説明

架空電線の張力測定装置

【課題】 電線の外径に応じて打撃による固有振動数を安定して発生させて電線の張力を測定すること、電線を傷付けることなく確実に装置を取り付けること。
【解決手段】 張力測定装置1を、架空電線T上の所定径間Sの両端に固定する一対の固定部材2と、固定部材2間を連結する連結部材3と、連結部材3上に垂直面上を回転自在に枢支される打撃部材4と、打撃で径間Sに生じる架空電線Tの振動を感知する振動センサ5と、振動センサ5から信号を受けて固有振動数を算出した上で、径間Sの張力を算出する処理装置6とで構成する。固定部材2の電線把持部には架空電線Tを受け入れる湾曲凹部を設ける。振動センサ5は架空電線Tに荷重調整部材18を介して固定する。荷重調整部材18は架空電線T上の打撃による振動の周波数帯域を低くして固有振動数を安定して発生させるために、架空電線Tに応じて選択した質量を持つものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道線路のトロリ線や吊架線あるいは一般電力用送電線等の架空電線の張力をその沿線途上において切断せずに測定する張力測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、架空電線を切断することなく、架空電線の張力を測定する方法として、架空電線上の所定径間の両端に、互いに連結部材によって連結された一対の固定部材を固定し、径間の中央に振動センサを固定し、架空電線Tを打撃して、径間に生じる振動を振動センサで感知して径間の固有振動数を処理装置で算出し、この固有振動数を予め記憶されている張力計算式に代入して径間の張力を算出するものがある(例えば特許文献1参照)。この方法では、電線の素線数が増えて外径が大きくなると打撃による固有振動数を感知し難く、張力の測定が困難になる。固定部材の電線把持部が電線を強固に把持すると電線を傷付けやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−340813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、電線の外径に応じて打撃による固有振動数を安定的に感知することができ、確実に張力を測定し、また装着時に固定部材により電線を傷付けることなく、強固に把持することができる装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明においては、上記課題を解決するため、架空電線T上の所定径間Sの両端に固定及び離脱可能な一対の固定部材2と、これら一対の固定部材2間を連結する連結部材3と、この連結部材3上に起立転倒自在に支持され転倒時に架空電線Tの径間Sを打撃可能な打撃部材4と、架空電線の径間Sの中央に離脱可能に固着され打撃部材4による打撃で径間Sに生じる振動を感知して振動信号を送出する振動センサ5と、この振動センサ5からの振動信号を受けて径間Sの固有振動数を算出しこの固有振動数を予め記憶されている張力計算式に代入して径間Sの張力を算出する処理装置6と、この処理装置6からの算出結果を表示する表示装置7とを具備させて架空電線Tの張力測定装置1を構成した。固定部材2は、架空電線Tを両者間に挟み込むように互いに開閉自在に一端部が蝶着され、架空電線の外周に対応する湾曲凹部8a,9aをそれぞれ備えた一対の把持部材8,9を他端部が互いに係合可能に構成した。架空電線Tの径間Sには、架空電線Tに応じて荷重を調整し、振動センサ5が感知可能な振動を発生させる荷重調整部材18を取り付ける。
荷重調整部材18は、架空電線Tを相互間に挟み込むように開閉可能に対向し、一方に振動センサ5が固定され、架空電線Tに応じて異なる複数の質量を持って選択可能な一対の重量片19,19で構成した。
また、一対の把持部材8,9の湾曲凹部8a,9aの両端縁8b,9bを面取りして架空電線Tへの食い込みを防いだ。
【発明の効果】
【0006】
この発明においては、架空電線T上の径間Sを打撃部材4で打撃し、この打撃で径間Sに生じる架空電線Tの振動を振動センサ5で感知して振動信号を処理装置6へ送出し、処理装置6が、振動信号を受けて径間Sの固有振動数を算出すると共に、この固有振動数を予め記憶されている張力計算式に代入して径間Sの張力を算出し、表示装置7に表示することができる。電線の外径が大きく素線数が多くても、架空電線Tに応じて荷重調整部材18の質量を適宜選択することにより振動を安定的に発生するので振動センサ5が確実に感知して、張力を測定することができる。固定部材2は、架空電線Tを両者間に挟み込むように互いに開閉自在に蝶着された一対の把持部材8,9の湾曲凹部8a,9aが架空電線Tの外周にそって把持するので、電線Tを傷付けることなく強固に固定できる。
荷重調整部材18は異なる質量を持つものを複数用意しておけば、架空電線Tに応じて適宜選択でき、効率よく簡単にかつ正確な張力の測定作業を行うことができる。
また、湾曲凹部8a,9aの両端縁を面取りすれば、架空電線への食い込みを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る張力測定装置の正面図である。
【図2】張力測定装置の側面図である。
【図3】把持部材の正面図である。
【図4】図1におけるIV−IV断面図である。
【図5】振動センサの正面図である。
【図6】架空電線に応じた振動センサの各種荷重調整部材の正面図である。
【図7】(A)は質量の小さい荷重調整部材を用いた場合の張力と振動数との関係を示すグラフ、(B)は質量の大きい荷重調整部材を用いた場合の張力と振動数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照してこの発明の実施の一形態を説明する。
図1において、張力測定装置1は、一対の固定部材2と、固定部材2間を連結する連結部材3と、連結部材3上に支持された打撃部材4と、振動センサ5と、処理装置6及び表示装置7を具備している。
【0009】
一対の固定部材2は、トロリ線のような架空電線T上の所定径間Sの両端に固定及び離脱可能である。即ち、固定部材2は、図2に示すように、架空電線Tを両側から挟み込むように互いに開閉自在に上端部が蝶着された一対の把持部材8,9の下端部間をボルト・ナット10で締付可能に構成される。把持部材8,9の対向部には、相互間に挟み込む架空電線Tの外周に対応する湾曲凹部8a,9aをそれぞれ備えている。図3に示すように、湾曲凹部8a,9aの両端縁8b,9bは面取りされており、把持部材8,9の対向面から湾曲凹部8a,9aに緩やかに連続して架空電線Tへの食い込みを防ぐようになっている。
【0010】
図1に示すように、一対の固定部材2,2間を連結する連結部材3は、角棒状のアルミ型材で矩形の枠を構成するように結合されたもので、直線状の主フレーム11とコ字状に組まれた補強フレーム12と、フレーム11,12の相互間を結合する結合フレーム13とを具備する。補強フレーム12は、両端が主フレーム11の両端付近に取付板14を介してボルト留めされると共に、主フレーム11との間に渡る結合フレーム13によって結合される。主フレーム11の両端部は、取付ブロック15を介して固定部材2にそれぞれ固定され、架空電線T上への取り付け状態において架空電線Tと所定間隔を置いてこれと平行に配置される。図2に示すように、取付ブロック15は、棚部15a上に主フレーム11が配置され、主フレーム11の側面及び下面をボルト留めする。取付ブロック15の下部には固定部材2の一方の把持部材9がボルト留めされる。
【0011】
打撃部材4は、図1,図4に示すように、ブラケット16とハンマ17とを具備する。ブラケット16は主フレーム11の中間部付近に取り付けられる。ハンマ17の基端はブラケット16に枢支され、主フレーム11に対する垂直面上を回転自在であり、架空電線Tへの取り付け状態において、回転途上で架空電線Tに衝突する。
【0012】
振動センサ5は、図1,図5に示すように、架空電線T上の2つの固定部材2の径間Sの中央に、荷重調整部材18を介して着脱可能に取り付けられる。振動センサ5は、打撃部材4による打撃で径間Sに生じる架空電線Tの振動を感知して振動信号を送出する。荷重調整部材18は、一方に振動センサ5を固定し、架空電線Tを上下に挟み込んで両端部をボルト・ナットで締付可能な一対の重量片19,19で構成される。重量片19は、架空電線T上の打撃による振動の周波数帯域を低くして固有振動数を安定して発生させるために、図6に示すように規格化された異なる複数の架空電線Tに応じて所定の質量を持つものが複数用意されており、架空電線Tに応じて適宜選択する。
【0013】
処理装置6は、振動センサ5からの振動信号を受けて径間Sの固有振動数を算出し、この固有振動数を予め記憶されている張力計算式に代入して径間Sの張力を算出し、これを表示装置7に表示する。
【0014】
架空電線Tにおける所定径間の固有振動数とその張力との間には、相関関係があることが知られている。そこで、架空電線Tの種類ごとに、同一径間における固有振動数と張力との相関関係を実測データから導いてこれを数式化し、処理装置6に記憶させる。例えば、この実施形態の測定装置1を装着した架空電線Tに基準張力から±5kNの範囲で1kNずつ張力を増大するよう負荷をかけ、各張力値での径間Sにおける固有振動数を振動計で実測する。同一種類の架空電線Tについてこの測定を5回行い、データの平均値から回帰曲線を求め、この回帰曲線を張力算出式として処理装置6に記憶させる。振動センサ5からの径間Sの周波数データを処理装置6に送入すれば、計算式に基づいて特定種類の架空電線Tにおける径間の固有振動数と張力を算出し、これを表示装置に表示することができる。
【0015】
この装置を用いて架空電線Tの張力を測定する場合には、まず測定装置1を架空電線Tの任意の位置に装着する。即ち、架空電線T上の所定径間の両端に、連結部材3によって連結された一対の固定部材2を固定すると共に、架空電線T上の当該径間の中央に振動センサ5を荷重調整部材18で固定する。そして、ハンマ17を鉛直上方に起立させた状態から自然転倒させる。ハンマ17は、鉛直下方を通過した位置で架空電線Tを打撃する。この打撃で架空電線Tの径間に生じる振動を振動センサ5が感知して振動信号を処理装置6へ送出する。処理装置6は、振動センサ5から振動信号を受けて、径間の固有振動数を算出すると共に、この固有振動数を予め記憶されている張力計算式に代入して径間の張力を算出し、算出結果を表示装置7に表示する。
【0016】
固定部材2は、架空電線Tを両者間に挟み込む把持部材8,9を湾曲凹部8a,9aに受け入れて架空電線Tの外周に沿って把持するので、電線を傷付け難く強固に固定できる。把持部材8,9の両端縁8b,9bは緩やかなに面取りされているので、架空電線Tを強固に把持しても架空電線Tに食い込み難い。振動センサ5の荷重調整部材18を適宜選択して架空電線Tに応じた質量の重量片19を使用して、架空電線Tの経間Sの荷重を調整することにより周波数帯域が低くなり振動が安定して発生するので、振動センサ5が打撃による固有振動数を確実に感知し、張力を測定することができる。
【0017】
発明者は、測定装置1を装着して特定の架空電線(ST135(2種))の1mの経間Sについて、2種類の荷重調整部材18(0.2kgと0.4kg)を用い、所定の張力に対する固有振動数の実測を5回行って、固有振動数と張力との相関関係を比較した。この結果、図7に示すように、0.2kgの荷重調整部材18の場合(同図(A))より0.4kgのもの場合(同図(B))に測定値のばらつきが少なく、測定結果の再現性が良好であることがわかった。従って、規格化された架空電線の種類に応じて最適な重量の荷重調整部材18を選択すれば、測定値の精度が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0018】
この発明は、鉄道線路のトロリ線や吊架線あるいは一般電力用送電線等の架空電線の張力を測定するのに有効である。
【符号の説明】
【0019】
1 張力測定装置
2 固定部材
3 連結部材
4 打撃部材
5 振動センサ
6 処理装置
7 表示装置
8 把持部材
8a 湾曲凹部
8b 端縁
9 把持部材
9a 湾曲凹部
9b 端縁
18 荷重調整部材
T 架空電線
S 所定径間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空電線上の所定径間の両端に固定及び離脱可能な一対の固定部材と、これら一対の固定部材間を連結する連結部材と、この連結部材上に起立転倒自在に支持され転倒時に前記架空電線の前記径間を打撃可能な打撃部材と、前記架空電線の前記径間の中央に離脱可能に装着され前記打撃部材による打撃で前記径間に生じる架空電線の振動を感知して振動信号を送出する振動センサと、この振動センサからの振動信号を受けて前記径間の固有振動数を算出しこの固有振動数を予め記憶されている張力計算式に代入して前記径間の張力を算出する処理装置と、この処理装置からの算出結果を表示する表示装置とを具備し、
前記固定部材は、前記架空電線を両者間に挟み込むように互いに開閉自在に一端部が蝶着され、対向部に架空電線の外周に対応する湾曲凹部をそれぞれ備え、他端部が互いに係合可能な一対の把持部材を具備し、
前記架空電線の径間内に着脱可能に取り付けられて前記架空電線に応じて荷重を調整し、振動センサが感知可能な振動を発生させる荷重調整部材を具備することを特徴とする架空電線の張力測定装置。
【請求項2】
前記荷重調整部材は、前記架空電線を相互間に挟み込むように開閉可能に対向し、一方に前記振動センサが固定され、架空電線に応じて異なる複数の質量を持って選択可能な一対の重量片を具備することを特徴とする請求項1に記載の架空電線の張力測定装置。
【請求項3】
前記一対の把持部材の湾曲凹部の両端縁が面取りされており架空電線への食い込みを防ぐことを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の架空電線の張力測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−174747(P2011−174747A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37477(P2010−37477)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)
【Fターム(参考)】