説明

核酸抽出方法、がん細胞検出方法および磁気ビーズ

【課題】迅速に検体から核酸を抽出する方法を提供する。また、目的とする細胞を迅速に回収する磁気ビーズを提供する。
【解決手段】核酸抽出方法であって、細胞を含む検体に磁気ビーズを加え、前記磁気ビーズに前記細胞を捕捉させ、磁力を用いて前記磁気ビーズに捕捉された前記細胞を前記検体から分離するとともに、前記磁気ビーズにより前記細胞の核酸を抽出することを特徴とする。また、細胞回収用の磁気ビーズであって、磁性金属を主成分とする金属粒子核が、互いに異なる2種以上の無機材料で多層に被覆されている磁気ビーズであり、前記磁気ビーズ表面に所望の細胞と親和性をもつプローブを持つことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く植物、動物から採取された細胞を含む検体から細胞を回収すると共に、核酸を抽出する方法および細胞を捕捉する磁気ビーズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療診断分野では、例えば、病原体の検出や、疾病の早期発見などの目的で核酸を抽出し、解析する方法が用いられている。しかしながら、血液、生体組織、糞便、尿などから核酸を抽出する場合は、夾雑物の混入による擬陽性の結果を生じることを防ぐため、細胞や核酸の精製が必要である。そこで例えば、細胞を含む検体から、遺伝子検査の対象となる一種または、数種の細胞を特異的に回収することが行なわれる。このように回収した細胞から核酸を抽出し、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等で核酸を増幅し遺伝子変異を検出するなどして、遺伝子診断が行われている。
【0003】
血液や糞便などの細胞を含む検体からの細胞回収方法の一つに、検査対象の細胞と特異的に結合する磁気ビーズなどの固体担体に細胞を捕捉して、不純物を除き回収する方法(例えば、特許文献1)がある。また、細胞回収に用いる磁気ビーズとしては、Ber−EP4抗体を結合された磁気ビーズ(Dynabeads Epithelial Enrich、ダイナル社製)や非特異吸着を抑制した磁気ビーズ(例えば、特許文献2)がある。
【0004】
一方、核酸抽出の方法の一つに、ケイ素酸化物などの固体担体に核酸を吸着させ、洗浄、脱離することにより回収する方法がある(例えば、特許文献3)。この場合、核酸を分離する方法としては、遠心分離法、磁気ビーズを用いる方法、フィルタを用いる方法などがある。
【0005】
また、磁気ビーズを用い抗体などタンパク質を回収することにより、アレルギーなどの疾病を診断する方法がある。
【0006】
【特許文献1】特開2005−46065公報
【特許文献2】特開2005−83904公報
【特許文献3】特開2004−73193公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来は細胞を含む検体からの細胞回収と、回収した細胞からの核酸抽出とを別々の固体担体で行う為、工程が煩雑であり、核酸を迅速に効率よく抽出することができないという問題があった。
【0008】
また、従来の磁気ビーズは粒径が1〜10nmのフェライトなどの超常磁性体をポリマーやシリカに内包もしくは、被覆することにより作製されている。そのため外部磁場によって磁性粒子に働く外力は小さく、細胞のように磁気ビーズと同等もしくはそれ以上の大きさの対象を吸着し回収することが困難であった。また、粒径が小さいため、糞便など多くの不純物を含むような溶液から回収する場合に多大な時間がかかってしまう。
【0009】
そこで、本発明では、これらの問題に鑑み、工程を簡略化し迅速に検体から核酸を抽出する方法を提供することを目的とした。また、所望の細胞を迅速に回収する磁気ビーズを提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者等は、上記課題を解決すべく、迅速に検体から核酸を抽出する方法および所望の細胞を迅速に回収する磁気ビーズを鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
本発明の核酸抽出方法は、細胞を含む検体に磁気ビーズを加え、前記磁気ビーズに前記細胞を捕捉させ、磁力を用いて前記磁気ビーズに捕捉された前記細胞を前記検体から分離するとともに、前記磁気ビーズにより前記細胞の核酸を抽出することを主な特徴とする。また、本発明の磁気ビーズは、磁性金属を主成分とする金属粒子核が、互いに異なる2種以上の無機材料で多層に被覆されている磁気ビーズであり、前記磁気ビーズ表面に所望の細胞と親和性をもつプローブを持つことを主な特徴とする。以下、本発明について具体的に説明する。
【0011】
本発明の核酸抽出方法は、細胞を含む検体に磁気ビーズを加え、前記磁気ビーズに前記細胞を捕捉させ、磁力を用いて前記磁気ビーズに捕捉された前記細胞を前記検体から分離するとともに、前記磁気ビーズにより前記細胞の核酸を抽出することを特徴とする。同じ磁気ビーズにより細胞回収と核酸抽出を行なうため、煩雑な工程がなく細胞回収と核酸抽出を連続して行うことができるので迅速に核酸抽出を行なうことができる。
【0012】
また、上記核酸抽出方法において、前記磁気ビーズには、前記細胞と親和性をもつプローブが固定化されていることが好ましい。細胞と親和性をもつプローブを固定化することにより所望の細胞を回収することができる。
【0013】
さらに、上記核酸抽出方法において、前記プローブは、前記細胞の表面抗原に対する抗体であることが好ましい。特異性の高い抗原抗体反応により特異的に所望の細胞を捕捉できる。
【0014】
さらに、上記核酸抽出方法において、前記磁気ビーズは、ケイ素酸化物で被覆されていることが好ましい。ケイ素酸化物で被覆されることにより、核酸抽出担体としての良好な特性をもつことができる。
【0015】
さらに、上記核酸抽出方法において、前記磁気ビーズは、磁性金属を主成分とする金属粒子核が、互いに異なる2種以上の無機材料で多重に被覆されている金属微粒子であることが好ましい。磁性金属を主成分とするので、飽和磁化が高く迅速に磁気ビーズを回収することができる。
【0016】
さらに、上記核酸抽出方法において、前記細胞を前記検体から分離した後、磁気ビーズを追加して前記細胞の核酸を抽出することが好ましい。磁気ビーズを追加することにより、より多くの核酸を抽出することができる。
【0017】
さらに、上記核酸抽出方法において、前記検体が生体組織または糞便であることが好ましい。前記核酸抽出方法は、磁気ビーズに捕捉された細胞を検体から分離する工程を有することから、夾雑物が多く、また粘性が高い検体から核酸を効率よく抽出できる。したがって、検体が、夾雑物が多く、また粘性が高い生体組織、糞便である場合に好適に用いることができる。
【0018】
本発明のがん細胞検出方法は、上記核酸抽出方法のいずれかの核酸抽出方法を用いることを特徴とする。前記核酸抽出方法は、細胞回収効率、ひいては核酸抽出効率に優れることから、検体中の含有濃度に低い、がん細胞の検出に好適に用いることができる。
【0019】
本発明の磁気ビーズは、磁性金属を主成分とする金属粒子核が、互いに異なる2種以上の無機材料で多層に被覆されている磁気ビーズであり、前記磁気ビーズ表面に所望の細胞と親和性をもつプローブを有する細胞回収用であることを特徴とする。所望の細胞と親和性をもつプローブを持つことにより特異的に前記所望の細胞を補足でき、かつ、磁性金属を主成分とする金属核をもつことにより高い飽和磁化を有し、迅速に回収できる。
【0020】
また、上記磁気ビーズにおいて、金属粒子核に接して一部または全体を被覆する無機材料の外側の無機材料は、ケイ素酸化物を主体とする被覆層であることが好ましい。ケイ素酸化物で被覆されていることにより核酸抽出特性を有することができる。
【0021】
さらに、上記磁気ビーズにおいて、所望の細胞の表面抗原に対する抗体が固定化されていることが好ましい。特異性の高い抗原抗体反応により特異的に所望の細胞を捕捉できる。
【0022】
さらに、飽和磁化の値が60Am/kg以上であることが好ましい。飽和磁化が60Am/kg以上の大きな値を持つ磁気ビーズは、磁気分離における分離速度が速く、細胞回収効率に優れる。飽和磁化は室温(25℃)の飽和磁化の値である。
【0023】
さらに、上記磁気ビーズは、平均粒径が4μm以下であることが好ましい。粒径が小さいため、比表面積が大きく少量の磁気ビーズで細胞を捕捉することができる。また、粒径が4μm以下では、特に細胞を生きたまま捕捉する確率を格段に向上することができる。なお、平均粒径は、レーザ回折型粒径分布測定器によるメジアン径d50値である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、工程を簡略化し迅速に不純物を含む検体から核酸を抽出する方法および目的とする細胞を迅速に回収する磁気ビーズを提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の核酸抽出方法は、細胞を回収する工程と、その回収した細胞から核酸を抽出する工程を有する。細胞を吸着する固体担体は磁気ビーズであり、細胞を含む検体に磁気ビーズを加え、細胞を磁気ビーズに捕捉させ、磁力を用い、磁気ビーズと捕捉された細胞を検体から分離して、保持する。これにより、目的とする細胞以外の、検体に含まれる不純物を除去する。そして、さらに前記磁気ビーズにより細胞の核酸を抽出する。また、本発明の方法は煩雑な工程がなく、自動化にするのに好適である。
【0026】
[細胞回収]
細胞を含む検体に磁気ビーズを加え、ボルテックスなどを用いて攪拌し、磁気ビーズを分散させ細胞を補足させる。磁力、すなわち磁気勾配を利用し、磁気ビーズを回収し、保持する。磁力を発生する手段は特に限定するものではないが、例えば磁石を容器側面もしくは底面に設置し、磁気ビーズを容器壁面に回収し、保持する。磁石に保持されていない不純物を除去し、細胞を回収する。なお、磁力で磁気ビーズを回収する際、検体の粘度が高い場合など回収に時間を要する場合は、攪拌し磁気ビーズの泳動を補助してもよい。
【0027】
細胞を含む検体とは、動物・植物種類を限定するものでなく、広く植物、動物から採取された細胞を含む検体である。例えば、血液、生体組織、尿、糞便、骨髄、臍帯血、唾液、口腔スワブ、培養細胞などである。これらの検体の種類によっては、採取された細胞を含む検体に、水溶液を加えてもよい。特に生体組織や、糞便のように粘度が高い、もしくは、細胞が溶液中に分散されていない検体の場合は磁気ビーズが分散しにくく、水溶液を加え粘度を低くすることが好ましい。水溶液は、検体中に含まれる細胞を劣化させないために水系溶媒であることが好ましい。より好ましくは細胞の劣化がより少ない緩衝溶液が望ましい。
【0028】
本発明は特に糞便や生体組織からの核酸抽出に適している。糞便や生体組織は細胞以外の不純物を多く含み、且つ所望の細胞以外の細胞を含む。検体から所望の細胞を回収し、洗浄する精製工程を含まない核酸抽出法では、所望の細胞由来の核酸を純度よく得られないが、本発明の核酸抽出方法を用いることにより、不純物や、所望の細胞以外の細胞由来の核酸を含まない純度のよい核酸を得ることができる。
【0029】
所望の細胞とは、動物・植物種類を限定するものでなく、広く植物、動物の細胞である。たとえば、遺伝子検査などの検査対象の細胞などである。なお、所望の細胞とは一種類の細胞と限定するものでなく、複数種類の細胞を指す場合もある。
【0030】
また、特に糞便のように不純物を多く含む検体の場合は、磁気ビーズを加える前に、細胞に比べ充分大きな不純物をフィルタなどでろ過し、除去することが好ましい。このことは、磁気ビーズを、細胞を含む検体中で分散させることに寄与するという点で好適である。
【0031】
細胞を磁気ビーズに捕捉させ、磁力を用いて磁気ビーズに捕捉された細胞を分離して保持し、検体に含まれる不純物を除去した後、細胞を洗浄する溶液(細胞洗浄液)を加え洗浄する工程を加えてもよい。洗浄することにより、より多くの不純物を除くことができ好ましい。細胞を劣化させないためには、細胞洗浄液は水系溶媒であることが好ましく、細胞の劣化がより少ない緩衝溶液がより好ましい。
【0032】
[核酸抽出]
上記のように磁気ビーズに捕捉された細胞に対してさらに核酸抽出を行なう。細胞回収工程によって回収した細胞を、タンパク分解酵素やカオトロピック物質を含む溶液などを用いる生化学・化学的な方法、または、凍結破壊、浸透圧、ずり応力、超音波などを利用する物理的な方法で溶解、破壊させ、得られた核酸を細胞回収に用いた前記磁気ビーズに吸着させる。すなわち、同じ磁気ビーズに細胞捕捉機能と核酸吸着機能を持たせる。なお、好ましい作業方法は、より多くの核酸を吸着させる為、磁気ビーズを新たに追加するものとする。磁石などを容器側面もしくは底面に設置し、磁力、すなわち磁気勾配を利用し、磁気ビーズを容器壁面に回収して保持する。なお、磁石に磁気ビーズを回収する際、攪拌して磁気ビーズの泳動を補助してもよい。磁石に保持されていない不純物を除去し、核酸を洗浄する溶液(核酸洗浄液)で洗浄する。核酸の洗浄において、エタノールや、イソプロピルアルコールなどアルコール類を添加することにより核酸回収量が増加するため、核酸洗浄液は、アルコール類を含む溶液であることが好ましい。その後、磁気ビーズから滅菌水などの核酸を脱離させる溶液を加え、核酸を脱離させ核酸を抽出する。図1に上記の細胞を含む検体からの核酸抽出方法の概略を示すフローチャートを示す。
【0033】
[磁気ビーズ]
本発明に係る磁気ビーズは、細胞の回収、核酸の抽出に使用できる。本発明の磁気ビーズの組成は特に限定するものでなく、細胞に親和性を持った磁気ビーズを用いることが出来る。検査目的の細胞を特異的に回収するには、所望の細胞の細胞表面抗原に対する抗体、細胞に親和性のあるアダプター、リガウンドなどプローブが表面に修飾されている磁気ビーズであることが好ましい。また、核酸を抽出する為に、磁気ビーズの最外殻は核酸と吸着するケイ素酸化物を主成分とする被膜層であることが好ましい。なお、本発明の磁気ビーズは細胞回収だけに用いることができるのも言うまでもない。
【0034】
細胞は一般的に数μm〜数百μm程度と一般的な磁気ビーズに比べ大きく、磁気ビーズは高い飽和磁化が必要であり、磁気ビーズは高い飽和磁化が得られる磁性金属を主成分とする金属粒子核を有することが好ましい。また、前記金属粒子核を無機材料で被覆することにより、水溶液中においても化学的に安定になり好ましい。更に、互いに異なる2種以上の無機材料で被覆することによりカオトロピック物質を含む溶液や、生体物質のように高塩濃度の溶液でも安定であり、より好ましい。以下、本発明に係る磁気ビーズについてさらに詳述する。
【0035】
[磁気ビーズ表面]
細胞回収用の磁気ビーズ表面は、所望の細胞を特異的に補足する担体の特性を持たせるために、所望の細胞と親和性を有するプローブ、例えば、アダプター、リガウンド、抗体などが固定化されていることが好ましい。また、抗原抗体反応により特異的に所望の細胞を捕捉するために、所望の細胞の細胞表面抗原に対する特異的抗体が固定化されていることがより好ましい。例えば、ヒト上皮細胞及び上皮がん細胞に発現している抗原に対する特異的抗体Ber−EP4を結合することによりヒト上皮細胞および上皮がん細胞を回収するのに好適に用いることができる。また、前記Ber−EP4抗体が固定された磁気ビーズを用いて糞便中の上皮細胞および上皮がん細胞を特異的に捕捉して回収することにより、糞便中の潜血に含まれる白血球由来の核酸などを含まない純度のよい上皮細胞および上皮がん細胞由来の核酸を抽出することができる。このように得られた核酸を用いることにより感度よくがん細胞の検出をすることができる。すなわち、本発明の方法はがん細胞検出に用いることができる。
【0036】
本発明の細胞回収磁気ビーズにおいて、抗体を結合する方法としては、物理吸着または、化学結合法を用いることが出来る。安定に使用する為には、磁気ビーズ表面を修飾しアミノ基、チオール基、カルボシル基などの官能基を固定し、これらの官能基と抗体を化学的に結合させることが好ましい。磁気ビーズ表面に固定された官能基と抗体を反応させることにより抗体を固定することが出来る。また、磁気ビーズ表面に固定された官能基と、官能基と結合するように誘導体を導入したストレプトアビジンを結合させ、このストレプトアビジンが表面に固定化されている磁気ビーズと、ビオチン化された抗体とを結合させることも出来る。ストレプトアビジンを経由し、抗体を固定化する方法は、種々のビオチン化されている抗体が市販されており、様々な細胞の表面抗原に対する特異的抗体を簡便に固定でき好ましい。係るビーズは細胞回収用途以外にも例えば、抗体として2次抗体を固定することにより所望の抗体を回収するなど、タンパク質を回収することにも用いることが出来る。
【0037】
[金属核]
金属核はFe、Co、Niの少なくとも1種以上の遷移金属磁性元素から成ることが望ましい。Fe、Co、Niいずれかの単体またはその合金、例えばFe−Co系、Fe−Ni系、さらには他の遷移金属元素であるCr、Ti、Nb、Si、Zrなどの遷移金属元素との2元、3元または4元系等の各種合金で構成されていても良い。
【0038】
金属粒子核の粒子径は特に限定されるものではないが、良好な軟磁気特性を実現するために、その粒子径は平均粒径10μm以下とする。下限は特に規定されるものではないが、Fe、Co、Niそれぞれの単体金属粒子が超常磁性となる臨界粒子径以上である10nm以上とする。
【0039】
[磁気ビーズ]
被覆も含めた磁気ビーズの粒子径は細胞を吸着するのに充分な比表面積を得るには、4μm以下であることが好ましい。また、粒径が4μm以下では、特に細胞を生きたまま回収する確率が格段に向上する。さらに、細胞を回収後、回収した細胞数を数えるなど観察を行う場合、磁気ビーズの粒子径が大きいと細胞と磁気ビーズを区別することが困難であり、この観点からも磁気ビーズの粒子径が小さいことは好ましい。より好ましくは一般的な細胞の大きさより小さい平均粒子径3μm以下である。本発明に係る磁気ビーズの核は、磁性金属を主成分とする金属であることから飽和磁化が高いため、磁気分離能を維持しつつ、平均粒径を小さくすることができる。
【0040】
平均粒径は、例えば、金属微粒子の試料粉末を溶媒中に分散させて、レーザ光線を照射させ回折を利用して粒径分布を測定する方法により求めることができる。本発明においては、平均粒径には、堀場製作所社製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用い該測定方法におけるメジアン径d50値を用いた。あるいは、粒径が100nm以下と小さい場合は、試料を透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡で観察して平均粒径を測定する。試料の電子顕微鏡写真を撮影し、写真内で任意の面積内に観察された金属粒子の粒径を測定し、その平均値を粒径として求める。後述の方法では、測定粒子の数が少なくとも50個以上になるようにして、平均値を得ることが望ましい。測定面積内の粒子数が少ない場合には、電子顕微鏡の倍率を変えるか若しくは視野を移動することにより、他の粒子も測定して合計の測定粒子数を50個以上にする。さらに、個々の微粒子の粒径(直径)とは、例えば被覆層を有する微粒子の外径に相当するが、断面が円形でない場合には最大長さと最小長さの平均値をその微粒子の粒径と見なす。
【0041】
被覆も含めた磁気ビーズの飽和磁化は、60Am/kg以上であることが好ましい。飽和磁化を60Am/kg以上とすることで磁気分離が迅速に行われるため、細胞回収効率に優れる。特に、飽和磁化の値をマグタイト単体の飽和磁化を超える95Am/kg以上とすることがより好ましい。従来の酸化鉄を用いた磁気ビーズでは実現できない細胞回収効率が実現可能である。
【0042】
[金属粒子核に接する無機材料被覆]
金属粒子の被覆層は2種以上の無機材料にて多層に被覆されていることが好ましい。金属粒子核に接する無機材料(もしくは無機質材料)は一部分または全体を被覆し、Al、B、Ce、Co、Cr、Ga、Hf、In、Mn、Nb、Ti、V、Zr、Sc、Si、Y、Taから選ばれた一種以上の金属元素(M元素)の酸化物、炭化物、ほう化物、もしくは窒化物、炭素または窒化ほう素を主体として構成されることが好ましい。チタン酸化物は耐食性に優れ、化学的に安定であり好ましい。これら無機材料は金属核全体を一様に覆うことが好ましいが、金属核が大気中に暴露された場合の酸化を防ぐ目的を達成するのであれば、一部分が被覆された状態であっても良い。
【0043】
金属核が無機材料によって被覆された金属核微粒子は、磁性金属の金属酸化物の粉末とM元素の酸化物、炭化物、ほう化物、窒化物もしくは、M元素単体の粉末を混合した粉末に、窒素ガスまたは窒素ガスと不活性ガスとの混合ガスなどの雰囲気の熱処理を施すことにより製造できる。この方法は、金属酸化物の還元による金属核の生成と被覆の形成を一つの熱処理工程で実現できる。すなわち、微細な金属粒子を出発原料としないため、酸化劣化を防止し、高い磁気特性を有する金属微粒子の製造に好適である。このようにして得られた被覆を有する金属微粒子にさらに核酸抽出等に好適な無機材料被覆を設けて2層以上の被覆構成とすることによって、耐酸化性、耐食性、磁気特性に特に優れた磁気ビーズを実現することができる。
【0044】
[金属核に接する無機材料被覆の外側の無機材料被覆]
細胞を回収し、且つ核酸抽出に用いる場合は、金属核を被覆する最外殻は、核酸抽出担体としての特性を持たせるためにケイ素酸化物を主体とする被覆層であることが好ましい。なお、最外殻の被膜層は、金属アルコキシドの加水分解法およびアルコキシド誘導物質を作製することにより形成できる。例えばケイ素アルコキシドの加水分解反応で得られる。ケイ素アルコキシドの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。ケイ素酸化物は、例えば従来からのテトラエトキシシランの加水分解反応で得られ、シリカを析出させるテトラエトキシシランの加水分解反応を制御することで、再現性をもって製造することができる。
【0045】
核酸の抽出量及び純度は得られた核酸を含む溶液を滅菌水で2倍に希釈した溶液の吸光度を測定し定量した(OD法)。核酸の抽出量は260nmの吸光度より溶液の濃度を求め、抽出量を定量した。また、純度は260nmと280nmの吸光度の比率(A260/A280)より判断し、1.7以上であれば純度が良いとする。
【0046】
細胞数は、血球計算板を用い下記手順により求めた(視算法)。細胞計算板にはカバーガラスとの間の容量が1区画0.1μLとなるような格子状の目盛りが刻まれている。前記血球計算板にカバーガラスを載せ、血球計算板とカバーガラスの隙間に、回収した細胞を200μLのリン酸バッファ(PBS)に分散させた細胞懸濁液を入れた。血球計算板を位相差顕微鏡に載せ、8区画の細胞数を数え、1区画辺りの細胞数の平均値を求め2000倍することにより細胞懸濁液全体の細胞数を求めた。なお、所望の細胞の表面抗原に対する抗体が磁気ビーズに固定化されていることは、視算法により、所望の細胞を含む細胞懸濁液から、前記所望の細胞の30%以上が回収されることで確認することができる。
【0047】
以下、本発明に係る実施例を詳細に説明する。ただし、これら実施例によって必ずしも本発明が限定されるわけではない。
【実施例】
【0048】
本発明に用いられる無機材料被覆金属微粒子の例およびその比較例を以下に示す。
(実施例1)
平均粒径30nmの酸化鉄粉末と平均粒径2μmのチタンとを等量混合し、窒素ガス雰囲気において1000℃で2時間熱処理を施し、この生成物の非磁性不要成分を磁気分離し、除去することで、粒子表面がチタン酸合物で被覆された平均粒径が2.7μmの鉄微粒子を得た。得られた微粒子5gをエタノール溶媒100ml中に分散し、これにテトラエトキシシランを添加した。この溶媒を攪拌しながら純水とアンモニア水と塩化カリウムの混合溶液を添加した。純水とアンモニア水と塩化カリウムはそれぞれ22gと4gと0.03g使用した。その後、ボールミルにおいて攪拌した。この生成物の非磁性不要成分を磁気分離し、除去することで、粒子表面がケイ素酸化物で被覆された平均粒径が3μmの鉄微粒子を得た。また、前記鉄微粒子の室温での磁気特性をVSM(試料振動型磁力計)により測定したところ、飽和磁化は105Am/kgであった。印加磁界は1.6MA/mとした。このようにして得られた、鉄を主成分とする金属粒子核がチタン酸化物およびケイ素酸化物の2種の無機材料で被覆された磁気ビーズを用いて、以下の細胞回収、核酸抽出を行なった。
【0049】
前記磁気ビーズと1vol%3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)水溶液とを混和し、1時間攪拌した。大気中において120℃で1時間加熱処理を施し、アミノ基が導入された磁気ビーズ(アミノ基コート磁気ビーズ)を得た。Bang Laboratories社製のBioMag Plus Amine Particle Protein Coupling Kitを用い、下記の手順で前記アミノ基コート磁気ビーズに抗体を固定化した。まず、アミノ基コート磁気ビーズ5mgとキット付属ピリジンウォッシュバッファー(PWB)により5%に調整したグルタルアルデヒド400μLを混和させ、3時間室温で攪拌した。その後、非磁性成分を磁気分離により除去し、PWBで4回洗浄した。このようにして得た磁気ビーズをPWBに懸濁させた懸濁液と、ストレプトアビジン(和光純薬社製)を混和させ、4℃で16時間攪拌した。ここに、キット付属クエンチング溶液を400μL加え30分室温で攪拌し、非磁性成分を磁気分離により除去し、PWBで4回洗浄し、ストレプトアビジンコート磁気ビーズを作製した。
【0050】
次に、ビオチン化された抗ヒトCD44抗体(Ancell社製Monoclonal anti―human CD44/Biotin)1.6μLと上記ストレプトアビジンコート磁気ビーズ4mgをリン酸バッファー(PBS)160μLに懸濁させた懸濁溶液を混和し、室温で30分攪拌し、非磁性成分を磁気分離により除去し、抗ヒトCD44抗体固定化磁気ビーズを得た。
【0051】
2mLマイクロチューブに、検体として1mLのPBSに培養したヒト子宮頸部がん細胞HeLa細胞を100万細胞懸濁させた細胞懸濁液を入れ、4mgの上記抗ヒトCD44抗体固定化磁気ビーズを加え30分室温で攪拌した。マイクロチューブを磁気スタンドに立て20秒間放置し、磁石と接する壁面に磁気ビーズを回収・保持させ、非磁性成分(磁気ビーズと結合していない成分)を除去した。更に、マイクロチューブを磁気スタンドより外し、500μLのPBSを加え攪拌し、マイクロチューブを磁気スタンドに立て20秒間放置し、磁石と接する壁面に磁気ビーズを回収して保持させ、非磁性成分を除去、洗浄した。この洗浄工程を計4回行ない細胞回収を行なった。
【0052】
ロッシュ社製核酸抽出キット(MagNA Pure LC Isolation KitI)付属試薬を用い、下記手順で核酸抽出を行なった。上記のように回収した磁気ビーズが吸着した細胞に、キット付属溶解結合バッファー300μLを加えボルテックスで10秒攪拌した。プロテアーゼ溶液を100μL加えボルテックスで攪拌し、3.3分間60℃で攪拌し、サンプルを室温に冷却した。イソプロピルアルコール150μLを加えて攪拌し、室温で8分間攪拌した。上澄みを磁気分離により除去し、核酸を洗浄する溶液としてキット付属洗浄バッファーIを850μL加え、ボルテックスで5秒攪拌した。上澄みを磁気分離により除去し、核酸を洗浄する溶液としてキット付属洗浄バッファーIIを450μL加え、ボルテックスで5秒攪拌し、上澄みを磁気分離により除去した。この工程を2回繰り返した。磁気ビーズから核酸を脱離させる溶液としてキット付属溶出バッファーを100μL加え、60℃で8分間攪拌し、磁気分離により上澄み液を採取し核酸を得た。上記のOD法により核酸抽出量を定量した結果、3.7μgの核酸が抽出することができた。また、A260/A280=1.830と純度よく抽出することができた。すなわち、本発明の磁気ビーズは優れた核酸抽出能を示した。また、細胞の回収と核酸の抽出に同じ磁気ビーズを用いた本発明の核酸抽出方法は、工程を簡略化して迅速に核酸抽出を行なうことを可能とした。
【0053】
上記の核酸抽出方法のイソプロピルアルコール150μLの代わりにイソプロパノール150μLに鉄を主成分とするケイ素酸化物で被覆された磁気ビーズ15mgを懸濁させた懸濁液を用い、核酸抽出を行った。OD法により核酸抽出量を定量した結果、3.9μgの核酸を抽出することができた。また、A260/A280=1.850と純度よく抽出することができた。すなわち、細胞を検体から分離した後、磁気ビーズを追加して前記細胞の核酸を抽出することによって核酸抽出能が向上した。
【0054】
前記の磁気ビーズの代わりに、ケイ素酸化物を被覆せずチタン酸化物だけを被覆した磁気ビーズを用い、上記のチタン酸化物およびケイ素酸化物の2種の無機材料で被覆された磁気ビーズを用いた場合と同様の方法で、核酸抽出を行なった。OD法で定量し、1.2μgの核酸を抽出したが、A260/A280=1.533と純度が低くなった。上記チタン酸化物およびケイ素酸化物の2種の無機材料で被覆された磁気ビーズを用いた場合と比較すると核酸抽出量が少なく、また純度も低くなった。これは、本発明の核酸抽出方法において、ケイ素酸化物で被覆されている場合、特に顕著な効果を発現することを示す。
【0055】
(実施例2)
実施例1と同様の方法でストレプトアビジンコート磁気ビーズを作製し、ビオチン化されたVU−ID9抗体(biomeda社製Epithelial Specific Antigen−Biotin Labeled,Affinity Pure)16μLと上記ストレプトアビジンコート磁気ビーズ4mgをリン酸バッファー(PBS)160μLに懸濁させた懸濁溶液を混和し、室温で30分攪拌し、非磁性成分を磁気分離で除去しVU―ID9抗体固定化磁気ビーズを得た。
【0056】
検体に培養された培養したヒト子宮頸部がん細胞HeLa細胞の代わりに、がん細胞HT-29細胞を用いた以外は実施例1と同様にして、細胞回収及び核酸抽出作業を行った。核酸抽出量をOD法で定量し、1.8μgの核酸が抽出することができた。また、A260/A280=2.001と純度よく抽出することができた。すなわち、本発明の磁気ビーズは優れた核酸抽出能を示した。また、細胞の回収と核酸の抽出に同じ磁気ビーズを用いた本発明の核酸抽出方法は、工程を簡略化して迅速に核酸抽出を行なうことを可能とした。
【0057】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、抗ヒトCD44抗体固定化磁気ビーズを作製した。2mLマイクロチューブに、検体として1mLのPBSに培養したヒト子宮頸部がん細胞HeLa細胞を100万細胞懸濁させた細胞懸濁液を入れ、4mgの抗ヒトCD44抗体固定化磁気ビーズを加え、30分室温で攪拌した。マイクロチューブを磁気スタンドに立て20秒間放置し、磁石と接する壁面に磁気ビーズを回収し、保持させ、非磁性成分(磁気ビーズと結合していない成分)を除去した。更に、マイクロチューブを磁気スタンドより外し、500μLのPBSを加え攪拌し、マイクロチューブを磁気スタンドに立て20秒間放置し、磁石と接する壁面に磁気ビーズを回収・保持させ、非磁性成分を除去、洗浄した。この洗浄工程を計4回行ない細胞回収を行なった。細胞数は前記視算法を用い定量化した。また、磁気ビーズによって回収された細胞を位相差顕微鏡で観察した結果を図2に示す。HeLa細胞の表面抗原に対する抗体が固定化されている磁気ビーズを用いて細胞を回収した結果、図2のように細胞が回収されている様子が観察できた。さらに、回収した細胞からキアゲン社製QIAamp DNA Blood Mini Kit を使用し、核酸を抽出し、上記OD法により核酸抽出量を定量化した。
【0058】
(比較例1〜3)
表1に示す表面状態を有する磁気ビーズを作製し、実施例3と同様の方法で細胞回収を行なった。細胞数は前記視算法を用い定量化した。さらに、実施例3と同様の方法で回収した核酸を抽出し、上記OD法により核酸抽出量を定量化することにより比較した。その結果を表1に示す。なお、IgG1抗体はHeLa細胞の表面抗原に対し陰性抗体である。また、比較例1について、磁気ビーズによって回収された細胞を位相差顕微鏡で観察した結果を図2に示す。HeLa細胞と親和性をもつプローブを持たない比較例1のビーズを用いた場合は、前記細胞はほとんど観察することができない。
【0059】
【表1】

【0060】
表1および図2において明らかなように、磁気ビーズ表面に所望の細胞と親和性をもつプローブを持たない比較例1〜3と比べて、実施例では細胞回収量、核酸抽出量が増加している。本発明の細胞回収用の磁気ビーズが所望の細胞を回収するための磁気ビーズとして有用であることが示された。
【0061】
(実施例4および実施例5)
原料粉末の混合条件を変えた以外は実施例2と同様の方法で平均粒径1.2μm、5.6μmのVU―ID9抗体固定化磁気ビーズを得た。平均粒径1.2μmのVU―ID9抗体固定化磁気ビーズを実施例4、平均粒径5.6μmのVU―ID9抗体固定化磁気ビーズを実施例5とし、実施例3と同様の方法で細胞回収を行なった。細胞数は前記視算法を用い定量化し、検体に懸濁させた細胞数に対する回収した細胞数の割合(百分率)を細胞回収率として求めた。また、回収した細胞を100μLのリン酸バッファ(PBS)に分散させ、さらにトリパンブルー100μLを加え染色した細胞懸濁液を、血球計算板とカバーガラスの隙間に入れた。血球計算板を位相差顕微鏡に載せ、8区画の染色されていない生細胞数と染色された死細胞数を数え、1区画辺りの生細胞と死細胞数の平均値を求め、生細胞数と死細胞数の和に対する生細胞数の割合(百分率)を生細胞率として求めた。その結果を、実施例2の磁気ビーズを用いた場合の結果とともに表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2おいて明らかなように、実施例2、実施例4および実施例5の磁気ビーズは高い細胞回収率を示し、平均粒径が4μm以下では、細胞回収率は70%を超えている。本発明の細胞回収用磁気ビーズが所望の細胞を回収するための磁気ビーズとして有用であることが示された。また、平均粒径が4μm以下である実施例2および実施例4は平均粒径が4μmを超える実施例5と比べ生細胞率が極めて高く、生細胞率が85%を超える高い値を示している。平均粒径が1.2の実施例4の磁気ビーズでは、細胞回収率71%、生細胞率95%と、細胞回収率、生細胞率ともに、特に優れた性能を示している。すなわち、本発明の平均粒径が4μm以下の細胞回収用の磁気ビーズが所望の細胞を生きたまま回収するための磁気ビーズとして好適であり、さらに粒径2μm以下では生細胞率が95%と非常に高く特に好適であることが示された。
【0064】
(比較例4および比較例5)
ポリマーに酸化鉄粒子を包含させた飽和磁化20Am/kg、平均粒径1.0μmのストレプトアビジンコート磁気ビーズ(Dynabeads MyOne Streptavidin、ダイナル社製)および飽和磁化20Am/kg、平均粒径2.8μmストレプトアビジンコート磁気ビーズ(Dynabeads M−280 Streptavidin、ダイナル社製)に実施例2と同様の方法でVU―ID9抗体固定を固定しVU―ID9抗体化磁気ビーズを得た。粒径1.0μmのVU―ID9抗体化磁気ビーズを比較例4、粒径2.8μmのVU―ID9抗体化磁気ビーズを比較例5とし、以下の細胞回収を行なった。
【0065】
50mL遠沈管に、検体として30mLのPBSに培養したがん細胞HT-29細胞を1万細胞懸濁させた細胞懸濁液を入れ、実施例4、比較例4および比較例5のVU―ID9抗体化磁気ビーズをそれぞれ2mg加え、30分室温で攪拌した。遠沈管を磁気スタンドに立て1分間もしくは、15分間磁気分離し、磁石と接する壁面に磁気ビーズを回収し、保持させ、非磁性成分(磁気ビーズと結合していない成分)を除去した。更に、遠沈管を磁気スタンドより外し、500μLのPBSを加え攪拌し、内容物をマイクロチューブに移し、磁気スタンドに立て2分間放置し、磁石と接する壁面に磁気ビーズを回収・保持させ、非磁性成分を除去、洗浄し細胞回収を行なった。細胞数は前記視算法を用い定量化し、検体に懸濁させた細胞数に対する回収した細胞数の割合(百分率)を細胞回収率として求めた。さらに、磁気分離時間15分での細胞回収率に対する磁気分離時間1分での細胞回収率の割合(百分率)を細胞回収効率として求めた。その結果を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
表3において明らかなように、酸化鉄粒子を包含したポリマー粒子である比較例4および比較例5と比べ、鉄粒子を金属核に有する飽和磁化が高い実施例4の磁気ビーズは高い細胞回収効率を示し、細胞回収効率はは90%を超えている。つまり、本発明の細胞回収用磁気ビーズが所望の細胞を迅速かつ効率よく回収するための磁気ビーズとして有用であることが示された。
【0068】
(実施例6)
平均粒径30nmの酸化鉄粉末と平均粒径20μmの炭素粉とを等量混合し、窒素ガス雰囲気において1000℃で2時間熱処理を施し非磁性不要成分を分離・除去することでことで、粒子表面が炭素で被覆された平均粒子径が1μmの鉄微粒子を得た。得られた微粒子5gをエタノール溶媒100ml中に分散し、これにテトラエトキシシランを添加した。この溶媒を攪拌しながら純水とアンモニア水と塩化カリウムの混合溶液を添加した。純水とアンモニア水と塩化カリウムはそれぞれ22gと4gと0.03g使用した。その後、ボールミルにおいて攪拌した。この生成物の非磁性不要成分を磁気分離し、除去することで、粒子表面がケイ素酸化物で被覆された平均粒径が7μmの鉄微粒子を得た。また、上記鉄微粒子び磁気特性をVSMにより測定したところ、飽和磁化は65Am/kgであった。このようにして得られた、鉄を主成分とする金属粒子核が炭素およびケイ素酸化物の2種の無機材料で被覆された磁気ビーズを用いて、実施例3と同様の方法で細胞回収を行い、実施例4と同様の方法で求めた細胞回収率は42%であった、つまり、本発明の細胞回収用の磁気ビーズが所望の細胞を回収するための磁気ビーズとして有用であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】細胞を含む検体からの核酸抽出方法の概略を示すフローチャートである。
【図2】実施例3、比較例1の磁気ビーズによって回収された細胞を位相差顕微鏡で観察した図である。
【符号の説明】
【0070】
1:磁気ビーズ 2:HeLa細胞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む検体に磁気ビーズを加え、前記磁気ビーズに前記細胞を捕捉させ、磁力を用いて前記磁気ビーズに捕捉された前記細胞を前記検体から分離するとともに、前記磁気ビーズにより前記細胞の核酸を抽出することを特徴とする核酸抽出方法。
【請求項2】
前記磁気ビーズには、前記細胞と親和性をもつプローブが固定化されていることを特徴とする請求項1に記載の核酸抽出方法。
【請求項3】
前記プローブは、前記細胞の表面抗原に対する抗体であることを特徴とする請求項2に記載の核酸抽出方法。
【請求項4】
前記磁気ビーズは、ケイ素酸化物で被覆されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の核酸抽出方法。
【請求項5】
前記磁気ビーズは、磁性金属を主成分とする金属粒子核が、互いに異なる2種以上の無機材料で多重に被覆されている金属微粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の核酸抽出方法。
【請求項6】
前記細胞を前記検体から分離した後、磁気ビーズを追加して前記細胞の核酸を抽出することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の核酸抽出方法。
【請求項7】
前記検体は生体組織または糞便であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の核酸抽出方法。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれかに記載の核酸抽出方法を用いることを特徴とするがん細胞検出方法。
【請求項9】
磁性金属を主成分とする金属粒子核が、互いに異なる2種以上の無機材料で多層に被覆されている磁気ビーズであり、前記磁気ビーズ表面に所望の細胞と親和性をもつプローブを有することを特徴とする細胞回収用の磁気ビーズ。
【請求項10】
金属粒子核に接して一部または全体を被覆する無機材料の外側の無機材料は、ケイ素酸化物を主体とする被覆層であることを特徴とする請求項9に記載の細胞回収用の磁気ビーズ。
【請求項11】
前記プローブは、前記細胞の表面抗原に対する抗体であること特徴とする請求項9または10に記載の細胞回収用の磁気ビーズ。
【請求項12】
飽和磁化の値が60Am/kg以上であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の細胞回収用の磁気ビーズ。
【請求項13】
平均粒径が4μm以下であることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の細胞回収用の磁気ビーズ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−89563(P2007−89563A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133292(P2006−133292)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】