説明

核酸検出センサ、核酸検出チップ及び核酸検出装置

【課題】FET(field-effect transistor)を用いた核酸検出センサにおいて感度を飛躍的に向上させる。
【解決手段】FETの特性変調の強度に基づいて検体中に含まれる特定の配列を有した標的核酸分子109を検出するための核酸検出センサにおいて、前記FETのゲート101に、前記標的核酸分子とハイブリダイゼーションすることが可能なプローブ核酸分子102を少なくとも1つ固定化し、εを真空の誘電率、εをチャネル領域の比誘電率、kをボルツマン定数、TをFETのチャネル領域の絶対温度、eを素電荷、nをキャリア密度とすると、前記FETのゲート幅が(εεT/en)1/2のオーダとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FET(field-effect transistor)を用いて、検体中に含まれる標的核酸分子を検出する核酸検出センサ、核酸検出チップ及び核酸検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、FETを用い検体中に標的核酸分子が含まれるか否かを検出する核酸分子検出のための核酸検出用センサが存在している(例えば、非特許文献1、特許文献1、2参照)。
【非特許文献1】坂田利弥 他、「遺伝子トランジスタによるDNAハイブリダイゼーションの検出」、第64回応用物理学会講演会予稿集、P.1179(2003)
【特許文献1】特開2003−322633公報
【特許文献2】特表平2001−511246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の技術では、FETを使って、核酸分子1個レベルの信号を効率的に検出する方法や、広い範囲の濃度領域での定量分析を行う手法は明示されていない。
【0004】
本発明は、従来の問題点に鑑み、FETを用いた核酸検出センサにおいて、感度を飛躍的に向上させる核酸検出センサ、核酸検出チップ及び核酸検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の核酸検出センサによれば、FET(field-effect transistor)の特性変調の強度に基づいて検体中に含まれる特定の配列を有した標的核酸分子を検出するための核酸検出センサにおいて、前記FETのゲートに、前記標的核酸分子とハイブリダイゼーションすることが可能なプローブ核酸分子を少なくとも1つ固定化し、εを真空の誘電率、εをチャネル領域の比誘電率、kをボルツマン定数、TをFETのチャネル領域の絶対温度、eを素電荷、nをキャリア密度とすると、前記FETのゲート幅が
(εεT/en)1/2
のオーダとなることを特徴とする。
【0006】
本発明の核酸検出センサによれば、FET(field-effect transistor)の特性変調の強度に基づいて検体中に含まれる特定の配列を有した標的核酸分子を検出するための核酸検出センサにおいて、前記FETのゲートに、前記標的核酸分子とハイブリダイゼーションすることが可能なプローブ核酸分子を少なくとも1つ固定化し、εを真空の誘電率、εをチャネル領域の比誘電率、kをボルツマン定数、TをFETのチャネル領域の絶対温度、eを素電荷、nをキャリア密度とすると、前記FETのゲート長が
(εεT/en)1/2
のオーダとなることを特徴とする。
【0007】
本発明の核酸検出チップによれば、FET(field-effect transistor)の特性変調の強度に基づいて検体中に含まれる特定の配列を有した標的核酸分子を検出するための核酸検出センサにおいて、前記FETのゲートに、前記標的核酸分子とハイブリダイゼーションすることが可能なプローブ核酸分子を少なくとも1つ固定化し、εを真空の誘電率、εをチャネル領域の比誘電率、kをボルツマン定数、TをFETのチャネル領域の絶対温度、eを素電荷、nをキャリア密度とすると、前記FETのゲート幅が
(εεT/en)1/2
のオーダとなる核酸検出センサを複数備える核酸検出チップにおいて、検出時間をt、核酸分子の拡散定数をD=1.6×10−6cm/sとすると、前記核酸検出チップ上での単位面積当りの前記核酸検出センサの個数が、(Dt)−1のオーダとなることを特徴とする。
【0008】
本発明の核酸検出装置によれば、FET(field-effect transistor)の特性変調の強度に基づいて検体中に含まれる特定の配列を有した標的核酸分子を検出するための核酸検出センサにおいて、前記FETのゲートに、前記標的核酸分子とハイブリダイゼーションすることが可能なプローブ核酸分子を少なくとも1つ固定化し、εを真空の誘電率、εをチャネル領域の比誘電率、kをボルツマン定数、TをFETのチャネル領域の絶対温度、eを素電荷、nをキャリア密度とすると、前記FETのゲート幅が
(εεT/en)1/2
のオーダとなる核酸検出用センサと、前記核酸検出用センサとは、核酸プローブ分子が異なり、検体に含まれる核酸分子とは相補性のない塩基配列を持った核酸プローブ分子がゲートに固定されたゼロレベル検出用センサと、各前記センサのドレイン端子にそれぞれ接続する2つの容量素子と、予め決められた電圧値で充電された各前記容量素子の電荷を各前記センサに含まれるFETを介して放電し、各前記FETからの放電効率の差を増幅するセンスアンプと、前記放電効率の差に基づいて、核酸検出の有無を判定する判定手段を具備することを特徴とする。
【0009】
本発明の核酸検出装置によれば、FET(field-effect transistor)の特性変調の強度に基づいて検体中に含まれる特定の配列を有した標的核酸分子を検出するための核酸検出センサにおいて、前記FETのゲートに、前記標的核酸分子とハイブリダイゼーションすることが可能なプローブ核酸分子を少なくとも1つ固定化し、εを真空の誘電率、εをチャネル領域の比誘電率、kをボルツマン定数、TをFETのチャネル領域の絶対温度、eを素電荷、nをキャリア密度とすると、前記FETのゲート幅が
(εεT/en)1/2
のオーダとなる核酸検出用センサと、前記核酸検出用センサとは、核酸プローブ分子が異なり、検体に含まれる核酸分子とは相補性のない塩基配列を持った核酸プローブ分子がゲートに固定されたゼロレベル検出用センサと、各前記センサに含まれるFETを入力用のトランジスタとして用いる差動対と、前記差動対に対して共通の参照電圧をかけることにより生ずる差動対の出力電圧の大きさに基づいて、核酸検出の有無を判定する判定手段を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の核酸検出センサ、核酸検出チップ及び核酸検出装置によれば、感度を飛躍的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態の核酸検出センサ、核酸検出チップ及び核酸検出装置について詳細に説明する。
本発明の本実施形態の核酸検出装置に含まれる核酸検出用センサ100はMOSFET(metal-oxide semiconductor field-effect transistor)、基板とからなり、MOSFETには核酸プローブ(Probe DNA)102が通常、複数取り付けられている。MOSFETは、ゲート(gate)101、ソース(Source)103、ドレイン(Drain)104からなり、核酸プローブ分子102は、ゲート101上に取り付けられる。また、図1に示すように、ソース103とドレイン104とはボディー106を介して接続し、ボディー106上にはゲート酸化膜105を介してゲート101が積層されている。また、ソース103、ドレイン104、ボディー106は、埋め込み酸化膜であるBOX(Buried Oxide)107上に形成されている。図1のように、SOI(Silicon On Insulator)構造のウェハを使ってセンサ100を作製することが可能であるが、もちろんバルクSi基板を用いて同等のものを作製可能であることは、当業者に理解されるであろう。
【0012】
本実施形態の核酸検出装置では、MOSFETの電気的特性の変調の強度に基づいて標的核酸分子を検出したか否かを判定する。本実施形態では、ゲート101の形状をソース103とドレイン104を結ぶ方向に細くする(すなわち、ゲート101のゲート幅Wを細くする)。この場合、ゲート上で生じた少数の電荷数の変化でもMOSFETの電気的特性の変調が大きく生ずるため、少数の標的核酸分子の検出も可能となる。
【0013】
さらに、本実施形態では、このMOSFETのチャネルの長さ(すなわち、図1のゲート長L)をゲート幅Wと同等若しくはW以上に長くする。この場合、核酸プローブ分子102がゲート長の方向(すなわち、ソース103とドレイン104を結ぶ方向)に多数固定化されるため、ゲート長の方向のどの位置で核酸プローブ分子102と標的核酸分子109との結合が起こっても、確実にMOSFETの変調を誘起することができるようになる。すなわち、多数の核酸プローブ分子102による信号の論理和を取ることと等価な演算をすることになる。また、分析される検体の液滴が接触するチップの表面内に、稠密に配置されることにより、多数のプローブのうちのいずれかに結合する確率が高まるため、検体溶液中に少数しか存在しない核酸分子でも迅速に検出することが可能となる。
【0014】
さらに具体的に、ゲート101のゲート長及びゲート幅をどの程度に設定するかを説明する。あるプローブ核酸分子102において標的核酸分子109の結合が起こると、このゲート101側で起きた電荷数の変動は、ゲート酸化膜106を介して静電気的にチャネル中の荷電状態の変動を誘起する。いま、ボディー106のうちの、チャネルの形成される領域におけるキャリアのデバイ長は、
(εεT/en)1/2 (式1)
で与えられる。ここで、εは真空の誘電率、εはチャネル領域の比誘電率、kはボルツマン定数、Tはチャネル領域の絶対温度、eは素電荷、nはキャリア密度を示す。ゲート側での1価の電荷の変動に際し、チャネル中において(式1)で与えられる半径内部の領域では荷電状態が大きく変動することが期待される。
【0015】
よって、(式1)により算出される拡散距離と同等のゲート101のゲート幅及びゲート長を決定すれば、少数の標的核酸分子によって大きなFETの特性変調が得られるものと考えられる。すなわち、ゲート幅は(式1)により算出される長さのオーダとし、ゲート長も(式1)により算出される長さとする。すなわち、ゲート幅、ゲート長は、(式1)により算出される長さと同じ桁数程度(すなわち、せいぜい10倍若しくは1/10程度)の長さに設定される。より好ましくは、ゲート幅は(式1)により算出される長さのオーダとなるようにし、ゲート長はこのゲート幅の長さよりも長くなるようにする。
【0016】
本実施形態においては、通常のMOSFETと同等のキャリア密度を持った材料を仮定すると(式1)により算出される長さは約50nmになるので、この長さを利用して、例えば、ゲート幅を50nmとする。ゲート幅は、100nm程度でも問題はないが、より好ましくは50nm程度若しくはそれ以下の長さである。一方、ゲート長は、ゲート幅と同等かそれより長く設定するので、50nm程度若しくはそれ以上の長さである。
【0017】
また、核酸分子の直径はおよそ2nmであるため、核酸プローブ分子102を稠密にゲート幅50nmのゲート101上に貼り付けた場合、核酸プローブ分子102はチャネルに垂直な方向に25個程度ずつ配置されることになる。長さが20塩基対程度の核酸プローブ分子102に対し同程度の標的核酸分子109が核酸プローブ分子102のうちの1つに結合すると、塩基対数と同等の電荷の変化が生じる。この電荷の変化により物理的な特性変化(例えば、MOSFETの閾値電圧の変化)は大きく現れるものと期待される。
【0018】
また、核酸検出用センサ100はチップ上に複数個配置される。チップ上に核酸検出用センサ100がどのように配置されるかによって、標的核酸分子を検出する精度が変化する。例えば、分析される検体の液滴が接触するチップの表面内に、核酸検出用センサ100を稠密に配置することにより、多数のプローブのうちのいずれかに結合する確率が高まるため、検体溶液中に少数しか存在しない核酸分子でも迅速に検出することが可能となる。より好ましくは、このセンサアレイの集積密度は、核酸分子の拡散距離よりも短い間隔でセンサが配置されるように決められる。さらに、標的核酸分子を検出したセンサの個数を集計することにより、標的核酸分子の濃度、あるいは標的核酸分子の分子数を推定することも可能となる。この配置の詳細は後に図5及び図6を参照して説明する。
【0019】
次に、上述した核酸検出用センサ100を使用して、標的核酸分子109と核酸プローブ分子102との結合により誘起されるMOSFETの電気的特性の変調を検出するための核酸検出装置を説明する。この変調は、例えば、閾値電圧値の変動として現れるので、核酸検出装置はこの閾値電圧値の変動を検出することになる。本実施形態では、以下に示すように、この物理現象を検出するための核酸検出装置を2種類提供する。1つは標的核酸分子109を検出したか否かをディジタル信号に直接変換して出力するタイプの装置(図2、図4)であり、もう1つは閾値電圧値の変動をアナログ電圧値として出力するタイプの装置(図7,8,9)である。これらの装置の特徴は、標的核酸分子109と相補的な塩基配列を持たない核酸プローブ分子を固定したゼロレベル検出用のセンサと核酸検出用センサ100とを比較しつつ判定を行うことである。この特徴により、標的核酸分子109の検出精度を向上することができる。
【0020】
次に、図1に示した核酸検出用センサ100を使用して核酸を検出する核酸検出装置の一例を図2を参照して説明する。図2は、クロスカップルドインバータを利用した核酸検出装置の例である。
【0021】
図2の核酸検出装置は、参照電極201、参照電圧電源202、充電用電圧源入力端子203、充電用スイッチ204、205、制御パルス入力端子206、電源電圧207、基準電位208、センスアンプ制御スイッチ209、蓄積キャパシタ210、211、出力信号増幅器212、213、センスアンプ214、核酸検出用センサ100に含まれるMOSFET215、核酸検出用センサ200に含まれる216、核酸プローブ分子217、核酸検出用センサ200からなる。
【0022】
図2に示す装置は、核酸プローブ分子102が取り付けられた核酸検出用センサ100に含まれるMOSFETの閾値電圧の変化が生じたか否かを判定する回路を含むものである。この回路は、フラッシュメモリの読み出し用回路に使われるものと同等の回路であり、フラッシュメモリに用いられるフローティングゲートを有するMOSFETに相当する部分に核酸検出用のMOSFETを用いている。また、この回路は、MOSFETの表面電位を制御するための参照電極を含んでいる。この核酸検出装置では、参照電極201に表面電位を制御される核酸検出用センサ100は標的核酸分子109を結合することが可能な核酸検出用MOSFETであり、このセンサと対になる核酸検出用センサ200は標的核酸分子109を結合することができない核酸プローブ分子217を取り付けているゼロレベル検出用センサである。ゼロレベル検出用センサ200は、核酸プローブ分子102の代わりに核酸プローブ分子217を取り付けていること以外は核酸検出用センサ100と同様である。
【0023】
図2の回路では、センスアンプ214が、核酸検出用センサ100上への核酸結合の有無により変化するMOSFETの閾値電圧の変動の結果として変動する飽和電流の大きさが決定するキャパシタ210の放電時間を、ゼロレベル検出用センサ200の閾値電圧値によって決定するキャパシタ210の放電時間と比較する。センスアンプ214は、核酸検出用センサ100とゼロレベル検出用センサ200とのどちらのセンサが先に電圧を下げるかを感受して、各センサの電圧値の相手に対する高低を出力する。すなわち、センスアンプ214は各センサに対応して1、0のディジタル値で出力する。出力された信号は、判定しやすい大きさまで、増幅器212、213によって増幅される。
核酸検出用センサ100における核酸検出の有無を0、1のディジタル値に対応させるために、蓄積キャパシタ210と蓄積キャパシタ211との比は、核酸検出用センサ200の放電時間が、核酸検出用センサ100に標的核酸分子109が結合した場合としなかった場合の両放電時間のちょうど半分になるように予め設定される。また、放電時間は参照電極電位に依存するので、参照電圧電源202も予め設定されなければならない。すなわち、図2の回路を動作させるにあたっては、予め、以下のパラメータを決めておく必要がある。
(1)蓄積キャパシタ210と蓄積キャパシタ211のキャパシタンスの比
(2)基準電位208に対して参照電極201の電位を決める参照電圧電源202の電圧値
(1)をより詳細に述べると、ハイブリダイゼーション(hybridization、二本鎖形成)が検出される場合の蓄積キャパシタ210の放電時間の時定数をτ’、ハイブリダイゼーションが検出されない場合の蓄積キャパシタ210の放電時間の時定数をτ、蓄積キャパシタ211の放電時間の時定数をτとおくと、
τ’<τ<τ (式2)
が成立すべきである。ただし、この(式2)は核酸検出用センサ100のMOSFETがn型でありハイブリダイゼーションによりMOSFETの閾値電圧値が正の電荷を帯びた挿入剤等の効果により減少する場合を仮定している。挿入剤を用いない場合はn型MOSFETの閾値は上がることになるため、(式2)の不等号は逆符号となる。さらに好ましくは、τがτ及びτ’の中間値、
τ=(τ+τ’)/2 (式3)
となるように設定するのが望ましい。
【0024】
これらの(式2)及び(式3)をキャパシタンスの比に換算する。いま、核酸検出用センサ100とゼロレベル検出用センサ200のMOSFETが飽和領域で動作していると仮定すると、核酸検出用センサ100を流れる電流は、
i=μCW(VGS−Vth/L (式4)
と表される。ここで、CはMOSFET酸化膜の容量、μは表面チャネル移動度、Wはゲート幅、Lはゲート長、VGSはゲート・ソース間、すなわちここでは参照電極3とソース103の間の電圧を示す。VthはMOSFETの閾値電圧値を示すが、この閾値電圧値はハイブリダイゼーションを生じている場合であるか否かで変動する。ハイブリダイゼーションが検出される場合の閾値電圧値をVth’、検出されない場合の閾値電圧値をVthとし、それぞれの電圧値に対応する電流をi’、iとすると、τ’,τ,τはそれぞれ近似的に、
τ’=C10pre/i’
τ=C10pre/i (式5)
τ=C11pre/i
と表現される。ここで、C10、C11はそれぞれ蓄積キャパシタ210、蓄積キャパシタ211の容量を表し、VPreは充電用電圧源入力端子203から入力される電圧値を示す。(式2)に(式4)、(式5)を代入することにより、C10とC11が満たすべき条件は次のように定まる。すなわち、
1<C10/C11<(VGS−Vth’)/(VGS−Vth (式6)
である。また、より望ましい(式3)で表される条件は、(式4)及び(式5)を利用すると、
10/(2C11−C10)=(VGS−Vth’)/(VGS−Vth (式7)
のように定まる。
【0025】
次に、図2に示した回路を使用して核酸の検出を行う手順を図3を参照して説明する。
まず、制御部(図示せず)が、蓄積キャパシタ210、211に充電をするか否かを切り換える充電用スイッチ204及び205をオフにする(ステップS301)。また、センスアンプ214を制御するセンスアンプ制御スイッチ209をオフにする(ステップS301)。さらに、初期設定として参照電圧電源202を調整し、参照電極201と核酸検出用センサ100のソース103との間の電圧を上記の(式6)又は(式7)を満たすようにする(ステップS301)。
【0026】
次に、充電用スイッチ204、205をオンにして、蓄積キャパシタ210、211に充電用電圧源入力端子203を介して充電用電圧を印加する(ステップS302)。蓄積キャパシタ210、211には同一の電圧値が印加されるので、同量の電荷が蓄積キャパシタ210、211に蓄電される。その後、センスアンプ制御スイッチ209をオンにして、センスアンプ214を作動させる(ステップS303)。
【0027】
そして、充電用スイッチ204、205をオフにし(ステップS304)、所定の時間経過した後にセンスアンプ214が検出する0又は1のディジタル値から核酸検出の有無を判定する。なお、ステップS303とステップS304の順序は逆にしても正しく動作する。
【0028】
次に、図2の回路を変形した一例を図4を参照して説明する。図2に示した部分と同一部分は同一符号を付してその説明を省略する。
図4の変形例では、センスアンプ214をnMOSだけで形成したセンスアンプ401を使用する場合である。動作原理は基本的に図2の場合と同様であるが、差動増幅器402を追加する必要がある。この回路では、蓄積キャパシタ210、211が接続された各ノードは、充電用電圧源入力端子203から入力される電圧値であるVpreと基準電位208との間のある電位に収束していく。このノード間の差異を差動増幅器402で増幅し、さらに出力増幅器403で増幅し、最終的に検出可能な大きさを有する0又は1のディジタル値を出力信号端子405から得ることができる。
【0029】
また、核酸検出用センサ100をチップ基板上に稠密に配置しておくことにより、濃度の分析も可能となる。検出時間としてtが与えられた場合、Dを核酸分子の拡散定数(1.6×10−6cm/s)とすると、核酸検出用センサ100の面密度を(Dt)−1以上にすれば検出時間t以内で核酸分子を検出することができる。言い換えれば、核酸検出用センサ100の面密度としては、核酸分子の拡散距離を半径とする円の中にMOSFETの核酸検出用センサ100が少なくとも1個入るよりも高い密度で検体の液滴が導入される領域に存在するような集積密度で核酸検出用センサ100のアレイを形成させる。
【0030】
例えば、核酸検出用センサ100の面密度を10/cmでチップ基板上に作成した場合、隣り合うセンサ間の距離は10μm程度となる。このとき、核酸分子の拡散距離を表す尺度lとして、
l=(Dt)1/2 (式8)
を計算すると、tは数秒と計算されるため、少なくとも数分での検出が可能になる。すなわち、数分で核酸分子は多数存在するセンサのいずれかに結合するものと考えられる。もちろん、さらにセンサ数の面密度を高めれば、検出の高速化も期待できる。
【0031】
この核酸検出用センサ100を稠密に配置したチップを用いて、高速な定量分析を行うことも可能である。これまで提案された手法としては、特開2004−309462公報に記述されているような手法がある。この方法によれば、図5の上段に示すように大きなセンサ面積に多数の核酸プローブ分子が存在しその1部だけが標的核酸分子と結合することによって得られる信号がバックグラウンド信号に埋もれてしまうことを防止するために、図5の中段に示すように面積の小さな電極を用いて、ここに核酸分子が集中して結合するようにすることが提案されている。この方法でも高感度な核酸の検出は可能であるが、感度を高めるために反応時間を長くしなければならないという欠点がある。
【0032】
一方、本発明の実施形態では、この手法とは異なり、図5の下段に示すように多数のセンサのいずれかに核酸が結合すればよいため、高速化を期待することができる。定量分析をする場合には、ディジタル値によって核酸が検出されたと判定されたセンサの数をカウントする。核酸の濃度が濃ければ濃いほど、核酸を検出したセンサの数が増加する。全核酸検出センサ数に対する核酸を検出した核酸検出センサの数の割合に基づいて、検体中に含まれる標的核酸分子の核酸濃度を推定する。
【0033】
さらに、多種類の核酸を定量分析する場合には、図6のように、ある塩基配列を持った核酸プローブが固定されたセンサのアレイを複数チップ基板表面上に配置し、ここに検体を導入すればよい。
【0034】
もちろん、同一種類の核酸プローブ分子102をまとめて1箇所に配置する必要は無く、規則正しく並べても、ランダムでも、その面密度が一定であれば核酸の定量分析は可能である。
【0035】
(本実施形態の変形例)
図2及び図4とは異なり、差動対を利用した場合の核酸検出装置を図7及び図8を参照して説明する。
図7及び図8に示す装置は、差動対を用いて、核酸プローブ分子102が取り付けられた核酸検出用センサ100に含まれるMOSFETの閾値電圧の変化が生じた否かを判定する回路を含むものである。本実施形態で提供される核酸検出用センサ100において核酸が検出されたか否かの判定は、この差動対を用いた回路を用いても可能である。すなわち、核酸検出用センサ100として用いられるMOSFETとゼロレベル検出用センサ200として用いられるMOSFETを差動対の中に配置する。
【0036】
例えば、図8に示すように参照電極201の電位を所定の値に設定することによって生ずる出力電圧そのものを測定するか、あるいは図7に示すように、図8よりも2つ余計にトランジスタを挿入し、これによって形成される電圧フォロア回路のオフセット電圧の変動として核酸の検出を行えばよい。
【0037】
さらに、例えば、図9に示すように、バックゲートの電位制御も可能にしたダブルゲートMOS構造の素子を使用しても、核酸プローブ分子102が取り付けられた核酸検出用センサ100に含まれるMOSFETの閾値電圧の変化が生じた否かを判定することができる。すなわち、参照電極201を介して核酸プローブ分子102の固定化された核酸検出用センサ100、およびゼロレベル検出用センサ200の電位をコントロールし、図7と同様に、電圧フォロア回路のオフセット電圧の変動を測定すればよい。
【0038】
以上に示した実施形態によれば、検出用センサのFETのゲート幅をチャネル領域の電子のデバイ長程度以下にして、ゲート長をチャネル領域の電子のデバイ長程度以上にすることにより、感度を飛躍的に向上させることができる。さらには核酸分子1個を非常に高速に検出を可能にすることができる。また、検出用チップ上にこの検出用センサを複数個、稠密に配置することにより、非常に広い範囲の濃度領域での定量分析手法も同時に提供することが可能になる。また、標的核酸の標識や、PCR(polymerase chain reaction)等の核酸の増幅を行うことなく、短時間で高精度な測定が可能となる。
【0039】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の本実施形態にかかる核酸検出チップに複数個配置される核酸検出用センサの1つを示す図。
【図2】図1の核酸検出用センサを使用して核酸を検出する核酸検出装置の一例を示す図。
【図3】図2の核酸検出装置の動作を示すフローチャート。
【図4】図2の変形例である核酸検出装置を示す図。
【図5】定量分析の原理を示す図。
【図6】他種類の核酸を定量分析する場合を示す図。
【図7】図2の変形例であって、差動対を使用する核酸検出装置の一例を示す図。
【図8】図2の変形例であって、差動対を使用する核酸検出装置の図7の別例を示す図。
【図9】図2の変形例であって、ダブルゲートMOSを使用する核酸検出装置の一例を示す図。
【符号の説明】
【0041】
100・・・核酸検出用センサ、101・・・ゲート、102、217・・・核酸プローブ分子、103・・・ソース、104・・・ドレイン、105・・・ゲート酸化膜、106・・・SOI、107・・・埋め込み酸化膜(BOX)、108・・・シリコン基板、109・・・標的核酸分子、200・・・ゼロレベル検出用センサ、201・・・参照電極、202・・・参照電圧電源、203・・・充電用電圧源入力端子、204、205・・・充電用スイッチ、206・・・制御パルス入力端子、207・・・電源電圧、208・・・基準電位、209・・・センスアンプ制御スイッチ、210、211・・・蓄積キャパシタ、212、213・・・増幅器、214、401・・・センスアンプ、215、216・・・MOSFET、402・・・差動増幅器、403・・・出力増幅器、405・・・出力信号端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FET(field-effect transistor)の特性変調の強度に基づいて検体中に含まれる特定の配列を有した標的核酸分子を検出するための核酸検出センサにおいて、
前記FETのゲートに、前記標的核酸分子とハイブリダイゼーションすることが可能なプローブ核酸分子を少なくとも1つ固定化し、
εを真空の誘電率、εをチャネル領域の比誘電率、kをボルツマン定数、TをFETのチャネル領域の絶対温度、eを素電荷、nをキャリア密度とすると、前記FETのゲート幅が
(εεT/en)1/2
のオーダとなることを特徴とする核酸検出センサ。
【請求項2】
前記FETのゲート長は、前記FETのゲート幅と同様のオーダであり、かつ、前記ゲート幅よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の核酸検出センサ。
【請求項3】
FET(field-effect transistor)の特性変調の強度に基づいて検体中に含まれる特定の配列を有した標的核酸分子を検出するための核酸検出センサにおいて、
前記FETのゲートに、前記標的核酸分子とハイブリダイゼーションすることが可能なプローブ核酸分子を少なくとも1つ固定化し、
εを真空の誘電率、εをチャネル領域の比誘電率、kをボルツマン定数、TをFETのチャネル領域の絶対温度、eを素電荷、nをキャリア密度とすると、前記FETのゲート長が
(εεT/en)1/2
のオーダとなることを特徴とする核酸検出センサ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の核酸検出センサを複数備える核酸検出チップにおいて、
検出時間をt、核酸分子の拡散定数をD=1.6×10−6cm/sとすると、前記核酸検出チップ上での単位面積当りの前記核酸検出センサの個数が、
1/Dt
のオーダかそれ以上となることを特徴とする核酸検出チップ。
【請求項5】
全核酸検出センサ数に対する核酸を検出した核酸検出センサの数の割合に基づいて、前記検体中に含まれる標的核酸分子の核酸濃度を推定することを特徴とする請求項4に記載の核酸検出チップ。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の核酸検出用センサと、
前記核酸検出用センサとは、核酸プローブ分子が異なり、検体に含まれる核酸分子とは相補性のない塩基配列を持った核酸プローブ分子がゲートに固定されたゼロレベル検出用センサと、
各前記センサのドレイン端子にそれぞれ接続する2つの容量素子と、
予め決められた電圧値で充電された各前記容量素子の電荷を各前記センサに含まれるFETを介して放電し、その際の各前記FETからの放電効率の差を増幅するセンスアンプと、
前記放電効率の差に基づいて、核酸検出の有無を判定する判定手段を具備することを特徴とする核酸検出装置。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の核酸検出用センサと、
前記核酸検出用センサとは、核酸プローブ分子が異なり、検体に含まれる核酸分子とは相補性のない塩基配列を持った核酸プローブ分子がゲートに固定されたゼロレベル検出用センサと、
各前記センサに含まれるFETを入力用のトランジスタとして用いる差動対と、
前記差動対に対して共通の参照電圧をかけることにより生ずる差動対の出力電圧の大きさに基づいて、核酸検出の有無を判定する判定手段を具備することを特徴とする核酸検出装置。
【請求項8】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の核酸検出センサを複数備える核酸検出チップにおいて、
検出時間をt、核酸分子の拡散定数をDとすると、前記核酸検出チップ上での単位面積当りの前記核酸検出センサの個数が、
1/Dt
のオーダかそれ以上となることを特徴とする核酸検出チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−138846(P2006−138846A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300546(P2005−300546)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】