説明

栽培ハウスにおける茸類の摘取りライン装置

【課題】菌床に生育した茸類を容易かつ安全に摘み取ることができるとともに、摘み残しがなく作業性が良好であり、また、摘み取り作業の直後に短時間に均等に水分補給をなし得る茸類の摘取りライン装置を提供する。
【解決手段】菌床に育成された茸類を摘み取る長い作業台を配備し、作業台には摘み取り可能な速度に栽培コンテナを移動させるベルトコンベアが張設され、茸類が採取された菌床に水を補給する散水装置が作業台の終端近くに設けてあり、栽培コンテナが通気通水性を有する底板の上の上面および各側面が全開口である開放型に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、栽培ハウスにおいて椎茸等の人工栽培をする場合に、ブロック状の菌床から椎茸等を採取するために設置する茸類の摘取りライン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、椎茸等の人工栽培においては、コナラ、サクラ、クヌギ等の広葉樹の原木に種菌を接種したほだ木を用いる従来の原木栽培に代えて、広葉樹等のおが屑に種菌を混入し栄養分を補充して水でブロック状に練り固めた菌床を用い、それを栽培ハウスの中で熟成して育て、発芽させて育成した茸類を収穫する菌床栽培が多く採用される。
【0003】
従来、このような菌床栽培では、ブロック状の菌床を棚に並べ、ハウス内の温度や湿度管理とともに、散水、菌床の天地返し、菌床重量測定等の作業を行いながら、菌床を数カ月程度にわたり育て熟成させることにより発芽の時期を迎え、発芽したものを出荷できる大きさに育てて収穫する。栽培棚は、一般的にアングルやパイプ等で上下数段において横長に組み立てられ、一ハウス内に通路を隔てて多数の棚が配置される。茸類の収穫は、このような棚に菌床を並べたまま摘み取ることで行われるが、収穫時期には菌床が水を欲っしているので、摘み取り作業の後には散水により水を補給している。
【0004】
栽培棚は、図6に示すように、作業員の背丈よりもやゝ高く7段程度であって、空調管理が行き届き散水の水が流下しやすくするために、各段が横桟を平行に架設してなる不安定な棚であって、幅中央を境に左右にその棚があって、両側の棚にそれぞれ2列に菌床50を配置するようになっていた。また、この散水のために、栽培棚の上にスプリンクラー52を設置していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
栽培棚における茸類の摘み取り作業は、同図に示すように、最初に目線以下の1段〜6段の範囲で順次横へ摘み取りを行い(下の矢印)、最後に7段(棚の上面)の摘み取り(上の矢印)を行うことにしていたが(符号(1)〜(5)参照)、最上段は目線が届かないので、棚枠に足を掛けて跨がりながら、上った状態で横に移動しながら摘み取る場合もあったが、そのような状態では、摘み取りが容易でなく転落する危険があることはもとより、摘み取った茸類をかご58に投入するのに不都合であり、また、収穫の作業性が悪かった。
【0006】
さらに、摘み取りの作業性については、上からの見通しができないにもかかわらず前記したように菌床50が奥行きのある2列配置であり、しかも、栽培棚と栽培棚との間の通路が目線の移動に不自由となるくらいに狭いため、摘み取りに適する大きさに生育した茸類を見落とすことが多く、見落としがあると、過大して商品価値の劣ることになるという問題があった。
【0007】
散水については、各棚には菌床50を上下で千鳥状に配置することにより、スプリクラー52による水が菌床伝わりに流下する間にできるだけ各菌床50,50,・・に触れるように考慮される。しかし、下端の菌床に水を行き届かせるには30分〜3時間というように非常に時間がかかり、しかも、上段と下段との間に補給水分量に大きな隔たりが生じ、結果的に無駄となる多量の散水が必要であった。なお、水分補給により菌床は発熱するが、発熱が過大であると、採取後に低温移行がコース設定されているときそれに反することになる不都合があった。
【0008】
この発明は、上記のような実情に鑑みて、菌床に生育した茸類を容易かつ安全に摘み取ることができるとともに、摘み残しがなく作業性が良好であり、また、摘み取り作業の直後に短時間に均等に水分補給をなし得る茸類の摘取りライン装置を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、第1発明は、菌床の熟成および発芽を促進するように空調設備を備えるとともに、その菌床を配列して収納する多数の栽培コンテナと、栽培コンテナを積み重ねて搭載する多数の台車とを配備してなる栽培ハウス内において、菌床に育成された茸類を摘み取る長い作業台を配備し、作業台には摘み取り可能な速度に栽培コンテナを移動させるベルトコンベアが張設され、茸類が採取された菌床に水を補給する散水装置が作業台の終端近くに設けてあり、栽培コンテナが通気通水性を有する底板の上の上面および各側面が全開口である開放型に形成されていることを特徴とする茸類の摘取りライン装置を提供するものである。
【0010】
茸類の摘取りライン装置を上記のように構成したから、台車の上に栽培コンテナを積み重ねた状態でその中において菌床の熟成と茸類の発芽と育成を行うことができる。いずれにしても、茸類が出荷に適した大きさに成長したときには、台車の移動により栽培コンテナを作業台に運び、それを一個ずつベルトコンベアに載せて移動させ、その中途において作業員が摘み取りを行う。
【0011】
栽培コンテナは、上面および各側面が全開口であって、収納されている各菌床を見通しやすいとともに、それに発育している茸類に手が届きやすい。しかも、移動が伴うと見通しと手届きがさらに全方位となるため、出荷に適した大きさの茸類を見落とすことなく確実に摘み取ることが可能となる。また、作業員の移動や危険な動作も不要である。
【0012】
散水についても、上記のように栽培コンテナが全開口であることから、菌床に対して散水を受け入れやすい。しかも、栽培コンテナの移動により噴霧器と菌床との相対的位置関係の変化が伴って一挙にして散水が菌床の全面に及び、散水の無駄がなく効率的である。特に、請求項2に記載の如くすると、トンネル内に噴霧の雰囲気が封じ込められるから、水の補給が均等かつ無駄なく行われ、水の利用において効率性が非常に良好となる。
【0013】
第2発明は、菌床の熟成および発芽を促進するように空調設備を備えるとともに、その菌床を配列して収納する多数の栽培コンテナと、栽培コンテナを積み重ねて搭載する多数の台車とを配備してなる栽培ハウス内において、台車を走行させる架設又は敷設のレールが高温室や低温室等の異なる室から摘取りラインに集合するように敷設されるとともに、摘取りラインからそれらの室に復帰可能に敷設され、摘取りラインにおいては、その終端に摘み取りが終了した台車について菌床に対する散水装置を設けてあることを特徴とする茸類の摘取りライン装置を提供するものである。
【0014】
上記の構成によれば、台車がレールに沿って並ぶことから、台車の並びにより栽培コンテナが縦横に配列される栽培棚が構成されるので、この状態において、菌床の熟成や熟成管理等の作業をなし得る。そして、収穫時期に至ると、台車で摘取りラインに搬送し、停止または低速走行状態において栽培コンテナ内の菌床から上記と同じように出荷に適した茸類を見落とすことなく収穫でき、収穫が終わると散水装置に搬送し同じように効率良く水の補充をなし得るから、その後要領良く高温室や低温室に復帰させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、この発明によれば、全開口の栽培コンテナを摘取りラインに移動させながら収穫するので、その内部を十分に見通しながら、菌床に生育した茸類を容易かつ安全に摘み取ることができるとともに、摘み残しがなく作業性が良好であり、また、摘み取り作業の直後に短時間に均等に水分補給をなすことができるので、散水の量的および時間的無駄がなく、各菌床について補給水の均等性が得られるから、後続の作業や管理も統一して合理的になし得るという優れた効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1ないし図3は、第1発明の一実施例の形態を示したもので、その茸類の摘取りライン装置は、多数の栽培コンテナ1で菌床3を育成し茸類を育成する環境ないし設備を整えた栽培ハウス内Pにおいて、ベルトコンベア5により栽培コンテナ1を搬送する摘取りラインとしての作業台2が配置され、作業台2の先端近くに散水装置7が設けられ、手前に栽培コンテナ1の積込みロボット9が、先方には積卸しロボット11がそれぞれ配置される。
【0017】
栽培ハウス内Pは、空調設備による温室や低温室を具備しており、菌床13の熟成や茸類の発芽および育成は、栽培コンテナ1の中において行われる。したがって、従来のような栽培棚は必ずしも要しなく、台車15に多数の栽培コンテナ1,1,・・を積み込んだままその菌床13の熟成ないし茸類の育成が順調に行われるように、温室や低温室に選択的に配置転換される。茸類の摘取りライン装置には、菌床13が収穫期を迎えたときに台車15により栽培コンテナ1が差し向けられる。
【0018】
栽培コンテナ1は、プラスチックにより成形され、四角立方体であるが、底板17に各隅角から支柱18,18,・・を立設し、それらで矩形の上面枠19を支持する構造において、上面と左右前後の各側面が全面的に開口した全開口22,22,・・となっている。また、底板17が通気通水性を有する網目状となっている。さらに、底板17には、縦横のリブ25,25を形成するとともに、その交差部分に菌床13,13,・・が載置される受け29,29,・・が形成され、各受け29に菌床13が突き刺される支持突起31,31,31が突設される。
【0019】
栽培コンテナ1の使用については、各受け29,29,・・に菌床13,13,・・を差し付けることにより、それを間隔置きに配列して収納した状態で台車15に積み込む。原則的には、この積み込みの状態のまま収穫期までの栽培管理を行うが、栽培管理のための天地返しや散水、計量を行う際には、この発明の茸類の摘取りライン装置を通してその作業を効率的に行うこともできる。つまり、茸類の摘取りライン装置は他の用途にも使い得るものである。
【0020】
いずれにしても、台車15に積み込んだ状態で菌床13の熟成や発芽育成に適した通気性が良好であり、また、そのままの状態で栽培管理を都合良くなし得る。また、台車15を温室や低温室に配置転換しながらも環境を変えて合理的に栽培管理をなし得る。そして、収穫可能な適合期になると、その栽培コンテナ1,1,・・を積み込んだ台車15を茸類の摘取りライン装置に向かわせる。
【0021】
摘取りライン装置は、この栽培コンテナ1を一端から他端に移送する作業台2が主体としてなるもので、移送手段としてベルトコンベア33が張られている。そこで、積込みロボット9で台車15から栽培コンテナ1をベルトコンベア5に載せると、それが作業者の前を通過するが、栽培コンテナ1が上面および各側面が全開口22,22,・・であるので、菌床13に適当な大きさに生育した茸類を見落とすことはなく、確実にそれを摘み取ることができる。摘み取りが終わると、菌床13に生育が未だ小さい茸類が残っている状態となるが、栽培コンテナ1が散水装置7に至って、そこにおいて以後大きく生育させるに要する水の補給がなされる。
【0022】
散水装置7は、トンネル32を通過するときに散水するようにしたもので、センサーにより栽培コンテナ1の到来が検知されると、それが通過し得るように扉37,38が開閉する。内部においては、天壁33の中央部に栽培コンテナ1の上面全開口22に向く前後一対の噴霧器39,39を、前後面壁35,35にはそれぞれ側面全開口22,22に向かう左右一対の噴霧器40,40が設けられる。
【0023】
したがって、栽培コンテナ1の移動との相対的な関係において、噴霧器39,40からの霧状噴水が各菌床13,13,・・の全面に均等に注がれ、また、密閉内に霧の雰囲気が生じるので、給水効率が非常に良好である。そのため、積卸しロボット11により台車15に積み込んだとき、その栽培コンテナ1を低温室にコース設定される場合には、菌床13に給水過多による過剰な発熱がなくなり、その低温設定に不都合が生じないことになる。
【0024】
図4および図5は、第2発明について別々の実施形態を示し、栽培ハウス内Pにおいて台車15がそれぞれ敷設レール51の上を走行するようにしたもので、いずれも摘取りライン2aに台車15が向かっている。そして、摘取りライン2aの終端に散水装置7が設けられる。また、摘取りライン2aでは、台車15が摘み取り可能に停車又は低速となる。したがって、作業台に積込み、積卸しするような作業は不要である。また、摘み取りの作業性は、最初の実施形態におけるような単体の条件よりも悪化するが、全体的に見れば作業者の移動は少なく、収穫作業効率は上がると考えられる。
【0025】
図4に示す場合は、台車15が一台ごとの移動によるもので、このため散水装置7は、トンネル32が一台が収納される程度に短い。そして、その中にレール51が敷設され、多数の栽培コンテナ1,1,・・を積み上げた台車15が通過できるように、入口と出口が高いが、間口よりも狭く形成され、両方に縦長の扉53,53が横付けに取り付けられ、天壁と左右側壁と、前後の間口壁とにそれぞれ噴霧器39,40が取り付けられる。
【0026】
図5においては、自動牽引車55が後続の多数の台車15,15,・・を牽引して、低温室(又は高温室)から摘取りライン2aに至った状態を示したもので、摘取りラインでは停車又は低速の状態で収穫作業が行われる。また、散水装置7は、長いトンネル状に形成され、その間を通過するうちに各菌床に万遍なく散水が行き届くよう長手方向に点々となるように、内周には千鳥状に噴霧器39,39,が配列される。
【0027】
なお、従来、自動牽引車などの機械は茸類の栽培施設には適さなかった。その要因について、従来の栽培ハウスの場合、図6に示したように、固定棚の上にスプリンクラー52を設けて散水処理を一括して実施していたためハウス内は常時、高湿度状態(平均湿度:80%以上)であり、電子機器等の故障しやすい環境にあったからである。
【0028】
これに対して、本願発明の場合であると、散水はトンネル32内の限られた密閉空間において行われるため、他の電気機器に湿度の悪影響を及ぼすことはない。したがって、栽培ハウスの中を温度や湿度等の異なる環境に仕切って、仕切られた室に栽培コンテナ1を配置転換をすることにより効率の高い生産管理をなすことが可能となり、また、この方式によれば空き工場内や空きビルのフロアーの有効利用にも適する。
【0029】
この発明においては、栽培コンテナ1が重要な役目を果たすものであるが、これについては、底板17が通気通水性を有し、上面および各側面が全開口であるならば、形状ないし構造を特に限定するものではない。例えば、底板17が着脱可能な別体構造であっても良い。また、網目状であることは必ずしも要しなく、菌床13を安定して支持できるならば格子状であっても良い。さらに、前記実施形態では菌床6個入りであるが、4個入り、8個入り、10個入り等とすることができる。そして、全開口22が広すぎることになるときには中途に補強桟を入れることがあってもこの発明の趣旨に反しないものとする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1発明の茸類の摘取りライン装置を示すとともに、一部を仮想線の円内に拡大して示す正面図である。
【図2】同茸類の摘取りライン装置に要する栽培コンテナの一例を示す斜視図である。
【図3】同茸類の摘取りライン装置に要する散水装置の一例を示す正面から見た断面図である。
【図4】第2発明の一実施形態を示す茸類の摘取りライン装置の一部断面した正面図である。
【図5】第2発明の他の実施形態を示す茸類の摘取りライン装置の一部断面した正面図である。
【図6】従来例を説明する栽培棚の正面図である。
【符号の説明】
【0031】
P 栽培ハウス内
1 栽培コンテナ
2 摘取りラインとしての作業台
2a 摘取りライン
5 ベルトコンベア
7 散水装置
13 菌床
15 台車
22 全開口
31 作業台
32 トンネル
37,38 扉
39,40 噴霧器
51 レール
55 牽引車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌床の熟成および発芽を促進するように空調設備を備えるとともに、その菌床を配列して収納する多数の栽培コンテナと、栽培コンテナを積み重ねて搭載する多数の台車とを配備してなる栽培ハウス内において、菌床に育成された茸類を摘み取る長い作業台を配備し、作業台には摘み取り可能な速度に栽培コンテナを移動させるベルトコンベアが張設され、茸類が採取された菌床に水を補給する散水装置が作業台の終端近くに設けてあり、栽培コンテナが通気通水性を有する底板の上の上面および各側面が全開口である開放型に形成されていることを特徴とする茸類の摘取りライン装置。
【請求項2】
前記散水装置は、ベルトコンベアを跨ぐトンネル形であって、入口と出口に栽培コンテナの通過時に開く扉を設けてあり、トンネルの天壁に栽培コンテナの上面の全開口に向かう噴霧器を、前後面壁には栽培コンテナの側面の全開口に向かう噴霧器をそれぞれ設けたことを特徴とする請求項1記載の茸類の摘取りライン装置。
【請求項3】
菌床の熟成および発芽を促進するように空調設備を備えるとともに、その菌床を配列して収納する多数の栽培コンテナと、栽培コンテナを積み重ねて搭載する多数の台車とを配備してなる栽培ハウス内において、台車を走行させる架設又は敷設のレールが高温室や低温室等の異なる室から摘取りラインに集合するように敷設されるとともに、摘取りラインからそれらの室に復帰可能に敷設され、摘取りラインにおいては、その終端に摘み取りが終了した台車について菌床に対する散水装置を設けてあることを特徴とする茸類の摘取りライン装置。
【請求項4】
台車は前後に他の台車を連結可能に構成され、レールには、連結された多数の台車を引っ張る牽引車を具備していることを特徴とする請求項3記載の茸類の摘取りライン装置。
【請求項5】
散水装置は、前記架設又は敷設のレールが貫通するトンネル形であって、トンネル内には、台車に積まれる栽培コンテナ内の各菌床に均等に水分が当たるように他方位に噴霧器が配列されていることを特徴とする請求項3又は4記載の茸類の摘取りライン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−301727(P2008−301727A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149898(P2007−149898)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(306009042)上田産業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】