説明

架橋性ニトリルゴム組成物およびゴム架橋物

【課題】 スコーチ安定性に優れ、かつ、引張応力に優れたゴム架橋物を与える架橋性ニトリルゴム組成物を提供すること。
【解決手段】 α、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、および、α,β−エチレン性不飽和結合を形成する二つの炭素原子にカルボキシル基を各1個有するα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位を有し、ヨウ素価が120以下である高飽和ニトリルゴムおよび架橋剤を含有してなり、JIS K6300−2に規定の90%加硫に対応する時間tc(90)が5分以上である架橋性ニトリルゴム組成物。好ましくは、前記α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体がマレイン酸モノn−ブチル単量体単位またはフマル酸モノn−ブチル単量体単位である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スコーチ安定性に優れ、引張応力に優れたゴム架橋物を与える架橋性ニトリルゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐油性、耐熱性および耐オゾン性を有するゴムとして、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(「高飽和ニトリルゴム」とも言う。)が知られている。高飽和ニトリルゴムの架橋物は、ベルト、ホース、ガスケット、パッキン、オイルシールなどの種々の用途で、主に自動車用ゴム製品に用いられている。最近、市場での品質要求が高度化し、加工作業性の面からスコーチしにくいこと(スコーチ安定性に優れること)が、また、成形品の機械的強度の面から引張応力が大きいことが一層望まれるようになった。
かかる状況に対してα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル単量体単位を含有する高飽和ニトリルゴム、ポリアミン系架橋剤及び塩基性架橋促進剤を含有する架橋性ゴム組成物が提案されている(特許文献1)。該組成物を架橋することにより、引張応力、引張強さ及び圧縮永久ひずみの改善されたゴム架橋物が得られるものの、架橋性ニトリルゴム組成物のスコーチ安定性の更なる向上が要求されていた。
【0003】
【特許文献1】特開2001−55471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、スコーチ安定性に優れ、かつ、引張応力に優れたゴム架橋物を与える架橋性ニトリルゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究した結果、特定構造のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体単位を含有する高飽和ニトリルゴムを用いることにより上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに到った。
かくして本発明によれば、α、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、および、α,β−エチレン性不飽和結合を形成する二つの炭素原子にカルボキシル基を各1個有するα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体単位を有し、ヨウ素価が120以下である高飽和ニトリルゴム(a)および架橋剤(b)を含有してなり、JIS K6300−2に規定の90%加硫(架橋)に対応する時間tc(90)が5分以上である架橋性ニトリルゴム組成物が提供される。本発明の架橋性ニトリルゴム組成物において、好ましくは前記α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸がマレイン酸またはフマル酸であり、また好ましくは前記エステルがアルキルエステルであり、さらに好ましくは前記α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体単位がマレイン酸モノn−ブチル単量体単位またはフマル酸モノn−ブチル単量体単位である。
また、別の本発明によれば、上記のいずれかの架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、スコーチ安定性に優れ、かつ、引張応力に優れたゴム架橋物を与える架橋性ニトリルゴム組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、α、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、および、α,β−エチレン性不飽和結合を形成する二つの炭素原子にカルボキシル基を各1個有するα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体単位を有し、ヨウ素価が120以下である高飽和ニトリルゴム(a)および架橋剤(b)を含有してなり、JIS K6300−2に規定の90%加硫に対応する時間tc(90)が5分以上であるものである。
【0008】
高飽和ニトリルゴム(a)のα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成する単量体(α,β−エチレン性不飽和ニトリル)は、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば限定されず、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリルなどが挙げられ、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリルはこれらの複数種を併用してもよい。
【0009】
高飽和ニトリルゴム(a)におけるα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは15〜55重量%、特に好ましくは20〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎるとゴム架橋物は耐油性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0010】
高飽和ニトリルゴム(a)の、α,β−エチレン性不飽和結合を形成する二つの炭素原子にカルボキシル基を各1個有するα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体単位を形成する単量体(以下、「特定ジカルボン酸モノエステル単量体」と記すことがある。)は、架橋のためのフリーのカルボキシル基を1個有している。該単量体を共重合して得られる特定ジカルボンモノエステル単量体単位を有することにより、架橋性ニトリルゴム組成物はスコーチ安定性に優れ、また、ゴム架橋物は引張応力の優れたものとなる。
【0011】
特定ジカルボン酸モノエステル単量体としては、α,β−エチレン性不飽和結合を形成する二つの炭素原子にカルボキシル基を各1個有するα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル化合物であれば特に限定されないが、炭素数が5〜50である化合物が好ましく、5〜20である化合物がより好ましく、5〜10である化合物が特に好ましい。
【0012】
特定ジカルボン酸モノエステル単量体としては、本発明の効果がより一層顕著になることから、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、シトラコン酸モノエステル、エチルマレイン酸モノエステル、エチルフマル酸モノエステル、ジメチルマレイン酸モノエステルおよびジメチルフマル酸モノエステルが好ましく、マレイン酸モノエステルおよびフマル酸モノエステルがより好ましく、融点が低く取り扱いが容易なことからマレイン酸モノエステルが特に好ましい。
特定ジカルボン酸モノエステル単量体中のエステルは、本発明の効果がより一層顕著になることから、アルキルエステルまたはシクロアルキルエステルが好ましく、アルキルエステルが特に好ましい。アルキルエステルを形成するアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基およびn−ペンチル基などの炭素数が好ましくは1〜18、より好ましくは2〜14、特に好ましくは3〜7のものが例示されるが、n−プロピル基、n−ブチル基およびn−ペンチル基が好ましく、n−ブチル基が特に好ましい。シクロアルキルエステルを形成するシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などの炭素数が好ましくは4〜16、より好ましくは5〜12、特に好ましくは5〜10のものが好ましい。
特定ジカルボン酸モノエステル単量体としては、本発明の効果がより一層顕著になることから、マレイン酸モノn−プロピル、マレイン酸モノn−ブチル、マレイン酸モノn−ペンチル、フマル酸モノn−プロピル、フマル酸モノn−ブチルおよびフマル酸モノn−ペンチルが好ましく、マレイン酸モノn−ブチルおよびフマル酸モノn−ブチルがより好ましく、マレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。
【0013】
高飽和ニトリルゴム(a)における特定ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量は、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは1〜15重量%、特に好ましくは1.5〜10重量%である。特定ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が多すぎる架橋性ニトリルゴム組成物のスコーチ安定性が悪化したり、ゴム架橋物の耐疲労性が低下するおそれがあり、逆に、少なすぎるとゴム架橋物の引張り応力が低下する可能性がある。
【0014】
高飽和ニトリルゴム(a)は、上記のα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位および特定ジカルボン酸モノエステル単量体単位の他に、ゴム架橋物がゴム弾性を保有するために、通常、ジエン単量体単位またはα−オレフィン単量体単位をも有する。
【0015】
ジエン単量体単位を形成するジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの炭素数が4以上の共役ジエン;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエンなどの好ましくは炭素数が5〜12の非共役ジエンが挙げられる。これらの中では共役ジエンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
【0016】
α−オレフィン単量体単位を形成するα−オレフィンとしては、好ましくは炭素数が2〜12のものであり、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが例示される。
【0017】
高飽和ニトリルゴム(a)におけるジエン単量体単位またはα−オレフィン単量体単位の含有量は、好ましくは20〜89.5重量%、より好ましくは30〜84重量%、特に好ましくは40〜78.5重量%である。これらの単位が少なすぎるとゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0018】
高飽和ニトリルゴム(a)は、また、α,β−エチレン性不飽和ニトリル、特定ジカルボン酸モノエステル単量体およびジエンまたはα−オレフィン、と共重合可能なその他の単量体の単位を含有することができる。このようなその他の単量体としては、特定ジカルボン酸モノエステル単量体以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物、芳香族ビニル、フッ素含有ビニル、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0019】
特定ジカルボン酸モノエステル単量体以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどのアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルであってアルキル基の炭素数が1〜18のもの;アクリル酸メトキシメチル、メタクリル酸メトキシエチルなどのアクリル酸アルコキシアルキルエステルおよびメタクリル酸アルコキシエステルであってアルコキシアルキル基の炭素数が2〜12のもの;アクリル酸ジメチルアミノメチル、アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミノ基含有α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピルなどのアクリル酸ヒドロキシアルキルエステルおよびメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステルであって、ヒドロキシアルキル基の炭素数が1〜12のもの;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピルなどのフルオロアルキル基含有アクリル酸エステルおよびフルオロアルキル基含有メタクリル酸エステルであってアルキル基の炭素数が1〜12のもの;アクリル酸フルオロベンジル、メタクリル酸フルオロベンジルなどのフッ素置換ベンジル基含有アクリル酸エステルおよびフッ素置換ベンジル基含有メタクリル酸エステル;
【0020】
マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジn−ブチルなどのマレイン酸ジアルキルエステルであってアルキル基の炭素数が1〜18のもの;フマル酸ジメチル、フマル酸ジn−ブチルなどのフマル酸ジアルキルエステルであってアルキル基の炭素数が1〜18のもの;マレイン酸ジシクロペンチル、マレイン酸ジシクロヘキシルなどのマレイン酸ジシクロアルキルエステルであってシクロアルキル基の炭素数が4〜16のもの;フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどのフマル酸ジシクロアルキルエステルであってシクロアルキル基の炭素数が4〜16のもの;イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジn−ブチルなどのイタコン酸ジアルキルエステルであってアルキル基の炭素数が1〜18のもの:イタコン酸ジシクロヘキシルなどのイタコン酸ジシクロアルキルエステルであってシクロアルキル基の炭素数が4〜16のもの;などが挙げられる。
【0021】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸としては、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸などが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸などが挙げられる。
【0022】
芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0023】
フッ素含有ビニルとしては、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0024】
共重合性老化防止剤としては、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが例示される。
【0025】
これらの共重合可能な他の単量体は、複数種類を併用してもよい。高飽和ニトリルゴム(a)が有する、これらの他の単量体単位の含有量は、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0026】
本発明で使用する高飽和ニトリルゴム(a)におけるカルボキシル基の含有量、すなわち、高飽和ニトリルゴム(a)100g当たりのカルボキシル基のモル数は、好ましくは5×10−4〜5×10−1ephr、より好ましくは1×10−3〜1×10−1ephr、特に好ましくは5×10−3〜6×10−2ephrである。高飽和ニトリルゴム(a)のカルボキシル基含有量が少なすぎると架橋性ニトリルゴム組成物は十分に架橋せず、引張応力が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると架橋性ニトリルゴム組成物のスコーチ安定性が悪化したり、ゴム架橋物の耐疲労性が低下する可能性がある。
【0027】
高飽和ニトリルゴム(a)は、そのヨウ素価が120以下、好ましくは80以下、より好ましくは25以下、特に好ましくは15以下のものである。高飽和ニトリルゴム(a)のヨウ素価が高すぎると、ゴム架橋物の耐オゾン性が低下するおそれがある。
【0028】
また、高飽和ニトリルゴム(a)のポリマームーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は、好ましくは15〜200、より好ましくは20〜150、特に好ましくは30〜120である。高飽和ニトリルゴム(a)のムーニー粘度が低すぎるとゴム架橋物の強度特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると架橋性ニトリルゴム組成物の加工性が低下するおそれがある。
【0029】
上記高飽和ニトリルゴム(a)の製造方法は特に限定されない。一般的には、α,β−エチレン性不飽和ニトリル、特定ジカルボン酸モノエステル単量体、ジエンまたはα−オレフィン、および必要に応じて加えられるこれらと共重合可能なその他の単量体を共重合する方法が便利で好ましい。重合法としては、公知の乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法および溶液重合法のいずれをも用いることができるが、重合反応の制御が容易であることから乳化重合法が好ましい。
共重合して得られた共重合体のヨウ素価が上記の範囲より高い場合は、共重合体の水素化(水素添加反応)を行うと良い。水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0030】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物が含有する架橋剤(b)としては、ポリアミン化合物、有機過酸化物、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、アジリジン化合物、硫黄化合物、塩基性金属酸化物および有機金属ハロゲン化物などのゴムの架橋に通常用いられる従来公知の架橋剤を用いることができる。なかでもポリアミン化合物および有機過酸化物が好ましく、機械的特性に優れ、圧縮永久ひずみが小さいゴム架橋物が得られ易いことから、ポリアミン化合物(以下、「ポリアミン系架橋剤」という。)がより好ましい。
【0031】
ポリアミン系架橋剤としては、(1)2つ以上のアミノ基を有する化合物、または(2)架橋時に2つ以上のアミノ基を有する化合物の形態になるもの、であれば特に限定されないが、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素の複数の水素原子が、アミノ基またはヒドラジド構造(−CONHNHで表される構造、COはカルボニル基を表す。)で置換された化合物が好ましい。その具体例として、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、テトラメチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミンシンナムアルデヒド付加物、ヘキサメチレンジアミンジベンゾエート塩などの脂肪族多価アミン類;2,2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)などの芳香族多価アミン類;イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどのヒドラジド構造を2つ以上有する化合物;などが挙げられるが、ヘキサメチレンジアミンカルバメートが特に好ましい。
【0032】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物における架橋剤(b)の含有量は、高飽和ニトリルゴム(a)100重量部に対し、好ましくは0.2〜20重量部、より好ましくは1〜15重量部、特に好ましくは1.5〜10重量部である。架橋剤(b)の含有量が少なすぎると、引張応力に優れ、圧縮永久ひずみが小さいゴム架橋物が得られにくいおそれがあり、逆に、多すぎるとゴム架橋物の耐疲労性が低下する可能性がある。
【0033】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、上記高飽和ニトリルゴム(a)、および架橋剤(b)以外に、ゴム加工分野において通常使用される配合剤、例えば、架橋促進剤、架橋助剤、架橋遅延剤、補強性充填材(カーボンブラック、シリカなど)、非補強性充填材(炭酸カルシウム、クレーなど)、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、一級アミンなどのスコーチ防止剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、受酸剤、帯電防止剤、着色剤などを配合することができる。これらの配合剤の配合量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を適宜配合することができる。
【0034】
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、本発明の効果が阻害されない範囲で、高飽和ニトリルゴム(a)以外のゴムを配合してもよい。高飽和ニトリルゴム(a)以外のゴムを配合する場合は、高飽和ニトリルゴム(a)100重量部当たり30重量部以下が好ましく、20重量部以下がより好ましく、10重量部以下が特に好ましい。
【0035】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、上記各成分を好ましくは非水系で混合して調製される。本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を調製する方法に限定はないが、通常、架橋剤および熱に不安定な架橋助剤などを除いた成分を、バンバリーミキサ、インターミキサ、ニーダなどの混合機で一次混練した後、ロールなどに移して架橋剤等を加えて二次混練する。
【0036】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4、100℃)(コンパウンドムーニー)は、好ましくは15〜150、より好ましくは50〜130である。本発明の架橋性ニトリルゴム組成物が上記コンパウンドムーニーを有すると、成形加工性に優れる。
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物はスコーチ安定性に優れ、JIS K6300−2に規定の90%加硫に対応する時間tc(90)が5分以上、好ましくは7分以上、より好ましくは10分以上である。また、上記tc(90)は30分以内が好ましく、20分以内が特に好ましい。なお、上記tc(90)は、170℃にて測定した値である。
【0037】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物の水分含有量は好ましくは3重量%以下であり、より好ましくは1重量%以下である。
この架橋性ニトリルゴム組成物を架橋して本発明のゴム架橋物を得るには、所望の形状に対応した成形機、例えば押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、架橋反応により架橋物として形状を固定化する。予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜1時間である。
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0038】
本発明のゴム架橋物は、耐油性、耐熱性および耐オゾン性に優れる高飽和ニトリルゴムの特性に加えて、引張応力が大きい特徴を有する。そのため本発明の架橋物は、O−リング、パッキン、ガスケット、ダイアフラム、オイルシールなどの各種シール用ゴム製品;動力平ベルト、コンベアーベルト、Vベルト、タイミングベルト、歯付ベルトなどの各種ベルト;バルブおよびバブルシート、BOP(Blow Out Preventar)、プラターなどの油田用シールゴム部品;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;燃料ホース、オイルホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツなどの各種ブーツ;などの激しい剪断応力を繰り返し受ける用途をはじめ、ダスカバー、自動車内装部材、被覆ケーブル、靴底など幅広い用途に使用することができる。
【実施例】
【0039】
以下に製造例、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。ただし本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。以下の配合において「部」および「ppm」は、特に断わりのない限り重量基準である。
試験、評価は下記によった。
(1)カルボキシル基含有量
ゴムのカルボキシル基含有量は、水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、ゴム100グラムに対するカルボキシル基のモル数を求めた。単位はephrである。
(2)ムーニー粘度(ポリマームーニー、コンパウンドムーニー)
JIS K6300−1に従って測定した。
【0040】
(3)架橋特性(tc(10)、tc(90)の測定)
JIS K6300−2に従って、10%加硫(架橋)に対応する時間tc(10)および90%加硫(架橋)に対応する時間tc(90)を測定した。
なお、測定温度は170℃であった。
【0041】
(4)常態物性(引張強さ、伸び、引張応力)
架橋性ニトリルゴム組成物を縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、加圧しながら170℃で20分間プレス成形してシート状架橋物を得た。これをギヤー式オーブンに移して170℃で4時間二次架橋して得られたシート状架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。この試験片を用いて、JIS K6251に従い、ゴム架橋物の引張強さ、伸びおよび100%引張応力を測定した。
(5)常態物性(硬さ)
上記(4)と同様にして得たシート状ゴム架橋物につき、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機タイプAを用いてゴム架橋物の硬さを測定した。
【0042】
(製造例1)
金属製ボトルに、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル37部、マレイン酸モノn−ブチル6部、t−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン57部を仕込んだ。金属製ボトルを5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、金属製ボトルを回転させながら16時間重合反応した。濃度10重量%のハイドドキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去し、アクリロニトリル単量体単位34重量%、ブタジエン単量体単位60重量%、マレイン酸モノn−ブチル単量体単位6重量%のアクリロニトリル−ブタジエン−マレイン酸モノn−ブチル共重合体ゴムラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
【0043】
該ラテックスに含有される乾燥ゴム重量に対してパラジウム含有量が1000ppmになるようにオートクレーブにパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムラテックスを得た。
得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴムラテックスに2倍容量のメタノールを加えて、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムを凝固した後、60℃で12時間真空乾燥して高飽和ニトリルゴム(a1)を得た。高飽和ニトリルゴム(a1)のヨウ素価は10、カルボキシル基含有量は3.2×10−2ephr、ポリマームーニー粘度〔ML1+4、100℃〕 は60であった。
【0044】
(製造例2)
マレイン酸モノn−ブチル6部を8部に、1,3−ブタジエン57部を55部にそれぞれ変えた他は製造例1と同様に行ってアクリロニトリル単量体単位34重量%、ブタジエン単量体単位58重量%、マレイン酸モノn−ブチル単量体単位8重量%のアクリロニトリル−ブタジエン−マレイン酸モノn−ブチル共重合体ゴムラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
次に製造例1と同様に水素添加反応を行い高飽和ニトリルゴム(a2)を得た。高飽和ニトリルゴム(a2)のヨウ素価は10、カルボキシル基含有量は4.3×10−2ephr、ポリマームーニー粘度〔ML1+4、100℃〕 は60であった。
【0045】
(製造例3)
マレイン酸モノn−ブチル6部をイタコン酸モノn−ブチル4部に、1,3−ブタジエン57部を59部にそれぞれ変えた他は製造例1と同様に行ってアクリロニトリル単量体単位34重量%、ブタジエン単量体単位62重量%、イタコン酸モノn−ブチル単量体単位4重量%のアクリロニトリル−ブタジエン−イタコン酸モノn−ブチル共重合体ゴムラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
次に製造例1と同様に水素添加反応を行い高飽和ニトリルゴム(a3)を得た。高飽和ニトリルゴム(a3)のヨウ素価は10、カルボキシル基含有量は2.1×10−2ephr、ポリマームーニー粘度〔ML1+4、100℃〕 は70であった。
【0046】
(実施例1)
バンバリーミキサを用いて高飽和ニトリルゴム(a1)100部にFEFカーボンブラック(旭60、旭カーボン社製)40部、トリメリット酸エステル(アデカサイザーC−8、旭電化社製、可塑剤)8部、ステアリン酸(架橋促進助剤)1部、4,4’−ジ−(α,α’−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(ナウガード445、Crompton社製、老化防止剤)1.5部、2−メルカプトベンズイミダゾール(ノクラックMB、大内新興社製、老化防止剤)1.5部を添加して混合し、次いで、混合物をロールに移して1,3−ジ−o−トリルグアニジン(ノクセラーDT、大内新興社製、架橋促進剤)2部、および、ヘキサメチレンジアミンカルバメート(Diak#1、デュポンダウエラストマー社製、架橋剤)2.6部を添加して混練し、架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。
この架橋性ニトリルゴム組成物を用いてポリマームーニー粘度、架橋特性および常態物性(引張強さ、伸び、100%引張応力、硬さ)を試験、評価した結果を表1に記す。
【0047】
(実施例2)
高飽和ニトリルゴム(a1)に代えて高飽和ニトリルゴム(a2)を用い、ヘキサメチレンジアミンカルバメート2.6部を3.5部に変えた他は実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。得られた架橋性ニトリルゴム組成物について、実施例1と同様に試験、評価した結果を表1に記す。
【0048】
(比較例1)
高飽和ニトリルゴム(a1)に代えて高飽和ニトリルゴム(a3)を用い、ヘキサメチレンジアミンカルバメート2.6部を1.7部に変えた他は実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。得られた架橋性ニトリルゴム組成物について、実施例1と同様に試験、評価した結果を表1に記す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1が示すように、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物はtc(10)およびtc(90)が大きくてスコーチ安定性に優れる。また、これらによるゴム架橋物は100%引張応力が極めて大きい特徴を有している(実施例1および2)。
一方、マレイン酸モノn−ブチル単量体単位に代えてイタコン酸モノn−ブチルの単量体単位を有する高飽和ニトリルゴムを用いた架橋性ニトリルゴム組成物は、tc(10)およびtc(90)が小さくてスコーチ安定性に劣り、また、その架橋物は、引張応力が著しく劣るものとなった(比較例1)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α、β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、および、α,β−エチレン性不飽和結合を形成する二つの炭素原子にカルボキシル基を各1個有するα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体単位を有し、ヨウ素価が120以下である高飽和ニトリルゴム(a)および架橋剤(b)を含有してなり、
JIS K6300−2に規定の90%加硫に対応する時間tc(90)が5分以上である架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項2】
前記α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸がマレイン酸またはフマル酸である請求項1記載の架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項3】
前記エステルがアルキルエステルである請求項1または2に記載の架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項4】
前記α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体単位がマレイン酸モノn−ブチル単量体単位またはフマル酸モノn−ブチル単量体単位である請求項1ないし3のいずれかに記載の架橋性ニトリルゴム組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。


【公開番号】特開2008−56793(P2008−56793A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234937(P2006−234937)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】