説明

染色体異常の出生前診断のための方法

染色体異常は、精神遅滞を含む、かなりの数の先天性欠損の原因となる。本発明は、母系血液試料の分析に基づく、染色体異常の非侵襲的で迅速な出生前診断のための方法に関する。本発明は、母系血漿試料中の胎児DNAを濃縮する手段として、母親と胎児との間のDNAの相違(例えばそれらのメチル化状態の相違)を利用する。本明細書に記載の方法は、染色体DNAの欠失および重複を検出するために用いることができる。好ましい態様において、本方法は、染色体異数性および関連する障害(例えばダウン症候群およびターナー症候群)を診断するために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、染色体異常の非侵襲的出生前診断のための方法に関する。本発明の方法は、染色体DNAの欠失および重複を検出するために用いることができる。好ましい態様において、本方法は、染色体異数性および関連する障害(例えばダウン症候群およびターナー症候群)を診断するために用いられる。本発明はさらに、胎児の染色体異常の検出のために使うことができるメチル多型プローブを同定する方法を提供する。
【0002】
関連出願に対する相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)項の下で、2003年10月8日に出願された米国特許仮出願第60/509,775号の恩典を主張するが、その内容は、全体にわたって本明細書において参照として組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
染色体異常は、精神遅滞を含む、かなりの数の先天性欠損の原因となる。異常は、染色体DNA重複および欠失の形で、ならびに、(染色体全体の異常な存在または不在である)染色体異数性の形で現れうる。正常な二倍数を下回るまたは上回る染色体を生物が有する状態は、多数の異常特性を生じ、かつ、多くの症候群の原因となる。ダウン症候群すなわち21トリソミーは、染色体異数性の最も一般的な例であり、これは余分な第21染色体を含む。その他の一般的な染色体異数性とは、13トリソミー、18トリソミー、ターナー(Turner)症候群、およびクラインフェルター(Klinefelter)症候群である。
【0004】
染色体異常の出生前検出のための選択肢は、主に、小さいが測定可能な(finite)胎児死亡リスクを有する侵襲的方法に限られている。異常の検出のための最も一般的な方法は、羊水穿刺である。しかし、羊水穿刺は侵襲的方法であるので、胎児が染色体異常を呈するリスクが高い高齢の母親にのみ、通常実行される。従って、より大きな集団の母親予備軍(prospective mother)に使用可能である、胎児の染色体異常の診断のための非侵襲的方法を確立することは、有益であると考えられる。そのような非侵襲的方法の一つが米国特許第4,874,693号に記載されており、これは、ヒト絨毛性ゴナドトロピンホルモン(HCG)の母系レベルをモニタリングすることによって、染色体異常を表す胎盤機能不全を検出するための方法を開示している。しかしこの方法は、非侵襲的でありかつあらゆる年齢の母親予備軍をスクリーニングするために使用可能であるが、特定の染色体異常の存在の診断法としては役立たず、その存在の保証にもならない。
【0005】
また、試料入手段階で侵襲性であることに加えて、既存の出生前診断法は実行に時間がかかる。例えばGeisma染色法は、最も広く使用されている技術であるが、試験を実行する際に細胞が分裂中期または分割中であることを必要とする。各染色体対は、特徴的なパターンの明バンドおよび暗バンドで染色される。この方法を用いて、染色体の全てを個々に識別することができ、かつ、任意の構造的異常および数の異常の性質を容易に明らかにすることができる。Geisma染色法は、微妙な染色体再配列を必ずしも検出するわけではない。染色体再配列が疑われるがこの方法を使用しても検出されない場合には、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)またはスペクトル核型分析(SKY)を使用して更なる詳細な分析を行うことができる。Geisma染色法を使用した試験結果には、1週間〜2週間かかる可能性がある。
【0006】
SKYは、各々の分裂中期染色体に、異なるプローブ(色素色(dye color))を塗る技術である。各々の染色体特異的なプローブがそれ自身の代表的な波長の蛍光を発するので、構造的再配列を容易に見ることができ、かつ関係する染色体を容易に同定することができる。SKYでは細胞が分裂中期にあることが必要であり、従って、結果に1週間〜2週間かかる可能性がある。
【0007】
FISHは、特定の個々の染色体または染色体の特定領域に付着またはハイブリダイズする蛍光プローブ(色素)を使用する技術である。影響を受けた染色体または領域は、それらの存在または欠如について蛍光(またはシグナル)を発して、蛍光顕微鏡で視覚的に分析されることができる。FISHは、特定の染色体再配列を同定するか、または、異常な数の染色体の存在を迅速に診断するために用いられる。FISHは現在、異常な染色体数の最も迅速な診断法である。分析を行うために細胞が分裂中期にある必要はないので、速くすることができる。試験結果は、典型的には2日〜3日以内に分かる。
【0008】
したがって当技術分野には、染色体異常の存在および種類の決定を迅速かつ正確に補助できる、非侵襲的出生前診断法が必要である。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明は、染色体異数性などの染色体異常の非侵襲的出生前診断のための方法を記載し、かつ正確な結果の迅速な産生を可能にするものである。本発明の方法は、妊婦から得られる血漿試料を使用する。母系試料が胎児DNAを低い割合で含むことは示されているが、母系血漿中に存在する胎児細胞の割合は低い。
【0010】
常染色体は、母親から遺伝した1つの対立遺伝子(下記の表に示すA)、および父親から遺伝した1つの対立遺伝子(下記の表に示すB)を有する。胎児DNAが、母系血漿試料中に存在する総DNAの約2%であるという状況においては、胎児の対立遺伝子の存在を以下のように示すことができる。

【0011】
したがって、正常とトリソミーとの間のB%の相違が、わずか「2/200-2/202」、すなわち0.01%であるため、利用可能な最高の定量化法を使用したとしても、小さすぎて相違を検出することができない。
【0012】
本発明は、試料中に存在する対立遺伝子を検出する前に、母系血漿試料中の胎児DNAの量を相対的に濃縮することによって、この問題を解決する。母親の血漿中に存在する胎児DNAを濃縮して、試料中に存在する胎児の対立遺伝子の正確な検出を可能にするために、本発明は、母親と胎児との間のDNAの相違(たとえばDNAメチル化状態の相違)を利用する。これにより、母系DNAを実質的に減少させる、遮蔽(mask)する、または、完全に破壊することができ、かつ、試料は、その大多数が胎児起源であるDNAを有し続ける。対立遺伝子頻度の検出のために後で使用される領域の周辺の母系核酸を選択的に消化する一つまたは複数の酵素(例えばメチル化感受性の酵素)を使用して、母系DNAの選択的な破壊を実行することができる。胎児DNAの対立遺伝子頻度は、その後、選択された染色体領域に隣接する多型マーカーを使用して決定される。対照試料と比較した対立遺伝子頻度の相違が、染色体異常を表す。
【0013】
ある態様において、a)妊婦から血漿試料を得る段階;b)任意でDNAを血漿試料から単離する段階;c)母系または胎児のDNAを選択的に消化する酵素(例えばメチル感受性の酵素)でDNAを消化する段階;d)選択的消化を使用して、胎児または母系のDNAが濃縮されたDNA試料を得る段階;e)選択された胎児DNA領域に隣接する多型マーカーを使用して、母系または父系の対立遺伝子頻度を決定する段階;およびf)段階e)の父系または母系の対立遺伝子頻度を対照DNA試料と比較する段階を含む、染色体異常を検出するための方法が提供され、ここで、対立遺伝子頻度の相違は染色体異常を表す。また好ましくは、多型の相違を考慮に入れるために、推定される異常なDNAを、正常DNAおよび/または異常DNAのパネルに対して比較する。
【0014】
したがって、母系DNAが消化によって完全に破壊される場合、胎児の対立遺伝子頻度を下記の表に示すように検出することができる。

【0015】
母系血漿試料中の胎児DNAの相対的な濃縮により、目下、任意の核酸検出法を事実上用いた対立遺伝子頻度の正確な検出が可能になる。母系血漿試料中の母系対立遺伝子と父系対立遺伝子との間の比率は、したがって、胎児における対立遺伝子の比(allelic ratio)のみを反映する。従って、2つを上回る母系対立遺伝子が試料中に存在する場合、比率は、正常な1/2から有意に変化すると考えられる。
【0016】
胎児DNAおよび母系DNAとの間の任意の相違を利用することができる(例えばY染色体特異的DNAおよびテロメア長の活用)。母親と胎児との間のDNAの相違は、公知の手段で測定することができる。相違が差次的メチル化である場合には、メチル感受性の酵素が、胎児においてはメチル化されている、メチル化されていない母系DNAを消化し、またその逆も同様である。例えば、胎児のDNA領域がメチル化されている場合、メチル感受性の酵素を用いて、メチル化されていない母系DNAを消化する。消化により、メチル化された胎児DNA断片のみが残され、それによって胎児DNAが濃縮される。次に、差次的にメチル化されたDNA領域の近傍または内部の多型マーカーを標識として使用し、母系血漿試料中の母系または父系のDNAの頻度を検出する。母系および父系のDNAの対立遺伝子頻度を、染色体異常を有さない健常者から得られるゲノムDNAにおいて通常観察される対立遺伝子頻度と比較する。このように、任意の染色体異常を検出することができる。一つまたは複数の対立遺伝子を同時に検出することができ、したがって、同じ試料から同時に複数の染色体異常をスクリーニングすることができる。あるいは、メチル化されたDNAのみを消化する酵素を用いて、胎児においてはメチル化されていないが母親においてはメチル化されているDNAを濃縮することができる。本発明の方法は、染色体DNA重複または欠失の検出、および染色体異数性の検出に適している。
【0017】
第一段階において母系対立遺伝子を実質的に完全に破壊することが好ましいが、これは必須ではない。本発明はまた、母系DNAが完全に破壊されない場合に、重複して存在すると予想されない一つまたは複数の染色体由来の対照対立遺伝子を使用する方法も提供する。その状態は、以下のように示すことができる。

【0018】
表において、対立遺伝子BおよびDは、胎児DNA中に存在する父系遺伝した対立遺伝子である。
【0019】
あるいは、胎児DNAを、最初の消化の後で更に増幅することができる。したがって本発明は、母系DNAの最初の消化の後、選択的に胎児DNAを増幅する増幅法を使用して試料を増幅する方法を提供する。または、母系DNAと胎児DNAとの間の相違(例えばメチル化の相違)が維持される。増幅された試料は結果的に再度消化され、したがって、かなりの割合の胎児DNAの獲得が可能になる。望ましいならば、当然ながら2回以上の消化/増幅スキームを実行することができる。増幅段階はまた、対照対立遺伝子の検出と共に使用できる。
【0020】
従って、ある態様において、本発明の方法はさらに、胎児DNAを濃縮するための増幅スキームを含む。一つの局面において、増幅法は、a)妊婦から血漿試料を入手して、任意で試料からDNAを単離する段階;b)単離されたDNAを、メチル化されていないDNAのみを消化するメチル感受性の酵素で消化する段階;c)段階b)由来の未消化DNAを単離する段階;d)初期のヘミメチル化DNAをメチル化するためにDNAメチラーゼを同時に用いながら、段階c)由来の未消化DNAを増幅する段階;e)増幅された段階c)のDNAを、メチル化されていないDNAのみを消化する酵素で消化する段階;f)例えばメチル化された胎児DNA領域に隣接する多型マーカーを使用して、母系または父系の対立遺伝子頻度を決定する段階;およびg)段階f)の父系または母系の対立遺伝子頻度を対照DNA試料と比較する段階を含み、ここで、対立遺伝子頻度の相違は染色体異常を表す。
【0021】
もう一つの態様において、本発明は、21トリソミー(ダウン症候群)の診断法を提供する。本方法は、a)妊婦から血漿試料を得る段階;b)任意でDNAを血漿試料から単離する段階;c)母系DNAまたは胎児DNAのみを消化する酵素(例えばメチル感受性の酵素)でDNAを消化する段階;d)第21染色体の選択された胎児DNA領域に隣接する多型マーカーを使用して、父系対立遺伝子頻度を決定する段階;およびe)段階d)の父系対立遺伝子頻度を対照DNA試料と比較する段階を含み、ここで、対照未満の父系対立遺伝子頻度はダウン症候群を表す。
【0022】
もう一つの態様において、本発明は、母系血漿試料中の染色体異数性を検出するためのキットを提供し、ここで、キットは、妊婦の血漿試料中の母系DNAを特異的に消化するための一つまたは複数の酵素、ならびに、染色体の欠失、挿入、または異数性を検出するために濃縮された胎児DNA領域中の多型マーカーの父系および母系の対立遺伝子頻度を検出するためのプライマーを含む。本キットはまた、母系血漿試料からの核酸の単離、および対立遺伝子頻度を検出するためのマーカーの増幅を容易にするための、容器、ポリメラーゼなどの酵素、および緩衝液を含んでもよい。本キットはまた、健常な胎児を妊娠した母親の血漿から単離されたDNA、ならびに/または、第21染色体、第13染色体、および/もしくは第18染色体トリソミーなどの染色体異常を有する胎児を妊娠した女性に由来する血漿試料から単離されたDNA試料などの、標準DNAまたは対照DNAを含んでもよい。
【0023】
好ましくは、染色体異常の出生前診断のためのキットは以下を含む:少なくとも一つのメチル化感受性の酵素;母系血漿中に存在する胎児DNAおよび母系DNA中の差次的にメチル化された領域内に少なくとも一つの多型遺伝子座を含む部位に隣接する領域をアニーリングでき、かつしたがって増幅できる少なくとも一対の核酸増幅プライマー;少なくとも一つの多型遺伝子座における対立遺伝子の検出を可能にする少なくとも一つのプライマーまたはプローブ;ならびに妊婦から血漿試料を得る段階、血漿試料中に存在する核酸をメチル化感受性の酵素で選択的に消化して、試料中の胎児核酸を濃縮する段階、増幅プライマーを用いて核酸増幅を実行し、胎児核酸が濃縮された試料中に存在する対立遺伝子を検出する段階、および遺伝子座における2つの異なる対立遺伝子の比率が対立遺伝子が等量で存在している対照から離れている場合には胎児が染色体異常に冒されているように、結果を解釈する段階の実行をユーザに指示する、取扱説明書。
【0024】
本キットはさらに対照核酸パネルを含んでもよく、ここで対照は、既知の染色体異常を有する胎児を妊娠した女性、および染色体異常のない胎児を妊娠した女性から単離された核酸を含む。
【0025】
本キットはまた、少なくとも一対の増幅プライマーおよび検出プライマーまたはプローブの内部対照をさらに含んでもよく、ここでプライマーおよび/またはプローブは、内部対照を提供するために、母系血漿中に存在する胎児DNAおよび母系DNAにおいて差次的にメチル化されるが重複または欠失がまれである染色体中に生じる、核酸領域から選択される。
【0026】
発明の詳細な説明
本発明は、胎児の染色体異常の検出のための方法を提供する。
【0027】
本明細書で使用される「染色体異常」という用語は、DNA欠失または重複を有する染色体、および染色体異数性を指す。この用語はまた、他の染色体への余分な染色体配列の転座も含む。
【0028】
本明細書で使用される「染色体異数性」という用語は、染色体の異常な存在(高倍数性)または欠如(低倍数性)を指す。
【0029】
本明細書で使用される「多型マーカー」という用語は、個人間のDNA配列における遺伝性変異を示すゲノムDNAのセグメントを指す。このようなマーカーは、一塩基多型(SNP)、制限酵素断片長多型(RFLP)、二塩基反復、三塩基反復、または四塩基反復などの短いタンデムリピート(STR)などを含むが、これらに限定されるわけではない。濃縮された胎児核酸試料中の母系および父系の対立遺伝子を特異的に区別するために、本発明による多型マーカーを使用できる。
【0030】
本明細書で使用される「メチル多型マーカー」という用語は、胎児DNAおよび母系DNAの差次的にメチル化されたDNA領域と隣接する多型マーカーを指す。隣接するという用語は、差次的にメチル化されたヌクレオチドに由来する、1〜3000塩基対以内の、好ましくは1000塩基対の、より好ましくは100塩基対の、さらにより好ましくは50塩基対のマーカーを指す。
【0031】
本明細書で使用される「母系対立遺伝子頻度」という用語は、(父系および母系双方の)存在する対立遺伝子の総量に対する母系対立遺伝子の比率(パーセントとして示される)を指す。「父系対立遺伝子頻度」という用語は、(父系および母系双方の)存在する対立遺伝子の総量に対する父系対立遺伝子の比率(パーセントとして示される)を指す。
【0032】
本明細書で使用される「対照DNA試料」または「標準DNA試料」という用語は、染色体異常を有さない健常者から得られるゲノムDNAを指す。好ましくは、対照DNA試料は、染色体異常を有さない健常な胎児を妊娠している女性の血漿から得られる。好ましくは、対照試料のパネルが使用される。特定の染色体異常が既知である場合、特定の疾患または状態を表す標準を有することもできる。したがって、例えば、妊婦の母系血漿における3つの異なる染色体異数性についてスクリーニングするために、例えば第13染色体、第18染色体、または第21染色体のトリソミーを有する胎児を妊娠していることが既知である母親、および染色体異常を有さない胎児を妊娠している母親の血漿から単離された対照DNAのパネルを使用することが好ましい。
【0033】
本発明は、母系血漿から得られる胎児DNAを使用する染色体異常を診断するための非侵襲的アプローチを記載する。胎児DNAは、妊娠初期および後期の母系血漿中の総DNAの約2%〜6%を含む。理論的には、正常な胎児において、胎児DNAの半分は父系遺伝画分によって与えられる。
【0034】
一旦妊娠が起こったらいつでも、本方法を使用することができる。好ましくは、試料は、受胎から6週間後またはそれ以上で得られる。受胎から6週間後〜12週間後が好ましい。
【0035】
母系血漿中の胎児DNAの分析によって提起される技術的難題とは、共存しているバックグラウンド母系DNAと胎児DNAとを区別可能にする必要があるという点である。本発明の方法は、母親由来の血漿DNA試料中に存在する比較的低い割合の胎児DNAを濃縮する手段として、このような相違(例えば、胎児DNAと母系DNAとの間で観察される差次的なメチル化)を利用する。本アプローチの非侵襲的性質により、小さいが測定可能である胎児死亡リスクを伴う、羊水穿刺、絨毛膜絨毛(chronic vullus)サンプリング、および臍帯穿刺などの従来の出生前診断法に勝る、大きな利点が提供される。また、本方法はいずれの特定の細胞分裂相にある胎児細胞にも依存しないため、本方法により、染色体異常の存在および性質をも決定するための迅速な検出手段が提供される。
【0036】
妊娠した母親の血液、血漿、または血清からのDNA単離は、当業者に公知の任意の方法を使用して実行できる。DNA単離の標準的方法は、例えば、Sambrook et al., Molecular Biology: A laboratory Approach, Cold Spring Harbor, N.Y. 1989; Ausubel, et al., Current protocols in Molecular Biology, Greene Publishing, Y, 1995に記載されている。血漿DNAの単離のための好ましい方法は、Chiu et al., 2001, Clin. Chem. 47:1607-1613に記載されており、これはその全体が参照として本明細書に組み入れられている。その他の適切な方法には、例えば、TRI REAGENT(登録商標)BD(Molecular Research Center, Inc., Cincinnati, OH)が含まれるが、これは例えば血漿からDNAを単離するための試薬である。TRI REAGENT BDおよび一段階方法は、例えば、米国特許第4,843,155号および第5,346,994号に記載されている。
【0037】
本発明の方法によると、母系DNAの一部を選択的に開裂させる一つまたは複数の酵素で血漿DNAを消化することによって、妊娠中の母親から得られる血漿DNA試料中の胎児DNAを濃縮することができる。例えば、血漿DNAは、メチル化されたDNA認識部位のみで開裂させる酵素で消化されるか、または、メチル化されていないDNA認識部位のみで開裂させる酵素で消化される。メチル化されていないDNA認識部位のみを開裂させる酵素で消化することにより、胎児DNAにおいてはメチル化されているが母系DNAにおいてメチル化されていないDNA配列が濃縮されると考えられる。または、メチル化されたDNA認識部位のみを開裂させる酵素で消化することにより、胎児DNAにおいてはメチル化されていないが母系DNAにおいてメチル化されているDNA配列が濃縮されると考えられる。母系DNA領域を選択的に開裂できるが対応する胎児DNA領域は開裂できない任意の酵素は、本発明において有用である。
【0038】
例えば、CG(またはCpG)アイランドは、CG配列の頻度が他の領域より高い、一続きの短いDNAである。CpGアイランドは、遺伝子のプロモーター領域内で頻繁に見られる。大部分のCpGアイランドは、遺伝子が不活性である場合にはより多くメチル化されており、遺伝子が活性であるすなわち翻訳される場合にはより少なくメチル化されるかメチル化されなくなる。したがって、メチル化パターンは、別々の細胞型では異なり、かつ成長の間に変動する。胎児DNAおよび母系DNAは別々の細胞型および別々の成長段階に由来する可能性があるので、差次的メチル化の領域を容易に同定して、母系血漿試料中の胎児DNAの相対量を濃縮するために用いることができる。
【0039】
本明細書で使用される「メチル感受性の」酵素とは、活性に関してそれらのDNA認識部位のメチル化状態に依存する、DNA制限エンドヌクレアーゼである。例えば、それらのDNA認識配列がメチル化されていない場合のみ開裂させる、メチル感受性の酵素が存在する。したがって、メチル化されていないDNA試料は、メチル化されたDNA試料よりも小さな断片へと切断されると考えられる。同様に、高メチル化DNA試料は、開裂されないと考えられる。対照的に、それらのDNA認識配列がメチル化されている場合のみ開裂させる、メチル感受性の酵素が存在する。本明細書で用いられる「開裂」、「切断」、および「消化」という用語は、互換的に用いられる。
【0040】
本発明の方法における使用に適したメチル化されていないDNAを消化するメチル感受性の酵素には、HpaII、HhaI、MaeII、BstUI、およびAciIが含まれるが、これらに限定されるわけではない。使用される好ましい酵素は、メチル化されていないCCGG配列のみを切断する、HpaIIである。メチル化されていないDNAのみを消化する2つまたはそれ以上のメチル感受性の酵素の組み合わせを使用することもできる。メチル化されたDNAのみを消化する適切な酵素には、認識配列GATCで切断するDpnI、および、AAA+タンパク質ファミリーに属し、改変シトシン含有DNAを切断し、かつ認識部位5'...PumC(N40-3000)PumC...3'で切断する、McrBC(New England BioLabs, Inc., Beverly, MA)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0041】
特定部位でDNAを切断するための選択された制限酵素に関する開裂法および手順は、当業者にとって周知である。例えば、New England BioLabs、Pro-Mega Biochems、Boehringer-Mannheimなどを含む多くの制限酵素供給業者は、特異的な制限酵素によって切断されるDNA配列の条件および種類に関する情報を提供している。Sambrookら(Sambrook et al., Molecular Biology: A laboratory Approach, Cold Spring Harbor, N.Y. 1989を参照されたい)は、制限酵素およびその他の酵素の使用法の概説を提供している。本発明の方法において、約95%〜100%の効率、好ましくは約98%〜100%の効率で母系DNAの開裂を可能にする条件下で、酵素が使用されることが好ましい。
【0042】
差次的にメチル化されたDNA領域における異なる対立遺伝子を検出するメチル多型プローブまたはマーカーの同定
本発明は、母系血漿試料中に存在する胎児DNAを濃縮する手段として、胎児DNAと母系DNAの相違を利用する。
【0043】
ある態様において、本発明は差次的メチル化を利用する。哺乳動物細胞中で、メチル化は遺伝子発現における重要な役割を果たす。例えば、遺伝子(通常は、プロモーターおよび第一エキソン領域)は、遺伝子が発現されている細胞中ではメチル化されていないことが多く、かつ遺伝子が発現されていない細胞中ではメチル化されている。母系血漿試料中の胎児DNAおよび母系DNAは、別々の細胞型に由来する、および/または別々の成長段階にあることが多いので、差次的メチル化の領域を同定することができる。差次的メチル化の領域を示すDNA断片はその後、配列決定され、(母系または父系の対立遺伝子DNAに対する「標識」として使用できる)多型マーカーの存在についてスクリーニングされる。特定のゲノム領域に位置する多型マーカーは、NCBIなどの公共データベースにおいて見出されうるか、または、差次的にメチル化されたゲノム領域を配列決定することによって発見されうる。その後、同定されたメチル多型マーカーを、母系血漿試料中の母系または父系の対立遺伝子頻度を評価することによって染色体異常の診断用マーカーとして使用することができるが、ここで胎児DNAは、本発明の方法により濃縮される。約1/2と異なる母系または父系の対立遺伝子いずれかの比率の存在は、多型マーカーが位置する特定の染色体領域の重複または欠失のいずれかを表す。
【0044】
当技術分野で公知の任意の手段によって差次的メチル化の領域を同定することができ、かつしたがって、それらの領域に対応するプローブおよび/またはプライマーを調製することができる。差次的メチル化の領域を同定するための様々な方法が、例えば米国特許第5,871,917号;同第5,436,142号;ならびに米国特許出願第US20020155451A1号、第US20030022215A1号、および第US20030099997号に記載されており、その内容は全体が本明細書において参照として組み入れられる。
【0045】
異なる胎児細胞における、および異なる胎児成長段階における、差次的にメチル化された領域の同定の最初の目的のための胎児核酸の単離は、当業者に周知の核酸単離法を用いて、柔毛膜柔毛試料、羊水試料、または流産した胎児から得られた試料から実行できる。
【0046】
母系DNAと比較して、胎児DNAにおいて差次的にメチル化された領域を同定する方法の例を、以下に記載する。
【0047】
1つの例示的な方法は、米国特許第5,871,917号に記載されている。この方法は、被験DNA(例えば胎児DNA)および対照DNA(例えば母系DNA)を、メチル化されたDNAを切断しないCNG特異的な制限酵素で切断することによって、CpNpG配列における差次的メチル化を検出する。この方法は、差次的にメチル化されたまたは変異されたDNAセグメントを同定するためのサブトラクティブハイブリダイゼーション(subtractive hybridization)と組み合わされた1ラウンドまたは複数ラウンドのDNA増幅を使用する。したがってこの方法は、低メチル化されたまたは高メチル化された胎児ゲノム領域を、選択的に同定することができる。その後、それらの領域において、SNP、STR、またはRFLPなどの任意の多型を容易に同定することができるが、これは、胎児DNAが濃縮された母系血漿試料中の母系および父系の対立遺伝子の対立遺伝子頻度を検出するために使用できる。
【0048】
特に、母系DNAが単離されて、胎児から単離されたDNAと比較される。母系および胎児のDNA試料は、メチル化されていないCNG部位のみで開裂させるメチル感受性の酵素によって別々に開裂される。試料はさらに、DNA増幅およびサブトラクティブハイブリダイゼーションに適したサイズおよび複雑度へとDNAを開裂させる第2の酵素によって、開裂される。好ましくは、第2の酵素は、DNAを開裂させて、メチル感受性の酵素によって産生された粘着末端に相同的でも相補的でもない末端を産生する。開裂後、一連のアダプターは、メチル化されたDNAを切断しないCNG特異的な制限酵素によって産生された粘着末端に連結される。メチル感受性の酵素によって切断されたDNAのCGに富む末端に連結するが、第2の酵素によって切断された断片の末端には連結しないように、アダプターが選択される。アダプターは、メチル感受性の酵素によって切断されたDNA末端に連結するようにだけでなく、DNA増幅において使用されるプライマーの認識部位として作用するのに良好なサイズおよびDNA配列でもあるように選択される。アダプターを有し、かつしたがってメチル感受性の酵素によって切断されたそれらの断片のみが、アダプター配列プライマーを用いたPCR反応において増幅されると考えられる。
【0049】
2つの試料は別々に増幅される。増幅後、第一のセットのアダプターは、メチル感受性の酵素を用いた開裂によって増幅断片の末端から除去される。これにより、断片の元の末端が保存される。
【0050】
第二のセットのアダプターは、増幅された胎児DNAではなく、増幅された母系DNAに連結される。第一のセットのアダプターと同じ配列を有さないように、かつ、メチル感受性の酵素によって切断されたDNA末端のみと連結するように、第二のセットのアダプターが選択される。第二のセットのアダプターもまた、増幅に使用されるプライマーに対して良好な認識部位を提供する。
【0051】
DNA増幅に続く少なくとも1ラウンドのサブトラクション/ハイブリダイゼーションは、標準的方法によって実行される。その結果、母系DNAにおいて独自にメチル化されていないDNA断片が選択されるが、これは、胎児ゲノム中で同定されたメチル化部位を検出するためのプローブとして使用可能である。
【0052】
特に、母系DNAは、米国特許第5,871,917号で記載されるように、大過剰の胎児DNAと混合される。サブトラクションハイブリダイゼーション混合物はその後、第二のアダプター末端にハイブリダイズするプライマーを用いるインビトロDNA増幅手順によって増幅される。したがって、第二のアダプター末端を有する母系DNA断片のみが増幅される。胎児DNAとハイブリダイズする母系DNAは全く増幅されないと考えられる。大過剰の母系DNAは、胎児試料および母系試料双方において共通して見られるハイブリッドの形成を促進するために使用される。その結果、胎児DNAにおいては独自にメチル化されている、メチル化されていない母系DNA断片が単離される。断片は、当技術分野において公知の方法によって単離される。
【0053】
単離された断片が差次的メチル化領域を検出することを確認するために、サザンブロットハイブリダイゼーションを行うことができる。母系および胎児のゲノムDNAをメチル感受性の酵素によって切断することができ、かつ、制限酵素によって切断されたDNA断片のサイズまたは強度が試料間で同じであるかどうかを観察することによって、特定の部位における低メチル化または高メチル化を検出することができる。電気泳動分析によって、ならびに、母系および胎児のDNA試料にプローブをハイブリダイズさせることによって、ならびに、2つのハイブリダイゼーション複合体が同じまたは異なるサイズおよび/または強度を有するかどうかを観察することによって、これを行うことができる。ゲル電気泳動技術および核酸ハイブリダイゼーション技術のための詳細な方法論は、当業者にとって周知であり、プロトコルは、例えば、Sambrook et al., Molecular Biology: A laboratory Approach, Cold Spring Harbor, N.Y. 1989において見出される。
【0054】
次に、断片配列を、父系または母系の対立遺伝子を区別するために使用されうる多型マーカーについてスクリーニングすることができるが、これは、本明細書記載のメチル多型プローブとして使用されうる。上述の技術によって単離されるプローブは、少なくとも14ヌクレオチド〜約200ヌクレオチドを有する。
【0055】
上記の方法において用いるための適切な制限酵素の例には、BsiSI、Hin2I、MseI、Sau3A、RsaI、TspEI、MaeI、NiaIII、DpnIなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。好ましいメチル感受性の酵素はHpaIIであり、これは、メチル化されていないCCGG配列を認識して開裂するが、外側のシトシンがメチル化されたCCGG配列では開裂しない。
【0056】
メチル化されていないかメチル化されたDNAのいずれかを分解する酵素を使用して2つのDNA供給源の間の差次的メチル化の存在を検出する方法を開示している米国特許出願第2003009997号に記載されている方法によっても、差次的メチル化を評価することができる。例えば、メチル化されていないDNAを分解するために、メチル化されていないDNAのみを開裂するメチル感受性酵素(例えばHpaII、HhaI、MaeI、BstUI、およびAciI)の混合物により母系ゲノムDNAを処置することができる。その後、胎児のゲノムDNAを、McrBC(New England Biolabs, Inc.)などの、メチル化されたDNAを分解する酵素で処置することができる。その後、サブトラクティブハイブリダイゼーションにより、胎児DNAと母系DNAとの間で差次的にメチル化された配列の選択的な抽出が可能になる。
【0057】
あるいは、母系DNAと胎児DNAとの間の差次的メチル化を、ジスルフィド処置に引き続く、以下のいずれかによって評価することができる:1)配列決定、または、2)塩基特異的開裂に引き続く質量分光分析(その全体が本明細書において参照として組み入れられる、von Wintzingerode et al., 2002, PNAS, 99:7039-44に記載されている)。
【0058】
プローブとして供するために、同定されたメチル多型マーカーを、当技術分野において公知の任意の手順によって、例えば「レポーター分子」に連結されたヌクレオチドの組み込みによって標識することができる。
【0059】
本明細書において使用される「レポーター分子」とは、ハイブリダイズされたプローブの検出を可能にする、分析的に同定可能なシグナルを提供する分子である。検出は、定性的でも定量的でもよい。一般的に使用されるレポーター分子には、フルオロフォア、酵素、ビオチン、化学発光分子、生物発光分子、ジゴキシゲニン、アビジン、ストレプトアビジン、または放射性同位元素が含まれる。一般的に使用される酵素には、中でも、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、およびβ-ガラクトシダーゼが含まれる。ビオチン化プローブと共に使用するために、酵素を、アビジンまたはストレプトアビジンと接合することができる。同様に、ビオチン化酵素と共に使用するために、プローブを、アビジンまたはストレプトアビジンと接合することができる。これらの酵素と共に使用される基質は通常、対応する酵素による加水分解の際の、検出可能な変色の産生のために選択される。例えば、p-ニトロフェニルホスフェートは、アルカリホスファターゼレポーター分子との使用に適しており、西洋ワサビペルオキシダーゼに関しては、1,2-フェニレンジアミン、5-アミノサリチル酸、またはトリジンが一般的に使用される。DNAプローブへのレポーター分子の組み込みは、当業者にとって公知の任意の方法によって、例えば、ニックトランスレーション、プライマー伸長、ランダムオリゴプライミングによって、3'もしくは5'末端標識化によって、またはその他手段によって行われうる(例えば、Sambrook et al. Molecular Biology: A laboratory Approach, Cold Spring Harbor, N.Y. 1989を参照されたい)。
【0060】
または、同定されたメチル多型マーカーを標識する必要は無く、その全体が本明細書において参照として組み入れられている、Ding C. and Cantor C.R., 2003, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 100, 3059-64に記載の質量分析技術を用いて対立遺伝子頻度を定量化するために使用できる。
【0061】
母系および父系の対立遺伝子頻度の比較
本発明の方法により母系血漿DNAを用いて染色体異常の存在を診断するために、母系DNAを選択的に開裂する酵素による血漿DNAの消化によって、例えばDNAのメチル化状態に感受性の酵素を用いることによって、まず、胎児DNAに関して血漿DNAを濃縮することができる。差次的にメチル化された胎児DNA領域に隣接または内在する本明細書に記載のメチル多型マーカーなどの多型マーカーを用いて、父系または母系の対立遺伝子いずれかの対立遺伝子頻度を決定することができる。対立遺伝子頻度は、対照DNA試料(例えば染色体異常を有さない個人から得られるゲノムDNA)中に存在する対立遺伝子頻度と比較される。好ましくは、対照DNAは、健常な胎児を妊娠した女性の血漿から単離される。
【0062】
対立遺伝子頻度の相違は、胎児DNA中に染色体異常が存在することを示す。したがって、実質的に全ての母系DNAが消化された正常な試料においては、任意の所与の遺伝子座における母系および父系の対立遺伝子の比率は約1/2である、すなわち、存在する対立遺伝子の50%が父系起源であり、50%が母系起源である。特定の対立遺伝子が存在する領域の部分的または完全な染色体重複または欠失のために任意の遺伝子座が複製または欠失されている場合、比率は50%対50%とは異なると考えられる。染色体異常は、多型プローブによって検出されるDNA配列を含むDNA欠失または重複である可能性がある。欠失または重複は、染色体異数性(染色体全体の存在または欠如)の結果である可能性があり、あるいは、染色体内部の欠失または重複の結果である可能性がある。染色体異数性は、当業者に公知の任意の方法によって確認することができる。染色体異数性の確認のための好ましい方法は、羊水穿刺に引き続く、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)、Geisma染色法による従来の核型分析、またはスペクトル核型分析(SKY)であり、これらは全て当業者にとって周知である。
【0063】
例えば、母系DNAと胎児DNAとの間の差次的メチル化状態を有する、または、母系DNAと胎児DNAとの間の、それ以外、好ましくは後成的な情報の相違を有する、領域内に位置する任意の多型マーカーを、母系血漿中に存在する胎児DNAにおける母系および父系の対立遺伝子の頻度を検出するために使用することができる。したがって、差次的にメチル化された領域が決定されれば、当業者は容易にデータベースを参照することができ、ここで、差次的にメチル化されたDNA領域内に位置する、1つ、好ましくは2つ以上のSNPまたはその他多型マーカーを選択することができる。あるいは、数人の個人由来の領域を配列決定することにより、新規の有用な核酸多型を明らかにすることができる。
【0064】
対立遺伝子頻度を決定するための方法は、当業者にとって周知である。差次的DNA領域を検出する多型プローブを使用する対立遺伝子頻度は、任意のこのような方法で決定できる。例えば、定量化可能な標識を、母系または父系いずれかのDNAを特異的に検出するメチル多型プローブに組み込むことができる。その後プローブを、例えばサザンブロットによってDNA試料とハイブリダイズさせて、定量化する。このような方法のための好ましい標識は、デンシトメトリーによって定量化可能な放射性同位体および蛍光マーカーである。
【0065】
血漿試料中の母系核酸の消化後、濃縮された胎児核酸試料中に存在する母系および父系の対立遺伝子は、好ましくはPCRを用いて増幅される。対立遺伝子比率はその後、異なるプライマー伸長方法を含む、後述の様々な差次的増幅法を用いて正確に測定される。好ましくは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)後にプライマー伸長反応を使用し、かつ質量分析法を用いてプライマー伸長産物を検出することにより、分析が実行される。質量分析技術を使用して対立遺伝子頻度を決定するための本発明の1つの好ましい方法は、Ding C. and Cantor C.R., 2003, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 100, 3059-64に記載されている。MassARRAY系は、プライマー伸長産物のマトリックス支援レーザー脱離イオン化/飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析(MS)分析法に基づく(Tang, K. et al. Proc Natl Acad Sci USA 96, 10016-10020(1999))。
【0066】
あるいは、例えば、キャピラリー電気泳動を含む電気泳動法を用いて、変性高速液体クロマトグラフィー(D-HPLC)を用いて、Invader(登録商標)アッセイ法(Third Wave Technologies, Inc., Madison, Wis.)、ピロシーケンス(pyrosequencing)技術(Pyrosequencing, Inc., Westborough, MA)、または固相ミニシーケンス(solid-phase minisequencing)(米国特許第6,013,431号、Suomalainen et al. Mol. Biotechnol. Jun;15(2):123-31, 2000)を用いて、検出を実行することができる。
【0067】
対立遺伝子頻度は、(父系および母系双方の)存在する対立遺伝子の総量における母系対立遺伝子および父系対立遺伝子いずれの比率としても示される。対立遺伝子頻度が比率であるので、対照DNA試料の母系または父系の対立遺伝子頻度を、胎児DNAにおける対立遺伝子頻度を検出するのに使用されたのと異なるまたは同じプローブのいずれかを用いて決定することができる。
【0068】
好ましくは、2個、3個、4個、5〜10個、または10個をも上回る多型遺伝子座も、同じ反応において分析することができる。親の対立遺伝子が公知でなく、かつさらに少なくとも1つの有益なマーカー(すなわち胎児試料中の2つの対立遺伝子が異なる、すなわち、父親から遺伝した対立遺伝子が母親から遺伝した対立遺伝子とは異なる、遺伝子座)の同定を可能にする場合であっても、いくつかの多型マーカーのプールを用いることによって、分析を実行することができる。好ましくは、マーカーは、第21染色体、第13染色体、および第18染色体などの所望の染色体に沿った異なる位置において選択される。
【0069】
あるいは、母系および胎児のDNAにおいて差次的にメチル化された染色体領域中の選択された多型マーカーを用いて母系および父系の遺伝子座を遺伝子型同定することにより、有益な遺伝子座を最初に決定することができ、かつ、胎児DNA試料中の対立遺伝子頻度の決定において(対立遺伝子が異なる)これらマーカーの選択のみを使用することができる。
【0070】
本明細書において、母系または父系の対立遺伝子いずれかの対立遺伝子頻度の相違とは、少なくとも3%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%の相違を指す。好ましくは、母系DNAが実質的に完全に消化された血漿DNA試料における母系および父系の対立遺伝子の正常な対立遺伝子比率とは、母系対立遺伝子50%および父系対立遺伝子50%である。この対立遺伝子比率が、任意の所与の遺伝子座に関して変化する場合、胎児は、対立遺伝子が位置する染色体領域の重複または欠失を有する可能性がある。
【0071】
本発明の一態様において、母系の血漿試料中の胎児DNAを更に濃縮するために、増幅段階が実行される。酵素消化による血漿DNA中の胎児DNAの濃縮の後で、対立遺伝子頻度/比率の検出の前に、増幅が実行される。選択された胎児DNA領域をアニーリングするプライマーを使用した(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはローリングサークル増幅などの)当技術分野において公知の任意の方法によって、増幅を実行することができる。オリゴヌクレオチドプライマーは、増幅されるべき配列にアニーリングするように選択される。好ましくは、増幅反応と酵素的メチル化段階を組み合わせることを可能にするローリングサークル法を使用して、増幅が実行されるが、ここで胎児DNAおよび/または残留する母系DNAのメチル化状態は、増幅を通して保存される。好ましくは、全ての残留母系DNAを試料から更に除去するために、増幅段階の後にさらなる酵素消化段階を行う。
【0072】
本明細書に記載されたPCT、ローリングサークル増幅、およびプライマー伸長反応のためのオリゴヌクレオチドプライマーは、例えば、リン酸トリエステル(Narang, S.A., et al., 1979, Meth. Enzymol., 68:90; および米国特許第4,356,270号を参照されたい)、リン酸ジエステル(Brown, et al., 1979, Meth. Enzymol., 68:109)、およびホスホラミダイト(Beaucage, 1993, Meth. Mol. Biol., 20:33)のアプローチを含む当技術分野において周知の方法を用いて合成されうる。これらの参考文献はそれぞれ、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0073】
あるいは、試料中の胎児DNAの量を強調して胎児DNAにおける対立遺伝子比率の検出を可能にするために、母系DNAを遮蔽してもよく、かつ/または選択的に胎児DNAを増幅してもよい。
【0074】
一つの局面において、本発明は、胎児における染色体異常の出生前診断のための方法を提供する。本方法は、a)妊婦から血漿/血液/血清試料を入手して、試料からDNAを単離する段階;b)単離されたDNAを、メチル化されていないDNAのみを消化するメチル感受性の酵素で消化する段階;c)段階b)由来の未消化DNAを単離する段階;d)初期のヘミメチル化DNAをメチル化するためにDNAメチラーゼを同時に用いながら、段階c)由来の未消化DNAを増幅する段階;e)増幅された段階d)のDNAを、メチル化されていないDNAのみを消化するメチル感受性の酵素で消化する段階;f)メチル化されていない胎児DNA領域に隣接する多型マーカーを使用して、父系または母系の対立遺伝子頻度を決定する段階;およびg)段階f)の父系または母系の対立遺伝子頻度または比率を対照DNA試料と比較する段階を含み、ここで、対立遺伝子頻度の相違は胎児における染色体異常を表す。
【0075】
母系DNA試料の最初の消化により、メチル化された胎児DNAが濃縮される。増幅段階は、胎児DNAのメチル化状態を増幅して更に維持することによって、胎児DNAのさらなる濃縮を提供する。
【0076】
初期のヘミメチル化DNAをメチル化するために、増幅段階は、(Dnmt1などの)ヘミメチル化DNA特異的なDNAメチラーゼの使用と組み合わされる。メチル化された胎児DNAは最初の消化の際に濃縮されるので、メチラーゼは、増幅過程において、胎児DNAのみをメチル化し、母系DNAはメチル化しない。増幅の間、メチル化された胎児DNAおよび任意のバックグラウンドのメチル化されていない母系DNAが産生される。したがって、増幅されたDNA試料を、メチル化されていないDNAのみを消化するメチル感受性の酵素で再度消化する。このような増幅手順により、胎児DNA濃縮の第二段階が提供される。
【0077】
好ましい態様において、ローリングサークル増幅(RCA)が使用される。ローリングサークル増幅とは、配列の多数のコピーを生成するための等温過程である。インビボにおけるローリングサークルDNA複製において、DNAポリメラーゼは、環状の鋳型上のプライマーを伸長させる(Komberg, A. and Baker, T. A. DNA Replication, W. H. Freeman, New York, 1991)。産物は、鋳型の相補配列のタンデムに連結されたコピーからなる。RCAは、DNA増幅のためのインビトロにおける使用に適合化された方法である(Fire, A. and Si-Qun Xu, Proc. Natl. Acad Sci. USA, 1995, 92:4641-4645; Lui, D., et al., J. Am. Chem. Soc., 1996, 118:1587-1594; Lizardi, P. M., et al., Nature Genetics, 1998, 19:225-232; Koolに与えられた米国特許第5,714,320号)。RCA技術は当技術分野において周知であり、直線的(linear)RCA(LRCA)を含む。本発明においては、任意のそのようなRCA技術を使用できる。
【0078】
本発明の方法は、胎児における染色体異常の診断、例えば、染色体の欠失、重複、および/または異数性の検出に適している。
【0079】
本明細書に記載の方法の利点とは、低い割合の胎児細胞、および、したがって低い割合の胎児DNAしか含まない母親由来の血漿/血液/血清DNAを用いて、染色体異常が検出できることである。本発明は、母系DNAの特異的な消化による胎児DNAの濃縮のための方法を提供し、かつ、妊婦が妊娠している胎児における染色体異常をスクリーニングするために使用できる胎児DNA試料を得るための簡単な非侵襲的アプローチを提供する。
【0080】
さらに、本方法は染色体の目視検査に依存しないので、胎児細胞を成長させるおよび/または胎児細胞の細胞周期を同期させる必要性がなく、したがって、時間の影響を受けやすい出生前診断における迅速なスクリーニングが可能になる。
【0081】
本方法は特に、これらに限定される訳ではないが、ダウン症候群、ターナー症候群、13トリソミー、18トリソミー、およびクラインフェルター症候群のような染色体異数性を診断するために有用である。
【0082】
ダウン症候群は、第21染色体の1コピーの代わりの3コピーの存在に特徴づけられており、しばしば21トリソミーと呼ばれる。21トリソミーの全症例の3〜4%は、ロバートソン転座に起因するものである。この症例においては、別々の染色体、通常は第14染色体および第21染色体において、2つの切断が生じる。第14染色体の一部が余分の第21染色体と置換されるような、遺伝物質の再配列が存在する。よって、染色体の数は正常なままであるが、第21染色体物質の三重化が存在する。これらの小児の一部は、第21染色体全体ではなくその一部の三重化のみを有する可能性があり、これは部分的21トリソミーと呼ばれる。後部が平坦な、小さな頭部;つり目;目尻における余分な皮膚のひだ;小さな耳、鼻、および口;低身長;小さな手足;ならびにある程度の知的障害を含む、ダウン症候群の肉体的および精神的な特徴が、余分のDNAにより生じる。
【0083】
13トリソミーおよび18トリソミーとは、余分な第13染色体または第18染色体をそれぞれ指す。13トリソミーはPatua症候群とも呼ばれ、小さな出生時体重を特徴とする。新生児期の初めにおける断続的呼吸(無呼吸)の期間が頻繁であり、通常、精神遅滞が重篤である。多くの罹患児は、難聴と考えられる。傾斜した額、広い継目、および頭部の頭頂骨の間の開口部を有する、中程度に小さな頭部(小頭蓋症)が存在する。脳の著しい解剖学的欠陥、特に、前脳の適切な分割の不全(全前脳症)が、一般的である。脊柱管の欠陥による索およびその髄膜のヘルニア突出(脊髄髄膜瘤)は、症例のほぼ50%において見出される。
【0084】
通常、目全体が小さく(小眼球症)、かつ、虹彩組織の欠陥(欠損症)および網膜の不完全な発達(網膜異形成症)が頻繁に起こる。眼窩上隆起が浅く、瞼裂が通常傾斜している。殆どの症例において、口唇裂、口蓋裂、またはその双方が存在する。耳は異常な形状で、著しく低く配置されている。
【0085】
18トリソミーすなわちエドワーズ症候群は、やせて虚弱に見える新生児を生じる。彼らは、よく生育すること(thrive)ができず、かつ摂食における問題を有する。18トリソミーは、頭の後部(後頭部)が突出した、小さなサイズの頭部をもたらす。耳は通常、頭部に低く配置されている。口および顎が著しく小さく、胸甲(胸骨)が短い。出生時、これらの新生児は、満期で分娩されたとしても年齢の割に小さく、かつ泣き声が弱い。音に対する彼らの応答は少なく、かつ、妊娠中に、珍しい胎児活性の経歴があることが多い。18トリソミーをもつ新生児の約90%は、心臓障害を有する。彼らは特徴的な様式でこぶしを握りしめており、完全に指を伸ばすことは難しい。関節拘縮(腕および脚が、弛緩するよりむしろ曲がった位置にある)が、通常存在する。足は、その形状のために「舟底」と呼ばれる場合がある。18トリソミーを有する新生児はまた、二分脊椎(症例の6%において)、目の問題(症例の10%において)、口唇裂および口蓋裂(大部分の症例において)、ならびに聴力損失(大部分の症例において)も有する場合がある。摂食の問題、遅い成長、発作(最初の年における約30%の症例)、高血圧症、腎臓の問題、および脊柱側彎症(脊椎の屈曲)が見られることもまた、一般的である。男性においては、精巣が陰嚢へと下降することができない。
【0086】
ターナー症候群すなわちXモノソミーは通常、X染色体の欠落によって引き起こされる。それにより、出生3,000例のうち1例が冒される。この症候群の主要な特徴は、低身長、頚部の皮膚のみずかき形成、二次性徴の欠如または発達の遅れ、月経の欠如、大動脈の縮窄症(狭細)、ならびに目および骨の異常である。通常、関連する奇形のために出生時において、または、月経の欠如もしくは遅延および正常な二次性徴の発達の遅延がみられ場合には思春期において、状態が診断される。本明細書記載の方法は、出産前診断を可能にする。
【0087】
クラインフェルター症候群とは、通常の男性の構成であるXYの代わりに、余分の性染色体であるXXYを有する男性を指す。この症候群は、乳房が大きく、顔および体の体毛がまばらで、精巣が小さく、かつ精子を産生できない男性によって特徴づけられる。精神的に発達が遅れているわけではないが、大部分のXXY男性もまた、ある程度の言語障害を有する。
【0088】
本発明の方法は、染色体異常および関連する症候群の診断のための非侵襲的アプローチを提供する。
【0089】
次に、本発明を以下の実施例を参照しながらさらに説明する。以下の内容は単なる例示であり、かつ本発明の範囲内のままで、細部への修正が行われうることが理解されよう。
【0090】
実施例
以下は、母系血漿DNAを用いたダウン症候群の診断のための段階を説明する例である。本アプローチは、任意の染色体異数性または染色体DNA重複に適用可能である。
【0091】
ダウン症候群において、胎児は、第21染色体を3本有する。21トリソミーの症例の90%において、胎児は、母親から2本の第21染色体を、父親から1本の第21染色体を得た。余分な第21染色体DNAの検出は、以下のように実施される。
【0092】
第21染色体におけるDNA領域を、胎児DNAにおいてメチル化され、母系DNA(主に末梢血細胞)においてメチル化されていない、差次的メチル化についてスクリーニングする。
【0093】
母系および父系のDNAのための標識として使用可能な、差次的にメチル化されたDNA領域近傍の多型マーカーが同定される。
【0094】
血漿試料は妊婦から得られ、DNAは試料から単離される。
【0095】
単離された血漿DNAを、メチル化されていないDNA配列CCGGのみを切断するメチル化感受性の酵素(例えばHpaII)で処置する。酵素は、メチル化されていない母系DNAを消化するために使用され、それによってメチル化された胎児DNA断片のみが残される。あるいは、メチル化されたDNAのみを切断する酵素(GATC配列を認識するDpnIなど)を使用することもでき、それに応じてその後の段階が調整される。
【0096】
21トリソミーにおける父系対立遺伝子頻度と健常者の父系対立遺伝子頻度との間の実質的な相違(下記の表)が観察されると考えられる。表において、対立遺伝子Aは母系特異的であり、対立遺伝子Bは父系特異的である。
【0097】
下記の表において、対照を下回る父系対立遺伝子頻度が、ダウン症候群の指標となる。

【0098】
染色体異常が、余分な第21染色体によって示される染色体異数性に起因することの確証は、羊水穿刺などの当技術分野において公知の手段によって確認できる。
【0099】
酵素消化が効率100%を下回る場合、対立遺伝子頻度の相違は引き続き観察されると考えられるが、しかし(表に示される)16.7%の相違の代わりに、観察される相違は5%〜10%の範囲内である可能性があり、かつしたがって、対照を提供するために対照遺伝子座(正常な、すなわち下記の表における非異数性の遺伝子座におけるC/D対立遺伝子)を用いることは好ましい。このことを、以下の表において説明する。

【0100】
100%消化でない場合は、胎児DNAを更に濃縮するために、さらなる増幅スキームを上述の方法に組み込むこともできる。DNA領域が胎児DNAにおいてメチル化されているが母系DNAにおいてはメチル化されていないという想定が用いられる。
【0101】
大多数の母系DNAが、上述のメチル化感受性の酵素を使用して消化されると考えられる。これが、胎児DNA濃縮の第一段階である。
【0102】
母系および胎児のDNAを次に、ローリングサークル増幅などの等温性機構によって増幅する。同時に、ヘミメチル化DNAに特異的なDNAメチラーゼ(Dnmt1など)を用いて、初期のヘミメチル化DNAをメチル化する。胎児DNAのみが初めにメチル化されているので、メチラーゼは増幅過程の胎児DNAのみをメチル化すると考えられる。その結果、メチル化された胎児DNAおよびメチル化されていないDNAが産生される。
【0103】
増幅された試料を次に、メチル化されていない母系DNAを消化するメチル化感受性の酵素(例えばHpaII)を使用して、再度消化する。これが、胎児DNA濃縮の第二段階である。この段階の後では、残った大多数のDNAは、胎児DNAである。将来的なDNA定量に関しては、これは、100%HpaII消化に等しい。
【0104】
本明細書に記載の全ての参考文献は、参照として本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、所定のDNA領域における染色体異常の出生前診断のための方法であって、染色体異常を含まない正常対照と比較した、父系対立遺伝子50%および母系対立遺伝子50%とは異なる対立遺伝子頻度における相違が染色体異常を表す、方法:
a)妊婦から血漿試料を得る段階;
b)選択的かつ実質的に完全に母系DNAを消化する酵素で血漿試料由来のDNAを消化して、胎児DNA領域が濃縮されたDNA試料を得る段階;ならびに
c)段階b)の試料中の胎児DNA領域に隣接または内在する多型マーカーを使用して、父系または母系の対立遺伝子頻度を決定する段階。
【請求項2】
DNAが消化される前に血漿試料から単離される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
段階c)の父系または母系の対立遺伝子頻度の比較が、重複または欠失が診断の標的とならない染色体内に位置する少なくとも1つの内部対照に対して行われ、かつ、母系および父系の対立遺伝子の双方が等量で存在し、かつ、内部対照からの比率の偏差が染色体異常の存在を示す、請求項1記載の方法。
【請求項4】
段階a)の後で段階c)の前に実行されるDNA増幅段階を更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
段階b)の酵素がメチル感受性の酵素である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
メチル感受性の酵素が、メチル化されていないDNA認識部位のみで消化し、かつ、母系または父系の対立遺伝子頻度が、メチル化された胎児DNA領域に隣接または内在する多型マーカーを用いて決定される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
メチル感受性の酵素が、メチル化されたDNA認識部位のみで消化し、かつ、母系または父系の対立遺伝子頻度が、メチル化されていない胎児DNA領域に隣接または内在する多型マーカーを用いて決定される、請求項3記載の方法。
【請求項8】
以下の段階を含む、染色体異常の出生前診断のための方法であって、母系50%および父系50%とは異なる対立遺伝子頻度における相違が染色体異常を表す、方法:
a)妊婦から血漿試料を得る段階;
b)血漿試料中に存在する核酸を、メチル化されていないDNAのみを消化するメチル感受性の酵素で消化する段階;
c)任意で、段階b)由来の未消化核酸を単離する段階;
d)初期のヘミメチル化核酸をメチル化するために、核酸メチラーゼを用いながら、段階b)またはc)から未消化核酸を増幅する段階;
e)増幅された段階d)の核酸を、メチル化されていない核酸のみを消化するメチル感受性の酵素で消化する段階;ならびに
f)メチル化されていない胎児核酸領域に隣接または内在する多型マーカーを用いて父系または母系の対立遺伝子頻度を決定する段階。
【請求項9】
段階f)の父系または母系の対立遺伝子頻度の比較が、対照核酸試料に対して実行され、対照試料における比率と異なる相違が染色体異常を表す、請求項8記載の方法。
【請求項10】
核酸がDNAである、請求項8記載の方法。
【請求項11】
核酸が消化される前に血漿試料から単離される、請求項8記載の方法。
【請求項12】
染色体異常がDNA重複である、請求項1または8記載の方法。
【請求項13】
染色体異常がDNA欠失である、請求項1または8記載の方法。
【請求項14】
染色体異常が異数性である、請求項1または8記載の方法。
【請求項15】
異数性が、21トリソミー、18トリソミー、および13トリソミーからなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
以下の段階を含む、胎児の染色体異常の診断法であって、父系対立遺伝子50%および母系対立遺伝子50%とは異なる対立遺伝子頻度における相違が染色体異常を表す、方法:
a)妊婦から血漿試料を得る段階;
b)少なくとも一つの胎児核酸領域について試料を濃縮するために、選択的に血漿試料を処置する段階;
c)段階b)の試料中の少なくとも1つの胎児核酸領域に隣接または内在する少なくとも1つの多型マーカーを使用して、父系または母系の対立遺伝子頻度を決定する段階;ならびに
d)段階c)の父系または母系の対立遺伝子頻度を対照DNA試料と比較する段階。
【請求項17】
以下の段階を含む、胎児の染色体異常の診断法であって、母系および父系の対立遺伝子が所定の量で存在し、対照と比較して父系対立遺伝子50%および母系対立遺伝子50%とは異なる対立遺伝子頻度における相違が染色体異常を表す、方法:
a)妊婦から血漿試料を得る段階;
b)少なくとも一つの胎児核酸領域について試料を濃縮するために、選択的に血漿試料を処置する段階;
c)段階b)の試料中の少なくとも1つの胎児核酸領域に隣接または内在する少なくとも1つの多型マーカーを使用して、父系または母系の対立遺伝子頻度を決定する段階;ならびに
d)段階c)の父系または母系の対立遺伝子頻度を対照DNA試料と比較する段階。
【請求項18】
以下を含む、染色体異常の出生前診断のためのキット:
メチル化感受性の酵素;
母系血漿中に存在する胎児DNAおよび母系DNA中の差次的にメチル化された領域内に少なくとも一つの多型遺伝子座を含む部位に隣接する領域をアニーリングでき、かつしたがって増幅できる、少なくとも一対の核酸増幅プライマー;
少なくとも一つの多型遺伝子座における対立遺伝子の検出を可能にする少なくとも一つのプライマーまたはプローブ;ならびに
妊婦から血漿試料を得る段階、血漿試料中に存在する核酸をメチル化感受性の酵素で選択的に消化して、試料中の胎児核酸を濃縮する段階、増幅プライマーを用いて核酸増幅を実行し、胎児核酸が濃縮された試料中に存在する対立遺伝子を検出する段階、および遺伝子座における2つの異なる対立遺伝子の比率が対立遺伝子が等量で存在する対照から離れている場合には胎児が染色体異常に冒されているように結果を解釈する段階を実行するためにユーザに指示する取扱説明書。
【請求項19】
対照核酸パネルをさらに含むキットであって、対照が、既知の染色体異常を有する胎児を妊娠した女性、および染色体異常のない胎児を妊娠した女性から単離された核酸を含む、請求項18記載のキット。
【請求項20】
少なくとも一対の増幅プライマーおよび検出プライマーまたはプローブの内部対照をさらに含むキットであって、プライマーおよび/またはプローブが、内部対照を提供するために、母系血漿中に存在する胎児DNAおよび母系DNAにおいて差次的にメチル化されるが重複または欠失がまれである染色体中に生じる核酸領域から選択される、請求項19記載のキット。
【請求項21】
出生前診断が第13染色体、第18染色体、または第21染色体の重複に関し、かつ、内部対照が第13染色体、第18染色体、または第21染色体以外の任意の常染色体に位置する、請求項19記載のキット。

【公表番号】特表2007−508017(P2007−508017A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534361(P2006−534361)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/033175
【国際公開番号】WO2005/035725
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(505084240)ザ トラスティーズ オブ ボストン ユニバーシティ (2)
【Fターム(参考)】