説明

染色および機能加工方法

【課題】繊維素材を超臨界二酸化炭素流体などを用いて染色する際に、染色と同時に繊維機能特性、品質も保持しうる加工方法を提供する。
【解決手段】超臨界流体二酸化炭素中で染色する際に、予め練り込まれた機能剤を超臨界二酸化炭素中に含ませることにより、繊維中と超臨界流体二酸化炭素中の機能剤の濃度勾配を平衡とすることができ、繊維中の機能剤のブリードアウトを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界二酸化炭素流体における染色および機能加工方法に関するものであり、特に染色する際に、染色する前の繊維自身が有している機能特性、品質を損なうことなく、超臨界流体を用いて染色する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維構造物を染色および機能加工する方法として様々な方法が知られている。染色方法については染料と各種助剤併用して水や多量の熱エネルギーを使用して染色する方法が一般的であり、又水分散体機能剤及び/又は水系機能剤を用いる機能加工方法に関しては、染色同時吸尽機能加工する方法やバインダーを用いたパディング(Dip→Nip→Dry→Cure)処理する方法が知られ、いずれにしても大量の廃液が発生するという問題があった。最近の地球環境改善への取り組みが叫ばれる中、廃水処理技術の向上が望まれている。
【0003】
例えば、新しい排水(廃水)処理プロセスとして、地球環境への配慮(大気汚染、排水汚染、資源の有効利用など)から、染色機能加工における染料や加工剤や各種機能剤などを大量に含んだ廃液を光触媒や微生物などにより分解する方法が提案されている。しかしその処理はケミカルコスト、設備コスト等の増大を伴うため、排水処理の工業化技術としてはかなり難しく現状では不利な面がある。
【0004】
また他の染色や機能加工後の排水(廃液)処理コストが低減できる方法としては、特許文献1には、超臨界流体を繊維構造物の染色に利用することにより、排水(廃液)ゼロの染色を行うことができ、また従来多種多量使われていた染色助剤を使うこと無く、また染着(染料吸尽)されなかった染料(未染着染料)も完全回収できるという方法が提案されている。この方法により染色、機能加工の排水を大幅に低減できる可能性があるものの、通常の染色より高圧で行われるため、染色装置がオートクレーブ型装置のような特別の装置が必要となり、そのため流体の循環の無い状態で処理が行われるため、加工品位(均一染色性、加工性、風合い、加工剤の溶解性及び利用性など)は十分とは言えないものであった。
【0005】
その解決方法として、特許文献2においては、超臨界流体を循環させながら染色および機能剤を付着させる方法が提案されている。この方法により加工品位の向上した染色が行えるものの、繊維自身に練り込まれた難燃剤、紫外線吸収剤(耐光性改良剤)などの機能剤が超臨界で行う染色処理によりブリードアウトし、染色と繊維の機能特性や品質とを両立させることが難しいという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平4−245918号公報
【特許文献2】特開2002−212884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解消し、あらゆる繊維素材を超臨界二酸化炭素流体などの超臨界流体を用いて染色する際に、染色と繊維の機能特性、品質も保持する加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、超臨界二酸化炭素流体を循環させながら染料吸尽(染色)する際に、予め繊維に練り込まれている機能剤を超臨界二酸化流体中に含有させることにより、繊維に練り込まれた機能剤のブリードアウトを抑制できることを究明し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明によれば、超臨界二酸化炭素流体中で染色する際に、予め練り込まれた機能剤を超臨界二酸化炭素流体中に含ませることにより、繊維中と超臨界二酸化炭素流体中の機能剤の濃度勾配を平衡とすることができ、繊維中の機能剤のブリードアウトを抑制することが出来るので、染色と同時に繊維の機能特性、品質を保持できる。
【発明の効果】
【0010】
超臨界二酸化炭素流体中で染色するに際し、問題であった繊維中の機能剤のブリードアウトが抑制されるので繊維の特性や品質が維持されるだけでなく、排水(廃液)ゼロの染色を行うことができるので非常に効率的な加工方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
超臨界流体は、臨界温度および臨界圧力を超えた温度および圧力下の流動体であり、非凝縮性高密度流体と定義される。この状態は気相および液相のどちらに属するともいえない状態であり、密度は液体と同程度であるにもかかわらず、気体と同程度の運動性を持つ。
【0012】
上記超臨界流体には、通常の繊維加工で用いられる装置の圧力より充分高い、例えば1MPa以上の高圧状態にある気体または液体状の流動体も含まれる。
かかる超臨界流体(高圧状態にある気体または液体状の流動体を含む)としては、二酸化炭素、窒素、水、エタノール、メタノールなどが上げられるが、超臨界流体の状態にする条件の容易さ、安全性、設備の耐熱・耐圧・耐腐食性などを考慮して、本発明においては二酸化炭素を用いる。二酸化炭素の臨界温度は31.1℃、臨界圧力は7.2Mpaである。
【0013】
超臨界二酸化炭素は、わずかの圧力変化で大きな密度変化を起こす他、低粘度、高拡散性であるため、種々の染料を溶解可能であり、特に極性を持たない染料を良く溶解するため、これら染料を繊維構造物の細部まで浸透させることができ、染色加工に好適な流体であると考えられる。しかしながら、機能剤が練り込まれた繊維素材においては、超臨界二酸化炭素流体を用いた染色において、機能剤がブリードアウトしてしまい、本来の繊維特性や基本的な品質を発現することが難しいという問題があった。
【0014】
本発明はこうした現状に鑑み、機能剤のブリードアウトを抑制する手段として、繊維中に練り込まれた機能剤と同種の機能剤を、好ましくは同量以上を超臨界二酸化炭素流体中に含有させることにより、機能剤のブリードアウトを著しく抑制することが可能であることを見出すことにより完成されたものである。
【0015】
本発明でいう繊維とは、布帛、糸、綿、不織布などの何れの形状でもよく、また機能剤が練り込まれた繊維素材であればポリエステル系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、PBO、アラミド系、ナイロン系、ポリ塩化ビニル系などの何れでもよく、またそれぞれからなる混繊、混紡、交編織物でも、あるいは綿・ウール・麻などの天然繊維との混繊、混紡、交編織物でも構わない。
【0016】
なお、本発明で使用する染料は、分散染料、カチオン染料、油溶性染料を用いることができるが、分散染料が特に好ましい。分散染料としは、水に難溶性で水中に分散した系から疎水性繊維の染色に用いられる染料を使用することができ、通常ポリエステル繊維やアセテート繊維などの染色に用いられているベンゼンアゾ系(モノアゾ、ジスアゾなど)、複素環アゾ系(チアゾールアゾ、ベンゾシアゾールアゾ、キノリンアゾ、ピリジンアゾ、イミダゾールアゾ、チオフェノンアゾなど)、アントラキノン系、縮合系(キノフタリン、スチリン、クマリン)を任意に使用することができる。また染料中の色素固形分濃度がより高い方が染着しやすく好ましい。
【0017】
また本発明で言う機能剤とは、繊維に一定量練り込み添加することで難燃性、酸化防止性、紫外線吸収性(耐光性)、染色性(向上)、制電防止性、殺菌性、消臭性等の機能を付与する剤であり、例えば難燃剤としては公知のハロゲン系、リン酸エステル系の難燃剤、酸化防止剤としては公知のヒンダードフェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤としては公知のベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤、カチオン可染剤としては例えばアルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩等のカチオン染色向上剤、制電防止剤としては公知のカーボンブラックやポリアルキレングリコール等の制電防止剤、等を好適に用いることができる。また着色用や艶調整用の顔料、無機粒子等も用いることができる。これら機能剤の群から選ばれる一種以上の機能剤を用いることが好ましい。
【0018】
超臨界二酸化炭素流体での処理は、100℃以上で行うのが好ましく、より好ましくは130℃以上である。該処理温度が100℃未満では、染色斑が顕在化し、加工再現性が劣る場合がある。また圧力は15Mpaが好ましく、15Mpa未満では再現性、加工性などが劣る場合がある。また流体の循環流量が著しく低減すると加工性、品位が劣る場合があり、従って、処理温度や圧力、循環流量は、設備仕様において可能な限り、高ければ高い方が、より均一且つ濃染性が向上する。
【実施例】
【0019】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。尚、実施例中の物性は下記の方法により測定した。
(1) 染色性
染色性の評価は、マクベス カラーアイ(Macbeth COLOR−EYE)モデルCE−3100を用いて行った。
布帛全体の染色性としては、明度指数L*で表現したが、明度指数L*は、JIS Z 8701(2度視野XYZ系による色の表示方法)又はJIS Z 8728(10度視野XYZ系による色の表示方法)に規定する三刺激値のYを用いて、次式より求められるものである。ここで、明度指数L*は数値が小さい程、濃染化されていることを示す。
Y/Y>0.008856の場合
Y:XYZにおける三刺激値の値
:完全拡散反射面の標準の光によるYの値
L*=116(Y/Y1/3−16
但し、Y/Y≦0.008856の場合は、次式による。
L*=903.29(Y/Y
(2) 繊度、繊維長、強度、伸度、収縮率
JIS L1015 に準じて測定した。
【0020】
[実施例1]
IV1.35dl/gのポリ−m−フェニレンイソフタルアミド30gをN−メチル−2−ピロリドン110gに溶解し、さらに3.6gのカチオン可染剤であるドデシルベンゼンスルフォン酸トリブチルベンジルアンモニウム塩を混合溶解し、減圧脱泡して紡糸ドープとした。
【0021】
このドープを85℃に加温し、口径0.07ミリ、孔数200の紡糸口金から凝固浴に湿式紡糸した。凝固浴の組成は、塩化カルシウムが40重量%、NMPが5重量%、残りの水は55重量%であり、該凝固浴の温度は85℃であった。この糸条を凝固浴中に約10cm走行させ6.2m/分の速度で引き出した。該糸条を水洗し、95℃の温水で3.3倍に延伸して120℃のロールで乾燥した後、300℃の熱板上で1.0倍延伸して364dtex/200フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を100本集束して2万デニールのトウとし、捲縮を付与した後カットした。得られた繊維の繊度、カット長、強度、伸度、300℃の収縮率、湿熱135℃の収縮率はそれぞれ1.5dtex、51mm、3.8g/dtex、43.6%、8.4%、5.2%であった。
【0022】
この短繊維を供して通常の方法で混紡、合撚し、30/2紡績糸とし、次いで製織し、(30/2×30/2)/(55本/in×54本/in)の平織物を得た。次に該布帛をスコアロール400(花王製)で1g/l、80℃で20分間精錬した。水洗・乾燥後、190℃で1分間プレ・セットした。次いで、下記染料および有機溶剤(ベンジルアルコールと水)を供して、130℃×25MPa×30分間、2.6Lの超臨界二酸化炭素処理装置で超臨界二酸化炭素流体中での染色処理をした。得られた染色物は、アセトンで洗浄し、各種評価を行った。
染料 :C.I.Disperse Blue 56 1%owf
ドデシルベンゼンスルフォン酸トリブチルベンジルアンモニウム塩 2%owf
その結果、染色性L*:55.1で、染料の内部浸透性は良好であり、繊維中の上記カチオン可染剤保持率は85%であった。
【0023】
[実施例2]
実施例1で下記式(1)で示されるリン酸エステル系難燃剤を6wt%含む繊維を用い、超臨界二酸化炭素処理時に同難燃剤を超臨界二酸化炭素流体濃度中に6wt%含まれた流体で染色同時加工を行った以外は、同様に処理し評価した。その結果、染色性L*:53.8で、染料の内部浸透性も良好であり、繊維中の上記難燃剤保持率も90%であり難燃性は良好であった。
【化1】

・・・式(1)
【0024】
[実施例3]
実施例1で下記式(2)で示されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(耐光改良剤)を5wt%含まれた繊維を用い、超臨界二酸化炭素処理時に同紫外線吸収剤を超臨界二酸化炭素流体濃度中に5wt%含まれた流体で染色同時加工を行った以外は、同様に処理し評価した。
その結果、染色性L*:54.2で、染料の内部浸透性も良好であり、繊維中の上記紫外線吸収剤保持率も90%であった。
【化2】

・・・式(2)
【0025】
[比較例1]
実施例1において、超臨界二酸化炭素浴中にドデシルベンゼンスルフォン酸トリブチルベンジルアンモニウム塩を用いなかった以外は、同様に処理し評価した。その結果、染色性L*:54.9、染料の内部浸透性も良好であったが、染浴中に添加していないため繊維中の上記カチオン可染剤の保持率は45%に低下していた。
【0026】
[比較例2]
実施例2において、超臨界二酸化炭素浴中に難燃剤を用いなかった以外は、同様に処理し評価した。その結果、染色性L*:54.3、染料の内部浸透性も良好であったが、機能剤保持率が50%であった。
【0027】
[比較例3]
実施例3において、超臨界二酸化炭素浴中に紫外線吸収剤を用いなかった以外は、同様に処理し評価した。その結果、染色性L*:53.1、染料の内部浸透性も良好であったが、機能剤保持率が20%であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
超臨界流体二酸化炭素を循環させながら染料吸尽(染色)する際に、予め繊維に練り込まれている機能剤が超臨界二酸化流体中に含有させることにより、繊維に練り込まれた機能剤のブリードアウトを抑制できるので、染色と繊維の品質、機能を両立させることができ、地球環境改善型染色機能加工処理方法として産業的価値の極めて高いものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を超臨界二酸化炭素流体中で染料を用いて染色するのに際し、予め繊維中に練り込まれている機能剤を超臨界二酸化炭素流体中に含有させることを特徴とする超臨界二酸化炭素流体における染色および機能加工方法。
【請求項2】
繊維がポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリカーボネート(PC)繊維のうち1種類以上よりなる請求項1記載の超臨界二酸化炭素流体における染色および機能加工方法。
【請求項3】
機能剤が難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、カチオン可染剤、制電剤、殺菌剤、消臭剤、顔料、無機粒子からなる群から選ばれる1種類以上の機能剤である請求項1〜2いずれか一項記載の超臨界二酸化炭素流体における染色および機能加工方法。
【請求項4】
染料が、分散染料、油溶性染料である請求項1〜3いずれか一項記載の染色および機能加工方法。

【公開番号】特開2008−13866(P2008−13866A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184373(P2006−184373)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】