説明

核酸の新規定量方法並びにそれに用いる新規試薬キット

【課題】HDA法を用いて試料溶液中の標的核酸を定量するに際して,ゲル電気泳動という煩雑な工程を不要とし,また,リアルタイム法のように、HDA反応中に蛍光を連続的に測定するための高価な装置も使わずに,当初の試料溶液中の標的核酸を簡便・安価・正確に定量するための試薬キットを提供する。
【解決手段】(a)競合的核酸、(b)標的核酸と競合的核酸の双方にハイブリダイズ可能に設計され、蛍光色素で標識された核酸プローブ、(c)DNAヘリカーゼを少なくとも含むHDA(Helicase-dependent isothermal DNA amplification)法により試料中の標的核酸を定量するための試薬キットにおいて、上記競合的核酸と上記核酸プローブがハイブリダイズする場合と、上記標的核酸と上記核酸プローブがハイブリダイズする場合とにおいて、蛍光強度が異なるように競合的核酸の塩基配列が設計する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HDA(Helicase-dependent isothermal DNA amplification)法による改良された核酸の定量法、及びこれに用いる定量試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来,標的核酸を検出・定量する方法として,PCR法が広く用いられている。しかしながら,PCR法は温度変動をさせながら特定の配列をもつ標的核酸の増幅反応を進行させるため,サーマルサイクラーというペルチェ素子等を用いた専用の高価な装置が必要であるといった問題点があった。
近年、等温で増幅反応を進行させるLAMP法という核酸増幅法が開発された(非特許文献1)。LAMP法は4種類のプライマーを用いて60〜65℃の等温で標的核酸を増幅することができる方法であり,温度変動が不要なため,サーマルサイクラーがなくても標的核酸を増幅することができる。
しかしながら,増幅には4種類のプライマーをデザインする必要があり,特定の標的核酸を検出・定量するための条件検討が煩雑であるといった問題点があった。
これらの問題点を解決する方法として,新たな等温遺伝子増幅法であるHDA法が開発された(非特許文献2)。HDA法はHelicaseの二本鎖核酸に対するUnwinding活性を利用した等温増幅法であり,特定の標的核酸を等温で増幅することができる方法である。増幅に必要なプライマーは2種類であり,特定の標的核酸を検出・定量するための条件検討はLAMP法に比べると容易である。
【0003】
HDA法により特定の標的核酸を増幅し,さらに定量を行うための方法として電気泳動法とリアルタイム法の2種類があるが,どちらも問題点を含んでいる(特許文献1,2)。
電気泳動法は増幅反応終了後に増幅産物の有無を電気泳動により確認する方法であるが,定量まで行うことは困難である。また,電気泳動は操作が非常に煩雑である。
リアルタイム法は増幅産物に結合する蛍光色素や蛍光色素を標識した核酸プローブ等を用いて増幅反応の経過とともに連続的に蛍光値を測定する方法である。HDAの反応中に連続的に蛍光を取得する必要があるため,増幅と蛍光測定を同時に行うことができる専用の高価な装置が必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Notomi, T., Okayama, H., Masubuchi, H., Yonekawa, T., Watanabe, K.,Amino, N., Hase, T., Nucleic Acids Res. 2000, 28, e63.
【非特許文献2】Vincent, M., Xu, Y., Kong, H, EMBO Reports, 2004, 5, 795-800.
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2007120808-A2, WO2007120808-A3
【特許文献2】US2006154286-A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消する点にあり、より具体的には、HDA法を用いて試料溶液中の標的核酸を定量するに際して,ゲル電気泳動という煩雑な工程を不要とし,また,リアルタイム法のように、HDA反応中に蛍光を連続的に測定するための高価な装置も使わずに,当初の試料溶液中の標的核酸を簡便・安価・正確に定量するための手段を新たに提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、試料溶液中の標的核酸をHDA法を用いて増幅するに際し、反応溶液に競合的核酸、並びに競合的核酸と標的核酸の両方にハイブリダイズ可能な蛍光標識核酸プローブを含有させ、増幅反応中、あるいは反応後の蛍光強度を測定することにより、極めて簡便、安価かつ正確に試料中の標的核酸を定量することが可能であることを見いだし、本発明を完成するに至ったものである。すなわち本発明は以下のとおりである。
【0008】
1)(a)競合的核酸、(b)標的核酸と競合的核酸の双方にハイブリダイズ可能に設計され、蛍光色素で標識された核酸プローブ、(c)DNAヘリカーゼを少なくとも含むHDA(Helicase-dependent isothermal DNA amplification)法により試料中の標的核酸を定量するための試薬キットであって、上記競合的核酸と上記核酸プローブがハイブリダイズする場合と、上記標的核酸と上記核酸プローブがハイブリダイズする場合とにおいて、蛍光強度が異なるように競合的核酸の塩基配列が設計されていることを特徴とする、上記試薬キット。

2)蛍光色素がグアニン塩基の近接によって減光あるいは消光することを特徴とする、上記1)に記載の試薬キット。

3)蛍光色素が、上記核酸プローブの両端に修飾され、各端部の蛍光色素の蛍光波長が異なることを特徴とする、上記1)又は2)に記載の試薬キット。

4)標的核酸と競合的核酸は、それぞれ核酸プローブとハイブリダイズしたとき、該核酸プローブ中の1の蛍光色素が結合した塩基近傍に、グアニン塩基が位置するか否かの塩基配列上の差違を有することを特徴とする、上記1)〜3)のいずれかに記載の試薬キット。

5)さらに、HDA用プライマー、DNAポリメラーゼあるいは該ポリメラーゼの基質となるヌクレオチド三リン酸のいずれか1種以上を含むことを特徴とする上記1)〜4)に記載の試薬キット。

6)標的核酸含有試料と、上記1)〜5)のいずれかに記載の試薬キットを少なくとも含む測定系において、HDA(Helicase-dependent isothermal DNA amplification) 反応を行い、該反応中あるいは反応後の蛍光色素由来の蛍光強度を測定し、該蛍光強度の変化率と、使用した試薬中の競合的核酸の量あるいは濃度から、上記試料中の標的核酸を量あるいは濃度を求めることを特徴とする、標的核酸の定量方法。

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、蛍光標識プローブと競合的核酸を用いることで、ゲル電気泳動および蛍光のリアルタイム計測をすることなく、HDA法において、簡便、正確にかつ安価に試料中の標的核酸を定量することができる。HDA法は既存の遺伝子増幅法であるPCR法やLAMP法などと比較すると増幅効率が若干劣り、また増幅できる遺伝子断片の長さが短いという欠点がある。そのため、LAMP法で用いられるピロリン酸マグネシウムの白濁を利用した検出法は、多量の増幅産物が生成しないと検出ができないという理由から、HDA法では適用されにくい。一方、HDA法において本発明の核酸プローブ及び競合的核酸を使用する場合には、一つの増幅産物につき一つの蛍光プローブが結合し、その時の蛍光の変化率から標的核酸の検出・定量を行うという原理的特徴から、増幅産物の長さにかかわらず(短い増幅産物でも)、高感度で検出・定量することができる。また、ABC-LAMP法においては4種類のプライマーが必要であり、適切な反応を制御するには高い技術と知識を要する。これに対して、本発明の方法は、プライマーは2種でよく、また、このような面倒な操作も必要としないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】標的核酸(Target:682bp,PCR産物)の塩基配列におけるプライマー・プローブの位置関係を示す図である。
【図2】競合的核酸の塩基配列における標的核酸との配列上の差違を示す図である。
【図3】実施例で作成したプライマーを用いたHDA法により、標的核酸および競合的核酸を増幅可能か否かを試験した結果を示すアガロースゲル電気泳動図である。
【図4】実施例で作成した核酸プローブ、競合的確酸及び標的核酸を用いてHAD反応を行い、測定された蛍光強度から作成した検量線を示す図である。
【図5】実施例で作成した核酸プローブ、競合的確酸及び標的核酸を用いてHAD反応を行い、得られた反応溶液をアガロースゲル電気泳動に供試した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
HDA法は、増幅対象の2本鎖DNAをヘリカーゼにより各一本鎖DNAに巻き戻し、各一本鎖DNAにハイブリダイズするプライマー及びDNAポリメラーゼを用いて、該2本鎖DNAを増幅する方法である。
本発明は、このHDA法を用いて、標的核酸(DNA)を定量するものであって、蛍光標識プローブと競合的核酸(DNA)を使用する。蛍光標識核酸プローブ(DNA)は、標的核酸と競合的核酸の双方にハイブリダイズ可能に設計された塩基配列を有し、標的核酸にハイブリダイズしたときと競合的核酸にハイブリダイズしたときにおいて光学的性質に変化を生じる蛍光色素で標識されている。
このような蛍光色素としては、例えば、グアニン塩基の近接により消光乃至減光する蛍光色素が挙げられ、具体的には、
4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a-diaza-s-indacene-3-propionicacid(BODIPY FL、Invitrogen社製)、5-(and-6)-carboxytetramethylrhodamine (5(6)-TAMRA)、Invitrogen社製)、Pacific Blue (Invitrogen社製)、5-(and-6)-carboxyrhodamine 6G, succinimidyl ester (5(6)-CR 6G, SE、Invitrogen社製)等を挙げることができる。
【0012】
本発明のプローブにおいては、上記蛍光色素を1種類のみ用いて、核酸プローブの5‘末端あるいは3’末端、又は鎖中に標識してもよいが、2種類の検出波長の異なる蛍光色素を用いて、核酸プローブの5‘末端と3’末端における蛍光色素が異なるように標識することが好ましい。
これら蛍光色素を核酸プローブのヌクレオチドに修飾する手段は、周知の手段を用いればよく(例えばMolecular Microbial Ecology Manual 3.3.6; 1-15 (1995))、また、蛍光色素で修飾した核酸プローブの受託生産を行っている会社にその合成を委託してもよい。
本発明において使用する競合的核酸とは、上記核酸プローブに対し標的核酸と競合的にハイブリダイズする核酸を意味し、競合的核酸は、標的核酸とほぼ同様の塩基配列になるように設計するが、上記蛍光色素で標識された核酸プローブが競合的核酸とハイブリダイズするときと標的核酸とハイブリダイズするときとで、検出される光学的性質において差を生じさせるため、標的核酸と競合的核酸とでは、該核酸プローブとハイブリダイズする部分近傍の塩基配列を異ならせる。
【0013】
すなわち、本発明においては、標的核酸の塩基配列に基づき、上記核酸プローブの塩基配列及び競合的核酸の塩基配列をそれぞれ設計する。例えば、核酸プローブに修飾された蛍光色素が、グアニンの影響を受けて蛍光強度が低下するものである場合、核酸プローブは、標的核酸とハイブリダイズするとき、該核酸プローブの蛍光色素(上記2種の蛍光色素で標識した場合には、その一方)の近傍に標的核酸中のグアニン塩基が位置するように標的核酸中の部位を選択して設計する。この場合において、競合的核酸は、核酸プローブがハイブリダイズするとき核酸プローブの蛍光色素近傍にはグアニン塩基が位置しないように設計する。
上記蛍光色素近傍とは、核酸プローブがハイブリダイズしたとき、核酸プローブの蛍光色素に結合した塩基と対応する標的核酸または競合的核酸の塩基、あるいは標的核酸または競合的核酸における該ハイブリダイズ部分外側の3塩基までの位置をいう。
なお、上記2種の蛍光色素を標識した核酸プローブの場合、他方の蛍光色素に基づく蛍光強度が、標的核酸あるいは競合的核酸のいずれにハイブリダイズした場合においても、同様に減少すればよく、競合的核酸は、核酸プローブがハイブリダイズしたとき、上記一方の蛍光色素近傍にグアニン塩基を位置させるか否かの点を除いて、標的核酸と同一の配列になるよう設計すればよい。
このように核酸プローブ及び競合的核酸を設計することにより、核酸プローブが標的核酸にハイブリダイズする場合と競合的核酸にハイブリダイズする場合とにおいて、蛍光強度が変化する。
【0014】
以下に、本発明の標的核酸の定量法について、さらに具体的に説明する。
本発明において、試料中に存在する標的核酸を定量するためには、HDA法による核酸増幅法を併用する。この方法による測定系においては、標的核酸含有試料、競合的核酸および核酸プローブに加え、さらにフォワード及リバースプライマー、DNAポリメラーゼ、ヘリカーゼ、及びDNAポリメラーゼの基質となる各種ヌクレシド3リン酸等の常用成分を含有させる。また、プライマーは、最初の反応系溶液中における標的核酸と競合的核酸の存在比がHDA法による反応後においても反映するよう増幅するために、標的核酸と競合的核酸とに共通する塩基配列部分に結合するプライマーであることを必要とする。この定量法において、核酸プローブが標的核酸とハイブリダイズするとき、核酸プローブの蛍光が標的核酸のグアニンにより、消光あるいは減光するように設計した場合においては、HDA法により増幅された標的核酸と該核酸プローブとのハイブリダイズにより、上記蛍光強度は減少するが、同様に増幅された競合的核酸とのハイブリダイズによっては、蛍光強度は減少しない。
【0015】
したがって、この測定系においては、核酸プローブがハイブリダイズする前においては、使用する核酸プローブの量に応じて、標識された蛍光物質由来の一定の蛍光強度が検出されるが、核酸プローブが、標的核酸及び競合核酸とハイブリダイズすると、標的核酸にハイブリダイズした量に応じてその蛍光強度は減少する。HDA法により増幅された標的核酸と競合的核酸の合計量が、核酸プローブの量と同じかまたはこれより多くなる場合には、すべての核酸プローブの各々は標的核酸もしくは競合的核酸のどちらかにハイブリダイズしており、標的核酸にハイブリダイズした量は、標的核酸の含有比〔標的核酸の量/(標的核酸の量+競合的核酸の量)〕に比例する。これにより、蛍光強度の減少割合は、蛍光強度測定時点の標的核酸の含有比に比例し、含有比が大きいほど多くなる。この標的核酸の含有比はHDA反応前の試料中の標的核酸の含有比を反映するから、上記測定系で使用した競合核酸の濃度あるいは量から、試料中の標的核酸の濃度及びその存在量が求められる。
【0016】
本発明においては、このように、核酸プローブは、その一方端のみ蛍光標識しても良いが、この場合HDA法により増幅された標的核酸と競合的核酸の合計量が、核酸プローブの量より少なかった場合において若干の問題を有する。すなわち、HDA法により増幅された標的核酸と競合的核酸の合計量が、核酸プローブの量より少なかった場合においては、標的核酸もしくは競合的核酸のいずれにも結合しない核酸プローブ(遊離状態の核酸プローブ)が存在することとなる。遊離状態において核酸プローブの蛍光色素の蛍光強度は、核酸プローブが標的核酸もしくは競合的核酸に結合した場合のいずれの蛍光強度とも異なる値をとることとなり、この遊離状態の核酸プローブがどの程度存在するのかを把握する必要がある。蛍光色素を核酸プローブの両端に標識した場合においては一つの蛍光色素がこの遊離状態の核酸プローブと標的核酸もしくは競合的核酸に結合した状態の核酸プローブの存在比率に応じて変化することから、遊離状態と結合状態の核酸プローブの存在比率を算出することができる。通常、HDA法を十分な時間行えば、このような増幅された標的核酸と競合的核酸の合計量が、核酸プローブの量より少ない状況は起こりえないため、核酸プローブの一方端のみの蛍光標識でも何ら問題はないが、増幅反応を著しく阻害する物質が測定しようとする試料中に混入しており、それを取り除くことが困難な場合などでは、核酸プローブの両端を互いに検出波長が異なる蛍光色素で標識することが好ましい。
【0017】
このような両端を標識した核酸プローブにおいては、その一方の端部に標識された蛍光色素は、標的核酸とハイブリダイズしたときのみ、標的核酸中のグアニン塩基により消光あるいは減光し、かつ、核酸プローブの他方の端部の蛍光色素は、標的核酸及び競合的核酸のいずれにハイブリダイズした場合においても消光あるいは減光するようにする。そのため、核酸プローブは、標的核酸とハイブリダイズしたとき、その両端近傍に標的核酸中のグアニン塩基が位置するように標的核酸の配列に基づき設計し、かつ、競合的核酸は、該核酸プローブとハイブリダイズしたとき、一方の蛍光色素の近傍にグアニン塩基が位置しないようにするほかは標的核酸の塩基配列と同様な配列に設計する。
【0018】
これにより、HDA反応により、標的核酸及び競合的核酸が増幅されたとき、核酸プローブは、標的核酸及び競合的核酸の両方にその含有率に応じてハイブリダイズするが、核酸プローブの一方の蛍光色素の蛍光は、増幅された標的核酸とハイブリダイズした分だけ消光あるいは減光し、他方の蛍光色素の蛍光は、ハイブリダイズする標的核酸と競合的核酸の合計量に応じて消光あるいは減光する。すなわち、後者の蛍光色素の蛍光強度の消光率は、蛍光強度測定時点までに増幅された標的核酸と競合的核酸の合計量を反映し、前者の蛍光色素の蛍光強度の消光率は、そのうちの標的核酸の含有割合を反映する。また、これらはHDA反応前の試料中の標的核酸と加えた競合的核酸の合計量と、そのうちの標的核酸の割合を反映する。したがって、使用した競合的核酸の量から試料中のHDAを定量できる。
【0019】
上記蛍光強度の測定時期は HDA反応中、あるいは反応後である。反応中とはHDA反応溶液中に含まれるフォワード及リバースプライマー、DNAポリメラーゼ、ヘリカーゼ、及び各種ヌクレシド3リン酸等の働きにより標的核酸、競合的核酸が増幅され続けている状況を指し、反応後とは上記増幅が何らかの理由(例えば反応液中のいずれかの試薬の枯渇、酵素の失活、温度の変化等)により標的核酸、競合的核酸の増幅が停止もしくは増幅速度が著しく低下した状況を指す。
これら反応中あるいは反応後において測定された蛍光強度から試料中の標的核酸の量を求めるには、例えば2種類の蛍光色素(蛍光色素A、蛍光色素B)を標識した核酸プローブを使用する場合、以下のように行う。
一定濃度の競合的核酸に既知濃度の標的核酸の段階希釈系列を加え,HDAによりDNAの増幅を行った後(増幅反応終了後),t℃(Denatureの温度)とT℃(Annealingの温度)において蛍光色素Aと蛍光色素Bの蛍光強度を測定する。サンプルチューブ間の蛍光強度のばらつきをノーマライズするため,HDA後のT℃の蛍光色素Aの蛍光強度,蛍光色素Bの蛍光強度を,それぞれHDA後のt℃の蛍光色素Aの蛍光強度,蛍光色素Bの蛍光強度で除す。
【0020】
ABProbeが標的核酸にすべて結合したときの蛍光色素Aの蛍光強度をGT,蛍光色素Bの蛍光強度をRT,ABProbeが競合的核酸にすべて結合したときの蛍光色素Aの蛍光強度をGC,蛍光色素Bの蛍光強度をRC,標的核酸と競合的核酸が存在しないときの蛍光色素Aの蛍光強度をGU,蛍光色素Bの蛍光強度をRU,実測した蛍光色素Aの蛍光強度を(G65/G95),蛍光色素Bの蛍光強度を(R65/R95)とする。また,初期標的核酸数をX,初期競合的核酸数をC,ABProbeの全量に対してPCR産物に結合したABProbeの割合をyとする。実測の蛍光色素Aの蛍光強度は,標的核酸および競合的核酸に結合しなかったABProbeの蛍光色素Aの蛍光強度,Targetに結合したABProbeの蛍光色素Aの蛍光強度,競合的核酸に結合したABProbeの蛍光色素Aの蛍光強度の和である。また,蛍光色素Bに対しても同様なことがいえる。
【0021】
よって,
G65/G95 = GU (1 - y) + GT[X/(X + C)]y + GC[C/(X + C)]y (1)
R65/R95 = RU (1 - y) + RT[X/(X + C)]y + RC[C/(X + C)]y (2)
原理より,
RT = RC
が成り立つことから,(2)式は
y = [RU - (R65/R95)]/(RU - RC) (3)
となる。これより(1)式を変形すると,
[(G65/G95) - GU]/[RU - (R65/R95)] = [(CGC - CGT)/(RU - RC)]/(X + C)
+ (GT - GU)/(RU - RC) (4)
となる。ここで,C,(CGC - CGT)/(RU - RC),(GT - GU)/(RU - RC)は,それぞれ定数である。これより(4)式は,
Y = b/(X + a) + c (a,b,cは定数) (5)
と表される。よって,初期標的核酸数Xと[(G65/G95) - GU]/[RU - (R65/R95)]は(5)式の直角双曲線の関係にある。
【0022】
得られた蛍光強度から求めた[(G65/G95) - GU]/[RU - (R65/R95)]の値を縦軸,初期標的核酸数Xを横軸にプロットし,(5)式の直角双曲線に回帰することにより,検量線を作成する。同様に測定したいサンプルについて蛍光強度を測定し,求めた[(G65/G95) - GU]/[RU - (R65/R95)]の値から,初期標的核酸数Xを算出する。
【0023】
一方、本発明においては、上記のように検量線を作成せずとも、例えば、予め参照サンプルを作成し、HDA法を行って蛍光強度を測定しておくことにより、ある程度の定量が可能である。
これには例えば以下のように行う。
1:標的核酸と競合的核酸が1:1で入っているような参照サンプルを作製する。
2:参照サンプル中の競合的核酸の量を50000コピーなどのように把握しておく。
(参照サンプル作製の際に既知量の競合的核酸を加える)
3:HDA法を行う。
4:参照サンプルの蛍光強度を測定する。
5:未知試料の蛍光強度を測定する。
6:両者の蛍光強度を比較し、参照サンプルに対して未知試料中の標的核酸の量を判定する。
以下に、本発明の実施例を示すが、この実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
実施例1
(プライマー,蛍光プローブおよび競合的核酸のデザイン)
Nitrosomonas europaeaのamoA遺伝子の部分配列をPCRで増幅したDNA配列(682bp)をモデル標的核酸として本手法による定量を行った。HDA法用のプライマーおよび蛍光プローブをデザインした。蛍光プローブの両末端に核酸中のグアニン塩基との近接,離間によって蛍光強度が変化する蛍光色素としてBODIPY FLおよびTAMARAをそれぞれ標識した。増幅塩基長は108bpとした。
【0025】
プライマー
amoA-HDA-F1:5’-TCG TAA CAC CGG GCA TTA TGC TTC C-3’(配列番号1)
amoA-HDA-R1:5’-ACC GAA GAA TCC ACC TCC AAC CAG A-3’(配列番号2)

蛍光プローブ
amoA-HDA-AB1:5’-(BODIPY FL)-ATC TGA CAC GCA ACT GGC TGG TGA C-(TAMRA)-3’(配列番号3)

使用した標的核酸(Target:682bp,PCR産物)とプライマー・プローブの位置関係は図1に示される。
【0026】
また、デザインした競合的核酸の塩基配列は図2に示すとおりであり、競合的核酸は標的核酸と同じプライマーセットで増幅され、かつ蛍光標識核酸プローブが結合する領域も標的核酸と同じ配列である。異なる点は蛍光標識核酸プローブが結合する領域の周辺配列に3塩基の標的核酸と異なる配列を持つことである(図2中の下線部)。この置換された3塩基の影響によりプローブが結合した時の蛍光強度が標的核酸と異なる。
【0027】
(HDA法による増幅)
設計したPrimerを用いて,HDA法により標的核酸および競合的核酸の増幅が可能かを検討した。反応液の組成(20μL)は,1×Annealing buffer II,4 mM MgSO4,40 mM NaCl,1×IsoAmp dNTP Solution,75 nM Forward Primer(amoA-HDA-F1),75 nM Reverse Primer(amoA-HDA-R1),1×IsoAmp Enzyme Mix(ヘリカーゼを含む。)とした。
iCyclerを用いて,65℃で90分インキュベートした。反応後の溶液を2%アガロースゲル電気泳動に供試した結果を図3に示す。
図3の結果によれば、Target DNA 106 copies,Competitor DNA 106 copies添加したサンプルにおいて,108 bp付近にバンドがみられた。一方,Templateを添加していないNon-template controlのサンプルにおいては,108 bp付近にバンドはみられなかった(100 bp以下にプライマーダイマーらしきバンドはみられた)。よって,HDA法によりamoA遺伝子を増幅することが可能であった。
【0028】
(蛍光プローブおよび競合的核酸によるHDA増幅産物の検出・定量)
前項の条件でHDA法を行った時の該増幅産物中の標的核酸由来の増幅産物を蛍光プローブおよび競合的核酸を用いて定量ができるか検討した。反応液の組成(20μL)は,前項と同様であり,templateとして,競合的核酸を106 copies,標的核酸を104 - 108 copiesをそれぞれ添加し、さらに50nM ABProbe(amoA-HDA-AB1)を添加した。 LightCycler 480を用いて,HDA反応のため65℃で90分インキュベートした。反応終了後,95℃で3分間蛍光を測定し,さらに65℃で3分間蛍光を測定し,End-pointでの蛍光とした。反応後の65℃と95℃の蛍光強度から作成した検量線を図4に示す。また,反応後の溶液を2%アガロースゲル電気泳動に供試した結果を図5に示す。
図4における縦軸は[(G65/G95) - GU]/[RU - (R65/R95)]である。ここでG65、G95はそれぞれHDA終了後に65℃と95℃で実測したBODIPY FLの蛍光強度、R65、R95は同様に測定したTAMRAの蛍光強度である。また、標的核酸と競合的核酸が存在しないときのBODIPY FLの蛍光強度をGU,TAMRAの蛍光強度をRUとしている。また、横軸は初期amoA遺伝子量である。図4より,反応後の65℃と95℃の蛍光強度を用いて,相関係数0.996以上の検量線を作成することができた。したがって、検量線作成条件と同一条件で得られた未知試料の蛍光強度から求めた[(G65/G95) - GU]/[RU - (R65/R95)]の値をこの検量線と照合することにより、未知試料中の標的核酸の量を求めることができる。また,図5より,すべてのサンプルにおいて108 bp付近にバンドが確認できた(target 10^4 copiesのサンプルだけ,バンドが薄かった)。よって,当該方法が可能であることがわかった。
【0029】
本発明の方法によりN. europaeaの培養菌体から抽出したgenomicDNAに含まれるamoA遺伝子の定量ができるか検討した。反応液の組成(20μL)は,前項と同様であり,templateとして,N. europaeaのgenomic DNAを5,1.5,0.5 ngを添加した。LightCycler 480を用いて,HDA反応のため65℃で90分インキュベートした。反応終了後,95℃で3分間蛍光を測定し,さらに65℃で3分間蛍光を測定し,End-pointでの蛍光とした。その結果得られた[(G65/G95) - GU]/[RU - (R65/R95)]の値を、前項の要領で作製した検量線と照合することにより、N. europaeaのgenomic DNAに含まれるamoA遺伝子を定量することに成功した(Table 1)。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)競合的核酸、(b)標的核酸と競合的核酸の双方にハイブリダイズ可能に設計され、蛍光色素で標識された核酸プローブ、(c)DNAヘリカーゼを少なくとも含むHDA(Helicase-dependent isothermal DNA amplification)法により試料中の標的核酸を定量するための試薬キットであって、上記競合的核酸と上記核酸プローブがハイブリダイズする場合と、上記標的核酸と上記核酸プローブがハイブリダイズする場合とにおいて、蛍光強度が異なるように競合的核酸の塩基配列が設計されていることを特徴とする、上記試薬キット。
【請求項2】
蛍光色素がグアニン塩基の近接によって減光あるいは消光することを特徴とする、請求項1に記載の試薬キット。
【請求項3】
蛍光色素が、上記核酸プローブの両端に修飾され、各端部の蛍光色素の蛍光波長が異なることを特徴とする、請求項1又は2に記載の試薬キット。
【請求項4】
標的核酸と競合的核酸は、それぞれ核酸プローブとハイブリダイズしたとき、該核酸プローブ中の1の蛍光色素が結合した塩基近傍に、グアニン塩基が位置するか否かの塩基配列上の差違を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の試薬キット。
【請求項5】
さらに、HDA用プライマー、DNAポリメラーゼあるいは該ポリメラーゼの基質となるヌクレオチド三リン酸のいずれか1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜4に記載の試薬キット。
【請求項6】
標的核酸含有試料と、請求項1〜5のいずれかに記載の試薬キットを少なくとも含む測定系において、HDA(Helicase-dependent isothermal DNA amplification) 反応を行い、該反応中あるいは反応後の蛍光色素由来の蛍光強度を測定し、該蛍光強度の変化率と、使用した試薬中の競合的核酸の量あるいは濃度から、上記試料中の標的核酸を量あるいは濃度を求めることを特徴とする、標的核酸の定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−172248(P2010−172248A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17493(P2009−17493)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】