説明

架空線用張力表示型ターンバックル

【課題】堅牢で機能が安定しており、昼間帯に地上から目視で容易に張力の指示数値を確認し、簡易に張力調整でき、安価に製作できる張力表示型のターンバックルを提供する。
【解決手段】張力表示型ターンバックル1は、軸線方向に伸縮調整可能な本体2、その一端側に接続されるばねケース3、その内部に設けられるばね4、それの伸縮に伴う本体2とばねケース3との相対変位を架空線Wの張力の変化として目視可能に表示する張力表示手段5を具備する。本体2は、順次テレスコピックに螺挿された外筒6、内筒7、ロッド8を具備し、内筒7の軸周りの正逆回転によって軸線方向に伸縮する。ばねケース3は、外筒6を軸線方向相対変位自在、軸周り回転不可能に受け入れ、軸線方向外方端部が引き留め部材に接続される。ばね4は、ばねケース3と外筒6との間に介設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電車線等の架空線の張力を調整するために、架空線の端部と電柱のような引き留め部材との間に介設される張力表示型のターンバックルに関する。
【背景技術】
【0002】
架空線である電車線を構成する設備のうち、その張力がパンタグラフとの接触に影響を与えるものとして、吊架線とトロリ線がある。パンタグラフが直接接触するトロリ線は、自動張力調整装置によって、温度変化に対し張力が追従できる構成となっているが、吊架線については、自動張力調整装置が設備されないことが多い。しかし、吊架線の張力低下も間接的にパンタグラフの離線率に影響を与えることから、定期的にその張力を確認した上で、これを所定の値に調整する必要がある。吊架線の引き留め側には、ターンバックルが設備され、そのロッドの長さを調整することにより張力を調整できるようになっている。この場合、張力の調整は、ターンバックルと吊架線との間にテンションメータを介在させ、ターンバックルを伸縮させながら、テンションメータの示す張力の数値を確認して行われる。テンションメータ用いずに、作業者の勘に頼って、簡易に調整が行われることもある。
一方、吊架線等の電車線の張力を測定して電気信号を発する張力センサと、張力信号を地上に送出する伝送手段と、伝送手段から伝えられた張力信号を監視する監視手段と、張力信号に応じて適宜張力を変化させる張力可変手段とを備えた架空電線の張力測定・可変装置が特許文献1に開示されている。張力センサとしては、歪みゲージ式、あるいは磁歪式のものが例示され、張力可変手段としては、在来の手動式ワイヤターンバックル、あるいは電動式のワイヤターンバックルを用いることが例示されている。
また、張力計一体型のターンバックルが、特許文献2に開示されている。これは、連結具を有する対向一対のボルトをターンバックルで引き寄せる引き締め具の長手方向途中に金属製のリングを直列に取付け、そのリングに歪ゲージを貼付けたもので、引き締め力を管理しながら引き締め作業を行う用途、例えば電線等の架線張力の調整等に利用すると特に大きな効果を期待できるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−72191号公報
【特許文献2】特開平7−294350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の張力の調整方法のうち、テンションメータを介在させて行う方法は、比較的大がかりな工事となるため、夜間の列車が運行されない時間帯に行わなければならず、大きな負担を強いることになる。作業者の勘に頼って行うのは、言うまでもなく望ましくない。
特許文献1に記載された架空電線の張力測定・可変装置は、設備に比較的大きな費用を伴うこともあり、現在まで実用化されていない。
特許文献2に記載されたターンバックル一体型の張力計は、その張力を地上から監視できるようにするための設備に比較的大きな費用を伴うし、このターンバックルを常設の設備として用いるのには強度上、解決しなければならない問題があり、これも現在まで実用化されていない。
したがって、この出願に係る発明は、従来設備と大きな構造変化がなく、したがって、堅牢で機能が安定しており、昼間に、地上から目視で比較的容易に張力の指示数値を確認し、簡易に張力調整でき、しかも比較的安価に製作できる張力表示型のターンバックルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、添付図面の符号を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するためのこの出願に係る発明の張力表示型ターンバックル1は、軸線方向に伸縮調整可能な本体2と、この本体2の一端側に接続されるばねケース3と、ばねケース3内に設け設けられ架空線Wの張力加重に応じてほぼリニアに伸縮するばね4と、このばね4の伸縮に伴う本体2とばねケース3との相対変位を架空線Wの張力の変化として目視可能に表示する張力表示手段5とを具備する。本体2は、順次テレスコピックに螺挿された外筒6、内筒7、ロッド8を具備し、ロッド8の軸線方向外方端部が架空線Wに接続され、内筒7の軸周りの正逆回転によって軸線方向に伸縮可能である。ばねケース3は、本体2の外筒6の軸線方向外方端部を所定範囲で軸線方向相対変位自在、軸周り回転不可能に受け入れ、軸線方向外方端部が引き留め部材に接続される。ばね4は、ばねケース3と外筒6との間に介設される。
上記張力表示型ターンバックル1の張力表示手段5は、外筒6とばねケース3との相対変位を検知する変位検知機構10と、変位検知機構10が検知した変位を増幅する変位増幅機構11と、増幅された変位を架空線Wの張力の変化として目視可能に表示する張力表示機構12とを具備するものとすることができる。
上記張力表示型ターンバックル1における変位検知機構10は、外筒6に固着され、外筒6から軸線直交方向に突出する計測軸10aと、ばねケース3に固着され計測軸10aを相対移動自在に受け入れるケーシング10bと、このケーシング10b内に直線往復移動自在に設けられ、計測軸10aに接続されて当該計測軸10aに従動する従動部材10cを具備するものとすることができる。
上記張力表示型ターンバックル1における変位検知機構10は、外筒6に固着され外筒6から軸線直交方向に突出する計測軸10aと、ばねケース3に固着され計測軸10aを相対移動自在に受け入れるケーシング10bと、このケーシング10b内に直線往復移動自在に設けられ計測軸10aに接続されて当該計測軸10aに従動するラックギア10cとを具備し、また変位増幅機構11は、ラックギア10cに噛み合って回転するようにケーシング10b内に支持された歯車群を具備し、さらに張力表示機構12は、歯車群の出力軸11aに固着された指針12aと、ケーシング10bの外に固定され、指針12aの回転角度に対応した架空線Wの張力値を示す目盛り12cが付された表示板12bとを具備するものとすることができる。
また、上記張力表示型ターンバックル1における外筒6は、軸線方向外方端部に、軸線方向に延出して先端にばね受け鍔6dを有するばね受けロッド6bを具備するものとし、ばねケース3は、軸線方向内方端に開放し外方端が閉塞し内部に外筒6のばね受けロッド6bを軸線方向相対移動自在に受け入れる筒状部3aと、閉塞端の外側に延出する引き手3bとを具備するものとし、またばねケース3の筒状部3aは、開放端側に外筒6の端部外周に軸線方向相対移動自在で軸周りには回転不可能に嵌合するスリーブ3cと、筒状部3a内に挿入されたばね受けロッド6bのばね受け鍔6dと対向して当該ばね受け鍔6dとの間にばね4を保持する内周フランジ3dとを具備するものとすることができる。
【発明の効果】
【0006】
この出願に係る発明の張力表示型のターンバックルによれば、荷重を負担する部分にばねを組み入れて全体をわずかに伸縮させる構造とするだけで、従来長く用いられているターンバックルと大きな構造変化がなく、したがって、小型、堅牢で機能が安定していて、比較的安価に製作できる。張力表示手段は、ばねの伸縮動に対応して張力値を表示する構成であるから、機構が単純で、しかも、確実に張力値を示すことができる。昼間に、地上から、目視で比較的容易に張力の指示数値を確認することができ、その場で、簡易に張力調整を行える。夜間の大がかりな工事は不要である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係るターンバックルを示すもので、(A)は平面図、(B)は正面図である。
【図2】図1のターンバックルの一部の平面図である。
【図3】図1のターンバックルの一部の正面図である。
【図4】図1のターンバックルの一部の側面図である。
【図5】図2におけるV−V断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
張力表示型のターンバックル1は、吊架線のような架空線Wの端部と図示しない電柱のような引き留め部材との間に介設され、軸線方向の伸縮によって架空線Wの張力を調整するターンバックルである。
【0009】
ターンバックル1は、軸線方向に伸縮可能な本体2と、この本体2の一端側に接続されるばねケース3と、ばねケース3内に設けられ、架空線Wの張力加重に応じてほぼリニアに伸縮するばね4と、このばねの伸縮に伴う本体2とばねケース3との相対変位を架空線Wの張力の変化として目視可能に表示する張力表示手段5とを具備する。
【0010】
本体2は、順次テレスコピックに螺挿された外筒6、内筒7、ロッド8を具備する。外筒6は、軸線方向内方(図1において右方)の筒部6aと軸線方向外方(図1において左方)のばね受けロッド6bとを具備し、筒部6aの内周にねじ6cを有する。内筒7は、外筒6の内周ねじ6cに螺合する外周ねじ7aを有すると共に、内周には逆方向のねじ7bを有する。ロッド8は、軸線方向内方端側に、内筒7の内周ねじ7bに螺合する外周ねじ8aを有し、外方端には架空線Wに接続するための引き手8bを有する。したがって、本体1は、内筒7を軸周りに正逆回転させることによって、軸線方向に伸縮させることができ、これによって架空線Wの張力を調整することができる。
【0011】
外筒6は、筒部6aの軸線方向外方端にばね受けロッド6bを具備する。ばね受けロッド6bは、筒部6aの中心から、軸線方向に延出して、先端にばね受け鍔6dを有する。ばね受けロッド6bの周りの筒部6aの環状端面には、外周に複数の摺動突起9a(図5)を有する回り止めリング9が固着される。
【0012】
ばねケース3は、軸線方向内方の筒状部3aと、軸線方向外方の引き手3bとを具備する。筒状部3aは、軸線方向内方端側に開放し、外方端が閉塞しており、閉塞端の外方に引き手3bが延出する。筒状部3aは、外筒のばね受けロッド6bを軸線方向相対移動自在に受け入れる。筒状部3aは、開放端側に、外筒6の端部外周に嵌合するスリーブ3cと、内周フランジ3dとを具備する。スリーブ3cの内周は、外筒の回り止めリング9の外周形状に合致する異形断面に形成される。従って、ばねケース3は、外筒6に対して軸線方向には、相対移動自在であるが、軸周りには回転不可能である。
【0013】
複数の皿ばね4が、ばねケース3の筒状部3a内に挿入される。ばね4は、外筒6のばね受け鍔6dとばねケース3の内周フランジ3dとの間に保持される。
【0014】
張力表示手段5は、外筒6とばねケース3との相対変位を検知する変位検知機構10と、変位検知機構が検知した変位を増幅する変位増幅機構11と、増幅された変位を架空線Wの張力の変化として目視可能に表示する張力表示機構12とを具備する。
【0015】
変位検知機構10は、計測軸10aと、ケーシング10bと、従動部材10cとを具備する。計測軸10aは、外筒6の外方端部付近に固着され、外筒6から軸線直交方向に突出する。ケーシング10bは、ばねケース3の外側面に固着され、計測軸10aを相対移動自在に受け入れる。従動部材10cとしてのラックギアは、ケーシング10b内に直線往復移動自在に設けられ、計測軸10aに接続され、これに従動する。
【0016】
変位増幅機構11は、ラックギア10cに噛み合って回転するようにケーシング10b内に支持された歯車群を具備する。
【0017】
張力表示機構12は、変位増幅機構11である歯車群の出力軸11aに固着された指針12aと、ケーシング10bの外に固定された表示板12bとを具備する。表示板12bには、指針12aの回転角度に対応した架空線Wの張力値を示す目盛り12cが付される。
【0018】
ターンバックル1は、ロッドの引き手8bを架空線Wに、またばねケースの引き手3bを図示しない引き留め部材に、それぞれ接続して設備される。内筒7を正逆回転させることにより、本体2を伸縮させ、架空線Wの張力を調整する。例えば、本体2を収縮させると、架空線Wの張力が増大する。張力の増大に従って、ばね4が圧縮され、外筒6とばねケース3との間に、張力荷重に比例した軸線方向の相対変位が生じる。ばね4は、架空線Wの張力加重をコンスタントに支持するのに支障を生じないばね常数のものが選ばれる。外筒6とばねケース3との間の相対変位に伴い、計測軸10aがラックギア10cと共にケーシング10b内を移動する。この動きは、図示の実施形態において、最大でも7.5mm程度であるが、歯車群11により回転運動に変換され、増幅されて指針12aに伝えられる。指針12aは、表示板12b上に、現在の吊架線Wの張力値を指示する。
【0019】
なお、ケーシング10bに対する計測軸10aの直線運動を回転運動に変換することなく、表示板上に直線的に付された目盛りにそのまま表示する構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0020】
1 ターンバックル
2 ターンバックル本体
3 ばねケース
3a 筒状部
3b 引き手
3c スリーブ
3d 内周フランジ
4 ばね
5 張力表示手段
6 外筒
6a 筒部
6b ばね受けロッド
6c 内周ねじ
6d ばね受け鍔
7 内筒
7a 外周ねじ
7b 内周ねじ
8 ロッド
8a 外周ねじ
8b 引き手
9 回り止めリング
9a 摺動突起
10 変位検知機構
10a 計測軸
10b ケーシング
10c 従動部材(ラックギア)
11 変位増幅機構(ギア群)
11a 出力軸
12 張力表示機構
12a 指針
12b 表示板
12c 目盛り
W 架空線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空線の端部と引き留め部材との間に介設され、軸線方向の伸縮によって架空線の張力を調整するターンバックルであって、
順次テレスコピックに螺挿された外筒、内筒、ロッドを具備し、ロッドの軸線方向外方端部が架空線に接続され、内筒の軸周りの正逆回転によって軸線方向に伸縮可能な本体と、
前記外筒の軸線方向外方端部を所定範囲で軸線方向相対変位自在、軸周り回転不可能に受け入れ、軸線方向外方端部が前記引き留め部材に接続されるばねケースと、
前記外筒とばねケースとの間に介設され、架空線の張力加重に応じてほぼリニアに伸縮するばねと、
このばねの伸縮、すなわち前記外筒とばねケースとの相対変位を架空線の張力の変化として目視可能に表示する張力表示手段とを具備することを特徴とする架空線用張力表示型ターンバックル。
【請求項2】
前記張力表示手段は、前記外筒とばねケースとの相対変位を検知する変位検知機構と、
この変位検知機構が検知した変位を増幅する変位増幅機構と、
増幅された変位を架空線の張力の変化として目視可能に表示する張力表示機構とを具備することを特徴とする請求項1に記載の架空線用張力表示型ターンバックル。
【請求項3】
前記変位検知機構は、前記外筒に固着され、外筒から軸線直交方向に突出する計測軸と、
前記ばねケースに固着され前記計測軸を相対移動自在に受け入れるケーシングと、
このケーシング内に直線往復移動自在に設けられ、前記計測軸に接続されて当該計測軸に従動する従動部材を具備することを特徴とする請求項2に記載の架空線用張力表示型ターンバックル。
【請求項4】
前記変位検知機構は、前記外筒に固着され外筒から軸線直交方向に突出する計測軸と、前記ばねケースに固着され計測軸を相対移動自在に受け入れるケーシングと、このケーシング内に直線往復移動自在に設けられ前記計測軸に接続されて当該計測軸に従動するラックギアとを具備し、
前記変位増幅機構は、前記ラックギアに噛み合って回転するように前記ケーシング内に支持された歯車群を具備し、
前記張力表示機構は、前記歯車群の出力軸に固着された指針と、前記ケーシングの外に固定され指針の回転角度に対応した架空線の張力値を示す目盛りが付された表示板とを具備することを特徴とする請求項2に記載の架空線用張力表示型ターンバックル。
【請求項5】
前記外筒は、軸線方向外方端部に、軸線方向に延出して先端にばね受け鍔を有するばね受けロッドを具備し、
前記ばねケースは、軸線方向内方端に開放し外方端が閉塞し内部に前記外筒のばね受けロッドを軸線方向相対移動自在に受け入れる筒状部と、閉塞端の外側に延出する引き手とを具備し、
前記ばねケースの筒状部は、開放端側に、前記外筒の端部外周に軸線方向相対移動自在で軸周りには回転不可能に嵌合するスリーブと、筒状部内に挿入されたばね受けロッドのばね受け鍔と対向して当該ばね受け鍔との間に前記ばねを保持する内周フランジとを具備することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の架空線用張力表示型ターンバックル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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