説明

柔軟性薄葉紙およびその製造方法

【課題】安全で環境に優しい柔軟性薄葉紙を提供する。
【解決手段】基材紙に、イカ墨から抽出された平均粒径が1μm以下の天然メラニン色素粒子が含有されている柔軟性薄葉紙とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然柔軟成分を使用した柔軟性薄葉紙およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トイレットペーパーやティッシュペーパー等の家庭用衛生薄葉紙においては、柔軟剤をパルプスラリーに添加し、パルプ相互の滑りにより柔軟性を向上させる方法が各種提案されている。柔軟剤としては、たとえば脂肪酸エステル系柔軟化剤(特許文献1)、第4級アンモニウム塩型カチオン活性剤(特許文献2)、ウレタンアルコール、その塩、またはカチオン化物(特許文献3)、非陽イオン系界面活性剤(特許文献4)等が知られている。
【特許文献1】米国特許第3,296,065号明細書
【特許文献2】特開昭48−22701号
【特許文献3】特開昭60−139897号
【特許文献4】特開平2−99690号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、合成の柔軟剤は安全性や環境負荷を考慮すると好ましくない。特にトイレットペーパーの場合にその傾向は顕著である。
そこで、本発明の主たる課題は、安全で環境に優しい柔軟性薄葉紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
基材紙に、平均粒径が1μm以下の天然メラニン色素粒子が含有されていることを特徴とする柔軟性薄葉紙。
【0005】
(作用効果)
平均粒径が1μm以下の天然メラニン色素粒子は、例えば特開2005−97600号公報に記載されているようにインク等の着色用として知られているが、これを薄葉紙に含有させた場合に柔軟性および平滑性が向上することは知られていない。本発明者らは、薄葉紙の着色に係る研究を行う過程でこれを発見し、本発明をなすに至ったものである。本発明によれば、天然成分で柔軟性および平滑性を向上できるため、安全で環境に易しい柔軟性薄葉紙を得られるようになる。
なお、本発明の平均粒径とは個数平均径を意味する。
【0006】
<請求項2記載の発明>
前記メラニン色素粒子がイカ墨から抽出されたものである、請求項1記載の柔軟性薄葉紙。
【0007】
(作用効果)
天然メラニン色素がイカ墨から抽出されたものであると、低コストで入手でき、安全であるため好ましい。
【0008】
<請求項3記載の発明>
前記メラニン色素粒子に対する重量比で0.1〜10%の合成柔軟剤が含有されている、請求項1または2記載の柔軟性薄葉紙。
【0009】
(作用効果)
本発明では、合成柔軟剤を所定の範囲内で併用することもでき、その場合、柔軟性および平滑性が顕著に向上する。
【0010】
<請求項4記載の発明>
基材紙に、平均粒径が1μm以下の天然メラニン色素粒子を内添または外添することを特徴とする柔軟性薄葉紙の製造方法。
【0011】
(作用効果)
請求項1に記載の発明と同様の作用効果を奏する。
【0012】
<請求項5記載の発明>
平均粒径が1μm以下の天然メラニン色素粒子と、コーパル樹脂およびダンマル樹脂の少なくとも一方とを、パルプスラリーに添加して抄造することを特徴する柔軟性薄葉紙の製造方法。
【0013】
(作用効果)
天然メラニン色素粒子を基材紙に含有させる場合、パルプスラリーに添加することができ、その場合パルプスラリー中に天然メラニン色素粒子の分散剤を添加するのが望ましい。しかし、薄葉紙の分野で汎用されているシェラック樹脂は天然メラニン色素粒子に対する効果が乏しいことが判明した。これに対して、コーパル樹脂およびダンマル樹脂は、天然メラニン色素粒子の分散効果に富むものであり、本発明の製造方法に好適である。
【0014】
<請求項6記載の発明>
平均粒径が1μm以下の天然メラニン色素粒子と、コーパル樹脂およびダンマル樹脂の少なくとも一方とを含むスラリーを、基材紙に外添することを特徴する柔軟性薄葉紙の製造方法。
【0015】
(作用効果)
天然メラニン色素粒子を基材紙に含有させる場合、天然メラニン色素粒子のスラリーをスプレーあるいはロール転写等により基材紙に外添することができ、その場合スラリー中に天然メラニン色素粒子の分散剤を添加するのが望ましい。しかし、薄葉紙の分野で汎用されているシェラック樹脂は天然メラニン色素粒子に対する効果が乏しいことが判明した。これに対して、コーパル樹脂およびダンマル樹脂は、天然メラニン色素粒子の分散効果に富むものであり、本発明の製造方法に好適である。
【発明の効果】
【0016】
以上のとおり、本発明の薬液含有薄葉紙によれば、安全で環境に優しい柔軟性を有するようになる等の利点がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について詳説する。
基材紙の原料パルプとしては、公知のものを限定無く用いることができ、具体的には、グランドウッドパルプ(GP)・プレッシャーライズドグランドウッドパルプ(PGW)・サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、セミケミカルパルプ(CP)、針葉樹高歩留り未晒クラフトパルプ(HNKP)・針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)・広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)・広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等の化学パルプ、ならびにデインキングパルプ(DIP)・ウェイストパルプ(WP)等の古紙パルプのうち、一種または二種以上を選択して用いることができる。特に、パルプ原料におけるNBKP配合率(JIS P 8120)を5〜60%、特に10〜40%とするのが好ましい。基材紙の米坪(JIS P 8124)は、1プライ当たり10〜40g/m2が望ましい。紙厚は2プライ(2枚重ね)で70〜400μm、1プライの場合はその半分であるのが望ましい。クレープ率(((製紙時のドライヤーの周速)−(リール周速))/(製紙時のドライヤーの周速)×100)は10%〜30%が望ましく、特に15〜25%が望ましい。
【0018】
本発明の基材紙としては、JIS P 8113に規定される乾燥引張強度(以下、乾燥紙力ともいう)が、縦方向100cN/25mm以上、特に100〜300cN/25mm、横方向30cN/25mm以上、特に30〜200cN/25mmのものを用いるのが好ましい。基材紙の乾燥紙力が低過ぎると、製造時に破れや伸び等のトラブルが発生し易くなり、高過ぎると使用時にごわごわした肌触りとなる。
【0019】
これらの紙力は公知の方法により調整でき、例えば、紙力剤を内添(ドライヤーパートよりも前の段階、例えばパルプスラリーに添加)する、パルプのフリーネスを低下(例えば30〜40ml程度低下)させる、NBKP配合率を増加(例えば50%以上に)する、薬液に紙力剤を外添する等の手法を適宜数組み合わせることができる。
【0020】
乾燥紙力剤としては、CMC(カルボキシメチルセルロース)若しくはその塩であるカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース亜鉛等を用いることができる。湿潤紙力剤としては、ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂、尿素樹脂、酸コロイド・メラミン樹脂、熱架橋性付与PAM等を用いることができる。湿潤紙力剤を内添する場合、その添加量はパルプスラリーに対する重量比で0〜10kg/t程度とすることができる。また、CMCを内添する場合、その添加量はパルプスラリーに対する重量比で0〜10kg/t程度とすることができる。
【0021】
本発明では、基材紙に平均粒径が1μm以下の天然メラニン色素粒子が含有される。天然メラニン色素は、特に原料が限定されるものではないが、イカ墨から抽出されたものを好適に用いることができる。天然メラニン色素粒子の含有量は適宜定めることができるが、1〜100%、特に50〜100%とするのが好ましい。
【0022】
このような粒子は、特開2005−97600号公報に記載の方法により製造することができる。具体的には、工業用中性プロテアーゼなどの蛋白質分解酵素あるいは工業用中性リパーゼなどの脂質分解酵素を含む反応溶液に、イカの墨汁嚢の内容物を入れて酵素反応させた後、反応溶液から、遠心分離およびその上澄みの濾過、あるいは限外濾過等の適宜の手段によって、平均粒径が1μm以下(粒度分布がほぼ0.5μmを中心とする正規分布となる)の黒色又は黒褐色のメラニン色素粒子を得るものである。
【0023】
基材紙に天然メラニン色素粒子を含有させるための方法としては、例えば、
(a)天然メラニン色素粒子を基材紙の抄造工程における内添薬品としてパルプスラリーに添加する、
(b)天然メラニン色素粒子のスラリーを、基材紙の抄造工程や加工工程において、スプレー装置により紙に塗布する、または
(c)天然メラニン色素粒子のスラリーを、グラビア印刷またはフレキソ印刷を利用して紙にロール転写する、
といった方法を採用することができる。
なお、上記(a)の場合、内添薬品の種箱に天然メラニン色素粒子を添加しても、パルプスラリーに分散し難い。上記(b)の場合、天然メラニン色素粒子の凝集によりスプレーノズルが目詰まりするおそれがある。また、上記(c)の場合、版に天然メラニン色素粒子が載り難い。このため、分散剤を用いることが好ましいが、薄葉紙の分野で汎用されているシェラック樹脂は、天然メラニン粒子に対する効果が乏しいため、コーパル樹脂およびダンマル樹脂の少なくとも一方を用いるのが好ましい。
【0024】
本発明では、合成柔軟剤を全く用いないのが好ましいが、併用することもできる。ただし、合成柔軟剤の使用量は、メラニン色素粒子に対する重量比で0.5〜10%とされる。特に好ましい範囲は1〜5%である。合成柔軟剤が多すぎると、天然成分を用いる意味が無くなる。合成柔軟剤は、天然メラニン色素粒子と混合して用いることも、また別途外添または内添することもできる。合成柔軟剤としては、特に限定されず、脂肪酸エステル系柔軟化剤等の公知の柔軟剤を用いることができる。
【0025】
(その他)
本発明の天然メラニン色素粒子は、基材紙を着色できるため、基材紙の全体に付与しても良いが、グラビア印刷またはフレキソ印刷等を利用して模様状に付与することもできる。
また紙に着色する場合、1プライ(1枚からなる)、2プライ(2枚重ね)でもそれ以上でもよい。
【実施例】
【0026】
LBKP:NBKP=6:4のパルプを用い、パルプスラリーに表1に示される各種成分を添加して表1に示される各種の薄葉紙(全て1プライ)を製造した。天然メラニン色素粒子は前述の特開2005−97600号公報に記載されているものを用いた。この薄葉紙について、表1に示される各種物性の測定ならびに性能評価を行った。
物性の測定は、JIS P 8111に規定される条件下で行った。ソフトネス(柔軟性)は、ハンドルオメーター法(JIS L 1096)により測定した。MMD(表面摩擦係数の変動性)カトーテック社製の自動化表面試験機により測定した。
また、安全性に関しては、薬品による人の皮膚のかぶれなどを検査する皮膚パッチ試験を行い、その結果を、○:皮膚のかぶれがない、×:皮膚のかぶれがある、の2段階で評価した。
官能評価については、◎:柔らかさ・平滑性が十分にある、○:柔らかさ・平滑性がある、×:柔らかさ・平滑性がない、の3段階で評価した。
【0027】
【表1】

【0028】
表1からも判るように、本発明に係る実施例では、安全で環境に優しいものでありながら、柔軟性および平滑性に富むものとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、トイレットペーパー、ティシューペーパー、キッチンペーパー、クレープ紙等の薄葉紙に適用可能なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材紙に、平均粒径が1μm以下の天然メラニン色素粒子が含有されていることを特徴とする柔軟性薄葉紙。
【請求項2】
前記メラニン色素粒子がイカ墨から抽出されたものである、請求項1記載の柔軟性薄葉紙。
【請求項3】
前記メラニン色素粒子に対する重量比で0.1〜10%の合成柔軟剤が含有されている、請求項1または2記載の柔軟性薄葉紙。
【請求項4】
基材紙に、平均粒径が1μm以下の天然メラニン色素粒子を内添または外添することを特徴とする柔軟性薄葉紙の製造方法。
【請求項5】
平均粒径が1μm以下の天然メラニン色素粒子と、コーパル樹脂およびダンマル樹脂の少なくとも一方とを、パルプスラリーに添加して抄造することを特徴する柔軟性薄葉紙の製造方法。
【請求項6】
平均粒径が1μm以下の天然メラニン色素粒子と、コーパル樹脂およびダンマル樹脂の少なくとも一方とを含むスラリーを、基材紙に外添することを特徴する柔軟性薄葉紙の製造方法。

【公開番号】特開2008−57068(P2008−57068A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234628(P2006−234628)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】