説明

植物の生長促進剤および土壌活性剤

【課題】安全性に優れ、且つ最適な植物生長促進及び土壌活性作用を有する、植物の生長促進剤および土壌活性剤を提供すること。
【解決手段】イネ科植物の蒸煮物を含有してなる植物生長促進剤。イネ科植物が、イネ科タケ亜科植物である上記植物生長促進剤。イネ科タケ亜科植物が、ササ属である上記植物生長促進剤。蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈を蒸煮したのち、水性溶媒で抽出したものである上記植物生長促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物を有効利用して、イネ科、例えば、イネ科タケ亜科植物の抽出物あるいは抽出残渣を有効成分として、最適な植物生長促進及び土壌活性作用を有する、植物の生長促進剤および土壌活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農作物では高い生産性を目的として、各種肥料・農薬が使用されている。しかしながら、これらの肥料や農薬は、環境負荷の見地から、また生産者の健康被害の問題、消費者の安全意識の高まりから、これら薬剤による環境汚染や農作物への汚染が重大な社会問題として取り上げられ、無農薬有機農法への転換が叫ばれて久しく、地球規模での環境保全問題として注目されつつある。一方、森林の下層植生としてイネ科タケ亜科植物であるササ類などが広く分布しており、その蓄積量は1億5千トンと推定されており、林業では造林や天然更新を妨げる雑草として未利用資源となっている。これを利用することは森林の整備の面からも有効である。
このような観点から木酢液、竹酢液などの活用や、特開2001-64112号公報では、ヒノキチオール、クマザサエキス、茶ポリフェノール、モウソウチクエキスの活用が試みられているが、これらを製造するにあたっては蒸留処理、あるいはエタノール抽出などの操作を施しているため、高分子成分などはほとんど含まれていない。
一方、蒸留処理、エタノール処理を行わず、植物体を高温高圧で処理する蒸煮では、植物細胞壁のヘミセルロースが分解して、リグニン・セルロース・ヘミセルロース・多糖類・ポリフェノールなどからなる複雑な高分子成分を多く含むことが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平05-184239号公報
【特許文献2】特開2000-309502号公報
【特許文献3】特開2001-64112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のような事実を鑑み、本発明は、廃棄物の有効利用によってイネ科、例えば、イネ科タケ亜科植物の抽出物あるいは抽出残渣が、安全性に優れ、且つ土壌を活性化して、植物の生長を促進する、機能を持つことを見出し、最適な植物生長促進及び土壌活性作用を有する、植物の生長促進剤および土壌活性剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、以上の事実を鑑み、未利用森林資源の有効利用と、安全性の高い植物生長促進剤および土壌活性剤を提供すべく種種検討を重ねた結果、その作用機序は不明であるが、イネ科、例えば、イネ科タケ亜科植物の抽出物および抽出残渣が優れた植物生育促進作用および土壌活性作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、イネ科植物の蒸煮物を含有してなる植物生長促進剤に関する。
【0007】
また、本発明は、イネ科植物が、イネ科タケ亜科植物である上記植物生長促進剤に関する。
【0008】
また、本発明は、イネ科タケ亜科植物が、ササ属である上記植物生長促進剤に関する。
【0009】
また、本発明は、イネ科植物の抽出成分が、イネ科植物の葉および/または稈を蒸煮したのち、水性溶媒で抽出したものである上記植物生長促進剤に関する。
【0010】
また本発明は、蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈を蒸煮したのち 、水性溶媒で抽出したものである上記植物生長促進剤に関する。
【0011】
また本発明は、蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈を、減圧弁およ び気液分離装置により乾き度を向上させた乾燥蒸気で120〜250℃で3 0秒から1時間蒸煮したものである上記植物生長促進剤に関する。
【0012】
また本発明は、蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈と水を100: 50〜100:150の重量混合比の下、蒸煮温度120〜250℃で蒸煮 したものである上記植物生長促進剤に関する。
【0013】
また本発明は、水性溶媒抽出温度が、100〜150℃である上記植物生長 促進剤に関する。
【0014】
また、本発明は、イネ科植物の蒸煮物を含有してなる土壌活性剤に関する。
【0015】
また、本発明は、イネ科植物が、イネ科タケ亜科植物である上記土壌活性剤に関する。
【0016】
また、本発明は、イネ科タケ亜科植物が、ササ属である上記土壌活性剤に関する。
【0017】
また、本発明は、イネ科植物の抽出成分が、イネ科植物の葉および/または稈を蒸煮したのち、水性溶媒で抽出したものである上記土壌活性剤に関する。
【0018】
また本発明は、蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈を蒸煮したの ち、水性溶媒で抽出したものである上記土壌活性剤に関する。
【0019】
また本発明は、蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈を、減圧弁お よび気液分離装置により乾き度を向上させた乾燥蒸気で120〜250℃で 30秒から1時間蒸煮したものである上記土壌活性剤に関する。
【0020】
また本発明は、蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈と水を100 :50〜100:150の重量混合比の下、蒸煮温度120〜250℃で蒸 煮したものである上記土壌活性剤に関する。
【0021】
また本発明は、水性溶媒抽出温度が、100〜150℃である上記土壌活 性剤に関する。
【0022】
また本発明は、蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈を蒸煮したのち、水性溶媒で抽出した抽出残渣である上記土壌活性剤に関する。

【発明の効果】
【0023】
本発明により、廃棄物の有効利用によってイネ科、例えば、イネ科タケ亜科植物の抽出物あるいは抽出残渣が、安全性に優れ、且つ土壌を活性化して、植物の生長を促進する、機能を持つことを見出し、最適な植物生長促進及び土壌活性作用を有する、植物の生長促進剤および土壌活性剤を提供できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の植物生長促進剤および土壌活性剤は、特に限定するものではないが、葉面散布処理、土壌混合処理、土壌潅注処理、種子への処理、水耕栽培、組織培養用の培養液への添加処理等により植物に適用でき、植物の種類によって異なるが、通常、水溶液としては、0.00001〜30重量%、好ましくは0.0001重量%〜10重量%の濃度で適用できる。
抽出残渣を土壌混合の場合、混合物として、1〜10,000kg/ha、好ましくは10〜5000kg/haの量で適用できる。
本発明の一般的な利用方法は、本発明により活性化された土壌で、植物の生長が促進させるものであるが、土壌を介さず直接植物の生長の促進させたり、植物の生長の促進を目的としない土壌活性化をすることも可能である。また、土壌活性化と、植物の生長の促進とは、同一の場所で行われる必要はなく、活性化された土壌を、適所に移動させることがあってもよい。
【0025】
また、本発明の植物生長促進剤および土壌活性剤には、さらに、ビタミン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、タンパク質、アルコールなどの添加物を単独、又は2種以上選択して混合することができる。
【0026】
本発明の適用となる植物としては、特に限定するものではないが、例えば、イネ、小麦、トウモロコシ等の穀物類、ナス、トマト、イチゴ等の果菜類、ホウレンソウ、レタス等の葉菜類、ダイコン、ニンジン、ジャガイモ、サトイモ等の根菜類、モモ、ブドウ等の果樹類、パンジー、ユリ等の花卉類、コウライシバ、ベントシバ等の芝類等が挙げられる。
【0027】
また、本発明の植物生長促進剤および土壌活性剤は他の農薬、肥料とも併用できる。
【0028】
この場合、本発明品植物生長促進剤を0.00001%〜30重量%含み、肥料成分として窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウム、イオウより選ばれる少なくとも1種以上を含有させることができる。
【0029】
また、肥料成分として、さらに鉄、銅、亜鉛、マンガン、モリブデン酸、塩素、ホウ素より選ばれる少なくとも1種以上を含有させることができる。
【0030】
本発明の植物生長促進剤および土壌活性剤を施肥することによって、植物の成長が促進され、作物の品質向上、作物の病気に対する抵抗性向上、作物の害虫に対する抵抗性向上、果樹の結実増加と落果減少、果実の糖度及び味の向上、花の色および艶の向上、作物の日持ち向上に有効である。
【0031】
(イネ科植物定義)
本発明で用いるイネ科植物には特に限定はないが、好ましいのは、イネ科およびイネ科亜科植物で、およそ600属と10000種が属する被子植物単子葉類である。亜科の代表的な属にはタケ亜科メダケ属、イネ亜科イネ属、ウシノケグサ亜科コムギ属、カゼクサ亜科シバ属、ヨシ亜科ヨシ属、キビ亜科キビ属、キビ亜科ススキ属などがあり、イネ、コムギ、トウモロコシ、オオムギ、サトウキビ、タケ、ササなどが属する。本発明ではイネ科植物のいずれを用いても良い。
【0032】
本発明で用いるイネ科およびイネ科タケ亜科の例として、ホウライチク属、タンスイチク属、ヒマラヤカラムス属、インドカラムス属、カンチク属、クゥンズウェア属、チュスクエア属、オタテア属、ヤダケ属、メダケ属、クマザサ属、アズマザサ属に属するものが好ましい。なかでもクマザサ属が望ましく例としてオクヤマザサ、ゴテンバザサ、カツラギザサ、スズダケ、コウヤチク、フイリスズ、クマスズ、キスジスズ、ケスズ、ウンゼンザサ、ミヤマクマザサ、ネマガリダケ、キンメイチシマ、コンシマネマガリ、シモフリネマガリ、マキバネマガリ、チャボマキバチシマ、キアケボノネマガリ、ノチザエキフネマガリ、タカラネマガリ、ヤネフキザサ、キシマヤネフキザサ、ミヤコザサ、ホソバザサ、フイリホソバザサ、チマキザサ、シャコタンチク、タンナザサ、クマイザサ、ツボイザサ、アケボノイブキザサ、クマザサ、チュウゴクザサ等などが挙げられるが、これに限られるものではない。
一般的に竹もしくは笹と呼ばれ包括されているものそれぞれが有効であり、特に、クマザサ、クマイザサ、チシマザサなど、葉の周辺に白っぽい隈取りができる総称的にクマザサと呼ばれるものが好ましい。
【0033】
(抽出成分)
本発明の抽出物の成分は複雑で必ずしも明確ではないが、フェニルプロパノイド、酢酸、ギ酸、3−ヒドロキシピリジンを各々0.5mg/g以上含有し、かつ加熱残分を40〜60重量%に調製したときの糖類の含有量が50mg/g以下であることが好ましい。フェニルプロパノイドは、クマル酸、フェルラ酸、カフェ酸、バニリンから選ばれる少なくとも一つの化合物であることが好ましい。またヘミセルロース由来の食物繊維などの高分子成分も含有される。
【0034】
(抽出物の残渣)
本発明にて抽出物の残渣は、蒸煮後あるいは蒸煮に続く水性溶媒による抽出後に残った滓で、細胞壁を構成するリグニン・セルロース・ヘミセルロース・ポリフェノール等が分解しない形態にて残った繊維状の残留物であり、抽出液の残留物および非分解性の植物残渣である。また、リグニン化セルロース等の不溶解分等が残留する。これらの残渣を土壌の物理的、化学的、生物的性質を改良することを目的にして、土壌に混合する目的に使用することができる。例えば土壌の通気性、水はけ、保水性を向上させたり、土壌のpHを最適な状態に調整することができる。抽出残渣は、そのまま用いても良いが、通常行われる方法で乾燥・醗酵・破砕・圧縮などの処理を施してから用いても良い。
【0035】
(使用するイネ科植物)
本発明に用いるイネ科植物の植物体は、乾燥前の生葉でも良いが、十分に乾燥したものが好ましく、好ましい水分はイネ科植物の葉および/または稈全体に対して10%以下であり、それより多い場合であると腐敗、発酵により成分が変質する恐れがある。本発明の蒸煮に用いるイネ科植物の葉および/または稈の形態については細片化したものが好ましく、好ましい大きさは0.5〜20mmであり、0.5mmよりも小さいと抽出後の固液分離が困難となり20mmよりも大きいと抽出効率が悪くなる。
【0036】
(抽出法)
本発明で用いられる、イネ科植物の植物体の抽出物を得る方法は特に限定されないが、イネ科植物を水、アルコールなどの抽出溶剤に浸漬等して得ることができる。また、市販品として入手もできる。また、イネ科植物の抽出物は適宜、水等で希釈して使用することができる。
【0037】
本発明で用いられる、イネ科植物の植物体の抽出物を得る方法は特に限定されないが、例えば特開平06−197800号公報、特開平11−199502号公報、特開2002−322079号公報、特願2004-222710や、特願2004-242239に記載された方法を使用できる。
【0038】
本発明で用いられる、イネ科植物の抽出物は、イネ科植物の蒸煮工程を経た後、抽出されることが特に好ましい。本発明の蒸煮は高温、高圧に耐えうる装置であれば如何なるものでも実施できる。以下、イネ科植物が笹の葉の場合を想定して説明とする。ほかの植物体、あるいは、葉以外の部分の場合も同様に行うことができる。
【0039】
蒸煮時の温度は120〜250℃、あるいは、好ましくは150〜220℃、更に好ましくは160〜190℃である。120℃未満では、原料が乾燥葉で有る場合を除いて、笹中のヘミセルロースの分解による細胞壁の破壊がほとんど起こらないため所望の成分を十分に抽出することができず、250℃より高温では有効成分の分解が激しくなり薬効が損なわれるおそれがある。蒸煮を行なう時間は30秒から1時間の間が好ましく、さらに好ましくは5分から20分の間が良く、30秒より短いとヘミセルロースの加水分解が不十分となり成分量が少なくなることがあり、1時間より長いと得られた成分の分解が起こりやはり得られる成分量が少なくなることがある。蒸煮終了後、加圧を解除する際は一気に装置を開放形にして大気圧とする方がササの葉または稈の組織破壊がより進み、抽出効率が向上するので好ましい。
【0040】
蒸煮に用いられる蒸気は、ボイラー等蒸気の発生源と蒸煮を行なう装置を結ぶ蒸気配管途中に気水分離装置および減圧弁を設けた装置の蒸気が好ましい。当該装置を用いることにより蒸気の乾き度が向上する。乾き度が高くドレンと呼ばれる蒸気の凝縮水が少ない程、特定成分を効率よく抽出するとともに糖類の抽出量を適度にコントロールすることが可能となる。蒸気の乾き度は簡便な測定方法が存在しないため、通常の製造装置においては直接測定するのは困難である。そのため乾燥蒸気を得るためには気液分離装置メーカー等が保有する乾き度測定システム等により99%以上の乾き度が達成できることが確認された気液分離装置を使用するのが好ましい。気液分離装置には遠心式とバッフル式があるがバッフル式のほうが蒸気量に関わらず安定して高い乾き度を達成できるため好ましい。
【0041】
蒸煮中に蒸煮装置内に空気が残存すると飽和水蒸気と笹の葉または稈との接触が阻害され蒸煮が不十分となり抽出効率の低下につながるため好ましくない。空気の残存を避ける手段としては手動または自動空気抜き弁を開放した状態で蒸気を導入し蒸煮装置から空気を追い出せばよい。空気を追い出す蒸気温度は80〜200℃であればよく好ましくは100〜180℃であり、空気を追い出す時間は0.5〜60分が良い。
【0042】
原料が乾燥葉(含水量が10重量%以下)で有る場合は、蒸煮時の乾燥葉および/または稈と水の比は100:50〜150の混合比にして蒸煮することも好ましい。100:50よりも少ない水の比率下ではヘミセルロース等の加水分解に必要とされる水分量が不足し、100:150よりも多い水の比率下では蒸気が笹葉に到達せず細胞壁の破壊がほとんど起こらないため所望の成分を十分に抽出することができない。また、蒸煮時の温度は120〜170℃が最も好ましい。120℃未満では笹中のヘミセルロースの分解による細胞壁の破壊がほとんど起こらないため所望の成分を十分に抽出することができず、170℃より高温ではクマル酸などの有効成分の分解が激しくなり薬効が損なわれるおそれがある。蒸煮を行なう時間は30秒から1時間の間が好ましく、さらに好ましくは5分から20分の間が良く、30秒より短いとヘミセルロースの加水分解が不十分となり成分量が少なくなり、1時間より長いと得られた成分の分解が起こりやはり得られる成分量が少なくなる場合がある。蒸煮終了後、加圧を解除する際は一気に装置を開放形にして大気圧とする方がササの葉または稈の組織破壊がより進み、抽出効率が向上するので好ましい。
【0043】
水性溶媒で抽出方法は、蒸煮後に、冷却もしくは温度を保持したまま、水性溶媒を添加し、室温から180℃、このましくは、100〜180℃、より好ましくは、100〜150℃の条件で、前記水性溶媒に、蒸煮された笹の葉を漬浸する。抽出時の温度は100〜150℃が最も好ましい。100℃未満では抽出効率が低下することがあり、150℃より高温では有効成分の分解が激しくなりやはり得られる成分量が少なくなることがある。抽出を行なう時間は10分から1時間の間が好ましく、さらに好ましくは15分から30分の間が良く、10分より短いと溶出量が少なくなり抽出効率が低下することがあり、1時間より長いと得られた成分の分解が起こりやはり得られる成分量が少なくなることがある。
【0044】
本発明に用いられる水性溶媒はメタノール、エタノール、アセトン等の水溶性溶媒またはそれらの水溶液、水が好ましく、植物体抽出物の用途によって許される場合はアルカリ水溶液を用いることで抽出効率を上げることができる。本発明に用いられるアルカリ水溶液は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等が好ましい。
【0045】
本発明において、蒸煮工程、抽出工程は、それぞれを本発明の主旨を逸脱しない範囲で、繰り返し行われていてもよい。また、各工程前後に、さらに、保持工程などの他の工程が設けられていてもよい。
【0046】
(推測される作用)
イネ科植物、例えば、竹または笹の植物体の抽出成分に関しては、リグニン・セルロース・ヘミセルロース・多糖類・ポリフェノールを多く含んでいることが推測されておりその成分は複雑で必ずしも明確ではない。
【0047】
イネ科植物、例えば、竹または笹の植物体の抽出成分は、キシロース、アラビノース等のペントース(五炭糖)、ガラクトース、グルコース等のヘキソース(六炭糖)などを主成分とする単糖、およびそれらが重合したキシロオリゴ糖、アラビノオリゴ糖、あるいはキシロース、アラビノースが相互に複雑に架橋したアラビノキシランなどの多糖類が含まれることが知られている。
また他の植物と比較した場合に、クマル酸、フェルラ酸・カフェ酸・バニリンなどのフェニルプロパノイド系ポリフェノールがイネ科植物に多く含まれることが知られている。これら以外にも酢酸・ギ酸・プロピオン酸・乳酸などの有機酸類や、アミノ酸、3−ヒドロキシピリジンなどの含窒素環化合物、なども多量に含まれている。特に先述の蒸煮工程を経ることにより、これらの化合物の収量が格段に向上している。
【0048】
(イネ科植物抽出物・抽出残渣 製造方法1)
0.5〜5mmに粉砕された水分7%の乾燥したクマイザサの葉および稈2kgを高圧蒸煮缶に仕込み、貫流ボイラーで発生させた2MPaの高圧蒸気を予め乾き度測定システムにより乾き度が99.5%まで達成されることが確認されたセパレーターにより気液分離しさらに減圧弁により1.6MPaまで減圧することで乾き度を向上させた蒸気を高圧蒸煮缶に導入した。蒸気導入当初は空気抜き弁を開放にして100℃で10分間蒸気を蒸煮缶内部に通過させることで空気を追い出し、空気抜き弁を閉じて100℃から10分間かけて180℃まで昇温させそのままの温度で10分間保持後一気に加圧解除した。高圧蒸煮した葉および稈を加圧抽出缶に仕込み水8kgを加えて室温から110℃まで30分間かけて昇温し、そのままの温度で5分間保持しその後1時間かけて加圧状態を解除した。抽出物をろ過、減圧濃縮して加熱残分50%のササ抽出物、およびその抽出残渣を得た。
【0049】
(イネ科植物抽出物・抽出残渣 製造方法2)
0.5〜5mmに粉砕された水分7%の乾燥したトウモロコシ果皮400gと純水400g(含水率50重量%)を高圧蒸煮缶に仕込み、10分間かけて160℃まで昇温させそのままの温度で10分間保持後一気に加圧解除した。高圧加水蒸煮した葉および稈に水4kgを加えて室温から110℃まで5分間かけて昇温し、そのままの温度で30分間保持後加圧状態を解除した。抽出物をろ過、減圧濃縮して加熱残分50%のトウモロコシ果皮抽出物、およびその抽出残渣を得た。
【0050】
(イネ科植物抽出物・抽出残渣 製造方法3)
0.5〜5mmに粉砕された水分7%の乾燥したイネの葉および茎400gと純水400g(含水率50重量%)を高圧蒸煮缶に仕込み、10分間かけて200℃まで昇温させそのままの温度で10分間保持後一気に加圧解除した。高圧加水蒸煮した葉および稈に水酸化ナトリウム1.8gを溶解した水4kgを加えて室温から110℃まで5分間かけて昇温し、そのままの温度で30分間保持後加圧状態を解除した。抽出物をろ過、減圧濃縮して加熱残分50%のイネ抽出物、およびその抽出残渣を得た。
【0051】
(形態)
本発明のイネ科植物の抽出物および抽出残渣を、植物あるいは土壌に施肥する形態に特に限定はなく、溶液・固形・ゲル状などであってもよく、また、その他の化合物との混合物であってもよい。混合物である場合は、スプレードライ、凍結乾燥、デキストリンなど添加等の処理したものであってもよい。さらに、濾過、カラム精製、溶剤洗浄などの選別工程を経たものであってもよい。
例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、タルク、流動性向上剤等、一般的に造粒に使用される添加剤を用いても良い。例えば、デンプン、乳糖、マンニットカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等の結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の軽質無水ケイ酸等、酢酸セルロース、キトサン、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カルシウム、脱脂米糠、油かす、大豆粉、小麦粉、無水ケイ酸、フスマ、もみがら粉、粘度粉末、稲わら、麦わら、樹皮細片物、鶏糞、馬糞、牛糞、骨粉、炭酸カルシウム、ミルクカルシウム、酸化マグネシウム、重炭酸ナトリウム、結晶セルロース、澱粉、ビール酵母、糖、還元乳糖、植物油脂等、ゼラチン、ペクチン、寒天、カラギーナン等を適宜組み合わせて処方することにより、液剤、ゲル状剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ペレット等として製造することができる。
【実施例1】
【0052】
以下に、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(植物蒸煮物を施肥する例)
クマザサエキスは製造方法1にしたがって得た抽出物を用いた。黒土5kgをプランターに添加し、ホウレンソウの種子を60粒を播種し1ヶ月間自然条件下で栽培した。実験区は、クマザサエキス無添加区を比較例とし、製造方法1にて製造したクマザサエキスを、水で0.1%、1%、5%に希釈して、播種後0、5、10、15、20、25、30日目に液肥として与えて栽培して実施例とした。対照区を100とした場合の相対値を示した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

この表1より、対照区と比較してクマザサエキスを施肥した実験区では、1株当たりの平均重量・茎葉長ともに生育が順調であることが認められた。
【実施例2】
【0054】
クマザサエキスは製造方法1にしたがって得た抽出残渣を用いた。黒土5kgに抽出残渣を5重量%、15重量%を混合して、トマトを5株ずつ栽培して、その収量を調査した。トマト1株あたりの平均収穫量を、比較例と比較した。比較例を100とした場合の相対値を示した。
【0055】
【表2】

【0056】
以上の結果より、本発明により、クマザサエキスを施肥することにより、植物に対し、優れた生長促進作用を示し、その結果、発芽促進、健苗育成、生育に要する期間の短縮、収量向上、収穫物品質の向上等の効果が得られ、イネ科、例えば、イネ科タケ亜科植物の抽出物および抽出残渣は植物の生長促進剤として有効であることが示された。
また、このような植物の生長促進は、土壌に施肥をした結果であり、イネ科、例えば、イネ科タケ亜科植物の抽出物および抽出残渣は、土壌を植物の生長促進するように活性化できることが示されたので、土壌活性化剤としても有効であることがわかった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ科植物の蒸煮物を含有してなる植物生長促進剤。
【請求項2】
イネ科植物が、イネ科タケ亜科植物である請求項1記載の植物生長促進剤。
【請求項3】
イネ科タケ亜科植物が、ササ属である請求項2記載の植物生長促進剤。。
【請求項4】
蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈を蒸煮したのち、水性溶媒で抽出したものである請求項1〜3いずれか記載の植物生長促進剤。
【請求項5】
蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈を、減圧弁および気液分離装置により乾き度を向上させた乾燥蒸気で120〜250℃で30秒から1時間蒸煮したものである請求項4記載の植物生長促進剤。
【請求項6】
蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈と水を100:50〜100:150の重量混合比の下、蒸煮温度120〜250℃で蒸煮したものである請求項4記載の植物生長促進剤。
【請求項7】
水性溶媒抽出温度が、100〜150℃である請求項4〜6いずれか記載の植物生長促進剤。
【請求項8】
イネ科植物の蒸煮物を含有してなる土壌活性剤。
【請求項9】
イネ科植物が、イネ科タケ亜科植物である請求項9記載の土壌活性剤。
【請求項10】
イネ科タケ亜科植物が、ササ属である請求項9記載の土壌活性剤。
【請求項11】
蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈を蒸煮したのち、水性溶媒で抽出したものである請求項8〜10記載の土壌活性剤
【請求項12】
蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈を、減圧弁および気液分離装置により乾き度を向上させた乾燥蒸気で120〜250℃で30秒から1時間蒸煮したものである請求項11記載の土壌活性剤。
【請求項13】
蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈と水を100:50〜100:150の重量混合比の下、蒸煮温度120〜250℃で蒸煮したものである請求項11記載の土壌活性剤。
【請求項14】
水性溶媒抽出温度が、100〜150℃である請求項11〜13いずれか記載の土壌活性剤。
【請求項15】
蒸煮物が、イネ科植物の葉および/または稈を蒸煮したのち、水性溶媒で抽出した抽出残渣である請求項8〜10いずれか記載の土壌活性剤。


【公開番号】特開2007−119368(P2007−119368A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310805(P2005−310805)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】