説明

核酸複合体用安定化剤及び核酸複合体

【課題】核酸複合体の凝集を抑制し、遺伝子導入効率の向上を期待することができる核酸複合体用安定化剤と、この核酸複合体用安定化剤によって安定化された核酸複合体を提供する。
【解決手段】アニオン性ポリマーブロック鎖と非イオン性ポリマーブロック鎖とを有するブロックコポリマー鎖を有する核酸複合体用安定化剤。好ましくは、核となる部分から複数の前記ブロックコポリマー鎖が伸延したスター形共重合体よりなり、前記非イオン性ポリマーブロック鎖が各ブロックコポリマー鎖の先端側に位置している。この核酸複合体用安定化剤を、カチオン性ポリマーと核酸との複合体に対して吸着させてなる核酸複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入剤と核酸との複合体を安定化させるための核酸複合体用安定化剤と、この核酸複合体用安定化剤を吸着させた核酸複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、遺伝子治療研究がますます重要視されている。遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。外来DNAの導入のためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス又はヘルペスウイルスを含む多くのウイルスが、治療用遺伝子を運搬するように改変されて、遺伝子治療のヒトの臨床試験に使用されている。しかし感染及び免疫反応の危険性は依然として残されている。
【0003】
DNAを細胞中に運搬するための非ウイルス系ベクターとして、カチオン性のスター形ポリマーがWO2004/092388及び特開2007−70579に記載されている。
【特許文献1】WO2004/092388
【特許文献2】特開2007−70579
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
核酸とカチオン性ポリマーとで形成される核酸複合体(ポリプレックス)は、一般に正電荷を帯びており、従ってこれらは静電的な斥力である程度分散しているものの、経時により凝集することが知られている。さらに、生体内での使用はもとより、細胞培養系でも培地中には血清タンパクなどが混在するため、帯電物にはカウンター電荷であるタンパク質などが吸着し、凝集を促進することも周知である。
【0005】
本発明は、核酸複合体の凝集を抑制し、遺伝子導入効率の向上を期待することができる核酸複合体用安定化剤と、この核酸複合体用安定化剤によって安定化された核酸複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(請求項1)の核酸複合体用安定化剤は、アニオン性ポリマーブロック鎖と非イオン性ポリマーブロック鎖とを有するブロックコポリマー鎖を有する。
【0007】
請求項2の核酸複合体用安定化剤は、請求項1において、核となる部分から複数の前記ブロックコポリマー鎖が伸延したスター形共重合体よりなり、前記非イオン性ポリマーブロック鎖が各ブロックコポリマー鎖の先端側に位置していることを特徴とする。
【0008】
請求項3の核酸複合体用安定化剤は、請求項2又は3において、複数の前記スター形共重合体が架橋していることを特徴とする。
【0009】
請求項4の核酸複合体用安定化剤は、請求項2又は3において、前記核となる部分はベンゼン環であることを特徴とする。
【0010】
請求項5の核酸複合体用安定化剤は、請求項2ないし4のいずれか1項において、スター形共重合体中のアニオン性ポリマーブロックの分子量が3,000〜30,000であり、非イオン性ポリマーブロックの分子量が15,000〜150,000であることを特徴とする。
【0011】
請求項6の核酸複合体用安定化剤は、請求項2ないし5のいずれか1項において、前記スター形共重合体の分子量が18,000〜180,000であることを特徴とする。
【0012】
請求項7の核酸複合体用安定化剤は、請求項2ないし6のいずれか1項において、前記スター形共重合体は、N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくともアニオン性モノマーを光照射リビング重合させた後、非イオン性モノマーを光照射リビング重合させたものであることを特徴とする。
【0013】
請求項8の核酸複合体用安定化剤は、請求項7において、前記イニファターが、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上のN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基が結合したものであることを特徴とする。
【0014】
請求項9の核酸複合体用安定化剤は、請求項7又は8において、アニオン性モノマーが4−ビニル安息香酸、(メタ)アクリル酸及びグリシジルメタクリレートの開環誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0015】
請求項10の核酸複合体用安定化剤は、請求項7ないし9のいずれか1項において、非イオン性モノマーがN,N−ジアルキルアクリルアミドであることを特徴とする。
【0016】
本発明(請求項11)の核酸複合体は、カチオン性ポリマーと核酸との複合体に対し請求項1ないし10のいずれか1項に記載の核酸複合体用安定化剤を吸着させてなることを特徴とする。
【0017】
請求項12の核酸複合体は、請求項11において、該核酸複合体中の正電荷量が負電荷量よりも多いことを特徴とする。
【0018】
請求項13の核酸複合体は、請求項11又は12において、前記カチオン性ポリマーは、N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくともカチオン性モノマーを光照射リビング重合させたスター形重合体であることを特徴とする。
【0019】
請求項14の核酸複合体は、請求項13において、前記イニファターが、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上のN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とする。
【0020】
請求項15の核酸複合体は、請求項13又は14において、カチオン性モノマーがアクリル系モノマー及び/又は4−アミノスチレンであることを特徴とする。
【0021】
請求項16の核酸複合体は、請求項15において、前記アクリル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド及び/又は2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートであることを特徴とする。
【0022】
請求項17の核酸複合体は、請求項11ないし16のいずれか1項において、該核酸複合体中の正電荷量と負電荷量との比が、2:1〜100:1であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の核酸複合体用安定化剤によって安定化された核酸複合体は、次の理由によって遺伝子導入効率を向上させることが可能であると考えられる。
【0024】
(1) カチオン性ポリマーはDNA(リン酸残基に由来するアニオン性高分子である)と水溶液中で混合することでイオン複合体を形成する。このイオン複合体がカチオンリッチなものである場合、このイオン複合体にさらに本発明の核酸複合体用安定化剤を添加すると、この核酸複合体用安定化剤のアニオン性ポリマーブロック鎖がイオン複合体に対し静電的に吸着し、核酸複合体となる。通常の場合、この核酸複合体は、実使用時の濃度範囲においては約100nm〜200nmのカチオン性の微粒子(正電荷リッチのカチオン性ポリマーと核酸との複合体に対して、カチオン/アニオン比が正電荷リッチとなるように混合するため)として安定して分散している。
【0025】
(2) この核酸複合体用安定化剤は、アニオン性ポリマーブロック鎖に連なる非イオン性ポリマーブロック鎖を有しており、この非イオン性ポリマーブロック鎖が水中で拡散するように伸延して核酸複合体の外周囲を取り巻く。核酸複合体の外周囲を取り巻く非イオン性ポリマーブロック鎖の排除体積効果により、核酸複合体同士の接近・凝集が抑制される。
【0026】
(3) 動物細胞の細胞膜は負に帯電しているので、カチオン性の微粒子よりなる核酸複合体は静電的に細胞膜へ吸着される。この時、微粒子の粒子径が100nm〜200nm程度とウイルスのサイズに近似しているため、細胞はこれを細胞内へ取り込み、消化器官にて無毒化を狙う。この消化器官はエンドソームと呼ばれ、強酸性の環境にある。
【0027】
(4) エンドソーム内に取り込まれた核酸複合体の表層の核酸複合体用安定化剤(アニオン/非イオン性コポリマー)は、強酸性雰囲気下でH型へと変化し、疎水性となる。これにより、エンドソーム膜の透過性が向上し、エンドソームから脱出し易くなる。この結果、遺伝子導入活性が向上する。
【0028】
(5) 細胞の細胞膜やエンドソーム膜は二重リン脂質を主成分に形成されており、疎水性物質は細胞膜を溶解するようにして膜を透過する性質がある。表層のアニオン性ポリマーが上記のように疎水性となった核酸複合体は、細胞の細胞膜と融合するようにして細胞膜を透過する。
【0029】
本発明の核酸複合体用安定化剤は、特に、ベンゼン環等の核となる部分から複数の前記ブロックコポリマー鎖が伸延したスター形共重合体よりなり、前記非イオン性ポリマーブロック鎖が各ブロックコポリマー鎖の先端側に位置し、アニオン性ポリマーブロック鎖が基端側に位置していることが好ましい(請求項2,4)。また、この核酸複合体用安定化剤は、複数のスター形共重合体が架橋したものであっても良い(請求項3)。
【0030】
本発明の核酸複合体用安定化剤を構成するスター形共重合体中のアニオン性ポリマーブロックの分子量は3,000〜30,000、非イオン性ポリマーブロックの分子量は15,000〜150,000で、スター形共重合体の分子量は18,000〜180,000であることが好ましい(請求項5,6)。
【0031】
また、このスター形共重合体は、N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくともアニオン性モノマーを光照射リビング重合させた後、非イオン性モノマーを光照射リビング重合させたものであることが好ましく(請求項7)、イニファターは、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上のN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基が結合したものであることが好ましい(請求項8)。
【0032】
また、特に、アニオン性ポリマーブロック鎖を構成するアニオン性モノマーは4−ビニル安息香酸、(メタ)アクリル酸及びグリシジルメタクリレートの開環誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい(請求項9)。
【0033】
即ち、核酸複合体用安定化剤のアニオン性ポリマーブロックがビニル安息香酸のポリマーブロック鎖の場合、細胞培養の条件(生理的pH=7.4の環境下)ではNa型で親水性であるが、酸性下ではH型となってベンゼン環の疎水性の性質が強く現れる。そのため、細胞膜透過時にはあくまでも親水性であり(透過性は従来のものでも十分にあり、細胞膜へ脂質融合しないので細胞毒性は弱くてすむ)、細胞内のエンドソームへ取り込まれた後に(強酸性の環境下で)初めて疎水性となり、エンドソーム膜を効率良く、脂質融合するように透過して核へ外来遺伝子を運搬する。
【0034】
一方、非イオン性ポリマーブロック鎖を構成する非イオン性モノマーはN,N−ジアルキルアクリルアミドであることが好ましい(請求項10)。
【0035】
カチオン性ポリマーと核酸との複合体に対し、このような本発明の核酸複合体用安定化剤を吸着させてなる本発明の核酸複合体は、該核酸複合体中の正電荷量が負電荷量よりも多く(請求項12、特に核酸複合体中の正電荷量と負電荷量との比が、2:1〜100:1であることが好ましい(請求項17)。
【0036】
複合体に用いるカチオン性ポリマーは、N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくともカチオン性モノマーを光照射リビング重合させたスター形重合体であることが好ましく(請求項13)、このイニファターは、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上のN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基が結合しているものが好ましい(請求項4)。また、カチオン性モノマーとしてはアクリル系モノマー及び/又は4−アミノスチレン(請求項15)、特に3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド及び/又は2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートであることが好ましい(請求項16)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に本発明の核酸複合体用安定化剤及び核酸複合体の実施の形態を詳細に説明する。
【0038】
<核酸複合体用安定化剤>
本発明の核酸複合体用安定化剤は、アニオン性ポリマーブロック鎖と非イオン性ポリマーブロック鎖とを有するブロックコポリマー鎖を有し、好ましくは、核となる部分から複数の前記ブロックコポリマー鎖が伸延したスター形共重合体(分岐型共重合体)よりなり、このブロックコポリマー鎖の先端側に非イオン性ポリマーブロック鎖が位置し、基端側にアニオン性ポリマーブロック鎖が位置するものである
本発明は、このようなスター形共重合体が、複数個架橋されたものであっても良い。
【0039】
このスター形共重合体としては、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基等のN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくともアニオン性モノマーを光照射リビング重合させた後、疎水性モノマーを光照射リビング重合させて、アニオン性モノマーと疎水性モノマーのブロックコポリマーよりなる分岐鎖を形成したものであることが好ましい。
【0040】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0041】
イニファターとなるN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環にN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基等のN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖化合物としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖化合物としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖化合物としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンが挙げられる。なお、ここで、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基に含まれるジアルキル部分のアルキル基としては、エチル基等の炭素数2〜18個のアルキル基が好ましいが、アルキル基に限らず、フェニル基など芳香族系の炭化水素基であっても構わない。即ち、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基に限らず、N,N−ジアリール−ジチオカルバミルメチル基等を含む、脂肪族炭化水素基及び/又は芳香族炭化水素基で置換されたN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基であれば目的を達成することができる。
【0042】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化炭化水素が好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン、中でも特にトルエンが好適である。
【0043】
このイニファターに重合させるアニオン性モノマーとしては、フェニルカルボキシル基等のpKaが5以下のアニオン性の官能基を有し、かつ炭素数が3以上の、H型において疎水性の部分を有する重合性モノマーが好適であり、このようなものとしては、例えば、芳香族カルボン酸が好ましく、特に4−ビニル安息香酸(4−カルボキシスチレン)又は3,4−ジメトキシカルボニルスチレンなどのビニルベンゼンカルボン酸が好適である。また、(メタ)アクリル酸やグリシジルメタクリレートの開環誘導体も用いることができる。なお、ビニルベンゼンカルボン酸はその他の置換基を有していてもよい。これらのアニオン性モノマーは、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0044】
一方、非イオン性モノマーとしては、N,N−ジメチルアクリルアミド等のN,N−ジアルキル(このアルキル基の炭素数は1〜5が好ましい。)アクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールアルキルエステル(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドンなどを用いることができる。これらの非イオン性モノマーは、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0045】
本発明の核酸複合体用安定化剤を製造するには、イニファターに対し、まずアニオン性モノマーを光照射リビング重合させてアニオン性ホモポリマーを得、次いで、これに非イオン性モノマーを光照射リビング共重合させる。
【0046】
イニファターと上記アニオン性モノマーとを反応させるには、イニファター及びアニオン性モノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対しアニオン性モノマーが結合した反応生成物を生成させる。この溶液の溶媒としては、アルカン、アルケン、アロマチック、ハロゲン化炭化水素が好適であり、具体的にはベンゼン、トルエン、クロロホルム、四塩化炭素又は塩化メチレンが挙げられ、中でもトルエン又はクロロホルムが好適である。
【0047】
この原料溶液中のアニオン性モノマー濃度は0.5M以上、例えば0.5〜2.5Mが好適である。イニファターの濃度は0.1〜100mM程度が好適である。
【0048】
照射する光の波長は300〜400nmが好適である。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
【0049】
この光照射により、反応液中に目的とするスター形重合体が生成するので、必要に応じ精製してスター形重合体よりなるアニオン性ホモポリマーを得る。
【0050】
このようにして生成したスター形重合体よりなるアニオン性ホモポリマーに対し、非イオン性モノマーを光照射リビング重合によりブロック共重合させて目的とする核酸複合体用安定化剤とする。
【0051】
非イオン性モノマーを光照射リビング重合によりブロック共重合させるには、上記のようにして合成したアニオン性スター形重合体(ホモポリマー)をメタノール等の溶媒に溶解させ、これに非イオン性モノマーを混合し、光を照射して重合させればよい。この重合反応を開始する際の溶液中におけるアニオン性ホモポリマーの濃度は0.01〜10重量%程度が好適であり、非イオン性モノマーの濃度は0.3〜30重量%程度が好適である。光の照射条件は、光波長250〜400nm、照射時間1〜150分、照射強度100〜10,000μW/cm程度が好適である。
【0052】
このようにして、イニファターに対してまずアニオン性モノマーを光照射リビング重合させ、次いで非イオン性モノマーを光照射リビングブロック共重合させることにより、基端側がアニオン性ポリマーブロック、先端側が非イオン性ポリマーブロックで構成されたブロックコポリマー鎖よりなる分岐鎖を有するスター形共重合体(ブロックコポリマー)を得ることができる。
【0053】
本発明において、このブロックコポリマーよりなる核酸複合体用安定化剤の分子量は、これを構成するイニファター、アニオン性モノマー、及び非イオン性モノマーの種類等によっても異なり、一概には言えないが、18,000〜180,000、特に30,000〜100,000であることが好ましい。核酸複合体用安定化剤の分子量が小さ過ぎると、本発明に好適なスター形コポリマーの分子設計を十分に行うことができず、核酸複合体用安定化剤の分子量が大き過ぎると、代謝性、生分解性などが劣る傾向にあり、好ましくない。
【0054】
また、核酸複合体用安定化剤中のアニオン性ポリマーブロックの分子量は、アニオン性ポリマーブロックを構成するアニオン性モノマーの種類等によっても異なり、一概には言えないが、3,000〜30,000、特に5,000〜15,000であることが好ましい。このアニオン性ポリマーブロックの分子量が小さ過ぎると核酸複合体の安定化効果が劣る傾向にあり、大き過ぎると、核酸複合体用安定化剤の分子量が徒に大きくなり、好ましくない。
【0055】
また、核酸複合体用安定化剤中の非イオン性ポリマーブロックの分子量は、非イオン性ポリマーブロックを構成する非イオン性モノマーの種類等によっても異なり、一概には言えないが、15,000〜150,000、特に30,000〜80,000であることが好ましい。この非イオン性ポリマーブロックの分子量が小さ過ぎると、十分な排除体積効果を得ることができず、大き過ぎると、核酸複合体用安定化剤が乳化してマクロ粒子を形成してしまい、好ましくない。
【0056】
なお、本明細書において、分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリエチレングリコール換算の数平均分子量をさす。
【0057】
また、核酸複合体用安定化剤を構成するスター形共重合体(ブロックコポリマー)中に含まれるアニオン性ポリマーブロックを構成するアニオン性モノマー由来の単位成分の数(以下、「アニオンユニット数」と称す場合がある。)は20〜200であり、非イオン性モノマー由来の単位成分の数(以下、「ノニオンユニット数」と称す場合がある。)は150〜1,500であり、アニオンユニット数がノニオンユニット数の5〜100倍であることが、十分に高い核酸複合体安定化効果を得た上で、高い排除体積効果を得るために好ましい。
【0058】
このようにして得られるスター形共重合体を架橋して核酸複合体用安定化剤として用いる場合、架橋方法としては、次のi),ii),iii),iv)の方法を採用することができるが、架橋効率及び架橋精度の点においてiv)の方法を採用することが好ましい。
【0059】
i)スター形共重合体をメタノールなど適宜の溶媒に溶解させ、加熱するか、光を照射することにより、スター形共重合体同士を架橋する。この架橋反応を開始させる際の溶液中のスター形共重合体の濃度は0.01〜10重量%程度が好適である。加熱条件は、30〜300℃、1分〜30,000時間程度が好適である。
【0060】
ii)スター形共重合体へ直接光照射や加熱処理を行うことによってスター形共重合体を架橋させる。この場合、i)の溶媒へ溶解した溶液への処理と相違して、スター形共重合体の主鎖及び又は側鎖へ発生したラジカルが溶媒によって捕捉され、スター形共重合体の架橋反応が阻害されることを抑制することが可能となる。直接光照射を行う場合は、凍結乾燥粉末を霧状に攪拌して、ここへ光を照射することで均質な処理が可能となる。なお、スター形共重合体をフィルム状に加工し、このフィルムへ処理を行うことも均質な架橋体を得る方法として好ましい。具体的には、ガラス板、金属板などの上へスター形共重合体の溶液、例えば、クロロホルム溶液を流延させ、ドクターナイフなどで液切りして均一な厚みとし、これを乾燥させることで均質なフィルムを形成させることが可能である。この場合の溶媒としては揮発性が高いメタノール、クロロホルムが好適である。
【0061】
iii)常温又は冷却下に長期間保持することによってスター形共重合体を架橋させる。例えば、4℃、−20℃などの冷却下においても15,000時間程度の時間を経過すれば十分に架橋の効果が現れる。この場合、スター形共重合体は凍結乾燥フィルムまたはフィルム状態で経時変化させることが好ましく、遮光状態でも蛍光灯程度の光が迷光として暴露されていても良い。凍結乾燥状態で経時変化をさせるのであれば、高分子量成分の乾燥重量で1.5g/50mL程度の密度とすることで均質な架橋体を得ることが可能である。
【0062】
iv)固体状態のスター形共重合体を液状エーテルに浸漬させた状態で光照射することにより、スター形共重合体同士を架橋させる。
【0063】
この場合の液状エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオクチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、ビス(メチルベンジル)エーテル、メチルブチルエーテル、ブチルヘキシルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、クラウンエーテル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
液状エーテルに浸漬させる際の前記スター形共重合体の形状としては、フィルム状、粉末状、塊状、フレーク上、ゲル状等が挙げられる。
【0065】
スター形共重合体の形状としてフィルム状を採用した場合、フィルムの厚さは10μm〜2000μm程度、特に50μm〜1000μm程度が好ましい。極端にフィルムが薄いと架橋効率が悪く、また極端にフィルムが厚いと光照射の効果及び光架橋反応においてジチオカルバミル基から脱離して生成するジスルフィド化合物のエーテル中への拡散・抽出除去の効果が十分に得られない。
【0066】
また、スター形共重合体の形状を粉末状にした場合、粉末の粒径は0.1〜1000μm程度特に100〜500μm程度が好ましい。粒径を極端に小さくすることは困難であるが、逆に粒径を大きくした場合は光照射の効果及び光架橋反応においてジチオカルバミル基から脱離して生成するジスルフィド化合物のエーテル中への拡散・抽出除去の効果が十分に得られない。
【0067】
さらに、スター形共重合体の形状を塊状、フレーク状やフレーク状にした場合は、光暴露量の均質性や光架橋反応においてジチオカルバミル基から脱離して生成するジスルフィド化合物のエーテル中への拡散性を十分に考慮して行う必要ある。
【0068】
光の照射条件は、光波長300〜400nm、照射時間1〜300分、照射強度0.1〜10mW/cm程度が好適である。なおこの光照射条件は、i)、ii)においても同様である。
【0069】
iv)の架橋方法によれば、架橋反応の際に生成すると考えられるジスルフィド化合物を固層からエーテル中へ抽出除去することにより、効率的に架橋反応を行うことができる。従って、反応を行う際に液状エーテルを撹拌することが好ましい。これにより生成したジスルフィド化合物をより効率的に液状エーテル中へ抽出除去することができる。
【0070】
さらに効率的に架橋反応を行うには、スター形共重合体の浸漬時間を1〜300分程度、液状エーテルの液温を20〜60℃程度にすることが好ましい。
【0071】
この架橋反応では、スター形共重合体の分岐鎖のジスルフィド化合物のチオ基が開いて分岐鎖同士が架橋するものと推察される。この架橋反応により、スター形共重合体が2〜10個、特に2〜5個程度架橋した高次スター形共重合体が生成する。
【0072】
<カチオン性ポリマーと核酸との複合体(1次複合体)>
次に、上述の本発明の核酸複合体用安定化剤により安定化させる、カチオン性ポリマーと核酸との複合体について説明する。
【0073】
このカチオン性ポリマーとしては、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基等のN,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくともカチオン性モノマーを光照射リビング重合させたスター形重合体が好適である。
ここで、イニファターとしては、本発明の核酸複合体用安定化剤の製造に用いるイニファターと同様のものを用いることができる。
【0074】
このイニファターに重合させるカチオン性モノマーとしては、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等のビニル系モノマーが好適であり、特に、耐加水分解性に優れることから、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートといったアクリル系モノマーや4−アミノスチレン、特に、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートといったアクリル系モノマーが好ましい。カチオン性モノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0075】
イニファターと上記カチオン性モノマーとを反応させるには、イニファター及びカチオン性モノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対しカチオン性モノマーが結合した反応生成物を生成させる。この溶液の溶媒としては、アルカン、アルケン、アロマチック、ハロゲン化炭化水素が好適であり、具体的にはベンゼン、トルエン、クロロホルム、四塩化炭素又は塩化メチレンが挙げられ、中でもトルエン又はクロロホルムが好適である。
【0076】
カチオン性モノマーの該原料溶液中の濃度は0.5M以上、例えば0.5〜2.5Mが好適である。イニファターの濃度は0.1〜100mM程度が好適である。
【0077】
照射する光の波長は300〜400nmが好適であり、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
【0078】
この光照射により、反応液中に目的とするスター形重合体が生成するので、必要に応じ精製してスター形重合体よりなるカチオン性ホモポリマーを得る。
【0079】
このカチオン性ホモポリマーの分子量は分岐鎖の鎖数によるが、各々2,000〜500,000、特に2,000〜150,000、とりわけ2,000〜100,000程度が好ましい。
【0080】
なお、カチオン性ポリマーは、前述のイニファターに対して、カチオン性モノマーと、非イオン性モノマーとを光照射リビング重合させたものであっても良い。この場合のイニファターに対する重合の順序は、任意である。即ち、1つの分岐鎖を構成するカチオン性ポリマーブロック鎖と、非イオン性ポリマーブロックの配列順序は任意である。
【0081】
非イオン性モノマーとしては、N,N−ジメチルアクリルアミド等のN,N−ジアルキルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールアルキルエステル(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドンなどを用いることができる。非イオン性ポリマーブロックの分子量は、2,000〜500,000が好適である。
【0082】
<核酸複合体>
本発明の核酸複合体は、上述のようなカチオン性ポリマーと核酸とを複合させて1次複合体とし、これに前述の本発明の核酸複合体用安定化剤を静電的に吸着させて安定化させたものである。
【0083】
カチオン性ポリマーと核酸とを複合させるには、このカチオン性ポリマーの濃度1〜1000μg/mL程度の分散液に対し、常温にて核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対してカチオン性ポリマーを過剰量添加して複合化させる。
【0084】
本発明において、カチオン性ポリマーと核酸との1次複合体は、これに更にアニオン性ポリマーブロック鎖を有する核酸複合体用安定化剤を吸着させることから、カチオン性ポリマーに由来する正電荷と、核酸に由来する負電荷の比率が好ましくは2:1〜100:1と正電荷過多とする。これにより、この1次複合体に本発明の核酸複合体用安定化剤のアニオン性ポリマーブロック鎖部分を吸着させて得られる核酸複合体が全体として正電荷を帯びることが可能となる。
【0085】
また、カチオン性ポリマーと核酸との1次複合体に対する本発明の核酸複合体用安定化剤の吸着量は、カチオン性ポリマーに由来する正電荷と、核酸及び核酸複合体用安定化剤のアニオン性ポリマーブロック鎖に由来する負電荷の比率が好ましくは2:1〜100:1と正電荷過多となるようにする。これにより、核酸複合体が全体として正電荷を帯びることにより、細胞膜へ吸着してエンドソームへ移行する。前述の通り、エンドソーム内においてアニオン性ポリマーブロック鎖はH型に変化し、二重リン脂質を主成分とするエンドソーム膜から脱出し易いものとなる。
【0086】
カチオン性ポリマーと核酸との1次複合体に、本発明の核酸複合体用安定化剤を吸着させるには、1次複合体を含む水溶液と、核酸複合体用安定化剤を含む水溶液とを混合すればよい。これにより1次複合体のカチオン性ポリマー部分に核酸複合体用安定化剤のアニオン性ポリマーブロック鎖が吸着してこれを安定化させ、核酸複合体用安定化剤の非イオン性ポリマーブロック鎖部分の排除体積効果で核酸複合体同士の接近・凝集が抑制される。
【0087】
特に、核酸複合体用安定化剤のアニオン性ポリマーブロックがポリカルボキシスチレンの場合、細胞培養の条件(生理的pH=7.4の環境下)ではNa型で親水性であるが、酸性下ではH型となってベンゼン環の疎水性の性質が強く現れる。これによって、細胞膜透過時(細胞培養の条件下)にはあくまでも親水性であり(透過性は上記の通り従来のものでも十分にあり、細胞膜へ脂質融合しないので細胞毒性は弱くてすむ)、細胞内のエンドソームへ取り込まれた後に(強酸性の環境下で)初めて疎水性となり、エンドソーム膜を効率良く、脂質融合するように透過して核へ外来遺伝子を運搬する。
【0088】
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0089】
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。また、上記のようなDNAの導入、遺伝子発現のみならず、細胞内のmRNAを破壊するRNA干渉をsiRNAの導入で行うことも可能である。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0090】
前述の1次複合体に本発明の核酸複合体用安定化剤が吸着してなる本発明の核酸複合体の粒径は50〜400nm、特に100〜200nm程度が好適である。これよりも小さいと、核酸複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
【0091】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0092】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0093】
本発明において、核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
【0094】
本発明の核酸複合体は任意の方法で生体に投与することができる。
【0095】
当該投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
【0096】
この核酸複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
【0097】
また、この核酸複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
【0098】
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
【0099】
この核酸複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
【0100】
また、この核酸複合体の水溶液を基材に塗布などにより付着させ、必要に応じ乾燥させることにより、核酸を担持したポリマーのコーティング等が形成される。
【0101】
核酸複合体を担持させた基材よりなる遺伝子導入材料は、皮下組織、心筋組織、病変組織、病変血管を包囲するようにシート状基材を配置したり、カバードステントのフィルムへ塗布することによって生体内に配置したり、生体外面に粘着テープを用いて貼り付けたりするようにして用いられる。
【実施例】
【0102】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0103】
[実施例1]
i)イニファターの合成
下記反応式に従って、1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0104】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム34.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、3リットルのメタノールへ投入して30分間攪拌して濾過した。この操作を繰り返して合計4回行った。沈殿物をトルエン200mLへ溶解した後、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、冷蔵庫中で15時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0105】
H NMR(in CDCl)の測定結果は、δ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)となった。
【0106】
【化1】

【0107】
ii)光重合による4分岐型スター形重合体よりなるカチオン性ホモポリマーの合成
下記反応式に従い、次のようにして、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAmと記載することがある。)よりなるカチオン性ホモポリマーの合成を行った。
【0108】
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(3−N,N−DMAPAAm)7.9gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で250nm〜400nmの混合紫外線を30分間照射した。照射強度はウシオ電機社のUIT−150にUVD−C405(検出波長範囲320nm〜470nm)を装着して2.5mW/cmに調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、エーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター形ホモポリマーpDMAPAAmよりなるカチオン性ホモポリマーを得た(重合率35%)。
このものの分子量はGPCにより52,000(Mw/Mn=1.3)と測定された。
【0109】
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)となった。
【0110】
【化2】

【0111】
iii)4分岐型スター形重合体よりなるアニオン性ホモポリマーの光重合による合成
1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−ポリ(4−カルボキシスチレン)−メチル]ベンゼン(以下、pCSと記すことがある。)の合成を行った。
即ち、上記i)で合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのクロロホルムへ溶解し、4−ビニル安息香酸2.0gを加えて混合し、全量をクロロホルムで50mLに調整した。ii)と同じ手法で光重合を行い、エーテル再沈殿で回収したポリマー成分を真空乾燥後に1N水酸化ナトリウム溶液へ溶解し、0.1N水酸化ナトリウム溶液で3日間、次いで、水で3日間透析した後に凍結乾燥させることでテトラキス{N,N−ジエチルジチオカルバミル−ポリ(4−カルボキシスチレン)−メチル}ベンゼン(4分岐型pCSポリマー)を得た(重合率30%)。
このものの分子量はGPCにより15,000(Mw/Mn=1.3)と測定された。
【0112】
【化3】

【0113】
iv)4分岐型スター形重合体よりなるアニオン/非イオンブロック共重合体の光重合による合成
iii)で合成した4分岐型スター形重合体よりなるアニオン性ホモポリマー0.2gをメタノールへ溶解し、N,N−ジメチルアクリルアミド(以下、DMAAと略すことがある)7.4gを混合して撹拌し、全量をメタノールで50mLとした。この溶液を重合溶液として、ii)及びiii)と同じ手法で光重合を行い、エバポレーターで濃縮後にエーテル再沈殿でポリマー成分を回収した。クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、エーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター形重合体ブロック共重合体:テトラキス{N,N−ジエチルジチオカルバミル−ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)−ブロック−ポリ(4−カルボキシスチレン)−メチル}ベンゼンを得た(重合率25%)。
このものの分子量はGPCにより82,000(Mw/Mn=1.9)と測定された。即ち、アニオン性ポリマーブロックの分子量は15,000、非イオン性ポリマーブロックの分子量は67,000で、アニオンユニット数は100個、ノニオンユニット数は670個である。
【0114】
【化4】

【0115】
v)遺伝子複合体(ポリプレックス)分散液の調製
上記ii)にて合成した4分岐型スター形重合体よりなるカチオン性ホモポリマーとDNA(ルシフェラーゼをコードするDNA、プロメガ社、pGL3−コントロール)で遺伝子複合体(ポリプレックス)を形成させた。カチオン性ホモポリマーの単位重量あたりの正電荷量は中和滴定によるイオン交換容量の測定で求めた。DNA中の単位重量あたりの負電荷量は配列マップによる塩基対数(5256ペア)と核酸塩基の平均的分子量(660Da)とから計算した。カチオン性ホモポリマー(濃度0.8μg/μLの生理食塩水溶液)60μLをDNA(濃度0.33μg/μLのトリス・HCl緩衝溶液pH=7.4)90μL中に静かに加えて混合し、室温で30分間静置して全量約150μLのポリプレックス(核酸複合体)溶液を得た。この操作によって得られるポリプレックス中のカチオン性ホモポリマーとDNA混合比は、電荷数の関係が正電荷量が負電荷量の30倍と計算できる。
【0116】
形成されたポリプレックスの微粒子径を動的光散乱[大塚電子社、DLS−8000(10mW IIe/Neレーザー)]にて測定し、その経時変化を図1に示した。
ポリプレックスは形成直後では160nmの微粒子であったが、経時的に増大して3時間後には400nm弱まで達した。ポリプレックスは正に帯電した粒子であるため、粒子同士は静電的な斥力によってある程度までは安定して分散しているものの、経時的に凝集が起こっていることが分かる。
【0117】
vi)遺伝子複合体(ポリプレックス)微粒子の表層のコーティング処理
上記v)にて調製したポリプレックス溶液へiv)で合成したアニオン/非イオンブロック共重合体の溶液を混合した。正電荷量過剰(正電荷量:負電荷量=30:1)で形成され、緩衝溶液中で静電的斥力で安定分散しているポリプレックスへアニオン/非イオンブロック共重合体を加えることで、ブロック共重合体のアニオン性ブロック鎖とポリプレックス表面へのイオン吸着が起こると考えられる。
【0118】
アニオン/非イオンブロック共重合体は終濃度が9.5mg/100mLとなるように、溶液を泡立てないように温和に撹拌しながら生理食塩水へ溶解した。v)で調製したポリプレックス溶液150μLへアニオン/非イオンブロック共重合体溶液を10μL混合してv)と同様に微粒子径を測定し、その経時変化を図1に示した。
【0119】
カチオン性ホモポリマーのみで形成させたポリプレックスは形成直後に160nmの微粒子径であり、アニオン/非イオンブロック共重合体の溶液を混合しても、混合直後に変化することはなかった。上記した濃度でアニオン/非イオンブロック共重合体をイオン吸着させても殻となっているポリプレックスは依然として正電荷を有しており、カチオン性ポリマーと遺伝子との静電的なコンジュゲートを崩壊させるほどには影響しないと考えられる。
形成直後に160nmであったポリプレックス微粒子は形成後3時間までの間で経時変化が確認されず、粒子同士の斥力によって安定して分散し、凝集が抑制されたことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】実施例1における遺伝子複合体(ポリプレックス)と、アニオン/非イオンブロック共重合体で表層コーティングしたポリプレックスの微粒子径の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性ポリマーブロック鎖と非イオン性ポリマーブロック鎖とを有するブロックコポリマー鎖を有する核酸複合体用安定化剤。
【請求項2】
請求項1において、核となる部分から複数の前記ブロックコポリマー鎖が伸延したスター形共重合体よりなり、前記非イオン性ポリマーブロック鎖が各ブロックコポリマー鎖の先端側に位置していることを特徴とする核酸複合体用安定化剤。
【請求項3】
請求項2又は3において、複数の前記スター形共重合体が架橋していることを特徴とする核酸複合体用安定化剤。
【請求項4】
請求項2又は3において、前記核となる部分はベンゼン環であることを特徴とする核酸複合体用安定化剤。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項において、スター形共重合体中のアニオン性ポリマーブロックの分子量が3,000〜30,000であり、非イオン性ポリマーブロックの分子量が15,000〜150,000であることを特徴とする核酸複合体用安定化剤。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか1項において、前記スター形共重合体の分子量が18,000〜180,000であることを特徴とする核酸複合体用安定化剤。
【請求項7】
請求項2ないし6のいずれか1項において、前記スター形共重合体は、N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくともアニオン性モノマーを光照射リビング重合させた後、非イオン性モノマーを光照射リビング重合させたものであることを特徴とする核酸複合体用安定化剤。
【請求項8】
請求項7において、前記イニファターが、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上のN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基が結合したものであることを特徴とする核酸複合体用安定化剤。
【請求項9】
請求項7又は8において、アニオン性モノマーが4−ビニル安息香酸、(メタ)アクリル酸及びグリシジルメタクリレートの開環誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする核酸複合体用安定化剤。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項において、非イオン性モノマーがN,N−ジアルキルアクリルアミドであることを特徴とする核酸複合体用安定化剤。
【請求項11】
カチオン性ポリマーと核酸との複合体に対し請求項1ないし10のいずれか1項に記載の核酸複合体用安定化剤を吸着させてなることを特徴とする核酸複合体。
【請求項12】
請求項11において、該核酸複合体中の正電荷量が負電荷量よりも多いことを特徴とする核酸複合体。
【請求項13】
請求項11又は12において、前記カチオン性ポリマーは、N,N−ジ置換−ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに少なくともカチオン性モノマーを光照射リビング重合させたスター形重合体であることを特徴とする核酸複合体。
【請求項14】
請求項13において、前記イニファターが、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上のN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とする核酸複合体。
【請求項15】
請求項13又は14において、カチオン性モノマーがアクリル系モノマー及び/又は4−アミノスチレンであることを特徴とする核酸複合体。
【請求項16】
請求項15において、前記アクリル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド及び/又は2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートであることを特徴とする核酸複合体。
【請求項17】
請求項11ないし16のいずれか1項において、該核酸複合体中の正電荷量と負電荷量との比が、2:1〜100:1であることを特徴とする核酸複合体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−274994(P2009−274994A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128562(P2008−128562)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】