説明

架橋可能な含フッ素弾性共重合体組成物および架橋ゴム

【課題】架橋反応性に優れる含フッ素弾性共重合体およびその架橋ゴムを提供する。
【解決手段】(A)テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、又はCF=CF−O−R(Rは炭素原子数1〜8の飽和パーフルオロアルキル基又はパーフルオロ(アルコキシアルキル)基である。)の含フッ素モノマーに基づく繰り返し単位(l)、一般式CR=CRCOOCH=CH(R及びRは、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基又はエーテル性酸素原子を含む炭素原子数1〜10のアルコキシアルキル基、Rは水素原子、フッ素原子又はメチル基である。)に基づく繰り返し単位(m)を含有し、(m)/(l)=0.0001〜0.1(モル比)である含フッ素弾性共重合体、(B)不飽和多官能性化合物、(C)2価金属の酸化物または水酸化物を含有する含フッ素弾性共重合体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた架橋反応性、速い架橋速度を発揮できる含フッ素弾性共重合体組成物および架橋物性に優れた架橋ゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素弾性共重合体として、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体等が知られている。
これらの含フッ素弾性共重合体は、耐熱性や耐薬品性に優れることから、通常の材料が耐えられないような過酷な環境に適用されている。しかし、含フッ素弾性共重合体は、反応性に乏しいため架橋反応性や他材料との接着性が充分でなく、従来より反応性官能基を導入し、反応性を向上する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一般に、ゴム材料は、一部の熱可塑性エラストマーを除いて、架橋反応により適切な物理特性を発現する必要がある。そのため、フッ素ゴムにおいても分子の中に架橋反応性の官能基が導入されている。フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体については、反応性官能基としては、ヨウ素原子(例えば、非特許文献1参照。)や不飽和結合(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
【0004】
フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体よりも耐薬品性、特に耐アミン性や耐高温蒸気性に優れるテトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体(例えば、特許文献3参照。)については、CF=CFOCF=CFCF、CF=CFOCFCF(CF)OCF=CFCF、CF=CFCFCF=CFCFなどの架橋反応性の官能基を含有するモノマーを共重合する方法が提案されたが、その効果は充分ではなかった(例えば、特許文献4参照。)。
【0005】
また、テトラフルオロエチレン/プロピレン/フッ化ビニリデン系共重合体は、ポリオール架橋剤を用いると、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体を混入したり、シリカなどの酸性フィラーを併用すると、架橋阻害を起こしやすいという問題点があった。
そこで、煩雑な工程を経ないで、フッ素ゴム分子中に架橋反応性の官能基を導入した架橋可能な含フッ素弾性共重合体を含有する組成物であって、架橋反応性の優れた組成物の開発が要請されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−116634号公報
【特許文献2】特開昭62−56887号公報
【特許文献3】特開平6−306242号公報
【特許文献4】特公昭62−56887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、架橋反応性に優れる含フッ素弾性共重合体組成物およびそれを架橋して得られる架橋ゴム物性に優れる架橋ゴムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定のビニルエステルモノマーに基づく繰り返し単位を有する含フッ素弾性共重合体に、さらに不飽和多官能性化合物、および2価金属の酸化物または水酸化物を配合した組成物により、架橋反応性が一層優れたものになり、架橋して得られる架橋ゴムが架橋ゴム物性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(A)テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、一般式CF=CF−O−R(式中、Rは炭素原子数1〜8の飽和パーフルオロアルキル基またはパーフルオロ(アルコキシアルキル)基である。)で表されるパーフルオロビニルエーテルからなる群より選ばれる1種以上の含フッ素モノマーに基づく繰り返し単位(l)、一般式CR=CRCOOCH=CH(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基またはエーテル性酸素原子を含む炭素原子数1〜10のアルコキシアルキル基であり、Rは水素原子、フッ素原子またはメチル基である。)で表されるビニルエステルモノマーに基づく繰り返し単位(m)、および必要に応じて、エチレン、プロピレン、一般式CH=CH−O−R(式中、Rは炭素数1〜8の飽和アルキル基またはアルコキシアルキル基である。)で表されるビニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上の炭化水素モノマーに基づく繰り返し単位(n)を含有し、(m)/((l)+(n))=0.0001〜0.1(モル比)であることを特徴とする含フッ素弾性共重合体、(B)不飽和多官能性化合物、および(C)2価金属の酸化物および水酸化物から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする含フッ素弾性共重合体組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記含フッ素弾性共重合体組成物において、さらに、(D)有機過酸化物を含有している含フッ素弾性共重合体組成物を提供する。
また、本発明は、上記含フッ素弾性共重合体組成物において、前記繰り返し単位(n)を含有し、(n)/(l)=1/99〜70/30(モル比)である含フッ素弾性共重合体組成物を提供する。
また、本発明は、上記含フッ素弾性共重合体組成物において、前記ビニルエステルモノマーにおけるRおよびRが水素原子である含フッ素弾性共重合体組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記含フッ素弾性共重合体組成物において、前記ビニルエステルモノマーがクロトン酸ビニルである含フッ素弾性共重合体組成物を提供する。
また、本発明は、上記含フッ素弾性共重合体組成物において、前記含フッ素モノマーがテトラフルオロエチレンであり、前記炭化水素モノマーがプロピレンであり、(n)/(l)=40/60〜60/40(モル比)であり、(m)/((l)+(n))=0.0001〜0.05(モル比)である含フッ素弾性共重合体組成物を提供する。
さらに、本発明は、上記含フッ素弾性共重合体組成物を架橋させてなる架橋ゴムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物は、ゴム弾性を有し、優れた架橋反応性、速い架橋速度を発揮できる。また、種々の配合物を配合しても、架橋阻害を生起しない。また、本発明の含フッ素弾性共重合体組成物を架橋して得られる架橋ゴムは、架橋ゴム物性に優れ、特に耐薬品性、耐熱性、耐候性等に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に使用される(A)成分の含フッ素弾性共重合体は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、一般式CF=CF−O−R(式中、Rは炭素原子数1〜8の飽和パーフルオロアルキル基またはパーフルオロ(アルコキシアルキル)基である。)で表されるパーフルオロビニルエーテルからなる群より選ばれる1種以上の含フッ素モノマーに基づく繰り返し単位(l)を含有する。
【0014】
以下、テトラフルオロエチレンをTFE、ヘキサフルオロプロピレンをHFP、フッ化ビニリデンをVdF、一般式CF=CF−O−Rで表されるパーフルオロビニルエーテルをPAVE、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)をPMVE、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)をPPVEという。また、エチレンをE、プロピレンをPという。
【0015】
前記含フッ素弾性共重合体は、含フッ素モノマーを1種のみ用いた共重合体であってもよいし、含フッ素モノマーを2種以上組み合わせて用いた共重合体であってもよいが、含フッ素モノマーを1種のみ用いた含フッ素弾性共重合体が好ましい。含フッ素モノマーを1種のみ用いた含フッ素弾性共重合体としては、TFE系共重合体が好ましい。
含フッ素モノマーの1種を用いている含フッ素弾性共重合体としては、TFE/P系共重合体、E/PAVE系共重合体、E/HFP系共重合体等が挙げられる。TFE/P系共重合体が好ましい。
含フッ素モノマーの2種以上を用いている含フッ素弾性共重合体としては、VdF/HFP系共重合体、TFE/VdF/HFP系共重合体、TFE/PAVE系共重合体、TFE/PMVE系共重合体、TFE/PPVE系共重合体、TFE/P/VdF系共重合体、TFE/PMVE/PPVE系共重合体、VdF/PAVE系共重合体等が挙げられる。
含フッ素弾性共重合体としては、TFE/P系共重合体、TFE/P/VdF系共重合体、VdF/HFP系共重合体、TFE/VdF/HFP系共重合体、TFE/PPVE系共重合体、TFE/PMVE/PPVE系共重合体が好ましい。
【0016】
本発明の含フッ素弾性共重合体は、以下の共重合組成であることがより好ましい。共重合組成が以下の範囲であると、架橋ゴムは架橋ゴム物性に優れ、耐熱性および耐薬品性、低温特性が良好である。
TFE/P系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/Pに基づく繰り返し単位=40/60〜60/40(モル比)、
TFE/P/VdF系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/Pに基づく繰り返し単位/VdFに基づく繰り返し単位=40〜60/60〜40/1〜10(モル比)、
VdF/HFP系共重合体においてVdFに基づく繰り返し単位/HFPに基づく繰り返し単位=20/80〜95/5(モル比)、
【0017】
TFE/VdF/HFP系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/VdFに基づく繰り返し単位/HFPに基づく繰り返し単位=20〜40/20〜40/20〜40(モル比)、
TFE/PAVE系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/PAVEに基づく繰り返し単位=40/60〜70/30(モル比)、
TFE/PMVE系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/PMVEに基づく繰り返し単位=40/60〜70/30(モル比)、
【0018】
TFE/PPVE系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/PPVEに基づく繰り返し単位=40/60〜70/30(モル比)、
TFE/PMVE/PPVE系共重合体においてTFEに基づく繰り返し単位/PMVEに基づく繰り返し単位/PPVEに基づく繰り返し単位=40〜70/3〜57/3〜57(モル比)、
VdF/PAVE系共重合体においてVdFに基づく繰り返し単位/PAVEに基づく繰り返し単位=60/40〜95/5(モル比)、
E/PAVE系共重合体においてEに基づく繰り返し単位/PAVEに基づく繰り返し単位=40/60〜60/40(モル比)、
E/HFP系共重合体においてEに基づく繰り返し単位/HFPに基づく繰り返し単位=40/60〜60/40(モル比)。
【0019】
本発明に用いられる含フッ素弾性共重合体は、含フッ素モノマーに基づく繰り返し単位(l)と共に、一般式CR=CRCOOCH=CH(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基またはエーテル性酸素原子を含む炭素原子数1〜10のアルコキシアルキル基であり、Rは水素原子、フッ素原子またはメチル基である。)で表されるビニルエステルモノマーに基づく繰り返し単位(m)を含有する。
【0020】
前記ビニルエステルモノマーとしては、RおよびRが水素原子であることが好ましい。具体例としては、Rがメチル基でありRおよびRが水素原子であるクロトン酸ビニルおよびR、RおよびRが水素原子であるメタクリル酸ビニルが好ましく、クロトン酸ビニルがより好ましい。
前記ビニルエステルモノマーは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記ビニルエステルモノマーは、炭素−炭素不飽和二重結合を2つ持っているので、一方の炭素−炭素不飽和二重結合が含フッ素モノマーとの共重合に使用され、他の炭素−炭素不飽和二重結合は架橋反応に供するために、含フッ素弾性共重合体に残存している。
【0021】
また、本発明に用いられる含フッ素弾性共重合体は、繰り返し単位(l)および(m)に加え、E、P、一般式CH=CH−O−R(式中、Rは炭素原子数1〜8の飽和アルキル基またはアルコキシアルキル基である。)で表されるビニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上の炭化水素モノマーに基づく繰り返し単位(n)を含有することが好ましい。炭化水素モノマーとしては、EおよびPが好ましく、Pがより好ましい。炭化水素モノマーは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
含フッ素弾性共重合体においては、繰り返し単位比(n)/(l)は1/99〜70/30(モル比)であることが好ましく、20/80〜65/35(モル比)がより好ましく、60/40〜40/60(モル比)がさらに好ましい。この範囲にあると、含フッ素弾性共重合体は、架橋ゴム物性に優れ、耐熱性および耐薬品性、低温特性が良好である。
前記ビニルエステルモノマーに基づく繰り返し単位(m)の含有量は、(m)/((l)+(n))=0.0001〜0.1(モル比)の割合であり、(m)/((l)+(n))=0.0001〜0.05(モル比)の割合が好ましく、(m)/((l)+(n))=0.0005〜0.01(モル比)の割合がより好ましく、(m)/((l)+(n))=0.001〜0.008(モル比)の割合が特に好ましい。この範囲にあると、含フッ素弾性共重合体は架橋反応性に優れ、得られる架橋ゴムは、引張り強度、耐薬品性、耐熱性、圧縮永久歪み等の架橋ゴム物性に優れる。
【0023】
前記含フッ素弾性共重合体のムーニー粘度は、20〜150が好ましく、30〜150がより好ましい。ムーニー粘度は、分子量の目安であり、大きいと分子量が高く、小さいと分子量が低いことを示す。この範囲にあると含フッ素弾性共重合体の加工性と架橋ゴム物性が良好である。該ムーニー粘度は、JIS K6300に準じて、直径38.1mm、厚さ5.54mmの大ローターを用い、100℃で、予熱時間を1分、ローター回転時間を4分に設定して測定される値である。
【0024】
本発明に使用する含フッ素弾性共重合体の製造方法としては、乳化重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等が挙げられる。また、開始反応には、ラジカル重合開始剤、レドックス重合開始剤、熱、放射線等を用いることができる。分子量および共重合組成の調整、生産性に優れることから、乳化重合が好ましい。
上記含フッ素弾性共重合体の具体的な製造方法としては、前記含フッ素モノマー、前記ビニルエステルモノマーおよび必要に応じて前記炭化水素モノマーをラジカル重合開始剤の存在下にラジカル共重合を実施する方法が挙げられる。また、前記ラジカル共重合は、連鎖移動剤の存在下に実施することが好ましい。さらに、前記ラジカル重合は、水性媒体中で、乳化剤の存在下での乳化重合であることがより好ましい。
【0025】
水性媒体としては、水、または水溶性有機溶媒を含有する水が好ましい。水溶性有機溶媒としては、tert−ブタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコール等が挙げられる。tert−ブタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。水性媒体が水溶性有機溶媒を含有する場合には、水溶性有機溶媒の含有量は、水の100質量部に対して1〜50質量部が好ましく、3〜20質量部がより好ましい。
【0026】
乳化剤としては、ラテックスの機械的および化学的安定性に優れるイオン性乳化剤が好ましく、アニオン性乳化剤がより好ましい。アニオン性乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の炭化水素系乳化剤、パーフルオロオクタン酸アンモニウム、パーフルオロヘキサン酸アンモニウム等の含フッ素アルキルカルボン酸塩、一般式F(CFO(CF(X)CFO)CF(X)COOA(式中、Xはフッ素原子または炭素原子数1〜3のパーフルオロアルキル基、Aは水素原子、アルカリ金属、NH、nは2〜10の整数、mは0または1〜3の整数である。)で表される含フッ素乳化剤等が好ましい。
【0027】
F(CFO(CF(X)CFO)CF(X)COOAで表される含フッ素乳化剤としては、F(CFO(CF(CF)CFO)CF(CF)COONH、F(CFOCFCFOCFCOONH、F(CFO(CFCFO)CFCOONH、F(CFOCFCFOCFCOONH、F(CFO(CFCFO)CFCOONH、F(CFOCFCFOCFCOONH、F(CFO(CFCFO)CFCOONH、F(CFOCFCFOCFCOONa、F(CFO(CFCFO)CFCOONa、F(CFOCFCFOCFCOONa、F(CFO(CFCFO)CFCOONa、F(CFOCFCFOCFCOONa、F(CFO(CFCFO)CFCOONa等が挙げられる。
【0028】
乳化剤としては、パーフルオロオクタン酸アンモニウム、F(CFOCFCFOCFCOONH、F(CFOCFCFOCFCOONHおよびF(CFOCFCFOCFCOONHがより好ましい。
乳化剤の含有量は、水性媒体の100質量部に対して、0.01〜15質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましい。
【0029】
乳化重合で使用されるラジカル重合開始剤としては、水溶性開始剤が好ましく、その具体例としては、過硫酸アンモニウム塩などの過硫酸類、過酸化水素、ジコハク酸過酸化物、アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩などの有機系開始剤、過硫酸類または過酸化水素とヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤との組合せからなるレドックス系開始剤、さらにこれらに少量の鉄、第一鉄塩、硫酸銀などを共存させた系の無機系開始剤等が挙げられる。好ましくは、過硫酸アンモニウム/ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム/硫酸第一鉄系であり、この系にさらにキレート剤としてエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム塩を加えることがより好ましい。重合開始剤の含有量は、共重合に用いるモノマーに対して0.0001〜3質量%が好ましく、0.001〜1質量%がより好ましい。
【0030】
連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のクロロフルオロハイドロカーボン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等のハイドロカーボン、Rf2(式中、Rf2は炭素原子数1〜16の飽和ポリフルオロアルキレン基)、Rf3IBr(式中、Rf3は炭素原子数1〜16の飽和ポリフルオロアルキレン基)等が挙げられる。Rf2としては、1,4−ジヨードパーフルオロブタンが好ましい。また、Rf3IBrとしては、1−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブタンが好ましい。なお、水性媒体が水溶性有機溶媒を含む場合、水溶性有機溶媒は連鎖移動剤として機能させてもよい。
【0031】
重合圧力および温度等の重合条件は、モノマー組成、ラジカル重合開始剤の分解温度等により適宜選択される。通常、重合圧力は0.1〜20MPaGが好ましく、0.3〜10MPaGがより好ましく、0.3〜5MPaGが最も好ましい。重合温度は0〜100℃が好ましく、10〜90℃がより好ましく、20〜80℃が最も好ましい。
前記乳化重合で得られる含フッ素弾性共重合体のラテックスを公知の方法で凝集させて含フッ素弾性共重合体を単離する。凝集には、金属塩の添加、塩酸等の無機酸の添加、機械的剪断、凍結解凍等の方法が用いられる。
【0032】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物には、(B)不飽和多官能性化合物が含有されている。
(B)成分の不飽和多官能性化合物は、架橋効率を高くすることができる。(B)成分の不飽和多官能性化合物の具体例としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートオリゴマー、トリメタリルイソシアヌレート、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、トリアリルトリメリテート、m−フェニレンジアミンビスマレイミド、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、N,N′,N′′,N′′′−テトラアリルテレフタールアミド、ポリメチルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルビニルシロキサン等のビニル基含有シロキサンオリゴマー等が挙げられる。
これらのうち、特に、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレートが好ましく、トリアリルイソシアヌレートがより好ましい。
(B)成分の不飽和多官能性化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
(B)成分の不飽和多官能性化合物の含有量は、含フッ素弾性共重合体100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜7質量部がより好ましい。この範囲にあると強度と伸びのバランスのとれた架橋ゴム物性が得られる。
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物には、(C)成分として2価金属の酸化物および水酸化物から選ばれる少なくとも1種が含有されている。これにより、含フッ素弾性共重合体を架橋させる時に、架橋速度が著しく速くなり、優れた物性を示す架橋物を得ることができる。2価金属の酸化物の具体例としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化鉛等の2価金属の酸化物が好ましい。2価金属水酸化物の具体例としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。2価金属の酸化物および2価金属の水酸化物は、それぞれ単独で用いてもよいし、両者を併用してもよい。また、2価金属の酸化物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、2価金属の水酸化物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。(C)成分の含有量は、含フッ素弾性共重合体の100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。この範囲にあると強度と伸びのバランスに優れる架橋ゴム物性が得られる。
【0034】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物には、架橋剤を含有させてもよい。
架橋剤としては、有機過酸化物、ポリオール、アミン化合物等が使用され、特に、架橋ゴムの生産性、耐熱性、耐薬品性に優れる有機過酸化物が好ましい。
本発明において使用される(D)成分の有機過酸化物は、−O−O−結合を持つ有機過酸化物であり、具体例としては、ジtert−ブチルパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、α,α’−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3等のジアルキルパーオキシド類、1,1−ジ(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロキシパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、tert−ブチルパーオキシベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルパーオキシマレイン酸、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等が挙げられる。これらのうち、ジアルキルパーオキシド類が好ましい。
【0035】
有機過酸化物の含有量は、含フッ素弾性共重合体の100質量部に対して、0.3〜10質量部が好ましく、0.3〜5質量部がより好ましく、0.5〜3質量部が最も好ましい。この範囲にあると引張り強度と伸びのバランスに優れた架橋ゴムが得られる。
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物には、補強材、充填材、添加剤などを適宜含有させてもよい。補強材、充填材としては、従来架橋ゴムの製造に際して通常使用されるゴム補強材や、充填材などが挙げられ、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラツクやホワイトカーボン、炭酸マグネシウム、表面処理した炭酸カルシウムなどの無機補強材、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、珪藻土、アルミナ、硫酸バリウムなどの無機充填材や、その他の充填材が挙げられ、添加剤としては、顔料、酸化防止剤、安定剤、加工助剤、内部離型剤などの添加剤などが挙げられる。補強材、充填材、添加剤は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。補強材の配合量は、適宜選定すればよいが、含フッ素弾性共重合体100質量部に対して1〜100質量部が好ましい。充填材の配合量は、適宜選定すればよいが、含フッ素弾性共重合体100質量部に対して1〜100質量部が好ましい。
また、本発明の含フッ素弾性共重合体組成物には、他のフッ素ゴム、EPDM、シリコーンゴム、アクリルゴム、その他のゴムや、フッ素樹脂などの樹脂などの1種以上を配合してもよい。
【0036】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物の製造に際しては、含フッ素弾性共重合体、不飽和多官能性化合物、2価金属の酸化物および/または水酸化物、および必要に応じて有機過酸化物、フッ素ゴム、その他の補強材、充填材、添加剤などを十分均一に混合することが望ましい。かかる混合は、従来通常使用されているゴム混練用ロール、ニーダーまたはバンバリーミキサー等によって行われ得る。混合時の作業条件は特に限定されないが、通常は30〜80℃程度の温度で約10〜60分間混練することによって、添加配合物を含フッ素弾性共重合体に十分分散混合し得る。また、かかる添加配合物を適当な溶媒中に溶解分散し、懸濁溶液とすることも可能である。さらに、混合を最初から媒体中で行ういわゆるウェット混合も可能である。このような場合にはロール、ボールミル、ホモジナイザー等の混合機を用いることによって溶液状の配合組成物が得られる。なお、混合時の作業条件や操作は、使用原料および配合物の種類や目的に応じて最適条件を選定して行うのが望ましい。
【0037】
本発明の含フッ素弾性共重合体組成物は、通常の金型成形の他、押し出し、トランスファー、カレンダー、ロールコート、はけ塗り、含浸等の成形加工法により、シール、パッキン、シート、パイプ、ロッド、チューブ、アングル、チャンネル、引布、塗布板のごとき成形物などに成形加工され得るものであり、その他各種成形加工法により異形品、特殊成形品、例えばスポンジ状ラバーなどにも成形加工され得るものである。
このように成形加工された本発明の含フッ素弾性共重合体組成物は、後述のごとき架橋手段によって架橋物にされ得る。
【0038】
本発明において、架橋は、加熱による架橋、放射線照射による架橋などが好ましい。照射する放射線としては、電子線、紫外線などが挙げられる。
架橋を行う際の操作は、従来通常使用されている操作を採用し得る。
加熱による架橋としては、例えば、成形型中で加圧しながら加熱する操作が採用され、また押し出し、カレンダーロールなどで成形した後、加熱炉中または蒸気釜中で加熱する操作が採用され得る。架橋時の作業条件などは、使用原料や配合に応じて最適条件を選定して行うのが望ましい。
【0039】
加熱架橋時の温度は、通常60〜250℃程度、好ましくは120〜200℃程度が採用され得る。また、加熱時間は特に限定されないが、有機過酸化物を配合する場合、有機過酸化物の種類に応じて1分間〜3時間の範囲であり、好ましくは5分間〜2時間の範囲内で選定される。加熱温度を高くすれば、加熱時間を短縮し得る。なお、得られる架橋物の再加熱処理も採用可能であり、物理的性質の向上に役立つものである。例えば150〜250℃、好ましくは180℃〜230℃の温度で、2〜25時間程度の再加熱処理などが採用され得る。
【0040】
有機過酸化物を配合した場合の加熱架橋では、含フッ素弾性共重合体に、不飽和多官能性化合物、2価金属の酸化物および水酸化物から選ばれる少なくとも1種、および有機過酸化物を配合した組成物を、加熱することにより、該含フッ素弾性共重合体中の不飽和結合および不飽和多官能性化合物の不飽和結合により有機過酸化物架橋が進行するものと考えられる。ここで、該含フッ素弾性共重合体は、2価金属の酸化物および水酸化物から選ばれる少なくとも1種を配合することによって架橋反応への活性がより高くなるため、効果的に有機過酸化物架橋が進行し、得られる架橋物の耐熱性や耐油性および耐薬品性も良好となると推定される。
【0041】
放射線照射架橋の好適な具体例としては、本発明の含フッ素弾性共重合体組成物を適当な溶媒中に溶解分散した懸濁溶液を塗布などにより成形し、乾燥させた後に、放射線照射するものや、本発明の含フッ素弾性共重合体組成物を押出し成形し、放射線照射するものなどが挙げられる。
放射線照射架橋用の塗布成形の条件は、特に限定されないが、通常常温付近で行えばよく、また、乾燥温度は、特に限定されないが、40〜100℃が好ましい。
放射線照射架橋用の成形品の成形温度の条件は、成形加工法に応じて適宜選定すればよいが、放射線照射架橋用の押出成形の条件は、特に限定されないが、50℃〜250℃が好ましく、70℃〜230℃が特に好ましい。
電子線照射における照射量は、適宜選定すればよいが、0.1〜30Mradが好ましく、1〜20Mradが好ましい。
【0042】
放射線照射架橋では、含フッ素弾性共重合体に、不飽和多官能性化合物および2価金属の酸化物および水酸化物から選ばれる少なくとも1種を配合した組成物に、放射線照射することにより、該含フッ素弾性共重合体中の不飽和結合および不飽和多官能性化合物の不飽和結合により架橋が進行するものと考えられる。ここで、該含フッ素弾性共重合体は、2価金属の酸化物および水酸化物から選ばれる少なくとも1種を配合することによって架橋反応への活性がより高くなるため、効果的に架橋が進行し、得られる架橋物の耐熱性や耐油性および耐薬品性も良好となると推定される。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、部とあるものは質量部を示す。
【0044】
(ポリマー1:含フッ素弾性共重合体(TFE/P/クロトン酸ビニル共重合体)の製造)
撹拌用アンカー翼を備えた内容積3200mLのステンレス製耐圧反応器を脱気した後、1600gのイオン交換水、40gのリン酸水素二ナトリウム12水和物、0.5gの水酸化ナトリウム、97gのtert−ブタノール、9gのラウリル硫酸ナトリウム、2.5gの過硫酸アンモニウムを加えた。さらに予め200gのイオン交換水に0.4gのエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム塩・2水和物(以下、EDTAという。)および0.3gの硫酸第一鉄7水和物を溶解させた水溶液を投入した。ついで、40℃で、TFE/P=85/15(モル比)のモノマー混合ガスを、反応器内圧が2.5MPaGになるように圧入した。アンカー翼を300rpmで回転させ、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム2水和物(以下、ロンガリットともいう。)の2.5質量%水溶液を添加し、重合反応を開始させた。
【0045】
重合の進行に伴い圧力が低下するので、反応器内圧が2.49MPaに降下した時点で、TFE/P=56/44(モル比)の混合ガスを圧入し、反応器内圧を2.51MPaGまで昇圧させた。これを繰り返し、反応器内圧を2.49〜2.51MPaGに保持し、重合反応を続けた。TFE/P混合ガスの添加量が50gになった時点でクロトン酸ビニルの5質量%tert−ブタノール溶液の4mLを反応器内に圧入した。以降、TFE/P混合ガスの添加量が330gまで、20g毎にクロトン酸ビニルのtert−ブタノール溶液の4mLを圧入して、合計15回行った。TFE/P混合ガスの添加量の総量が400gとなった時点で、ロンガリット水溶液の添加を停止し、反応器内温を10℃に冷却し、重合反応を停止し、TFE/P/クロトン酸ビニル共重合体ラテックスを得た。ロンガリット水溶液の使用量は23gであった。重合時間は約3.5時間であった。
【0046】
該ラテックスを塩化カルシウムの5質量%水溶液に添加して、塩析によりラテックスを凝集させ、TFE/P/クロトン酸ビニル共重合体を得た。該共重合体を濾取し、イオン交換水により洗浄し、120℃のオーブンで12時間乾燥させ、白色のTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体の398gを得た。
該共重合体の組成は、TFEに基づく繰り返し単位/Pに基づく繰り返し単位/クロトン酸ビニルに基づく繰り返し単位=55.3/44.7/0.17(モル比)であった。
【0047】
(実施例1〜5)
上記で製造された含フッ素弾性共重合体を用いて、表1および表3に示す成分および配合量に従い、各種の配合材料を2ロールで均一に混合して含フッ素弾性共重合体組成物を製造した。これら含フッ素弾性共重合体組成物は架橋特性測定機(RPA、アルファーテクノロジーズ社製)を用いて177℃で12分間、振幅3度の条件にて架橋特性を測定した。また、これら含フッ素弾性共重合体組成物は170℃で20分間プレス架橋した後、オーブン中において200℃で4時間の条件で二次架橋をした。
架橋特性において、MHはトルクの最大値を示し、MLはトルクの最小値を示し、MH−MLは架強度(加硫度ともいう。)を示し、t10はスコーチタイムの近似値を示し、t90は最適架橋時間の近似値を示す。
【0048】
(比較例1〜5)
実施例1と同様にして、弾性組成物を製造し、架橋特性測定機を用いて架橋特性を測定した。なお、比較例2はオーブン中において230℃で24時間の条件で二次架橋をした。
実施例および比較例で得られた架橋物をJIS K6351、JIS K6253に従い、基本物性、耐熱性、耐薬品性および耐スチーム性を測定した。結果を表1、表2および表3に示した。
なお、成型不可とは、架橋不足のため、架橋ゴムの物性測定試験に用いる架橋ゴムシートが得られなかったことを意味する。
【0049】
【表1】

【0050】
表中の各配合成分の名称は、以下のものを示す。
ポリマー1:上記製造例により得られたTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体
TAIC:トリアリルイソシアヌレート(日本化成(株)製)
キョウワマグ#150:酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製)
カルビット:水酸化カルシウム(近江化学工業(株)製)
パーカドックス14:α,α‘−ビス(t−ブチルパーオキシ)−ジイソプロピルベンゼン(化薬アクゾ(株)製)
MTカーボン:カーボンブラック
TFE/P共重合体:組成TFE/P=56/44(モル比)
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
表中の各配合成分の名称は、以下のものを示す。
ポリマー1:上記製造例により得られたTFE/P/クロトン酸ビニル共重合体
TAIC:トリアリルイソシアヌレート(日本化成(株)製)
キョウワマグ#150:酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製)
カルビット:水酸化カルシウム(近江化学工業(株)製)
パーカドックス14:α,α‘−ビス(t−ブチルパーオキシ)−ジイソプロピルベンゼン(化薬アクゾ(株)製)
Nipsil−LP:合成非結晶シリカ/pH5.5−6.5(東ソー・シリカ(株)製)
MTカーボン:カーボンブラック
アフラスMZ:TFE/P/VdF共重合体(ポリオール架橋剤含有)(旭硝子(株)製)
フッ素ゴム G751:HFP/VdF共重合体(ダイキン工業(株)製)
【0054】
実施例1〜4の含フッ素弾性共重合体組成物は、2価金属の酸化物および水酸化物を配合しない比較例1および比較例2の含フッ素弾性共重合体組成物と比較して、また、本発明で用いる含フッ素弾性共重合体を含有せず、他のフッ素ゴムを含有する比較例3のフッ素ゴム組成物と比較して、MHやMLが大きく、t10およびt90の時間が短く、架橋速度が速いなどの架橋反応性に優れ、優れた架橋ゴム物性を示した。
また、実施例2の含フッ素弾性共重合体組成物は、本発明で用いる含フッ素弾性共重合体や2価金属の酸化物を含有しない比較例2のフッ素ゴム組成物と比較して、架橋反応性に優れると共に、20質量%塩酸、20質量%硝酸、50質量%水酸化ナトリウム溶液、28質量%アンモニア水に70℃70時間浸漬させた後の引張り強さ変化率、伸び変化率、硬度変化が、いずれも小さく、特に20質量%塩酸、20質量%硝酸に70℃70時間浸漬させた後の引張り強さ変化率が、比較例2に比べて1/3程度であり、耐薬品性に極めて優れているなど優れた架橋ゴム物性を示した。
【0055】
実施例5の含フッ素弾性共重合体組成物は、シリカを含有しているにもかかわらず、比較例4の含フッ素弾性共重合体組成物と比較して、架橋反応を阻害することなく、MHやMLが大きく、t10およびt90の時間が短く、架橋速度が速いなどの架橋反応性に優れ、優れた架橋ゴム物性を示した。
実施例6の含フッ素弾性共重合体組成物は、HFP/VdF共重合体を含有しているにもかかわらず、比較例5の含フッ素弾性共重合体組成物と比較して、架橋反応を阻害することなく、MHやMLが大きく、t10およびt90の時間が短く、架橋速度が速いなどの架橋反応性に優れ、優れた架橋ゴム物性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、安価に、しかも容易に架橋可能な含フッ素弾性共重合体組成物およびそれを架橋して得られる架橋ゴムを提供するものであり、それによる工業的利益は極めて大きい。さらに、本発明の架橋ゴムは、種々の優れた架橋物性に基づき、Oリング、X字・V字などの異形状断面リング、シート、ガスケット、オイルシール、ダンパー、ダイヤフラム、ホース、チューブ等に用いられる。また、本発明の架橋ゴムは、耐熱・耐薬品性シール材、電線被覆材、半導体や液晶製造装置用のシール材や搬送材やクッション材、耐蝕性ゴム塗料、食品や化学プラント等の同様部品等の広範囲な用途において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、CF=CF−O−R(式中、Rは炭素原子数1〜8の飽和パーフルオロアルキル基またはパーフルオロ(アルコキシアルキル)基である。)で表されるパーフルオロビニルエーテルからなる群より選ばれる1種以上の含フッ素モノマーに基づく繰り返し単位(l)、一般式CR=CRCOOCH=CH(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基またはエーテル性酸素原子を含む炭素原子数1〜10のアルコキシアルキル基であり、Rは水素原子、フッ素原子またはメチル基である。)で表されるビニルエステルモノマーに基づく繰り返し単位(m)、および必要に応じて、エチレン、プロピレン、一般式CH=CH−O−R(式中、Rは炭素原子数1〜8の飽和アルキル基またはアルコキシアルキル基である。)で表されるビニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上の炭化水素モノマーに基づく繰り返し単位(n)を含有し、(m)/((l)+(n))=0.0001〜0.1(モル比)であることを特徴とする含フッ素弾性共重合体、(B)不飽和多官能性化合物および(C)2価金属の酸化物および水酸化物から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする含フッ素弾性共重合体組成物。
【請求項2】
さらに、(D)有機過酸化物を含有している請求項1に記載の含フッ素弾性共重合体組成物。
【請求項3】
前記繰り返し単位(n)を含有し、(n)/(l)=1/99〜70/30(モル比)である請求項1または2に記載の含フッ素弾性共重合体組成物。
【請求項4】
前記ビニルエステルモノマーにおけるRおよびRが水素原子である請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素弾性共重合体組成物。
【請求項5】
前記ビニルエステルモノマーがクロトン酸ビニルである請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素弾性共重合体組成物。
【請求項6】
前記含フッ素モノマーがテトラフルオロエチレンであり、前記炭化水素モノマーがプロピレンであり、(n)/(l)=40/60〜60/40(モル比)であり、(m)/((l)+(n))=0.0001〜0.05(モル比)である請求項1〜5のいずれかに記載の含フッ素弾性共重合体組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の含フッ素弾性共重合体組成物を架橋させてなる架橋ゴム。

【公開番号】特開2006−299218(P2006−299218A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−185035(P2005−185035)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】