説明

核酸プローブ及び核酸のハプロタイプの検出方法

【課題】複数の異なるディプロタイプが等しいジェノタイプを与え、相が確定できない場合に、二箇所のSNPに対応する2種類のプローブに対するCooperativeなハイブリダイゼーションを利用してハプロタイピングを行う際に、より感度が高く、安定した結果を得る。
【解決手段】
遺伝子多型アレルの一本鎖上での位置関係を示すハプロタイプを直接検出する方法であって、第一の変異領域に相補的なプローブと、第二の変異領域に相補的なプローブを組み合わせた連結した構成を持つ核酸プローブを用いる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
遺伝子多型の検出と、それを用いた関連遺伝子探索を行う分野に関連する。また関連が実証された多型マーカーに関して、副作用などフェノタイプの予測を臨床で行う際にも用いられる。
【背景技術】
【0002】
遺伝子の多型とフェノタイプを関連付けることで、疾患感受性や副作用のマーカーとなる多型をスクリーニングする試みは、近年の多型検出技術の進歩とともに広く行なわれるようになっている。特に、300万〜1000万個とヒトゲノム中に大量に存在し、タイピングも比較的簡単なSNP(Single Nucleotide Polymorphism:一塩基多型)は、ゲノムワイドな関連解析に必須の多型となっている。
【0003】
近年複数のヒトゲノムのシーケンスが得られるようになり、その多型についても詳細に調べられるようになった。特に、2005年に発表されたHAPMAPは、ゲノム中での連鎖不平衡地図を提供し、SNPを用いた関連解析に大きな影響を与えている。
【0004】
ヒトゲノムは2倍体であるために、SNPのタイピングを行なった結果は2つのアレルを与える。例えばあるSNPの野生型をA、変異型をGとする(以後A>Gと表記)。ここで野生型とは集団内での頻度が多いアレル、変異型とは少ないアレルのことで、通常変異型の頻度が1%以上のものを多型とよぶ。このときSNPタイピングの結果はAA、AG、GGの3種類であり、AA、GGをホモ、AGをヘテロという。このようにSNPのタイピングを行なって得られる結果をジェノタイプとよぶ。
【0005】
複数のSNPについて考える。例えば2箇所のSNPをSNP1、SNP2としてそれぞれA>G、C>Tであるとする。2箇所のSNPタイピングを行った結果(ジェノタイプ)が、SNP1がAGヘテロ、SNP2がCTヘテロであったとする。2箇所のSNPが同一染色体上にあった場合、SNP1とSNP2で物理的に連結されているアレルが何であるかによって、A−C/G−Tの場合と、A−T/G−Cの場合がありうる。このように、物理的に連結されている一本の染色体上に存在するSNPの組み合わせをハプロタイプとよぶ。ここでA−C/G−Tの場合にはA−CとG−Tのハプロタイプをもつことになり、A−T/G−Cの場合にはA−TとG−Cのハプロタイプを持つことになる。二本のハプロタイプ・ペアのことを、ディプロタイプと呼ぶ。ここでは、A−C/G−Tというディプロタイプ、またはA−T/G−Cというディプロタイプになる。
【0006】
ディプロタイプは完全情報であり、ディプロタイプが分ればジェノタイプを知ることができるが、ジェノタイプからディプロタイプは分らないこともある。例えば上記のSNP1:AGヘテロ、SNP2:CTへテロの場合がそうであり、ディプロタイプがA−C/G−Tであるか、A−T/G−Cであるかは判定できない。しかし世の中に知られている多数のSNPタイピング手法によって得られるのはジェノタイプであり、そのためにディプロタイプ、またはその構成要素であるハプロタイプの情報は得られない場合がある。
【0007】
遺伝子の情報とフェノタイプを関連付ける相関解析においては、完全情報であるディプロタイプが分ることが望ましい。しかし上記で示したように、SNPのタイピング結果からはディプロタイプが分らない場合がある。このとき一般に用いられるのはハプロタイプ推定アルゴリズムであり、複数の人のジェノタイプ結果から集団内に存在するハプロタイプ頻度を統計的に推定することができる(非特許文献1)。
【0008】
しかし、実際に得られた多型マーカーを臨床現場で応用する場合には、各個体のディプロタイプを決定できる必要がある。例えばあるハプロタイプが副作用に関連する場合、ジェノタイピングの結果からは、上記ハプロタイプを含む/含まないの両方のディプロタイプが可能である場合、その副作用に関連する確率が低いとしても、無視して投薬することは危険を伴う。逆に危険性があるからといって投薬を行わない場合には、副作用はないがむしろ薬効が期待される人からも治療の機会を奪ってしまうことになる。
【0009】
異なるディプロタイプが等しいジェノタイプを与える場合には、通常用いられているSNP検出結果を基に統計解析を行う手法では、実現可能なディプロタイプの事後確率分布を得られるだけで、ディプロタイプを1つに確定することはできない。
【0010】
このように異なるディプロタイプが等しいジェノタイプを与える場合に、そのディプロタイプを決定する方法はいくつか知られている。最も一般的なのは家系情報を用いる方法であり、両親のSNPタイピング結果から子供のディプロタイプが確定する。しかし、2箇所のSNP間で組み替えが起る可能性があり、また両親のジェノタイプによっては子供のディプロタイプが一意に決まらない場合もある。また両親のゲノムが必ずしも手に入るとは限らない。
【0011】
これに対して、ゲノムから直接ディプロタイプを直接検出しようとする、いわゆるハプロタイピングの開発が進められている。代表的なハプロタイピングの手法としては、ゲノムを段階的に希釈することで一倍体からの情報を得ようとするもの(非特許文献2)がある。また、ハプロタイプを形成する2箇所のアレルがPCRによる増幅産物中で物理的に連結されていることを利用して検出しようとするもの(特許文献1)などが知られている。その中で特に、二箇所のSNP部位に対応するプローブを一つの領域内に混合して固定し、それぞれのプローブとターゲットとの相互作用が強めあう効果(Cooperativeな相互作用)を利用した方法(特許文献2)が有効な手法として知られている。
【特許文献1】特開2002−272482号公報
【特許文献2】米国特許6306643B1号明細書
【非特許文献1】Excoffier L, Slatkin M:Molecular Biology of Evolution Vol.12 921−927,1995「Maximum−likelihood estimation of molecular haplotype frequencies in a diploid population」
【非特許文献2】Ding C and Cantor C:PNAS Vol100 7449−7453,2003「Direct molecular haplotyping of long−range genomic DNA with M1−PCR」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献2では、二箇所のSNP部位に対応した各2種のプローブ(野生型・変異型)を混合し、二箇所のSNPの組み合わせに一致した場合にのみターゲットがハイブリダイゼーションをする効果を利用してハプロタイピングを行う手法が提案されている。しかし2種類のプローブを一つの領域に固定する場合に、同一領域内とはいえ2種類のプローブが固定される位置をコントロールすることはできない。つまり領域内をより細かくみるならば、局所的に2種のプローブ濃度にゆらぎがみられる可能性は高い。またプローブ間の距離をコントロールすることができないために、ターゲットが二箇所でハイブリダイゼーションを行う際に、適した位置に二種類のプローブが存在するとは限らない。よって常に安定した状態で2種類のプローブに対し、Cooperativeなハイブリダイゼーションを行うことが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、2種類のプローブを混合して固定するのではなく、タンデムに連結した状態で一本の長いプローブとして合成し、それを基板上に固定する方法を提供する。これにより2種類のプローブは常に連結された状態で、1対1で存在することになり、2種類のプローブそれぞれにハイブリダイゼーションする場合に、それぞれのCooperativeな相互作用の効果を安定して引き出すことが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の異なるディプロタイプが等しいジェノタイプを与え、相が確定できない場合に、二箇所のSNPに対応する2種類のプローブに対するCooperativeなハイブリダイゼーションを利用してハプロタイピングを行う際に、より感度が高く、安定した結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明における核酸プローブは、第一の変異領域xと第二の変異領域yとを含むターゲット核酸配列にハイブリダイズさせるための核酸断片であって、上記変異領域xに存在するN種類のアレルをxi(i=1〜N)、上記変異領域yに存在するM種類のアレルをyj(j=1〜M)とするとき、xiおよびyjのそれぞれに相補的な配列siおよび配列tjとを組み合わせた配列(si−tj配列)を有することを特徴とする。各変異領域に相補的な配列(siおよびtj)を有するそれぞれのプローブを作製し、混合して固定するのではなく、検出しようとする変異領域の両方の相補的な配列をタンデムに連結した状態で一本の長いプローブとして作製する。
【0016】
本発明における核酸プローブは一本の長いプローブであるため、2種類のプローブは常に連結されていることから、常に1対1で存在することになる。したがって2種類のプローブが常に安定した状態でコントロールできる。つまり、例えば第一の変異領域がゲノム上のターゲット核酸配列に相同領域が複数存在する標的領域であり、第二の変異領域が上記相同領域には存在せずターゲット核酸配列の領域のみに存在する場合にも、好適に本発明の核酸プローブを用いることができる。そして、それぞれのプローブとターゲット核酸との相互作用が強めあう効果を利用して核酸を検出することが可能となる。
【0017】
本発明における核酸プローブは上記si−tj配列に、更にターゲット核酸配列に含まれる上記xi,yj以外の配列に相補的な核酸配列の1または複数を組み合わせることが可能である。このような配列として、例えば3番目の変異領域に対するハプロタイピングを目的として第三の変異領域に存在するアレルの配列を更に組み合わせることができる。
【0018】
また、上記プローブを固定する担体としては、目的とする固相−液相反応を行うことができる特性を満たすものであればよい。例えば、ガラス基板、プラスチック基板、シリコンウェハー等の平面基板、凹凸のある三次元構造体、ビーズのような球状のもの、棒状、紐状、糸状のもの等を担体として用いることができる。さらに、その担体の表面はプローブの固定化が可能なように処理されたものであってもよい。特に、表面に化学反応が可能となるように官能基を導入したものは、ハイブリダイゼーション反応の過程でプローブが安定に結合している為に、再現性の点で好ましい形態である。
【0019】
本発明の標的核酸の多型部位を検出する方法は、以下の工程により行うことができる。
【0020】
標的核酸と本発明における核酸プローブを固定した担体とを接触させ、担体上のプローブとハイブリダイズさせる工程と、上記工程によりプローブにハイブリダイズした標的核酸の有無または量を検出する工程。
【0021】
より詳細には、
(1)試料中のターゲット核酸を標識物質で標識し、一本鎖とする工程、
(2)標識され一本鎖となった標的核酸を本発明における核酸プローブを固定した担体にハイブリダイズさせる工程、
(3)ハイブリダイズした標的核酸の量を標的物質のシグナル強度により検出する工程、
を有することが好ましい。
【0022】
標識物質としては、蛍光標識を挙げることができ、DNA検出の分野では、Cy3、Cy5、エチジウムブロマイド、フルオロセインなどが好ましく用いられる。また、標的核酸を検出するために、標識物質以外にもハイブリッド体のイオン化電位を検出する方法などを用いることも可能である。また、(2)におけるハイブリダイゼーションの温度は、配列siおよびtjのそれぞれを有するプローブの場合ではハイブリダイゼーション反応が起こらない温度であることが好ましい。例えば、本発明のsi−tj配列を有する核酸プローブにおけるハイブリダイゼーション温度は、配列siおよびtjのそれぞれを有するプローブにおけるその温度と比較して5℃から15℃高い温度になるように設定することが好ましい。
【0023】
更に、本発明のプローブを固定した核酸検出用担体と標的核酸を標識するための標識物質とを少なくとも用いて、核酸検出用のキットを構成することもできる。以下に、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明における核酸プローブの構成模式図を示す。第一の変異領域xに相補的なsi配列a)と第二の変異領域yに相補的なtj配列b)がタンデムに連結していることを示している。すなわち、標的核酸上の第一の変異領域及び第二の変異領域とをそれぞれ含む領域の2つの配列が、該標的核酸上の2つの領域間に存在する配列を排除して互いの末端で連結しているオリゴヌクレオチドプローブとして構成されている。c)はターゲット核酸配列であり、本発明の核酸プローブとハイブリイズしている。
【0025】
一つの染色体上に存在する2箇所のSNP(SNP1,SNP2)を考える(図2)。SNP1の野生型をA、変異型をTとし、SNP2の野生型をG、変異型をCとする。SNP1に対してA/Tのヘテロ、SNP2に対してG/Cのヘテロである場合には、図2のa)とb)とで示した2種類があるが、この2種類は通常のSNPタイピングやシーケンサーによる方法では判別することができない。このような状況を相が確定しないという。このような場合に、ハプロタイピングを行い、相を確定させる手法を以下のように提供する。
【0026】
まず、SNP1の判定に用いる2種類のプローブを考える。これは通常のSNPタイピングで用いられるものであり、SNP1が野生型であった場合に相補となるオリゴ配列とSNP1が変異型であった場合に相補となるオリゴ配列となる。これらプローブをSNP1w、SNP1mとする。同様にSNP2に対応したプローブをSNP2w、SNP2mとする。これらプローブの長さは通常20bp前後である。
【0027】
これら4種類のプローブ配列から2種類を以下のように選択し、それらをタンデムに連結した合成プローブを作成する。これらプローブは上記20bpのプローブが連結されたものであるために、40bp前後の長さとなる。
P1 : SNP1w+SNP2w
P2 : SNP1w+SNP2m
P3 : SNP1m+SNP2w
P4 : SNP1m+SNP2m。
【0028】
ここで上記連結プローブP1およびP2はSNP1の野生型をもつターゲットとハイブリダイズし、P3およびP4はSNP1の変異型をもつターゲットとフルマッチでハイブリダイズする。同様に、P1およびP3はSNP2の野生型、P2およびP4はSNP2の変異型をもつターゲットとフルマッチでハイブリダイズする。
【0029】
しかし2箇所を同時に考えると、P1は図2のa)1の場合には2箇所ともフルマッチでハイブリダイズするが、a)2、b)3の場合には一箇所のみとフルマッチではハイブリダイズすることになる。同様にP2はb)3と、P3はa)2と、P4はb)4とのみ、二箇所がフルマッチでハイブリダイズする。
【0030】
今ハプロタイピングによって判別したいのは、図2のa)とb)の場合である。
【0031】
二箇所が同時にハイブリダイズする場合の結合強度が、一箇所のみでハイブリダイズする場合の単なる二倍ならば(図3)、例えばa)の1がハイブリダイズした場合の輝度はP1を1とするとP2とP3が0.5となる。a)の2がハイブリダイズした場合はP4が1、P2、P3が0.5となるので、1と2が等量混合したa)の輝度はP1〜P4すべてで1となる。
【0032】
これに対してb)の3がハイブリダイズした場合の輝度はP2が1、P1とP4が0.5となり、4がハイブリダイズした場合の輝度はP3が1、P1とP4が0.5となるため、3と4が等量混合したb)の輝度はP1〜P4で1となる。すなわち、a)とb)で輝度プロファイルに差がでないことになり、a)とb)を判別することはできない(図3)。
【0033】
ここで、Cooperativeな相互作用について考える。Cooperativeとは、2つもしくはそれ以上の反応が相互に影響を及ぼしあい(強めあい)1+1=2とはならず、2以上の結果をもたらすことを意味し、たんぱく質の相互作用など複数の生体物質が複合体を形成する過程などでよく見られる現象である。
【0034】
上記のプローブの例でいうならば、二箇所でハイブリダイズするプローブの輝度と、一箇所でハイブリダイズするプローブの輝度を比較した場合に、前者が後者よりも2倍以上の強さとなる状況をCooperativeなハイブリダイゼーションとよぶ。
【0035】
この点から図3、図4をみると、Cooperativeなハイブリダイゼーションによって、二箇所でフルマッチの場合は、一箇所でフルマッチの場合の2倍となるのではなく、より強め合ってターゲットがプローブにハイブリダイズすることがわかる。図3は、図2のa)1、2、b)3、4が一本ずつハイブリダイズした場合と、等量で混合した場合である。Cooperativeなハイブリが起こらない場合、a)とb)は等しいプロファイルを与え、判別できない。一方、図4は、Cooperativeなハイブリが起こる場合であり、a)とb)は異なるプロファイルを与えるために判別することができる。
【0036】
Cooperativeなハイブリダイゼーション反応が起る環境で検出を行うことができれば、a)の1がハイブリダイズした場合にはP1の輝度>>それ以外のプローブの輝度、2ではP4の輝度>>それ以外のプローブの輝度となる。同様にb)の3がハイブリダイズした場合にはP2の輝度>>それ以外のプローブの輝度、4ではP3の輝度>>それ以外のプローブの輝度となる。よってa)の場合にはP1とP4がP2とP3に比べて優位に高輝度になるのに対して、b)の場合にはP2とP3がP1とP4に比べて優位に高輝度となるために、a)とb)の判別をすることが可能になる。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
次に、本発明の実施例について説明する。
代謝酵素CYP2D6遺伝子は遺伝子内に複数のSNP箇所をもつことが知られている。このうちスタートコドンから100番目に存在するSNPであるC100Tと310番目に存在するG310Tについて、ハプロタイプを検出するプロトコルを説明する。
まず、それぞれの多型を検出するプローブを以下のように設計した。
【0038】
【表1】

【0039】
但し本提案においては、プローブのTm計算時の条件は以下の値を用いた。なお、Tm値は最近接塩基対法から求めることができる。
【0040】
【表2】

【0041】
これらの配列は、それぞれを基板上に固定して作製したDNAチップにより、C100T、G310TのSNPが検出できることを確認している。但しこの場合のハイブリダイゼーションは、以下の(ハイブリダイゼーション溶液)の項に記載の方法で準備された溶液を、92℃に加温し2分間保持したあと、さらに50℃で4時間保持して行った。その後、2×SSCおよび0.1%SDSを用いて、40℃で洗浄をし、さらに2×SSCを用いて20℃で洗浄した。
【0042】
次にこれらの配列をC100T−G310Tの順番に連結した以下のようなプローブを設計し、これを基板上に固定することによってマイクロアレイを作製する。ここではプローブ核酸をインクジェット方式(特開平11−187900号公報)で基板担体上に固定化したDNAマイクロアレイを用いた実施例について述べるが、この方法に限定されるものではない。
【0043】
【表3】

【0044】
(マイクロアレイの構成)
プローブの固定は特開平11−187900号公報に詳細が示されているように、表面処理を行った基板にインクジェットにより5’末端をチオール化されたオリゴDNAを吐出する方法を用いる。ここでプローブとなるDNAはシグマ アルドリッチ ジャパン(株)から購入したものである。
【0045】
(ターゲットの準備)
検体は、PSC(Pharma SNP Consortium)由来の抽出DNAをヒューマンサイエンス研究資源バンク(HSRRB)より購入した。本実験で用いるにあたり、あらかじめCYP2D6を含む5.1kbpの領域を以下のプライマー(“Novel Nonsynonymous Single Nucleotide Polymorphisms in the CYP2D6 Gene” Drug Metab.Pharmacokin.19(4):SNP19(313)SNP25(319)2004)を用いて増幅し、シーケンサー(ABI Prism 3100 Genetic Analyzer)により配列を取得した。
【0046】
【表4】

【0047】
但し本提案においては、プライマーのTm計算時の条件は以下の値を用いた。
【0048】
【表5】

【0049】
以下では、PSC検体の中から5種類の検体に着目して検討を行っている。
【0050】
【表6】

【0051】
すでに比較のためにシーケンスを取得してあるので、各検体のC100T,G310T位置におけるジェノタイプの結果とアレルは上記のようであった。CYP2D6に関しては、遺伝子全体のアレルに関する情報がデータベース化(Human Cytochrome P450 Allele Nomenclature Committee http://www.cypalleles.ki.se/)されているために、その内容を参考にした。
【0052】
アレル(*1,*2,*10)毎のC100T、G310TのSNPは以下のようになっている。
【0053】
【表7】

【0054】
上記プライマー(2D6−DPKup、2D6−DPKlow)を用いて、2D6のエキソン領域全体を含む5.1kbpを増幅する反応(PCR)の例を以下に示す。この増幅産物は以下の実施例において、テンプレートとして使用している。また上記でシーケンスを取得する際にも、このテンプレートを用いた。増幅反応液組成の例を以下に示す。
【0055】
−−PCR溶液組成−−
Takara LA Taq 0.25μl
Genome DNA(50ng/ul) 1μl
Forward/Reverse Primer(1uM) 3μl
dNTP (2.5mM) 4.5μl
buffer I 12.5μl
2O 0.7μl
Total 25μl。
【0056】
上記組成の反応液を以下の温度サイクルのプロトコルに従って、サーマルサイクラーを用い増幅反応を行った。
【0057】
【表8】

【0058】
反応終了後、電気泳動(BioAnalyzer: Agilent社製)により、増幅産物の定量を行い、8ng/ulに超純水で希釈した。
【0059】
次に、C100TとG310Tを含む500bp程度の領域を以下のプライマーを用いて増幅した。
【0060】
【表9】

【0061】
ここでForward/Reverse Primerの配列は上に示したものだが、5’末端Cy3標識のForward Primer+5’末端リン酸化のReverse Primerの組み合わせと、5’末端Cy3標識のReverse Primer+5’末端リン酸化のForward Primerの組み合わせの二種類でPCRを行った。これにより、その後の片鎖化処理により、Cy3標識された鎖のみが残り、リン酸化された鎖は分解され、一本鎖のターゲットとハイブリダイゼーション反応を行うことになる。
【0062】
(片鎖化処理)
前述の増幅したPCR産物を用い、片鎖化処理を行って一本鎖のターゲットをつくる。反応は上記の定量結果を参考に、溶液中に50ngの増幅産物を含むように調整する。またコントロールとして、Strandase λ Exonucleaseの代わりに、Strandase λ Exonucleaseを100倍に希釈した溶液を加えて反応を行う。
【0063】
−片鎖化反応溶液組成−
PCR産物50ng + H2 8μl
10xStrandase Buffer 1μl
Strandase λ Exonuclease 1μl
Total 10μl。
【0064】
上記組成の反応液を37℃で20分保持した後、精製用カラム(QUIAGEN QIAquick PCR Purification Kit: QUIGEN社製)を用いてプライマー等を除去する。精製終了後、電気泳動(BioAnalyzer:Agilent社製)により産物の定量を行う。このとき、片鎖化された産物ではシグナルは観察されない。よって上記で等量のPCR産物を加え、酵素の代わりに酵素を100倍に希釈した溶液を加えたコントロールの産物量(モル濃度)と等しい量が片鎖化されて存在するとして、以下のハイブリダイゼーション反応を行う。
【0065】
(ハイブリダイゼーション)
水切りしたDNAマイクロアレイをハイブリダイゼーション装置(Genomic Solutions Inc. Hybridization Station)にセットし、以下に示すハイブリダイゼーション溶液、条件でハイブリダイゼーション反応を行う。ハイブリダイゼーション装置を用いずに、スライドガラスとハイブリダイゼーション用のチャンバーを用いてマニュアルで反応を行ってもよい。
【0066】
(ハイブリダイゼーション溶液)
以下にハイブリダイゼーション溶液の組成の一例を示す。
6×SSPE / 10% Formamide / ターゲット(未知検体由来の核酸)(PCR後片鎖化した産物 0.5nM) / 0.05% SDS
前述の増幅後片鎖化した産物0.1nM相当をバッファー(SSPE)に溶かし、最終濃度が10%になるようにFormamideを加える。この溶液に最終濃度が0.05%になるようにSDS溶液を加え、ハイブリダイゼーション溶液とする。なお、バッファー(SSPE)の濃度は、最終溶液の状態で6×SSPEとなるように予め計算しておく。
【0067】
上記ハイブリダイゼーション溶液を、92℃に加温し2分間保持したあと、さらに62℃で4時間保持した。その後、2×SSCおよび0.1%SDSを用いて、50℃で洗浄をした。さらに2×SSCを用いて20℃で洗浄を行い、必要に応じて通常のマニュアルに従い純水でリンス、スピンドライ装置で水切りを行った。
【0068】
(蛍光測定)
上記DNAマイクロアレイを、DNAマイクロアレイ用蛍光検出装置(Axon社製、GenePix 4000B)を用いて、以下の条件で蛍光測定を行った。蛍光測定波長をCy3およびCy5測定波長とし、蛍光測定値が30000以下となるように励起光の強さを調整して測定した。
【0069】
(スポット解析)
蛍光測定結果の画像を、マイクロアレイ用のデータ解析ソフトArrayPro(Media Cybernetics社製)で解析を行い、各スポットに対する輝度値のデータを得た。
【0070】
(結果)
上記に従ってPSCサンプル#724についてハイブリダイゼーションを行った結果を図5に示す。a)はアンチセンス鎖プローブとセンス鎖ターゲット(FCy3)、b)はセンス鎖プローブとアンチセンス鎖ターゲット(RCy3)の結果を示している。#724はC100T、G310G双方について野生型のホモ(ww)であることがシーケンス結果から確認されている。図5を見ると、センス鎖プローブ、アンチセンス鎖プローブ共にC100T野生型−G310T野生型を連結したプローブ(100−310Sww、100−310Aww)のみが、輝度が有意に高くなることが分かる。
【0071】
同様に、サンプル#2027のハイブリダイゼーション結果を図6に示す。#2027はシーケンス結果からC100T、G310G双方について変異型のホモ(mm)であることが確認されている検体である。図6に示したように、センス鎖プローブ、アンチセンス鎖プローブ共にC100T変異型−G310T変異型を連結したプローブ(100−310Smm、100−310Amm)のみが有意に輝度が高くなることが示されている。
【0072】
次に、サンプル#317のハイブリダイゼーション結果を図7に示す。#317はシーケンス結果からC100T、G310G双方についてヘテロ(wm)であり、他のSNP箇所のジェノタイピング結果及びCYP2D6のデータベースよりアレル*1/*10である。これは、#724がアレル*1/*1、#2027がアレル*10/*10であることを考えると、C100T野生型−G310T野生型と、C100T変異型−G310T変異型のヘテロとなる検体である。そのハイブリダイゼーション結果は図7に示すように、C100T野生型−G310T野生型を連結したプローブと、C100T変異型−G310T変異型を連結したプローブに高い輝度が見られる。
【0073】
このように、2箇所のSNP部位C100TとG310Tの判別に用いられるプローブを連結したプローブを固定した基板によって、二箇所のSNP部位のハプロタイプを検出できることが示された。このとき、C100T、G310Tそれぞれのプローブを固定した基板で、それぞれのSNPをタイピングする際は、50℃でハイブリダイゼーションを行ったのに対して、連結プローブを用いた本実施例では、62℃と12℃高い温度でハイブリダイゼーションを行っている。これにより、一箇所のみでフルマッチのハイブリダイゼーションを行うプローブに対しての結合は、二箇所でフルマッチのハイブリダイゼーションを行うプローブに比較して有意に弱く(<1/2)、Cooperativeな効果を見ることができる。
【0074】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、PSCサンプル#309と#212についてもハイブリダイゼーションを行った。#309はシーケンス結果からC100Tについては野生型ホモ(ww)、G310Gについてヘテロ(wm)であり、他のSNP箇所のジェノタイピング結果及びCYP2D6のデータベースよりアレル*1/*2である。また#212はC100Tについてはヘテロ(wm)、G310Gについて変異片型ホモ(mm)であり、アレル*2/*10である。アレル*2に関しては、日本人中での頻度があまり高くはないために、今回検討したPSC30検体中に*2/*2となるサンプルは存在しなかった。
【0075】
#309と#212のハイブリダイゼーション結果をそれぞれ図8、図9に示す。#309に関しては、C100T野生型−G310T野生型を連結したプローブ(100−310Sww、100−310Aww)と、C100T野生型−G310T変異型を連結したプローブ(100−310Swm、100−310Awm)に高い輝度が見られる。また#212に関しては、C100T野生型−G310T変異型を連結したプローブと、C100T変異型−G310T変異型を連結したプローブ(100−310Smm、100−310Amm)に高い輝度が見られる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の構成を示す模式図である。
【図2】SNPとハプロタイプの関係を示す図である。
【図3】Cooperativeなハイブリが起らない場合の輝度模式図である。
【図4】Cooperativeなハイブリダイゼーションが起こる場合の輝度模式図である。
【図5】PSC#724(*1/*1)のハイブリダイゼーション結果を示すグラフである。
【図6】PSC#2027(*10/*10)のハイブリダイゼーション結果を示すグラフである。
【図7】PSC#317(*1/*10)のハイブリダイゼーション結果を示すグラフである。
【図8】PSC#309(*1/*2)のハイブリダイゼーション結果を示すグラフである。
【図9】PSC#212(*2/*10)のハイブリダイゼーション結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の変異領域xと第二の変異領域yとを含むターゲット核酸配列にハイブリダイズさせるための核酸断片であって、
該領域xに存在するN種類のアレルをxi(i=1〜N)、該領域yに存在するM種類のアレルをyj(j=1〜M)とするとき、xiに相補的な配列siと、yjに相補的な配列tjとを含む配列(si−tj配列)を有する核酸プローブ。
【請求項2】
第一の変異領域xがゲノム上に相同領域が複数存在するターゲット核酸の領域であり、第二の変異領域yが該相同領域には存在せずターゲット核酸の領域のみに存在する領域である、請求項1記載の核酸プローブ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の核酸プローブに、ターゲット核酸配列に含まれるxi,yj以外の配列に相補的な核酸配列の1または複数を更に組み合わせることを特徴とする核酸プローブ。
【請求項4】
請求項1または2記載のプローブを固定した、核酸検出用担体。
【請求項5】
標的核酸の多型部位を検出する方法であって、
標的核酸と請求項4に記載の担体とを接触させ、前記担体上の前記プローブとハイブリダイズさせる工程と、
前記工程により前記プローブにハイブリダイズした標的核酸の有無または量を検出する工程と、
を有することを特徴とする多型部位の検出方法。
【請求項6】
前記ハイブリダイズさせる工程におけるハイブリダイゼーションの温度が、配列siおよびtjがそれぞれ固定された担体に対してはハイブリダイゼーションが起らないが、前記核酸プローブに対してはハイブリダイゼーションを起こす温度である、請求項5記載の核酸の多型部位の検出方法。
【請求項7】
請求項4に記載の担体と、標的核酸を標識するための標識物質と、を有することを特徴とする核酸検出用のキット。
【請求項8】
標的核酸の多型部位を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブであって、
該標的核酸上の第一の変異領域及び第二の変異領域とをそれぞれ含む領域の2つの配列が、該標的核酸上の2つの領域間に存在する配列を排除して互いの末端で連結していることを特徴とするオリゴヌクレオチドプローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−195143(P2009−195143A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39054(P2008−39054)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】