説明

染料固着剤

【課題】生体及び環境にやさしい、染色されたセルロース系繊維の染料固着剤を提供する。
【解決手段】
高い安全性を有した2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリイン(MPC)〔化1〕を主成分とする共重合体を染色されたセルロース系繊維に処理することにより耐湿潤堅牢度を向上させる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反応性染料又は直接性染料で染色されたセルロース系繊維の染料固着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系繊維材料の染色には主として反応染料、直接染料が用いられている。反応染料はセルロース繊維との共有結合の生成により固着し、染色後の充分な洗浄により未固着染料を繊維上から除去することで優れた湿潤堅牢度が得られる。しかし、工業的染色条件においては未固着染料を完全に除去することは不可能であるため、染料固着剤の使用が不可欠となっている。一方、直接染料は色相が豊富で安価、また比較的簡単な工程により染色可能である。しかし、直接染料は湿潤堅牢度に劣るため反応染料と同じく、染料固着剤を使用しなければならない。
【0003】
従来より繊維加工剤には種々の化合物が使用されており、人体に対する刺激性や環境汚染性が問題視されつつある。セルロース繊維用の染料固着剤としてはジシアンジアミドとポリアルキレンポリアミンを縮合させて得られるポリアミン系染料固着剤、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルアミン塩酸塩などのポリカチオン系染料固着剤などが使用されているが、これらも人体に対する刺激性、環境汚染性などが指摘されている。
【0004】
現在まで人体に対する刺激性や環境汚染性の少ない、例えばキトサンなどをセルロース繊維用染料固着剤の原料に用いても満足のいく効果は得られていなかった。生体膜類似構造を持つホスホリルコリン類似基含有重合体は、血液適合性、補体非活性化、生体物質非吸着性など生体適合性に優れており、高い親水性と保湿性を有している。これらの性質を生かし化粧品、医薬品などの分野で高機能素材として展開されてきた。しかし近年、高い安全性を有したホスホリルコリン類似基含有重合体を繊維加工剤として用いた開発が活発に行われている。例えば、ホスホリルコリン類似基含有単量体とグリセロールモノ(メタ)アクリレートと疎水性単量体による共重合体を主成分とする防汚性、耐洗濯性、吸湿性、帯電防止性に優れた繊維用処理剤
【特許文献1】、またホスホリルコリン類似基−エポキシ基含有重合体を有効成分とする防汚性、吸水性、保湿性、帯電防止性に優れた繊維用処理剤
【特許文献2】や、2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンの単量体及び重合体による繊維状物の表面親水化処理法
【特許文献3】、ホスホリルコリン類似基を有する単量体又は重合体を添加して製造したマイクロカプセルを繊維に固着させた繊維製品
【特許文献4】などが知られているが、反応性染料又は直接性染料で染色されたセルロース系繊維に対する染料固着剤についての開発はまだなされていない。
【特許文献1】特開2002−348778号公報
【特許文献2】特開2002−348779号公報
【特許文献3】特開2002−146676号公報
【特許文献4】特開2004−113975号公開
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように従来の繊維加工剤には人体に対する刺激性や環境汚染性が懸念される化合物が使用されてきた。そこで本発明では人体及び環境にやさしい原料を用い、染色されたセルロース系繊維の湿潤堅牢度を向上させることの出来る染料固着剤を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
生体膜類似構造を持つ2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)
【化1】
の共重合体(リン脂質ポリマー)は化粧品・医薬品で使用されており、高い安全性を有している。そこで本発明では2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を主成分とする共重合体を染色されたセルロース系繊維に処理することにより湿潤堅牢度を向上させることを見出し、この発明を完成させた。
【化1】

【発明の効果】
【0007】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を主成分とする共重合体を用いることにより、反応染料又は直接染料で染色されたセルロース系繊維に対して洗濯堅牢度、汗堅牢度などの湿潤堅牢度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態・実施例】
【0008】
本発明における染料固着剤は2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)と2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)と共重合し得る単量体、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アルリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリフロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2−ビニルピロリドン−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒロドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸、アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドを含有する重合体を有効成分とする。
【実施例】
【0009】
以下実施例を挙げることにより、本発明の特徴をよりいっそう明確なものとするが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0010】
実施例1
染料固着剤:リピジュア−CF72(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン共重合体 日本油脂株式会社製)
【0011】
実施例2
染料固着剤:リピジュア−MF3(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン共重合体日本油脂株式会社製)
【0012】
実施例3
染料固着剤:リピジュア−MF5(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン共重合体日本油脂株式会社製)
【0013】
比較例1
染料固着剤:SK−10(キトサン甲陽ケミカル株式会社製)
キトサンは水に溶解しにくいため、下記の方法で溶解した。
(溶解方法)0.5%水溶液
100mlの水にキトサン0.5gを添加し、攪拌しながら次に0.5gの乳酸を加えて常温で2時間攪拌し、完全に溶解した。
【0014】
染色堅牢度試験1
下記条件で染色された反応染料染色物を用いて、未加工布、上記実施例1〜3、及び比較例1の固着剤によって処理された処理布の湿潤堅牢度を評価した。その結果を表1に示す。
(試料)綿ニット(晒し)
(染料)C.I.React Yellow 145…0.66%o.w.f.
C.I.React Red 195…0.66%o.w.f.
C.I.React Blue 221…0.66%o.w.f.
(処理条件)
染料固着剤濃度:リピジュア−CF72…4%o.w.f.
リピジュア−MF3…4%o.w.f.
リピジュア−MF5…4%o.w.f.
キトサンSK−10…4%o.w.f.
処理方法:60℃×20分
浴比:1:20
(湿潤堅牢度試験)
洗濯試験:JISL−0844A−4法に準じて評価した。
汗試験:JISL−0848A法(アルカリ液)に準じて評価した。
【表1】

【0015】
染色堅牢度試験2
下記条件で染色された直接染料染色物を用いて、未加工布、及び上記実施例1〜8の固着剤によって処理された処理布の湿潤堅牢度を評価した。その結果を表2に示す。
(試料)綿ニット(晒し)
(染料)C.I.Direct Yellow 86…0.1%o.w.f.
C.I.Direct Red 243…0.1%o.w.f.
C.I.Direct Blue 200…0.1%o.w.f.
(処理条件)
染料固着剤濃度:リピジュア−CF72…4%o.w.f.
リピジュア−MF3…4%o.w.f.
リピジュア−MF5…4%o.w.f.
キトサンSK−10…4%o.w.f.
処理方法:60℃×20分
浴比:1:20
(湿潤堅牢度試験)
洗濯試験:JISL−0844A−2法に準じて評価した。
汗試験:JISL−0848A法(アルカリ液)に準じて評価した。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式を有する2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン〔化1〕の重合体を含有することを特徴とするセルロース系繊維の染料固着剤。
【化1】

【請求項2】
染色物を請求項1記載の染料固着剤で処理することを特徴とするセルロース系繊維製品の染料固着法。

【公開番号】特開2006−37325(P2006−37325A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245976(P2004−245976)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(391003473)センカ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】