説明

核磁気共鳴装置内の極低温プローブヘッド冷却器

【課題】従来の同程度の装置に比べてよりコンパクトであり、より少ない空間を必要とし、装置の運転快適性がより高く、取得費、運転費および維持費が相当に低減した装置を提供する。
【解決手段】液体窒素(5b)を受け取る窒素タンク(3b)を少なくとも1つ有するクライオスタット(1)内に配置された磁石システムと、発信/受信システム(9)を含むNMRプローブヘッド(8)を受け取る室温ボア(7)とを備えるNMR(核磁気共鳴)装置であって、供給管路(14)を通して液体窒素(5b)を供給することにより、プローブヘッドの部分(1つまたは複数)またはプローブヘッドの全体を極低温に冷却することができるNMR装置において、クライオスタット(1)の窒素タンク(3b)から液体窒素(5b)を取り出し、NMRプローブヘッド(8)へ導くことができるように、クライオスタット(1)の窒素タンク(3b)が供給管路(14)によってNMRプローブヘッド(8)に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体窒素を受け取る窒素タンクを少なくとも1つ有するクライオスタット(cryostat)内に配置された磁石システムと、発信/受信システムを含むNMRプローブヘッド(probehead)を受け取る室温ボア(room temperature bore)とを備えるNMR(核磁気共鳴)装置であって、供給管路を通して液体窒素を供給することにより、プローブヘッドの部分(1つまたは複数)またはプローブヘッドの全体を極低温に冷却することができるNMR装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クライオスタットと被冷却NMRプローブヘッドとを備えるこのタイプのNMR装置は例えば米国特許第5,247,256A号(文献[1])に開示されている。
【0003】
図2は、[1]に記載された先行技術を概略的に示す。
【0004】
クライオスタット1は、気体ヘリウム4aおよび液体ヘリウム5aを含む、超電導磁石コイル2を冷却するための内部タンク3a、ならびに気体窒素4bおよび液体窒素5bを含む別のタンク3bを含み、さらに、間に置かれた冷遮蔽体27を含む。窒素タンク3bおよび冷遮蔽体27は、ヘリウムタンク3aを熱的に遮蔽して熱損失をできるだけ小さくするために使用されている。真空室13によって、ヘリウムタンク3aおよび窒素タンク3bは互いに断熱されており、さらに環境に対しても断熱されている。
【0005】
クライオスタット1内には、NMRプローブヘッド8を受け取る室温ボア7が配置されている。NMRプローブヘッド8内には、一般にRF部分9と任意の前置増幅器10とからなる発信/受信システムが位置する。RF部分9は一般に、共振コイル、傾斜磁場コイル、RF網などの構成要素からなる。RF部分9および前置増幅器10は、対応するそれぞれの熱交換器11、12に結合されており、熱交換器11、12は供給管路14に接続されている。
【0006】
液体窒素は、発信/受信システム9、10を冷却するために外部窒素タンク18から取り出され、分離可能な接続部19を介してNMRプローブヘッド8に接続された供給管路14を通して導かれ、熱交換器11および12を通過し、その後、プローブヘッド8から環境へ排出される。これによって、発信/受信システム9、10の全体を極低温に冷却することができる。例えばRF網だけ、またはコイルだけを冷却することにより、発信/受信システム9、10の一部だけを極低温に冷却することも可能である。
【0007】
クライオスタット1内の窒素タンク3bへの補充と外部タンク18への補充には通常、別個の補充容器が使用される。
【0008】
最も単純な形態では、外部窒素タンクの気体区画内の超過圧力によって、NMRプローブヘッドを冷却する液体窒素が供給される[2]。
【0009】
過去には、極低温流体を供給するポンプの使用[3]、[4]も検討された。さらに、極低温流体自体の圧力を増大させることによって外部タンク内の圧力を高めることも可能であり、この流体圧力の増大を、加熱装置によってさらにサポートすることもできる。
【0010】
窒素またはヘリウムを液化するため、クライオスタット内にクライオ−コールドヘッド(cryo−coldhead)を設けることができる[5]。
【0011】
液体窒素を生成するために、外部クライオジェン(cryogen)タンク内にクライオ−コールドヘッドを配置することもできる[6]。
【0012】
廃ガス(waste gas)を、供給管路に沿って供給管路と同軸に、または別個の戻り管路によって戻すことができる[1]。
先行技術の欠点
外部クライオジェンタンクと、外部タンクとNMRプローブヘッドとの間の供給管路とを含む従来のシステムは、比較的に大きな空間を必要とする。特に外部クライオジェンタンクは、磁場の外側の貴重な空間を占有する。しかしながら、実験室内の空間は希少であり、空間のサイズはますます小さくなってきている。研究機関および産業界はともに、よりコンパクトなシステムを求めている。
【0013】
クライオスタット自体が高価なことに加えて、外部クライオジェンタンクは相当な初期取得費用のもととなり、その後は、継続的な追加の維持費および運転費の原因となる。外部タンクとクライオスタット内の内部タンクは共に、補充、保守および監視をする必要があり、且つ同一または少なくとも同程度の安全装置を有していなければならない。両方の容器の充填サイクルの相互調整も必要である。ほとんどの場合、外部タンクへの補充とクライオスタットの窒素タンクへの補充は異なる時期に実施しなければならず、その結果、測定操作が頻繁に中断し、システムに長時間のダウンタイムが生じる。両方のタンクの並行充填は補充容器が2つある場合にのみ可能であり、これは追加の費用の原因となり、実験室内に追加の空間が必要となる。
【0014】
連続運転は、相当な費用をかけたときにのみ可能であり、例えばクライオスタット上のクライオ−コールドヘッドに加えて追加のクライオ−コールドヘッドを外部クライオジェンタンク上に設けることによって可能になる。この理由から、少なくとも2つの追加の極低温冷却機が必要となる。さらに、圧縮機および冷却装置も必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
先行技術とは対照的に、本発明の基本的な目的は、極低温に冷却されるプローブヘッドを備える上記のタイプのNMR装置を、できるだけ単純な技術的手段によって、従来の同程度の装置に比べて、装置全体がよりコンパクトで占有する空間が小さく、装置の運転快適性が向上し、取得費、運転費および維持費が明らかに低減するように改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、この目的は、クライオスタットの窒素タンクから液体窒素を取り出し、NMRプローブヘッドへ導くことができるように、クライオスタットの窒素タンクを供給管路によってNMRプローブヘッドに接続するという、驚くほど単純だが、非常に有効な方法で完全に達成される。
【0017】
本発明の解決策案は、クライオスタットの窒素タンクから取り出される液体窒素の速度が概算で倍になり、その分、次の補充動作までの動作可能時間が半減するとまず想定されることから、一見したところ不利であるように思われるかもしれない。しかしながら、この欠点に対しては、以下に挙げるような、驚くほど多数の、部分的に非常に重大な利点が存在する。
【0018】
−運転快適性が向上し、運転の監視がほとんど必要なく、同時に、外部クライオジェンタンクを省き、その代わりにNMRプローブヘッドを冷却するクライオスタットの窒素タンクを追加的に利用することにより、維持費、修繕費および運転費が低減する。
【0019】
−ただ1つの単一の窒素タンクにだけ補充を実施すればよく、これによって装置を測定に使用できる期間が長くなる。
【0020】
−外部クライオジェンタンクが省かれているため、NMR装置全体の窒素蒸発速度が低下し、これによって窒素消費量が大幅に低減する。
【0021】
−構造が非常にコンパクトであるため、外部クライオジェンタンクのための追加の空間が不要である。このことは主に、空間が限られている実験室に対して非常に有利である。
【0022】
−クライオスタットがあることによりNMR装置内に常に存在するリフティング装置および補充装置を含む基礎設備を、NMRプローブヘッドを冷却する目的にも利用することができる。さらに、クライオジェンタンクはそれぞれ、真空室および液体クライオジェン室を監視し、保護する手段、例えば圧力逃し弁および液位センサを必要とする。本発明の提案に従って外部タンクを省くと、クライオスタットのこれらの装置を事実上2回、すなわちクライオスタット自体を監視し、保護するために1回、さらに追加的にプローブヘッドの冷却システムに対して1回、利用することができる。
【0023】
−外部クライオジェンタンクを省くと、装置の個別構成要素の数が大幅に減るため、結果的に、取得費および維持費が相当に低減する。具体的には、高価な外部窒素ジュワー瓶(dewar)を省くことができる。
【0024】
上記のシステムは、予め設置されたシステムに問題なく組み込むことができ、液体窒素タンクを有する従来の全てのクライオスタットに適合する。
【0025】
本発明の特に好ましい1つの実施形態では、NMRプローブヘッドを冷却する液体窒素を、クライオスタット上に常に設けられている窒素蒸発塔のうちの1つの窒素蒸発塔を通して取り出すことができるように、供給管路が、窒素蒸発塔を通って、クライオスタットの窒素タンク内へ突き出している。この方式はおそらく、外部容器からの取出しに類似した、窒素を取り出す最も単純な方式であり、クライオスタットを一切変更する必要がない。
【0026】
本発明のNMR装置の他の有利な実施形態では、クライオスタットが、クライオスタットの窒素タンク内の静水圧によって液体窒素を取り出すことを可能にする取出し装置を有する。いかなる容器圧力においても液体窒素を取り出すことができる。この取出し装置をクライオスタットの下側に配置すると、システムの構造をよりいっそうコンパクトにすることができる。
【0027】
本発明の特に好ましい1つの実施形態は、窒素タンクの気体区画内の圧力が周囲圧力よりも高いことで供給管路内への窒素の供給が行われる点が優れている。この場合、外部気体供給源を更に設置する必要がない。窒素を供給する可動部品も必要ない。技術的に単純且つ安価な方式で圧力の制御を実現することができるため、この窒素供給は、ほとんど費用がかからない極めて単純な方式で行われる。どの実験室も圧力ガス接続部を備えている。窒素または圧縮空気(窒素分離器を用いる)を接続することができる。これはさらに、事実上保守が不要な供給システムを生み出す。クライオスタット内の窒素タンクの自己蒸発速度を使用して、供給圧力を高めることができる。
【0028】
有利な実施形態のうちの1つの種類の有利な実施形態では、クライオスタットの窒素タンク内に、供給管路内へ液体窒素を供給する装置が配置される。これにより、この場合、例えば対応するポンプ速度の制御等によって精緻に調節可能な送達量(delivery volume)を、最適に調節することができる。
【0029】
本発明の代替実施形態を表す本発明のNMR装置の実施形態は、NMRプローブヘッドの気体出口に、吸引によって供給管路内へ液体窒素を供給する装置が接続されていることを特徴とする。この装置は窒素の過冷却を可能にし、より低い温度を達成することができ、信号対雑音比を向上させることができる。例えばポンプ速度の制御による非常に細かい調節が可能なため、本実施形態によってさらに、送達量を最適に調節することができる。本実施形態は、従来の任意のクライオスタットおよび従来の任意のNMRプローブヘッドに、プローブヘッドまたはクライオスタットを変更する必要なしに、容易に組み込むことができる。
【0030】
NMRプローブヘッドを出た窒素を輸送する廃ガス管路が供給管路と同軸に設けられた本発明のNMR装置の実施形態を用いると、供給管路内の熱損失のさらなる低減、供給管路内の液体窒素を遮蔽する廃ガスに含まれる残留冷温の利用の向上、およびLN2の消費量の低減を実現することができる。
【0031】
本発明の特に有利な実施形態は、供給管路、および/またはNMRプローブヘッドを出た窒素を輸送する廃ガス管路が、少なくとも1つの分離可能な接続部、有利にはカップリング接続部(coupling connection)を有することを特徴とする。これにより、供給管路の組立ておよび分解、ならびにプローブヘッドの取扱いが容易になる。いくつかのプローブヘッドに対して同じ供給管路を使用することができ、これによって、いくつかのプローブヘッドを使用するときの費用を低減させることができる。さらに、クライオスタットに対する供給管路の組立ておよび分解が単純化され、供給管路の取扱いがより単純であり、また、予め設置されたシステムに対する組込みが容易である点は、相当な利点である。この場合、クライオスタットの変更は必要ない。
【0032】
有利には、クライオスタットの窒素タンクに接続された室内に圧力センサが設けられる。圧力制御と組み合わせると、対応するそれぞれの消費量に合わせて供給圧力を調整することができ、周囲圧力が変化するときに容器の圧力を一定に保つことができる。圧力センサを容器の底の液中に配置すると、瞬時液位を決定することもできる。
【0033】
本発明の他の実施形態では、圧力センサに代えて、または圧力センサに加えて、クライオスタットの窒素タンク内に液位センサを設けることができる。これにより、窒素タンク内の液位を直接監視することが可能となり、然るべき時期に補充を実行することができ、過度に低い液位以下への低下が確実に防止され、消費量をより十分に監視することができる。これは特に、異常をより迅速に検出することができるためである。
【0034】
特に好ましい一実施形態では、クライオスタットの窒素タンクに接続された室内に、極低温冷却フィンガ(cryo−cooling finger)が突き出している。本発明の装置と極低温冷却フィンガの組合せによって、クライオスタットおよびプローブヘッドの連続運転が可能になる。極低温冷却フィンガは、窒素ガスがその上で凝縮することができる冷表面を作り出すために使用される。通常ならば常に必要であり、極めて面倒な窒素タンクへの補充がもはや必要でなくなる。
【0035】
この実施形態の有利な1つの追加の発展形態は、極低温冷却フィンガを含む室が外部気体供給源に接続されていることを特徴とする。外部気体供給源からの気体が凝縮するため、クライオスタットへの補充は永続的に実施され、冷気体の複雑な戻しは必要ない。
【0036】
本発明の特に好ましい1つの実施形態は、NMRプローブヘッドを出た窒素ガスをクライオスタットの窒素タンクに接続された室内に戻す廃ガス管路が設けられていることを特徴とする。これにより、冷気体を戻すことができるため、閉ループ、事実上損失のないクライオスタット、および液化に必要なエネルギー量の低減が提供される。
【0037】
この実施形態の有利な1つの追加の発展形態では、NMRプローブヘッドを出た窒素ガスをクライオスタットの窒素タンクに接続された室内に供給する気体ポンプが設けられる。この気体ポンプは、同時に、吸引による供給のために使用することができ、または、このポンプは、窒素タンクの気体区画内の超過圧力を発生させて供給を行うことができる。
【0038】
廃ガス管路の少なくとも1つの区間の周囲に熱交換器を配置することによって、この発展形態をさらに改善することができる。これにより、圧縮された気体が冷却され、冷却フィンガへの入口温度が低下し、凝縮温度まで冷却するのに必要な冷却エネルギーがより少なくなる。
【0039】
他の有利な変形実施形態では、気体窒素および/または液体窒素を輸送する本発明のNMR装置の管路が、少なくとも部分的に真空断熱されており、これにより、熱損失が最小化される。窒素消費量が減り、または戻される気体があまり加熱されず、凝縮に必要な冷却力が最小化される。
【0040】
以下のリストは全ての図を記載したものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1a】垂直に配置されたクライオスタットの窒素タンクから窒素を取り出す本発明の装置を示す図である。
【図1b】制御用および監視用のセンサおよびアクチュエータを備える図1aに基づく本発明の装置を示す図である。
【図2】先行技術における、プローブヘッドが挿入されたクライオスタットおよびプローブヘッドを冷却する外部窒素タンクを示す図である。
【図3】水平に配置されたクライオスタットの窒素タンクから窒素を取り出す本発明の装置を示す図である。
【図4】窒素を取り出す供給管路が、クライオスタットの窒素タンクに下から結合されており、制御要素および液位センサを備える本発明の装置を示す図である。
【図5】供給管路を熱遮蔽するために廃ガスを同軸に戻す本発明の装置を示す図である。
【図6】クライオスタットの窒素蒸発塔に極低温冷却フィンガを備え、窒素タンク内に液位センサを備える本発明の装置を示す図である。
【図7】循環ポンプによって廃ガスを極低温冷却フィンガに戻す本発明の装置を示す図である。
【図8】窒素を供給する装置を窒素タンク内に備える本発明の装置を示す図である。
【図9】プローブヘッドに接続され、吸引によって窒素を供給する気体ポンプを備える本発明の装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
−プローブヘッド内にあって、RF部分と前置増幅器とからなる発信/受信システムを冷却するため、クライオスタットの窒素タンクから、供給管路を通して窒素を取り出す。
【0043】
−供給管路のクライオスタット側の端部は、タンク内の液体窒素の中に沈められている。
【0044】
−供給管路のプローブヘッド側の端部は、分離可能な接続部によってプローブヘッドに結合されており、発信/受信システムを冷却するプローブヘッド内の熱交換器に継続的に接続される。
【0045】
−理想的に真空断熱された供給管路は、窒素蒸発塔に取り付けられており、これによってクライオスタットの窒素タンクに接続されている。
【0046】
−本発明は、水平に配置された室温ボアを有するクライオスタットと垂直に配置された室温ボアを有するクライオスタットの両方に対して使用することができる。
【0047】
−窒素はプローブヘッド内へ導かれ、そこでプローブヘッドは、RF電力電子部品および前置増幅器電子部品によってプローブヘッド内で生み出された熱を、1つまたは複数の熱交換器を介して放出する。冷却は、熱交換器内での液体窒素の蒸発によって達成される。有利な一構成では、発信/受信システムのRF部分および前置増幅器が、直列または並列に接続された熱交換器によって冷却される。単純な一変形構成では、発信/受信システムだけを冷却してもよい。
【0048】
−窒素は、環境と内部タンクの間の圧力差によって供給することができる。例えば、窒素容器の自己蒸発速度によって超過圧力を発生させることができる。別個の気体源から追加の窒素ガスを導入することによって、この過程をサポートしてもよい。
【0049】
−この超過圧力は、例えば窒素の中に沈められた加熱装置が液体窒素を蒸発させることで窒素容器の自己蒸発速度を高めることによって発生させることも可能である。
【0050】
−この供給は、例えば液体窒素の中に沈められたポンプ、または廃ガス側に接続された気体ポンプ等の装置によって実現することもできる。この装置は、プローブヘッドの外部または内部に配置することができ、吸引によって、プローブヘッドを通過する窒素を供給する。吸引によって供給するために、この気体ポンプによって真空が生み出され、これによって熱交換器内および供給管路内の窒素が過冷却される。これによって窒素の蒸発温度および熱交換器の温度が低下し、その結果、プローブヘッド内の温度が低下する。
【0051】
−圧力センサに接続された圧力制御器が、窒素タンクと環境の間の圧力差を調節、または制御する。この圧力を制御するために、制御装置、例えば電子制御増幅器を使用することができる。
【0052】
液位センサによって窒素タンク内の液位を監視することができる。
【0053】
−プローブヘッド内の発信/受信システムの熱交換器の温度を監視する温度センサと組み合わせることも実現可能である。例えば、制御装置および制御ヒータを用いた温度のアクティブ制御が可能であろう。
【0054】
−流量センサ(flow sensor)を用いて窒素の流量を監視することができる。流量センサは、供給管路内またはプローブヘッドの下流の廃ガス流内に配置することができる。流量を増減させるために、例えば制御弁、可変絞り弁などの制御要素を制御する制御装置を用いることができる。流量の制御は主に、プローブヘッド内の温度センサと組み合わせると有利である。
【0055】
−静水圧によって窒素を供給することもできる。そのためには、液体窒素カラムが供給管路よりも高くなければならない。このタイプの供給は、クライオスタットの底から窒素が取り出されるときに特に有効である。その場合には、いかなる圧力においてもクライオスタットの内部タンクを機能させることができる。内部タンクは例えば、環境との通気を永続的に維持することができ、または圧力制御器によって一定の圧力に調整することができる。
【0056】
−冷却は、移動媒体(強制流れ)によって行うことができる。対流によって流れが生じる自立型液体カラム(standing liquid column)(受動流れ)も実現可能である。窒素タンクからプローブヘッド内の熱交換器への自立型液体カラムが実現可能である。
【0057】
−極低温冷却フィンガと組み合わせると非常に有利である。極低温冷却フィンガは、そこで窒素ガスが凝縮することができる冷表面を作り出す。閉鎖システムでは、廃ガスが、クライオスタットに戻され、極低温に冷却された冷たい冷却フィンガの表面で液化し、液体の状態で窒素タンクに戻される。開放冷却システムにおいて極低温冷却フィンガを組み合わせることも可能である。これにより、窒素は、プローブヘッドから環境へ排出される。極低温冷却フィンガは、大気から直接にまたは別個のガス供給源を通して窒素を得、その窒素を液化し、窒素タンク内へ導く。したがって、極低温冷却フィンガが液体窒素を継続的に補充している間は、冷却のために窒素タンクから液体窒素を継続的に取り出すことができる。
【0058】
−プローブヘッドを出た窒素廃ガスを供給管路と同軸に戻すことができ、これによって供給管路の熱損失を低減させることができる。廃ガスは、別個の管路を通して極低温冷却フィンガに供給してもよい。
【0059】
−プローブヘッドを出た窒素廃ガスは、気体ポンプによって極低温冷却フィンガに供給してもよい。その場合には、同時に、この気体ポンプを、窒素タンクからプローブヘッドおよび供給管路を通して窒素を吸引する目的に使用することができる。その場合には、このようなサイクルにおいて、窒素容器内ならびに絞り構成要素および膨張構成要素内の圧力を監視すると有利である。
【0060】
−極低温冷却フィンガを有する閉鎖システムまたは開放システムでは連続運転が可能になり、この連続運転を中断しなければならないのは、保守作業が必要な場合だけである。
【0061】
実施形態の実現に関連した課題:
−プローブヘッド内の空間が限られているときの熱交換器の最適設計
−強い磁場の中で動作する液体窒素の供給装置(ポンプ)の小型化
−クライオスタットからの極低温冷却フィンガおよびポンプの振動デカップリング(vibration decoupling)。クライオスタットと極低温冷却フィンガの間の接続部には振動ダンパが必要である。
【0062】
これらの課題に関して、克服すべきこれらの障害は純粋に技術的な障害だが、物理的に全く現実的な障害であることに留意しなければならない。
実施形態
−図1aは本発明の装置を示す。プローブヘッド8内の発信/受信システムの構成要素を冷却するのに必要な窒素は、クライオスタット1の窒素タンク3bから、供給管路14によって、窒素蒸発塔6を通して取り出される。供給管路14は、環境に対して真空断熱されていることが理想的である。供給管路14のクライオスタット側の端部は、窒素タンク3b内の液体窒素5bの中に沈められている。供給管路14のプローブヘッド側の端部は、分離可能な接続部19を介してプローブヘッド8に接続されており、RF部分9および前置増幅器10の熱交換器11および12へ窒素を導く。
【0063】
−図1bは、制御構成要素および監視構成要素を追加した図1aに基づく本発明の装置を示す。窒素タンク3bの気体区画4bを周囲圧力よりも高い圧力まで加圧することによって、熱交換器11および12に液体窒素5bが供給される。圧力センサ23によって窒素タンク3b内の圧力が測定され、圧力センサ23の信号は、制御装置24、例えば電子制御増幅器へ送られる。制御装置24自体は、気体供給源21に接続された圧力制御器25を制御する。圧力制御器25は、必要な供給圧力を維持するため、気体供給源21から窒素タンク3b内へ気体を運び、または、例えば窒素タンク3bの自己蒸発速度が十分であるときに窒素タンク3bから環境へ圧力を解放する。液位センサ22が窒素タンク3b内の液位を監視するために使用される。窒素タンク3b内において一定の液位に低下したときには、液体窒素の供給が停止され、ヘリウムタンク3aの熱遮蔽が確保され続けるように、圧力制御器25によって圧力を下げることができる。制御要素26、例えば制御弁または可変絞り弁によって、供給管路14を通してプローブヘッド8に供給される窒素の流量を調整することができる。廃ガス側に配置された流量センサ30を使用して送達量を監視することもできる。プローブヘッド8内の熱交換器11および12上の温度センサ28および制御ヒータ29を使用して、対応するそれぞれの温度を測定することができ、一定の値に低下したときには、制御ヒータ29によってそれぞれの温度を補正することができる。他の制御構成要素および監視構成要素をさまざまな構成で組み合わせることができ、これらの構成要素は、記載される全ての変形実施形態に対して使用することができる。
【0064】
−図2は先行技術を示す。
【0065】
−図3は、クライオスタット1上に室温ボア7が水平に配置された、図1aに類似の本発明の装置を示す。水平室温ボアは一般にMRI装置で使用され、垂直室温ボアは一般にNMR装置で使用される。
【0066】
−図4は、窒素を取り出す供給管路14が、クライオスタット1および窒素タンク3bに下から結合された本発明の装置を示す。本実施形態は、供給を行うのに、供給装置も、または窒素タンク3bの加圧も必要としない。これは、窒素容器3b内の液体窒素5bに由来する静水圧が、熱交換器11および12に窒素を供給して発信/受信システムを冷却するのに十分であるためである。窒素の送達量を変化させるために、制御要素26、例えば制御弁または可変絞り弁を開き、または閉じることができる。
【0067】
図5は、プローブヘッド8から流出した窒素が廃ガス管路15によって運ばれ、供給管路14と同軸の方向に蒸発塔6まで戻される、図1aに類似の本発明の装置を示す。この窒素は、蒸発塔6で環境へ排出され、蒸発塔6よりも前では排出されない。
【0068】
これによって供給管路14の熱損失が低減する。理想的には、真空室13によって、供給管路14および同軸の廃ガス管路15が環境から断熱される。
【0069】
図6は、極低温冷却フィンガ20を追加した、図1aに類似の本発明の装置を示す。気体供給源21を介して極低温冷却フィンガ20に窒素ガスが供給され、この窒素ガスは次いで極低温冷却フィンガ20によって液化され、液体の状態で窒素室3b内へ導かれる。気体供給源21は例えばガスボトル(gas bottle)、または大気中から窒素を分離する形で実現することができる。
【0070】
液化される窒素の量、したがって窒素タンク3b内の液位は、外部圧力供給源21および圧力制御器25を介して供給される窒素ガスの量によって制御される。例えば、制御および監視のために圧力センサ23および液位センサ22を使用してもよい。
【0071】
図6に示した構成の利点は、窒素タンク3bへの補充が必要ないことによる核磁気共鳴装置の連続運転である。窒素の永続的な取出しによって低下する液位は、極低温冷却フィンガ20によって継続的に再び上昇し、これによって時間がたってもほとんど一定である液体窒素の液位を得る。
【0072】
図7は、窒素サイクルが閉じた、図6に類似の本発明の装置を示す。気体ポンプ17によって、プローブヘッド8を出た窒素が、廃ガス管路15を通して極低温冷却フィンガ20に供給される。気体ポンプ17を使用して、窒素を供給するのに必要な窒素タンク3bとプローブヘッド8の間の圧力差を発生させることもできる。循環ポンプ17によって圧縮された窒素ガスは、再冷却のため、熱交換器31を通過するように導かれる。
【0073】
図8は、液体窒素を供給する装置16が例えば窒素タンク3b内に配置された本発明の装置を示す。しかしながら、液体窒素を供給する装置16の位置は、供給管路14に沿った任意の地点の中から選択することができる。液体窒素を供給する装置16は、供給管路14を通してプローブヘッド8ならびに熱交換器10および12に液体窒素を供給する。液体窒素を供給する装置16は例えばポンプの形態として設計することができ、さらに、図1bに記載した制御構成要素および監視構成要素と組み合わせることもできる。
【0074】
図9は、窒素タンク3bから供給管路14を通してプローブヘッド8に、吸引によって窒素を供給する気体ポンプ17がクライオスタット1の外側に配置された、図8と同種の本発明の装置を示す。本変形実施形態の大きな利点は、圧力が低下すると窒素の蒸発温度が低くなることによるプローブヘッド内の窒素のサブクーリング(subcooling)である。これはさらに達成可能な最低温度を低下させる。例えば、廃ガス側の制御要素26を使用して最適な送達量に調整することができる。さらに、図1bに記載した制御構成要素および監視構成要素と組み合わせることも可能である。
文献リスト
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[3]コモリ M.およびウチノ K.、2004年、超電導バルク電動機を使用した液体窒素ポンプの開発、IEE Transactions on Applied Superconductivity、14巻、2号、1659〜1662ページ
[4]ハルヤマ T.およびヨシザキ R.、1986年、自動液体窒素充填システム用の小型遠心ポンプ、Journal of Physics E:Scientific Instruments、19巻、919〜921ページ
[5]米国特許第5,966,944号、冷却装置を装備した超電導磁石システム、アイシン精機株式会社、1999年
[6]独国特許発明第4302038A1号、1993年、液体窒素の製造装置、イワタニプランテック株式会社、ヤナイ他
【符号の説明】
【0075】
1 クライオスタット
2 磁石コイルシステム
3a ヘリウムを含む内部タンク
3b 窒素を含む内部タンク
4a 極低温気体ヘリウム
4b 極低温気体窒素
5a 極低温液体ヘリウム
5b 極低温液体窒素
6 窒素蒸発塔
7 室温ボア
8 NMRプローブヘッド
9 発信/受信システムのRF部分
10 発信/受信システムの前置増幅器
11 発信/受信システムのRF部分を冷却する熱交換器
12 発信/受信システムの前置増幅器を冷却する熱交換器
13 真空断熱
14 供給管路
15 廃ガス管路
16 液体窒素を供給する装置
17 気体ポンプ
18 外部窒素タンク
19 分離可能な接続部
20 極低温冷却フィンガ
21 気体供給源
22 液位センサ
23 圧力センサ
24 制御装置
25 圧力制御器
26 制御要素
27 冷遮蔽体
28 温度センサ
29 制御ヒータ
30 流量センサ
31 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体窒素(5b)を受け取る窒素タンク(3b)を少なくとも1つ有するクライオスタット(1)内に配置された磁石システム(2)と、発信/受信システム(9)を含むNMRプローブヘッド(8)を受け取る室温ボア(7)とを備えるNMR(核磁気共鳴)装置であって、供給管路(14)を通して液体窒素(5b)を供給することにより、前記プローブヘッドの部分(1つまたは複数)または前記プローブヘッドの全体を極低温に冷却することができるNMR装置において、前記クライオスタット(1)の前記窒素タンク(3b)から液体窒素(5b)を取り出し、前記NMRプローブヘッド(8)へ導くことができるように、前記クライオスタット(1)の前記窒素タンク(3b)が前記供給管路(14)によって前記NMRプローブヘッド(8)に接続されていることを特徴とするNMR装置。
【請求項2】
前記供給管路(14)が、窒素蒸発塔(6)を通って、前記クライオスタット(1)の前記窒素タンク(3b)内へ突き出していることを特徴とする、請求項1に記載のNMR装置。
【請求項3】
前記クライオスタット(1)が、前記クライオスタット(1)の前記窒素タンク(3b)内の静水圧によって液体窒素(5b)を取り出すことを可能にする取出し装置を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のNMR装置。
【請求項4】
前記供給管路(14)内への窒素(5b)の前記供給が、周囲圧力よりも大きい前記窒素タンク(3b)の気体区画(4b)内の圧力によって実現されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のNMR装置。
【請求項5】
前記クライオスタット(1)の前記窒素タンク(3b)内に、前記供給管路(14)内へ液体窒素(5b)を供給する装置(16)が配置されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のNMR装置。
【請求項6】
前記NMRプローブヘッド(8)の気体出口に、吸引によって前記供給管路(14)内へ液体窒素(5b)を供給する装置が接続されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のNMR装置。
【請求項7】
前記NMRプローブヘッド(8)を出た窒素を輸送するために、前記供給管路(14)と同軸の方向に廃ガス管路(15)が設けられていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のNMR装置。
【請求項8】
前記供給管路(14)、および/または前記NMRプローブヘッド(8)を出た窒素を輸送する廃ガス管路(15)が、少なくとも1つの分離可能な接続部(19)、好ましくはカップリング接続部を有することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のNMR装置。
【請求項9】
前記クライオスタット(1)の前記窒素タンク(3b)に接続された室内に圧力センサ(23)が設けられていることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のNMR装置。
【請求項10】
前記クライオスタット(1)の前記窒素タンク(3b)内に液位センサ(22)が設けられていることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のNMR装置。
【請求項11】
前記クライオスタット(1)の前記窒素タンク(3b)に接続された室内に極低温冷却フィンガ(20)が突き出していることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載のNMR装置。
【請求項12】
前記極低温冷却フィンガ(20)を含む前記室が外部気体供給源(21)に接続されていることを特徴とする、請求項11に記載のNMR装置。
【請求項13】
前記NMRプローブヘッド(8)を出た窒素ガスを前記クライオスタット(1)の前記窒素タンク(3b)に接続された室内に戻す廃ガス管路(15)が設けられていることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載のNMR装置。
【請求項14】
前記NMRプローブヘッド(8)を出た窒素ガスを前記クライオスタット(1)の前記窒素タンク(3b)に接続された前記室内に供給する気体ポンプ(17)が設けられていることを特徴とする、請求項13に記載のNMR装置。
【請求項15】
前記廃ガス管路(15)の少なくとも1つの区間の周囲に熱交換器(31)が配置されていることを特徴とする、請求項14に記載のNMR装置。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−198210(P2012−198210A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−64983(P2012−64983)
【出願日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【出願人】(591148048)ブルーカー バイオシュピン アー・ゲー (53)