説明

栄養センサー

本発明は、AMP対ATPの細胞内比率を増加させ、且つAMPKの活性を低下させるのに十分な量の奇数鎖脂肪酸を患者に提供することによって、患者において異化作用の影響を処置するための組成物及び方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、栄養センサー及び細胞内代謝の分野、より具体的には、細胞異化作用の速度を増加又は減少させる、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK、AMP-activated protein kinase)の活性を調節するための奇数鎖脂肪酸の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の範囲を限定することなく、その背景を細胞内代謝に関して説明する。
【0003】
細胞代謝、生化学における初期の発見、及び代謝に関与する決定的に重要な酵素をコードする遺伝子の同定以来、先天性代謝異常に対する食餌療法は、罹患した代謝経路への前駆体の制限に主として焦点を合わせてきた。これらの初期の発見により、多数の補完療法がもたらされた。これらの療法では、欠けている前駆体又は栄養が、単独で、又は1若しくは複数の医薬と組み合わせて食餌中で提供される。
【0004】
細胞代謝は、2つの異なる区分を有する。即ち、細胞がエネルギーを使用して、複雑な分子を構築し、また細胞構造を作り出すなど他の生命機能を果たす同化作用、並びに細胞が複雑な分子を分解して、エネルギー及び還元力を発生させる異化作用である。細胞代謝は、極めて複雑な順序の制御された化学反応、制御及び調節機序、フィードバックループ、並びに遺伝子発現の増大及び減少を伴う。
【0005】
何年も栄養療法及び薬物療法が行われているものの、ミクロレベル及びマクロレベルで細胞のエネルギー処理及び代謝を改善させる必要が存在する。既存の療法は、代謝の制御機序ではなく、代謝の前駆体に焦点を合わせていることが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、多数の無関係な疾患に対する広範囲の療法が、共通の制御調節機序を有するという認識に基づいている。補充療法は、先天的疾患におけるエネルギー欠乏が、ATP産生を促進させるために、クエン酸回路(CAC、citric acid cycle)及び電子伝達系の双方に対する代替基質を提供することによって改善され得るという概念に基づいている。1つの決定的に重要な調節構成要素は、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アデノシン一リン酸(AMP、adenosine monophosphate)対アデノシン三リン酸(ATP、adenosine triphosphate)の細胞内比率を増加させ、且つAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性を低下させるのに十分な量の奇数鎖脂肪酸を患者に提供することによって、患者における異化作用の影響を処置するための組成物及び方法を含む。奇数鎖脂肪酸は、ヘプタン酸、ペンタン酸、トリヘプタン酸、トリペンタン酸、及びそれらの組合せでよい。奇数鎖脂肪酸は、哺乳動物ラパマイシン標的タンパク質(mTOR、mammalian target of rapamycin)の活性を低下させることもできる。mTORの活性は、本発明の組成物及び方法の効果を検出するのにも使用され得る。一般に奇数鎖脂肪酸が代謝されて細胞内のADP又はATPレベルが上昇し、それによって細胞内AMPKが遮断される。
【0008】
したがって、奇数鎖脂肪酸を患者に提供することは、同化作用と異化作用との生化学的切換えの指示を担っている栄養スイッチ、即ちAMPKを作動及び遮断するのに役立つ。本発明は、奇数鎖脂肪酸をうまく利用して通常の生化学的経路を迂回又は回避して、切換え機序それ自体に到達する、即ちAMP、アデノシン二リン酸(ADP、adenosine diphosphate)、及びATPの相対濃度を変更又は調節する。例えば、奇数鎖脂肪酸は、ATPレベルを上昇させ、それによってAMPKを遮断することによって細胞異化作用を低減する。患者又は器官の一般的な活性化状態に応じて、例えば、患者の1日の食餌カロリー所要量の約1〜約40%、又は20〜35%を奇数鎖脂肪酸で患者又は器官に提供することによって、AMPKの活性を調節することができる。当業者には、患者又はその器官が、様々な方法及び場所を介して奇数鎖脂肪酸を受け得ることが認識されよう。患者に奇数鎖脂肪酸を提供する方法の非限定的な例としては、経口、経腸、非経口、経鼻、静脈内、又はそれらの組合せなどが挙げられる。
【0009】
本発明はまた、AMP対ATPの細胞内比率を増加させるのに十分な量の奇数鎖脂肪酸を患者に提供することによって、必要とする患者において低減している細胞内異化作用を処置するための方法も含む。奇数鎖脂肪酸は、ヘプタン酸、ペンタン酸、トリヘプタン酸、トリペンタン酸、及びそれらの組合せでよい。
【0010】
本発明のさらに別の方法は、AMPKの活性化レベルを同定することにより患者の代謝状態を決定し、且つ患者の食餌中の奇数鎖脂肪酸のパーセンテージを変更して、AMP対ATPの細胞内比率及びAMPKの活性化状態を変更することによって、必要とする患者において細胞内代謝を調節するための組成物及び方法を含む。やはり、奇数鎖脂肪酸としては、ヘプタン酸、ペンタン酸、トリヘプタン酸、トリペンタン酸、及びそれらの組合せを挙げることができる。
【0011】
本発明の別の実施形態は、AMPKの細胞内活性を変更して細胞内異化作用の量を増加又は減少させるのに十分である栄養的有効量の奇数鎖脂肪酸を含む、細胞内AMPKの活性を調節するための組成物を含む。栄養的有効量の奇数鎖脂肪酸は、ヘプタン酸、ペンタン酸、トリヘプタン酸、トリペンタン酸、及びそれらの組合せでよく、患者の1日の食餌カロリー所要量の0.01〜40パーセントでよい。本発明の組成物は、単独で、又は担体、賦形剤、安定化剤、増強剤、可溶化剤、及び保存剤などと組み合わせて、各種の剤形のいずれかで提供することができる。組成物は、1又は複数の脂質、炭水化物、タンパク質、糖類、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、金属、及びそれらの組合せもさらに含んでよい。奇数鎖脂肪酸は、経口送達、経腸送達、非経口送達、静脈内送達、皮下送達、経皮送達、又はそれらの組合せ用に製剤化することができる。
【0012】
本発明の特徴及び利点をより完全に理解するために、添付図面と共に本発明の詳細な説明を以下に述べる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ヘプタン酸(C7)の肝臓代謝及びその代謝に必要とされる酵素を要約した図である。潜在的な脂肪酸化障害を表すβ酸化のステップも概説される。ヘプタン酸は、肝臓中のクエン酸回路(CAC)に燃料を提供するだけでなく、CACのための燃料(プロピオニル−CoA及びアセチル−CoA)の代わりに他の器官へと輸出するための5炭素「ケトン」体も生成し、それによって全器官にエネルギー源を提供する(BHP=β-ヒドロキシペンタン酸(BHP、β-hydroxypentanoate);BKP=β−ケトペンタン酸(BKP、β-ketopentanoate))。
【図2】B型ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症において観察される代謝異常を要約した図である。オキサロ酢酸(OAA、oxaloacetate)が欠乏すると、尿素回路においてシトルリンをアルギニノコハク酸に変換するのに必要とされるアスパラギン酸が限定される。NADH:NADの細胞質ゾルの比率は、ピルビン酸を乳酸に転換するが、CACを介してNADHの生成が減少するとその比率が低下し、アセト酢酸が3−ヒブロキシ酪酸(3-hybroxybutyrate)に変換されるのではなく蓄積することが可能になる。これらの変化は、肝臓中の細胞質ゾル及びミトコンドリアの双方において酸化還元状態が変更されたことを反映している。
【図3】酸性マルターゼ欠損症において肝臓ミトコンドリア(アラニン回路)に対するピルビン酸供給源として、アラニンを産生し、且つ骨格筋から肝臓にアラニンを一方向性に輸出するための生化学的経路を要約した図である。略語:MDH(リンゴ酸デヒドロゲナーゼ)(MDH、malate dehydrogenase)、PK(ピルビン酸キナーゼ)(PK、pyruvate kinase)、AAT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)(AAT、alanine aminotransferase)、ME(リンゴ酵素)(ME、malic enzyme)。
【図4】酸性マルターゼ欠損症における、肝臓でのヘプタン酸代謝並びに5炭素ケトン体(BHP)の産生及び輸出、並びに骨格筋でのBHP利用の生化学的経路を要約した図である。ヘプタン酸は、双方の器官系においてCACに燃料を供給することによって、筋肉アラニンの必要性を減少させる。略語:図4と同じもの、及びSCOT(スクシニル−CoAトランスフェラーゼ)(SCOT、succinyl-CoA transferase)。
【図5】栄養センサーAMPK及びmTORの活性化を要約した図である。中間代謝(異化作用対合成)及びヘプタン酸の補充役割の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の様々な実施形態の作成及び使用を下記に詳細に考察するが、本発明は、各種の特定の状況において具体化することができる多くの応用可能な本発明の概念を提供することが理解されるべきである。本明細書において論じる特定の実施形態は、本発明を作成及び使用するための特定の方法を例示するに過ぎず、本発明の範囲に限界を定めるものではない。
【0015】
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語を以下に定義する。本明細書において定義する用語は、本発明に関連した分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。単数による用語の表記は、単数形の実体のみを指すことを意図せず、そのうちのある特定の例が例証のために使用され得る一般的クラスを含む。本明細書における専門用語は、本発明の特定の実施形態を説明するために使用されるが、それらの用法は、特許請求の範囲において概説される場合を除き、本発明の限界を定めるものではない。
【0016】
本明細書において使用される場合、「対象」又は「患者」という用語は、多糖蓄積症と一般に呼ばれる1又は複数の病態を有し得る生物を含むものとする。対象の例としては、ヒト、サル、ウマ、雌ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、及びそれらのトランスジェニック種が挙げられる。対象の他の例としては、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、及び雌ウシなどの実験動物が挙げられる。対象は、異化エネルギー状態、即ち消耗(例えば、悪液質)に苦しんでいるか、又はそうであると推測され、生存するため、又はさらに動作若しくは全般的栄養を向上させるためにエネルギーを必要としているヒトでよい。欠損症の性質(急性対慢性)、疾患の状態(癌、悪液質、代謝の先天的欠陥、後天的代謝欠陥など)、及び栄養状態などに応じて、本発明は、患者が細胞、例えば、器官又は患者全体の同化状態及び/又は異化状態を制御する必要があるような1又は複数の病態を治療するために使用することができる。
【0017】
本明細書において使用される場合、「治療上有効な投与量」又は「治療有効量」という語句は、感染した対象における病態の1又は複数の症状の量を、未治療の対象と比べて少なくとも約20%、少なくとも約40%、さらに少なくとも約60%、80%、又はさらに100%減少させる、奇数鎖脂肪酸及びその前駆体又は誘導体などの化合物又は化合物の混合物の量である。活性化合物は、対象の病態に関連した病態を治療するのに十分な治療上有効な投与量で投与される。例えば、化合物の有効性は、患者、又はヒト若しくは動物において疾患を治療する際の有効性を予測し得る動物モデル系において評価することができる。
【0018】
本明細書において使用される場合、「必須脂肪酸」という用語は、脂肪酸と呼ばれる基本単位で構成される、食物中の脂肪及び油を記述するために使用される。「奇数鎖脂肪酸」という用語は、脂肪鎖中の奇数炭素で構成される、食物中の脂肪及び油を記述するために使用される。体内で、脂肪酸鎖は、典型的にはグリセロールに結合した「トリグリセリド」の状態で移動する。化学構造に基づき、脂肪酸は、3種の主要なカテゴリーに分類される。即ち、一不飽和脂肪、多価不飽和脂肪、又は飽和脂肪である。ヒト及び動物が摂食する油及び脂肪は、ほぼ常に、1つのタイプが優勢であるこれら3つのタイプの脂肪酸の混合物である。2つの特定のタイプの多価不飽和脂肪酸、即ちリノール酸及びα−リノレン酸は、必須脂肪酸と呼ばれる。これらは適切な栄養及び健康のために必要とみなされているため、食餌中に適切な量で存在しなければならない。リノール酸(LA、linoleic acid)は、ω−6脂肪酸であり、多くの油、例えば、トウモロコシ、ベニバナ、ダイズ、及びヒマワリ、全粒粉、及びクルミ中に存在する。α−リノレン酸(ALA、alpha-linolenic acid)は、ドコサヘキサエン酸(DHA、docosahexanoic acid)の植物前駆体である。ALAの供給源としては、海藻及び植物の緑色の葉(非常に少量)、ダイズ、クルミ、バターナット、いくつかの種子(アマ、チーア、アサ、キャノーラ)、並びにこれらの食物から抽出された油が挙げられる。
【0019】
本明細書において使用される場合、「栄養的有効量」という用語は、哺乳動物において有益な栄養作用又は応答を提供すると考えられる奇数鎖脂肪酸の量を意味するのに使用される。例えば、ビタミン及びミネラルを含む栄養補助食品に対する栄養応答が哺乳動物によって異なるのと同様に、奇数鎖脂肪酸の栄養的有効量も様々であることを理解すべきである。したがって、ある哺乳動物が、所定の量で存在する特定のプロファイルのビタミン及びミネラルを必要とする場合があるのに対し、別の哺乳動物が、異なる所定の量で存在する同じ特定のプロファイルのビタミン及びミネラルを必要とする場合がある。このことは、肝臓、並びに/又は心臓、筋肉、脳、及び腎臓中にC3及びC2炭素鎖を添加するために補充を使用することができる本発明の奇数鎖脂肪酸の栄養的有効量でも同様である。
【0020】
栄養補助食品又は食餌添加物として提供される場合、本発明の奇数鎖脂肪酸は、再構成可能な粉末状の散剤、液体−固体懸濁剤、液剤、カプセル剤、錠剤、カプレット、ローション剤、及びクリーム剤の剤形で調製され、且つ哺乳動物に投与された。製剤の分野の当業者は、本明細書において開示する奇数鎖脂肪酸を栄養補助食品として使用することができ、この栄養補助食品は、例えば、灌注投与、眼投与、耳投与、直腸投与、舌下投与、経皮投与、口腔内投与、膣投与、又は皮膚投与のために適切に製剤化することができる。したがって、咀しゃく可能なキャンディーバー、濃縮物、点滴剤、エリキシル剤、乳剤、フィルム剤、ゲル剤、顆粒剤、チューインガム、ゼリー剤、油剤、パスタ剤、香錠、ペレット剤、シャンプー、リンス、石けん、スポンジ、坐剤、綿棒、シロップ剤、咀しゃく可能なゼラチン剤、及び咀しゃく錠など他の剤形を使用することができる。
【0021】
食餌は人によって様々であるため、本発明の食餌性奇数鎖脂肪酸は、様々な範囲の投与量で投与し、且つ様々な投与単位強度(dosage unit strength)で製剤化することができる。栄養補助食品の投与量はまた、その補助食品を摂取する際に哺乳動物が苦しんでいる個々の疾患又は障害によっても変動し得ることに留意すべきである。例えば、慢性疲労症候群又は線維筋痛症に罹患している人は、一般に、栄養上の利益を達成することを望む運動選手とは異なる用量を必要とすると考えられる。栄養補助食品の適切な用量は、補助食品の特定の用量に対する患者の応答、即ち全体的健康状態を観察することによって容易に決定することができる。補助食品及び各作用物質の適切な用量は、それぞれの特定の用量に対する患者の応答、即ち全体的健康状態を観察することにより、同様にして容易に決定することができる。
【0022】
奇数鎖脂肪酸は、1又は組合せの剤形で同時に、又は逐次的に投与することができる。本発明の栄養補助食品は即時に全般的な健康利益を提供することが可能であり、さらには可能性が高いものの、このような利益が、実現するのに数日間、数週間、又は数カ月間かかる場合がある。それでもなお、本発明の食餌性奇数鎖脂肪酸補助食品は、それを消費する哺乳動物において有益な栄養応答を提供すると考えられる。
【0023】
本発明の奇数鎖脂肪酸は、例えば、経口で、又は(例えば注射による)皮下投与、静脈内投与、腹腔内投与などによって投与することができる。投与経路によって、活性化合物は、中和するか、混和性にするか、少なくとも部分的に若しくは完全に水溶性にするか、又はさらに、塩基、酸、酵素の作用、若しくは有効性、取込み、若しくは代謝使用を妨げる可能性がある他の天然の条件から奇数鎖脂肪酸を保護するための材料でコーティングすることができる。
【0024】
非経口投与以外によって本治療用化合物を投与するために、不活性化を防止する材料でその化合物をコーティングするか、又は不活性化を防止する材料と共にその化合物を同時投与することが必要である場合がある。例えば、治療用化合物は、適切な担体、例えば、乳化剤、リポソーム、又は希釈剤中で対象に投与することができる。薬学的に許容される希釈剤としては、生理食塩水及び水溶性の緩衝液が挙げられる。治療用奇数鎖脂肪酸は、グリセロール、液状ポリエチレングリコール、及びそれらの混合物中、並びに油中に分散させることができる。通常の保存及び使用条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防止する保存剤を含んでよい。
【0025】
注射用途に適した本発明の奇数鎖脂肪酸を含む薬学的組成物としては、無菌の水性液剤、分散剤、及び無菌の注射液剤又は分散剤を即時調製するための無菌粉末を挙げることができる。すべての場合において、組成物は、滅菌されていなければならず、また、容易に注入が可能である程度まで流動性でなければならない。これは製造及び保存時の条件下で安定でなければならず、且つ細菌及び真菌などの微生物の汚染作用から保護されなければならない。
【0026】
奇数鎖脂肪酸は、例えば、水、エタノール、多価アルコール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液状ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、及び植物油を含む溶媒又は分散媒体中で担体と共に提供されてよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散剤の場合は必要とされる粒子径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、及びチメロサールなどによって実現することができる。多くの場合、等張化剤、例えば、糖、塩化ナトリウム、又はマンニトール及びソルビトールなどの多価アルコールを組成物中に含むことが好ましいと考えられる。注射用組成物の持続吸収は、吸収を遅延させる作用物質、例えばモノステアリン酸アルミニウム又はゼラチンを組成物中に含めることによって実現することができる。
【0027】
患者の大きさ及び構造的所要量に応じて1又は複数の水溶性ポリマーと共に1又は複数の制御された大きさ及び特性の奇数鎖脂肪酸を提供してよく、例えば、粒子は、静脈内に提供される場合、血管を通り抜けるのに十分な小ささでよい。合成ポリマー又は天然ポリマーのいずれかを使用することができ、このグループに限るわけではないが、使用され得るいくつかのタイプのポリマーは、多糖類(例えば、デキストラン、フィコール)、タンパク質(例えば、ポリリシン)、ポリ(エチレングリコール)、又はポリ(メタクリラート)である。大きさ及び形状が異なるため、ポリマーが異なると、標的組織又は器官における奇数鎖脂肪酸の拡散特性が異なることになる。
【0028】
無菌注射液剤は、必要に応じて、前述の成分の1種又は組合せと共に、適切な溶媒中に必要な量の治療用化合物を混合し、続いてろ過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散剤は、基本となる分散媒体及び上記に列挙したもののうち必要な他の成分を含む無菌担体中に治療用化合物を混合することによって調製される。無菌の注射液剤を調製するための無菌粉末の場合、調製方法は以下を含む:活性成分(即ち、治療用化合物)及び先に滅菌ろ過したその溶液に由来する任意の所望の追加成分の粉末を生じる、真空乾燥、噴霧凍結、及び凍結乾燥。
【0029】
奇数鎖脂肪酸は、例えば、不活性な希釈剤又は吸収可能な可食担体と共に経口投与することができる。治療用化合物及び他の成分はまた、硬い若しくは軟らかい殻のゼラチンカプセル剤に封入されるか、圧縮して錠剤にされるか、又は対象の食餌中に直接組み込まれてもよい。奇数鎖脂肪酸は、賦形剤と混合し、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、及びカシェ剤などの形態で使用することができる。当然、組成物及び調製物中の奇数鎖脂肪酸の量は、例えば、個々の患者の年齢、体重、性別、状態、疾患、及び治療コースに応じて変動し得る。当業者には公知であるように、小児用の用量は、成人用の用量とは異なる可能性が高い。このような治療上有用な組成物中の治療用化合物の量は、適切な投与量が得られると考えられる量である。
【0030】
本明細書において開示する奇数鎖脂肪酸に関して使用するための投与単位は、単一の化合物でも、他の化合物、例えば、アミノ酸、核酸、ビタミン、ミネラル、及びプロビタミンなどとの混合物でもよい。化合物は、一緒に混合されて、イオン結合又はさらに共有結合を形成してもよい。薬学的な目的で、本発明の奇数鎖脂肪酸(例えば、C5、C7、及びC15)を、薬学分野の当業者には周知の剤形をすべて用いて、経口、静脈内(ボーラス若しくは輸注)、腹腔内、皮下、又は筋肉内の形態で投与することができる。個々の場所又は送達方法に応じて、様々な剤形、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、懸濁剤、シロップ剤、及び乳剤が、いくつかの病態、例えば、多糖蓄積症、疲労、低エネルギー、及び衰弱などを含む治療を必要とする患者に本発明の奇数鎖脂肪酸を提供するために使用され得る。奇数鎖脂肪酸はまた、公知の塩の形態のいずれか1種として投与することもできる。
【0031】
奇数鎖脂肪酸の1日合計量は、患者の病態及び必要に応じて変わると考えられる。例えば、奇数鎖脂肪酸は、即時、短期、中期、又は長期のエネルギー補給源として提供することができ、また、直ちに利用可能、持続放出、又は徐放の製剤中で提供することができる。投与量は、1日当たりのグラムで、1日に消費されるキロカロリーに対するパーセンテージとして、1日のカロリー総摂取量に対するパーセンテージとして、定まった食餌、改良された食餌、又は経時的に変わる食餌の一部分として測定することができる。例えば、患者は、ケトーシス(ketosis)に近づくか又は到達する量の奇数鎖脂肪酸を「注射する(spike)」迅速な介入処置を必要とする場合がある。次いで、これらの「ケトン体生成」奇数鎖脂肪酸を変更して、他の副作用を持たないようにする。例えば、1日当たりのカロリー総摂取量の40%で始め、次いで、患者の病態、症状、臨床経過、及び/又は代謝状態が改善するにつれ経時的に減少させる。カロリー摂取率の範囲は、約0.01、0.1、1、2、5、10、15、20、22、25、30、35、40、又はさらに高いパーセントまで様々でよく、1又は複数の奇数鎖脂肪酸(例えば、C5、C7、又はC15(例えば、Sassol社(ドイツ)から入手可能)を含んでよい。奇数鎖脂肪酸の効果及び/又は投与を測定する1つの方法は、身体の固体又は液体、例えばそれぞれ生検材料及び血液中で検出可能な量を測定することである。各種の奇数鎖脂肪酸代謝産物を、多数の供給源、例えば、尿、涙、大便、血液、汗、及び息などから検出することができる。
【0032】
例えば、C7を奇数鎖脂肪酸の供給源として使用する場合、これらは、トリグリセリド、例えばトリヘプタノインの形態で提供することができる。トリグリセリドのトリヘプタノインは、本発明のこの態様において最も有用である有益な効果を与えるのに十分な濃度で提供される。炭素数7の脂肪酸は、例えば以下のように提供することができる。
【0033】
【表1】

【0034】
幼児、小児、及び一部の若者に対して、4g/kg(標準体重(IBW、ideal body weight)範囲内)を用いて目標を設定した。若者に対しては、2g/kg(IBW範囲内)を用いて目標を設定した。成人に対しては、2g/kg(IBW範囲内)を用いて目標を設定した。但し、許容量は、1〜1.2g/kgである(これは、概算した必要量の35%のキロカロリーである)。
【0035】
奇数鎖脂肪酸は、典型的には、意図される投与形態に基づいて、且つ従来の薬学的実践と一致するように選択された適切な薬学的塩、緩衝剤、希釈剤、増量剤、賦形剤、及び/又は担体(本明細書においてまとめて薬学的に許容される担体又は担体材料と呼ぶ)と混合して投与される。投与するのに最良な場所に応じて、奇数鎖脂肪酸は、例えば、経口投与、直腸投与、局所的投与、静注投与、又は非経口投与のための個々の形態に対して最大及び/又は一貫した投与を実現するように製剤化することができる。奇数鎖脂肪酸は単独又は他の物質を混ぜずに(pure)投与することができるが、薬学的に許容される担体と混合した安定な塩の形態としてそれらを提供することもできる。担体は、選択された投与のタイプ及び/又は場所に応じて、固体又は液体でよい。
【0036】
本発明を用いて有用な剤形を作製するための技術及び組成は、以下の1又は複数の参考文献に記載されている。即ち、Ansel, Introduction to Pharmaceutical Dosage Forms 2nd Edition (1976)、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed. (Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1985)、Advances in Pharmaceutical Sciences (David Ganderton, Trevor Jones, Eds., 1992)、Advances in Pharmaceutical Sciences Vol 7. (David Ganderton, Trevor Jones, James McGinity, Eds., 1995)、Aqueous Polymeric Coatings for Pharmaceutical Dosage Forms (Drugs and the Pharmaceutical Sciences, Series 36 (James McGinity, Ed., 1989)、Pharmaceutical Particulate Carriers: Therapeutic Applications: Drugs and the Pharmaceutical Sciences, Vol 61 (Alain Rolland, Ed., 1993)、Drug Delivery to the Gastrointestinal Tract (Ellis Horwood Books in the Biological Sciences. Series in Pharmaceutical Technology; J.G.Hardy, S. S. Davis, Clive G. Wilson, Eds.)、及びModern Pharmaceutics Drugs and the Pharmaceutical Sciences, Vol 40 (Gilbert S. Banker, Christopher T. Rhodes, Eds.)などであり、各文献の関連する部分は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0037】
奇数鎖脂肪酸は、荷電であるか非荷電であるかを問わず、乳濁液及び/又はリポソーム、例えば、小型の単層膜小胞、大型の単層膜小胞、及び多重膜小胞の形態で投与することができる。リポソームは、1又は複数のリン脂質(例えばコレステロール)、ステアリルアミン、及び/又はホスファチジルコリン、並びにそれらの混合物などを含んでよい。本発明と共に使用するための乳化剤の例としては、Imwitor 370、Imwitor 375、Imwitor 377、Imwitor 380、及びImwitor 829が挙げられる。
【0038】
奇数鎖脂肪酸小胞はまた、薬物担体又はプロドラッグとしての1又は複数の可溶性、生分解性、及び生物に許容されるポリマーに結合されてもよい。このようなポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ピラン共重合体、ポリヒドロキシルプロピルメタクリルアミド−フェノール、ポリヒドロキシエチルアスパルトアミデフェノール、又はパルミトイル残基で置換されたポリエチレンオキシド−ポリリジン、及びそれらの混合物などを挙げることができる。さらに、小胞は、奇数鎖脂肪酸の制御放出を実現するために、1又は複数の生分解性ポリマーに結合されてもよい。
【0039】
本発明と共に使用するための生分解性ポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体、ポリエプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアシラート、及び架橋ヒドロゲル又は両親媒性ブロック共重合体のヒドロゲル、並びにそれらの混合物などが挙げられる。
【0040】
一実施形態では、ゼラチンカプセル剤(ジェルキャップ)が、天然の状態の奇数鎖脂肪酸を含んでよい。液体剤形で経口投与する場合、経口用の薬物成分は、乳化剤、希釈剤、又は溶剤(例えばエタノール)、グリセロール、及び水など任意の経口用で非毒性の薬学的に許容される不活性な担体と組み合わせてよい。適切な液体剤形の例としては、油性液剤、又は水、薬学的に許容される脂肪及び油、アルコール、若しくはエステルを含む他の有機溶剤に溶かした懸濁剤、乳剤、シロップ剤又はエリキシル剤、懸濁剤、非発泡性の顆粒剤から再構成した液剤及び/又は懸濁剤、並びにさらに、発泡性の顆粒剤から再構成した発泡性の調製物が挙げられる。このような液体剤形は、例えば、適切な溶剤、保存剤、乳化剤、懸濁化剤、希釈剤、甘味剤、増粘剤、及び溶融剤、並びにそれらの混合物などを含んでよい。
【0041】
また、経口投与用の液体剤形は、患者の許容性、したがって投与計画に対する服薬遵守を向上させる着色剤及び矯味剤も含んでよい。一般に、水、適切な油、生理食塩水、デキストロース水溶液(例えば、グルコース、ラクトース、及び関連する糖の溶液)並びにグリコール(例えば、プロピレングリコール又はポリエチレングリコール)が、非経口液剤用に適した担体として使用され得る。非経口投与用の液剤は一般に、活性成分の水溶性の塩、適切な安定化剤、及び必要な場合には緩衝塩を含む。亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、及び/又はアスコルビン酸などの抗酸化剤は、単独又は組合せのいずれかで、適切な安定化剤である。クエン酸及びその塩並びにナトリウムEDTAもまた、安定性を高めるために含めてよい。さらに、非経口液剤は、薬学的に許容される保存剤、例えば、塩化ベンザルコニウム、メチルパラベン若しくはプロピルパラベン、及び/又はクロロブタノールを含んでもよい。適切な薬学的担体は、この分野の標準的な参照教科書であるRemington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Companyの複数の版に記載されており、関連する部分は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0042】
鼻腔、副鼻腔、口、咽頭、食道、気管、肺、及び肺胞に直接送達する場合、奇数鎖脂肪酸は、適切な鼻腔内媒体を使用することによって鼻腔内形態として送達することもできる。皮膚送達及び経皮送達する場合、奇数鎖脂肪酸は、当業者には周知であるように、ローション剤、クリーム剤、油剤、エリキシル剤、血清、及び経皮皮膚パッチなどを用いることによって送達することができる。また、非経口形態及び静脈内形態は、薬学的に許容される塩及び/又はミネラル、並びに選択した注射又は送達系のタイプに適合性にするための他の材料、例えば、緩衝化した等張液を含んでもよい。
【0043】
奇数鎖脂肪酸を乾燥粉末又は乾燥形態にすることができるのであれば、これらを錠剤に含めてもよい。錠剤は、一般に、例えば、適切な結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味剤、流動化剤、及び/又は溶融剤を含む。例えば、経口投与は、錠剤、ジェルキャップ、カプレット、又はカプセル剤の単位剤形でよく、活性な薬物成分は、非毒性の薬学的に許容される不活性な担体、例えば、ラクトース、ゼラチン、寒天、デンプン、スクロース、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、マンニトール、ソルビトール、及びそれらの混合物と混合される。本発明と共に使用するのに適した結合剤としては、デンプン、ゼラチン、天然の糖(例えば、グルコース又はβ−ラクトース)、コーン甘味料、天然及び合成のゴム(例えば、アラビアゴム、トラガカントゴム、又はアルギン酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、並びにワックスなどが挙げられる。本発明と共に使用するための滑沢剤としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、及びそれらの混合物などを挙げることができる。崩壊剤としては、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンゴム、及びそれらの混合物などを挙げることができる。
【0044】
カプセル剤。カプセル剤は、標準的な2個で1組の硬ゼラチンカプセルにそれぞれ10〜500ミリグラムの粉末状活性成分、5〜150ミリグラムのラクトース、5〜50ミリグラムのセルロース、及び6ミリグラムのステアリン酸マグネシウムを充填することによって調製することができる。
【0045】
軟ゼラチンカプセル剤。奇数鎖脂肪酸は、油、例えば、ダイズ油、綿実油、又はオリーブ油などの消化可能な油中に溶解させることができる。また、難消化性な油も、油によって提供されるカロリー総摂取量をよりうまく管理するために使用してもよい。活性成分を調製し、容積式ポンプを用いてゼラチン中に注入することによって、例えば、100〜500ミリグラムの活性成分を含む軟ゼラチンカプセル剤を形成させる。これらのカプセル剤は洗浄し、乾燥させる。
【0046】
錠剤。多数の錠剤を従来の手順によって調製し、その結果、投与単位は、100〜500ミリグラムの活性成分、0.2ミリグラムのコロイド状二酸化ケイ素、5ミリグラムのステアリン酸マグネシウム、50〜275ミリグラムの微結晶性のセルロース、11ミリグラムのデンプン、及び98.8ミリグラムのラクトースであった。口当たりを良くするか、又は吸収を遅延させるために、適切なコーティングを施してもよい。
【0047】
発泡性の錠剤を提供するためには、適切な量の、例えば、クエン酸一ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムを共に混合し、次いで、水の不在下でローラー圧縮して薄片を形成させ、次いでそれを粉砕して顆粒を得る。次いで、これらの顆粒を、活性成分、薬物、及び/又はその塩、従来のビーズ化剤又は充填剤、並びに場合によっては甘味剤、矯味剤、及び滑沢剤と混合する。
【0048】
注射液剤。注射によって投与するのに適した非経口組成物は、脱イオン水中で十分な活性成分を攪拌することによって調製し、例えば、最高10体積%のプロピレングリコール、塩、及び/又は組成物を送達するための水と混合し、濃縮された形態であるか、すぐ使用できる形態であるかは問わない。奇数鎖脂肪酸の性質(単独、水にある程度溶解、又は水に完全に溶解)を考慮して、シリンジ及び/又は標準的な静脈用の液体又は流体を用いて静脈内に液体を提供できるように、奇数鎖脂肪酸の量及び最終濃度を変更することができる。溶液は、一般に、塩化ナトリウムを用いて等張性にし、例えば限外ろ過を用いて滅菌する。
【0049】
懸濁剤。各5mlが、100mgの微細に分割された活性成分、200mgのナトリウムカルボキシメチルセルロース、5mgの安息香酸ナトリウム、1.0gのソルビトール溶液、米国薬局方(U.S.P.)、及び0.025mlのバニリンを含むように、水性懸濁剤を経口投与用に調製する。
【0050】
ミニ錠剤。ミニ錠剤の場合、6〜12Kpの範囲の硬度に活性成分を圧縮する。最終の錠剤の硬度は、例えば、炭酸水素一ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムの粒子径の影響を受ける顆粒を調製する際に使用される直線的なローラー圧縮強度の影響を受ける。より小さな粒子径の場合、約15〜20KN/cmの直線的なローラー圧縮強度を使用することができる。
【0051】
キット。本発明はまた、例えば、代替の細胞エネルギーの即時供給源を、例えば、手術前、手術中、又は手術後に提供するために有用な薬学的キットも含む。投与量は一般に、無菌且つ使用可能状態に調製し、例えば、割ることができる1又は複数の容器(例えば、密封したガラス製アンプル)であり、即時投与用のシリンジ又はさらに加圧容器を用いて穴を開ける。当業者には容易に明らかとなるように、このようなキットは、望ましいならば、1又は複数の様々な従来の薬学的キット構成要素、例えば、1又は複数の薬学的に許容される希釈剤、担体を含む容器、追加の容器などをさらに含んでよい。投与すべき成分の量、投与のガイドライン、及び/又は成分を混合するためのガイドラインを示す、挿入物又はラベルいずれかとしての印刷された取扱い説明書もまた、キットに含まれてよい。指定した材料及び条件は、本発明を実施する際に重要であるが、指定しない材料及び条件は、本発明の利点が現実化されるのをそれらが妨げない限り除外されないことを理解すべきである。
【0052】
薬学的剤形。本発明の奇数鎖脂肪酸は、液状形態で提供されてよく、又は、カプセル剤、ジェルキャップ、若しくは他のカプセル化された形態で提供されてもよい。一般に、本発明の1種の組成物は、例えば、半分のカオリン粘土又は他の担体を配合物に添加し、続いて、第1の活性な塩形態、例えば、最終の液体懸濁液への溶解性が低い塩形態を添加することによって、例えば水中乳濁剤として調製する。この方法は、非常に大量の混合物、例えば、500、1,000、3,000、又はさらに5,000リットルの混合物に特に適している。
【0053】
本発明の奇数鎖脂肪酸を送達する1つの具体的な方法は、腸内送達用にコーティングされた錠剤、カプセル剤、又はジェルキャップ中に入れることである。腸溶コーティングは、薬用の内容物、この場合、1又は複数の奇数鎖脂肪酸(例えば、C5、C7、C11、C15、それらの混合物及び組合せ)を腸中に送達するために未変化で胃を通過させて送達するために担体に施されるか、担体と組み合わせられるか、混合されるか、又はその他の形で添加される、薬学的に許容される賦形剤の混合物に関する。前記コーティングは、圧縮錠剤若しくは成型錠剤若しくは押出錠剤、ゼラチンカプセル剤、及び/又は担体若しくは組成物のペレット、ビーズ、顆粒、若しくは粒子に施すことができる。コーティングは、水分散液を用いて、又は適切な溶剤に溶解した後に施すことができる。その他の添加剤及びそれらのレベル、並びに1又は複数の主要なコーティング材料の選択は、以下の特性に依存すると考えられる:胃における溶解及び崩壊に対する耐性;胃中に存在する間の胃液及び薬物/担体/酵素に対する不透過性;標的の腸部位で迅速に溶解又は崩壊する能力;保存中の物理的及び化学的安定性;非毒性;コーティングとして容易に適用できること(下地と相性がよい(substrate friendly))、並びに経済的実用性。腸溶コーティングのための方法は、当技術分野において周知である。
【0054】
Remington's Pharmaceutical Sciencesでは、腸溶ポリマー担体(carries)は、一般に分子中にカルボキシル基及び疎水基を含み、腸溶ポリマーは、カルボキシル基の解離により、特定のpH値を有する溶媒中で溶解することを開示している。例えば、市販されているヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートは、カルボキシル基(スクシノイル基)及び疎水基(アセチル基)で置換された、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの誘導体である。アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、他の天然の材料もまた、腸溶コーティングを提供するために使用することができる。
【0055】
次いで、他の添加剤及び賦形剤を部分的に水溶性の担体−活性奇数鎖脂肪酸混合物の製剤に添加してよい。例えば、ポビドン(Povidone)(例えばPovidone 30)、キサンタンゴム(又は他のゴム)及びソルビトール(Sorbitol)をカオリン粘土の混合物に添加して、本発明の1つの製剤の具体的な例を提供することができる。当業者には明らかであるように、部分的に賦形剤に可溶性の活性塩(例えば、非水溶性又は部分的に水溶性)の実際の量は、その活性物質の溶解特性によって変動する場合があり、例えば水への活性物質の溶解性及び/又は溶解に影響を及ぼす作用物質を添加することによってさらに変更することができる。小児用製剤については、小児での使用のために認可されている剤形に従って、活性物質の量を減少させてよい。
【0056】
液状奇数鎖脂肪酸の薬学的組成物の1つの例は、以下の成分を用いて調製することができる。
【0057】
【表2】

【0058】
スケールアップの場合、上記を適切に増加させる。
【0059】
担体、例えばビーズ上の封入調製物(enveloped preparation)として複数の奇数鎖脂肪酸を混合放出するバッチは以下の成分を用いて調製することができる。
【0060】
【表3】

【0061】
奇数鎖脂肪酸(C5、C7、及び/又はC15)を組み合わせる場合、これらは以下のように製剤化することができる。封入製剤中の第1の活性物質を徐放し、且つ第2の活性物質を徐放するためのカプセル剤。単一のカプセル中に以下を含む。
【0062】
【表4】

【0063】
奇数鎖脂肪酸を組み合わせる場合、これらは以下のように製剤化することができる。封入製剤中の第1の活性物質を徐放し、且つ第2の活性物質を徐放するためのカプセル剤。単一のカプセル中に以下を含む。
【0064】
【表5】

【0065】
封入製剤中の第2の活性物質の奇数鎖脂肪酸を徐放するための製剤。ジェルキャップ中に以下を含む。
【0066】
【表6】

【0067】
坐剤中の奇数鎖脂肪酸を直腸放出するための製剤。
【0068】
【表7】

【0069】
奇数鎖脂肪酸(乳化剤を使用又は未使用)を含む腸溶コーティングされた軟ゼラチンカプセル剤は、奇数鎖脂肪酸を親油性材料でコーティングして顆粒を得、ステップで得られたこれらの顆粒を油性基材、抗酸化剤、及び保存剤と混合して脂質懸濁物を形成させ、この脂質懸濁物を軟ゼラチンフィルム内で混合し、且つ軟ゼラチンフィルムをコーティングして、腸溶コーティングされた軟ゼラチンカプセル剤を得ることによって作製する。
【0070】
奇数鎖脂肪酸、ステアリン酸、及びトリエタノールアミンを加熱及び混合して、乳化した流体を形成させる。結果として生じる乳化した流体をホモジナイザーによって十分に混合して、乳化した懸濁液及び腸溶コーティングされたものを得る。製剤の例としては以下のものが挙げられる。
【0071】
【表8】

【0072】
【表9】

【0073】
【表10】

【0074】
【表11】

【0075】
【表12】

【0076】
Horst Bickel博士によるフェニルケトン尿症の認識及び好結果のフェニルアラニンを制限した食餌の開発以来、多くの先天性代謝異常の治療は、疾患に冒された経路への食餌性前駆体の制限を含んできた。これは何十年も変わらず、依然として、ミトコンドリアβ酸化に影響を及ぼす障害及び分岐鎖状のアミノ酸経路の欠陥に対する療法の主力である。これらの障害の多くと関連している「毒性」は、酵素欠損の結果として起こる異常な化学的中間体の蓄積に起因すると考えられている。いくつかの障害において、これは、実際に発病においてある役割を果たしている可能性があるが、これらの異化障害に起因するエネルギー代謝物の減少は、発病の潜在的な一般的原因として体系的に評価されていない。本再調査では、正常な代謝ホメオスタシスに必要とされるエネルギー産生から主要な食餌源(脂肪酸又はグリコーゲン/炭水化物など)を除去した場合の潜在的影響を検査する。この観点から、クエン酸回路(CAC)の機能並びに器官内及び器官間での重要なエネルギー産生化合物の移送に対するこれらの障害の影響を考察することになった。この試行の結果、エネルギーの代替供給源を提供する目的で、CACの「アナプレロシス」又は「補充」に新たに焦点が合わされることになった(Mochel, et al., 2005; Roe, et al., 2002)。補充化合物トリヘプタノイン、即ち奇数脂肪酸(ヘプタン酸)を有するトリグリセリドを用いた経験を再検討する。また、「栄養センサー」(AMP媒介プロテインキナーゼ(AMPK、AMP-mediated protein kinase)及び哺乳動物ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)など)の作用を介した、ヘプタン酸の代謝と中間代謝の調節(異化経路対同化経路)との間で提案されている関係も考察する。
【0077】
まずフェニルケトン尿症においては、先天性異常に対する食餌療法は、主に、潜在的な毒素の産生を制限しようとして、疾患に冒された異化経路への前駆体の制限に焦点を合わせてきた。補充療法は、これらの疾患には、ATP産生を促進させるために、クエン酸回路(CAC)及び電子伝達系の双方に対する代替基質を提供することによって改善され得るエネルギー欠乏が存在し得るという概念に基づいている。この基本的な問題は大半の異化障害に関係している可能性があるため、本明細書はこれに焦点を合わせ、補充化合物トリヘプタノインを用いた、ミトコンドリア脂肪酸化、グリコーゲン蓄積、及びピルビン酸代謝の遺伝疾患に関する本発明者らの現時点での経験を提供する。これらの観察結果から、「器官間」シグナル伝達、並びにアデニル酸一リン酸を介したプロテインキナーゼ(AMPK、adenylate monophosphate mediated protein kinase)及びmTOR(哺乳動物ラパマイシン標的タンパク質)などの「栄養センサー」は、これらの疾患の中間代謝において重要な役割を果たしているらしいという認識に至った。活性化されたAMPKは、異化経路を作動させてATP産生を増大させる一方で、ATPを消費する合成経路を遮断する。クリーゼの間のより正常な代謝機能に対する器官間要求、及びエネルギー産生のためのCACへの基質の直接的供給源として、トリヘプタノインを使用する補充療法がどのようにしてこれらの患者のクオリティオブライフを改善するためのより成功裡なアプローチになると思われるかに関する情報が提供される。
【0078】
方法。血液アシルカルニチン及び尿中の有機酸の解析は以前に説明されている(Rashed, et al., 1997; Sweetman 1991)。血漿中のアミノ酸の定量的解析は、イオン交換HPLCとニンヒドリンによるポストカラム誘導体化によって決定した。アミノ酸は紫外−可視分光法により570nmで検出し、PeakNet software version 6.30(Dionex社製、Sunnyvale, CA, USA)を用いてデータ統合を実施した(Macchi, et al., 2000)。
【0079】
トリヘプタノインを用いた臨床経験。トリヘプタノインの代謝:摂取されると、1モルのトリヘプタノインは、1モルのグリセロール及び3モルのヘプタン酸に分裂し、これらは主に肝臓で代謝される。図1では、ヘプタン酸(C)の酸化及び同様に肝臓で産生される5炭素ケトン体の輸出を要約している。Cは、主としてカルボキシラートとしてミトコンドリアに侵入することができるが、他の鎖長のより長い脂肪酸で起こるように、細胞質ゾル活性化を受け、次いでカルニチンに換えられることも可能である。Cが、侵入及び酸化のためにCPT I、カルニチン−アシルカルニチントランスロカーゼ、又はCPT IIを必要としないことから、これは主としてカルボキシレートとしてミトコンドリアに侵入することが示唆される。おそらく、これは中鎖アシル−CoA合成酵素によってC−CoAに変換され、β酸化のサイクルを経てペンタノイル−CoA(C−CoA)になり、これには中鎖アシル−CoAデヒドロゲナーゼ(MCAD、medium-chain acyl-CoA dehydrogenase)が必要である。ペンタノイル−CoA(N−バレリル−CoA)は、イソバレリル−CoAデヒドロゲナーゼによって基質として使用されることができ、短鎖アシル−CoAデヒドロゲナーゼ(SCAD、short-chain acyl-CoA dehydrogenase)の不在下でさえ酸化が可能になる。β酸化の部分的なサイクルは、β−ケトペンタノイル−CoA(BKP−CoA、β-ketopentanoyl-CoA)を産生し、これはチオラーゼによって切断されて、アセチル−CoA及びプロピオニル−CoAを提供して、肝臓のCACに燃料供給することができる。プロピオニル−CoAがスクシニル−CoAとしてCACに侵入するには、プロピオニル−CoAカルボキシラーゼ及びメチルマロニル−CoAムターゼの双方が損なわれていないことが必要である。食餌性トリヘプタノインは、プロピオン酸血症又はメチルマロン酸尿症などの障害では、CACへの侵入が妨害されると考えられるため有害となり得る。また、β-ケトペンタノイル−CoAはHMGサイクルを通過して、5炭素ケトン体のβ−ケトペンタン酸(BKP、β-ketopentanoate)及びβ−ヒドロキシペンタン酸(BHP、β-hydroxypentanoate)の輸出をもたらすこともできる。ケトン利用の酵素が完全である場合、BKP及びBHPは、筋肉、腎臓、心臓、及び脳など他の器官中のCACへの基質として役立つ。これまでのところ、ミトコンドリアのβ酸化の欠陥(MCAD欠損を除く)、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症(B型)、及び成人発症型の酸性マルターゼ欠損症(GSD II)のそれぞれにおいてトリヘプタノインが用いられたことがある。以下の説明は、これらの研究の最も重要な部分である。
【0080】
ミトコンドリアβ酸化。トリヘプタノインがVLCAD欠損患者におけるカロリー総摂取量の30〜35%を占める場合、肥大型心筋症、うっ血性心不全、肝腫大、及び筋衰弱はすべて緩和された。感染後の横紋筋融解症は予防されなかったが、発症の頻度は低く、且つ重症度は低かった(Roe, et al., 2002)。トリヘプタノインの存在下でポリコース(polycose)又は食餌性単糖が減少しない場合の予想外の体重増加によって、これらの患者の食餌中の単炭水化物を制限する必要が明らかになった。ミトコンドリアβ酸化に欠陥がある患者48名の観察結果の完全な要約は、他で発表するために準備中である。この経験の主な観察結果は、以下のように要約することができる。含まれた患者は、CPT I欠損(2名)、カルニチンアシルカルニチントランスロカーゼ欠損(1名)、CPT II欠損(7名)、VLCAD欠損(19名)、LCHAD欠損(9名)、ミトコンドリア三機能タンパク質欠損(5名)、及びSCAD欠損(5名)の症例であった。各患者は、18カ月間継続するプロトコルに含まれ、また、それより前の従来の療法とトリヘプタノインを用いた経験とを比較することにより、それぞれが自身の対照としての機能を果たした。食餌を導入し、5日間教育した後、2カ月目、6カ月目、及び12カ月目、最後に18カ月目に、患者を臨床的及び生化学的に再評価した。これらの調査は、実施すべきであったクロスオーバー二重盲検試験ではなかったにもかかわらず、表1に示すように、総合的な結果から、この集団に対するいくつかの興味深い潜在的利益が示唆された。

【0081】
【表13】

【0082】
1999年に報告された従来の(MCT)食餌療法を用いた研究(Saudubray, et al., 1999)と比較した場合、トリヘプタノイン食餌を用いた本発明者らの現時点での経験から、心筋症は回復し、低血糖及び肝腫大はなくなり、横紋筋融解症は頻度が低下するがなくなりはしないことが明らかになった。三機能タンパク質(TFP、trifunctional protein)欠損の末梢神経障害及びLCHADが欠損した一部の患者で認められた網膜症は改善されなかった。死亡率は6%(患者48名中3名)であり、これらの症例のうち1例(VLCAD)は、どの療法にも従わなかったことが原因であった。以前の研究の死亡率は患者41名中21名(51%)であり、CPT II及びトランスロカーゼ(CATR)欠損を新生児期に発症した患者9名を含めたために(全員が死亡)、著しく増加した。しかし、従来の療法を用いたこの以前の研究では、VLCAD患者8名中6名、TFP患者4名すべて、及びLCHAD患者10名中2名が死亡した(24名中12名=死亡率50%)。これに対し、トリヘプタノイン食餌を与えられた患者の場合、それぞれ19名中1名、5名中1名、及び9名中0名であった(23名中2名=死亡率9%)。これらの比較から、これら3種の欠陥に対してトリヘプタノインを試験すると死亡率がおそらく減少することが示唆される。
【0083】
ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC、pyruvate carboxylase)欠損症(B型)。以前に報告された経験(Mochel, et al., 2005)では、肝不全、重度の乳酸アシドーシス、ケトアシドーシス、及び高アンモニア血症を伴う亢進したシトルリン血症を発症する、最も重度の表現型を使用した。乱れた代謝スキームを図2に示す。未治療の急性発症において、主要な異常はNADH:NADの比率にあり、これは、細胞質ゾル中では増加し、ピルビン酸からの乳酸産生を促進するのに対し、ミトコンドリア基質中では減少する。ミトコンドリアでの比率のこの明らかな減少は、基質の不足に起因するCAC活性の低下並びに3−ヒドロキシ酪酸対アセト酢酸の比率の極端な逆転を反映している。この図面から、アシル−CoA:CoASH比率もまた変化することをケトーシスから推論することもでき、これは、CAC中のピルビン酸デヒドロゲナーゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、及びα−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼの活性を低下させることが公知である。
【0084】
本発明を用いて、奇数鎖脂肪酸に基づいた治療の効果を評価した。体重1kg当たり4グラムのトリヘプタノイン(カロリー総摂取量の35%)を含む処方を用いて経腸的に介入治療したところ、これらの代謝異常に対して24時間以内に即効性の効果があった。本発明者らは、トリヘプタノインを用いた食餌治療の間、血漿中の代謝産物レベルがすぐに補正されることを確認した。アンモニア(NH)、シトルリン(Cit)、及びグルタミン(Gln)の血漿中レベルの変化は、トリヘプタノイン食餌療法の最初の48時間の間に起こる(例えば、Mochel, et al., (2005)を参照されたい)。
【0085】
乳酸及び乳酸:ピルビン酸の比率の双方が急速に減少したが、正常な範囲にまでは減少しなかった。このことはおそらく、解糖が減少し、細胞質ゾルのNADH:NAD比率がより正常になったことを示す(この障害では、トリヘプタノインのグリセロール骨格の代謝により、ピルビン酸が産生され、したがって乳酸が産生されると考えられる)。トリヘプタノイン経腸投与後わずか4時間で3−ヒドロキシ酪酸:アセト酢酸の比率が極端に逆転することによって立証されたように、ミトコンドリア中の酸化還元状態が同様に緩和された。同じ期間で、シトルリン及びアンモニアの双方が減少した。正常なシトルリンレベル及びアンモニアレベルに急激に戻る場合は、アルギニノコハク酸を形成するアスパラギン酸の利用可能性が増大したことを反映している。図2は、オキサロ酢酸がアスパラギン酸を形成し、且つ細胞質ゾルのアルギニノコハク酸合成酵素反応を促進する利用可能性が増大したことを示す。血漿中グルタミン濃度の漸進的な増加は、この状況におけるタンパク質節約を表している可能性がある。凝固因子の正常レベルの完全な回復及び肝不全の消失によって立証されるように、これらの非常に急速な変化と共に、肝臓のタンパク質合成が刺激されたことは特に注目すべきである。また、脳脊髄液中のγ−アミノ酪酸(GABA、γ-aminobutyric acid)レベルの上昇に関する証拠も、これらの代謝補正に関連していた。この患者の連続した磁気共鳴画像により、この食餌を取っている間、神経変性病変のさらなる発症は認められないことが明らかになった。脳代謝における4炭素ケトン体の生理学的役割は十分に認識されている(Nehlig, et al., 1993)。肝臓によって産生及び輸出される5炭素ケトン体は、CACに燃料を供給することができ、また、エネルギー産生の障害に関連した神経障害に対してより大きな潜在的価値を有する場合がある。
【0086】
成人発症型酸性マルターゼ欠損症(GSD II)。成人発症型酸性マルターゼ欠損症は、筋肉中のグリコーゲン分解に影響を及ぼすリソソーム蓄積症であり、最終的に横隔膜及び呼吸の補助的筋肉に欠陥を生じさせて呼吸不全及び死亡をもたらす程度までの、筋肉の質量及び機能の漸進的な減少を特徴とする。PC欠損症と同様に、1人の患者におけるトリヘプタノインを用いた、成功した経験の詳細を提示する。通常は考慮されない、この障害に関するいくつかの事実がある。最も重要なことは、リソソームの「酸性マルターゼ」が酸性α−グルコシダーゼ及び酸性−脱分枝活性の双方を実際には含み、したがって、リソソーム中のグリコーゲンに対する完全な分解系に相当するということである(Brown, et al., 1970)。したがって、「酸性α-グルコシダーゼ」活性のみを示すその名称は、誤解を招く。この酵素は、すべての内臓器官のリソソーム中に存在する。横紋骨格筋におけるこの酵素の欠如は、グリコーゲン蓄積(リソソーム及び細胞質ゾル)並びに極端なタンパク質の代謝回転及び分解を反映する自己貪食空胞の双方に関連している。この酵素の欠如が、筋肉中と同等に肝臓中で重度であるにもかかわらず、グリコーゲン蓄積は肝臓中では起こらないことを説明するのは非常に困難である。細胞質ゾルグリコーゲン分解経路(中性pH)が損なわれていないように見受けられる場合に、なぜ肝臓はこのリソソーム酵素の不在下で害を逃れるのだろうか(DiMauro, et al., 1978; Van der Walt, et al., 1987)。
【0087】
1つの考え得る説明は、肝臓によって他の器官系から輸入され、その代謝の完全性を維持するいくつかの潜在的にエネルギー豊富な基質があるということである。この疾患の初期段階の患者では、血漿中のアラニンレベル及びグルタミンレベルの双方が非常に低くなっている。このことに刺激されて、これらの異常の補正を試みるために、高タンパク質、低炭水化物の食餌、並びにアラニンの補助食品を用いた試みがなされた(Bodamer, et al., 1997, 2000, 2002; Slonim, et al., 1983)。これらの食餌戦略からの潜在的な利益を示唆する散発的な報告はあるが、今のところまだ、これらの患者に対する一貫した利益に関連した決定的な研究はない。アラニン及びグルタミンの低い血漿レベルは、一部の成人発症型酸性マルターゼ欠損症患者の特徴であるように思われるため、肝臓の利益に対する骨格筋などの器官系に由来する潜在的基質としてのこれらのアミノ酸の役割を再評価する必要がある。
【0088】
第1に「アラニンサイクル」を取り上げる。「アラニンサイクル」は、図3に示すように、肝臓の代謝を維持するための横紋骨格筋による主要な貢献を表すと本明細書において認識される。しかし、ピルビン酸のアラニンへの転換及びその輸出による筋肉の中間代謝にはかなりの損失がないわけではない。これは、グリコーゲン分解が妨害された条件下で、筋肉からのCAC代謝産物(ピルビン酸など)の「盗み(steal)」並びに筋肉細胞からの必要とされるオキサロ酢酸の転換をもたらして、肝臓のピルビン酸に対する必要を満たすのに必要なアラニンを生成することができる。ピルビン酸は、電子伝達系を介したエネルギー産生を改善するために、CACへの補充燃料として肝臓ミトコンドリア中でアセチル−CoA及びオキサロ酢酸の双方を提供する。横紋骨格筋から肝臓にアラニンを移送するための損失はかなりである場合があり、それら自身のエネルギー援助のために必要な基質(例えば、リンゴ酸、ピルビン酸、オキサロ酢酸、及びα−ケトグルタル酸)を筋肉細胞から奪う場合がある。この障害を有する一部の患者において血漿中アラニン濃度が低下していることは、次の2つのように解釈することができる:(1)十分な量が産生されていない、又は(2)急速な肝臓での消費によって血漿中レベルが低下するような急速な速度で、産生物が利用されている。アラニンサイクルは、筋肉から肝臓への「一方通行路」であり、横紋骨格筋におけるエネルギー代謝に対して潜在的に厳しい結果を伴う(Salway 2004)。
【0089】
血漿中グルタミン(GLN)濃度の低下もまた、この障害において観察され得る。GLNが中枢神経系及び神経伝達物質合成における潜在的な影響にしばしば関連していることは真実であるが、この関連では、肝臓を含めて多くの内臓器官のためのエネルギー源として、並びに腎臓による糖新生のための前駆体としてのGLNの重要な役割の考察は除外してよい。グルタミン合成及び中間代謝のホメオスタシスを維持するための器官系間でのその利用のいくつかの非常に興味深い態様がある(Curthoys, et al., 1995; Labow, et al., 2001; Watford 2000; Watford, et al., 2002)。大半のアミノ酸とは異なり、アラニン及びグルタミンのどちらも、器官間の代謝ホメオスタシスにとって決定的に重要である。多量のGLNが産生され、横紋骨格筋から、また興味深いことに、肺及び脂肪組織からも大量に、他の器官のために輸出される。この輸出に依存し、エネルギーのためにGLNを主に輸入する器官としては、肝臓、腎臓、腸、及び脳が挙げられる。またしても、肝臓は、その尿素回路及び糖新生に燃料供給するために得ることができるすべてのグルタミンを必要とする。筋肉代謝と肝臓代謝のこの関係は、特定の器官系からの輸出及び他の器官系によるその利用に影響するグルタミン代謝に関連したいくつかの非常に重要な酵素の特異的活性間の魅力的な不均衡によって支援されている。横紋骨格筋では、成人発症型酸性マルターゼ欠損症の場合のように、筋肉タンパク質は代謝回転され、分解される。筋肉中の分岐鎖状アミノトランスフェラーゼ(BCAT、branched-chain aminotransferase)は、肝臓中のものよりはるかに大きな程度で発現され、且つ活性である。また、筋肉中でのエネルギーを目的としたさらなる酸化を可能にする分岐鎖状ケト酸デヒドロゲナーゼ複合体(BCKDC、branched-chain ketoacid dehydrogenase complex)は、肝臓組織のものと比べてはるかに少ない。最終的な結果は、筋肉タンパク質に由来するアミノ酸は効果的にアミノ基転移されるが、筋肉中でのエネルギー産生のために容易には処理されないということになるであろう。この結果、筋肉の分岐鎖状アミノ酸代謝に由来するα−ケト酸の肝臓(BCATは少ないがBCKDC活性は最適である)への輸出が増加すると考えられる。これにより、肝臓CACへの栄養支援としての、筋肉の分岐鎖状代謝に由来するα−ケト酸の完全な酸化及びそれからのエネルギー産生が可能になると考えられる(Harris, et al., 2001, 2005)。筋肉タンパク質からのグルタミンの産生及び輸出が同時に増大することにより、筋肉代謝が損なわれるが、肝臓及び腎臓にとって重要な基質が提供される。この関係から、この障害において低血糖及び高アンモニア血症がないことを説明することができる。エネルギー代謝をインビボで維持するための器官系の相互作用及び相互依存は、この疾患において重要な考慮すべき事柄である可能性がある。
【0090】
これを背景として、成人発症型「α-グルコシダーゼ」欠損症の42歳の白人女性患者においてトリヘプタノイン食餌を用いた本発明者らの経験を再検討することが適切である。彼女には、呼吸不全を招く呼吸障害を伴う筋衰弱及び体重減少の病歴が2年間あった。血漿中アラニンレベル及び血漿中グルタミンレベルの双方とも低かった。表2は、前記患者が呼吸不全を経験した際の患者の血漿中アミノ酸の連続的な変化を示す。入院時、インフォームドコンセント後、前記患者の血漿中アラニン及びグルタミンを正常レベルに回復するのに必要なのは、わずか13時間の食餌性トリヘプタノイン処置であった。
【0091】
表2は、処置中に全アミノ酸が正常な血漿中レベルに戻ったことを示す。

【0092】
【表14】

【0093】
前記患者がトリヘプタノイン食餌補助なしで胃瘻造設を待っている間(NPO)、彼女の血漿中アミノ酸レベルは入院時レベルまで急速に低下した。胃瘻チューブの配置及び食餌の再開後、すべてのレベルが急速に正常レベルに戻った。これらの応答から、トリヘプタノインはこの障害におけるタンパク質代謝回転を節約することが示唆される。この患者は正常な生活様式に戻り、体重(筋肉質量)が45.3kgから56.4kgまで増え、常勤の仕事に戻り、また、この療法を受けている2年超の間、障害に冒されなかった。
【0094】
図4は、ヘプタン酸代謝が肝臓のCACに燃料供給する方法並びに5炭素ケトン体(BKP及びBHP)の輸出が筋肉におけるエネルギー欠乏を補う方法を示す。この臨床応答はこの障害に関して前例がなく、前記患者が受けることができない酵素補充療法とは無関係であった。これらの観察結果から、トリヘプタノイン食餌療法は、多数の器官において、CACに必要な(補充)燃料を提供することができ、また、異化経路を伴う非常に多くの遺伝性疾患に関連している可能性があるエネルギー欠乏を補えるということが示唆される。成人発症型酸性マルターゼ欠損症では、器官系間のこの「栄養」交換の重要性が際立つように思われる。
【0095】
栄養センサー及び遺伝性障害との関係。生化学者らが、AMP媒介プロテインキナーゼ(AMPK)及びmTORなどの「栄養センサー」の潜在的役割、並びにそれらがどのように病態に影響し得るか及び本発明者らの患者に応じて異なる治療上の利益を評価するのに失敗したことは、本発明の重要な認識である。AMPKは、脂肪酸化障害、分岐鎖状アミノ酸(BCAA、branched-chain amino acid)障害、糖原病、及びおそらくは他の多くの障害など異化経路に影響を及ぼす障害に関係するため、AMPKの役割が極めて興味深いことが本明細書において見出される。AMPKは、ATPに対するAMPの細胞レベルの変化を検知する「栄養センサー」である。酵素を含む多くのタンパク質中のセリン残基上にPOを配置するのは、プロテインキナーゼである(Hardie 2003)。リン酸化は、これらの酵素タンパク質を不活性化する。非常に多くの酵素が、リン酸化/脱リン酸化の結果として活性化又は不活性化されるため、これらの機序は、中間代謝に対して強い影響をもつことができる。ATPの利用可能性がAMPと比べて低い状況では、AMPKが活性化される。これは、ATP産生の減少又はATP消費の増加のいずれかに起因し得る。いずれの機序もAMP:ATP比率を上昇させる。ATP産生の相対的な減少は、異化作用に影響を及ぼす先天性異常における場合のように、ATPを産生するように設計された異化経路の障害の妥当な結果であるように思われる。AMPの相対的な増加は、次いでAMPKを活性化する。逆に言えば、異化経路が完全であり、ATP産生が刺激される場合には、ATPと比べたAMPのその後の減少により、AMPKが不活性化されるはずである。AMPKは活性化されると、より多くのATPを提供しようとして、「合成」(同化作用)に関与する酵素を不活性化し、「分解」(異化作用)に関与する酵素を活性化する。遺伝性の異化欠陥の観点から、これは、ATPを産生するすべての系が作動され、ATPを消費する系(合成)が停止されることを意味する。(例えば、長鎖脂肪酸酸化障害によって)経路に障害がある場合、これは常に有益とは限らない場合がある。この設定において、障害のあるβ酸化を伴う脂肪分解が促進されると、潜在的に有毒な代謝産物の産生が増大し得る。AMPK活性化のこの潜在的に危険な結果を逆転させるには、CAC基質の代替供給源及びATPの二次的な増加が必要となると思われる。これが、補充療法の基本的な概念及び食餌性トリヘプタノインから予想される妥当な利益である。
【0096】
AMPKの影響に関連して、「mTOR」(哺乳動物ラパマイシン標的タンパク質)と呼ばれる、考察を必要とする別の「栄養センサー」がある(Fingar and Blenis 2004)。これは、タンパク質合成及び細胞増殖に対して著しい影響を有するセリン−トレオニンキナーゼでもある。本発明は、AMPKとの非常に特別な相互作用を利用する(図5)。mTORは、タンパク質合成を刺激するために非常に重要である。AMPK及びmTORは相互作用的であるため、CACに十分な基質を供給することにより、多くの器官でAMP:ATP比率を低下させ、したがってAMPKを不活性化することができる。これは、AMPKによるmTORの阻害を取り除いて、mTORがタンパク質合成を作動させるのを可能にする。また、AMPKの不活性化により、糖新生及び脂肪合成など他の「合成」プロセスの増大も可能になる。脂肪酸化の欠陥又はBCAA障害(有機酸尿症)などに対する治療戦略の目標は、CACに「燃料補給」し、二次的「エネルギー」欠乏を埋め合わせ、それによって、エネルギー供給源としてのタンパク質、炭水化物、又は脂肪の内因性代謝回転の必要を軽減するであろう。例えば、成人発症型酸性マルターゼ欠損症では、グリコーゲンは、特に横紋骨格筋において、不適切なエネルギー供給源である。筋肉生検により、自己貪食空胞によるタンパク分解並びにリソソーム及び細胞質におけるグリコーゲン蓄積の証拠が明らかになる。肝臓は、酸性マルターゼがないにもかかわらず、グリコーゲン蓄積も、低血糖又は高アンモニア血症など他の機能障害も伴わずに、正常なままである。代わりに、筋肉タンパク質代謝回転及び他の基質に由来する栄養が、肝臓の機能の維持のために肝臓に移送される(アラニン、グルタミン、BCAAに由来するα−ケト酸)。その結果、筋肉の質量、持久力、及び機能が低下する。最終的に、呼吸筋肉の極端な障害により、呼吸不全及び死亡を招く。この連続的な事象は、より多くのエネルギー(ATP)を提供しようとするAMPKの活性化を表す場合があり、この活性化により、筋肉の異化作用が衰えずに進行するが、mTORを同時に阻害して、タンパク分解及び自食作用並びにタンパク質合成の障害をもたらすことが可能になる。CACにトリヘプタノインを燃料供給して、その代謝からAMP:ATP比率を変更し、それによってAMPKを不活性化し、且つmTORを活性化することによってこの筋書きを逆転させることができ、すべての症状が結果として停止し、関連する筋肉質量が増加する(タンパク質合成)。
【0097】
ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症(B型)。この障害の重要な特徴としては、乳酸アシドーシス(細胞質ゾルのNADH:NAD比率の上昇)、3−ヒドロキシ酪酸が減少し、アセト酢酸が極度に増加したケトーシス(ミトコンドリアのNADH:NAD比率の低下)、シトルリン及びアンモニアの増加、並びに凝固因子が減少した肝不全など(タンパク質合成の障害)が挙げられる。この障害において、CACを「開始する」のに必要なアセチル−CoA及びオキサロ酢酸の供給源は、重度の障害を受けている。CACは、この過酷な制限のもとで、基質の代替供給源を必要としている。「栄養センサー」は、ATP産生を増大させるためのCACへの基質として役立つように、炭水化物の「分解」、脂肪酸のβ酸化(ケトン体生成)、タンパク分解の促進によるアミノ酸の異化作用を促進させることによって応答することができる。トリヘプタノインの代謝によってCACに直接燃料供給すると、24時間以内にこれらの異常が改善した。NADH:NADの比率が逆転し、乳酸が減少し、基質でCACが刺激されると、シトルリンのアルギニノコハク酸への反応を促進するためにアスパラギン酸に変換するのに十分なオキサロ酢酸が提供され、アンモニアレベルは低下した。これらの変化はすべて、トリヘプタノイン代謝の寄与によるAMP:ATP比率の変更により、AMPK及びそれによるmTORの阻害が停止され、それによって、(タンパク質合成を含む)合成経路が刺激されたことを示唆する。
【0098】
栄養センサー間のこれらの相互作用は、ミトコンドリアの長鎖脂肪酸障害の管理に多大な影響を有し得ることが判明した。これらの障害におけるトリヘプタノイン試験の臨床結果は、低血糖及び肝腫大の消失、心筋症の回復、並びに筋肉の持久力及び強度の低下の消失によって観察されるように、同じ原理に従うと思われる。
【0099】
トリヘプタノインは、唯一の潜在的に有用な補充物質ではないが、これは、遺伝性の生化学的欠陥に起因するエネルギーに富む基質の関連した減少がある場合に「末端経路」に焦点を合わせること及びCACに基質を提供することの潜在的な利益を示す。これらのデータを提示する主要な目的は、遺伝性代謝疾患、即ち、エネルギー産生減弱の結果の療法に適用されていない科学的情報の考察を奨励することである。なぜならかかるデータは、CACの燃料供給及び「栄養センサー」に関するその後の考慮すべき事柄に関係するためである。遺伝生化学における新しい課題を特定することを指向して活動している医師及び科学者として、本発明者らの希望は、本発明者らの患者のクオリティオブライフを改善するために代替の概念を提供することである。このことを念頭に置いて、本発明者らは、この目標をかなえ得る新しい戦略を探し続けなければならない。食餌性前駆体を制限することは、対症的ではあるが一律的に有効ではない。おそらく本発明者らは、これらの患者の通常の生活様式にとってより顕著な支障であり得る「二次的」結果には十分に焦点を合わせていない。現時点で本発明者らは、補充療法の意外な効果の多くを観察する唯一のグループであるため、他のグループが潜在的に有益なこの戦略を調査するならば、非常に有用であると思われる。一貫して有益な酵素補充療法又は遺伝子補充療法の開発には現在限界があるため、補充食餌療法は時機を得た代替案であり得る。
【0100】
本明細書において論じる任意の実施形態は、本発明の任意の方法、キット、試薬、又は組成物に関して実施できること、及び逆もまた同様であることが意図される。さらに、本発明の組成物を用いて、本発明の方法を実現することができる。
【0101】
本明細書において説明する特定の実施形態は、例証として示され、本発明の限界として示されないことを理解されたい。本発明の主要な特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な実施形態において使用することができる。当業者なら、慣用の域を出ない実験法を用いて、本明細書において説明した特定の手順の多数の等価物を認識するか、又は確認することができるであろう。このような等価物は、本発明の範囲内にあるとみなされ、特許請求の範囲に包含される。
【0102】
本明細書において言及されるすべての刊行物及び特許出願は、本発明が属する技術分野の当業者のレベルを示す。すべての刊行物及び特許出願は、あたかも個々の刊行物又は特許出願のそれぞれが参照により組み入れられることが具体的且つ個別に示されるかのように、同じように参照により本明細書に組み入れられる。
【0103】
単数の単語の使用は、特許請求の範囲及び/又は明細書中の「含む(comprising)」という用語と組み合わせて使用される場合、「1つ」を意味し得るが、「1又は複数」、「少なくとも1つ」、及び「1又は1より多い」の意味とも一致する。特許請求の範囲における「又は」という用語の使用は、代替案のみを指すと明瞭に指示されない限り、且つ代替案が相互に排他的でない限り、「及び/又は」を意味するのに使用されるが、本開示は、代替案のみ及び「及び/又は」を指すという定義を支持する。本出願の全体を通して、「約」という用語は、ある値が、その値を決定するために使用される装置、方法につきものの誤差変動値、又は研究対象のうちに存在する差異を含むことを示すために使用される。
【0104】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「含む(comprising)」(及びcomprisingの任意の形、例えば「comprise」及び「comprises」など)、「有する(having)」(及びhavingの任意の形、例えば「have」及び「has」など)、「含む(including)」(及びincludingの任意の形、例えば「includes」及び「include」など)、又は「含む(containing)」(及びcontainingの任意の形、例えば「contains」及び「contain」など)という単語は、包括的又は無制限であり、追加の記載されていない要素も方法のステップも除外しない。
【0105】
「又はそれらの組合せ」という用語は、本明細書において使用される場合、その用語に先行する列挙された品目のすべての並べ換え及び組合せを意味する。例えば、「A、B、C、又はそれらの組合せ」とは、A、B、C、AB、AC、BC、又はABC、及び特定の状況において順序が重要である場合には、同様にBA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC、又はCABのうち少なくとも1つを含むものとする。この例を続けると、1又は複数の品目又は用語の繰り返しを含む組合せ、例えば、BB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、及びCABABBなどが明確に含まれる。当業者なら、文脈から特に明らかでない限り、典型的には任意の組合せ中の項目又は用語の数に制限はないことを理解するであろう。
【0106】
本明細書において開示及び特許請求するすべての組成物及び/又は方法は、本発明の開示に照らして、過度に実験をすることなく作製及び実行できる。本発明の組成物及び方法は、好ましい実施形態の立場から説明されたが、本発明の概念、精神、及び範囲から逸脱することなく、本明細書において説明する組成物及び/又は方法、並びに方法のステップ若しくはステップの順序に変更を加え得ることは、当業者には明らかであろう。 当業者に明らかなこのような類似の代用及び改変はすべて、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神、範囲、及び概念の範囲内にあるとみなされる。
【0107】
(参考文献)
Bodamer OA, Haas D, Hermans MM, Reuser AJ, Hoffman GF (2002) L-Alanine supplementation in late infantile glycogen storage disease type II. Pediatr Neurol 27: 145-146.
Bodamer OA, Leonard JV, Halliday D (1997) Dietary treatment in late onset acid maltase deficiency. Eur J Pediatr 156(Supplement 1) 528 S39-42.
Bodamer OA, Halliday D, Leonard JV (2000) The effects of L-alanine supplementation in late-onset glycogen storage disease type II. 531 Neurology 55: 710-712.
Brown BI, Brown DH, Jeffrey PL (1970) Simultaneous absence of alpha-1,4-glucosidase and alpha-1,6-glucosidase activities (pH 4) in tissues of children with type II glycogen storage disease. Biochemistry 9(6): 1423-1428.
Curthoys NP, Watford M (1995) Regulation of glutaminase activity and glutamine metabolism. Annu Rev Nutr 15: 133-159.
DiMauro S, Stern LZ, Mehler M, Nagle RB, Payne C (1978) Adult onset acid maltase deficiency: a postmortem study. Muscle Nerve 1: 27-36.
Fingar DC, Blenis J (2004) Target of rapamycin (TOR): an integrator of nutrient and growth factor signals and coordinator of cell growth and cell cycle progression. Oncogene 23: 3151-3171.
Hardie DG (2003) Minireview: The AMP-activated protein kinase cascade: the key sensor of cellular energy status. Endocrinology 144(12): 5179-5183.
Harris RA, Kobayashi R, Murakami T, Shimomura Y (2001) Regulation of branched-chain α-keto acid dehydrogenase kinase expression in rat liver. J Nutr 131: 841S-845S.
Harris RA, Joshi M, Jeoung NH, Obayashi M (2005) Overview of the molecular and biochemical basis of branched-chain amino acid catabolism. J Nutr 135(6 Supplement): 1527S-1530S.
Labow BI, Souba WW, Abcouwer SF (2001) Mechanisms governing the expression of the enzymes of glutamine metabolism-glutaminase and glutamine synthetase. J Nutr 131(9 Supplement): 2467S- 2474S.
Macchi FD, Shen FJ, Keck RG, Harris RJ (2000) Amino acid analysis, using postcolumn ninhydrin detection, in a biotechnology laboratory. Methods Mol Biol 159: 9-30.
Mochel F, deLonlay P, Touati G, et al., (2005) Pyruvate carboxylase deficiency: immediate clinical and biochemical improvement with dietary triheptanoin. Mol Gen Metab 84: 305-312.
Nehlig A, Pereira de Vasconcelos A (1993) Glucose and ketone utilization by the brain of neonatal rats. Prog Neurobiol 40(2): 163-221.
Rashed MS, Bucknall MP, Little D, et al., (1997) Screening blood spots for inborn errors of metabolism by electrospray tandem mass spectrometry with a microplate batch process and a computer algorithm for automated flagging of abnormal profiles. Clin Chem 43: 1129-1141.
Roe CR, Sweetman L, Roe DS, David F, Brunengraber H (2002) Effective dietary treatment of cardiomyopathy and rhabdomyolysis in long-chain fat oxidation disorders using an anaplerotic odd-chain triglyceride. J Clin Invest 110(2): 259- 269.
Salway JG (2004) Metabolism at a Glance, 3rd edn. Oxford: Blackwell.
Saudubray JM, Martin D, De Lonlay P, et al., (1999) Recognition and management of fatty acid oxidation defects: a series of 107 patients. J Inherit Metab Dis 22: 488-502.
Slonim AE, Coleman RA, McElligot MA, et al., (1983) Improvement of muscle function in acid maltase deficiency by high-protein therapy. Neurology 33: 34-38.
Sweetman L (1991) Organic acid analysis. In: Hommes FA, ed. Techniques in Diagnostic Human Biochemical Genetics: A Laboratory Manual. New York: Wiley-Liss, 143-176.
Van der Walt JD, Swash M, Leake J, Cox EL (1987) The pattern of involvement of adult-onset acid maltase deficiency at autopsy. Muscle Nerve 10: 272-281.
Watford M (2000) Glutamine and glutamate metabolism across the liver sinusoid. J Nutr 130(4S Supplement): 983S-987S.
Watford M, Chellaraj V, Ismat A, Brown P, Raman P (2002) Hepatic glutamine metabolism. Nutrition 18(4): 301-303.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において異化作用の影響を処置するための方法であって、
AMP対ATPの細胞内比率を増加させ、且つAMPKの活性を低下させるのに十分な量の奇数鎖脂肪酸を前記患者に提供するステップ
を含む方法。
【請求項2】
奇数鎖脂肪酸が、ヘプタン酸、ペンタン酸、トリヘプタン酸、トリペンタン酸、及びそれらの組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
奇数鎖脂肪酸がmTORの活性を低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
奇数鎖脂肪酸が代謝されて細胞内のADP又はATPレベルが上昇し、それによって細胞内AMPKが遮断される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
奇数鎖脂肪酸が細胞異化作用を低減させる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
量が、患者の1日の食餌カロリー所要量の約1〜約40%を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
量が、患者の1日の食餌カロリー所要量の約20〜約35%を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
奇数鎖脂肪酸が、経口、経腸、非経口、静脈内、又はそれらの組合せで提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
必要とする患者において低減している細胞内異化作用を処置するための方法であって、
AMP対ATPの細胞内比率を増加させるのに十分な量の奇数鎖脂肪酸を患者に提供するステップ
を含む方法。
【請求項10】
奇数鎖脂肪酸が、ヘプタン酸、ペンタン酸、トリヘプタン酸、トリペンタン酸、及びそれらの組合せを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
奇数鎖脂肪酸がmTORの活性を低下させる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
奇数鎖脂肪酸が代謝されて細胞内のADP又はATPレベルが上昇し、それによって細胞内AMPKが遮断される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
奇数鎖脂肪酸が細胞異化作用を低減させる、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
量が、患者の1日の食餌カロリー所要量の約1〜約40%を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
量が、患者の1日の食餌カロリー所要量の約20〜約35%を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
奇数鎖脂肪酸が、経口、経腸、非経口、静脈内、又はそれらの組合せで提供される、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
必要とする患者において細胞内代謝を調節する方法であって、
AMPKの活性化レベルを同定することにより患者の代謝状態を決定するステップと、
前記患者の食餌中の奇数鎖脂肪酸のパーセンテージを変更して、AMP対ATPの細胞内比率及びAMPKの活性化状態を変更するステップと
を含む方法。
【請求項18】
奇数鎖脂肪酸が、ヘプタン酸、ペンタン酸、トリヘプタン酸、トリペンタン酸、及びそれらの組合せを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
奇数鎖脂肪酸がmTORの活性を調節する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
奇数鎖脂肪酸が代謝されて細胞内のADP又はATPレベルが上昇し、それによって細胞内AMPKが遮断される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
奇数鎖脂肪酸がAMPKの活性及び細胞異化作用を調節する、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
量が、患者の1日の食餌カロリー所要量の約1〜約40%を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
量が、患者の1日の食餌カロリー所要量の約20〜約35%を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
奇数鎖脂肪酸が、経口、経腸、非経口、静脈内、又はそれらの組合せで提供される、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
細胞内AMPKの活性を調節するための組成物であって、
AMPKの細胞内活性を変更して細胞内異化作用の量を増加又は減少させるのに十分である栄養的有効量の奇数鎖脂肪酸
を含む組成物。
【請求項26】
奇数鎖脂肪酸が、ヘプタン酸、ペンタン酸、トリヘプタン酸、トリペンタン酸、及びそれらの組合せを含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
奇数鎖脂肪酸がmTORの活性も調節する、請求項25に記載の組成物。
【請求項28】
奇数鎖脂肪酸が、患者の1日の食餌カロリー所要量の約1〜約40%を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項29】
奇数鎖脂肪酸が、患者の1日の食餌カロリー所要量の約20〜約35%を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項30】
奇数鎖脂肪酸が、経口送達、経腸送達、非経口送達、静脈内送達、皮下送達、経皮送達、又はそれらの組合せ用に製剤化される、請求項25に記載の組成物。
【請求項31】
奇数鎖脂肪酸が代謝されて細胞内のADP又はATPレベルが上昇し、それによって細胞内AMPKが遮断される、請求項25に記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2011−502950(P2011−502950A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529435(P2009−529435)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【国際出願番号】PCT/US2007/079570
【国際公開番号】WO2008/039855
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(509004712)ベイラー リサーチ インスティテュート (38)
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR RESEARCH INSTITUTE
【Fターム(参考)】