説明

核酸分析デバイス、及び核酸分析装置

【課題】本発明の目的は、核酸試料断片を捕捉する核酸合成酵素やDNAプローブを固定した微粒子を基板上に規則正しく並べ、核酸分析のスループットを向上させることに関する。
【解決手段】本発明は、核酸合成酵素やDNAプローブなどを微粒子に予め固定しておき、当該微粒子の直径よりも小さな径を持つ、金などの金属パッドパターンを基板上に形成しておき、微粒子とパッドとを化学結合を介して結合させることに関する。本発明により、多種類の核酸断片試料を高密度にかつ規則正しく整列させて基板上に固定できるため、高スループットに核酸試料を分析できる。例えば、1ミクロン間隔で微粒子を固定すれば、106核酸断片/cm2という高密度が容易に達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸分析デバイスや核酸分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸分析デバイスとして、DNAやRNAの塩基配列を決定する新しい技術が開発されてきている。
【0003】
現在、通常用いられている電気泳動を利用した方法においては、予め配列決定用のDNA断片又はRNA試料から逆転写反応を行い合成したcDNA断片試料を調製し、周知のサンガー法によるジデオキシ反応を実行した後、電気泳動を行い、分子量分離展開パターンを計測して解析する。
【0004】
これに対し、近年、基板に試料となるDNA断片を数多く固定して、パラレルに数多くの断片の配列情報を決定する方法が提案されている。
【0005】
非特許文献1では、DNA断片を担時する媒体として微粒子を用い、微粒子上でPCRを行う。その後、微粒子のサイズに穴径を合わせた数多くの穴を設けたプレートに、PCR増幅されたDNA断片を担持した微粒子を入れてパイロシーケンス方式で読み出している。
【0006】
また、非特許文献2では、DNA断片を担持する媒体として微粒子を用い、微粒子上でPCRを行う。その後、微粒子をガラス基板上にばら撒いて固定し、ガラス基板上で酵素反応(ライゲーション)を行い、蛍光色素付き基質を取り込ませて蛍光検出を行うことにより各断片の配列情報を得ている。
【0007】
さらに、非特許文献3では、平滑基板上に、同一配列を有する多数のDNAプローブを固定しておく。また、DNA試料を切断後、DNAプローブ配列と相補鎖のアダプター配列を各DNA試料断片の端に付加させる。これらを基板上でハイブリダイゼーションさせることにより、基板上にランダムに一分子ずつ試料DNA断片を固定化させている。この場合、基板上でDNA伸長反応を起こない、蛍光色素付き基質を取り込ませた後、未反応基質の洗浄,蛍光検出を行い、試料DNAの配列情報を得ている。
【0008】
以上のように、平滑基板上に、核酸断片試料を数多く固定することにより、パラレルに数多くの断片の配列情報を決定する方法が開発され、実用化されつつある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nature 2005, Vol. 437, pp. 376-380.
【非特許文献2】Genome Research 2008, Vol. 18, pp 1051-1063.
【非特許文献3】Science 2008, Vol. 320, pp. 106-109.
【非特許文献4】Nanotechnology, 2007, vol. 18, pp 044017-044021.
【非特許文献5】P.N.A.S. 2006, vol. 103, pp 19635-19640
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明者がパラレル解析法のスループット向上について鋭意検討した結果、次のような知見を得るに至った。
【0011】
上記のようなパラレル解析法のスループットをより一層高めるためには、できるだけ高密度、且つ規則正しく、平滑な基板上に核酸試料を整列させて固定することが望まれる。あらかじめ微粒子に核酸試料を担持させておく方法は、解析するDNA断片数が莫大であることから、試料のハンドリング上非常に有利である。核酸試料を担持させた微粒子を平滑基板上にばらまいて固定させる方法は容易ではあるが、蛍光測定で配列を読み取る段になると、CCDカメラで検出したランダムに存在する微粒子画像から数値データを取得する際、膨大なデータ処理時間がかかってしまう。
【0012】
一方、多数の穴を形成したプレートをあらかじめ用意しておき、その上に核酸試料を担持した微粒子を並べる方法では、一度のアッセイで読むことのできるDNA断片数はプレートの穴径で決まってしまい、高々104断片/スライドガラスであり、スループットの向上には限界がある。
【0013】
本発明の目的は、核酸試料断片を捕捉する核酸合成酵素やDNAプローブを固定した微粒子を基板上に規則正しく並べ、核酸分析のスループットを向上させることに関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、核酸合成酵素やDNAプローブなどを微粒子に予め固定しておき、当該微粒子の直径よりも小さな径を持つ、金などの金属パッドパターンを基板上に形成しておき、微粒子とパッドとを化学結合を介して結合させることに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、多種類の核酸断片試料を高密度にかつ規則正しく整列させて基板上に固定できるため、高スループットに核酸試料を分析できる。例えば、1ミクロン間隔で微粒子を固定すれば、106核酸断片/cm2という高密度が容易に達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】核酸分析デバイスの構成の一例を説明するための図。
【図2】核酸分析デバイスの製造方法の一例を説明するための図。
【図3】核酸分析デバイスを用いた核酸分析装置の一例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施例では、検出対象の核酸を捕捉できるプローブ分子を有する微粒子を基板上に規則的に固定した核酸分析用デバイスであって、基板上の微粒子の固定位置に接着用パッドを備え、微粒子と接着用パッドとが化学結合を介して結合しており、接着用パッドの直径が微粒子の直径以下の大きさであるデバイスを開示する。
【0018】
また、実施例では、検出対象の核酸を捕捉できるプローブ分子を有する微粒子を基板上に規則的に固定した核酸分析用デバイスと、核酸分析デバイスに対して、蛍光色素を有するヌクレオチド、及び核酸試料を供給する手段と、核酸分析デバイスに光を照射する手段と、核酸分析デバイス上においてヌクレオチド、核酸合成酵素、及び核酸試料が共存することにより起きる核酸伸長反応により核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光を測定する発光検出手段と、を備え、核酸試料の塩基配列情報を取得する核酸分析装置であって、基板上の前記微粒子の固定位置に接着用パッドを備え、微粒子と接着用パッドとが化学結合を介して結合しており、接着用パッドの直径が微粒子の直径以下の大きさである装置を開示する。
【0019】
また、実施例では、微粒子1個に対して、プローブ分子が一分子固定されていることを開示する。
【0020】
また、実施例では、プローブ分子が、核酸、又は核酸合成酵素であることを開示する。
【0021】
また、実施例では、微粒子が、半導体、又は金属から選ばれる材料からなることを開示する。
【0022】
また、実施例では、接着用パッドが、金,チタン,ニッケル、又はアルミから選ばれる材料からなることを開示する。
【0023】
以下、上記及びその他の本発明の新規な特徴と効果について、図を参照して説明する。ここでは、本発明を完全に理解してもらうため、特定の実施形態について詳細な説明を行うが、本発明はここに記した内容に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
本実施例のデバイスの構成を、図1を用いて説明する。平滑基板101の上に接着パッド102が規則正しく、例えば図1に示すように格子状に形成されている。接着パッド102と微粒子103は、線状分子105を介して化学結合により結ばれている。線状分子105の末端の官能基106と、接着パッド102とは化学的相互作用により結合していることが好ましい。その際、官能基106は、平滑基板101との相互作用が弱く、接着パッド102との相互作用が強いことが好ましい。このような観点から、平滑基板としては、石英ガラス,サファイア,シリコン基板などを用いることができる。また、接着パッド102には、金,チタン,ニッケル,アルミから選ばれる材料で構成することができる。官能基106には、平滑基板101と接着パッド102との組合せを考えて選択せねばならないが、例えば、スルホヒドリル基,アミノ基,カルボキシル基,リン酸基,アルデヒド基等を用いることができる。線状分子105は、微粒子103と接着パッド102を結ぶ役割を果たし、長さに大きな限定はないが、炭素数にして3から20程度の直鎖状分子が好ましい。線状分子105の末端の官能基107は、微粒子103との接着性をもたらす。微粒子103としては、金属微粒子や半導体微粒子を用いることができる。例えば、金の微粒子として、直径5nm〜100nmのものが市販されており、活用することができる。また、半導体微粒子としては、直径が10nm〜20nm程度のCdSe等の化合物半導体が市販されており、活用することができる。官能基107として用いることができる官能基は、微粒子の種類によって異なるが、例えば金微粒子を用いた場合にはスルホヒドリル基,アミノ基等が好ましい。半導体微粒子を用いる場合には、ストレプトアビジンで表面が修飾された微粒子が市販されており、官能基107としてビオチンを用いることができる。核酸を捕捉するプローブ分子104には、DNAやRNAの核酸分子の一本鎖を用いることができる。核酸分子の末端を官能基107と同様に予め修飾しておき、微粒子103と反応させておく。また、核酸を捕捉するプローブ分子104として核酸合成酵素を用いることもできる。発現タンパク質にアビジンタグを導入する試薬が市販されており、このような試薬を用いてDNAポリメラーゼを合成することにより、例えば、市販のストレプトアビジンで表面が修飾された半導体微粒子表面に容易に核酸合成酵素を固定できる。核酸を捕捉するプローブ分子104として核酸分子の一本鎖を用いた場合には、特定の相補配列を有する核酸試料分子を捕捉することができる。捕捉後に、核酸合成酵素やヌクレオチドを供給することにより、基板上で核酸伸張反応を起こすこともできる。また、プローブ分子104として核酸合成酵素を用いた場合には、非特定の核酸試料分子を捕捉できる。この場合も、ヌクレオチドを供給することにより基板上で核酸伸長反応を起こすことができる。
【0025】
一つの微粒子103に固定するプローブ分子104は、一分子であることが好ましい。一つの微粒子103に一分子のプローブ分子104を固定するためには、微粒子103の粒径が小さいほど好ましい。一つの核酸捕捉プローブ分子が微粒子表面に固定されると、微粒子上の電荷の状態が変化して、他の未固定の核酸捕捉プローブ分子の固定反応を阻害する効果が生じる。微粒子サイズが小さくなると、この効果が大きくなるからである。発明者らが鋭意検討した結果、微粒子サイズとして約20nm以下が好ましいことが判明している。
【0026】
接着パッド102を平滑基板101上に形成する方法としては、半導体で既に実用化されている薄膜プロセスを活用することができる。例えば、マスクを通した蒸着・スパッタリング、あるいは蒸着・スパッタリングにより薄膜を形成した後、ドライあるいはウエットエッチングにより製造することができる。規則正しく配置することは、薄膜プロセスを用いることで容易に実現できる。パッド間の間隔は任意に設定できるが、検出手段として光計測を行う場合、光検出の回折限界を考えると500nm以上が好ましい。
【0027】
接着パッド102を平滑基板101上に形成した後、微粒子103と接着パッド102を結ぶ線状分子105を供給し、接着パッド102上に線状分子105を固定する。この際、平滑基板101上での非特異的吸着を防止する目的で、線状分子105を供給する前に、平滑基板101との接着力の強い材料を平滑基板101上に反応させる方法が有効である。例えば、シランカップリング剤等が利用できる。
【0028】
次に、予めプローブ分子104を表面に固定させた微粒子103を基板上に供給して、微粒子103を接着パッド102上に固定させることにより、核酸分析用デバイスを作製する。
【0029】
接着パッド102上に微粒子103を固定させる際、一つの接着パッド102に複数個の微粒子103が固定される可能性がある。複数個が固定されてしまうと、種類の違う核酸断片の情報が重なり合ってしまい、正確な核酸分析ができなくなってしまう。そのため、一つの接着パッド102には、1個の微粒子103を固定させねばならない。そこで、発明者らは、種々の条件での固定実験を繰り返し、鋭意検討した結果、接着パッド102の直径dが微粒子103の直径Dに比べて小さい、という条件が成り立てば、一つの接着パッド102に1個の微粒子103を固定できることを見出した。接着パッド102に比べて同等以上の大きさの微粒子103が固定されると、未反応の線状分子が固定された微粒子に覆い隠されてしまい、別の微粒子と反応できなくなってしまうものと説明される。1個の微粒子103にプローブ分子104を一分子固定するには、微粒子103の直径Dが20nm以下であることが好ましいことから、接着パッド102の直径dは20nm以下であることが好ましい。
【0030】
本実施例の核酸分析デバイスから核酸試料に関する情報を検出するやり方にはいくつかの方式が考えられるが、感度や簡便性の観点から蛍光検出法を用いる方式が好ましい。まず、核酸分析デバイスに対して核酸試料を供給し、プローブ分子104に核酸試料を捕捉させる。次に、蛍光色素を有するヌクレオチドを供給し、プローブ分子104がDNAプローブである場合には、核酸合成酵素を供給する。デバイス上で核酸伸長反応を起こし、伸長反応中に核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光測定を行う。この場合、ヌクレオチドの一種類を供給,未反応ヌクレオチドの洗浄,蛍光観察,違う種類のヌクレオチドの供給、以降を繰り返し行う、いわゆる逐次伸長反応方式は容易に実現できる。蛍光観察後に蛍光色素を消光するか、蛍光色素がリン酸部位に付いたヌクレオチドを用いることにより、連続的な反応を起こし、核酸試料の塩基配列情報を得ることができる。一方、4種類のヌクレオチドが各々異なる蛍光色素を有するものを供給し、洗浄することなく、連続的な核酸伸長反応を起こし、連続的に蛍光観察を行うことで、いわゆるリアルタイム反応方式を実現することもできる。この場合、蛍光色素がリン酸部位に付いたヌクレオチドを用いると、伸長反応後リン酸部位が切断されるため、消光することなく連続的に蛍光測定して核酸試料の塩基配列情報を得ることができる。
【0031】
微粒子として、可視域で局在プラズモンを励起することが可能な、金、銀、白金、アルミニウム等の直径が100nm程度以下の微粒子を用いることにより、蛍光を増強して観察することができる。金微粒子の表面プラズモンによる蛍光増強の現象については、例えば、Nanotechnology, 2007, vol. 18, pp 044017-044021.(非特許文献4)に報告されている。ヌクレオチドに付いた蛍光色素の蛍光を増強させて測定することができ、信号/ノイズを高くすることができる。特に、プローブ分子104として核酸合成酵素を用いた場合には、局在プラズモンが作る増強場内に常に蛍光色素を入れることができ、安定した蛍光増強が得られ好ましい。
【0032】
微粒子として、半導体微粒子を用いた場合には、半導体微粒子を外部光源の光で励起しておき、取り込まれたヌクレオチドに付随する蛍光色素にその励起エネルギーを移動させることにより、個々の蛍光色素の蛍光を観察することもできる。この場合、励起光源は半導体微粒子のみを励起すればよく、一種類の光源でよい点で好ましい。
【実施例2】
【0033】
核酸分析デバイスの製造方法の一例を、図2を用いて説明する。平滑な支持基体201
上に電子線用ポジ型レジスト202をスピンコート法により塗工する。平滑な支持基体としては、ガラス基板,サファイア基板,シリコンウエハ等が用いられる。デバイスとしたときに、微粒子を配列した面と反対側の裏面より励起光を照射する必要がある場合には、光透過性に優れた石英基板やサファイア基板を用いればよい。電子線用ポジ型レジストとしては、例えば、ポリメチルメタクリレートやZEP−520A(日本ゼオン社製)を挙げることができる。基板上のマーカーの位置を用いて位置合わせを行ったうえ電子線直描露光を行って、レジストにスルーホールを形成する。例えば、直径15nmのスルーホールを形成する。スルーホールは並行処理で解析できる核酸の分子数に依存するが、1μm程度のピッチで形成することが、製造上の簡便さ,歩留まりの高さ、及び並行処理で解析できる核酸の分子数を勘案すると適している。スルーホール形成領域も、並行処理で解析できる核酸の分子数によるが、検出装置側の位置精度や位置分解能にも大きく依存する。例えば、1μmピッチで反応サイト(微粒子)を構成した場合、スルーホール形成領域を1mm×1mmとすると、100万反応サイトを形成できる。スルーホールを形成後、接着用パッド203を構成する材料、例えば、金,チタン,ニッケル,アルミ、をスパッタリングで製膜する。平滑な支持基体としてガラス基板,サファイア基板を用い、接着用パッド材料として金,アルミ,ニッケルを用いる場合には、基板材料と接着用パッド材料との間に接着を補強する意味でチタンやクロムの薄膜を入れることが好ましい。次に、接着用パッド203に線状分子204を反応させる。接着用パッド203が金,チタン,アルミ,ニッケルの場合には、線状分子末端の官能基205としては、各々、スルホヒドニル基,リン酸基,リン酸基,チアゾール基を用いることが好ましい。線状分子の反対側の官能基206には、例えばビオチンを用いることができる。線状分子を接着用パッドと反応させた後、レジストを剥離する。レジストを剥離後、接着用パッドを形成した以外の平滑基板表面に非特異吸着防止処理を施す。蛍光色素付きヌクレオチドに対する吸着防止を実現するには負の電荷を帯びた官能基を有する非特異吸着防止用分子207でコートする。例えば、エポキシシランを表面にスピンコートで塗工し、加熱処理後、弱酸性溶液(pH5〜pH6程度)で処理することにより、エポキシ基を開環させOH基を表面に導入することで非特異吸着防止効果をもたらすことができる。
【0034】
微粒子208表面には、予めアビジン209を修飾しておくことが好ましい。金または白金微粒子を用いる場合には、アミノチオールを反応させた後、ビオチン−スクシンイミド(Pierce社製NHS−Biotin)を反応させ、最後にストレプトアビジンを反応させることにより、アビジン修飾することが容易にできる。金または白金以外の金属微粒子を用いる場合には、酸素雰囲気中で加熱処理することにより表面を酸化処理した後、アミノシランを反応させ、次にビオチン−スクシンイミド(Pierce社製NHS−Biotin)を反応させ、最後にストレプトアビジンを反応させる。これにより、金属微粒子表面をアビジン修飾することが容易にできる。微粒子として、半導体微粒子を用いる場合には、市販の微粒子を用いることが出来る。例えば、直径が15〜20nmである製品名「Qdot(R)ストレプトアビジン標識」(インビトロジェン社製)を利用することができる。核酸捕捉プローブ210としてオリゴヌクレオチドを用いる場合には、末端をビオチン修飾して合成しておくことにより、容易に微粒子上に固定できる。核酸捕捉プローブ210として核酸合成酵素を用いる場合には、予め、RTS AviTag E. coliビオチン化キット(ロッシュアプライドサイエンス社製)を用いて発現系を組み、核酸合成酵素を作ることにより、容易に、核酸合成酵素を微粒子上に固定できる。
【0035】
核酸捕捉プローブを固定した微粒子を接着用パッドと反応させることにより、本実施例の核酸分析デバイスを製造することができる。
【実施例3】
【0036】
本実施例では、核酸分析デバイスを用いた核酸分析装置の好ましい構成の一例について図3を参照しながら説明する。
【0037】
本実施例の核酸分析装置は、核酸分析デバイスに対して、蛍光色素を有するヌクレオチド,核酸合成酵素、及び核酸試料を供給する手段と、核酸分析デバイスに光を照射する手段と、核酸分析デバイス上においてヌクレオチド,核酸合成酵素、及び核酸試料が共存することにより起きる核酸伸長反応により核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光を測定する発光検出手段と、を備える。より具体的には、カバープレート301と検出窓302と溶液交換用口である注入口303と排出口304から構成される反応チャンバに前記のデバイス305を設置する。なお、カバープレート301と検出窓302の材質として、PDMS(Polydimethylsiloxane)を使用する。また、検出窓302の厚さは0.17mmとする。YAGレーザ光源(波長532nm,出力20mW)307およびYAGレーザ光源(波長355nm,出力20mW)308から発振するレーザ光309および310を、レーザ光309のみをλ/4板311によって円偏光し、ダイクロイックミラー312(410nm以下を反射)によって、前記2つのレーザ光を同軸になるよう調整した後、レンズ313によって集光し、その後、プリズム314を介してデバイス305へ臨界角以上で照射する。
【0038】
以下、微粒子として直径50nm程度の金微粒子を用いた場合を例にとり、説明する。この場合、レーザ照射により、デバイス305表面上に存在する金微粒子において局在型表面プラズモンが発生し、金微粒子に結合したDNAプローブにより捕捉された標的物質の蛍光体は蛍光増強場内に存在することになる。蛍光体はレーザ光で励起され、その増強された蛍光の一部は検出窓302を介して出射される。また、検出窓302より出射される蛍光は、対物レンズ315(×60,NA1.35,作動距離0.15mm)により平行光束とされ、光学フィルタ316により背景光及び励起光が遮断され、結像レンズ317により2次元CCDカメラ318上に結像される。
【0039】
逐次反応方式の場合には、蛍光色素付きヌクレオチドとして、P.N.A.S. 2006, vol. 103, pp 19635-19640(非特許文献5)に開示されているような、リボースの3′OHの位置に3′−O−アリル基を保護基として入れ、また、ピリミジンの5位の位置にあるいはプリンの7位の位置にアリル基を介して蛍光色素と結びつけたものが使用できる。アリル基は光照射あるいはパラジウムと接触することで切断されるため、色素の消光と伸長反応の制御を同時に達成することができる。逐次反応でも、未反応のヌクレオチドを洗浄で除去する必要はない。さらに、洗浄工程が必要ないことからリアルタイムで伸長反応を計測することも可能である。この場合には、前記ヌクレオチドにおいて、リボースの3′OHの位置に3′−O−アリル基を保護基として入れる必要は無く、光照射で切断可能な官能基を介して色素と結びついているヌクレオチドを用いれば良い。
【0040】
微粒子として、半導体微粒子を用いた場合にも、上述の核酸分析装置の例は適用可能である。例えば、半導体微粒子としてQdot(R)565 conjugate(インビトロジェン社製)を用いると、YAGレーザ光源(波長532nm,出力20mW)307で十分に励起できる。この励起エネルギーは532nmの光では励起されないアレクサ633(インビトロジェン社製)へ移動することにより蛍光を発するようになる。つまり、未反応のヌクレオチドに付随する色素は励起されることはなく、DNAプローブに捕捉され半導体微粒子に近接しエネルギー移動が起きてはじめて発光するので、捕捉されたヌクレオチドを蛍光測定で識別することが可能である。
【0041】
上記のように、本実施例の核酸分析デバイスを用いて核酸分析装置を組上げることにより、洗浄工程を入れることなく、解析時間の短縮化,デバイス及び分析装置の簡便化が図れ、逐次反応方式のみならず、リアルタイムで塩基の伸長反応を計測することも可能となり、従来技術に対して大幅なスループットの改善が図れる。
【符号の説明】
【0042】
101 平滑基板
102 接着パッド
103,208 微粒子
104 プローブ分子
105,204 線状分子
106,107,205,206 線状分子末端の官能基
201 平滑な支持基体
202 電子線用ポジ型レジスト
203 接着用パッド
207 非特異吸着防止用分子
209 アビジン
210 核酸捕捉プローブ
301 カバープレート
302 検出窓
303 注入口
304 排出口
305 デバイス
306 流路
307,308 YAGレーザ光源
309,310 レーザ光
311 λ/4板
312 ダイクロイックミラー
313 レンズ
314 プリズム
315 対物レンズ
316 光学フィルタ
317 結像レンズ
318 2次元CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の核酸を捕捉できるプローブ分子を有する微粒子を基板上に規則的に固定した核酸分析用デバイスであって、
前記基板上の前記微粒子の固定位置に接着用パッドを備え、前記微粒子と前記接着用パッドとが化学結合を介して結合しており、前記接着用パッドの直径が前記微粒子の直径以下の大きさであるデバイス。
【請求項2】
請求項1記載の核酸分析用デバイスにおいて、
前記微粒子1個に対して、前記プローブ分子が一分子固定されていることを特徴とするデバイス。
【請求項3】
請求項1記載の核酸分析用デバイスにおいて、
前記プローブ分子が、核酸、又は核酸合成酵素であることを特徴とするデバイス。
【請求項4】
請求項1記載の核酸分析用デバイスにおいて、
前記微粒子が、半導体、又は金属から選ばれる材料からなることを特徴とするデバイス。
【請求項5】
請求項1記載の核酸分析用デバイスにおいて、
前記接着用パッドが、金,チタン,ニッケル、又はアルミから選ばれる材料からなることを特徴とするデバイス。
【請求項6】
検出対象の核酸を捕捉できるプローブ分子を有する微粒子を基板上に規則的に固定した核酸分析用デバイスと、
前記核酸分析デバイスに対して、蛍光色素を有するヌクレオチド、及び核酸試料を供給する手段と、
前記核酸分析デバイスに光を照射する手段と、
前記核酸分析デバイス上において前記ヌクレオチド,前記核酸合成酵素、及び前記核酸試料が共存することにより起きる核酸伸長反応により核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光を測定する発光検出手段と、を備え、
前記核酸試料の塩基配列情報を取得する核酸分析装置であって、
前記基板上の前記微粒子の固定位置に接着用パッドを備え、前記微粒子と前記接着用パッドとが化学結合を介して結合しており、前記接着用パッドの直径が前記微粒子の直径以下の大きさである装置。
【請求項7】
請求項6記載の核酸分析装置において、
前記微粒子1個に対して、前記プローブ分子が一分子固定されていることを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項6記載の核酸分析装置において、
前記プローブ分子が、核酸、又は核酸合成酵素であることを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項6記載の核酸分析装置において、
前記微粒子が、半導体、又は金属から選ばれる材料からなることを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項6記載の核酸分析装置において、
前記接着用パッドが、金,チタン,ニッケル、又はアルミから選ばれる材料からなることを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−172271(P2010−172271A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18936(P2009−18936)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】