説明

栽培方法及び栽培床

【課題】栽培床の耕土中で増殖する細菌や線虫、更には余剰肥料や塩分などの成育妨害成分を有効に低減させる方法や、該方法に使用する栽培床及びこれを利用した畑作物や水田作物の栽培方法を提供する。
【解決手段】
不透水性の底部と不透水性の枠体から構成される槽内に耕土を収容し、耕土上への水張りと耕土からの水抜きができるようにした栽培床において、一定期間水張りし、次いで耕土の水抜きをして栽培床を乾燥させる。好ましい栽培床は、耕土からの水抜きを良好にするために底部に傾斜を設け、且つ枠体コーナー部或いは低くなった底部側の枠体の一部を開放可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培床の耕土中で増殖する細菌や線虫更には余剰肥料や塩分などの成育妨害成分を有効に低減させるもので、畑作物や水田作物を栽培する栽培床に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物、殊に畑作物には、メロン、スイカ、胡瓜、トマト、ナス、イチゴ、ビーマン、里芋など連作を嫌うものが多い。その大きな理由の一つに線虫やフザリウムがある。同じ作物を連続して栽培すると、その植物の根に寄生して害をなす線虫やフザリウムなどの微生物が増殖し植物に大きな被害をもたらす。特に、メロンは甚だしく、土壌殺菌をしない場合は一作ごとに新しい山土と入れ換えないと良質なものが得られないほどである。他の作物でも、病気がでるなどして減収になるものが多く、これを防ぐために土壌殺菌その他の農薬処理が必要となる。
【0003】
ところが、本発明者は同じ畑で里芋やキュウリ、トマト、ナスビ等を長年連作してきたが、連作障害(イヤ地現象)は殆ど全く生じていない。ある時、他の農家では連作障害がでるため輪作したり土壌消毒を行っているのに何故自分の畑では連作障害が生じないのか不思議に思い、その原因を追求してみた。そこで、思い当たったのは、土作りと給水である。本発明者の畑には、落ち葉が溜まった沼状の溜池があり、その泥を腐食した落ち葉とともに畑の土に混ぜ、また溜池の水を給水してきたことである。
【0004】
そういえば、稲の場合何百年連作しても連作障害は起こらない。これは、水田で発生する線虫は害をしないものが多くまた濃度も低いことによると思われる。このことを利用して、稲の裏作としてトマトやナスを栽培することが一部で行われているが、連作障害無く長年続けられている。
【0005】
ある資料(非特許文献1)によれば、水田や河川その他湛水状態のところには光合成細菌が非常に多く存在し、この光合成細菌が連作障害の原因の一つであるフザリウムによる発病を抑えることが記載されている。また、湛水状態のところには線虫が少なく、らん藻やアオミドロなどの緑藻類が繁殖しており、有機物も多い。更に、水田では排水時に余分な農薬などが除去されることも理由の一つと思われる。
【0006】
これに対し、畑作物では線虫やフザリウムなどの病原体による連作障害の対策として、土壌消毒が行われている。従来、汎用性が高く広く行われていた臭化メチル燻蒸は、臭化メチルがオゾン層を破壊するということから原則禁止となった。その代替えとして、クロルピクリン剤等の薬剤燻蒸や、太陽熱消毒、蒸気や温水による消毒(特許文献1、2)等が行われている。しかし、いずれも手間がかかるうえに有用微生物も死滅させるおそれが大きい。
【0007】
一方、本発明者はレンコン栽培についも長年研究を続け、浅い栽培床で高品質のレンコンを得る方法を開発した。従来から、レンコン栽培と言えば泥田で格闘するイメージがあるが、現在でも沼地や低湿田などで栽培され続けており、殊に収穫時は大変な作業となる。これは、レンコンが深く潜る性質があり、深く潜らない粘質土壌水田では低品質のものしか得られず、深い泥田で栽培したものに高品質のものが多いと言われていることによる。
【0008】
そこで、深い泥田でも収穫時の作業を容易するために様々な技術が提案されている。例えば、泥田中にシートやネットを張ってレンコンが深く潜らないようにしたり(特公昭57−19926:特許文献3、特開昭62−282519、特開昭63−105614)、引き揚げ可能な籠や網或いは筒の中で栽培したり(特開昭61−81730:特許文献4、特開昭57−22622)、縦横1m程度深さ30cm程度のプラスチック製の鉢で栽培(特許3416667:特許文献5)するとか、泥田中に深さ15〜25cmの位置に礫等からなる硬地盤層を設けたり(特開平9−121696:特許文献6)するなど、様々な工夫が凝らされている。
【0009】
しかし、特許文献3のように深い泥田中にシートやネットを張ることは実際上困難なことであり、レンコンの茎が10前後も伸びしかも枝分かれすることを考えると特許文献4、5の技術はレンコン栽培には全く不向きなものである。また、特許文献6の場合、礫層を設けるには多大な労力と費用が必要でしかも地盤沈下の問題がある。
【0010】
そこで本発明者は、これらの欠点がなく栽培の省力化が可能な設備の開発に試行錯誤を重ねた末、地面上に囲いを作ってレンコン栽培殊に収穫作業が極めて容易簡単な栽培床を開発した。これは、整地した地盤の周りを板枠で囲い、その内部をプラスチックフイルムで覆って8〜15cm程度の耕土を入れ、その上に3〜20cm程度水を張ってレンコンを栽培するものである。
【0011】
この栽培床は、レンコン栽培にとって常識外れな浅いものであるが、レンコンは伸び伸び成長し、極めて高品質のものが高収率で栽培できた。その理由の一つとして、水層や耕土層が浅いため春先からの地温や水温の上昇が大きく、レンコンの芽や葉の成長が早いためレンコンの生育が良好になったものと考えられる。また酸素の供給が多いことも理由の一つと思われる。
【0012】
ところで、レンコンは肥料嫌いをしない植物とされ、従来の深田栽培では初めの段階で大量の肥料が投入される傾向にある。これは、茎やレンコンが成長すると田に入れなくなるので追肥が難しいことも原因している。そこで本発明者も、数年間人糞を発酵させた肥料や化学肥料を多めに与え続けた。その結果、塩分や余剰の肥料成分が耕土の底に溜まり(所謂悪水)、レンコンの成育に悪影響が出始めた。即ち、4〜5年経つとレンコンの表面から内部にかけて小さな黒い斑点が多数生じ商品価値を低下させた。この栽培床で得られるレンコンは、酸素の供給が多いためか色白のため、黒い斑点は非常に目立つことになる。
【0013】
これは、従来の深田栽培では余剰の肥料分は流出したり底部深くに沈降するので影響は少ないが、前述の栽培床では排水ができずまた耕土の底に溜まった塩分や余剰の肥料分の逃げ場がないことによるものと推察された。前述の粘質土壌水田では低品質のものしか得られないというのは、レンコンが深く潜れないと言うより、余剰の肥料分などが沈降できず粘質土壌に溜まって悪影響を与えることの方が大きいと思われる。
【0014】
そこで、本発明者は耕土の底に溜まった塩分や余剰の肥料分を除去するために栽培床から水抜きして乾燥させることを考えた。この種のものとしては、特許文献7に示す田畑輪作装置が既に提案されている。この特許文献7の装置は、槽内の透水材層の上に土層を設け、通水口を具備する配管を透水材層中に配置し、配管の一端を給水装置に他端を排水口として槽外に位置させ、排水口の高さを調節することにより水田と畑に使い分け、また排水をもさせるものである。
【0015】
ところが、この従来の田畑輪作装置は、田畑変換の水位調整や排水がうまくいかないと思われる。即ち、この装置における水の排出は透水材層中に配置した配管により行うが、水田使用時の攪拌や畑使用時の耕耘により炭が浮いたり両層が混合されるなどして透水材層の役目を果たさなくなり、また配管に傾斜が無いことから水の排出は非常に困難だと言う欠陥を有している。更に、栽培する植物の根は透水材層にも到達するので排水の邪魔になり、その除去が必要になる。特に、レンコンの場合は装置の底を這うようにして茎を延ばしてレンコンが成長するので、この田畑輪作装置では栽培することは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平11−169054号公報
【特許文献2】特開2004−121235号公報
【特許文献3】特公昭57−19926号公報
【特許文献4】特開昭61−81730号公報
【特許文献5】特許3416667号公報
【特許文献6】特開平9−121696号公報
【特許文献7】特開2000−69869号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】「光合成細菌で環境保全」((社)農山漁村文化協会 1996.9.10第5刷発行)21頁、121頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
水張りにより土壌中の細菌や線虫を殺し、水抜きにより余剰肥料などの成育妨害成分を栽培床外に排出するとともに耕土(土壌)を乾燥することができる栽培床の殺菌殺線虫及び成育妨害成分排除方法、及びこの方法を有効に実施するための栽培床を提供する。また、水張り期間にはレンコン、くわい、芹、稲などの水田植物を栽培し、湛水期間以外は、土壌の乾燥と水抜きができるように枠体の一部を除去してメロン、スイカ、トマト、里芋、キュウリ、イチゴ、ナスなど連作を嫌う畑作植物を栽培する方法を提供する。更に、商品単価の高いレンコンに特化した栽培床を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の方法或いは装置は、上記従来技術の欠点を解消すべく行われたもので、不透水性の底部と枠体から構成される槽内に耕土を収容し耕土上への水張りと耕土からの水抜きができるようにした栽培床において、一定期間水張り(湛水)し次いで耕土の水抜きをして栽培床を乾燥させることにより、耕土中の殺菌や殺線虫を行うとともに土壌中に生じた成育妨害成分を排除するものである。耕土からの水抜きは、耕土上の水を排水したのち或いは耕土上の水(湛水した水)の排水とともに枠体の一部を開放或いは開孔して行うものである。底部に緩やかな傾斜を設けると、耕土からの水抜きがより良好に行われる。
【0020】
そして、水張り期間(湛水期間)や乾燥期間を利用して水田作物と畑作物をそれぞれ栽培する、或いはこれらの期間休養させる。いずれの期間を長くするか或いはどの季節にもってくるかは、栽培する作物のいずれを主とするかなどにより決定される。尚、栽培床をビニールハウス内に設けて季節の調節をすることもできる。
【0021】
レンコン、クワイ、稲などの夏型水田作物を主眼において栽培する場合は、水張り期間は主として春〜秋とし、収穫後に栽培床を乾燥させる。芹のような冬型水田作物の場合、水張り期間は主として秋〜春である。栽培床の乾燥は、2〜5年に1回程度、人糞肥料使用の場合は3年に1回程度行うのが好ましい。乾燥に要する時間は、耕土の厚みや栽培床の底部の傾斜の有無や程度にもよるが、夏期で1ケ月程度、冬期で3ケ月程度である。水田作物を連作する場合は、土壌中に溜まる塩分や余剰肥料成分などの成育妨害成分を排除し併せて土壌を空気や日光に晒すことが目的であるため、乾燥してからの期間は短くてもよい。
【0022】
トマトやメロン、スイカ、トマト、里芋、キュウリ、イチゴ、ナスなど畑作物の場合は、一定期間水張りした後に栽培床を乾燥させ、乾燥期間中に行う。栽培床の水張りは、作物に応じて1〜3年に一回2ケ月〜1年程度行う。これは、畑作物の場合線虫や細菌の殲滅が主な目的であり、線虫の種類によっては2ケ月の水張りで衰弱死亡するが中には1年以上生存しているものもあることによる。特に、メロンの場合は1年程度の水張りが好ましい。
【0023】
畑作物と水田作物の組み合わせによっては、水張りと乾燥を1年の間に交互に或いは1年交代で行い、水張り期間中に水田作物、乾燥期間中に畑作物を栽培すようにすることもできる。例えば、春〜秋に稲作をし、秋〜春にはハウス内でトマトを栽培するとか、レンコンとメロンを隔年に栽培したり1年毎にレンコン→トマト→レンコン→ナスビなどを輪作するなどである。
【0024】
本発明の栽培床は、不透水性の底部と同じく不透水性の枠体を有する槽内に耕土を適宜厚に収容するとともに耕土上に水を張れるようにしたもので、且つ、耕土からの水抜きを良好にするために底部に傾斜を設け、枠体コーナー部或いは低くなった底部側の枠体の一部を開放或いは開孔可能にしたものである。また、耕土上に張った水を排水するために枠体に排水口を設けたり、耕土上に張った水の深さを調節するために枠体にオーバーフロー口を設けたりするが好ましい。
【0025】
今、幅よりも長さが長い栽培床1を考えると(図1〜図4)、枠体2は左右の側枠3、4と前枠5及び奥枠6から構成され、この枠体2と底部7で構成される槽8に耕土を収容したものが栽培床1である。長さが短い(5〜10m程度)場合は、図1に示すように底部7は一方に傾斜させ、低い側の前枠5の一部又は全部或いはコーナー部を取着自在や開閉自在にすることで開放可能とする。符号9は土留め用の透水壁である。長さが長く(20m程度まで)なれば、底部7は図2に示すように長手方向の中程を高くし、前枠5と奥枠6の両方を開放可能にすると、水抜きが促進される。尚、底部7の傾斜角度αは、1mにつき0.2〜3cm程度で、小さすぎると水抜きがしづらいくなるし大きすぎると手前側と奥側で水深や耕土の深さに差が出すぎる。より好ましくは0.5〜2cm前後である。
【0026】
尚、耕土からの水抜き時に使用する透水壁9は、枠体の内側に予め設置しておいてもよいし、枠体を取り外したり回転して開放したり孔の栓を除去して開孔した後に設置するようにしてもよい。透水壁9は、棕櫚や人工棕櫚その他網状等目の細かいものが望ましい。また、本発明では、排水と水抜きを区別している。排水とは耕土上に張った水を系外に排出することを言い、枠体上部に排水口を設けたり、枠体の内側がフイルムやシートで覆われている場合には枠体の一部を除去しフイルムやシートの端を低くして行う。一方、水抜きとは耕土中に含まれる水分を徐々に系外に排出することを言い、排水に比べて時間がかかる。水抜きは、低くなった底部側の枠体の一部や全部あるいはコーナー部を取り外したり回転させて開放したり孔を開孔したりして、耕土から徐々に水を排出乾燥させる。水抜きに要する時間は、時期や栽培床底部7の傾斜の有無や程度、耕土の厚みなどによる。底部7の傾斜が1m当たり0.5cm、耕土の厚みが10cmの場合、夏期では1ケ月程度、冬季では3ケ月程度で水抜きされる。
【0027】
栽培床の大きさは、小さすぎると効率が悪いが、長さと幅が共に長くなり過ぎると水抜きに時間がかかる。幅が数m〜十数m程度であれば、長さは数十m〜百m以上でもかまわない。但し、この場合には図3に示すように、底部7を、底部を横断する谷10が一か所以上できるように凹凸状とし、該谷10の部分の側枠2,3の一部11を取着や開閉で開放できるようにして、該部分からも水抜きをするようにするとよい。谷10の部分には底部を横断する溝12を堀り、水抜きパイプ13を設置するとよい。水抜きパイプ13の周囲には礫14を充填すると水抜きがよりスムーズに行われる。尚、水抜きの際に、図3のように溝12の前後(両側)の耕土を除去し、透水壁15を設置してもよい。
【0028】
栽培床の幅(内法幅)は8〜9.6m程度以下にするのが好ましい。これは、槽をシートやフイルムで不透水性化する場合、市販のハウス用フイルム(有効幅8.4〜10m)がそのまま使用できて経済的であるうえ、収穫物の栽培床外への搬出が楽に行えることによる。必要な枠体の内法高さは、耕土や湛水層の厚みにより20〜70cm程度であり、枠体内側も上記フイルムで覆うとすると、栽培床の幅(内法幅)は7.5〜9m程度となる。更に、幅を二分するように長さ方向に歩行橋を設けると、手を伸ばして除草やスポット消毒ができるので、レンコンなど水田作物栽培の場合栽培床中へ入らずにすむ利点もあることによる。二分した場合、幅はそれぞれ4m前後であり、耕運機の使用も可能である。栽培床の長さは100m以上でも可能であるが、内法長さが20m程度のものであれば中間山地でも設置可能であり、長手方向の中程を高くすれば水抜きも容易で設備費も発泡スチロールにモルタル床張の場合数十万円程度で手頃である。この場合、栽培面積は7.5×20=150m2 =1.5aとなる。尚、発泡スチロールにモルタル床張りで枠も発泡スチロール製とし、軽量土壌を用いれば、屋上緑化などに最適なものが得られる。
【0029】
前枠5や奥枠6は図4(a)のように一部5a或いは全体を取着自在としたり、図4(b)のように一部5bを回転自在としてもよいが、図4(c)に示すようにコーナー部5cのみを取り外しできるようにしてもよい。図4(d)のように前枠5の中央部5dを凹ませると、水がコーナー部に集まりやすくなる。図4(e)に示すように、前枠5や奥枠6の下方寄りに蓋5eをした透孔5fを設けておき、蓋5eを除去して水抜きを行うようにしてもよい。図4(c)や図4(d)の場合、コーナー部5c′のように三角柱状としてもよい。いずれの場合においても、透水壁9はこれらの内側に設置或いは後付けする。
【0030】
図1〜図4では耕土や水は省略(図4では、透水壁も一部省略)してある。また、底部や枠体の不透水性についても触れていない。不透水性は、底部や枠体の素材自体に起因するか、或いは底部と枠体で構成される槽の内側をフイルムやシートで覆うことにより得られる。例えば、底部や枠体をコンクリートで作ると完全なものが得られるが、コストがかかる。簡単なものでは、ある区画された地面上に板やパネルを枠状に配置して杭止めし、内部をシートやフイルムで覆うものも考えられる。両者とも、前枠や奥枠の一部や全体或いはコーナー部分は取り外しなどで開放或いは開孔できるようにする必要がある。
【0031】
底部として、枠体で囲んだ地面上に敷設した底用発泡スチロール板の上面に、シート或いはフイルムを介してモルタル層を設けたものがより好ましい。これは比較的低コストであるとともに、発泡スチロール板が断熱層の働きをし、耕土の保温昇温に役立つことによる。また、モルタル層のために礫を踏みつけてもフイルムやシートを傷めず、また耕運機作業が可能になる利点がある。モルタル層の厚みは2〜3cm程度でよい。この場合、開放可能部分以外の枠体は、底用発泡スチロール板と一体成型された枠用発泡スチロール板を連結して構成するようにすると、枠体と底部が一体化されて組み立てが簡単になる。枠体として、合板やスレート板などの板材、略台形状断面の枠用発泡スチロール板などを使用してもよい。枠体内側は、前記シート或いフイルムで覆えばよい。尚、枠体の外側を板等で補強してもよい。
【0032】
一般に、夏型植物は地温が15℃前後になると発芽し、25℃〜30℃前後になると根(レンコンでは茎と根)の伸長が活発になる。従来のレンコン田は深さが1〜2m以上もあり、地温が15℃になるのは4〜5月頃、25℃〜30℃前後になるのは6〜7月頃である。本発明の場合、水や耕土が浅いため、3月中頃に地温が15℃前後になり、5月頃には25〜30℃になる。底に発泡スチロール板を敷いた場合には、昇温はより大きくなる。この違いは特にレンコンの場合に大きく、低品質の苗(種レンコン)を使用しても、深田で高品質の苗(種レンコン)を使用した場合と同等以上の成果を得ることができる。
【0033】
水抜き時に、開放或いは開孔する枠体部分の内側に土留め用の透水壁9を置くと、耕土の流出が防止される。透水壁9は、水を耕土と分離して排出させるとともに耕土の圧力に耐えるものであれば、その材質構造は問わない。例えば、メッシュ等を枠に取り付けた構成のものや、プラスチック糸やコードを絡ませた人工棕櫚みたいなものが好適に用いられる。透水壁9の裏側に礫を枠に入れたものを置くと目詰まり防止になる。透水壁9は、耕作に差し支えなければ常時設置しておいてもよい。
【0034】
耕土の厚みは、水田作物の場合8〜20cm程度で十分である。レンコンや芹クワイの場合、この程度の耕土で栽培可能なことは、本発明者が実証済である。大根など根ものの畑作物の場合は耕土の厚みは60cmは必要になる。しかし、あまり深くなると耕土の昇温や水抜きに時間がかかる。そこで、畑作物も大根やゴボウなど根が深くなるものは除外し耕土の厚みはせいぜい8〜50cm程度、より好ましくは10〜40cm程度とする。例えば、トマトは20cm程度でもよいが、メロンは畝作りでも平地作りでも30cm程度あることが好ましい。里芋やサツマイモはある程度の深さが必要になるが、畝作りで対応出来る。尚、畑作物と水田作物を交互に栽培する場合には、10〜40cm厚程度の耕土を使用する。湛水する水の深さは、殺菌殺線虫等を目的とする畑作物用の場合は1cm前後以下即ちひたひた程度でもよいが、排水や水抜き時に余分な成育妨害成分を充分に洗い流すために10cm程度まで水張りしてもよい。レンコン栽培が目的であれば3〜5cm程度でよいが、レンコン収穫時にはエアで攪拌するため10cm程度は必要である。芹の場合、10cm程度は必要である。また、レンコンを保存収容するために、15〜20cm程度まで水が張れるようにしてもよい。従って、枠体の高さはいずれの場合も40〜70cm程度あればよい。
【0035】
栽培床の乾燥或い水張り期間については、前述した通りである。肥料については、作物に応じて特定の成分を与えるほか、化学肥料でも堆肥等の有機肥料でも使用できる。有機肥料特に完熟堆肥やその抽出液等が好ましく用いられる。槽内に収容する耕土は、田畑の耕土や山土、砂などを適宜混合するなどして使用する。
【0036】
次に、本発明のレンコン栽培と従来の栽培方法の違いについて説明する。レンコンの茎は泥中に自然に深く1m位まで潜る性質がある。我が国では地温との関係で約60cm程度までもぐり、そのまま茎が伸長してその先に新しいレンコンが成長する。しかし、底が固ければそれよりも浅くても茎は成長する。本発明はこの性質を利用したもので、作業性を向上させるために耕土厚を8〜20cm程度としたものである。そして、耕土の上に3〜5cm程度の水を張る(水が0だと葉が枯れるおそれがある)。
【0037】
耕土を浅くしたために、春先からの地温や水温の上昇が大きく、出芽や茎の伸長も通常のレンコン田より1〜2ケ月程度早くなる。従来、地温が15℃(レンコンの発芽温度)になるのは4月上旬頃であるが、本発明では3月中頃で約1ケ月早い。また地温が茎葉の生育最適温度である25〜30℃になるのは従来だと7月中頃であるが、本発明では5月上旬であり、その分だけ茎や葉が大きく成長して栄養分も多いので、収穫量も増え収穫期も20日程度は早くなる。従来通り4月頃から植えつけても生育は良好である。そのため、従来は良質な種レンコンが必要でコスト高であるが、本発明では低品質の苗(種レンコン)を使用しても深田(従来)で高品質の苗(種レンコン)を用いたのと同等以上の成果を得ることができる。しかも、耕土が浅いため植えつけも簡単であるし、肥料の有効利用が図られて従来のレンコン田に比べて単位面積当たりの投入肥料が半減した。
【0038】
更に、耕土が浅いため空気が耕土中に入りやすくて酸素の供給が充分なため、レンコンの成長早くなる。また、従来は酸素が不足気味のためレンコンを土からあげると酸素を要求し、この酸素のために着色がすすんで色が黒ずんでくるが、本願発明では酸素が土中でも充分あるため掘りあげ後も酸素を要求せず、色白が保たれる。耕土の水抜きにより塩分や余剰の肥料成分(所謂悪水)が系外に排出されることも、レンコンの着色が少ない理由の一つである。耕土として、酸化鉄の少ないものを用いるとより白いものが得られる。
【0039】
レンコン種の植え付けに先立って石灰散布による中和が行われるが、従来は2月頃に耕運機で混ぜるなど大変な作業である。本発明の場合、収穫時(小型の水中ポンプ使用)に石灰をまけば、簡単に耕土と混ざる。
【0040】
また、耕土が浅いため収穫も簡単で、水を深く(10cm程度)した後、小型の水中ポンプで泥水を攪拌して浮上したレンコンを採取する。そのため、部分的な収穫も簡単で少量ずつ時間差を設けた計画収穫が可能となる。更に、水の攪拌で残った茎葉が浮き上がって容易に除去できるので、次作での病気の発生が有効に防がれる効果もある。通常、レンコン10Kgに対し根や茎は10Kg以上できると言われている。従来は、茎や根を田から取り出すことは困難で、殆ど放置されている。そのため、これが腐敗病などの病気の原因となり、それを防ぐために大量の農薬(劇薬)による水田の消毒が必要となる。従って、従来はレンコンの有機栽培や無農薬栽培は原則不可能であった。これに対し本発明では、茎や根は耕土中からほぼ完全に除去できるので土壌消毒の必要がなく、有機・無農薬栽培が可能になる。
【0041】
従来の収穫作業は、非常に強力なエアポンプで泥とレンコンを吹き上げ、水に浮いてきたレンコンを回収する。そのため、多量のエネルギーを消耗するし操作が大変であり、しかも強力なため礫でレンコンを傷めることも多い。更に、栽培中はレンコンや茎を傷めるため田に入りづらく、追肥や除草、消毒作業は困難である。場合によっては、全面にスミチオンをヘリコプターで空中散布することなども行われている。これに対し本発明では、特に歩行橋を設けた場合には栽培床上の全て箇所に手が届く程度になり、浮草などの除草や葉柄に点在して発生するアブラムシの防除作業が容易簡単に行え、追肥も簡単で当初に多量に投入する必要もなくムダが無くなるなどの利点がある。また、従来は水が深いため台風などの強風で葉柄が折れ、その結果レンコンの生育が止まることも多いが、本発明では水の層が少ないことから強風で葉柄が揺れてもレンコンと共に回転し、また葉の密度が高いことから折れることがない。
【0042】
このように、従来のレンコン栽培は植え付けから始まって生育途中の管理や収穫作業が大変であり、高齢者には不向きでレンコン栽培をやめる人が多い。そのため、値段は他の農産物に比べて高いが生産高は次第に減少し、中国からの輸入品が増加してきているのが現状である。これに対し本発明の栽培床を用いたレンコンの栽培では、上述のように全ての作業が手軽簡単に行え、今後の農業人口の高齢化にも充分対処できる理想的なものと言うことができる。
【0043】
ただ、レンコンは本来深く潜ろうとする性質があるので、栽培床の底部は固く且つ滑らかにしておく必要がある。更に、底部と枠板の境目も直角だとそこを破ろうとするのでアールを設けて伸長する芽や茎を滑らすようにする必要がある。同様に、枠板のコーナー部内側もアールを設ける必要がある。地上からレンコンの葉や葉柄の殺菌消毒や除草等の手入れをし易くするために、栽培床の幅を4m以下の間隔で区切るように長さ方向の歩行橋を設けるとよい。
【0044】
以上は、レンコン栽培について述べたが、同様な方法や栽培床で寺院の蓮池における花蓮の良好な生育を行わせることができる。花蓮は、花が目的でレンコンは貧弱な品種であるが、従来は深い池で殆ど放置状態で生育されており、花や葉も疎らなものである。本発明の方法や栽培床を採用すれば、花や葉が繁茂し華やかな雰囲気をもたらすものとなる。
【0045】
レンコンと同様に、換金性作物として芹やクワイがある。クワイは夏型水田作物でありまた需要も正月にほぼかぎられるが、芹は冬型水田作物で夏型の畑作物と輪作が可能である。芹の栽培は、レンコン程ではないが深田で栽培され、また収穫時期が厳冬期であるため作業がきつく、また栽培者は高齢者が殆どであるので、価格は高いが生産量は減少気味である。本発明の水張り時の栽培床を使用すれば、深田でないため芹の栽培や収穫作業も楽になり、高齢者対策に理想的なものである。
【0046】
一方、畑作物の場合、本発明の乾燥時の栽培床を用いれば、線虫やフザリウムの害が少なくて連作障害無く栽培することができる。水張り時のレンコン栽培を主眼とする場合、乾燥時には乾燥を好む畑作物、例えばサツマイモや落花生を栽培すると土壌乾燥の効果がより発揮される。
【発明の効果】
【0047】
以上説明したように、本発明は不透水性の底部と同じく不透水性の枠体を有する槽の内部に耕土を適宜厚に充填した栽培床であって、コーナー部等から水抜きができるようにしたものである。
【0048】
従って、以下に述べる効果がある。
(1)1つの栽培床で、畑作植物、水田植物の栽培ができる。
(2)水張りすることにより、畑作物栽培中に増殖する細菌や線虫を殺したり低減できるとともに、水抜きすることにより余剰肥料や塩分などの成育妨害成分を有効に低減させることができる。
(3)水張りした水の水抜きや耕土の乾燥が簡単な操作で確実に行える。
(4)特に、レンコンの収穫時などに耕土をエアや水流で攪拌すると耕土中の粒度の大きい砂や礫等が下側に沈下して水抜き時の流路となるため、水抜きが速やかに行われる。
(5)線虫は水流に抵抗しがたいので、排水によっても除去される。
(6)耕土の層が薄いので、春早くから地温が上昇し、植物の発芽や根の伸長が早くなる。特に、耕土の下層に断熱材を敷設した場合に、この効果が大きい。
(7)発泡スチロールで底部と枠体を構成しその内側をシートやフイルムで覆ったものは、低コストで構築できる。
(8)農薬、特に殺線虫剤の使用が不要となり、環境面や衛生面で大きな貢献を果たす。
【0049】
特にレンコンの栽培に関しては、
(9)茎葉の生育が早く収穫量が増える。低品位の苗を使用しても従来方法で高品位の苗を用いたのと同等以上の終了が得られる。単位面積当たりの投入肥料が半減する。
(10)酸素の供給が充分なためレンコンの成長が早くなるし色白のレンコンが得られる。
(11)耕土上の水の深さ管理が、オーバーフロー口と水の循環使用で簡単容易に行える。
(12)収穫作業が小型のエアポンプで簡単に行える。病気の原因となる耕土中の茎葉が簡単確実に除去できるため、土壌消毒のための農薬散布の必要がなく、完全な有機無農薬栽培が可能となる。
(13)浮草などの除草や葉柄に点在して発生するアブラムシの防除作業が容易簡単に行え、追肥も簡単で当初に多量に投入する必要もなくムダが無くなる。
(14)種レンコンの泥中深くへの植え付け、畦畔周囲の芽廻し、畦畔整備、灌水や排水の管理など手間な作業が不要で実作業時間は大幅に減少する。
(15)レンコンの少量ずつの収穫が可能になるので、新鮮なレンコンを適時に適量出荷できるなど、老人農業に最適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明栽培床を説明的に示す側面図である。
【図2】同じく異なる本発明栽培床の説明的に示す側面図である。
【図3】同じく更に異なる本発明栽培床を説明的に示す側面図である。
【図4】(a)、(b)、(c)及び(d)は、同じくそれぞれ異なる本発明栽培床を説明的に示す部分斜視図である。
【図5】本発明栽培床の一例を示す平面図である。(実施例1)
【図6】図5におけるA−A線で断面した縦断面図である。(実施例1)
【図7】図5におけるB−B線で断面した横断面図である。(実施例1)
【図8】図5におけるコーナー部の部分拡大平面図である。(実施例1)
【図9】本発明により栽培された蓮の模式図である。(実施例1)
【図10】従来方法により栽培された蓮の模式図である。(比較例1)
【図11】本発明栽培床の他の例を示す平面図である。(実施例2)
【図12】図11におけるC−C線で断面した縦断面図である。(実施例2)
【図13】図7の変形例である。(変形例1)
【図14】寺院の蓮池の概略断面図である。(実施例3)
【図15】サツマイモ栽培時の本発明栽培床の斜視図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0051】
不透水性の底部と同じく不透水性の枠体を有する槽内に耕土を適宜厚に収容するとともに耕土上に水を張れるようにした栽培床において、耕土からの水抜きを良好にするために底部に傾斜を設け、且つ枠体コーナー部或いは低くなった底部側の枠体の一部を開放可能にした栽培床。
【実施例1】
【0052】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。図5は、本発明栽培床の一例を示す平面図、図6は図5におけるA−A線で断面した縦断面図、図7は図5におけるB−B線で断面した横断面図、図8はコーナー部の部分拡大平面図である。図9は本発明により栽培された蓮の模式図、図10は同じく従来方法により栽培された蓮の模式図である。また、図11は栽培床の他の例を示す平面図、図12は図11におけるC−C線で断面した縦断面図である。図13は、図7の変形例、図14は寺院の蓮池の概略断面図、図15はサツマイモ栽培時の本発明栽培床の斜視図である。
【0053】
図5に示す栽培床1は内法幅7.5m、内法長さ20mのもの(面積150m2 )で、枠体2と底部7の骨格は厚み5cmの発泡スチロールで構成されている。枠体2は、左右の側枠3、4と前枠5及び奥枠6から構成され、この枠体2と底部7で構成される槽8に耕土Sを収容したものが栽培床1となる。枠体2は、コーナー部2aを除いて、図6のように断面が逆T型の発泡スチロールブロック21を連結して構成される。底部7の他の部分は発泡スチロール板22を敷設し、発泡スチロールブロック21と板22の内側を厚み0.15mm、幅8.4mのビニルハウス用フイルム23で覆い、その上に厚み2cmのモルタル24を塗る。底部7は、前枠5と奥枠6側よりも中央部が約5cm高くなっており、勾配は1m当たり0.5cmである。枠体2の内法高さは、収容する耕土Sの厚みを前と奥側で15cm(中央部では10cm)、その上に張る水Wの厚みを5cmとすると、5cmの余裕を見て約25cm程度でよい。フイルム23は四方の端を、枠体2の上面に折り曲げ、その上からビニール製の遮光用カバー25で押さえてある。尚、周囲から栽培床1の下側に雨水等が侵入するのを防ぐために、栽培床1を地面Gよりも幾分高くした基盤土26の上に設置するとよい。符号27は、地面G或いは基盤土26上に枠体2を固定するための止め杭である。
【0054】
枠体2のコーナー部2aは、図8に示すように内側もアールが取ってあり、他の枠体2及び底部7から切り離し可能に設置されている。このアール(曲面)が取ってあるコーナー部2aの内側及び枠体2の内側立ち上がり部分には、図7、図8に示すように0.5mm厚で滑りのよいシート(畦シート)28が接着されている。符号29が接着部分である。枠体コーナー部2aには、畦シート28を別途接着する。この曲面及び滑りシート28を設けるのは、レンコンの茎が真っ直ぐ伸びる性質があり、角があるとそこへ突き当たってどぐろを巻いたり、団子状のレンコンができたりすることを防ぐためである。
【0055】
この栽培床1には、図5に示すように長さ方向の歩行橋30が設けられている。歩行橋30は幅が30cm前後で、栽培床1を二分(幅約3.6〜4mずつ)するように前と奥の枠体と支柱31で支えられている。二分された栽培床は歩行橋30と栽培床外側からいずれも最大1.8mの距離であり、腕を伸ばしたり棒や柄を使用すればどこでも到達可能である。そのため、従来の深田栽培では不可能であった水田に入らずに除草や追肥、アブラムシ除去などの作業が容易簡単にでき、極端に言えば背広で作業ができる。また作業時間も短く、適時の追肥(月1回程度)で肥料も低減できる特徴がある。
【0056】
次に、本栽培床1によるレンコンの栽培について説明する。まず、耕土S中に種レンコン(後述する等外品R′で充分)を並べて植える。植え方に制限はないが、本発明者は図5のように植える。その後、5cmの深さまで水Wを張る。葉が繁っている期間は、毎日約1トンの水が蒸散する。蒸散する分を補うために給水するが、余分の水は複数のオーバーフロー口32から系外に排出される。本例のオーバーフロー口32は、ビニールパイプ32aを枠体2とビニルフイルム23の透孔に挿入し外側にエルボ32bが取り付けられたもので、エルボ32bの角度を変えることで多少の水面高さ(5〜10cm程度)の調整ができる。系外に排出された水は循環して使用する。従来の栽培田では栽培期間中水を一定の深さにしておく水管理は非常に手間の掛かる大変な作業であるが、本発明ではオーバーフロー口32と水の循環使用で水Wの深さを一定にすることは極めて簡単である。レンコンの生育が終わり収穫する段階にくると耕土S上に水Wを10cm程度まで追加し、水中ポンプでレンコンを掘り上げる。
【0057】
レンコンは、地温が15℃前後で発芽し、25〜30℃が茎葉の生育最適温度である。茎の先端が太ってレンコンになるのは、概ね8月〜9月である。本発明の場合、図9に示すように15℃になるのは3月中旬、25〜30℃になるのは5月中旬頃である。従って、茎Kや葉Lの生育期間が長く茎Kは10mも伸び、多数の葉Lが繁るとともに地下茎に充分な栄養が蓄えられる。これに対し、図10に示す従来の深田栽培では、地温が15℃以上になるのは4月上旬であり、茎Kが60cm以上もぐるため、その場所の地温が25〜30℃になるのは7月中旬である。従って茎Kや葉Lの生育期間が本発明に比べて短く、栄養の蓄えも少ない。
【0058】
尚、図9及び図10は模式図であり、茎Kは種レンコンの植える位置によってUターンしたり直角に曲がって成長する。前述した枠体2と底部7の境のアールや枠体コーナー部2aのアールは、茎Kをスムーズに方向転換させるためのものである。従来の低湿田などでは面積が広いため茎は自在に伸びるが、畦畔周囲では芽廻し作業が必要になる。
【0059】
種レンコンから得られる商品となるレンコンRは、1本の茎に対して1個であり(分岐した茎にもできる)、他に商品とならない等外品R’が何本ができる。従来では、種レンコンとして立派なレンコンRを使用しているため、栽培コストがかかる。これに対し、本発明では茎Kの生育期間が長いため、等外品R’を種レンコンとしても充分に立派なレンコンRが収穫できる。この差は、生産コストに大きく響く。
【0060】
本実施例の場合、240Kg/10aの割合で種レンコン(等外品R’)を植え付け、1.6t/10aの商品レンコンRが収穫された。従来の低湿田などでは、良質の種レンコンRを10a当たり300〜350Kg植え付け、収穫は年により変動があるが岩国の場合1.2〜2.5t/10aである。量的には、本発明の場合従来とあまり変わらないが、種レンコンとして等外品R’が利用できるのが大きな特徴である。本来、本発明は面栽培であり、立体栽培である従来例よりも収量は少ないはずであるが、両者がほぼ等しいのは、本発明の効率が良いことの左証となる。
【0061】
レンコンの収穫後、耕土Sの水抜きと乾燥を行う。まず、枠体コーナー部2aを動かしてビニルフイルム23を引き下げるとか枠体2に設けた排水口33を開くとかして、耕土S上に張った水Wを排水する。次に、枠体コーナー部2aを取り外し、その内側部分に人口棕櫚などの透水壁34(図8)を設置して耕土Sの水抜きを行う。この水抜きにより、塩分や耕土Sの底に溜まった悪水などの成育妨害成分を排除するが、レンコンのみを連作する場合には、耕土Sの水抜きと乾燥は数年に一度でよい。水抜きしない場合は水を深く張っておき、種レンコンの貯蔵に使用することができる。
【0062】
レンコンの裏作としてトマトなどを栽培する場合は、レンコン収穫後に耕土Sの水抜きと乾燥を行う。この場合裏作は秋〜春になるので、栽培床1をハウスなどで覆って加温する必要がある。レンコンとメロンやトマト、サツマイモ、落花生などを一年交代で連作することもできる。サツマイモや落花生は乾燥土壌でも良く育つので、土壌の乾燥には好ましいものである。また、メロン程ではないが、サツマイモや落花生も高収益作物である。
【実施例2】
【0063】
前記例は、レンコン栽培を主として行う栽培床について説明したが、本例の栽培床は主として畑作物栽培に使用し、水張り(湛水)は殺菌殺線虫と成育妨害成分の除去に主眼を置いたものである。
【0064】
図11、図12の栽培床40は、枠体41の構造は前記例と異なるが底部7の構造はほぼ同じである。また歩行橋30や支柱31及び枠体コーナー部42に設けた円弧状部材43や滑りのよい畦シート28は、レンコンを栽培しないものにあっては、不要である。枠体41は、底部42の周囲をスレートやコンパネなどの板材44で囲み、その外部を杭45で支えている。枠体41の内法高さは、収容する耕土Sの厚みを前と奥側で35cm、中央部で30cmとしその上に張る水Wの厚みを5cmとすると5cmの余裕を見て約45cm程度となる。発泡スチロールやビニルフイルム等の番号は、前記例と共通している。底部42は、発泡スチロールを省略してもよい。
【0065】
畑作物を栽培する場合、枠体コーナー部42を取り外しておき、雨水や散水の余り水をコーナー部から水抜きする。畑作物の種類に応じて1〜数回栽培した後、枠体の各コーナー部42を取り付けてから図12に示すように栽培床40の耕土Sの上に5cm厚の水Wを張り、2ケ月〜1年程度放置しておく。その間水が蒸発するのを補うため栽培床40に注水するが、余分な水は枠体41に設けたオーバーフロー口32から排出される。この水張りの期間中に、耕土中の菌や線虫を殲滅・衰弱させ、余分や肥料分などを水に溶解させる。符号33は排水口である。
【0066】
水張りの期間が終われば、再度枠体コーナー部42を除去しコーナー部に透水壁を設置して耕土Sから水抜きを行い、菌や線虫、余分や肥料分などを水とともに排出する。そして、耕土層が乾燥すれば、再度畑作物の栽培を続ける。本例の栽培床40でも、水張り期間中に、前記例と同様にしてレンコンなどの水田植物の栽培を行うことができる。
【変形例1】
【0067】
図13は、実施例1の図7に示す横断面図において、断面が逆T型の発泡スチロールブロック21に代えて、図の左側のように断面台形状の発泡スチロールブロック46を用いてもよい。符号47は止め杭である。或いは、図の右側のように、オーバーフロー口32にサイホン48を組み込み、排水容器49の水をL型のビニールパイプ50の傾きで栽培床1の水位を調整するようにしてもよい。
【実施例3】
【0068】
図14は、本発明の栽培床を寺院の蓮池に応用した場合の概略断面図である。この蓮池51は、底部52も枠体53もコンクリートで一体に形成し、一部(図でハッチング)の枠体53の部分を開放できるようにしてある。底部52は、礫54を並べた基盤55上に設置され、枠体53の上辺には石56や草57を配置している。符号58は地盤水抜きパイプ、59は排水パイプ、60はオーバーフローパイプ、61は、これらからの排水を受ける排水溝である。土Sの厚みは10〜20cm、水Wの層も10cm内外程度でよい。符号Hは花レンコン、Lはその葉、Fは蓮の花である。
【実施例4】
【0069】
図15は、乾燥した本発明の栽培床1において、50〜60cm間隔で長さ方向に畝62を作り、サツマイモの苗Nを植えた状態の斜視図である。サツマイモの場合、土の厚みは20〜30cmで、畝の高さが30〜40cmあれば、十分である。また、土壌が乾燥気味の方が味のよいイモができるので、レンコン栽培の休止時の畑作物として好ましいものである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の栽培床は、安価に得られるとともに、水田作物、畑作物のいずれにも使用でき、水の管理さえ確実に行えば殺菌剤や殺線虫剤の使用が低減乃至省略でき環境や衛生に優しい優れたものである。
【符号の説明】
【0071】
1 栽培床
2 枠体
2a コーナー部
3・4 側枠
5 前枠
6 奥枠
7 底部
8 槽
9 土留め用の透水壁
15 透水壁
26 基盤土
27 止め杭
30 歩行橋
31 支柱
32 オーバーフロー口
32a ビニールパイプ
32b エルボ
33 排水口
40 栽培床
41 枠体
42 枠体コーナー部
43 円弧状部材
46 断面台形状の発泡スチロールブロック
48 サイホン
49 排水容器
50 L型のビニールパイプ
51 蓮池
52 底部
53 枠体
55 基盤
58 地盤水抜きパイプ
59 排水パイプ
60 オーバーフローパイプ
61 排水溝
62 畝
K 茎
L 葉
F 蓮の花
R・R’ レンコン
H 花レンコン
N サツマイモの苗
S 耕土
W 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不透水性の底部と不透水性の枠体から構成される槽内に、深さ8〜20cm程度厚の耕土と該耕土上に1〜20cm程度の水を張れるようにした栽培床において、耕土から水抜きを良好にするために底部に傾斜を設けて水抜きをして耕土を乾燥した後に、メロンやトマト、サツマイモ等を植えつけるものである畑作植物の栽培方法。
【請求項2】
不透水性の底部と同じく不透水性の枠体を有する槽内に耕土を適宜厚に収容するとともに耕土上に水を張れるようにした栽培床において、耕土からの水抜きを良好にするために底部に傾斜を設け、且つ枠体コーナー部或いは低くなった底部側の枠体の一部を開放或いは開孔可能にしたことを特徴とする栽培床。
【請求項3】
底部の傾斜は、底部を横断する谷が1以上できるように凹凸状に設けられ、該谷部分の枠体の一部を開放或いは開孔可能とするものである請求項2記載の栽培床。
【請求項4】
底部を発泡スチロールにモルタル床張りとし、枠体を発泡スチロール製とし、且つ土壌として軽量土壌を用いるものである、屋上緑化に用いる請求項2記載の栽培床。
【請求項5】
底部も枠体もコンクリートで一体に形成し、一部の枠体の部分を開放できるようにし、底部は礫を並べた基盤上に設置され、枠体の上辺には石や草を配置するとともに、地盤水抜きパイプ、排水パイプ、オーバーフローパイプ、これらからの排水を受ける排水溝をそれぞれ設けたことを特徴とする寺院用の蓮池として使用する栽培床。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−223195(P2012−223195A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158660(P2012−158660)
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2007−134491(P2007−134491)の分割
【原出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(505249078)西山商事有限会社 (5)
【Fターム(参考)】