説明

棒鋼または線材の製造方法

【課題】断面形状が略正方形の角鋼材をタンデム圧延して棒鋼または線材を製造するに当たり、表面疵の発生を防止でき、しかも得られた棒鋼または線材を鍛造しても表面に線状の疵が発生しない棒鋼または線材を製造できる方法を提供する。
【解決手段】圧延方向が互いに直交するスタンドを交互に並べたタンデム圧延機によって、断面形状が略正方形の角鋼材を粗圧延し、その後さらに圧延を続けて棒鋼または線材を製造するにあたり、粗圧延前に、前記角鋼材の断面について2組の対辺の距離を夫々測定し、それらの距離の差が所定値を超える場合には、該距離の差が所定値以下となるように角鋼材の表面を研削してからタンデム圧延すればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面形状が略正方形の角鋼材をタンデム圧延機を用いて粗圧延し、その後さらに圧延を続けることにより棒鋼または線材を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
棒鋼や線材は、断面形状が略正方形の角鋼材を、タンデム圧延機を用いて粗圧延し、その後さらに圧延を続けることにより製造される。例えば、断面形状が円形の丸棒鋼は、断面形状が略正方形の角鋼材をタンデム圧延機で圧延することにより製造できることが特許文献1に既に提案されている。即ち、まず、断面形状が略正方形の角鋼材を製造し、この角鋼材に表面疵が発生しているかどうかを、例えば磁紛探傷機を用いて調査する。角鋼材を製造する過程(例えば、分塊圧延など)で、表面疵が発生することがあるからである。表面疵が発生していないことを確認した角鋼材は、圧延方向が互いに直交するスタンドを交互に並べたタンデム圧延機によって粗圧延し、その後、中間圧延と仕上げ圧延を行なうことにより丸棒鋼を製造できる。一方、表面疵が認められた角鋼材については、疵がひどい場合は、スクラップとして廃棄処分するが、疵が軽度である場合は、角鋼材の表面を研削して表面疵を除去してからタンデム圧延を行なう。このように角鋼材をタンデム圧延して丸棒鋼を製造する途中過程を図面を用いて説明する。
【0003】
図1は、角鋼材をタンデム圧延しているときの様子を示した図であり、角鋼材11が、タンデム圧延ロール21a〜21cで圧延されているときの様子を、角鋼材11の末端側から見たときの図を示している。圧延ロール21a〜21cは、タンデム圧延機を構成するスタンドに取り付けられており、圧延ロール21aと21cは、圧延方向が垂直方向(天地方向)となるように、圧延ロール21bは、圧延方向が水平方向となるように配置されている。なお、図1では、タンデム圧延機中の3機の圧延ロール21a〜21cについて示したが、圧延ロールの数はこれに限定されるものではない。
【0004】
圧延ロール21a〜21cの全周には、みぞ状の孔型(カリバー)が設けられており、粗圧延工程では、カリバーの形状が菱カリバーの圧延ロール21a〜21cを用いて(a)→(b)→(c)の順で、角鋼材11を垂直方向からと水平方向から粗圧延することにより、角鋼材11の断面形状が、角形→横方向に偏平した菱形→縦方向に偏平した菱形→横方向に偏平した菱形と繰返し変形し(11a→11b→11c)、粗圧延では断面積が小さくなった角鋼材が得られる。次いで、断面積が小さくなった角鋼材を、中間圧延工程では、角カリバーかオーバルカリバーが設けられた圧延ロールを用いてタンデム圧延を行なうことで、断面形状が、角形からオーバル形状へ変形し、断面積が小さくなったオーバル状鋼材が得られる。そして、仕上げ圧延工程では、オーバルカリバーか丸カリバーが設けられた圧延ロールを用いてタンデム圧延を行なうことで、断面形状が、オーバル→丸→オーバル→丸と繰り返し変形し、断面積が小さくなった丸棒鋼を製造できる。
【0005】
ところがタンデム圧延して得られる丸棒鋼には、表面に線状の疵が発生することがあった。そこでタンデム圧延して得られた丸棒鋼は、表面疵が発生していないか再度調査し、表面疵が発生していないことが認められたもののみが製品として出荷される。
【0006】
こうして出荷された製品は、適当な長さに切断された後、例えば、鍛造して所望の製品に加工される。ところが表面疵探傷して疵が認められず、製品として出荷された丸棒鋼であっても、製品形状に鍛造すると表面に線状の疵が発生することがあった。この疵の深さは、最大で2.0mm程度にまで達することがあった。
【特許文献1】特開昭60−240321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、断面形状が略正方形の角鋼材をタンデム圧延して棒鋼または線材を製造するに当たり、表面疵の発生を防止でき、しかも得られた棒鋼または線材を鍛造しても表面に線状の疵が発生しない棒鋼または線材を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできた本発明に係る棒鋼または線材の製造方法とは、圧延方向が互いに直交するスタンドを交互に並べたタンデム圧延機によって、断面形状が略正方形の角鋼材を粗圧延し、その後さらに圧延を続けることにより棒鋼または線材を製造する方法であって、粗圧延前に、前記角鋼材の断面について2組の対辺の距離を夫々測定し、それらの距離の差が所定値を超える場合には、該距離の差が所定値以下となるように角鋼材の表面を研削してからタンデム圧延する点に要旨を有する。
【0009】
具体的には、断面形状が略正方形の角鋼材を製造する工程(工程1)、前記角鋼材の表面疵探傷を行なう工程(工程2)、前記工程2で発見された表面疵を、角鋼材表面を研削することによって除去する工程(工程3)、前記工程3の後、角鋼材の断面について、2組の対辺の距離を夫々測定し、それらの距離の差を算出する工程(工程4)、前記距離の差が所定値を超える場合には、該距離の差が所定値以下となるように角鋼材表面を研削する工程(工程5)、前記距離の差が所定値以下になっている角鋼材をタンデム圧延する工程(工程6)、を含んで操業すればよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、断面形状が略正方形の角鋼材をタンデム圧延機で粗圧延する前に、角鋼材の断面形状が適切な形状であるかどうかをチェックし、所定の形状になっていない角鋼材は、所定の形状になるように表面を研削してから粗圧延しているため、粗圧延後に中間圧延と仕上げ圧延を行なって得られた棒鋼または線材には、折れ込み疵が発生しておらず、またこの棒鋼または線材を鍛造しても表面に線状の疵が発生しない棒鋼または線材を製造できる。なお、以下では、棒鋼または線材のうち、特に丸棒鋼を中心に説明するが、本発明は丸棒鋼に限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは、断面形状が略正方形の角鋼材をタンデム圧延して得られた丸棒鋼(製品)を表面疵探傷したときに表面疵が認められなかったにもかかわらず、この丸棒鋼を鍛造したときに疵が発生する原因について検討を重ねた。その結果、圧延ロールに角鋼材が適切に保持されないために、角鋼材のコーナー部が圧延ロールによって展伸され、展伸された部分(耳)が、次の圧延ロールと接触することで角鋼材側に折り込まれる現象が発生することが判明した。このように鋼材の一部が折り込まれ、この状態のまま圧延が進むと、折り込まれた部分(耳)が鋼材と密着して一体となるため、最終的に得られた丸棒鋼を表面探傷しても表面疵は発見できないと考えられる。角鋼材のコーナー部が展伸され、この伸びた部分がこのままの状態で圧延ロールに噛み込み、角鋼材本体側に折り込まれて角鋼材と一体になる現象を、以下では鋼返りと呼ぶ。
【0012】
鋼返りが発生するときの様子を図面を用いて説明する。図2は、鋼返りが発生するときの様子を模式的に示した図である。上記図1と対応する部分には、同じ符号を付した。
【0013】
工程(a)で垂直方向に圧延された角鋼材は、工程(b)で水平方向に圧延されるが、このとき角鋼材11bのコーナー部(端部)が展伸され、この展伸部分13が工程(c)で角鋼材11c側に折り込まれ、線14で示すように巻き込まれる。この状態のまま圧延が進むと、折り込まれた部分(耳)14は、角鋼材の外壁面として一体となる。
【0014】
このように鋼返りが発生しても、通常、折り込まれた部分が線状の疵となるため、粗圧延して得られた角鋼材を中間圧延と仕上げ圧延して得られた丸棒鋼の表面疵探傷を行なうと、線状の疵が認められ、鋼返りが発生していることが判明する。そのため線状の疵が認められる丸棒鋼は、スクラップとして廃棄処分される。
【0015】
ところが、粗圧延時に鋼返りが発生しても、展伸された部分が鋼材の外壁に折り込まれて鋼材と一体になると、仕上げ圧延して得られた丸棒鋼の表面には線状の疵が認められないときがある。即ち、疵の間口が狭く、外壁面に沿って斜めに折れ込むと、表面疵探傷を行なっても疵信号レベルが低下し、発見されないと考えられる。そのため表面に線状の疵が認められない丸棒鋼は、鋼返りが発生しているにもかかわらず、製品として出荷されることがあった。ところがこの製品を鍛造すると、折り込まれた部分が開放され、線状疵を発生するのである。
【0016】
そこで本発明者らは、角鋼材をタンデム圧延機で粗圧延するときに鋼返りが発生するのを防止するために検討を重ねてきた。その結果、タンデム圧延機で粗圧延を行なう前における角鋼材の断面形状が適切であるかどうかをチェックし、所定の形状になっていない角鋼材については表面を研削して所定の形状に調整してから圧延すれば、粗圧延時に鋼返りが発生するのを防止できることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明を完成するに至った経緯を説明しつつ本発明の特徴部分について説明する。
【0017】
本発明者らは、圧延に供する角鋼材の断面形状に着目し、長手方向に対して垂直な断面の形状が略正方形の鋼材を用意し、この断面形状を変化させた後、タンデム圧延して鋼返りが発生するかどうか実験を行った。用意した角鋼材は、断面形状が略正方形の角鋼材である。この角鋼材の断面の模式図を図3に示す。図3に示すように、角鋼材の各辺をA〜Dとし、各コーナー部をa〜dとする。
【0018】
まず、鋼返りが発生する原因は、角鋼材のコーナー部の形状にあるのではないかと考え、コーナー部a〜dを図3に点線で示すように研削して供試材を作製し、この供試材をタンデム圧延機で粗圧延した。供試材は2種作製し、このうち供試材1は、角鋼材のコーナー部を15Cとなるように研削したもの、供試材2は、25Cとなるように研削したものを作製した。なお、角鋼材の断面は、155.2mm×155.0mmの正方形であった。なお、15Cとは、図4に示すように、コーナー部を研削したときに、1辺が角から15mm研削されている状態を意味する。また、25Cとは、同様に、1辺が角から25mm研削されている状態を意味する。
【0019】
次に、角鋼材のコーナー部を研削すると共に、角鋼材の2面を研削して供試材を2種作製し、夫々粗圧延を行なった。このうち供試材3は、断面が154.7mm×154.4mmの角鋼材を、上記供試材1と同様にコーナー部を15Cに研削した後、1組の対辺(図3の辺Bと辺D)の距離が151.3mmになるように研削した。一方、供試材4は、断面が154.8mm×155.3mmの角鋼材を、上記供試材2と同様にコーナー部を25Cに研削した後、1組の対辺(図3に示した辺Bと辺D)の距離が148.4mmとなるように研削した。
【0020】
辺Aと辺Cの距離をx、辺Bと辺Dの距離をyとすると、2組の対辺の距離の差(x−y)は、供試材3については3.5mm、供試材4については6.2mmであった。
【0021】
次に、角鋼材のコーナー部を研削すると共に、角鋼材の4面を研削して断面積を小さくした供試材を2種作製し、夫々粗圧延を行なった。このうち供試材5は、断面が154.7mm×154.2mmの角鋼材を、上記供試材1と同様にコーナー部を15Cに研削した後、全辺(図3の辺A〜辺D)を研削した。即ち、辺Aと辺Cの距離が152.7mm、辺Bと辺Dの距離が151.9mmになるように研削した。一方、供試材6は、断面が154.9mm×154.4mmの角鋼材を、上記供試材2と同様にコーナー部を25Cに研削した後、全辺(図3の辺A〜辺D)を研削した。即ち、辺Aと辺Cの距離が151.8mm、辺Bと辺Dの距離が151.1mmになるように研削した。
【0022】
辺Aと辺Cの距離をx、辺Bと辺Dの距離をyとすると、2組の対辺の距離の差(x−y)は、供試材5については0.8mm、供試材6については0.7mmであった。
【0023】
比較対象として、コーナー部を研削しない場合についても同様に実験を行なった。即ち、用意した角鋼材(供試材7)をそのままタンデム圧延機で粗圧延した。鋼材の断面は、155.0mm×155.0mmの正方形であった。
【0024】
次に、角鋼材の2面を研削して供試材を2種作製し、夫々粗圧延を行なった。このうち供試材8は、断面が155.8mm×152.1mmの角鋼材を、1組の対辺(図3の辺Aと辺C)の距離が155.5mmになるように研削した。一方、供試材9は、断面が155.2mm×154.8mmの角鋼材を、1組の対辺(図3に示した辺Bと辺D)の距離が149.5mmとなるように研削した。
【0025】
辺Aと辺Cの距離をx、辺Bと辺Dの距離をyとすると、2組の対辺の距離の差(x−y)は、供試材8については3.4mm、供試材9については5.7mmであった。
【0026】
次に、角鋼材の4面を研削して断面積を小さくした供試材を作製し、粗圧延を行なった。供試材10は、断面が155.3mm×154.9mmの角鋼材を、全辺(図3の辺A〜辺D)を研削した。即ち、辺Aと辺Cの距離が152.6mm、辺Bと辺Dの距離が151.0mmになるように研削した。辺Aと辺Cの距離をx、辺Bと辺Dの距離をyとすると、2組の対辺の距離の差(x−y)は、供試材10については1.6mmであった。
【0027】
各供試材について、表面研削前における角鋼材の各辺の長さ、2組の対辺の距離の差、表面研削後におけるコーナー部の研削量、角鋼材の各辺の長さ、2組の対辺の距離の差を下記表1に示す。また、粗圧延時における鋼返りの発生の有無についても下記表1に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から次のように考察できる。供試材1〜2と供試材7から明らかなように、角鋼材のコーナー部を研削しても粗圧延時に鋼返りは発生しなかった。従って鋼返りが発生する原因は、コーナー部の形状にはないことが分かる。供試材5〜6と供試材10に示すように、角鋼材の断面の全面を研削して断面積を小さくしても粗圧延時に鋼返りは発生しなかった。
【0030】
一方、供試材3や供試材8のように、角鋼材の断面について、1組の対辺を研削した場合に、2組の対辺の距離の差(x−y)が3.5mm(供試材3)や3.4mm(供試材8)であれば、粗圧延時に鋼返りは発生しなかった。
【0031】
これに対し、供試材4や供試材9のように、角鋼材の断面について、1組の対辺を研削した場合であっても、2組の対辺の距離の差(x−y)が6.2mm(供試材4)や5.7mm(供試材9)であれば、粗圧延時に鋼返りが発生することが判明した。
【0032】
以上の実験結果から、鋼返りが発生する原因は、角鋼材のコーナー部の形状や、角鋼材の断面積ではなく、2組の対辺の距離の差が影響を及ぼしていると考えられる。鋼返りの発生に、タンデム圧延に供する角鋼材の断面形状が影響を及ぼしているのは、タンデム圧延時に次のような現象が起こっているからであると考えられる。即ち、上記供試材4や供試材9のように、粗圧延する直前の角鋼材の断面形状が、表面疵を除去するため行った表面研削によって長方形になり、2組の対辺の距離(x−y)が大きくなると、角鋼材の外壁面のうち圧延ロールに保持されない面が出てくるため、圧延が進むに連れて、角鋼材が回転すると考えられる。これを図1と図2を用いて説明する。
【0033】
図1の工程(b)に点線で示した角鋼材12は、圧延ロール21bで圧延される直前の角鋼材の位置を示しており、図2の工程(b)に点線で示した角鋼材14は、圧延ロール21bで圧延される直前の角鋼材の位置を示している。2組の対辺距離の差(x−y)が小さく、断面が略正方向の角鋼材をタンデム圧延すると、図1の工程(a)に示すように、角鋼材11aの全面が圧延ロール21aに保持されるため、該角鋼材11aが次の圧延ロール21bに到達するまでの間に、角鋼材11aは回転しない。そのため該角鋼材12を圧延ロール21bで圧延すると、角鋼材12の4面が圧延ロール21bに保持されつつ圧延される。
【0034】
これに対し、2組の対辺距離の差(x−y)が大きく、断面が長方形の角鋼材をタンデム圧延すると、図2の工程(a)に示すように、角鋼材11aは圧延ロール21aに均一に保持されず、保持されている面と保持されていない面が発生する。そのため角鋼材11aは、不安定な状態となり、次の圧延ロール21bに到達するまでに回転し、圧延ロール21bでは、回転した状態の角鋼材14が強制的に圧延される。そのため角鋼材11bのコーナー部が延伸され、この状態のまま次の圧延ロール21cに供給されると、延伸されたコーナー部13が折り込まれてしまう。
【0035】
以上の通り、タンデム圧延機を用いて角鋼材から丸棒鋼を製造する際に、タンデム圧延機に供給する前記角鋼材の断面について2組の対辺の距離を夫々測定し、それらの距離の差(x−y)が所定値を超える場合には、該距離の差が所定値以下となるように角鋼材の表面を研削してからタンデム圧延を行なえば、鋼返りの発生を防止できると考えられる。なお、上記では角鋼材から丸棒鋼を製造する過程を中心に説明したが、本発明で製品として製造する形態は丸棒鋼に限定されるものではなく、角棒鋼であってもよいし、六角鋼等であってもよい。また、棒鋼に限定されるものでもなく、線材であってもよい。
【0036】
所定値とは、タンデム圧延機に応じて予め定められた値であり、例えば、圧延データを解析して定めることができる。即ち、タンデム圧延前の角鋼材の断面について、2組の対辺の距離の差を算出した後、タンデム圧延して棒鋼または線材を製造する。得られた棒鋼または線材について、表面疵探傷を行ない、表面疵が認められなかった棒鋼または線材について鍛造を行ない、鍛造しても表面疵が発生しなかったときの前記距離の差を当該タンデム圧延機における所定値とすればよい。
【0037】
タンデム圧延しているときに鋼返りが発生しているかどうかは、圧延ロールに備えられているモーターに電流変動計を設け、電流の変動を測定して確認してもよい。鋼返りが発生しない場合は、角鋼材のコーナー部が展伸されて折れ込みが発生しないため、角鋼材の断面形状が極端に変化していない。そのため圧延ロールに備えられたモーターに供給される電流は、ほぼ一定となり、例えば、約800Aを維持する。しかし鋼返りが発生すると、角鋼材の断面形状が極端に変化し、表面に凹凸ができるため、圧延ロールに負荷がかかり、該圧延ロールに備えられたモーターに供給される電流が変動する。このとき電流は、例えば、約1260Aにまで高くなる。従って定常状態に対して、電流の上昇が発生した場合には、鋼返りが発生したと確認できる。
【0038】
タンデム圧延機に供給する前記角鋼材の断面について2組の対辺の距離を夫々測定したときに、それらの距離の差(x−y)が所定値を超える原因は、製造して得られた角鋼材に表面疵が発生しているかどうかを調査したときに、表面疵が認められた角鋼材のうち疵が軽度である場合に角鋼材の表面を研削して表面疵を除去することにより、断面が長方形になる点にあると考えられる。
【0039】
そこで表面疵を除去するときは、具体的には、以下の手順で操業すれば、表面疵がなく、しかも熱間圧延しても表面疵が発生しない棒鋼または線材を製造できる。即ち、断面形状が略正方形の角鋼材を製造し(工程1)、得られた角鋼材の表面疵探傷を行ない(工程2)、前記工程2で表面疵が発見された場合には、該表面疵を角鋼材の表面を研削することによって除去する(工程3)。そして本発明では、前記工程3の後、角鋼材の断面について2組の対辺の距離を夫々測定し、それらの距離の差を算出し(工程4)、前記距離の差が所定値を超える場合には、該距離の差が所定値以下となるように角鋼材表面を研削する(工程5)。次に、工程6で、前記距離の差が所定値以下になっている角鋼材をタンデム圧延すれば、所望の棒鋼または線材を製造できる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0040】
[工程1]
工程1では、断面形状が略正方形の角鋼材を製造する。この角鋼材の製造方法は特に限定されず、常法に従って、連続鋳造または分塊圧延によって得られるビレット等を意味する。角鋼材(ビレット)は、長手方向に対して垂直面の断面形状が略正方形であればよく、鋼材の一辺の長さは、100〜250mm程度であればよい。略正方形とは、角鋼材の断面について直交する辺の長さの差が、長い方の辺の長さに対して4%程度以内であることを意味する。
【0041】
[工程2]
工程2では、常法に従って、上記工程1で得られた角鋼材の表面疵探傷を行ない、角鋼材の表面に疵が発生しているかどうかを検査する。表面疵探傷は、例えば、磁紛探傷法で行なえばよい。
【0042】
表面疵探傷を行なうときには、通常、内部疵探傷も行なう。内部疵探傷は、例えば、超音波探傷を行なえばよい。内部疵探傷を行なって内部疵が見つかった場合には、スクラップとして廃棄する。
【0043】
表面疵探傷を行なって表面疵が認められず、内部疵探傷を行なって内部疵も発見できなかった場合には、そのままタンデム圧延を行なえばよい(後述する工程6)。
【0044】
一方、内部疵探傷を行なっても内部疵は発見できないが、表面疵探傷を行なって表面疵が認められた場合には、この表面疵が大きく、深く、表面研削で除去できない程度であれば、角鋼材をスクラップとして廃棄する。しかし表面疵が小さく、深さが浅いときには、通常、表面研削して表面疵を除去する(工程3)。
【0045】
[工程3]
上述したように、工程2で表面疵が見つかり、この表面疵が小さく、深さが浅いときには、工程3で、角鋼材の表面を研削して表面疵を除去する。このとき表面疵が少ない場合には、疵の部分を局所的にチッピングして切削除去すればよいが、表面疵が多い場合には、通常、表面疵が認められた面において表面疵を全て含むように、角鋼材の幅方向に向かってグラインダーにて全面研削を行なう。ところがこの全面研削を行なうと、角鋼材の断面が長方形に変形してしまう。
【0046】
そこで本発明では、工程3で表面疵を除去した後は、工程4として、角鋼材の断面について2組の対辺の距離を夫々測定し、続く工程5では、それらの距離の差が所定値を超える場合には、該距離の差が所定値以下となるように角鋼材の表面を研削してからタンデム圧延を行なう。
【0047】
[工程4]
工程4では、角鋼材の断面について2組の対辺の距離を夫々測定し、それらの距離の差を算出する。2組の対辺の距離とは、上記図3の辺Aと辺Cの距離xと、辺Bと辺Dの距離yを意味し、それらの距離の差とはx−yを意味する。
【0048】
2組の対辺の距離を測定する位置は、角鋼材の先端近傍か、角鋼材の末端近傍とすればよい。角鋼材の先端近傍や末端近傍は、第n番目の圧延ロールを通過して次の第n+1番目の圧延ロールに到達するまでの間で、圧延ロールに保持されず、フリーな状態となるため、回転し易く、鋼返りを発生し易いからである。
【0049】
ここで先端近傍と末端近傍とは、タンデム圧延機のうち粗圧延用に設けられたスタンド間距離に相当する領域を意味する。即ち、粗圧延用に設けられたスタンドについて、隣り合うスタンド間距離を夫々測定し、これらの距離の中で最大の距離を決定する。この決定された距離に相当する位置を、角鋼材の先端または末端から測定し、先端または末端からこの決定された位置までの領域について、角鋼材の断面について2組の対辺の距離を測定すればよい。
【0050】
上記工程3で、角鋼材の複数箇所について表面研削を実施した場合であって、該表面研削を行なった位置が角鋼材の先端近傍か末端近傍に複数箇所存在するときは、2組の対辺の距離の差が最大となる位置における差の値に基づいて判断すればよい。
【0051】
なお、角鋼材の断面について2組の対辺の距離を夫々測定する時期は、表面研削終了後であって、角鋼材を加熱炉に装入して加熱を行なうまでの間とする。
【0052】
[工程5]
工程5では、上記工程4において算出した距離の差(x−y)に基づいて、該距離の差が所定値を超える場合には、該距離の差が所定値以下となるように角鋼材表面を研削する。なお、前記距離の差が所定値以下の場合には、表面研削を行なうことなく、加熱した後、タンデム圧延を行なえばよい。
【0053】
[工程6]
工程6では、上記工程5で、前記距離の差が所定値以下になっている角鋼材をタンデム圧延機で粗圧延を行なう。
【0054】
タンデム圧延機は、圧延方向が互いに直交するスタンドを交互に並べた圧延機であり、スタンドには圧延方向が垂直方向または水平方向となるように圧延ロールが設けられている。
【0055】
粗圧延の条件は特に限定されず、例えば、ダイヤスクエアパススケジュールに従って圧延すればよい。即ち、圧延ロールに菱カリバーを設け、角鋼材の断面形状を、角形→横方向に偏平した菱形→縦方向に偏平した菱形→横方向に偏平した菱形と繰返し変形しつつ断面積を小さくして圧延すればよい。
【0056】
粗圧延した後は、続いて中間圧延と仕上げ圧延を行なえば、棒鋼や線材を製造できる。中間圧延と仕上げ圧延の条件については特に限定されず、常法に従って行なえばよい。
【0057】
上記工程1〜工程6を経て得られる本発明の棒鋼や線材は、タンデム圧延時に鋼返りが発生していないため、表面疵が発生しておらず、しかもこの棒鋼や線材を鍛造しても表面疵が発生することがない。
【0058】
本発明で得られる棒鋼や線材の断面形状は特に限定されず、丸状であってもよいし、角状、六角状であってもよい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0060】
[予備実験]
断面形状が略正方形(約155mm×約155mm)の角鋼材を製造し、該角鋼材の表面を研削して断面の2組の対辺距離の差を種々変化させた後、タンデム圧延を行なった。このとき圧延ロールに設けられたモーターに、電流変動測定装置を設け、モーターに供給される電流の変動を監視することによって鋼返りの発生の有無を調べた。次に、鋼返りが発生することなく得られた丸棒鋼(φ32.0mm)を熱間鍛造し、表面疵が発生するかどうか調べた。
【0061】
その結果、タンデム圧延時に鋼返りが発生せずに、しかも得られた丸棒鋼を鍛造したときに表面疵が発生しない丸棒鋼を製造するには、タンデム圧延前における角鋼材の断面について、2組の対辺の距離の差が3.5mm以下に調整すればよいことが分かった。この3.5mmを本実施例で用いたタンデム圧延機の所定値とする。
【0062】
なお、タンデム圧延機のうち、粗圧延用に設けられたスタンドについて、隣り合うスタンド間距離を測定したところ、最大距離は2.5mであった。
【0063】
[比較例1]
角鋼材として、断面が153.1mm×156.7mmで、2組の対辺の距離の差が3.6mmの角鋼材を製造した(工程1)。
【0064】
得られた角鋼材について表面疵探傷を行なった(工程2)。このとき内部疵探傷も行なった。表面疵探傷は、磁紛探傷を自動で行ない、表面疵が発生している部分を目視で確認し、自動または手動でマーキングした。
【0065】
内部疵探傷は、超音波探傷を行ない、角鋼材内部に異常があるかどうか確認した。内部疵が発見されたものについてはスクラップとして廃棄処分した。
【0066】
比較例1では、表面疵探傷と内部疵探傷を行なった結果、表面疵も内部疵も認められなかった。
【0067】
表面疵も内部疵も認められなかったため、そのままタンデム圧延機で粗圧延を行ない、次いで中間圧延と仕上げ圧延を行なって丸棒鋼(φ32.0mm)を製造した(工程6)。
【0068】
タンデム圧延機のうち粗圧延用圧延ロールに設けられたモーターに、電流変動測定装置を設け、モーターに供給される電流の変動を監視することによって鋼返りの発生の有無を調べた。その結果、鋼返りが発生していた。得られた丸棒鋼の表面を観察すると、線状の疵が認められた。
【0069】
[比較例2]
角鋼材として、断面が153.4mm×156.7mmで、2組の対辺の距離の差が3.3mmの角鋼材を製造した(工程1)。
【0070】
得られた角鋼材について、上記比較例1と同様に、表面疵探傷を行なった(工程2)。このとき上記比較例1と同様に、内部疵探傷も行なった。内部疵探傷を行なった結果、内部疵は認められなかったが、表面疵探傷を行なった結果、角鋼材の先端から1m付近の位置における角鋼材表面に、複数個の表面疵が認められたため、認められた表面疵を全て含むように、角鋼材の幅方向に向かって全面グラインダーを行なって表面研削を行なった(工程3)。
【0071】
表面研削して表面疵を除去した後、再度、表面探傷を行なった。その結果、表面疵が完全に除去されていることを確認した。
【0072】
次に、表面疵を除去した後の角鋼材の断面について、2組の対辺の距離を測定して対辺の距離の差を算出すると3.5mmを超えていたが、この角鋼材をそのままタンデム圧延機で粗圧延を行ない、次いで中間圧延と仕上げ圧延を行なって丸棒鋼(φ32.0mm)を製造した(工程6)。粗圧延時には、鋼返りが発生していた。得られた丸棒鋼の表面には、表面疵が認められた。
【0073】
[発明例]
角鋼材として、断面が152.1mm×155.8mmで、2組の対辺の距離の差が3.7mmの角鋼材を製造した(工程1)。
【0074】
得られた角鋼材について、上記比較例1と同様に、表面疵探傷を行なった(工程2)。このとき上記比較例1と同様に、内部疵探傷も行なった。内部疵探傷を行なった結果、内部疵は認められなかったが、表面疵探傷を行なった結果、角鋼材の先端から2m付近の位置における角鋼材表面に、複数個の表面疵が認められたため、認められた表面疵を全て含むように、角鋼材の幅方向に向かって全面グラインダーを行なって表面研削を行なった(工程3)。
【0075】
表面研削して表面疵を除去した後、再度、表面探傷を行なった。その結果、表面疵が完全に除去されていることを確認した。
【0076】
次に、表面疵を除去した後の角鋼材の断面について、2組の対辺の距離を測定すると、152.1mmと155.7mmであり、対辺の距離の差は3.6mmであった。
【0077】
そこで、対辺の距離の差が所定値以下(3.5mm以下)となるように、上記工程3で研削した面に対して垂直な面を全面グラインダーして研削した(工程5)。
【0078】
工程5で表面を研削した後、角鋼材の断面について、2組の対辺の距離を測定すると、152.1mmと155.5mmであり、対辺の距離の差は3.4mmであった。
【0079】
対辺の距離の差を調整した角鋼材をタンデム圧延機で粗圧延を行ない、次いで中間圧延と仕上げ圧延を行なって丸棒鋼(φ32.0mm)を製造した(工程6)。粗圧延時には、鋼返りが発生していなかった。得られた丸棒鋼を熱間鍛造しても、表面疵は認められなかった。
【0080】
以上の結果を下記表2にまとめて示す。
【0081】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、角鋼材をタンデム圧延しているときの様子を示す模式図であり、鋼返りは発生していないことを示している。
【図2】図2は、角鋼材をタンデム圧延しているときの様子を示す模式図であり、鋼返りが発生していることを示している。
【図3】図3は、角鋼材の断面を模式的に示した図である。
【図4】図4は、角鋼材のコーナー部を拡大した図であり、角鋼材のコーナー部を研削したときの状態を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延方向が互いに直交するスタンドを交互に並べたタンデム圧延機によって、断面形状が略正方形の角鋼材を粗圧延し、その後さらに圧延を続けて棒鋼または線材を製造する方法であって、
粗圧延前に、前記角鋼材の断面について2組の対辺の距離を夫々測定し、それらの距離の差が所定値を超える場合には、該距離の差が所定値以下となるように角鋼材の表面を研削してからタンデム圧延することを特徴とする棒鋼または線材の製造方法。
【請求項2】
圧延方向が互いに直交するスタンドを交互に並べたタンデム圧延機によって、断面形状が略正方形の角鋼材を粗圧延し、その後さらに圧延を続けて棒鋼または線材を製造する方法であって、
断面形状が略正方形の角鋼材を製造する工程(工程1)、前記角鋼材の表面疵探傷を行なう工程(工程2)、前記工程2で発見された表面疵を、角鋼材表面を研削することによって除去する工程(工程3)、前記工程3の後、角鋼材の断面について、2組の対辺の距離を夫々測定し、それらの距離の差を算出する工程(工程4)、前記距離の差が所定値を超える場合には、該距離の差が所定値以下となるように角鋼材表面を研削する工程(工程5)、前記距離の差が所定値以下になっている角鋼材をタンデム圧延する工程(工程6)、を含むことを特徴とする棒鋼または線材の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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