説明

格子を備えるMALDIプレート構築物

サンプルの質量分析を実施するような様式で、サンプルを支持するためのMALDIプレート構築物が提供される。そのプレート構築物は、サンプル受容表面、そのサンプル受容表面を保持するためのプレートホルダ、およびそのサンプル受容表面に隣接して配置され、かつそのプレートホルダと電気的に接触している導電性格子を備える。いくつかの実施形態において、その格子は、交差する導電性ワイヤから形成され得る。このワイヤは、そのワイヤの交点の範囲内に開放領域を形成する。種々の実施形態において、その格子は、サンプルまたはサンプル受容表面と接触して配置され得、そしてレーザーからの光線がその格子の開放領域を通って、次いでサンプルまたはサンプル受容表面上に通過し、そのサンプルを脱離およびイオン化することを可能にするように配置され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権および関連出願)
本出願は、米国特許出願第10/742,423号からの優先権を主張する。米国特許出願第10/742,423号は、本明細書中にその全体が参考として援用される。
【0002】
(導入)
本教示は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)分析において有用なプレート構築物に関する。
【背景技術】
【0003】
MALDIのためのマトリックス材料の選択は、分析されるサンプル分子の型に依存し;多数の異なるマトリックス材料が公知である。マトリックス材料の仕事は、サンプル分子を互いに分離させ、サンプル分子をマトリックス中に組み込むこと、生体分子を破壊せずに、かつ可能な場合はマトリックス分子を付着させずに、蒸気の雲を形成することによってレーザー照射の間にサンプルを気相に変換すること、そして最後にプロトン化もしくは脱プロトン化または類似のプロセスにより、サンプルをイオン化することである。いくつかの例において、ある形態のサンプルまたは分析物分子を、通常は結晶性マトリックスの材料に、その結晶化の間に組み込むか、または少なくとも小さな結晶間の境界面に組み込むことが有利であることが見出されている。
【0004】
サンプルおよびマトリックスをサンプルプレートへ加えるために、種々の方法が公知である。これらのうちで最も単純な方法は、サンプルおよびマトリックスを含む溶液を、サンプル支持プレート(これは金属プレートであり得る)上にピペッティングすることである。金属プレートでは、液滴は金属表面領域上で濡れており、その領域のサイズはその滴の直径にほぼ対応し、かつその金属表面の親水性およびその液滴の特性に依存する。溶液が乾燥した後、サンプルスポットは、かつて濡れていた領域にわたって広がる小さなマトリックスの結晶からなる。代表的に、濡れていた領域の均一なコーティングは存在せず、むしろマトリックスの結晶分布は分散する。
【0005】
現在、ステンレス鋼プレートがMALDIプレートのために広範に使用される基板であり、このプレートは、薄い表面変性剤(例えば、フッ素化ポリマー)で被膜されてもよいし被膜されなくてもよい。しかし、いくつかのサンプル生成技術は、金属以外の基板(例えば、多孔性膜または動物組織)上にサンプルを置くことまたは閉じ込めることをもたらすのに向いている。これらの非金属基板は、分析されるべきサンプルの保持のためには有用であり得るが、レーザー脱離およびイオン化プロセスが、質量分析計における静電場に干渉し得る電荷をサンプル表面に与え得、不正確または有用でないサンプル分析をもたらす。この問題は、その基板またはサンプルが、電荷に対して非伝導性である場合に、特に注意される。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(要旨)
本教示は、MALDI質量分析に有用なプレート構築物を提供し、この構築物は、少なくとも1種のサンプルが置かれるサンプル受容表面、サンプル受容表面を保持するホルダ、およびそのサンプル受容表面上に配置され、かつそのホルダと電気的に接触している導電性格子を備える。いくつかの実施形態において、その格子は、交差する導電性ワイヤから形成され得る。このワイヤは、そのワイヤの交点の範囲内に開放領域を形成する。種々の実施形態において、その格子は、サンプルまたはサンプル受容表面と接触して配置され得、そしてレーザーからの光線がその格子の開放領域を通って、次いでサンプルまたはサンプル受容表面上に通過し、そのサンプルを脱離およびイオン化することを可能にするように配置され得る。
【0007】
本教示のこれらの特徴および他の特徴が、本明細書中の記載からより明かになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(種々の実施形態の簡単な説明)
以下の記載において、分析されるべき物質(生体物質(biosubstance)を含む)は、「分析物」または「サンプル」と呼ばれる。本明細書中で使用される用語「生体分子」または「生体物質」は、オリゴヌクレオチド(すなわち、生物界の必須の基本要素)、タンパク質、ペプチドおよび脂質(糖タンパク質またはリポタンパク質のような、これらの特定のアナログまたは結合体を含む)を包含する。MALDI分析に受け入れられ得る他の物質は、小分子、代謝物、天然産物および医薬品である。
【0009】
大きな生体分子の分析のために、マトリックス支援レーザー脱離およびイオン化(MALDI)によるイオン化と組み合わせる質量分析法が、標準的な方法になっている。ほとんどの割合に対して、時間飛行型質量分析計(TOF−MS)がこの目的のために使用されるが、イオンサイクロトロン共鳴型質量分析計(FT−ICRまたはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)および高周波四重極イオントラップ質量分析計ならびに上記のものの組み合わせからなるハイブリッド機器(例えば、四重極時間飛行型(Q−TOF)機器)も同様に適用され得る。
【0010】
本発明の種々の実施形態によると、MALDI質量分析法のために有用なプレート構築物が提供され、それは、間隔が空いた交差する導電性ワイヤから形成される導電性格子を備える。この格子は、ワイヤが交差する点で一緒になり、交差するワイヤにより範囲が定められる開口部を形成する2セット以上のワイヤから形成され得る。任意の数のセットのワイヤが、広範に種々の開口部形状を有する格子を形成するために利用され得る。あるいは、格子は、平坦な箔のような単一片構築物であり得、ここで所望の直径の穴が、光化学エッチングおよびレーザー機械加工のような製造プロセスにより形成され得る。種々の実施形態において、その格子は、スパッタリングまたは蒸着プロセスにより、サンプルまたはサンプル受容表面に直接置かれ得、そのサンプルまたはサンプル受容表面を横切って導電性の経路を形成する。種々の実施形態において、導電性ワイヤのセットは、同じ金属、金属合金または他の導電性材料(例えば、黒鉛、ステンレス鋼もしくはニッケル)から形成されてもよいし、異なるものから形成されてもよい。
【0011】
格子を形成するワイヤは、約0.0002インチと約0.025インチとの間の直径を有し得るか、またはその直径は、約0.0005インチと約0.005インチとの間であり得る。代表的に、格子の開口部または貫通空間(穴)は、約0.005インチと約0.100インチとの間の幅を有し得るか、またはその開口部は、約0.015インチと約0.035インチとの間であり得る。このように形成される格子は、その格子の領域の少なくとも約80%の開放領域、少なくとも約85%の開放領域、または少なくとも約90%の開放領域を有する。種々の実施形態において、ワイヤが形成され得る代表的な適した導電性材料は、ステンレス鋼、ニッケル、金などである。
【0012】
サンプル受容表面は、導電性であろうと非導電性であろうと、所望の構成において置かれるサンプル(例えば、多数の供給源からの分離したサンプルまたは液体クロマトグラフィーからの溶出液のような連続的なサンプル)を受容する任意の固形表面であり得る。種々の実施形態において、代表的な適したサンプル受容表面は、ガラス、金属、プラスチック、ポリマー性材料から形成された多孔性膜、組織切片などであり得る。膜を利用する場合、サンプルはその膜上に直接的に置かれてもよいし、ゲル(ポリアクリルアミドゲルであり得る)または組織切片のような別のサンプル支持基板によって間接的に置かれてもよい。サンプル受容表面はまた、目的の分析物またはサンプルを既に含む任意の材料(例えば、組織切片または電気泳動ゲル)であり得る。
【0013】
種々の実施形態において、サンプル受容表面は、サンプルプレートホルダにより囲まれる支持基板により支持され得る。このサンプルプレートホルダは、そのサンプル受容表面に配置され支持を提供する。サンプルまたはサンプル受容表面上のサンプルの配置は固定され得、上に置かれている導電性格子と接触し得る。この上に置かれている格子は、サンプルプレートホルダと電気的に接触している。
【0014】
本発明の種々の実施形態に従うMALDIプレート構築物は、サンプル受容表面の荷電を最小にするかまたは防ぐ、広範に種々のサンプル受容表面の使用を可能にする。そのようなプレート構築物は、有意なサンプルまたは基板の荷電が経験されるサンプル分析技術と比較して、サンプルの分析精度を向上させる。正確な理論的な説明は未知であるが、導電性格子を備えることが、サンプルプレート表面上を横切る均一な電場を提供することにより、質量分析計の性能を向上させると考えられる。このプロセスは、レーザービームにより生成された電荷の全てまたは一部を分散させ、その結果サンプルまたはサンプル受容表面に蓄積する任意の電荷が対応して減少する格子の機能により補助されると考えられる。これらの条件は、次に、導電性格子を備えないサンプルプレート構築物設計と比較して、より良い分析結果を提供する。
【0015】
図1を参照すると、MALDIプレート構築物10は、固形プレートのような支持基板14が結合され得るプレートホルダ12を備える。このプレートホルダ12は、支持基板14の周りに延び得る。多孔性膜またはスライスされた組織(ヒトまたは動物)またはステンレス鋼プレートなどであり得るサンプル受容表面16は、支持基板14上に配置され得る。導電性格子18は、格子18とサンプル受容表面16との接触を可能にするような様式で、プレートホルダ12に固定され得る。格子18は、プレートホルダ12と電気的に接触している。導電性格子18は、支持基板14またはプレートホルダ12から取り外され得る。これは、支持基板14、プレートホルダ12および格子18の保管、再使用、洗浄または修復を可能にする。格子18は、ネジのような取り外し可能な機械的デバイスによりプレートホルダ12に簡便に結合されてもよいし、スポット溶接のような直接的手段により付けられてもよい。格子18が永久にプレートホルダ12に取り付けられる場合、支持基板14およびサンプル受容表面16は、種々の構成要素部分の保管、再使用、修復または洗浄を許容するために、取り外し可能でなければならない。MALDI分析に適したレーザービームは、概略的に矢印20の向きで、サンプル受容表面16と接触し得る。このレーザービームは、格子18の開放領域を通過してサンプル受容表面16と接触し、これによりサンプル受容表面16上のサンプルを脱離およびイオン化させる。
【0016】
図2を参照すると、MALDIプレート構築物11は、プレートホルダ13、一対の導電性格子15(明確にするために、参照番号17により示される領域に通常位置する一方の格子15が取り除かれ、全体のアセンブリの詳細を示している)、一対の支持基板19および21ならびに2つの格子保持プレート23および25を備える。多孔性膜またはスライスされた組織のようなサンプル受容表面は、支持基板19および21上に配置され得る。支持基板19および21は、プレートホルダ13内に形成される隣接する開放ウェル内に配置され得、そして嵌合され得る。支持基板19および21は、ネジ27および29によりプレートホルダ13上に保持され得る。このネジ27および29は、穴35および37を通ってネジ山31および33を係合する。他の適した留め具技術が使用され得、例えば、プレートホルダ13がステンレス鋼により形成される場合は、そのアセンブリを一緒に保持するための十分な力を有する磁石が使用され得る。プレート23は、ネジ山41を係合するネジ39により、プレートホルダ13に保持され得る。プレート25は、同様に、ネジ43によりプレートホルダ13上に保持され得る。プレート構築物11が組み立てられる場合、格子15は、両方がプレートホルダ13と電気的に接触しながら、同じ平面において互いに側方に隣接して位置され得る。MALDI質量分析の完了後、ネジ27および29は、ネジ山31および33から取り外され得、その結果、支持基板19および21上のサンプル表面は、新しいサンプル表面と交換され得る。これは、プレート構築物11の種々の構成要素が、保管、再使用、修復または洗浄されることを可能にする。
【実施例】
【0017】
本教示の局面は、以下の実施例を考慮に入れて、さらに理解され得る。この実施例は、いずれの方法においても、本教示の範囲を制限するように解釈されるべきではない。
【0018】
2つのサンプルペプチド(ACTHクリップ18−39)を4700 Proteomics Analyzer飛行時間型質量分析器(Applied Biosystems,Foster City,CA)を使用して分析した。既知の構造に基づいてACTHクリップ18−39ペプチドについて計算した質量は、2465.198ダルトンである。データを取得し、ペプチドサンプルのMALDI質量スペクトルを、分子イオン領域の周辺で生成させた。図3は、質量分析における格子の効果の比較を示す。格子なし(上のパネル)では、質量スペクトルの分解能は乏しく、予想された質量値よりもより大きく(この実施例においては、計算された質量よりも3ダルトンより大きく)質量がシフトしている。MALDI分析と一緒に格子を使用する場合(下のパネル)、スペクトルは有意に改善された質量分解能を有し、質量の精度は、計算された質量のダルトンの端数の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
当業者は、以下に記載される図面は、例示目的のみのためのものであることを理解する。この図面は、いずれの方法においても、本教示の範囲を制限することを意図されない。
【図1】図1は、本発明のいくつかの実施形態が実施され得る、レーザービームと一緒に使用するMALDIプレートの概略の側面図である。
【図2】図2は、本発明のいくつかの実施形態が実施され得る、構造のより詳細が示され得るように2つの導電性格子のうちの1つが取り出されたMALDIプレート構築物の分解図である。
【図3】図3は、非導電性膜表面上のペプチド分析物混合物のMALDI質量スペクトルの比較を示す。上のパネルは、導電性格子を使用しないサンプル分析を示し、下のパネルは、導電性格子を使用するサンプル分析を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのサンプルを支持してサンプルの質量分析を実施するためのプレート構築物であって、該プレート構築物は、以下:
該少なくとも1つのサンプルが置かれる、サンプル受容表面、
該サンプル受容表面を保持するように適合された、プレートホルダ、および
該サンプル受容表面上に配置され、かつ該プレートホルダと電気的に接触している、少なくとも1つの導電性格子、
を備える、プレート構築物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの導電性格子の側方に隣接して配置される第二の導電性格子をさらに備える、請求項1に記載のプレート構築物。
【請求項3】
前記サンプル受容表面が、前記プレートホルダから取り外し可能である、請求項1に記載のプレート構築物。
【請求項4】
前記格子が、前記プレートホルダから取り外し可能である、請求項1に記載のプレート構築物。
【請求項5】
前記サンプル受容表面に対する支持を提供するように適合された支持基板をさらに備える、請求項1に記載のプレート構築物。
【請求項6】
前記格子が、交差する導電性ワイヤから形成される、請求項1に記載のプレート構築物。
【請求項7】
前記格子が、少なくとも2セットの交差する導電性ワイヤから形成される、請求項6に記載のプレート構築物。
【請求項8】
前記格子が一体の構造から形成され、該一体の構造は、その中に形成される所定の直径の複数の貫通した孔を有する、請求項1に記載のプレート構築物。
【請求項9】
前記サンプル受容表面が多孔性膜を備える、請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載のプレート構築物。
【請求項10】
前記サンプル受容表面が動物組織を備える、請求項請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載のプレート構築物。
【請求項11】
前記ワイヤが、約0.0002インチと約0.025インチとの間の直径を有する、請求項6または7のいずれか1項に記載のプレート構築物。
【請求項12】
前記ワイヤが、約0.0005インチと約0.005インチとの間の直径を有する、請求項6または7のいずれか1項に記載のプレート構築物。
【請求項13】
前記格子の開口部が、約0.005インチと約0.100インチとの間の幅を有する、請求項6、7または8のいずれか1項に記載のプレート構築物。
【請求項14】
前記格子の開口部が、約0.015インチと約0.035インチとの間の幅を有する、請求項6、7または8のいずれか1項に記載のプレート構築物。
【請求項15】
前記格子の開口部が、該格子の領域の少なくとも80%の開放領域を形成する、請求項6、7または8のいずれか1項に記載のプレート構築物。
【請求項16】
前記格子の開口部が、該格子の領域の少なくとも85%の開放領域を形成する、請求項6、7または8のいずれか1項に記載のプレート構築物。
【請求項17】
前記格子の開口部が、該格子の領域の少なくとも90%の開放領域を形成する、請求項6、7または8のいずれか1項に記載のプレート構築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−514956(P2007−514956A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545759(P2006−545759)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/041382
【国際公開番号】WO2005/061111
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(505123697)アプレラ コーポレイション (21)
【Fターム(参考)】