説明

架橋性含フッ素エラストマー、その組成物および架橋ゴム成形品

【課題】 架橋反応性に優れ、金型離型性、架橋ゴム物性に優れる架橋性含フッ素エラストマー、架橋性含フッ素エラストマー組成物及びその架橋ゴム成形品を提供する。
【解決手段】 含フッ素エラストマー(A)と有機過酸化物(B)との混合物を110〜380℃で10秒〜3時間熱処理して得られる、ムーニー粘度が20〜300である架橋性含フッ素エラストマー、該架橋性含フッ素エラストマー、加硫剤(C)、及び加硫助剤(D)を含有する含フッ素エラストマー組成物、およびこれらの架橋ゴム成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた架橋反応性、速い架橋速度を発揮できる含フッ素エラストマー、それを含有する含フッ素エラストマー組成物および架橋物性に優れた架橋ゴム成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチエレン/プロピレン系共重合体(以下、TFE/P系共重合体ともいう。)は、耐熱性や耐薬品性に著しく優れるゴム材料として、通常のゴム材料が耐えないような過酷な環境に適用されている。しかし、TFE/P系共重合体は、ゴム製品を製造する時の架橋反応性に乏しい。その改善方法として、高温長時間にわたる熱処理を行う方法(例えば、特許文献1を参照。)が提案されている。しかし、この方法は、高温長時間にわたる熱処理が必要なため生産効率が充分でなかった。
【0003】
また、この製造方法で得られた熱処理TFE/P系共重合体に種々の配合剤を配合して得たフッ素エラストマー組成物は、金型を用いて成形し、架橋する際に、架橋反応性に優れるものの、金型離型性が必ずしも充分でない場合があった。
したがって、より生産性に優れる製造方法であって、含フッ素エラストマー中に架橋性官能基を導入でき、かつ、金型離型性に優れる、架橋性含フッ素エラストマーが得られる方法の開発が要請されていた。
【特許文献1】特開昭53−9848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、架橋反応性に優れ、金型離型性に優れる架橋性含フッ素エラストマー、架橋性含フッ素エラストマー組成物及び架橋ゴム物性に優れるその架橋ゴム成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、架橋反応性に乏しい含フッ素エラストマーに、有機過酸化物を混合して熱処理をすることにより、その架橋反応性が飛躍的に向上することを見出した。また、得られた含フッ素エラストマーを用いて得た含フッ素エラストマー組成物を金型を用いて成形し、架橋する際に、金型離型性に優れることを見出した。さらに、得られた含フッ素エラストマーを用いて得た含フッ素エラストマー組成物を架橋すると架橋ゴム物性に優れる架橋ゴム成形品が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、含フッ素エラストマー(A)と有機過酸化物(B)との混合物を110〜380℃で10秒〜3時間熱処理して得られる、ムーニー粘度が20〜300であることを特徴とする架橋性含フッ素エラストマーを提供する。
また、本発明は、上記含フッ素エラストマーにおいて、架橋性含フッ素エラストマーの赤外吸収スペクトルが、1640〜1700cm−1に吸収ピークを有する架橋性含フッ素エラストマーを提供する。
【0007】
また、本発明は、上記含フッ素エラストマーにおいて、アブソーバンスで表記した赤外吸収スペクトルの1640〜1700cm−1の吸収ピークの強度が0.01〜5.0である架橋性含フッ素エラストマーを提供する。
また、本発明は、上記含フッ素エラストマーにおいて、架橋性含フッ素エラストマーのアブソーバンスで表記した赤外吸収スペクトルが、1740〜1800cm−1に吸収ピークを有しないか、又は1740〜1800cm−1に吸収ピークの強度が2.0以下である吸収ピークを有する架橋性含フッ素エラストマーを提供する。
【0008】
また、本発明は、上記含フッ素エラストマーにおいて、有機過酸化物(B)の混合割合が、含フッ素エラストマー(A)の100質量部に対して0.1〜10質量部である架橋性含フッ素エラストマーを提供する。
また、本発明は、上記含フッ素エラストマーにおいて、含フッ素エラストマー(A)がテトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体である架橋性含フッ素エラストマーを提供する。
また、本発明は、上記含フッ素エラストマーにおいて、有機過酸化物(B)の1分間半減期温度が110℃以上である架橋性含フッ素エラストマーを提供する。
【0009】
また、本発明は、含フッ素エラストマー(A)と有機過酸化物(B)とを110〜380℃で10秒〜3時間、熱処理することを特徴とする架橋性含フッ素エラストマーの製造方法を提供する。
また、本発明は、上記製造方法において、含フッ素エラストマー(A)と有機過酸化物(B)とを、押出機を用いて混練する架橋性含フッ素エラストマーの製造方法を提供する。
また、本発明は、上記架橋性含フッ素エラストマー、加硫剤(C)および加硫助剤(D)を含有することを特徴とする含フッ素エラストマー組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記含フッ素エラストマー組成物を架橋させてなる架橋ゴム成形品を提供する。
また、本発明は、上記含フッ素エラストマーまたは、上記含フッ素エラストマー組成物に電離性放射線を照射して架橋させてなる架橋ゴム成形品を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の架橋性含フッ素エラストマーは、ゴム弾性に優れ、架橋反応性に優れており、架橋ゴム成形品は、架橋ゴム物性に優れ、耐熱性、耐薬品性、耐候性、金型離型性等に優れる。
また、本発明の架橋性含フッ素エラストマーは、従来技術に比べ、生産性に著しく優れ、架橋性含フッ素エラストマー組成物は、金型離型性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において使用される含フッ素エラストマー(A)としては、従来公知の含フッ素エラストマーを用いることができる。特に、架橋性官能基を有しない含フッ素エラストマーが、好適に用いられる。
本発明において、架橋性官能基としては、炭素−炭素不飽和結合、ヨウ素、シュウ素、シアノ基、加水分解性シリル基等が挙げられる。
含フッ素エラストマー(A)の具体例としては、テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/フッ化ビニリデン系共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン系共重合体等が挙げられる。中でも、架橋反応性に乏しいテトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体が好ましい。
【0013】
テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体としては、テトラフルオロエチレン(以下、TFEという)とプロピレン(以下、Pという。)のみが共重合されたものでもよいし、TFEとPに、さらにその他のモノマーが共重合されたものでもよい。その他のモノマーとしては、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、一般式CF=CF−O−R(式中、Rは炭素原子数1〜8の飽和パーフルオロアルキル基またはパーフルオロ(アルコキシアルキル)基である。)で表されるパーフルオロビニルエーテル、エチレン、ブテンなどのα−オレフィン(プロピレンを除く)、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類などが挙げられる。その他のモノマーは、1種で、または2種以上を組合せて用いることができる。
【0014】
TFE/P系共重合体の組成は、TFEに基づく繰り返し単位/Pに基づく繰り返し単位=40/60〜60/40(モル比)であることがより好ましい。この組成範囲にあると、得られる架橋ゴムは架橋ゴム物性に優れ、耐熱性および耐薬品性が良好である。
その他のモノマーに基づく繰り返し単位の含有割合は、0〜30モル%が好ましく、0〜15モル%がより好ましい。
【0015】
本発明に使用する含フッ素エラストマー(A)の製造方法としては、従来公知のものはすべて使用できる。例えば、乳化重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等が挙げられる。
また、開始反応には、ラジカル重合開始剤、レドックス重合開始剤、熱、放射線等を用いることができる。分子量および共重合組成の調整が容易で、生産性に優れることから、乳化重合が好ましい。
【0016】
本発明の架橋性含フッ素エラストマーは、前記含フッ素エラストマー(A)と有機過酸化物(B)との混合物を熱処理することにより得られる。熱処理することにより、その架橋反応性が飛躍的に向上する。
該有機過酸化物(B)としては、半減期が1分である温度である、1分間半減期温度が110〜300℃である有機過酸化物が好ましく、110〜250℃であるものがより好ましく、110〜200℃であるものが最も好ましい。
【0017】
その具体例としては、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(ターシャリーブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジベンゾイルパーオキシヘキサン、ジターシャリーブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、ジベンゾイルパーオキサイドなどがあげられる。好ましくは、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(ターシャリーブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジベンゾイルパーオキシヘキサン、ジターシャリーブチルパーオキサイドであり、更に好ましくは、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(ターシャリーブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジベンゾイルパーオキシヘキサン等が挙げられる。
【0018】
有機過酸化物(B)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機過酸化物(B)の配合量は、含フッ素エラストマー(A)の100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜7質量部がより好ましい。この範囲にあると含フッ素エラストマー(A)に架橋性の官能基が導入され、架橋性に優れる、架橋性含フッ素エラストマーが得られる。
【0019】
熱処理温度としては、110〜380℃であることが好ましい。この温度領域であれば、添加される有機過酸化物の1分間半減期温度に合致しており、有機過酸化物による架橋性官能基導入反応が進行しやすい。更に好ましくは150〜320℃であり、最も好ましくは150〜300℃である。この範囲であれば、重合体の熱分解も少なく、架橋反応性に優れる架橋性含フッ素エラストマーが得られる。
熱処理時間としては、10秒〜3時間が好ましい。この熱処理時間により、架橋反応性が優れた架橋性含フッ素エラストマーが得られる。
【0020】
本発明の架橋性含フッ素エラストマーのムーニー粘度は、20〜300であり、20〜270が好ましく、30〜240がより好ましく、30〜200が最も好ましい。ムーニー粘度は、分子量の目安であり、大きいと分子量が高く、小さいと分子量が低いことを示す。この範囲にあると含フッ素エラストマーの加工性と架橋ゴム物性が良好である。該ムーニー粘度は、JIS K6300に準じて、直径38.1mm、厚さ5.54mmの大ローターを用い、100℃で、予熱時間を1分、ローター回転時間を4分に設定して測定される値である。
【0021】
本発明の架橋性含フッ素エラストマーは、赤外吸収スペクトルが1640〜1700cm−1に吸収ピークを有する。より好ましくは、赤外吸収スペクトルの1660〜1700cm−1に吸収ピークを有し、さらに好ましくは、1680〜1700cm−1に吸収ピークを有するものである。この範囲の吸収ピークは、炭素−炭素不飽和結合に帰属されるものである。加熱処理前の含フッ素エラストマー(A)には、この吸収ピークが観測されないことから、有機過酸化物との混合物の熱処理時に、含フッ素エラストマー(A)の水素原子が引抜かれる等の機構によって、不飽和結合が導入されたものと推測される。この範囲に吸収ピークを有すると架橋性含フッ素エラストマーは、架橋性に著しく優れる。
また、アブソーバンスで表記した赤外吸収スペクトルのピーク強度は、0.01〜5.0が好ましく、0.02〜2.0がより好ましく、0.03〜1.8が更に好ましく、0.05〜1.5が最も好ましい。この範囲に吸収ピーク強度を有すると架橋性含フッ素エラストマーは、架橋性に著しく優れる。
【0022】
また、本発明の架橋性含フッ素エラストマーは、赤外吸収スペクトルの1740〜1800cm−1に吸収ピークを有しないか、または小さいことが望ましい。アブソーバンスで表記した赤外吸収スペクトルの1740〜1800cm−1の吸収ピークのピーク強度が2.0以下であることが好ましく、0.2以下であることがさらに好ましく、0.02以下であることが更に好ましく、0.002以下であることが更に好ましく、観察できるピークを有しないことが最も好ましい。この範囲の吸収ピークは、ポリマー末端等が変性されて生成したヒドロキシカルボニル基等の官能基に帰属されるものと考えられる。この範囲に強度の大きな吸収ピークを有すると架橋性含フッ素エラストマーは、金型離型性に劣る。
【0023】
本発明における、熱処理は加熱オーブン、押出機、ニーダー等を用いて実施することが好ましい。
本発明の架橋性含フッ素エラストマーの製造方法としては、含フッ素エラストマー(A)と有機過酸化物(B)とを110〜380℃で10秒〜3時間、押出機を用いて混錬する架橋性含フッ素エラストマーの製造方法が好ましい。押出機を用い場合の混練時間は、10秒〜30分間がより好ましく、10秒〜15分間が最も好ましい。
また、含フッ素エラストマー(A)の粒子と有機過酸化物(B)の粒子または液体との混合物を成形し、110〜380℃で10秒〜3時間、熱処理する架橋性含フッ素エラストマーの製造方法が挙げられる。含フッ素エラストマー(A)の粒子と有機過酸化物(B)の粒子または液体との混合または混練には、2本ロールやニーダーを用いることが好ましい。
【0024】
本発明の架橋性含フッ素エラストマー、架橋剤(C)および架橋助剤(D)を含有する含フッ素エラストマー組成物は、架橋性に優れ、金型離型性にも優れる。
架橋剤(C)としては、有機過酸化物が好ましく、ゴムの加硫剤として公知のものはすべて使用できる。例えば、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(ターシャリーブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジベンゾイルパーオキシヘキサン、ジターシャリーブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、ジベンゾイルパーオキサイドなどがあげられる。好ましくは、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(ターシャリーブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジベンゾイルパーオキシヘキサン、ジターシャリーブチルパーオキサイドであり、更に好ましくは、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(ターシャリーブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジベンゾイルパーオキシヘキサンなどが挙げられる。
【0025】
(C)成分の架橋剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
架橋剤の含有量は、架橋性含フッ素エラストマーの100質量部に対して、0.3〜10質量部が好ましく、0.3〜5質量部がより好ましく、0.5〜3質量部が最も好ましい。この範囲にあると引張り強度と伸びのバランスに優れた架橋ゴムが得られる。
【0026】
架橋助剤(D)は不飽和多官能性化合物が好ましい。不飽和多官能性化合物は、架橋効率を高くすることができる。該不飽和多官能性化合物としては、従来公知のものはすべて使用できる。具体例としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートオリゴマー、トリメタリルイソシアヌレート、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、トリアリルトリメリテート、m−フェニレンジアミンビスマレイミド、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、N,N′,N′′,N′′′−テトラアリルテレフタールアミド、ポリメチルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルビニルシロキサン等のビニル基含有シロキサンオリゴマー等が挙げられる。
【0027】
これらのうち、特に、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレートが好ましく、トリアリルイソシアヌレートがより好ましい。
(D)成分の架橋助剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(D)成分の架橋助剤の含有量は、含フッ素エラストマー100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜7質量部がより好ましい。この範囲にあると強度と伸びのバランスのとれた架橋ゴム物性が得られる。
【0028】
本発明の含フッ素エラストマー組成物には、補強材、充填材、添加剤などを適宜含有させてもよい。補強材、充填材としては、従来架橋ゴムの製造に際して通常使用されるゴム補強材や、充填材などが挙げられ、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラツクやホワイトカーボン、炭酸マグネシウム、表面処理した炭酸カルシウムなどの無機補強材、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、珪藻土、アルミナ、硫酸バリウムなどの無機充填材や、その他の充填材が挙げられ、添加剤としては、顔料、酸化防止剤、安定剤、加工助剤、内部離型剤などの添加剤などが挙げられる。
【0029】
補強材、充填材、添加剤は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。補強材の配合量は、適宜選定すればよいが、含フッ素エラストマー100質量部に対して1〜100質量部が好ましい。充填材の配合量は、適宜選定すればよいが、含フッ素エラストマー100質量部に対して1〜100質量部が好ましい。
また、本発明の含フッ素エラストマー組成物には、他のフッ素ゴム、EPDM、シリコーンゴム、アクリルゴム等のゴムや、フッ素樹脂等の樹脂などの1種以上を配合してもよい。
【0030】
本発明の含フッ素エラストマー組成物の製造に際しては、架橋性含フッ素エラストマー、不飽和多官能性化合物、有機過酸化物、および必要に応じて、2価金属の酸化物および/または水酸化物、フッ素ゴム、その他の補強材、充填材、加工助剤、添加剤などを十分均一に混合することが望ましい。かかる混合は、従来通常使用されているゴム混練用ロール、ニーダーまたはバンバリーミキサー等によって行われ得る。混合時の作業条件は特に限定されないが、通常は30〜80℃程度の温度で約10〜60分間混練することによって、添加配合物を含フッ素エラストマーに十分分散混合し得る。また、かかる添加配合物を適当な溶媒中に溶解分散し、懸濁溶液とすることも可能である。さらに、混合を最初から媒体中で行ういわゆるウェット混合も可能である。このような場合にはロール、ボールミル、ホモジナイザー等の混合機を用いることによって溶液状の配合組成物が得られる。
なお、混合時の作業条件や操作は、使用原料および配合物の種類や目的に応じて最適条件を選定して行うのが望ましい。
【0031】
本発明の含フッ素エラストマー組成物は、通常の金型成形の他、押し出し、トランスファー、カレンダー、ロールコート、はけ塗り、含浸等の成形加工法により、シール、パッキン、シート、パイプ、ロッド、チューブ、アングル、チャンネル、引布、塗布板、電線被覆のごとき成形物などに成形加工され得るものであり、その他各種成形加工法により異形品、特殊成形品、例えばスポンジ状ラバーなどにも成形加工され得るものである。
【0032】
本発明の組成物は、加熱により架橋される。
架橋を行う際の操作は、従来通常使用されている操作を採用し得る。加熱による架橋としては、例えば、成形型中で加圧しながら加熱する操作が採用され、また押し出し、カレンダーロールなどで成形した後、加熱炉中または蒸気釜中で加熱する操作が採用され得る。架橋時の作業条件などは、使用原料や配合に応じて最適条件を選定して行うのが望ましい。
【0033】
加熱架橋時の温度は、通常60〜250℃程度、好ましくは120〜200℃程度が採用され得る。また、加熱時間は特に限定されないが、有機過酸化物の種類に応じて1分間〜3時間の範囲であり、好ましくは5分間〜2時間の範囲内で選定される。加熱温度を高くすれば、加熱時間を短縮し得る。なお、得られる架橋物の再加熱処理も採用可能であり、物理的性質の向上に役立つものである。例えば150〜250℃、好ましくは180℃〜230℃の温度で、2〜25時間程度の再加熱処理などが採用され得る。
【0034】
本発明の架橋性含フッ素エラストマーは、(C)成分や(D)成分を混合することなく、電離性放射線照射による架橋も可能である。また、(C)成分や(D)成分を混合しての電離性放射線照射による架橋も可能である。電離性放射線としては、電子線、γ線などが挙げられる。電離性放射線照射架橋の好適な具体例としては、本発明の含フッ素エラストマー組成物を適当な溶媒中に溶解分散した懸濁溶液を塗布などにより成形し、乾燥させた後に、電離性放射線照射するものや、本発明の含フッ素エラストマー組成物を押出し成形し、電離性放射線照射するものなどが挙げられる。電子線照射における照射量は、適宜選定すればよいが、1〜300kGyが好ましく、10〜200kGyが好ましい。
【0035】
本発明の架橋性含フッ素エラストマーは、特に、電線被覆材用途に適する。電線被覆材用途の場合には、本発明の含フッ素エラストマー組成物で電線を被覆し、加熱して架橋することが好ましい。また、本発明の架橋性含フッ素エラストマー自体、または、架橋性含フッ素エラストマー組成物で電線を被覆し、電離性放射線を照射して架橋することも好ましい。電離性放射線による架橋の際には架橋反応性向上のため架橋助剤を添加することが好ましい。
【0036】
架橋助剤としてはトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートプレポリマー、トリメタリルイソシアヌレート、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、トリアリルトリメリテート、m−フェニレンジアミンビスマレイミド、p−キノンジオキシム、p,p′−ジベンゾイルキノンジオキシム、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、N,N′,N′′,N′′′−テトラアリルテレフタールアミド、ポリメチルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルビニルシロキサン等のビニル基含有シロキサンオリゴマー等が挙げられる。架橋助剤としては、多アリル化合物が好ましく、特に、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレートがより好ましく、トリアリルイソシアヌレートがさらに好ましい。架橋助剤の含有量は、含フッ素エラストマー100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜7質量部がより好ましい。
【0037】
さらに、電線被覆材用途においては、本発明の架橋性含フッ素エラストマーに、フッ素樹脂を添加することも好ましい。添加されるフッ素樹脂としては、電離性放射線により崩壊しないものが好ましく、特にエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体が好ましい。本発明の架橋性含フッ素エラストマーまたはその組成物に、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体などのフッ素樹脂が添加される場合には、あらかじめこれらが混練された混合物が電線上に被覆され、加熱または電離性放射線照射によって架橋されることが好ましい。フッ素樹脂の添加量は、架橋性含フッ素エラストマー/フッ素樹脂の質量比として、
90/10〜10/90が好ましく、90/10〜30/70がより好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、部とあるものは質量部を示す。
また各実施例および比較例においては、以下のような作業を実施した。
[赤外吸収強度]
赤外(IR)おける吸収ピーク位置と強度の測定は、以下の通り行った。含フッ素エラストマー1gをとり170℃の熱プレスによって、約0.2mmの厚さにプレスしたものを使用して、FT−IR(Nicolet社製PROTEGE460)で透過赤外吸光度測定を行った。
【0039】
1640〜1700cm−1の吸収ピークの強度は、アブソーバンス表記にて、1640〜1700cm−1にある吸収ピークトップの強度を、1630cm−1と1710cm−1の2点の強度を結んだ2点間の線からの垂直高さから求め、厚さ0.2mm相当に換算されたアブソーバンスで表記した。
1740〜1800cm−1の吸収ピークの強度は、アブソーバンス表記にて、1740〜1800cm−1に吸収ピークが観察できる場合は、その吸収ピークトップの強度を、1730cm−1と1810cm−1の2点の強度を結んだ2点間の線からの垂直高さから求め、厚さ0.2mmに換算されたアブソーバンスで表記した。
【0040】
[ムーニー粘度]
JIS K6300に準じて、直径38.1mm、厚さ5.54mmの大ローターを用い、100℃で、予熱時間を1分、ローター回転時間を4分に設定して測定した。
[金型離型性]
金型離型力の測定は、綺麗に磨き上げ脱脂した50×130×1mmの平板金型を使用して、離型剤を使用せずに170℃で10分間かけてプレス架橋し、終了後すぐに幅50mmのサンプルをクリップでつかみ、縦130mmの方向へ金型と垂直に離型する力を、プルゲージで測定した。測定は25回繰り返され、その平均値で表記した。単位はg/50mmである。また金型離型の簡便な評価基準として、離型中に固着部分があって裂けてしまった場合は「×」(不良)、裂けずに一定の力で離型できた場合は「○」(良好)と記載した。
【0041】
[架橋性]
含フッ素エラストマー組成物は、架橋特性測定機(RPA、アルファーテクノロジーズ社製)を用いて177℃で12分間、振幅3度の条件にて架橋特性を測定した。MHはトルクの最大値を示し、MLはトルクの最小値を示し、MH−MLは架強度(加硫度ともいう。)を示す。
【0042】
(実施例1)
TFE/P共重合体(共重合組成:TFE/P=56/44(モル%)、ムーニー粘度105)100部に対し、ジクミルパーオキサイド(パークミルD、日本油脂社製、1分間半減期温度175.2℃)1部を添加し2ロールにより混合されたものを、300℃に設定された単軸押出機に投入し、滞留時間2分で押し出し、架橋性含フッ素エラストマーを得た。得られた架橋性含フッ素エラストマーの赤外吸収スペクトルを図1に示した。
【0043】
(実施例2〜3)
使用した有機過酸化物のみを変更した以外は、実施例1と同様の手法で、表1のような条件で処理を行い、架橋性含フッ素エラストマーを得た。実施例2では、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド(パーブチルC、日本油脂社製、1分間半減期温度173.3℃)を使用した。実施例3では1.3-ビス(ターシャリーブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(パーブチルP、日本油脂社製、1分間半減期温度175.4℃)を使用した。
【0044】
(実施例4〜5)
使用する有機過酸化物および熱処理条件を変更した以外は、実施例1と同様の手法で、表1のような条件で処理を行い、架橋性含フッ素エラストマーを得た。実施例5では、ジターシャリーブチルパーオキサイド(パーブチルD、日本油脂社製、1分間半減期温度185.9℃)を使用した。
【0045】
(比較例1)
実施例1で用いたTFE/P共重合体を、300℃に設定された単軸押出機に投入し、滞留時間2分で押し出した。得られたTFE/P共重合体の赤外吸収スペクトルを図1に示した。
(比較例2)
実施例1で用いたTFE/P共重合体を300℃のオーブンを用いて15時間熱処理をした。得られたTFE/P共重合体の赤外吸収スペクトルを図1に示した。
(比較例3)
実施例1で用いたTFE/P共重合体の赤外吸収スペクトルを図1に示した。
【0046】
(実施例6〜10)
上記実施例1〜5で製造された架橋性含フッ素エラストマーを用いて、表2に示す成分および配合量に従い、各種の配合材料を2ロールで均一に混合して含フッ素エラストマー組成物を製造した。これらの含フッ素エラストマー組成物の架橋性を測定した。また、これら含フッ素エラストマー組成物は170℃で20分間プレス架橋した後、オーブン中において200℃で4時間の条件で二次架橋をした。
【0047】
(比較例4)
上記比較例1で得た含フッ素エラストマーを用いて、表2に示す成分および配合量に従い、各種の配合材料を2ロールで均一に混合して含フッ素エラストマー組成物を製造した。この含フッ素エラストマー組成物を実施例4〜6と同様の条件で架橋したが、架橋せず、架橋体を形成しなかった。
(比較例5)
上記比較例2で得た含フッ素エラストマーを用いて表2に示す成分および配合量に従い、各種の配合材料を2ロールで均一に混合して含フッ素エラストマー組成物を製造した。
この含フッ素エラストマー組成物を実施例4〜6と同様の条件で架橋した。架橋体は金型に対する固着が大きく、金型離型性が不良であった。
(比較例6)
上記比較例3の含フッ素エラストマーを用いて表2に示す成分および配合量に従い、各種の配合材料を2ロールで均一に混合して含フッ素エラストマー組成物を製造した。この含フッ素エラストマー組成物を実施例4〜6と同様の条件で架橋したが、架橋せず、架橋体を形成しなかった。
【0048】
(実施例11)
上記実施例1で得られた架橋性含フッ素エラストマーを用いて押出チューブを作成し、20kGyのγ線を照射して架橋させると、良好なチューブ架橋体が得られる。
(実施例12)
上記実施例1で得られた架橋性含フッ素エラストマーと、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(FluonETFE C−88AX、旭硝子社製)、及びトリアリルイソシアヌレート(TAIC、日本化成社製)を質量比が50/50/5の割合で混合し、これを押出成形で電線に被覆した成形体を作成し、100kGyのγ線を照射して架橋させると、良好な被覆された電線が得られる。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の架橋性含フッ素エラストマーおよびその組成物から得られる架橋ゴム成形品は、シール、パッキン、シート、パイプ、ロッド、チューブ、アングル、チャンネル、引布、塗布板、電線被覆材、異形品、特殊成形品、スポンジ状ラバー等の形状に成形加工されたものである。具体的な用途例としては、高耐熱性電線、耐薬品性電線、高絶縁性電線、高圧送電線、車両用ケーブル、航空機用ケーブル、船舶用ケーブル、耐薬品性ホース、耐熱性ホース、耐薬品性シール材、耐熱性シール材、車両用オイルシール、航空機用オイルシール、船舶用オイルシール、車両用シャフトシール、航空機用シャフトシール、船舶用シャフトシール、耐薬品性パッキン、耐熱性パッキン、石油掘削機器部品、石油化学プラント機器部品、石油輸送機器部品、半導体製造装置部品、液晶ディスプレイ製造装置部品、食品製造装置部品、飲料製造装置部品、医薬品製造装置部品などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の架橋性含フッ素エラストマーの一例及び従来技術の含フッ素エラストマーの赤外吸収スペクトルを示したチャート図である。
【図2】図1の赤外吸収スペクトルにおける各吸収ピークトップの強度を求める方法を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素エラストマー(A)と有機過酸化物(B)との混合物を110〜380℃で10秒〜3時間熱処理して得られる、ムーニー粘度が20〜300であることを特徴とする架橋性含フッ素エラストマー。
【請求項2】
架橋性含フッ素エラストマーの赤外吸収スペクトルが、1640〜1700cm−1に吸収ピークを有する請求項1に記載の架橋性含フッ素エラストマー。
【請求項3】
アブソーバンスで表記した赤外吸収スペクトルの1640〜1700cm−1の吸収ピークの強度が0.01〜5.0である請求項2に記載の架橋性含フッ素エラストマー。
【請求項4】
架橋性含フッ素エラストマーのアブソーバンスで表記した赤外吸収スペクトルが、1740〜1800cm−1に吸収ピークを有しないか、又は1740〜1800cm−1に吸収ピークの強度が2.0以下である吸収ピークを有する請求項1〜3のいずれかに記載の架橋性含フッ素エラストマー。
【請求項5】
有機過酸化物(B)の混合割合が、含フッ素エラストマー(A)の100質量部に対して0.1〜10質量部である請求項1〜4のいずれかに記載の架橋性含フッ素エラストマー。
【請求項6】
含フッ素エラストマー(A)がテトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体である請求項1〜5のいずれかに記載の架橋性含フッ素エラストマー。
【請求項7】
有機過酸化物(B)の1分間半減期温度が110℃以上である請求項1〜6のいずれかに記載の架橋性含フッ素エラストマー。
【請求項8】
含フッ素エラストマー(A)と有機過酸化物(B)とを110〜380℃で10秒〜3時間、熱処理することを特徴とする架橋性含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項9】
含フッ素エラストマー(A)と有機過酸化物(B)とを、押出機を用いて混練する請求項8に記載の架橋性含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の架橋性含フッ素エラストマー、加硫剤(C)、及び加硫助剤(D)を含有することを特徴とする含フッ素エラストマー組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の含フッ素エラストマー組成物を架橋させてなる架橋ゴム成形品。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載の架橋性含フッ素エラストマーに電離性放射線を照射して架橋させてなる架橋ゴム成形品。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−1875(P2008−1875A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241972(P2006−241972)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】