説明

植物の鉄含量向上用組成物

【課題】 収益性を重視した品種改良や栽培技術を導入した結果、野菜をはじめとする農作物の栄養価が大幅に低下しており、健康な生活を営む上での栄養素が欠乏している。本発明は、植物中の鉄含量を有意に向上させることを目的とした、鉄化合物と界面活性剤を含有する組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 鉄化合物と界面活性剤とを含有する、植物の鉄含量を向上させる組成物、その組成物を含有する肥料およびこれを用いて育成した植物、さらにその植物を含有する食品を供給することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物に与えた場合に、その鉄含量を有意に向上させる組成物、その組成物を含有する肥料およびこれを用い育成された植物およびその植物を含有する飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近来、野菜の鉄含有量の低下は大きな社会問題となっている。たとえば、日本食品標準成分表によると、ホウレンソウに含まれる鉄分が1950年では100グラムあたり13.0ミリグラムであったものが、2001年では2.0ミリグラムにまで低下している。(例えば、非特許文献1参照。)
【0003】
これは、栽培が容易で収穫量が多い、または外観や色が消費者に好まれるといった収益性重視の品種改良が促進されたことに加えて、ハウス栽培や電照栽培といった技術の普及により一年を通じて作物が供給できるようになった結果として野菜の旬というものがなくなったことなどが原因と考えられている。
【0004】
中でも鉄分は最も減少が著しい栄養成分であることが指摘されている。野菜は人が栄養補給をしていく上で必要不可欠なものであるが、現在、必要な栄養素を野菜等の一般食品のみから補給するのは事実上困難であり、栄養剤やサプリメントを併用しているのが現状である。
【非特許文献1】「五訂食品成分表 2002」 女子栄養大学出版部
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況に対し、加工食品の製造時に鉄分を強化することは行われているが、植物の育成時に添加し、植物自体の鉄分を増強するというような試みは行われていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、鉄化合物および界面活性剤を含有する組成物が植物の健全な育成にも効果的であるばかりではなく、植物中の鉄含量を有意に向上させることを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0008】
本発明の植物の鉄含量向上用組成物とは、植物中の鉄含量を有意に向上させることを目的とした、鉄化合物と界面活性剤を含有する組成物である。
【0009】
本発明に利用できる鉄化合物としては、特に限定するものではなく、単体としての鉄のほか、有機性、無機性の鉄化合物が利用できる。具体的には、鉄、塩化鉄、オロチン酸鉄、クエン酸鉄、クエン酸鉄塩、グリコン酸第一鉄、グルコン酸鉄、三二酸化鉄、水酸化鉄、炭酸鉄、トレオニン鉄、乳酸鉄、ピロリン酸第二鉄、フマル酸鉄、リン酸鉄、硫酸第一鉄といった化合物が挙げられるが、安全性の面から考えると食品添加物として認可されているものが望ましい。塩化第二鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、グリコン酸第一鉄、乳酸鉄、ピロリン酸第二鉄、硫酸第一鉄といった化合物が挙げられる。また、水に難溶性の鉄化合物は、pHに影響を与えにくいため植物の育成にとって望ましい。なお、本発明でいう難溶性とは特に限定するものではないが、25℃における溶解度積が1.0×10−5以下のもの、より好ましくは1.0×10−7以下のものが好適に利用できる。そのような観点からすると、特にリン酸第二鉄、炭酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄が推奨される。以上より、安全性および植物育成の両面から最も推奨される鉄化合物としては、ピロリン酸第二鉄が挙げられる。
【0010】
本発明に利用できる界面活性剤としては、特に限定するものではなく、一般に利用されている天然系または合成系のものが適用できる。例えば天然系の界面活性剤としては、レシチン、サポニン、タンパク質、ペプチド、多糖類といったもの、およびこれらに酵素を作用させて改質したものが挙げられる。また、合成系の界面活性剤としては、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルサルコシン塩、N−アシルグルタミン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖または分岐鎖アルキルベンゼンスルホンサン塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリン塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩といったアニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、塩化、臭化またはヨウ素化アルキルジメチルアンモニウム、塩化、臭化またはヨウ素化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルベンザルコニウムといったカチオン性界面活性剤、アルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルまたはジアルキルエチレントリアミノ酢酸、アルキルアミンオキシドといった両性界面活性剤、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、脂肪酸ポリオキシエチレングリコールエステル、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタンエステル、脂肪酸アルカノールアミドといった非イオン性界面活性剤が挙げられる。中でも、植物に対する安全性、さらには野菜を摂取した際の人体への安全性を考慮すると食品添加物として認可されている界面活性剤すなわち乳化剤と呼称されているものが望ましい。先に例示した界面活性剤の中では、天然系の界面活性剤のすべて、合成系の界面活性剤ではグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが該当する。なお、グリセリン脂肪酸エステルの範疇には、モノグリセリド、ジグリセリドといった狭義のグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが含まれる。これらの乳化剤のうち、親水性が高く水への分散性がよいことから特に酵素分解レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。
【0011】
これらの界面活性剤は単独で用いられるほか、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
本発明の適用に当たっては、水への分散性や植物への効率のよい吸収性を考えた場合に、粒度分布がより微細であることが望ましい。特に鉄化合物として水に難溶性の化合物を用いた場合は粒度の大きさが性能に関わる要因となる。具体的に示すならば、平均粒径が1000nm以下、好ましくは500nm以下であることが望ましい。
【0013】
このような粒度分布を有する組成物を調製する方法としては、所望の粒度分布となるよう物理的に破砕する方法と化学的に中和造塩反応を行う方法が例示できる。物理的な破砕に用いられる機器としては、ホモミキサー、ボールミル、ジェットミルといったものが挙げられる。化学的な中和造塩法とは、酸とアルカリを反応させて塩を形成させる方法であり、例えばピロリン酸第二鉄を合成するには塩化第二鉄やピロリン酸四ナトリウムと強アルカリとを反応させることにより得ることができる。
【0014】
鉄化合物と界面活性剤の混合方法は特に限定するものではない。例えば鉄化合物の水溶液または水分散液に界面活性剤を溶解させる方法、界面活性剤の水溶液に鉄化合物を溶解または分散させる方法、界面活性剤溶液中で造塩反応を行う方法、界面活性剤溶液中で物理的破砕を行う方法が例示できる。このように調製された組成物は、そのまま、または希釈して植物に適用できるほか、他の有用素材を添加して製剤の安定性や付加価値の向上を図ったり、粘度を調整して取り扱いを容易にすることも可能である。そのような素材として、保存料、増粘剤、香料、エタノール、植物の育成に必要な無機有機の栄養素などが挙げられる。本発明の組成物の形態は、液状のほか乾燥させて粉末としてもよい。その際には賦形剤としてデキストリンや糖類の添加や、粉末の流動性を上げるために滑沢剤の添加も可能である。
【0015】
本発明の組成物を含有する植物の種類は限定するものではなく、一般に食用とされている野菜類、いも類、きのこ類、果実類、豆類、穀物類、種実類、藻類が挙げられる。
【0016】
例えば、野菜類としては特に限定するものではなく、アーティチョーク、あさつき、あしたば、アスパラガス、うど、さやえんどう、とうみょう、おくら、おおさかしろな、おかひじき、かぶ、かぼちゃ、からしな、カリフラワー、かんぴょう、きく、キャベツ、きゅうり、ぎょうじゃにんにく、きょうな、キンサイ、クレソン、くわい、ケール、コールラビ、こごみ、ごぼう、こまつな、ザーサイ、さんとうさい、しかくまめ、ししとうがらし、しそ、じゅうろくささげ、しゅんぎく、じゅんさい、しょうが、しろうり、ずいき、すぐきな、ズッキーニ、せり、セロリ、ぜんまい、タアサイ、だいこん、かいわれだいこん、たいさい、つまみな、たかな、たけのこ、たまねぎ、たらのめ、チコリ、チンゲンサイ、つくし、つるな、つるむらさき、つわぶき、とうがらし、とうがん、トマト、ミニトマト、トレビス、とんぶり、ながさきはくさい、なす、なずな、なばな、にがうり、にら、にんじん、にんにく、ねぎ、のざわな、のびる、はくさい、パクチョイ、バジル、パセリ、はつかだいこん、はやとうり、ビート、ピーマン、ひのな、ひろしまな、ふき、ふじまめ、ふだんそう、ブロッコリー、へちま、ほうれんそう、ホースラディッシュ、まこも、みずかけな、みつば、みょうが、むかご、メキャベツ、めたで、もやし、だいずもやし、りょくとうもやし、モロヘイヤ、やまごぼう、ゆりね、ようさい、よめな、よもぎ、らっきょう、エシャロット、リーキ、ルバーブ、レタス、サラダな、サニーレタス、れんこん、ロケットサラダ、わけぎ、わさび、わらびといったものが例示できる。
【0017】
いも類としては特に限定するものではなく、きくいも、こんにゃく、さつまいも、さといも、じゃがいも、やまのいも、いちょういも、ながいも、やまといも、じねんじょ、だいじょ、キャッサバといったものが例示できる。
【0018】
きのこ類としては特に限定するものではなく、えのきたけ、きくらげ、くろあわびたけ、しいたけ、しめじ、はたけしめじ、ぶなしめじ、ほんしめじ、たもぎたけ、なめこ、ぬめりすぎたけ、ひらたけ、えりんぎ、まいたけ、マッシュルーム、まつたけ、やなぎまつたけといったものが例示できる。
【0019】
果実類としては特に限定するものではなく、あけび、アセロラ、アテモヤ、アボガド、あんず、いちご、いちじく、いよかん、うめ、うんしゅうみかん、オリーブ、オレンジ、オロブランコ、かき、かぼす、かりん、キウイフルーツ、キワノ、きんかん、グアバ、グズベリー、ぐみ、グレープフルーツ、ココナッツ、ごれんし、さくらんぼ、ざくろ、さんぼうかん、シイクワシャー、すいか、すだち、すもも、プルーン、だいだい、タンゴール、タンゼロ、チェリモヤ、ドリアン、なし、せいようなし、なつみかん、なつめ、なつめやし、パインアップル、ハスカップ、はっさく、パッションフルーツ、バナナ、パパイア、ピタヤ、ひゅうがなつ、びわ、ぶどう、ブルーベリー、ぶんたん、ホワイトサポテ、ぽんかん、まくわうり、マルメロ、マンゴー、マンゴスチン、メロン、もも、ネクタリン、やまもも、ゆず、ライチ、ライム、ラズベリー、りゅうがん、りんご、レモンといったものが例示できる。
【0020】
豆類としては特に限定するものではなく、あずき、いんげんまめ、えだまめ、えんどう、ささげ、そらまめ、だいず、たけあずき、ひよこまめ、べにばないんげん、らいまめ、らっかせい、りょくとう、れんずまめといったものが例示できる。
【0021】
穀物類としては特に限定するものではなく、アマランサス、あわ、えんばく、おおむぎ、きび、こむぎ、こめ、もちごめ、そば、とうもろこし、はとむぎ、ひえ、もろこし、ライむぎといったものが例示できる。
【0022】
種実類としては特に限定するものではなく、アーモンド、あさ、えごま、カシューナッツ、かぼちゃの種子、かやの実、ぎんなん、くり、くるみ、けし、ココナッツ、ごま、しいの実、すいかの種子、とちの実、はすの種子、ひしの実、ピスタチオ、ひまわりの種子、ブラジルナッツ、ヘーゼルナッツ、ペカン、マカダミアナッツ、まつの実、らっかせいといったものが例示できる。
【0023】
藻類としては特に限定するものではなく、あおさ、あおのり、あまのり、あらめ、いわのり、えごのり、おごのり、かわのり、くびれづた、こんぶ、すいぜんじのり、てんぐさ、とさかのり、ひじき、ひとえぐさ、ふのり、まつも、むかでのり、もずく、わかめといったものが例示できる。
【0024】
本製剤の適用方法は特に問わないが、通常の肥料のように必要に応じて適宜添加する方法、植物に散布する水に予め分散させておく方法、種子、球根や種芋に浸潤させる方法、水耕栽培においては培養液中に添加する方法、植物を収穫した後に浸漬または散布して吸収させる方法などが例示できる。
【0025】
また、本発明の組成物は通常用いられる肥料や土質改質剤に配合して、肥料の付加価値を高めることも可能である。本品を配合できる肥料、土質改良剤として、牛糞、鶏糞、豚糞、油粕、植物や魚介類を原料とした有機肥料、窒素、リン、カリウムの化合物を単品または複合化した化成肥料、およびこれらの混合肥料を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明の植物は、そのまま、あるいは乾燥、粉末化して、あらゆる調理食品、半調理食品、加工食品、半加工食品などに利用することができる。例えば、サラダ、お浸し、煮物、サンドイッチなどの野菜を含む惣菜、カット野菜、即席麺やカップ麺の具材、レトルト・調理食品、調理缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰、フリーズドライ食品といった即席食品、炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料水、果肉飲料、果粒入り果実食品、野菜系飲料、豆乳・豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料といった嗜好飲料類、パン、マカロニ・スパゲッティ、麺類、ケーキミックス、から揚げ粉・パン粉、ギョーザ・春巻の皮といった小麦粉食品、ケーキ・パイ、スナック・クラッカー、和菓子・米菓子・豆菓子、デザート菓子といった菓子類、しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類といった基礎調味料、風味調味料、調理ミックス、カレーの素、たれ類、ドレッシング、麺つゆ、スパイスといった複合調味料、バター、マーガリン、マヨネーズといった油脂食品、加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、チーズ、アイスクリーム、調製粉乳、クリームといった乳製品、素材冷凍食品、冷凍野菜、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品といった冷凍食品、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品といった水産加工品、畜肉ハム・ソーセージといった畜産加工品、農産缶詰、果実缶詰、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆、農産乾物類、シリアルといった農産加工品、ベビーフード、離乳食、ふりかけ、お茶漬けのり、サプリメントなどを例示できる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例をあげて、本発明をより詳細に説明するが、本発明がこれに限定されるのもではない。
【0028】
実施例1
塩化第二鉄六水和物13kgをイオン交換水60kgに溶解して鉄溶液を調製した。別にピロリン酸四ナトリウム10水和物20kgをイオン交換水500kgに溶解し、ここへ先の鉄溶液を攪拌しながら徐々に添加し、混合液のpHを3.0に調整した。中和反応によるピロリン酸第二鉄の造塩が終了した後、遠心分離機にて不溶性のピロリン酸第二鉄を得、イオン交換水中に再懸濁して10%ピロリン酸第二鉄分散液を得た。ここへ酵素分解レシチン(太陽化学(株)サンレシチンA)0.3kgを加えてホモミキサーで攪拌し、本発明の組成物を得た。この組成物の粒子径を測定したところ、平均粒子径は220nmであった。
【0029】
実施例2
実施例1において、酵素分解レシチンの代わりにペンタグリセリンモノミリステート(太陽化学(株)サンソフトA−141E)を用いた他は同様に処理し、本発明の組成物を得た。この組成物の粒子径を測定したところ、平均粒子径は310nmであった。
【0030】
実施例3
湿式粉砕機((株)シンマルエンタープライゼス)にリン酸第二鉄60g、ジグリセリンモノラウレート(太陽化学(株)サンソフトQ−12D)2.5g、モノステアリン酸ソルビタン(太陽化学(株)サンソフトNo.61S)0.25gおよび水437.25gを加え、50℃で1時間粉砕を行い、本発明の組成物を得た。この組成物の粒子径を測定したところ、平均粒子径は450nmであった。
【0031】
実施例4
30cmの浅型バットに脱脂綿を敷き、ブロッコリーの種子100粒を蒔いた。ここへ、鉄含量として0.01%となるように調製した実施例1で得た組成物の分散液30mlを添加した。そのまま1日12時間蛍光灯照射下、12時間暗所で1週間育成し、本発明のブロッコリースプラウトを得た。このブロッコリースプラウトの鉄含量を原子吸光分析にて測定したところ、100gあたり9.3mgであった。
【0032】
実施例5
実施例4において、実施例1で得た組成物の分散液の代わりに実施例2で得た組成物の分散液を用いた他は同様に育成し、本発明のブロッコリースプラウトを得た。このブロッコリースプラウトの鉄含量を原子吸光分析にて測定したところ、100gあたり8.9mgであった。
【0033】
比較例1
3つの30cmの浅型バットに脱脂綿を敷き、それぞれにブロッコリーの種子20粒を蒔いた。ここへ、脱イオン水、硫酸第一鉄溶液およびピロリン酸第二鉄分散液をそれぞれ300mlずつ添加した。なお、硫酸第一鉄溶液とピロリン酸第二鉄分散液は鉄含量として0.01%となるよう調製した。そのまま1日12時間蛍光灯照射下、12時間暗所で1週間育成したが、硫酸第一鉄溶液を添加したものは発芽が認められなかった。
脱イオン水およびピロリン酸第二鉄分散液で育成したブロッコリースプラウトの鉄含量を原子吸光分析にて測定したところ、それぞれ100gあたり1.5mgおよび1.7mgであった。
【0034】
実施例6
エアポンプで空気を通じた水槽に、硝酸カリウム8g、硝酸カルシウム9.45g、硫酸マグネシウム5g、リン酸二水素アンモニウム1.5gおよび実施例1で得た10%ピロリン酸第二鉄分散液30gを水10リットルに溶解した培養液を入れ、約20cmのトマトの苗を根元まで浸るように設置した。適宜培養液を交換しながら2か月育成し、本発明のトマトを得た。このトマトの鉄含量を原子吸光分析にて測定したところ、100gあたり2.8mgであった。
【0035】
比較例2
実施例1で得た10%ピロリン酸第二鉄分散液を添加しない以外は実施例6と全く同様に処理し、トマトを得た。このトマトの鉄含量を原子吸光分析にて測定したところ、100gあたり0.5mgであった。
【0036】
実施例7
1平方メートルの畑に堆肥2kg、苦土石灰200gを散布し、ホウレンソウの種子5mlを蒔いて、このまま草丈が20cmになるまで育成した。収穫2日前に、実施例3で得た10%ピロリン酸第二鉄分散液を鉄含量が0.1%となるように希釈した溶液1リットルを散布し、本発明のホウレンソウを得た。このホウレンソウの鉄含量を原子吸光分析にて測定したところ、100gあたり18mgであった。
【0037】
比較例3
実施例1で得た10%ピロリン酸第二鉄分散液を散布しない以外は実施例6と全く同様に処理し、ホウレンソウを得た。このホウレンソウの鉄含量を原子吸光分析にて測定したところ、100gあたり1.8mgであった。
【0038】
実施例8
実施例4で得たブロッコリースプラウト20gを凍結乾燥機にて乾燥処理し、本発明の乾燥野菜1.7gを調製した。
【0039】
実施例9
実施例5で得たトマト1kgを半切りにし、スライスしたタマネギ半個、ニンニク1片を加えて加熱、砂糖20gと塩3gを加えた後ミキサーにかけた。これをスチール缶に充填し、レトルト殺菌機にて121℃20分殺菌し、本発明のトマトジュースを得た。
得られたトマトジュースは、一般の育成法により得られたトマトを用いた以外は同様の方法で調製したトマトジュースと比較して、風味・食感等差を有さないものであった。
【0040】
実施例10
実施例1で得た組成物1kgにデキストリン(三和澱粉工業(株)サンデック#70)100gを加え、スプレードライにて乾燥粉末化し、本発明の組成物185gを得た。
市販の複合肥料1kgに本組成物10gを加えてよく混合し、本発明の肥料を得た。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、鉄含量を向上させた、栄養価の高い農作物の供給が可能となり、加えてこれを利用した付加価値の高い加工食品の供給が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄化合物と界面活性剤とを含有することを特徴とする植物の鉄含量向上用組成物。
【請求項2】
鉄化合物が水に難溶性であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の組成物を含有することを特徴とする肥料。
【請求項4】
請求項1もしくは2記載の組成物、または請求項3記載の肥料を用いて育成した植物。
【請求項5】
請求項4記載の植物を含有する飲食品。

【公開番号】特開2007−153699(P2007−153699A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353139(P2005−353139)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】