくとも一部分がシクロデキストリンホスト化合物の空洞内に位置し、同時に求核性基または求電子性基が、この空洞の外側に位置する第一級ヒドロキシル基または第二級ヒドロキシル基から延びるようなアーキテクチャである。第一級ヒドロキシル基または第二級ヒドロキシル基から延びる求核性基または求電子性基の濃度が、空洞の外側の位置で増加するにつれて、官能基化されたポリマーの補完的反応性基との反応はより速く進行する。
【0069】
(官能基化されたポリマー)
本明細書中で使用される場合、用語「ポリマー」とは、任意の生体適合性ポリマーをいう。種々の生体適合性ポリマー(生体吸収性のものと非生体吸収性のものとの両方)が、本明細書中に記載される組成物を形成する際に使用され得る。生体適合性ポリマーは、合成ポリマーであっても、天然ポリマーであっても、これらの組み合わせであってもよい。
【0070】
用語「天然ポリマー」とは、天然に存在するポリマーをいう。天然ポリマーの適切な例としては、フィブリンベースの材料、エラスチンベースの材料、トロンビンベースの材料、コラーゲンベースの材料、ヒアルロン酸ベースの材料、糖タンパク質ベースの材料、セルロースベースの材料、絹、デンプン、キチン、キトサン、アミノ酸、ゼラチン、アルギネート、ペクチン、トロポエラスチン、リボ核酸、デオキシリボ核酸、ポリペプチド、タンパク質、多糖類、ポリヌクレオチドおよびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
本明細書中で使用される場合、用語「合成ポリマー」とは、天然には存在せず、そして(天然に存在する生物材料から作製されたとしても)化学合成によって合成された、ポリマーをいう。適切な生体適合性合成ポリマーとしては、脂肪族ポリエステル、ポリ(アミノ酸)、コポリ(エーテル−エステル)、ポリアルキレンオキサレート、ポリアミド、チロシン由来のポリカーボネート、ポリ(イミノカーボネート)、ポリオルトエステル、ポリオキサエステル、ポリアミドエステル、アミン基を含むポリオキサエステル、ポリ(酸無水物)、ポリホスファゼン、ポリ(フマル酸プロピレン)、ポリウレタン、ポリ(エステルウレタン)、ポリ(エーテルウレタン)、ポリアクリレート、エチレン−酢酸ビニル(および他のアシル置換酢酸セルロース)、ポリエステル(Dacron(登録商標))、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリビニルオキシド、ポリフッ化ビニル、ポリ(ビニルイミダゾール)、クロロスルホネート化ポリオレフィン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン、ナイロン、ならびにこれらのブレンドおよびコポリマーからなる群より選択されるポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
適切な合成ポリマーとしてはまた、コラーゲン、ラミニン、グリコサミノグリカン、エラスチン、トロンビン、フィブロネクチン、デンプン、ポリ(アミノ酸)、ゼラチン、アルギネート、ペクチン、フィブリン、酸化セルロース、キチン、キトサン、トロポエラスチン、ヒアルロン酸、絹、リボ核酸、デオキシリボ核酸、ポリペプチド、タンパク質、多糖類、ポリヌクレオチドおよびこれらの組み合わせに見出される配列に基づく生合成ポリマーが挙げられ得る。
【0073】
本明細書中に記載される組成物を調製する目的で、最初に、2つ以上の反応性基で官能基化された包接複合体に、2つ以上の補完的反応性基で官能基化されたポリマーを提供することが必要である。官能基化されたポリマーとは、1つ以上の求核性基または求電子性基をさらに含むか、またはさらに含むように修飾されている、本明細書中で先に記載されたような生体適合性ポリマーのうちのいずれかをいう。官能基化されたポリマーは、官能基化された包接複合体に位置する求核性基または求電子性基と反応して、網目構造またはマトリックスを形成し得る。包接複合体とポリマーとの両方が、多官能性であり得、これには、二官能性に活性化されるもの、三官能性に活性化されるもの、四官能性に活性化されるものなどが挙げられる。
【0074】
いくつかの実施形態において、多官能性に活性化されるポリマーは、複数の求電子性基で官能基化された包接複合体(すなわち、「多求電子性ポリマー」)と三次元架橋網目構造を形成する目的で、少なくとも2つ、より特定すると少なくとも3つの求核性基を含み得る(すなわち、「多求核性ポリマー」)。換言すれば、これらは、少なくとも二官能性に活性化され得、そしてより好ましくは、三官能性または四官能性に活性化される。
【0075】
いくつかの実施形態において、三次元架橋網目構造を得る目的で、包接複合体は、二官能性に活性化され、そしてポリマーは、3つ以上の官能基で官能基化される。なお他の実施形態において、包接複合体とポリマーとの両方が、多官能性であり、そして少なくとも3つの反応性基を含む。
【0076】
(複数の求核性基で官能基化されたポリマー)
複数の求核性基で官能基化されたポリマーはまた、本明細書中で一般に、「多求核性ポリマー」と称される。本明細書中で使用される場合、多求核性ポリマーは、少なくとも2つ、より特定すると少なくとも3つの、求核性基を含む。2つのみの求核性基で官能基化されたポリマーが使用される場合、三次元架橋網目構造を得る目的で、3つ以上の求電子性基で官能基化された包接複合体が使用され得る。
【0077】
本発明の組成物および方法において使用するための多求核性ポリマーとしては、複数の求電子性基(例えば、第一級アミノ基およびチオール基)を含むか、または含むように修飾されたポリマーが挙げられる。特に有用な多求核性ポリマーとしては、(i)2つ以上の第一級アミノ基またはチオール基を含むように合成された合成ポリペプチド;(ii)2つ以上の第一級アミノ基またはチオール基を含む天然に存在するポリマー;(iii)2つ以上の第一級アミノ基またはチオール基を含むように修飾されたポリエチレングリコール;および(iv)2つ以上の第一級アミノ基またはチオール基で官能基化された包接複合体が挙げられる。一般に、チオール基と求電子性基との反応は、第一級アミノ基と求電子性基との反応よりもゆっくりと進行する傾向がある。
【0078】
合成多求核性ポリペプチドとは、第一級アミノ基を含むアミノ酸(例えば、リジン)および/またはチオール基を含むアミノ酸(例えば、システイン)を組み込むように合成された、ポリペプチドである。ポリ(リジン)(合成により生成された、アミノ酸であるリジンのポリマー(145MW))が、特に有用である。ポリ(リジン)は、6個〜約4,000個のいずれかの第一級アミノ基を有するように調製され、これは、約870〜約580,000の分子量に対応する。
【0079】
有用なポリ(リジン)は、一般に、約1,000〜約300,000の範囲、より特定すると、約5,000〜約100,000の範囲、そして最も特定すると、約8,000〜約15,000の範囲の分子量を有する。様々な分子量のポリ(リジン)は、Peninsula Laboratories,Inc.(Belmont,Calif.)から市販されている。
【0080】
ポリエチレングリコールは、例えば、Poly(ethylene Glycol)Chemistryの第22章(Biotechnical and Biomedical Applications,J.Milton Harris編,Plenum Press,NY(1992))に記載される方法に従って、複数の第一級アミノ基またはチオール基を含むように、化学修飾され得る。2つ以上の第一級アミノ基を含むように修飾されたポリエチレングリコールは、本明細書中で、「多アミノPEG」と称される。2つ以上のチオール基を含むように修飾されたポリエチレングリコールは、本明細書中で、「多チオールPEG」と称される。本明細書中で使用される場合、用語「ポリエチレングリコール」は、修飾されたポリエチレングリコールおよび/または誘導体化されたポリエチレングリコールを包含する。
【0081】
種々の形態の多アミノPEGは、Shearwater Polymers(Huntsville,Ala)およびTexaco Chemical Company(Houston,Tex)から、「Jeffamine」の名称で市販されている。本発明において有用な多アミノPEGとしては、TexacoのJeffamineのジアミン(「D」系列)およびトリアミン(「T」系列)が挙げられ、これらは、1分子あたりそれぞれ2つおよび3つの第一級アミノ基を含む。
【0082】
ポリアミン(例えば、エチレンジアミン(HN−CHCH−NH)、テトラメチレンジアミン(HN−(CH−NH)、ペンタメチレンジアミン(カダベリン)(HN−(CH−NH)、ヘキサメチレンジアミン(HN−(CH−NH)、ビス(2−ヒドロキシエチル)アミン(HN−(CHCHOH))、ビス(2−アミノエチル)アミン(HN−(CHCHNH))、およびトリス(2−アミノエチル)アミン(N−(CHCHNH)))もまた、複数の求核性基で官能基化されたポリマーとして使用され得る。
【0083】
(複数の求電子性基で官能基化されたポリマー)
複数の求電子性基で官能基化されたポリマーはまた、本明細書中で、「多求電子性ポリマー」と称される。本発明において使用するために、多官能性に活性化されるポリマーは、複数の求核性基で官能基化された包接複合体と三次元架橋網目構造を形成する目的で、少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つの、求電子性基を含み得る。
【0084】
ある実施形態において、本発明の組成物において使用するための多求電子性ポリマーは、包接複合体の求核性基と共有結合を形成し得る2つ以上のスクシンイミジル基を含むポリマーである。スクシンイミジル基は、第一級アミノ(−NH)基を含む材料(例えば、多アミノPEG、ポリ(リジン)、アルブミンまたはコラーゲン)との反応性が高い。スクシンイミジル基は、チオール(−SH)基を含む材料(例えば、多チオールPEGまたは複数のシステイン残基を含む合成ポリペプチド)との反応性がわずかに低い。
【0085】
本明細書中で使用される場合、用語「2つ以上のスクシンイミジル基を含む」とは、2つ以上のスクシンイミジル基を含む市販のポリマー、および2つ以上のスクシンイミジル基を含むように化学的に誘導体化され得るポリマーを包含することが意図される。本明細書中で使用される場合、用語「スクシンイミジル基」とは、スルホスクシンイミジル基、ヒドロキシスクシンイミジル基、および「一般的な」スクシンイミジル基の他のこのようなバリエーションを包含することを意図される。スルホスクシンイミジル基での亜硫酸ナトリウムの存在は、ポリマーの溶解度を増加させるように働く。
【0086】
(架橋組成物の調製)
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される架橋ポリマー組成物は、複数の求核性基で官能基化された包接複合体を、複数の求電子性基で官能基化されたポリマーと混合することによって調製される。三次元架橋網目構造の形成は、この包接複合体の求核性基と、このポリマーの求電子性基との間の反応の結果として生じる。
【0087】
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される架橋ポリマー組成物は、複数の求電子性基で官能基化された包接複合体を、複数の求核性基で官能基化されたポリマーと混合することによって調製される。三次元架橋網目構造の形成は、この包接化合物の求電子性基と、このポリマーの求核性基との間の反応の結果として起こる。
【0088】
本発明の組成物を調製するために使用される、官能基化された包接複合体および官能基化されたポリマーの濃度は、多数の要因(使用される特定の分子の種類および分子量、ならびに所望の最終用途が挙げられる)に依存して変動する。
【0089】
架橋ポリマー組成物はまた、投与後の組成物の、X線または19F−MRIによる可視化を補助する目的で、種々の画像化剤(例えば、ヨウ素もしくは硫酸バリウム)、またはフッ素を含むように調製され得る。
【0090】
(架橋合成ポリマー組成物の投与)
本発明の組成物は、官能基化された包接複合体と官能基化されたポリマーとの架橋前、架橋中または架橋後に投与され得る。特定の用途(以下でより詳細に議論される)(例えば、組織の強化)は、これらの組成物が投与前に架橋していることを必要とし得、一方で、他の用途(例えば、組織接着)は、この組成物が、架橋が「平衡」に達する前に投与されることを必要とし得る。架橋が平衡に達する時点は、本明細書中で、その組成物が、触っても粘性にも粘着性にも感じられなくなる時点として定義される。
【0091】
組成物を架橋前に投与する目的で、官能基化された包接複合体および官能基架されたポリマーは、二重区画注射器の別々のバレル内に収容され得る。この場合、これらの2つの成分は、これらの成分がこの注射器の針の先端から患者の組織へと押し出される時点まで、実際に混合されない。このことは、架橋反応の大部分がインサイチュで起こることを可能にし、針が詰まる問題(これは、2つの成分が容易に混合されて、これらの2つの成分間の架橋が注射器の針からの送達前にすでにかなり進行する場合に通常起こる)を回避する。二重区画注射器の使用は、上記のように、より小さい直径の針の使用を可能にし、このことは、繊細な顔面組織(例えば、眼の周囲の組織)において軟部組織の強化を実施する場合に、有利である。
【0092】
あるいは、官能基化された包接複合体および官能基化されたポリマーは、上に記載された方法に従って、組織部位への送達前に混合され得、次いで、混合の直後に所望の組織部位に注射され得る。
【0093】
別の実施形態において、官能基化された包接複合体および官能基化されたポリマーは、混合され、次いで押し出され、そしてシートまたは他の固体形態に架橋される。次いで、この架橋した固体は、脱水されて、実質的に全ての未結合水を除去し得る。得られた乾燥固体は、粒子にすりつぶされるかまたは粉砕され得、次いで非水性流体キャリア(ヒアルロン酸、硫酸デキストラン、デキストラン、スクシニル化未架橋コラーゲン、メチル化未架橋コラーゲン、グリコーゲン、グリセロール、ブドウ糖、マルトース、脂肪酸のトリグリセリド(例えば、トウモロコシ油、ダイズ油、およびゴマ油)、ならびに卵黄リン脂質が挙げられるが、これらに限定されない)中に懸濁され得る。この粒子の懸濁物は、小さいゲージの針を通して組織部位に注射され得る。一旦、組織に入ると、架橋ポリマー粒子が再度水和し、そして少なくとも5倍のサイズに膨潤する。
【0094】
(荷電化合物を送達するための架橋ポリマーの使用)
官能基化された包接複合体と官能基化されたポリマーとの相対的なモル量を変化させることによって、荷電化合物(例えば、タンパク質または薬物)の送達のためのマトリックスを調製する目的で、得られる架橋ポリマー組成物の正味の電荷を変化させることが可能である。従って、荷電タンパク質または薬物(これは通常、中性キャリアマトリックスから迅速に拡散する)の送達が制御され得る。
【0095】
例えば、複数の求核性基で官能基化された、モル過剰の包接複合体が使用される場合、得られるマトリックスは、正味で正の電荷を有し、そして負に荷電した化合物にイオン結合して送達するために使用され得る。これらのマトリックスから送達され得る負に荷電した化合物の例としては、種々の薬物、細胞、タンパク質、および多糖類が挙げられる。負に荷電したコラーゲン(例えば、スクシニル化コラーゲン)およびグリコサミノグリカン誘導体(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、ケラタン硫酸、ケラトスルフェート、コンドロイチン硫酸Aナトリウム、デルマタン硫酸Bナトリウム、コンドロイチン硫酸Cナトリウム、ヘパリン、エステル化コンドロイチン硫酸C、およびエステル化ヘパリン)は、上記のような架橋ポリマーマトリックスに効果的に組み込まれ得る。
【0096】
複数の求電子性基で官能基化されたモル過剰のポリマーが使用される場合、得られるマトリックスは、正味で負の電荷を有し、そして正に荷電した化合物にイオン結合して送達するために使用され得る。これらのマトリックスから送達され得る正に荷電した化合物の例としては、種々の薬物、細胞、タンパク質、および多糖類が挙げられる。正に荷電したコラーゲン(例えば、メチル化コラーゲン)、およびグリコサミノグリカン誘導体(例えば、エステル化脱アセチルヒアルロン酸、エステル化脱アセチル脱硫酸コンドロイチン硫酸A、エステル化脱アセチル脱硫酸コンドロイチン硫酸C、脱アセチル脱硫酸ケラタン硫酸、脱アセチル脱硫酸ケラトスルフェート、エステル化脱硫酸ヘパリン、およびキトサン)は、上記のような架橋ポリマーマトリックスに効果的に組み込まれ得る。
【0097】
(生物学的に活性な薬剤を送達するための架橋ポリマーの使用)
本発明の架橋ポリマー組成物はまた、種々の薬物および他の生物学的に活性な薬物の局所送達のために使用され得る。生物学的に活性な薬剤(例えば、成長因子または増殖因子)は、組織の治癒および再生を容易にする目的で、この組成物から局所組織部位へと送達され得る。
【0098】
用語「生物学的に活性な薬剤」または「活性剤」とは、本明細書中で使用される場合、インビボで生物学的効果を働かせる有機分子をいう。活性剤の例としては、酵素、レセプターアンタゴニストまたはレセプターアゴニスト、ホルモン、成長因子、増殖因子、自原性骨髄、抗生物質、抗菌剤および抗体が挙げられるが、これらに限定されない。用語「活性剤」はまた、本発明の組成物に組み込まれ得る種々の細胞型および遺伝子を包含することを意図される。用語「活性剤」はまた、上で定義されたような2種以上の活性剤の組み合わせまたは混合物を包含することを意図される。
【0099】
本発明の組成物において使用するために適切な活性剤としては、成長因子および増殖因子(例えば、トランスホーミング増殖因子(TGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、結合組織活性化ペプチド(CTAP)、骨原性因子)、ならびにこのような増殖因子の生物学的に活性なアナログ、フラグメント、および誘導体が挙げられる。トランスホーミング増殖因子(TGF)類似遺伝子群(多官能性調節タンパク質)のメンバーが特に好ましい。TGF類似遺伝子群のメンバーとしては、βトランスホーミング増殖因子(例えば、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3);骨形態発生タンパク質(例えば、BMP−1、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、BMP−8、BMP−9);ヘパリン結合増殖因子(例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF));インヒビン(例えば、インヒビンA、インヒビンB);増殖分化因子(例えば、GDF−1);およびアクチビン(例えば、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB)が挙げられる。
【0100】
増殖因子および成長因子は、自然または天然の供給源(例えば、哺乳動物細胞)から単離され得るか、あるいは合成により(例えば、組換えDNA技術または種々の化学プロセスにより)調製され得る。さらに、これらの因子のアナログ、フラグメント、または誘導体が、これらが自然な分子の生物学的活性のうちの少なくともいくらかを示すことを条件として、使用され得る。例えば、アナログは、部位特異的変異または他の遺伝子工学技術によって変化させられた遺伝子の発現によって、調製され得る。
【0101】
生物学的に活性な薬剤は、混合によって、架橋ポリマー組成物に組み込まれ得る。あるいは、これらの薬剤は、上記のような架橋ポリマーマトリックスに、これらの薬剤を包接複合体またはポリマーの官能基と結合させることによって、組み込まれ得る。このような組成物は、好ましくは、例えば酵素消化の結果として容易に生分解し、標的組織への活性薬剤の放出を生じ得る連結を含む。この標的組織で、この活性薬剤は、所望の治療効果を働かせる。
【0102】
求核性基を含む生物学的に活性な薬剤を架橋ポリマー組成物に組み込むための簡単な方法は、官能基化されたポリマーを添加する前に、活性薬剤をこの官能基化された包接複合体と混合する工程を包含する。この手順は、架橋したポリマー組成物への活性薬剤の共有結合を生じ、非常に効果的な徐放組成物を生成する。
【0103】
使用される活性薬剤の種類および量は、他の要因のうちでもとりわけ、処置されるべき特定の部位および状態、ならびに選択される活性薬剤の生物学的活性および薬物動態学に依存する。
【0104】
(細胞または遺伝子を送達するための架橋ポリマーの使用)
本発明の架橋ポリマー組成物はまた、新たな組織を形成する目的で、種々の種類の生存細胞または遺伝子を、所望の投与部位に送達するために使用され得る。用語「遺伝子」とは、本明細書中で使用される場合、天然供給源由来の遺伝物質、合成核酸、DNA、アンチセンス−DNAおよびRNAを包含することを意図される。
【0105】
細胞を送達するために使用される場合、例えば、間葉幹細胞が、これらの細胞が送達される組織と同じ型の細胞を産生するために、送達され得る。間葉幹細胞は、分化しておらず、従って、局所組織環境の活性剤の存在または効果(化学的、物理的など)に起因して分化して、種々の型の新たな細胞を形成し得る。間葉幹細胞の例としては、骨芽細胞、軟骨細胞、および線維芽細胞が挙げられる。骨芽細胞は、骨欠損の部位に送達されて、新たな骨を産生し得る。軟骨細胞は、軟骨欠損の部位に送達されて、新たな軟骨を産生し得る。線維芽細胞は、新たな結合組織が必要とされる箇所のどこででも、コラーゲンを産生するために送達され得る。神経外胚葉細胞は、新たな神経組織を形成するために送達され得る。上皮細胞は、新たな上皮組織(例えば、肝臓、膵臓など)を形成するために送達され得る。
【0106】
細胞または遺伝子は、器官において同種異系または異種のいずれかであり得る。例えば、組成物は、遺伝的に修飾された他の種からの細胞または遺伝子を送達するために使用され得る。本発明の組成物は、インビボで容易には分解されないので、この架橋ポリマー組成物にトラップされた細胞および遺伝子は、患者自身の細胞から隔離され、従って、患者において免疫応答を引き起こさない。細胞または遺伝子を架橋ポリマーマトリックスにトラップする目的で、官能基化された包接複合体と細胞または遺伝子が予め混合され得、次いで、官能基化されたポリマーが、この官能基化された包接複合体/細胞または遺伝子の混合物に混合されて、架橋マトリックスを形成し、これによって、細胞または遺伝子をこのマトリックス中にトラップする。あるいは、官能基化されたポリマーおよび細胞または遺伝子が予め混合され得、次いで、官能基化された包接複合体が、この官能基化されたポリマー/細胞または遺伝子の混合物に混合されて、架橋マトリックスを形成し、これによって、細胞または遺伝子をこのマトリックス中にトラップする。
【0107】
生物学的に活性な薬剤に関して上で議論されたように、細胞または遺伝子を送達するために使用される場合、これらのポリマーはまた、生分解性の基を含んで、これらの細胞または遺伝子の、意図された送達部位での制御された放出を補助し得る。
【0108】
(生体接着剤としての架橋ポリマーの使用)
ある実施形態において、本開示の組成物は、通常、高い粘着性を有し得、これらの組成物を、例えば、外科手術において使用するための生体接着剤として使用するために特に適切にする。本明細書中で使用される場合、用語「生体接着剤」、「生物学的接着剤」および「外科手術用接着剤」は、交換可能に使用されて、2つの自然な組織の間、または自然な組織表面と自然でない組織表面もしくは合成移植物の表面との間の、一時的な付着または永続的な付着を起こし得る、生体適合性組成物をいう。
【0109】
第一の表面を第二の表面に付着させるための一般的な方法において、官能基化された包接複合体および官能基化されたポリマーは、第一の表面に塗布され、次いで、この第一の表面がこの第二の表面と接触させられて、この第一の表面とこの第二の表面との間の接着を引き起こす。好ましくは、官能基化された包接複合体および官能基化されたポリマーは、最初に混合されて架橋を開始され、次いで、官能基化された包接複合体の求核性基と官能基化されたポリマーの求電子性基との間で実質的な架橋が起こる前に、第一の表面に送達される。次いで、この第一の表面は、好ましくは即座に、第二の表面と接触させられて、これらの2つの表面の間の接着を行う。第一の表面と第二の表面とのうちの少なくとも一方は、好ましくは、自然な組織表面である。
【0110】
例えば、官能基化された包接複合体および官能基化されたポリマーは、一般に、別々の注射器内に提供され、次いで、これらの内容物が、第一の表面への送達の直前に、注射器から注射器への混合技術を使用して、一緒に混合される。これらの2つの成分の対応する反応性基の間の架橋は、一般に、混合プロセス中に開始するので、この反応混合物を、混合後可能な限りすぐに、第一の表面に送達することが重要である。
【0111】
この反応混合物は、注射器の開口部または他の適切な押し出しデバイスから、第一の表面上に押し出され得る。塗布後、押し出された反応混合物は、必要であれば、スパチュラを使用して第一の表面に広げられ得る。あるいは、官能基化された包接複合体および官能基化されたポリマーは、適切な混合皿又は混合容器内で一緒に混合され得、次いで、スパチュラを使用して、第一の表面に塗布され得る。
【0112】
反応混合物を調製するための別の方法において、官能基化された包接複合体および官能基化されたポリマーは、ノズル付きのスプレー缶またはスプレー瓶、あるいは他の適切なスプレーデバイスの、別々のチャンバ内に収容される。この概要において、これらの2つの成分は、このスプレーデバイスのノズルから一緒に押し出されるまで、実際に混合しない。この反応混合物をコラーゲンを含む表面に塗布した後に、この第一の表面が、第二の表面と接触させられる。これらの2つの成分間で実質的な架橋が起こる前にこれらの表面が接触させられる場合、これらの2つの成分の反応性基はまた、いずれかまたは両方の表面に存在するコラーゲン分子のリジン残基の第一級アミノ基と共有結合して、改善された接着を提供する。
【0113】
これらの表面は、架橋反応が完了するまで進行する間、手でかまたは他の適切な手段を使用して、一緒に保持され得る。架橋は、代表的に、第一の合成ポリマーと第二の合成ポリマーの混合後に約1分〜約120分以内で完了する。しかし、完全な架橋が起こるために必要とされる時間は、多数の要因(2つの成分の種類および分子量、ならびに特に、2つの成分の濃度(すなわち、濃度がより高いと、架橋時間がより速くなる)が挙げられる)に依存する。
【0114】
第一の表面および第二の表面のうちの少なくとも一方は、好ましくは、自然な組織表面である。本明細書中で使用される場合、用語「自然な組織」とは、処置される特定の患者の身体に対して自然である生物学的組織をいい、そして同じ患者の身体の別の部分への移植のために、患者の身体の一部から取り出されたかまたは持ち上げられた、生物学的組織を包含することを意図される(例えば、骨自家移植片、皮膚フラップ自家移植片など)。例えば、本発明の組成物は、例えば、火傷の被害者の場合においてのように、患者の身体の1つの部分からこの身体の別の部分へと、皮膚片を接着させるために使用され得る。
【0115】
他方の表面は、自然な組織表面であっても、自然でない組織表面であっても、合成移植物の表面であってもよい。本明細書中で使用される場合、用語「自然でない組織」とは、レシピエント患者の身体への移植(例えば、組織移植および器官移植)のために、ドナー患者(レシピエント患者と同じ種であっても異なる種であってもよい)の身体から取り出された生物学的組織をいう。例えば、本発明の架橋ポリマー組成物は、ドナーの角膜をレシピエント患者の眼に接着させるために使用され得る。
【0116】
本明細書中で使用される場合、用語「合成移植物」とは、自然な組織および自然でない組織についての上記定義によって包含されない、患者の身体への移植を意図された任意の生体適合性材料をいう。合成移植物としては、例えば、人工血管、心臓弁、人工器官、骨プロテーゼ、移植可能レンズ、脈管移植片、ステント、縫合糸、ステープル、クリップ、メッシュ、スリング、ねじ、ピン、ケーブル、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0117】
(組織の強化における架橋ポリマー組成物の使用)
本発明の架橋ポリマー組成物はまた、哺乳動物被験体の身体内の、軟部組織または硬部組織の強化のために使用され得る。軟部組織の強化の用途の例としては、括約筋(例えば、膀胱、肛門、食道)の強化、ならびにしわおよび瘢痕の処置が挙げられる。硬部組織の強化の用途の例としては、骨および/または軟骨組織の修復および/または交換が挙げられる。
【0118】
本発明の組成物は、変形性関節症の関節における滑液の代用物質として使用するために特に適切であり、この場合、この架橋ポリマー組成物は、関節における軟らかいヒドロゲル網目構造を回復させることによって、関節の疼痛を減少させ、そして関節の機能を改善するように働く。架橋ポリマー組成物はまた、損傷した椎間板の髄核の代用物質として使用され得る。従って、損傷した椎間板の髄核がまず除去され、次いで、架橋ポリマー組成物がこの椎間板の中心に注射または他の様式で導入される。この組成物は、椎間板への導入前に架橋しても、インサイチュで架橋されても、いずれでもよい。
【0119】
哺乳動物被験体の身体内の組織の強化を行うための一般的な方法において、官能基化された包接複合体および官能基化されたポリマーは、小さいゲージ(例えば、25〜32ゲージ)の針を通して、強化を必要とする組織部位に同時に注射される。一旦、患者の身体に入ると、官能基化された包接複合体の求核性基および官能基化されたポリマーの求電子性基は、互いに反応して、架橋ポリマー網目構造をインサイチュで形成する。官能基化されたポリマーの求電子性基はまた、患者自身の組織内のコラーゲン分子のリジン残基の第一級アミノ基と反応し得、この組成物と宿主組織との「生物学的繋留」を提供する。
【0120】
(接着を防止するための架橋ポリマー組成物の使用)
本発明の架橋ポリマー組成物の別の用途は、外科手術または損傷後の、内部の組織または器官への接着の形成を予防する目的で、組織をコーティングすることである。外科手術後の接着の形成を防止するために組織をコーティングするための一般的な方法において、官能基化された包接複合体および官能基化されたポリマーが混合され、次いで、この反応混合物の薄層が、この外科手術部位を構成し、囲み、そして/または隣接する組織に塗布され、その後、実質的な架橋が、官能基化された包接複合体の求核性基と官能基化されたポリマーの求電子性基との間で起こる。この組織部位への反応混合物の塗布は、押し出し、ブラッシング、スプレー(上記のような)、または他の任意の従来の手段により得る。
【0121】
反応混合物を外科手術部位に塗布した後、外科手術切開部の閉鎖の前に、架橋がインサイチュで続けられる。一旦、架橋が平衡に達すると、コーティングされた組織と接触させられた組織は、このコーティングされた組織に粘着しない。この時点で、外科手術部位は、従来の手段(縫合糸など)を使用して閉鎖され得る。
【0122】
一般に、比較的短時間(すなわち、第一の合成ポリマーと第二の合成ポリマーとの混合の5分〜15分後)に架橋の完了を達成する組成物が、外科手術における接着の防止において特に有用であり、この外科手術部位は、外科手術手順の完了の比較的すぐ後に閉鎖され得る。
【0123】
(移植物をコーティングするための架橋ポリマーの使用)
本発明の架橋ポリマー組成物の別の用途は、合成移植物のためのコーティング材料としての用途である。合成移植物の表面をコーティングするための一般的な方法において、2つの成分が混合され、次いで、この反応混合物の薄層が、この移植物の表面に塗布され、その後、実質的な架橋が、官能基化されたポリマーの求核性基と官能基化された包接複合体の求電子性基との間で起こる。コーティングされた移植物に対する細胞および線維の反応を最小にする目的で、この反応混合物は、好ましくは、正味で中性の電荷を有するように調製される。この反応混合物の移植物表面への塗布は、押し出し、ブラッシング、スプレー(上記のような)、または他の任意の従来の手段により得る。反応混合物を移植物表面に塗布した後に、架橋の完了が達成されるまで、架橋が続けられる。
【0124】
この方法は、任意の種類の合成移植物の表面をコーティングするために使用され得るが、減少したトロンボゲン形成性が重要な問題である移植物(例えば、人工血管および心臓弁、脈管移植片、脈管ステント、ならびにステント/移植片組み合わせ)について、特に有用である。この方法はまた、移植可能な外科手術用膜(例えば、モノフィラメントポリプロピレン)またはメッシュ(例えば、ヘルニア修復において使用するためのもの)をコーティングするために使用され得る。乳房移植物もまた、包皮の拘縮を最小にする目的で、上記方法を使用してコーティングされ得る。
【0125】
本発明の組成物はまた、レンズをコーティングするために使用され得る。これらのレンズは、天然に存在するポリマーまたは合成ポリマーのいずれかから作製される。
【0126】
(動脈瘤を処置するための架橋ポリマーの使用)
本発明の架橋ポリマー組成物は、ひもまたはコイルの形状に押し出しまたは成型され得、次いで脱水され得る。得られる脱水されたひもまたはコイルは、カテーテルを介して、脈管閉塞の目的で脈管の奇形部位(例えば、動脈瘤)に送達され得、そして最終的に、この奇形を修復し得る。脱水されたひもまたはコイルは、小さいサイズで送達され得、そして血管内で再度水和して、その元の形状を維持しながら、その脱水状態と比較して数倍のサイズに膨潤する。
【0127】
(架橋ポリマーの別の用途)
本発明の架橋ポリマー組成物は、哺乳動物被験体の身体の種々の管腔および空隙を遮断または充填するために使用され得る。これらの組成物は、組織または構造(例えば、脈管)内の裂溝または間隙を封止するため、あるいは隣接する組織または構造を接合して、血液または他の生物学的流体の漏出を防止するための、生体封止剤として使用され得る。
【0128】
架橋ポリマー組成物はまた、外科手術手順または放射線手順中に、体腔内での器官の移動のための大きい空間を充填し、例えば、骨盤への計画された放射線手順中に腸を保護するためのデバイスとして使用され得る。
【0129】
本発明の架橋ポリマー組成物はまた、生理学的管腔(例えば、血管またはファローピウス管)の内部表面にコーティングされ得、これによって、医療処置(例えば、動脈斑沈着物を血管の内部表面から除去するため、または瘢痕組織もしくは内皮組織をファローピウス管の内側から除去するための、バルーンカテーテル配置)後の管腔の再狭窄を予防するための封止剤として働く。反応混合物の薄層は、好ましくは、2つの成分の混合の直後に、脈管の内側表面に(例えば、カテーテルによって)塗布される。本発明の組成物は、インビボで容易には分解しないので、このコーティングの分解に起因する再狭窄の可能性が最小になる。正味で中性の電荷を有する架橋ポリマー組成物の使用は、再狭窄の可能性をさらに最小にする。
【符号の説明】
【0130】
10、210a〜210c、310a〜310d、510a〜510c シクロデキストリン
20、520a〜520e 第一級ヒドロキシル基
30、530a〜530e 第二級ヒドロキシル基
110 ホスト化合物
140 ゲスト化合物
150 包接複合体
240、340 ポリマー鎖
260、360 超分子化合物
B 生分解性基
L 連結基
X 求核性基
Y 求電子性基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
1つ以上の反応性基で官能基化された包接複合体、および
該包接複合体に存在する該反応性基と共有結合し得る1つ以上の補完的反応性基で官能基化されたポリマー、
を含有する、組成物。
【請求項2】
前記官能基化された包接複合体が、1つ以上の環状オリゴ糖および線状ポリマー鎖を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記1つ以上の環状オリゴ糖がシクロデキストリンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記1つ以上の線状ポリマー鎖がポリエチレングリコールである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記官能基化された包接複合体が、1つ以上の環状オリゴ糖およびマルチアームポリマー鎖を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記官能基化された包接複合体が、求電子性基、求核性基、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1つ以上の反応性基を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記官能基化されたポリマーが、求電子性基、求核性基、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1つ以上の補完的反応性基を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記官能基化された包接複合体が、連結基、生分解性基、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される鎖長延長剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記官能基化されたポリマーが、連結基、生分解性基、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される鎖長延長剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
組成物であって、
1つ以上の求電子性基で官能基化された包接複合体、および
1つ以上の求核性基で官能基化されたポリマー、
を含有する、組成物。
【請求項11】
前記官能基化された包接複合体が、1つ以上の環状オリゴ糖および線状ポリマー鎖を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記1つ以上の環状オリゴ糖がシクロデキストリンである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記1つ以上の線状ポリマー鎖がポリエチレングリコールである、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記官能基化された包接複合体が、1つ以上の環状オリゴ糖およびマルチアームポリマー鎖を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項15】
前記官能基化された包接複合体が、−CON(COCH、−COH、−CHO、−CHOCH、−N=C=O、−SOCH=CH、−N(COCH)、−S−S−(CN)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される求電子性基を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項16】
前記官能基化されたポリマーが、−NH、−SH、−OH、−PH、−CO−NH−NH、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1つ以上の求核性基を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項17】
前記官能基化された包接複合体が、連結基、生分解性基、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される鎖長延長剤をさらに含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項18】
前記官能基化されたポリマーが、連結基、生分解性基、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される鎖長延長剤をさらに含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項19】
組成物であって、
1つ以上の求核性基で官能基化された包接複合体、および
1つ以上の求電子性基で官能基化されたポリマー、
を含有する、組成物。
【請求項20】
前記官能基化された包接複合体が、1つ以上の環状オリゴ糖および線状ポリマー鎖を含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記1つ以上の環状オリゴ糖がシクロデキストリンである、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記1つ以上の線状ポリマー鎖がポリエチレングリコールである、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
前記官能基化された包接複合体が、1つ以上の環状オリゴ糖およびマルチアームポリマー鎖を含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項24】
前記官能基化されたポリマーが、−CON(COCH、−COH、−CHO、−CHOCH、−N=C=O、−SOCH=CH、−N(COCH)、−S−S−(CN)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される求電子性基を含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項25】
前記官能基化された包接複合体が、−NH、−SH、−OH、−PH、−CO−NH−NH、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1つ以上の求核性基を含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項26】
組成物であって、
1つ以上の求核性基で官能基化された第一の包接複合体、および
1つ以上の求電子性基で官能基化された第二の包接複合体、
を含有する、組成物。
【請求項27】
組成物を調製する方法であって、
1つ以上の求電子性基で官能基化された包接複合体、および1つ以上の求核性基で官能基化されたポリマーを提供する工程;
該官能基化された包接複合体を該官能基化されたポリマーと混合することによって混合物を形成し、架橋を開始させる工程;ならびに
該官能基化された包接複合体および該官能基化されたポリマーを、架橋を続けさせて、架橋ポリマー組成物を形成する工程、
を包含する、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate


【公開番号】特開2010−18803(P2010−18803A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163689(P2009−163689)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(507362281)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (666)
【Fターム(参考)】