説明

植物主桿飼料の製造方法及び植物主桿飼料製造用浸漬液

【課題】植物主桿を用いた乳酸菌発酵飼料の製造では、製品出荷に至るまでの処理工程数が多いことから、多大な時間や労力や設備投資を要しており、しかも、乳酸菌が十分に繁茂しない間に腐敗を起こすという問題点があった。
【解決手段】本発明はpHを3〜5とした乳酸菌を含む浸漬液に植物主桿を浸漬することで、植物主桿を腐敗菌から保護すると共に、嫌気状態を維持することで乳酸菌による発酵を促進するようにした。また、乾燥時には植物主桿飼料の水分5〜45%とした。従って、袋詰めして出荷した後でも熟成を進行させることができ、しかも、安価で品質の良い植物主桿飼料を迅速かつ容易に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物主桿飼料の製造方法及び植物主桿飼料製造用浸漬液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、砂糖や黒糖などを製糖する工場などにおいて、原料となるサトウキビを圧搾した際に、搾汁後の絞りかすであるバガスが副産物として生じることが知られている。
【0003】
このバガスは、セルロースやリグニンなどの分解されにくい物質から構成されており、安価な有効利用が困難であることから、燃料の代替品として燃焼するなどして処理されているのが現状であった。
【0004】
また、トウモロコシを栽培した後に副産物として産出されるトウモロコシの茎もバガスと同様に硬質であり、土などに混ぜ込むことで土壌改良材として利用されているものの、特段の長所がある利用方法とは言い難いものであった。
【0005】
このように、バガスやトウモロコシの茎などの植物主桿は、砂糖やトウモロコシなどの主産物の生産量に比して、消費される量がわずかであることから、有効な利用方法が模索されている。
【0006】
一方で、植物主桿にはセルロースやヘミセルロースなどの繊維質に富んだ成分を含んでいることから、有効な飼料として利用可能であるものと考えられている。
【0007】
そこで、植物主桿のひとつであるバガスをアルカリ処理して乳酸菌を繁殖させることで嗜好性の改善を図り、牛が好んで食するようにした発酵バガス飼料の製造方法が知られている(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7-231754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した発酵バガスの製造方法では、植物主桿をアルカリ処理するための工程が必要となり、作業が煩雑となることから、容易に製造することができなかった。
【0009】
また、アルカリ処理した植物主桿に乳酸菌種菌と栄養源とを含有させて発酵させるものの、その発酵手段が、植物主桿をプラスチックシートでカバーしたり、フレキシブルバッグに詰めたりするものであるために、空気中に存在する腐敗菌をも同時に封入してしまい、植物主桿が十分発酵する前にこの腐敗菌によって腐敗してしまうことが頻発していた。
【0010】
さらに、アルカリ処理した植物主桿をビニールシートでカバーしたり、フレキシブルバッグに詰めたりしなくてはならないので、発酵飼料を大量に製造するには、大きな設備が必要となり、大量の発酵飼料を安価に製造することは困難であった。
【0011】
しかも、多くの工程を経なければ出荷状態とはならず、短時間での製品化は容易ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の植物主桿飼料製造用浸漬液では、糖蜜1容量部に対して1〜10容量部の水を混合した混合液で乳酸菌を培養し、前記混合液のpHを3〜5とした。
【0013】
また、本発明の植物主桿飼料の製造方法では、糖蜜と水と乳酸菌とを含有し、かつ、pHを3〜5とした混合液に植物主桿を所定時間浸漬する浸漬工程と、浸漬した植物主桿の水分含量を5〜45重量%に乾燥する乾燥工程とを有することとした。
【0014】
さらに、前記乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタルムを含むことを特徴とすることとした。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の植物主桿飼料製造用浸漬液は、糖蜜1容量部に対して1〜10容量部の水を混合した混合液に、乳酸菌を接種し、混合液のpHが3〜5に至るまで前記乳酸菌を培養した。
【0016】
したがって、空気中に存在する腐敗菌が植物主桿飼料製造用浸漬液に混入した場合でも、腐敗菌の増殖をできるだけ防止可能な植物主桿飼料製造用浸漬液とすることができると共に、植物主桿を密閉包装するための設備を必要としないので、製造費用を安価とすることができる。
【0017】
また、請求項2に記載の植物主桿飼料の製造方法では、糖蜜1容量部に対して1〜10容量部の水を混合した混合液で乳酸菌を培養し、前記混合液のpHが3〜5とした植物主桿飼料製造用浸漬液に植物主桿を所定時間浸漬させ、その後植物主桿の水分含量を5〜45重量%とすることとした。
【0018】
したがって、植物主桿を腐敗させることなく乳酸菌発酵させることができると共に、植物主桿の水分含量を5〜45重量%に調整することで、製品出荷後であっても発酵を継続させることができ、短時間で出荷可能な状態とすることができる。
【0019】
さらに、請求項3に記載の植物主桿飼料の製造方法では、前記乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタルムを含むことを特徴とすることとした。
【0020】
したがって、植物主桿を良好に乳酸菌発酵することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、糖蜜1容量部に対して1〜10容量部の水を混合した混合液に、乳酸菌を接種し、混合液のpHが3〜5に至るまで前記乳酸菌を培養した植物主桿飼料製造用浸漬液および同浸漬液に植物主桿を所定時間浸漬する浸漬工程と、浸漬した植物主桿の水分含量を5〜45重量%に乾燥する乾燥工程とを有する植物主桿飼料の製造方法を提供するものである。
【0022】
ここで、植物主桿とはイネ科の植物の茎のことであり、特にイネ科サトウキビ属の茎及び/またはイネ科トウモロコシ属の茎のことを言う。
【0023】
通常、植物主桿と糖蜜とを混合した混合物は、植物主桿の周囲に大量の栄養分が存在することとなるために、バガスに付着している様々な微生物が無秩序に増殖するので、非常に腐敗しやすい状況となっている。
【0024】
このような植物主桿飼料は、飼料としての嗜好性が低下するだけでなく、植物主桿が腐敗してしまった場合、腐敗菌による家畜の体調不良を引き起こすこともあった。
【0025】
本方法によれば、植物主桿を腐敗させることなく、安定して嗜好性の高い植物主桿飼料を製造することができる。
【0026】
すなわち、本発明は腐敗菌の増殖を防止すべく混合液のpHを3〜5とした浸漬液に植物主桿を浸漬することで、浸漬液は植物主桿を腐敗菌から保護すると共に、嫌気状態を維持することで乳酸菌による発酵を促進するようにしている。
【0027】
さらに詳説すると、植物主桿飼料の製造の妨げとなる腐敗菌の多くは、酸性条件下において増殖が困難となり、一方、植物主桿の発酵を促進する乳酸菌は酸性条件下で良好な成育を示すことから、植物主桿の腐敗を防止し、同時に発酵を促進できるのである。
【0028】
しかも、浸漬液に植物主桿を浸漬しているので、発酵中の植物主桿は空気から隔離されており、植物主桿を嫌気状態に保つための包装を施す必要がなく、包装に要する設備費用や労力を削減することができる。
【0029】
所定時間浸漬した後の植物主桿は、水分含量が5〜45重量%となるように乾燥するのが良い。
【0030】
これにより、植物主桿に含まれる硬い厚皮を、飼料として給餌可能な程度に柔らかくすることができ、しかも、植物主桿中に残存した水分と糖蜜により、乾燥後でも乳酸菌による発酵を継続させることができる。
【0031】
したがって、植物主桿が完全に発酵するのを待たずに、植物主桿飼料を製品として出荷することが可能となるので、植物主桿飼料の製造時間を飛躍的に短縮することができる。
【0032】
また、混合液における糖蜜と水の割合を、糖蜜1重量部に対して水1〜10重量部の添加割合としている。
【0033】
混合液中の糖蜜の濃度が高すぎると、浸透圧の影響により乳酸菌の増殖が緩慢となり、また、糖蜜の濃度が低すぎると、栄養不足により乳酸菌の増殖が緩慢となるので、乳酸菌が最も効率よく増殖可能である糖蜜濃度としているものである。
【0034】
ところで、植物主桿としてバガスを用いて飼料を製造する場合において、浸漬液中に含まれる糖蜜はバガスと同様に、サトウキビから製糖する際に生じる副産物の一つである。すなわち、糖蜜とバガスは両者ともサトウキビ由来のものである。
【0035】
したがって、バガスを発酵することが可能な菌は、糖蜜存在下でも良好に増殖できるのに対して、糖蜜存在下で増殖が困難な菌は、バガスを発酵できない可能性もあると考えられる。
【0036】
それゆえ、混合液に糖蜜を配合することは、バガスを発酵することができる菌の増殖を促進し、しかも、バガスを発酵することができない菌を淘汰するという効果も有している。
【0037】
また、植物主桿を発酵するために使用する乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)を用いることで、良好な発酵を行うことができる。
【0038】
ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)は、植物から採取された乳酸菌であることから、植物主桿を乳酸発酵するのに適しており、しかも、比較的高い乳酸産生能を有していることから、目的以外の微生物による腐敗の防止に有効である。
【0039】
このようにして製造した植物主桿飼料は、家畜において高い嗜好性を示すことから、副産物として生じた余剰植物主桿の消費を拡大することができる。
【0040】
また、本発明に係る植物主桿飼料は、牛のルーメン(第1胃袋)の発育促進目的にも使用することができる。すなわち、生後4〜5ヶ月までの子牛には50〜200g程度、生後6〜28ヶ月(出荷時)までの牛には1日あたり500g程度の植物主桿飼料を与えることで、ルーメンの絨毛の発達を促して消化率の向上を図ることができると共に、牛の成育を良好に保つこともできる。
【0041】
以下、この発明を実施例によって更に詳細に説明するが、この発明はその範囲が下記実施例によって制限されるものでは一切なく、下記実施例はこの発明をより具体的に説明するために例示的に記載されたものである。したがって、この発明は、この発明の要旨から逸脱しない限り、あらゆる改良、変更などを包含するものと解釈することができる。
【実施例1】
【0042】
実施例1では、植物主桿飼料の原料としてバガスを用いた場合の実施例について示す。実施例1によれば、バガスをあらかじめ混合液にさらして糖蜜の成分を十分に染みこませた後に、さらに乳酸菌を含有する浸漬液に浸漬することで、バガス繊維の内部まで乳酸菌が成育しやすいようにすることができる。なお、実施例1における作業フローを図1に示す。
【0043】
まず、バガスを所望の大きさに細断する(ステップS11)。ここで細断する長さは、植物主桿飼料を与える対象が成牛の場合は10cm以下が好ましく、子牛の場合は5cm以下とするのが好ましい。このような長さとすることで、牛が植物主桿飼料を摂取しやすくすることができる。
【0044】
ここでバガスとは、製糖過程においてサトウキビから糖分を含む液を圧搾した際に副産物として生じる圧搾滓あり、排出時においては、粉状のものから長さ30cmの髭状のものまで種々の形態のものを含むものである。また、このバガスは、水分含有率40〜50重量%程度で、パサパサした状態をしているものでもある。
【0045】
なお、製糖工場などでは、サトウキビを細断してから搾汁する場合があるので、製糖工場から得られるバガスが既に細断されている場合は、ステップS11を省略するようにしても良い。
【0046】
次に、水と糖蜜との混合液を、調製する(ステップS12)。混合液の水と糖蜜との混合比は、糖蜜1容量部に対して1〜10容量部の水を混合するのが好ましく、さらに好ましくは糖蜜1容量部に対して2〜4容量部の水を混合するのが良い。
【0047】
糖蜜1容量部に対して混合する水を1容量部未満とすると、糖蜜の粘度が高いためにバガスに混合液が浸透しにくくなり、10容量部を超える水を混合すると糖蜜の濃度が希薄となるので、バガス繊維内部に取り込まれる糖蜜の成分が少なくなり、バガス繊維内部での乳酸菌の増殖速度が遅くなる。
【0048】
混合液に使用する水は、水道水や井戸水など特に限定されるものではないが、飲用可能な程度に生菌数が少ない水であることが好ましい。混合液に使用する水中の生菌数を少なくすることで、目的以外の菌による腐敗を防止すると共に、家畜に対して衛生的な飼料を供給することができる。
【0049】
併せて、混合液に使用する水の温度は特に限定されるものではないが、20〜100℃が良く、さらに好ましくは、30〜100℃が良い。水温が20℃未満となると、混合液の調製時に糖蜜の粘性が増加して溶解が困難となるので、作業性が悪化する。
【0050】
また、混合液に使用する糖蜜は、製糖過程においてサトウキビ等の搾汁濃縮液から砂糖の結晶を析出させた後の残液として得られる糖蜜が好ましい。なお、本実施例1において使用した糖蜜の成分分析表を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
本実施例1においては、30℃の水道水を45kgと表1に示した15kgの糖蜜とを混合した混合液を、容量100lのプラスチック製容器に調製した。
【0053】
次に、調製した水と糖蜜との混合液をバガスに浸透させる。(ステップS13)。
【0054】
ここで、バガスへの混合液の浸透は、混合液を収納した容器にバガスを浸漬させて行うようにしても良いが、混合液をバガスに噴霧することで行うようにしても良い。
【0055】
バガスを混合液に浸漬して浸透を行う場合には、バガスが水面に浮かんで滞留しないようにするのが好ましい。すなわち、混合液は糖蜜(比重1.39g/cm3)を含むので、少なくとも水よりも大きな比重を有することとなるが、バガスの比重は約0.3g/cm3であることから、混合液に投入したバガスは混合液の上部に浮遊して滞留することとなるのである。
【0056】
そこで、混合液の上部に浮遊したバガスをたとえば目の細かいネット等で包んで混合液内部におもりを付けて沈めたり、混合液を入れた容器に撹拌機等を設けてバガスが混合液中を対流するように撹拌を行うことが好ましい。
【0057】
混合液へのバガスの浸漬時間は、特に限定されるものではないが、1〜4時間が好ましく、2〜3時間がさらに好ましい。混合液への浸漬時間が1時間未満であると十分にバガス繊維の内部まで混合液の成分が浸透せず、また、4時間以上おこなっても混合液の成分の浸透はあまり進まないので、作業効率が低下することとなる。
【0058】
一方、混合液をバガスに噴霧することで浸透を行う場合には、混合液をシャワーなどにより雨滴状または霧状にして噴霧すると良い。噴霧による混合液に浸透は、混合液にバガスを浸漬するためのタンクが不要であるので、植物主桿飼料を製造する設備の要する費用を安価にすることができると共に、使用する混合液の量を少なくすることができる。
【0059】
本実施例1では、ネットで包んだ6kgのバガスにおもりを付けて、調製した60lの混合液中に投入した。
【0060】
次に、混合液中に浸漬したバガスを、同混合液中から取り出して、水切りを行う(ステップS14)。ここで水切りとは、バガスに混合液の成分を残しつつ、余分な混合液を除去することをいう。
【0061】
本実施例1では、混合液中に浸漬したバガスをネットで包んだまま取り出して、ネット上から押圧することで水切りを行った。
【0062】
次に、水と糖蜜と乳酸菌の混合液を、適宜容量と強度とを備えた容器内に調製し、乳酸菌による発酵を行うことでpHを3〜5として浸漬液を調製する(ステップS15)。
【0063】
浸漬液の水と糖蜜との混合比は、糖蜜1容量部に対して1〜10容量部の水を混合するのが好ましく、さらに好ましくは糖蜜1容量部に対して2〜4容量部の水を混合するのが良い。
【0064】
糖蜜1容量部に対して混合する水を1容量部未満とすると、糖蜜の濃度が高いために乳酸菌の成育が阻害されてしまう。このことは、乳酸菌体に比して浸漬液の浸透圧が高くなることが原因であると考えられる。
【0065】
また、10容量部を超える水を混合すると糖蜜の濃度が希薄となるので、乳酸菌の栄養源が少なくなることから、十分な発酵が行えなくなる。
【0066】
浸漬液に使用する水は、水道水や井戸水など特に限定されるものではないが、飲用可能な程度に生菌数が少ない水であることが好ましい。混合液に使用する水中の生菌数を少なくすることで、目的以外の菌による乳酸菌の発酵の阻害を防止すると共に、家畜に対して衛生的な飼料を供給することができる。
【0067】
併せて、浸漬液に使用する水の温度は特に限定されるものではないが、20〜40℃が良く、さらに好ましくは、30〜40℃が良い。水温が20℃未満となると、浸漬液の調製時に糖蜜の粘性が増加して溶解が困難となるので、作業性が悪化する。
【0068】
また、40℃を超えると乳酸菌が死滅してしまうおそれがあるので、40℃を超える温度の水を使用した場合は、混合液の温度を40℃以下としてから乳酸菌を添加し、pHが3〜5となるまで培養を行って浸漬液を調製することが好ましい。
【0069】
また、浸漬液に使用する糖蜜は、ステップ12で示した糖蜜と同様に、製糖過程においてサトウキビ等の搾汁濃縮液から砂糖の結晶を析出させた後の残液として得られる糖蜜が好ましい。
【0070】
なお、本ステップS14において、pHを3〜5とする際には、乳酸菌が発酵することによって生成される乳酸のみによってpHを3〜5としても良く、また、別途乳酸などの酸をpH調整剤として添加することでpHを3〜5に調整しても良い。このpH調整剤は、乳酸菌の成育を阻害したり、動物に対して毒性を有する等、飼料用途としての目的を逸脱しない物質であれば、特に限定されるものではない。
【0071】
しかしながら、浸漬液中に存在する乳酸菌の生菌数が多いほど、バガス飼料に付着する乳酸菌の数も増えるので、好ましくは混合液に添加した乳酸菌が発酵することによって生成する乳酸でpHを3〜5とした浸漬液であり、さらに好ましくはpHを3〜5とし、かつ、浸漬液中に含まれる乳酸菌の生菌数が107〜108cfu/mlである浸漬液である。
【0072】
本実施例1においては、30℃の水道水を45kgと、表1に示した15kgの糖蜜と、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)とを混合した浸漬液を、容量100lのプラスチック製容器に調製した。
【0073】
次に、調製した浸漬液にバガスを浸漬して、浸漬工程を行う(ステップS16)。
【0074】
浸漬液へのバガスの浸漬は、バガスが水面に浮かんで滞留しないようにするのが好ましい。
【0075】
すなわち、混合液は糖蜜(比重1.39g/cm3)を含むので、少なくとも水よりも大きな比重を有することとなるが、バガスの比重は約0.3g/cm3であることから、浸漬液に投入したバガスは浸漬液の上部に浮遊して滞留することとなるのである。
【0076】
そこで、浸漬液の上部に浮遊したバガスをたとえば目の細かいネット等で包んで混合液内部におもりを付けて沈めたり、浸漬液を入れた容器に撹拌機等を設けてバガスが混合液中を対流するように撹拌を行うことが好ましい。
【0077】
このようにして、浸漬液にバガスが浸るようにすることで、バガスの繊維内部まで万遍なく乳酸菌を浸透させることができる。
【0078】
しかも、乳酸菌が十分に繁殖した浸漬液は、目的以外の微生物が繁殖しにくい状態となっているので、浸漬工程中におけるバガスの腐敗を確実に防止することができる。
【0079】
浸漬液へのバガスの浸漬時間は、特に限定されるものではないが、12〜48時間が好ましく、24〜36時間がさらに好ましい。混合液への浸漬時間が12時間未満であると十分にバガス繊維の内部まで乳酸菌が浸透せず、浸透していない部分から腐敗が生じるおそれがある。また、48時間以上の発酵を行っても良いが、乳酸菌のバガスへの浸透はあまり進まないので、作業効率が低下することとなる。
【0080】
本実施例1では、ネットで包んだ9kgの水切り後のバガスにおもりを付けて、調製した60lの浸漬液中に投入し、24時間にわたり浸漬工程を行った。
【0081】
次に、浸漬液中に浸漬したバガスを、同浸漬液中から取り出して、脱液を行う(ステップS17)。ここで脱液とは、バガスに浸漬液の成分を残しつつ、余分な浸漬液を除去することをいう。脱液を行うことで、次の乾燥工程において、浸漬液から取り出したバガスの取扱いを容易にすると共に、乾燥しやすくすることができる。
【0082】
本実施例1では、浸漬液中に浸漬したバガスをネットで包んだまま取り出して、ネット上から押圧することで脱液を行った。
【0083】
次に、脱液したバガスを乾燥する乾燥工程を経てバガス飼料とする(ステップS18)。
【0084】
本乾燥工程でのバガスの乾燥は、バガスの水分含量が5〜45重量%となるように行うのが好ましく、また、バガスの水分含量を30〜40重量%となるように行うのがさらに好ましい。
【0085】
バガスの水分含量を5重量%未満とすることは、乾燥に要する燃料や時間が無駄になるだけでなく、乾燥後のバガスに付着している乳酸菌が時間の経過とともに働いて、発酵・熟成を行うことの妨げとなる。しかも、バガスの繊維は水分含量の減少と共に硬化することから、バガス飼料の家畜に対する嗜好性を低下させる原因ともなりうる。
【0086】
また、バガスの水分含量が40重量%を超えると、腐敗を進行させる菌やカビなどが増殖するおそれがある。
【0087】
また、脱液後のバガスの乾燥方法は、特に限定されるものではなく、天日乾燥や熱風乾燥などさまざまな乾燥方法を適用することができる。
【0088】
本実施例1では、脱液後のバガスを天日乾燥により、水分含量を30重量%に乾燥することで、衛生的で柔らかく嗜好性の高いバガス飼料を製造することができる。
【0089】
そして、このバガス飼料を気密性のある袋等に入れて脱気した状態にすることで、飛躍的に短時間でバガス飼料を出荷することができると共に、飼料として使用するまでの間によりバガス飼料を熟成させることができる。
【実施例2】
【0090】
次に、実施例2で行う手順を図2に示す。実施例2では、植物主桿としてトウモロコシの茎を使用した植物主桿飼料の製造を示す。本実施例で使用する植物主桿は、トウモロコシを収穫した直後のトウモロコシの茎であっても良く、また、枯れたトウモロコシの茎であっても植物主桿飼料を製造することができる。なお、実施例1と同様の操作を行う部分もあるが、重複して説明する。
【0091】
まず、トウモロコシの茎と葉に圧力をかけて搾汁する(ステップS21)。特に、トウモロコシの茎の内部はスポンジ状になっているので、搾汁したトウモロコシの茎は後述する浸漬液が浸透しやすくなり、浸漬工程の浸漬時間を短縮することができる。
【0092】
一方、搾汁することで得られる液は、糖度が4%程度あるので、飼料の一部として家畜に与えても良く、また、本発明に係る浸漬液に添加するようにしても良い。
【0093】
また、トウモロコシの茎や葉が枯れていたり、乾燥している場合は、本ステップS21を省略することができる。
【0094】
次に、トウモロコシの茎を所望の大きさに細断する(ステップS22)。ここで細断する長さは、植物主桿飼料を与える対象が成牛の場合は10cm以下が好ましく、子牛の場合は5cm以下とするのが好ましい。このような長さとすることで、牛が植物主桿飼料を摂取しやすくすることができる。
【0095】
そして、糖蜜1容量部に対して水3〜10容量部を混合して混合液を調製し、(ステップS23)、トウモロコシの茎や葉にこの混合液を浸透させる(ステップS24)。
【0096】
ここで、トウモロコシの茎への混合液の浸透は、混合液を収納した容器にトウモロコシの茎を浸漬させて行うようにしても良いが、混合液をバガスに噴霧することで行うようにしても良い。
【0097】
トウモロコシの茎を混合液に浸漬して浸透を行う場合には、トウモロコシの茎が水面に浮かんで滞留しないようにするのが好ましい。
【0098】
一方、混合液をトウモロコシの茎に噴霧することで浸透を行う場合には、混合液をシャワーなどにより雨滴状または霧状にして噴霧すると良い。噴霧による混合液に浸透は、混合液にトウモロコシの茎を浸漬するためのタンクが不要であるので、植物主桿飼料を製造する設備の要する費用を安価にすることができると共に、使用する混合液の量を少なくすることができる。
【0099】
次に、水と糖蜜と乳酸菌の混合液を、適宜容量と強度とを備えた容器内に調製し、乳酸菌による発酵を行うことでpHを3〜5として浸漬液を調製する(ステップS25)。
【0100】
浸漬液の水と糖蜜との混合比は、糖蜜1容量部に対して1〜10容量部の水を混合するのが好ましく、さらに好ましくは糖蜜1容量部に対して2〜4容量部の水を混合するのが良い。
【0101】
糖蜜1容量部に対して混合する水を1容量部未満とすると、糖蜜の濃度が高いために乳酸菌の成育が阻害されてしまう。このことは、乳酸菌体に比して浸漬液の浸透圧が高くなることが原因であると考えられる。
【0102】
また、10容量部を超える水を混合すると糖蜜の濃度が希薄となるので、乳酸菌の栄養源が少なくなることから、十分な発酵が行えなくなる。
【0103】
浸漬液に使用する水は、水道水や井戸水など特に限定されるものではないが、飲用可能な程度に生菌数が少ない水であることが好ましい。混合液に使用する水中の生菌数を少なくすることで、目的以外の菌による乳酸菌の発酵の阻害を防止すると共に、家畜に対して衛生的な飼料を供給することができる。
【0104】
併せて、浸漬液に使用する水の温度は特に限定されるものではないが、20〜40℃が良く、さらに好ましくは、30〜40℃が良い。水温が20℃未満となると、浸漬液の調製時に糖蜜の粘性が増加して溶解が困難となるので、作業性が悪化する。
【0105】
また、40℃を超えると乳酸菌が死滅してしまうおそれがあるので、40℃を超える温度の水を使用した場合は、混合液の温度を40℃以下としてから乳酸菌を添加し、pHが3〜5となるまで培養を行って浸漬液を調製することが好ましい。
【0106】
また、浸漬液に使用する糖蜜は、ステップ12で示した糖蜜と同様に、製糖過程においてサトウキビ等の搾汁濃縮液から砂糖の結晶を析出させた後の残液として得られる糖蜜が好ましい。
【0107】
なお、本ステップS25において、pHを3〜5とする際には、乳酸菌が発酵することによって生成される乳酸のみによってpHを3〜5としても良く、また、別途乳酸などの酸をpH調整剤として添加することでpHを3〜5に調整しても良い。このpH調整剤は、乳酸菌の成育を阻害したり、動物に対して毒性を有する等、飼料用途としての目的を逸脱しない物質であれば、特に限定されるものではない。
【0108】
しかしながら、浸漬液中に存在する乳酸菌の生菌数が多いほど、植物主桿飼料に付着する乳酸菌の数も増えるので、好ましくは混合液に添加した乳酸菌が発酵することによって生成する乳酸でpHを3〜5とした浸漬液であり、さらに好ましくはpHを3〜5とし、かつ、浸漬液中に含まれる乳酸菌の生菌数が107〜108cfu/mlである浸漬液である。
【0109】
本実施例2においては、30℃の水道水を45kgと、表1に示した15kgの糖蜜と、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)とを混合した浸漬液を、容量100lのプラスチック製容器に調製した。
【0110】
次に、調製した浸漬液にトウモロコシの茎を浸漬して、浸漬工程を行う(ステップS26)。
【0111】
この際の浸漬は、水面にトウモロコシの茎が浮かんで滞留しないようにするのが好ましい。
【0112】
すなわち、混合液は糖蜜(比重1.39g/cm3)を含むので、少なくとも水よりも大きな比重を有することとなるが、トウモロコシの茎の比重は約0.3g/cm3であることから、トウモロコシの茎が浸漬液の上部に浮遊して滞留することとなるのである。
【0113】
そこで、浸漬液の上部に浮遊したトウモロコシの茎をたとえば目の細かいネット等で包んで混合液内部におもりを付けて沈めたり、浸漬液を入れた容器に撹拌機等を設けてトウモロコシの茎が混合液中を対流するように撹拌を行うことが好ましい。
【0114】
このようにして、浸漬液にトウモロコシの茎が浸るようにすることで、繊維内部まで万遍なく乳酸菌を浸透させることができる。
【0115】
しかも、乳酸菌が十分に繁殖した浸漬液は、目的以外の微生物が繁殖しにくい状態となっているので、浸漬工程中におけるトウモロコシの茎の腐敗を確実に防止することができる。
【0116】
トウモロコシの茎を浸漬液に浸漬する時間は、特に限定されるものではないが、1〜4時間が好ましく、2〜3時間がさらに好ましい。混合液への浸漬時間が1時間未満であると十分に繊維の内部まで乳酸菌が浸透せず、浸透していない部分から腐敗が生じるおそれがある。また、4時間以上の発酵を行っても良いが、乳酸菌の浸透はあまり進まないので、作業効率が低下することとなる。
【0117】
本実施例2では、ネットで包んだ15kgの水切り後のトウモロコシの茎におもりを付けて、調製した30リットルの浸漬液中に投入し、3時間にわたり浸漬工程を行った。
【0118】
次に、浸漬液中に浸漬したトウモロコシの茎を、同浸漬液中から取り出して、脱液を行う(ステップS27)。ここで脱液とは、トウモロコシの茎に浸漬液の成分を残しつつ、余分な浸漬液を除去することをいう。脱液を行うことで、次の乾燥工程において、浸漬液から取り出したトウモロコシの茎の取扱いを容易にすると共に、乾燥しやすくすることができる。
【0119】
本実施例2では、浸漬液中に浸漬したトウモロコシの茎をネットで包んだまま取り出して、ネット上から押圧することで脱液を行った。
【0120】
次に、脱液したトウモロコシの茎を乾燥する乾燥工程を経て植物主桿飼料とする(ステップS28)。
【0121】
本乾燥工程の乾燥は、好ましくはトウモロコシの茎の水分含量が5〜45重量%となるように行い、さらに好ましくは30〜40重量%となるように行うのが良い。
【0122】
水分含量を5%未満とすることは、乾燥に要する燃料や時間が無駄になるだけでなく、乾燥後のトウモロコシの茎に付着している乳酸菌が時間の経過とともに働いて、発酵・熟成を行うことの妨げとなる。しかも、トウモロコシの茎の繊維は水分含量の減少と共に硬化することから、植物主桿飼料の家畜に対する嗜好性を低下させる原因ともなりうる。
【0123】
また、乾燥後のトウモロコシの茎の水分含量が40重量%を超えると、腐敗を進行させる菌やカビなどが増殖するおそれがある。
【0124】
また、脱液後のトウモロコシの茎の乾燥方法は、特に限定されるものではなく、天日乾燥や熱風乾燥などさまざまな乾燥方法を適用することができる。
【0125】
本実施例2では、脱液後のトウモロコシの茎をロータリーキルン型乾燥機により熱風乾燥することで水分含量を30重量%に乾燥した。このようにして、衛生的で柔らかく嗜好性の高い植物主桿飼料を短時間で製造することができる。
【0126】
しかも、この植物主桿飼料を気密性のある袋等に入れて脱気した状態にすることで、飛躍的に短時間で植物主桿飼料を出荷することができると共に、飼料として使用するまでの間により植物主桿飼料を熟成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】植物主桿飼料を製造するステップを示したフロー図である。
【図2】植物主桿飼料を製造するステップを示したフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖蜜1容量部に対して1〜10容量部の水を混合した混合液で乳酸菌を培養し、前記混合液のpHを3〜5とした植物主桿飼料製造用浸漬液。
【請求項2】
糖蜜1容量部に対して1〜10容量部の水を混合した混合液で乳酸菌を培養し、前記混合液のpHが3〜5とした植物主桿飼料製造用浸漬液に植物主桿を所定時間浸漬させ、その後植物主桿の水分含量を5〜45重量%とすることを特徴とする植物主桿飼料の製造方法。
【請求項3】
前記乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタルムを含むことを特徴とする請求項2に記載の植物主桿飼料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−296340(P2006−296340A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125363(P2005−125363)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(501275444)
【Fターム(参考)】