説明

架空線の絶縁支持部材及び電気設備用建屋

【課題】低廉なコストで建屋の開口部を容易に密閉して架空線からの所定の引き込みを実現できる架空線の絶縁支持部材を提供する。
【解決手段】円板状の絶縁部材からなる基板12と、同心円状に配設された凸部を有して前記基板12の両面にそれぞれ配設された絶縁部材からなる沿面部13,14と、前記基板12の中心部を貫通して前記基板12に配設され架空線と屋内への引込線とを接続するための接続部15とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は架空線の絶縁支持部材及び電気設備用建屋に関し、特に開口部を介して架空送電線を引き込んで建屋内の電気機器に接続する場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
架空送電線と地中送電線(主に海底ケーブル)とを接続する場合、専用の送電線用建屋(ケーブルハウス)を設け、この送電線用建屋内で両者を接続する構造を採るものがある。図4は従来技術に係るこの種の送電線用建屋の一例を概念的に示す説明図である。
【0003】
同図に示すように架空送電線1は引込み線2を介してケーブル終端箱3内で海底ケーブル4に接続されている。ここで、ケーブル終端箱3はこれを守るため架台5上に載置されて建屋6内に配設されている。すなわち、海底ケーブル4は立ち上げられてそのケーブルヘッドがケーブル終端箱3内に臨んでいる。ここで建屋6の外壁には斜め上方に向けて、また開口部7の下側枠体には上方に向けて碍子8,9が固定されており、引込み線2は碍子8,9の上端で支持されつつケーブル終端箱3上に配設された碍子10を介してケーブル終端箱3内に引き込まれている。ここで、図4には一相分のみを示しているが、同様の構成となっている残りの二相も図4の紙面に直角方向に並設してある。
【0004】
なお、架空送電線と地中送電線とを接続する接続部分の構造を開示する先行技術として特許文献1及び特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−196753号公報
【特許文献2】特開2005−269961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の如き従来技術においては、架空送電線1の建屋6内への引き込みは開口部7を介して行うようになっている。架空送電線1には、高電圧(例えば110kV)が印加されているので、開口部7を引込み線2が通る場合でも建屋6との間に充分な絶縁距離を確保しておく必要がある。このため、開口部7はある程度広い開口面積が必要になる。また、各相間は所定の絶縁距離を保持し得るよう開口部7の水平方向で離間させて隣接する碍子9が配設されているので、隣接する碍子9間には開口部7内で大きな空間ができてしまう。この結果、開口部7を介して鳩等の鳥類が建屋6内に侵入し、その糞による害が問題となっている。すなわち、鳥の糞により碍子10、ケーブル終端箱3、架台5等が汚損され、金属部分の腐食による劣化等が生起されるばかりでなく、建屋6内の衛生状態も悪化し、悪臭の発生も問題となる。このため、清掃に多大な費用と手間が必要になる。ちなみに、清掃は送電を一時停止させて行う必要があるため、これに伴う手間も煩雑なものとなり、また別途の費用も発生する。
【0007】
一方、開口部7を密閉してしまえば鳥類の建屋6内への侵入を防止することはできる。ところが、この場合には、建屋6の壁面を貫通する貫通ブッシングを設け、この貫通ブッシングで充分な絶縁を確保した上で引込み線2を建屋6内に導入する必要がある。かかる貫通ブッシングの多くは磁器碍管を使用し、内部絶縁には絶縁油を使用しているので、重量も大きく、また長大で高価なものとなってしまう。したがって、風雪による揺れ等、大きな外力が作用するこの種の貫通ブッシングを建屋6の貫通部で支持・固定するためには建屋6の強度を充分大きなものとする必要がある。そこで、この点とも相俟って、この種の貫通ブッシングを使用しての建屋6の密閉化はコストの面で問題がある。
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑み、低廉なコストで建屋の開口部を容易に密閉して架空線からの所定の引き込みを実現できる架空線の絶縁支持部材及び電気設備用建屋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
円板状の絶縁部材からなる基板と、同心円状に配設された凸部を有して前記基板の両面にそれぞれ配設された絶縁部材からなる沿面部と、前記基板の中心部を貫通して前記基板に配設され架空線と屋内への引込線とを接続するための接続部とを有することを特徴とする架空線の絶縁支持部材にある。
【0010】
本態様によれば、充電部である接続部が円板状の絶縁部材の中心にあるので、充電部から絶縁物を介して対地に対し均等な絶縁距離を確保することができ、しかも沿面部が同心円状に配設された凸部を有しているので、十分な沿面距離を確保することができる。この結果、当該絶縁支持部材が実質的に平板状碍子として機能し、平板上の部材で充電部の良好な絶縁を確保することができる。したがって、当該絶縁支持部材に対する曲げ荷重や機器重量の軽減を図ることが可能となる。
【0011】
本発明の第2の態様は、
第1の態様に記載する架空線の絶縁支持部材において、前記沿面部の径方向に亘る断面形状が前記径方向に連続する三角形状となっていることを特徴とする架空線の絶縁支持部材にある。
【0012】
本態様によれば、必要な沿面距離を容易に確保することができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、
第1又は第2の態様に記載する架空線の絶縁支持部材において、前記基板を磁器で形成するとともに、前記沿面部を樹脂で形成したことを特徴とする架空線の絶縁支持部材にある。
【0014】
本態様によれば、絶縁支持部材としての機械的な強度は磁器部分で確保した上で、必要な沿面距離は軽量の樹脂部材で確保しているので、充分な機械的強度とともに可及的な軽量化を実現できる。
【0015】
本発明の第4の態様は、
内部に収納する電気機器に対し架空線から電線を引き込むための開口部を有する電気設備用建屋であって、一方の面が前記電気設備用建屋の外部に臨み、他方の面が前記電気設備用建屋の内部に臨んで前記開口部に配設された第1乃至第3の態様の何れか一つに記載する絶縁支持部材と、前記開口部を密閉する蓋部材とを有することを特徴とする電気設備用建屋にある。
【0016】
本態様によれば、絶縁支持部材と蓋部材とで建屋の開口部を確実に閉塞しているので、建屋内部の良好な密閉を実現でき、鳥等の建屋内部への侵入を防止して糞による害を完全に除去することができる。一方、絶縁支持部材は軽量であり、しかも平板状の部材であるので曲げモーメント等の外力の作用も可及的に低減でき、その分絶縁支持部材を支持する建屋の構造的負担を低減でき廉価なコストで必要な密閉構造を実現し得る。
【0017】
本発明の第5の態様は、
第3の態様に記載する電気設備用建屋において、前記電気機器が前記架空線である架空送電線と海底ケーブルとの接続部を構成するケーブル終端箱であることを特徴とする電気設備用建屋にある。
【0018】
本態様によれば、ケーブル終端箱を良好な環境で適切に保護することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、充分な沿面距離を確保して均一且つ良好な対地絶縁を容易に確保することができるので、建屋の開口部を適切に密閉することができ、低廉なコストで的確に鳥等の侵入による糞害を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る絶縁支持部材を示す図で、(a)はその平面図、(b)はそのA−A′線断面図である。
【図2】図1に示す絶縁支持部材と一体となった蓋部材で開口部を密閉した状態で送電線用建屋を概念的に示す説明図である。
【図3】図2の開口部を抽出して示す図で、(a)は建屋の内部から見た図、(b)は(a)のB−B′線断面図である。
【図4】従来技術に係る送電線用建屋を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明の実施の形態に係る絶縁支持部材を示す図で、(a)はその平面図、(b)はそのA−A′線断面図である。両図に示すように、絶縁支持部材11は円板状の絶縁部材からなる基板12と、同心円状に配設された凸部を有して基板12の両面にそれぞれ配設された絶縁部材からなる沿面部13、14と、基板12の中心部を貫通して基板12に配設され架空送電線(図1には図示せず)と屋内への引込線(図1には図示せず)とを接続するための導電部材からなる接続部15とを有する。ここで、基板12は他の構造物(例えば建屋の梁等)に対する固定部となるので所定の強度が必要とされる。したがって、ある程度の強度を有する硬質の絶縁部材であることが求められる点を考慮すれば磁器が好適である。基板12の周縁部の相対向する位置には締結部材であるボルト(図示せず)を挿通し得る孔16が形成された取付部材17が一体的に固着されている。
【0023】
沿面部13,14は沿面距離を大きくするため、前述の如く同心円状に配設された環状の凸部を有しているが、かかる凸部は基板12の径方向に亘る断面形状が前記径方向に連続する三角形状とすることで容易且つ的確に形成することができる。ただ、このような三角形状に限定するものでは勿論ない。充電部からの所定の沿面距離が確保される形状であれば特別な限定はない。ただ、当該絶縁支持部材11の基板12の径を可及的に小さくするのが好ましいので、この観点からの形状の検討は必要である。また、絶縁支持部材11の重量の軽量化の観点から沿面部13,14は可及的な軽量化を図ることが肝要である。このため、本形態では、良好な絶縁性能を有するとともに軽量でもあるとの観点から樹脂、さらに具体的にはエポキシ樹脂で沿面部13,14を形成した。本形態の沿面部13,14は基板12の両面に、それぞれ接着材等で固着される。
【0024】
なお、本形態では上述の如く基板12と沿面部13,14とを別部材で形成したが基板12に要求される機械的強度、及び沿面部13,14に要求される軽量化を同時に図ることができる材料があれば、両者を一体的に成型することもできる。
【0025】
かかる絶縁支持部材11は、充電部である接続部15が円板状の絶縁部材の中心にあるので、充電部から絶縁物を介して対地に対し均等な絶縁距離を確保することができる。また、沿面部13が同心円状に配設された凸部を有しているので、十分な沿面距離を容易に確保することができる。ちなみに、必要な沿面距離は接続部15で支持する電線に印加されている電圧階級により定まるパラメータであり、基板12の径を小さくする必要がある場合には凸部の高さを高くして沿面距離を稼ぎ、基板12の径を大きくとれる場合には凸部の高さを低くしても必要な沿面距離を確保することができる。
【0026】
図2は図1に示す絶縁支持部材と一体となった蓋部材で開口部を密閉した本発明の他の実施の形態に係る送電線用建屋を概念的に示す説明図である。なお、図2中図4に示す従来技術と同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0027】
図2に示すように本形態においては、架空送電線1に接続された引込み線2が絶縁支持部材11の接続部15を貫通して建屋6内に引き込まれ、従来と同様にケーブル終端箱3内で海底ケーブル4に接続されている。一方、その開口部7は絶縁支持部材11が貫通する蓋部材19で完全に密閉されている。かかる密閉構造の詳細を図3を追加して説明する。
【0028】
図3は図2の開口部を抽出して示す図で、(a)は建屋の内部から見た図、(b)は(a)のB−B′線断面図である。両図に明示するように、通常送電系統は三相であるので絶縁支持部材11も各相に対応させて設けてある。すなわち、3個の絶縁支持部材11は、一方の面(沿面部13側)が建屋6の外部に臨み、他方の面(沿面部14側)が建屋6の内部に臨んでおり、開口部7において水平方向に並べて配設されている。ここで、各絶縁支持部材11は建屋の構造部材或いは後で地面に立設したL型アングル等で形成した柱状部材20に取付部材17を介してボルト等の締結部材21で固定してある。
【0029】
かかる本形態によれば、建屋6は完全に密閉されるので、開口部7を介して鳥等が建屋6内に侵入するのを完全に防止することができる。一方、絶縁支持部材11は従来の貫通ブッシンに較べればその重量を格段に軽量化することができるので、その取付けに要する建屋6側の柱状部材20の機械的強度が軽減され、しかも絶縁支持部材11は貫通ブッシングに較べれば実質的に平板上の部材と見なすことができるので、風雪等に起因する外力に対してもその影響を可及的に低減し得る。
【0030】
かかる本形態の密閉構造は、絶縁支持部材11を取付けることができる既存の柱状部材20がある場合はこれに、また既存の柱状部材20がない場合には建屋6内に柱状部材20を立設してこれに固着するが、この際には、先ず絶縁支持部材11を開口部7の位置迄吊り上げて柱状部材20に固定し、この状態で引込み線2を接続部15を介して接続し、その後蓋部材19で開口部7を密閉すれば良い。
【0031】
なお、本形態は、既存の建屋6の開口部7を絶縁支持部材11を利用して密閉する場合として説明したが、絶縁支持部材11は蓋部材19と一体的に組み合わせて用いる場合に限る必要はない。建屋6の建設の最初から適用することも勿論可能である。この場合には建屋6の壁面に絶縁支持部材11を貫通させて配設すれば良い。
【0032】
また、上記実施の形態では送電線用建屋の密閉構造に関して説明したが、これに限るものではない。引込み線を介して外部から架空線を引き込んで建屋内の電気機器に接続する場合には一般的に適用することができ、同様の効果を期待することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は送電線を所有する電力業界及びその設備を製造・販売する電気機器業界等の産業分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 架空送電線
2 引込み線
3 ケーブル終端箱
4 海底ケーブル
6 建屋
7 開口部
11 絶縁支持部材
12 基板
13,14 沿面部
15 接続部
19 蓋部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状の絶縁部材からなる基板と、
同心円状に配設された凸部を有して前記基板の両面にそれぞれ配設された絶縁部材からなる沿面部と、
前記基板の中心部を貫通して前記基板に配設され架空線と屋内への引込線とを接続するための接続部とを有することを特徴とする架空線の絶縁支持部材。
【請求項2】
請求項1に記載する架空線の絶縁支持部材において、
前記沿面部の径方向に亘る断面形状が前記径方向に連続する三角形状となっていることを特徴とする架空線の絶縁支持部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する架空線の絶縁支持部材において、
前記基板を磁器で形成するとともに、前記沿面部を樹脂で形成したことを特徴とする架空線の絶縁支持部材。
【請求項4】
内部に収納する電気機器に対し架空線から電線を引き込むための開口部を有する電気設備用建屋であって、
一方の面が前記電気設備用建屋の外部に臨み、他方の面が前記電気設備用建屋の内部に臨んで前記開口部に配設された請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載する架空線の絶縁支持部材と、前記開口部を密閉する蓋部材とを有することを特徴とする電気設備用建屋。
【請求項5】
請求項3に記載する電気設備用建屋において、
前記電気機器が前記架空線である架空送電線と海底ケーブルとの接続部を構成するケーブル終端箱であることを特徴とする電気設備用建屋。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−192492(P2011−192492A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56790(P2010−56790)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】