植物材料糖化物、醸造物およびそれらの製造方法
【課題】 植物材料糖化物や食酢等の醸造物において、これらの中に健康機能成分のオリゴ糖やポリフェノールを原料に由来する形態にて増加、強化させることの可能な植物材料糖化物製造方法を提供すること。
【解決手段】 植物材料の混合酵素処理により得られ、濃縮処理を経なくても酵素処理によって原料由来オリゴ糖または原料由来ポリフェノールの少なくともいずれかの濃度を高めた状態とすることができる。植物材料としてはリンゴ等果実の搾汁残渣を用いることができる。また混合酵素には、セルラーゼおよびペクチナーゼを用いる。
【解決手段】 植物材料の混合酵素処理により得られ、濃縮処理を経なくても酵素処理によって原料由来オリゴ糖または原料由来ポリフェノールの少なくともいずれかの濃度を高めた状態とすることができる。植物材料としてはリンゴ等果実の搾汁残渣を用いることができる。また混合酵素には、セルラーゼおよびペクチナーゼを用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物材料糖化物、醸造物およびそれらの製造方法に係り、特にこれらの中に、健康機能成分のオリゴ糖やポリフェノールを増加させることの可能な、植物材料糖化物、醸造物およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物性農水産物加工食材(たとえば食酢など)およびその製造方法に関しては、従来から様々に技術的提案がなされている。
特開2001−61434号(後掲特許文献1)には、植物性農水産物に水および植物組織分解酵素を添加して磨砕処理することで植物組織の分解を効率よく行い、その結果、廃棄物がなく有用成分を多量に含み、風味や食感に優れた植物性農水産物加工食材が得られるとする技術が開示されている。また特開平6−105661号(後掲特許文献2)には、細かく摩砕した生又は乾燥した植物にペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ等の植物組織分解酵素剤を作用させて、植物組織を分離分解することにより植物単細胞化食品を取得する技術が開示されている。
【0003】
特開平5−23162号(後掲特許文献3)には、イソマルトースやパノース、イソマルトトリオース等の分岐オリゴ糖含有糖類と食酢製造用アルコールとの混合物を酢酸発酵することにより得られる食酢製造技術が開示されている。また特開平5−23163号(後掲特許文献4)には、ガラクトオリゴ糖含有糖類あるいはフラクトオリゴ糖含有糖類と食酢製造用アルコールとの混合物を酢酸発酵させることにより得られる食酢製造技術が開示されている。
【0004】
また特開平5−111374号(後掲特許文献5)には、100gあたりガラクトオリゴ糖あるいはフラクトオリゴ糖を10g以上含有する粉末食酢技術が、特開平5−111375号(後掲特許文献6)にはイソマルトースやパノース、イソマルトトリオース等の分岐オリゴ糖を100gあたり10g以上含有する粉末食酢技術が、それぞれ開示されている。
【0005】
また特開平6−14762号(後掲特許文献7)には、カリウム塩、マグネシウム塩、クエン酸などを添加することでミネラルバランスおよび酸アルカリバランスに優れ、減塩効果を有しかつ呈味性にも優れるとする食酢および梅酢組成物技術が開示されている。これら特許文献3〜7における開示技術は、コーンスターチ、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプンなど糖化用デンプンを酵素処理して得られる分岐オリゴ糖を使用し酢酸発酵した食酢に係るものである。
【0006】
また特開2003−24006号(後掲特許文献8)には、乳酸および酢酸生成能を有する乳酸菌を用いて果実汁および野菜汁を発酵させ、ジアセチル臭をはじめとした不快な臭味を呈することなく、芳醇さを有しマイルドで風味が良い食酢または酸味食品ペーストの製造方法が開示されている。また特開2005−27535号(後掲特許文献9)には、ヤーコン塊根中に含まれる有用成分であるフラクトオリゴ糖やポリフェノール等を活用した健康食酢とその製造方法が開示されている。
【0007】
特許文献8における開示技術はミネラル添加により機能性を持たせた食酢に係るもの、また特許文献9における開示技術は、酵素処理は行わずにもともとヤーコンそのものに含まれるフラクトオリゴ糖やポリフェノールを発酵終了まで残した食酢に係るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−61434号「植物性農水産物加工食材の製造方法および植物性農水産物加工食材」
【特許文献2】特開平6−105661号「植物単細胞化食品の製造方法」
【特許文献3】特開平5−23162号「新規な食酢」
【特許文献4】特開平5−23163号「新食酢」
【特許文献5】特開平5−111374号「新粉末食酢」
【特許文献6】特開平5−111375号「新規な粉末食酢」
【特許文献7】特開平6−14762号「機能性食酢および梅酢組成物」
【特許文献8】特開2003−24006号「新規食酢、酸味食品ペースト、及びその製造方法」
【特許文献9】特開2005−27535号「まろやかな健康食酢及びその製造方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、上記特許文献1および2の開示技術によれば、酵素処理による農水産物組織を崩壊させピューレ状の食品を製造することはできる。しかし、オリゴ糖等の機能性成分は酵素処理等の製造条件によって増減するものであるところ、その検討はまったくなされていない。また、その他すべての特許文献を含めても、果実、野菜の原料を酵素処理して、原料中の細胞壁多糖類から生成されるオリゴ糖、および果皮等に由来するポリフェノール等、原料由来の機能性成分を強化した食酢の事例は認められない。
【0010】
上記のように従来の技術では、酵素処理による農水産物のピューレ化や、オリゴ糖液やミネラル類などの機能性成分を発酵する技術に留まるものであり、機能性成分を増加させるための酵素糖化工程の検証や、それを発酵させることによって原料に由来するオリゴ糖やポリフェノールなどを強化した発酵物についての検討までは、まったくなされていなかった。
【0011】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、植物材料糖化物や食酢等の醸造物において、これらの中に健康機能成分のオリゴ糖やポリフェノールを原料に由来する形態にて増加、強化させることの可能な、植物材料糖化物、醸造物およびそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は上記課題について検討した結果、酵素処理を繰り返すことで原料由来のオリゴ糖やポリフェノール等の機能性成分を増加させ、またそれを使用した発酵物等についても機能性成分が残存する製造条件を明らかにすることを通して原料由来の機能性成分を強化可能であることを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0013】
〔1〕 原料である植物材料の酵素処理により得られ、濃縮処理を経なくても該酵素処理によって原料由来オリゴ糖または原料由来ポリフェノールの少なくともいずれかの濃度が高められた状態である、植物材料糖化物。
〔2〕 前記植物材料は搾汁処理済み植物材料か、またはその他の植物組織分離処理済み植物材料であることを特徴とする、〔1〕に記載の植物材料糖化物。
〔3〕 前記酵素処理にはセルラーゼおよびペクチナーゼを混合した混合酵素を用いることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の植物材料糖化物。
〔4〕 前記植物材料はリンゴその他の果実の搾汁残渣であることを特徴とする、〔1〕ないし〔3〕のいずれかに記載の植物材料糖化物。
〔5〕 〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の植物材料糖化物の酢酸発酵処理により得られる醸造物。
〔6〕 〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の植物材料糖化物のアルコール発酵処理により得られる、オリゴ糖高濃度の糖質素材。
〔7〕 原料である植物材料を加水処理、粉砕処理および加熱処理に供した後、1回または2回以上酵素処理することにより、濃縮処理を経ることなく原料由来オリゴ糖または原料由来ポリフェノールの少なくともいずれかの濃度が高められた植物材料糖化物を得られる、植物材料糖化物の製造方法。
【0014】
〔8〕 前記植物材料は搾汁処理済み植物材料か、またはその他の植物組織分離処理済み植物材料であることを特徴とする、〔7〕に記載の植物材料糖化物の製造方法。
〔9〕 前記酵素処理にはセルラーゼおよびペクチナーゼを混合した混合酵素を用いることを特徴とする、〔7〕または〔8〕に記載の植物材料糖化物の製造方法。
〔10〕 前記酵素処理は2回以上行われ、先行する酵素処理により得られる1次糖化液を未処理の原料に加液処理し、さらに粉砕処理および加熱処理を経た後、後続の酵素処理がなされることを特徴とする、〔9〕に記載の植物材料糖化物の製造方法。
〔11〕 前記植物材料はリンゴその他の果実の搾汁残渣であることを特徴とする、〔7〕ないし〔10〕のいずれかに記載の植物材料糖化物の製造方法。
〔12〕 〔7〕ないし〔11〕のいずれかに記載の製造方法によって得られた植物材料糖化物を、アルコール発酵処理またはアルコール添加処理し、その後酢酸発酵処理することにより醸造物を得る、醸造物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の植物材料糖化物、醸造物およびそれらの製造方法は上述のように構成されるため、これによれば、植物材料糖化物や食酢等の醸造物において、これらの中に健康機能成分のオリゴ糖やポリフェノールを原料に由来する形態にて増加、強化させることができる。
【0016】
つまり、本発明によれば下記の具体的な効果を得ることができる。
1)オリゴ糖およびポリフェノールの成分を増加した糖化物とその醸造物の製造法。
オリゴ糖およびポリフェノール量を増加した糖化物を製造する方法として、酵素処理工程を2回繰り返す後掲図1の工程によって可能であることを、本発明では見出した。したがって本発明製法によれば、濃縮装置や濃縮工程を用いることなく、酵素処理工程によって、機能性成分を増加した糖化物を製造することができる。また、原料とする植物組織を分解することで得られる原料由来のオリゴ糖およびポリフェノールは、その後醸造工程を経た後においても充分に残存させることができる。
【0017】
2)農産物・植物全般への技術利用が可能である。
セルロースおよびペクチンは、植物組織を構成している一般的な成分である。したがって、様々な農産物、あるいは未利用・低利用植物を含む植物全般を広く本発明の原料として用いることができる。すなわち本発明は、適用範囲が広範であり、活用可能性・事業化適性が極めて高い発明である。
【0018】
3)原料由来成分を強く残した特徴ある糖化物およびその醸造物の製造法。
2回目以降の酵素処理工程においては、1回目の酵素処理に伴う1次糖化液を用いるとすることによって、加水による希釈がなくなり、その分、原料由来の成分や風味を強く残した結果物を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の植物材料糖化物の典型的な製造方法の構成を示すフロー図である。
【図1−2】本発明の酵素処理を用いた植物材料糖化物(2次糖化液)および醸造物(食酢)の具体的製造方法例の構成を示すフロー図である。
【図1−X】酵素処理を用いない場合の醸造物(食酢)の具体的製造方法例の構成を示すフロー図である。
【図1−3】植物材料として搾汁残渣を用いる場合の本発明の各製造方法による生成物の利用性を、酵素処理のない従来技術と比較してまとめた説明図である。
【図2】以下はすべて実施例に係る図であり、本図はリンゴ搾汁残渣水洗操作による糖量変化を示すグラフである。
【図3】搾汁残渣の水洗と酵素処理工程を示すフロー図である。
【図4】スミチームAC(登録商標)処理後の最終上清の構成糖分析結果を示すグラフである。
【図5】スミチームPTE(登録商標)処理後の最終上清の構成糖分析結果を示すグラフである。
【図6】混合酵素処理後の最終上清の構成糖分析結果を示すグラフである。
【図7】各試料についてゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布を示すグラフである。
【図8】リンゴ搾汁残渣による食酢製造試験の工程を示すフロー図である。
【図9】各食酢試料についてゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布を示すグラフである。
【図10】各食酢試料について行った構成糖分析結果を示すグラフである。
【図11】各試料についてDPPHラジカル消去活性による抗酸化試験結果を示すグラフである。
【図12】各試料についてガン細胞増殖抑制試験結果を示すグラフである。
【図13】酵素処理回数と生産されたオリゴ糖量の関係を示すグラフである
【図14】酵素処理回数と回収可能上清量の関係を示すグラフである。
【図15】酵素処理回数と生産されたオリゴ糖濃度の関係を示すグラフである。
【図16】1次糖化液と2次糖化液のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布(吸光度490nm)を示すグラフである。
【図17】食酢3と食酢5のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布(吸光度490nm)を示すグラフである。
【図18】食酢4と食酢6のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布(吸光度490nm)を示すグラフである。
【図19】残渣使用量を1kgと想定した場合の、食酢1から6の各酢から回収可能なオリゴ糖量を酵素処理回数別に示したグラフである。
【図20】搾汁残渣使用量を1kgと想定した場合の、食酢1から6の各酢から回収可能な総ポリフェノール量を酵素処理回数別に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明について、さらに詳細に説明する。
本発明の植物材料糖化物は、原料たる植物材料の酵素処理により得られるものであり、従来のように濃縮処理を経ることなく、酵素処理によって、後からの添加などによらない、原料由来のオリゴ糖、もしくは原料由来のポリフェノール、またはその双方の濃度が高められた状態となっている植物材料糖化物である。
【0021】
植物材料としては、実施例に後述する果樹果実の搾汁処理済みの植物材料を用いることができ、そのことは工業的に産出される廃棄物の効果的な処理、有効利用、付加価値創造を実現するものである。しかしながら本発明の植物材料がこれに限定されるものではなく、要するに酵素処理によって原料由来の上記機能性成分を増加させることのできるものであれば、従来低利用・未利用のものも含め、広く本発明の原料として用いることができる。
【0022】
酵素処理には、セルラーゼ、またはペクチナーゼを用いることができるが、さらに好適には、これらを混合した混合酵素を用いるものとすることができる。植物組織は一般に、セルロースおよびペクチンを多量に含んで構成されているため、これら酵素の利用、特に併用が有効だからである。なお、他の酵素も排除されるものではない。
【0023】
植物材料としてはリンゴその他の果実の搾汁残渣を用いるものとすることができる。リンゴ、カキ、モモ、ナシ、その他果樹の果実全般のみならず、トマト、スイカなど果樹以外の植物の果実も、もちろん果実の範囲内である。なお、植物材料としてこれ以外のものが排除されるものではない。
【0024】
また、上記植物材料糖化物を酢酸発酵処理することによって得られる醸造物も、本発明の範囲内である。したがって、上記植物材料糖化物から得られる食酢は、本発明の範囲内である。
【0025】
加えて、上記植物材料糖化物をアルコール発酵処理することによって得られるオリゴ糖高濃度の糖質素材もまた、本発明の範囲内である。糖質素材は、種々の食品加工、薬品製造、その他における糖質材料として、広範な用途が考えられる。
【0026】
本発明の植物材料糖化物製造方法は、原料である植物材料を加水処理、粉砕処理および加熱処理に供し、その後、1回または2回以上酵素処理することを、主たる構成とする。かかる方法によって、濃縮処理を経ることなく原料由来オリゴ糖または原料由来ポリフェノールの少なくともいずれかの濃度が高められた植物材料糖化物を得ることができる。
【0027】
本製法においては、植物材料として搾汁処理済み植物材料か、またはその他の植物組織分離処理済み植物材料を用いることができる。ここで、「その他の植物組織分離処理済み植物材料」とは、搾汁処理以外の処理であって、セルロースやペクチンといった成分を主とする植物組織が分離可能な処理のことであり、物理的な方法、化学的な方法その他を問わず、従来食品関連の産業分野において行われている、あるいは実施可能な分離方法であれば、あらゆるものが該当する。なお、植物材料として、搾汁処理済み植物材料か、またはその他の植物組織分離処理済み植物材料以外のものが排除されるものではない。
【0028】
本発明製法においては、酵素処理にはセルラーゼおよびペクチナーゼを混合した混合酵素を用いるものとすることができる。かかる構成の混合酵素により、原料たる植物組織に由来する機能性成分が強化された状態の糖化物や醸造物を得ることができ、充分に発明の目的を達することができるからである。なお、他の酵素が排除されるものではない。
【0029】
本発明製法では特に、酵素処理は2回以上行われることとし、先行する酵素処理により得られる1次糖化液を未処理の原料に加液処理し、さらに粉砕処理および加熱処理を経た後で、後続の酵素処理がなされる構成をとることができる。実施例に詳述するように、かかる工程を経ることによって、より有用性の高い結果物を得ることができる。なお、酵素処理回数や酵素処理工程の進め方をかかる方法以外のものとすることも、本発明から排除されない。
【0030】
植物材料としては特に、実施例に詳述するようにリンゴその他の果実の搾汁残渣を用いてもよい。リンゴその他の果実の搾汁残渣は要するに産業廃棄物であるが、本発明によってその効果的な処理、有効利用等を図れるものである。
また、上述の製造方法によって得られた植物材料糖化物を、アルコール発酵処理するか、あるいはアルコール添加処理し、その後酢酸発酵処理する工程を経ることによって、醸造物を得ることができる。
【0031】
図1は、本発明の植物材料糖化物の典型的な製造方法の構成を示すフロー図である。また、
図1−2は、本発明の酵素処理を用いた植物材料糖化物(2次糖化液)および醸造物(食酢)の具体的製造方法例の構成を示すフロー図、
図1−Xは、酵素処理を用いない場合の醸造物(食酢)の具体的製造方法例の構成を示すフロー図である。本発明では、植物組織を酵素により分解するため、セルラーゼとペクチナーゼを混合した混合酵素を使用し、図1、図1−2に示したような製法によって、植物材料糖化物(2次糖化液)や醸造物(食酢)中におけるオリゴ糖やポリフェノールを増加、強化することができる。なお、追って説明する実施例との関係においては、「1次糖化液」は図1中の「上清」に、また「加液残渣」は図1中の「加液農産物」に、それぞれ対応する。
【0032】
なお、2次糖化物をアルコール発酵することによって、単糖は消費されてオリゴ糖は残存することから、機能性成分であるオリゴ糖比率の高い醸造物(2次アルコール発酵物)を得ることができる。また、2次アルコール発酵物、2次糖化物あるいは2次糖化物に醸造用アルコールを添加したものを酢酸発酵することで醸造物(2次酢酸発酵物)を得ることができる。
【0033】
図1−3は、植物材料として搾汁残渣を用いる場合の本発明の各製造方法による生成物の利用性を、酵素処理のない従来技術と比較してまとめた説明図である。図示するように、搾汁残渣等の植物材料を原料とした本発明各製造方法によれば、原料由来の機能性成分によって強化された食酢や糖質素材を得ることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。なお実施例は、本発明に到る実験経過および実験結果を記述するものである。
【0035】
1)酵素処理条件の検討(本発明において混合酵素を用いることとした理由)
酵素処理によって生成するオリゴ糖を確認するため、リンゴジュース製造工程から排出されるリンゴ搾汁残渣を原料とし、それに含まれる遊離糖を水洗によって除去し、これを使い酵素処理試験を行った。すなわち、リンゴ搾汁残渣に2倍量加水後、卓上型万能ミキサー(愛工舎、ケンミックスKM−600)で粉砕し、遠心分離(9000rpm、15分)によって上清と沈澱残渣に分離し、上清中に糖が検出されなくなるまで、沈澱残渣の水洗を繰り返した。5回水洗を繰り返すことで、上清中の残糖がほとんどゼロの状態を確認したので、5回水洗後の沈澱残渣を水洗残渣とした。さらに水洗残渣に同重量加水し、粉砕、加熱(121℃、20分)したものを水洗加水残渣とした。
【0036】
図2は、リンゴ搾汁残渣水洗操作による糖量変化を示すグラフである。図示するように、水洗加水残渣では酸性多糖が増加することを確認した。なお、全糖量はフェノール硫酸法にてグルコース相当量として、酸性糖量はカルバゾール硫酸法にてガラクツロン酸相当量として算出した。
【0037】
これを原料として、下記のとおり3種類の酵素処理試験を行った。
・スミチームAC(登録商標)(リンゴ搾汁残渣重量比0.5%)、
・スミチームPTE(登録商標)(同0.5%)、
・スミチームAC(登録商標)(同0.25%)+スミチームPTE(登録商標)(同0.25%))
各酵素処理後の糖化物を酵素失活のために加熱(121℃、5分)し、遠心分離(9000rpm、15分)で最終沈澱残渣と最終上清に分離した。以降、スミチームAC(登録商標)+スミチームPTE(登録商標)を混合酵素と称することとした。なお、
図3は、以上述べたリンゴ搾汁残渣の水洗と酵素処理工程を示すフロー図である。なお、図中の「水洗加水残渣」は単に「加水残渣」ともいう。また「最終上清」は本説明中の「1次糖化液」と対応する。
【0038】
酵素処理後の各最終上清(糖量10mg相当量)をBio−Gel P−2のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、フェノール硫酸法による吸光度490nmおよびカルバゾール硫酸法による吸光度530nmを測定した。
図4は、スミチームAC(登録商標)処理後の最終上清の構成糖分析結果を示すグラフ、
図5は、スミチームPTE(登録商標)処理後の最終上清の構成糖分析結果を示すグラフ、そして、
図6は、混合酵素処理後の最終上清の構成糖分析結果を示すグラフである。いずれの測定でも、マーカーには、グルコース(G1)、マルトース(G2)、マルトトリオース(G3)、マルトペンタオース(G5)、マルトヘプタオース(G7)、ブルーデキストラン2000(V0)を使用した。
【0039】
さらに、各試料に含まれる全糖(フェノール硫酸法による)、酸性糖(カルバゾール硫酸法による)、オリゴ糖量(ゲルろ過分布より算出)について分析した。表1に、各試料中の糖量分析結果を示す。これらの結果から、スミチームAC(登録商標)ではオリゴ糖・単糖が増加し、スミチームPTE(登録商標)では多糖が増加し、スミチームAC(登録商標)+スミチームPTE(登録商標)ではスミチームAC(登録商標)に近似し、多糖も若干増加することが明らかとなった。なお表中、スミチームPTE(登録商標)、スミチームAC(登録商標)である。また、後掲図中に表示される場合も同様である。
【0040】
【表1】
【0041】
本発明においては、酵素処理を繰り返すことによって糖量を増加させることを想定しているが、スミチームAC(登録商標)処理を2回繰り返すと単糖化が進みオリゴ糖が減少すると想定されたこと、および、スミチームPTE(登録商標)処理のみではオリゴ糖の増加量が少ないことから、スミチームAC(登録商標)とスミチームPTE(登録商標)の混合酵素で処理する方法を選択した。
【0042】
2)リンゴ搾汁残渣オリゴ糖化試験
リンゴ搾汁残渣は、そのままでは水分量が不足し酵素反応が進まないことから、残渣に対し同重量以上の加水が必要であった。本発明では、搾汁残渣に同重量の水を加え、粉砕後にオートクレーブ処理(121℃、20分)したものを加水残渣として使用した。次に、加水残渣を40℃に加温した状態で、スミチームAC(登録商標)とスミチームPTE(登録商標)をそれぞれ残渣湿重量比で0.25%(w/w)ずつ添加し、ジャーファメンター(東京理科器械、ジャーファメンターMBF250−M)を使用して、40℃のもと24時間撹拌により酵素処理を行い、1次糖化物を得た。続いて、1次糖化物を遠心分離(9000rpm、30分)し、その上清を1次糖化液として、新たなリンゴ搾汁残渣に対し同重量添加して粉砕後にオートクレーブ処理(121℃、20分)したものを加液残渣として、前述の加水残渣と同様に2回目の酵素処理を行った。この操作によって得られた可溶化物を2次糖化物とした。
【0043】
オリゴ糖化試験のうち、搾汁残渣、加水残渣、1次糖化物、2次糖化物それぞれの遠心分離上清について全糖、酸性糖、オリゴ糖量、ポリフェノール量(フォーリンチオカルト法による)をそれぞれ測定した。表2に、オリゴ糖化試験における各試料の分析結果を示す。
【0044】
【表2】
【0045】
この結果から、2次糖化物では加水残渣に比べてオリゴ糖量が約4.4倍に増加していることを確認した。また、ポリフェノールも酵素処理に伴い増加しており、果皮等から溶出したものと考えられた。また、各最終上清(糖量10mg相当量)をBio−Gel P−2のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、フェノール硫酸法による吸光度490nmおよびカルバゾール硫酸法による吸光度530nmを測定したところ(図7)、オリゴ糖領域(フラクションNo.33からNo.64)に、酵素処理に伴いオリゴ糖が検出された。
図7は、各試料についてゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布を示すグラフである。図中、黒丸:全糖(490nm)、白丸:酸性糖(530nm) である。
【0046】
3)リンゴ搾汁残渣食酢化試験
・アルコール発酵
1次糖化物、2次糖化物に加えて、加水残渣を遠心分離(9000rpm、30分)した上清(加水残渣上清)を、500ml容ガラス容器にそれぞれ200g分注し、ガラス容器の口には通気性のシリコセンを付け、さらにアルミ箔で覆い、半密閉状態とした。これをオートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、室温まで放冷した後、復元した酵母を500μl(0.25%(v/w))接種し、25℃のもとに静置し、アルコール発酵を開始した。アルコール発酵に伴いCO2が発生し、これが容器外に抜けることで全体の重量が減少することから、1日1回容器全体の重量測定を行い、その重量減少が止まった時点を発酵終了と判断した。
【0047】
・酢酸発酵
次に、1次糖化物、2次糖化物および加水残渣上清の各アルコール発酵終了時に一部サンプリングし、それぞれ遠心分離(10000rpm、10分)した上清についてアルコール濃度を測定(理研計器、アルコメイトAL−2型)した。その結果をもとに、非アルコール発酵試験として1次糖化物、2次糖化物および加水残渣上清にそれぞれのアルコール発酵試験区と同濃度となるように、醸造用アルコールをクリーンベンチ内で添加した。
【0048】
次いで、アルコール発酵試験および非アルコール発酵試験の計6試験区に拡大培養した酢酸菌を各2%(v/w)相当接種した。その後、シリコセンを覆っていたアルミ箔を取り除き、通気しやすい状態にして30℃で静置し、3〜4日おきにサンプリングして酸度を測定し、酸度上昇が止まった時点を酢酸発酵終了と判断した。
図8は、以上リンゴ搾汁残渣による食酢製造試験の工程を示すフロー図である。また、表3に各食酢の製造工程概要を示す。
【0049】
【表3】
【0050】
試験製造した食酢を市販の食酢と比較するため、店頭市販されているリンゴ酢を2品入手した。市販酢としては、原材料の表記から、オリゴ糖類を添加せず、アルコール発酵により製造された食酢(市販酢1)と、アルコール添加により製造された食酢(市販酢2)を選んだ。なお、ともにJAS(日本農林規格)マークが付されているものである。
【0051】
このうち、食酢1、2、5、6および市販酢1、2について、各遠心分離上清(糖量10mg相当量)をBio−Gel P−2のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、フェノール硫酸法による吸光度490nmおよびカルバゾール硫酸法による吸光度530nmを測定した。
図9は、各食酢試料についてゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布を示すグラフである。図中、黒丸:全糖(490nm)、白丸:酸性糖(530nm) である。
【0052】
さらに、搾汁残渣上清、2次糖化液、食酢1、2、5、6、市販酢1、2のゲルろ過フラクションについて構成糖分析を行ったところ、酵素処理によって増加した植物多糖類由来の複数種類のオリゴ糖が、醸造後にも微生物に資化されることなく残存していることを確認した。
図10は、各食酢試料について行った構成糖分析結果を示すグラフである。
【0053】
4)成分分析および機能性評価試験
上述のようにして製造した食酢6点に市販酢2点を加え、全糖量、酸性糖量、オリゴ糖量およびポリフェノール量について測定した。表4に、各食酢の成分分析結果を示す。
【0054】
【表4】
【0055】
この結果から、酵素処理を2回行った食酢(食酢5、6)では、オリゴ糖およびポリフェノール量が増加していることを確認した。また、食酢3、5ではアルコール発酵に伴う単糖の消費によって全糖に対するオリゴ糖比率が8割にまで上昇しており、低単糖高オリゴ糖酢として製品化が期待された。市販酢1の全糖量は、リンゴ原料に含まれる糖量を超えていたことから、リンゴ濃縮果汁を使用して製造された可能性が示唆された。
【0056】
次に、沖らの方法(沖智之、増田真美、古田收、西場洋一、須田郁夫、紫サツマイモを原材料にしたチップスのラジカル消去活性、食科工、48、pp.926-932(2001))を参考にDPPHラジカル消去活性を測定した。
図11は、各試料についてDPPHラジカル消去活性による抗酸化試験結果を示すグラフである。この結果から、酵素処理を繰り返すことで抗酸化作用が強くなっていくことが確認された。濃縮果汁の使用が推測される市販酢1には及ばないものの、抗酸化活性は高まっていることから、本発明で製造した食酢は抗酸化の機能性を充分期待できるものであった。
【0057】
さらに、ヒト大腸ガン細胞DLD−1を使用し、加藤らの方法(:Kato, Y., Uchida, J., Ito, S. and Mitsuishi, Y., Structural analysis of the oligosaccharide units of xyloglucan and their effects on growth of COLO201.
human tumor cells. International Congress Series,1223,pp.161-164(2001))を参考として、細胞増殖抑制試験を行った。各試料は凍結乾燥後、段階希釈して使用した。細胞培養後、Tetra Color ONE試薬(生化学バイオビジネス製)によって生細胞数を吸光度測定により算出し、濃度依存的に細胞増殖の抑制を認めたため、細胞のみの場合を生存率100%とみなし、これを50%抑制する試料濃度をIC50とした。
【0058】
図12は、各試料についてガン細胞増殖抑制試験結果を示すグラフである。この結果から、酵素処理回数が増えるにつれ、また、酢酸発酵を行うことによって、それぞれガン細胞の増殖抑制効果が見られた。
【0059】
これらの食酢8点について、品名、製法等を伏せたブラインドによる官能評価を38名のパネル(男性15名、女性23名、21〜60歳、平均37.3歳)により行った。色、香り、風味の各項目と総合評価について、それぞれ5段階(優良5、良好4、おおむね良好3、劣る2、不良1)で採点し、その平均値(mean)と標準偏差(SD)を求めた。表5に、食酢の官能試験結果を示す。
【0060】
【表5】
【0061】
その結果、5点評価ということもあって顕著な差は見られなかったものの、アルコール発酵した食酢(食酢1、3、5)とアルコール添加による食酢(食酢2、4、6)を比較すると、より後者の方が色、香り、風味、総合ともに評価が高かった。これは、アルコール発酵を行うことで酵母によって単糖が減少して甘味不足となったことや、発酵に伴う香りの変化によるものと思われた。また、酵素処理を繰り返し行った方がより評価が高くなる傾向にあった。すなわち、試験醸造したリンゴ搾汁残渣を原料とし、酵素処理を2回行い製造した食酢において、市販酢と同等の評価が得られており、機能性だけではなく香味の観点も含め、食品としてより一層好ましい食酢を製造できる方法であると評価できた。
【0062】
5)その他
さて、農産物は植物性多糖類で構成されており、これを分解するには幾つかの方法がある。たとえば、特開2009−195189号「多糖類からの単糖またはオリゴ糖の製造方法」、特開2009−11317号「酸性糖を利用する多糖類からの単糖もしくはオリゴ糖の製造方法」、特開2005−110675号「低糖及び/又はオリゴ糖の製造方法及び機能性の低糖及び/又はオリゴ糖」、などに開示された各方法である。
【0063】
本発明は混合酵素、具体的にはセルラーゼおよびペクチナーゼを作用させ、植物組織に由来する単糖およびオリゴ糖を増加させる方法により分解するものである。しかし、単に酵素処理回数を増やす方法においてはオリゴ糖自体が低分子化することも考えられたため、オリゴ糖化試験および糖化物を利用した食酢製造試験を行い、オリゴ糖の低分子化について検証した。
【0064】
ここで、前述の試験で得られた収率をもとに、使用する残渣量を1kgと想定して、回収可能なオリゴ糖量を算出したところ、加水残渣(酵素処理0回)ではオリゴ糖化が進んでいないので、回収できるオリゴ糖は少なかった(本試験条件下では、残渣1kgからオリゴ糖(スクロース)7g程度)が、酵素処理することで回収できるオリゴ糖は約4倍に増加した。しかし、酵素処理1回と2回とで、回収できる総オリゴ糖量に大差はなく、処理する残渣量によって回収できる量が一定であると考えられた。
図13は、酵素処理回数と生産されたオリゴ糖量の関係を示すグラフである。図示するように本試験条件下では、残渣1kgからオリゴ糖27〜28gが回収された。
【0065】
図14は、酵素処理回数と回収可能上清量の関係を示すグラフである。また、
図15は、酵素処理回数と生産されたオリゴ糖濃度の関係を示すグラフである。これらの図に示されるとおり、回収できる上清量(液量)に着目すると、酵素未処理時に比べ、酵素処理1回では液化が進むことで増加するが、酵素処理2回目では加水量が少ないことから、回収量は低減した。つまり本発明製法によって、オリゴ糖濃度は酵素処理の回数とともに高くなっていくことが確認された(図15)。
【0066】
そこで、たとえば最初の加水量を同重量ではなく1/3加水で製造することができれば1回の処理で済むと考えられた。しかしながら、少なくとも等量加水しなければ粉砕処理が困難であること、また、粉砕しなければ酵素処理が進まないことから、本発明製法のように酵素処理を繰り返すことによって濃縮された糖化液を製造する方法が望ましいと考えられる。工業的には、毎回このように2回処理を行う必要はなく、等量加水で製造した1次糖化液を作り置きしておき、適宜、これを用いた等量加液による酵素処理1回を行うこととすればよい。
【0067】
図16は、1次糖化液と2次糖化液のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布(吸光度490nm)を示すグラフである。また、
図17は、食酢3と食酢5のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布(吸光度490nm)を示すグラフ、
図18は、食酢4と食酢6のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布(吸光度490nm)を示すグラフである。これらの図に示されるように、ごくわずかではあるが、酵素処理を2回することでオリゴ糖の高分子領域No.33から45にかけての比率が低下している様子が認められる。
【0068】
さらに、糖化液を使用して酢酸発酵した食酢のうちアルコール発酵による食酢(図17)とアルコール添加による食酢(図18)とに分けて示すと、オリゴ糖高分子領域の比率低減がさらに顕著となった。これは、食酢3および4では酵素処理や殺菌のために2回の加熱処理を行っているが、食酢5および6では合計3回の加熱処理を行っていることから、酸性糖が増加した2次糖化物の加熱時に高分子オリゴ糖の分解が進んだものと考えられた。
【0069】
図19は、搾汁残渣使用量を1kgと想定した場合の、食酢1から6の各酢から回収可能なオリゴ糖量を酵素処理回数別に示したグラフである。この結果、酵素未処理で製造した食酢ではもともとオリゴ糖が少なかったために回収できるオリゴ糖量も少なく、酵素処理1回後の糖化物を使用した食酢では、アルコール発酵酢とアルコール添加酢の間に差はほとんどなかった(どちらも、酵素処理によってオリゴ糖は増加しており、残渣1kgから27〜28gのオリゴ糖を製造できることが想定された。)。
【0070】
酵素処理2回後の糖化物を使用した食酢では、アルコール発酵酢に関しては、1回酵素処理より若干増加したが、アルコール添加酢では減少した。アルコール添加酢での減少は、上述したようにオリゴ糖の分解によるものと考えられたが、アルコール発酵酢に関しては、酵母自身が持つペクチナーゼによると思われる2〜3糖付近のオリゴ糖増加が認められたことから、2次糖化物を使用した食酢から得られる総オリゴ糖量は、発酵方法によって差が生じることが明らかとなった。
【0071】
図20は、搾汁残渣使用量を1kgと想定した場合の、食酢1から6の各酢から回収可能な総ポリフェノール量を酵素処理回数別に示したグラフである。以上より、酵素処理を複数回繰り返すことは生産されたオリゴ糖の低分子化を進める要因となり、特にアルコール添加法によって製造される食酢では単糖比率が高くなって、機能性成分のオリゴ糖は減少していくことが想定されたものの、図20に示すように総ポリフェノール量については逆に、残渣1kgを原料として回収できる量は酵素処理回数に伴って増加すると想定された。
【0072】
このことから、酵素処理回数を適宜決定することによって、目的とする機能性成分を強化できることが明らかとなった。一方、一定以上のオリゴ糖量の強化を考慮した場合には、2回酵素処理による濃縮された糖化物を使い、食酢を製造することが最適であると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の植物材料糖化物、醸造物およびそれらの製造方法によれば、植物材料糖化物や食酢等の醸造物において、これらの中に健康機能成分のオリゴ糖やポリフェノールを、原料に由来する形態にて増加、強化させた植物材料糖化物や食酢等の醸造物を得ることができる。本発明に係る植物材料は、オリゴ糖等の機能性成分を得ることのできる植物組織に係るものである限り、上述したように特に限定されるものではないが、特にリンゴ搾汁残渣等の産業廃棄物を用いて本発明のような付加価値の高い製品を得られることは、廃棄物の効果的処理、低利用・未利用資源の有効活用、および高付加価値化の点で大いに有意義なものであり本発明は産業上利用性が高い発明である。
【技術分野】
【0001】
本発明は植物材料糖化物、醸造物およびそれらの製造方法に係り、特にこれらの中に、健康機能成分のオリゴ糖やポリフェノールを増加させることの可能な、植物材料糖化物、醸造物およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物性農水産物加工食材(たとえば食酢など)およびその製造方法に関しては、従来から様々に技術的提案がなされている。
特開2001−61434号(後掲特許文献1)には、植物性農水産物に水および植物組織分解酵素を添加して磨砕処理することで植物組織の分解を効率よく行い、その結果、廃棄物がなく有用成分を多量に含み、風味や食感に優れた植物性農水産物加工食材が得られるとする技術が開示されている。また特開平6−105661号(後掲特許文献2)には、細かく摩砕した生又は乾燥した植物にペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ等の植物組織分解酵素剤を作用させて、植物組織を分離分解することにより植物単細胞化食品を取得する技術が開示されている。
【0003】
特開平5−23162号(後掲特許文献3)には、イソマルトースやパノース、イソマルトトリオース等の分岐オリゴ糖含有糖類と食酢製造用アルコールとの混合物を酢酸発酵することにより得られる食酢製造技術が開示されている。また特開平5−23163号(後掲特許文献4)には、ガラクトオリゴ糖含有糖類あるいはフラクトオリゴ糖含有糖類と食酢製造用アルコールとの混合物を酢酸発酵させることにより得られる食酢製造技術が開示されている。
【0004】
また特開平5−111374号(後掲特許文献5)には、100gあたりガラクトオリゴ糖あるいはフラクトオリゴ糖を10g以上含有する粉末食酢技術が、特開平5−111375号(後掲特許文献6)にはイソマルトースやパノース、イソマルトトリオース等の分岐オリゴ糖を100gあたり10g以上含有する粉末食酢技術が、それぞれ開示されている。
【0005】
また特開平6−14762号(後掲特許文献7)には、カリウム塩、マグネシウム塩、クエン酸などを添加することでミネラルバランスおよび酸アルカリバランスに優れ、減塩効果を有しかつ呈味性にも優れるとする食酢および梅酢組成物技術が開示されている。これら特許文献3〜7における開示技術は、コーンスターチ、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプンなど糖化用デンプンを酵素処理して得られる分岐オリゴ糖を使用し酢酸発酵した食酢に係るものである。
【0006】
また特開2003−24006号(後掲特許文献8)には、乳酸および酢酸生成能を有する乳酸菌を用いて果実汁および野菜汁を発酵させ、ジアセチル臭をはじめとした不快な臭味を呈することなく、芳醇さを有しマイルドで風味が良い食酢または酸味食品ペーストの製造方法が開示されている。また特開2005−27535号(後掲特許文献9)には、ヤーコン塊根中に含まれる有用成分であるフラクトオリゴ糖やポリフェノール等を活用した健康食酢とその製造方法が開示されている。
【0007】
特許文献8における開示技術はミネラル添加により機能性を持たせた食酢に係るもの、また特許文献9における開示技術は、酵素処理は行わずにもともとヤーコンそのものに含まれるフラクトオリゴ糖やポリフェノールを発酵終了まで残した食酢に係るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−61434号「植物性農水産物加工食材の製造方法および植物性農水産物加工食材」
【特許文献2】特開平6−105661号「植物単細胞化食品の製造方法」
【特許文献3】特開平5−23162号「新規な食酢」
【特許文献4】特開平5−23163号「新食酢」
【特許文献5】特開平5−111374号「新粉末食酢」
【特許文献6】特開平5−111375号「新規な粉末食酢」
【特許文献7】特開平6−14762号「機能性食酢および梅酢組成物」
【特許文献8】特開2003−24006号「新規食酢、酸味食品ペースト、及びその製造方法」
【特許文献9】特開2005−27535号「まろやかな健康食酢及びその製造方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、上記特許文献1および2の開示技術によれば、酵素処理による農水産物組織を崩壊させピューレ状の食品を製造することはできる。しかし、オリゴ糖等の機能性成分は酵素処理等の製造条件によって増減するものであるところ、その検討はまったくなされていない。また、その他すべての特許文献を含めても、果実、野菜の原料を酵素処理して、原料中の細胞壁多糖類から生成されるオリゴ糖、および果皮等に由来するポリフェノール等、原料由来の機能性成分を強化した食酢の事例は認められない。
【0010】
上記のように従来の技術では、酵素処理による農水産物のピューレ化や、オリゴ糖液やミネラル類などの機能性成分を発酵する技術に留まるものであり、機能性成分を増加させるための酵素糖化工程の検証や、それを発酵させることによって原料に由来するオリゴ糖やポリフェノールなどを強化した発酵物についての検討までは、まったくなされていなかった。
【0011】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、植物材料糖化物や食酢等の醸造物において、これらの中に健康機能成分のオリゴ糖やポリフェノールを原料に由来する形態にて増加、強化させることの可能な、植物材料糖化物、醸造物およびそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は上記課題について検討した結果、酵素処理を繰り返すことで原料由来のオリゴ糖やポリフェノール等の機能性成分を増加させ、またそれを使用した発酵物等についても機能性成分が残存する製造条件を明らかにすることを通して原料由来の機能性成分を強化可能であることを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0013】
〔1〕 原料である植物材料の酵素処理により得られ、濃縮処理を経なくても該酵素処理によって原料由来オリゴ糖または原料由来ポリフェノールの少なくともいずれかの濃度が高められた状態である、植物材料糖化物。
〔2〕 前記植物材料は搾汁処理済み植物材料か、またはその他の植物組織分離処理済み植物材料であることを特徴とする、〔1〕に記載の植物材料糖化物。
〔3〕 前記酵素処理にはセルラーゼおよびペクチナーゼを混合した混合酵素を用いることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の植物材料糖化物。
〔4〕 前記植物材料はリンゴその他の果実の搾汁残渣であることを特徴とする、〔1〕ないし〔3〕のいずれかに記載の植物材料糖化物。
〔5〕 〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の植物材料糖化物の酢酸発酵処理により得られる醸造物。
〔6〕 〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の植物材料糖化物のアルコール発酵処理により得られる、オリゴ糖高濃度の糖質素材。
〔7〕 原料である植物材料を加水処理、粉砕処理および加熱処理に供した後、1回または2回以上酵素処理することにより、濃縮処理を経ることなく原料由来オリゴ糖または原料由来ポリフェノールの少なくともいずれかの濃度が高められた植物材料糖化物を得られる、植物材料糖化物の製造方法。
【0014】
〔8〕 前記植物材料は搾汁処理済み植物材料か、またはその他の植物組織分離処理済み植物材料であることを特徴とする、〔7〕に記載の植物材料糖化物の製造方法。
〔9〕 前記酵素処理にはセルラーゼおよびペクチナーゼを混合した混合酵素を用いることを特徴とする、〔7〕または〔8〕に記載の植物材料糖化物の製造方法。
〔10〕 前記酵素処理は2回以上行われ、先行する酵素処理により得られる1次糖化液を未処理の原料に加液処理し、さらに粉砕処理および加熱処理を経た後、後続の酵素処理がなされることを特徴とする、〔9〕に記載の植物材料糖化物の製造方法。
〔11〕 前記植物材料はリンゴその他の果実の搾汁残渣であることを特徴とする、〔7〕ないし〔10〕のいずれかに記載の植物材料糖化物の製造方法。
〔12〕 〔7〕ないし〔11〕のいずれかに記載の製造方法によって得られた植物材料糖化物を、アルコール発酵処理またはアルコール添加処理し、その後酢酸発酵処理することにより醸造物を得る、醸造物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の植物材料糖化物、醸造物およびそれらの製造方法は上述のように構成されるため、これによれば、植物材料糖化物や食酢等の醸造物において、これらの中に健康機能成分のオリゴ糖やポリフェノールを原料に由来する形態にて増加、強化させることができる。
【0016】
つまり、本発明によれば下記の具体的な効果を得ることができる。
1)オリゴ糖およびポリフェノールの成分を増加した糖化物とその醸造物の製造法。
オリゴ糖およびポリフェノール量を増加した糖化物を製造する方法として、酵素処理工程を2回繰り返す後掲図1の工程によって可能であることを、本発明では見出した。したがって本発明製法によれば、濃縮装置や濃縮工程を用いることなく、酵素処理工程によって、機能性成分を増加した糖化物を製造することができる。また、原料とする植物組織を分解することで得られる原料由来のオリゴ糖およびポリフェノールは、その後醸造工程を経た後においても充分に残存させることができる。
【0017】
2)農産物・植物全般への技術利用が可能である。
セルロースおよびペクチンは、植物組織を構成している一般的な成分である。したがって、様々な農産物、あるいは未利用・低利用植物を含む植物全般を広く本発明の原料として用いることができる。すなわち本発明は、適用範囲が広範であり、活用可能性・事業化適性が極めて高い発明である。
【0018】
3)原料由来成分を強く残した特徴ある糖化物およびその醸造物の製造法。
2回目以降の酵素処理工程においては、1回目の酵素処理に伴う1次糖化液を用いるとすることによって、加水による希釈がなくなり、その分、原料由来の成分や風味を強く残した結果物を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の植物材料糖化物の典型的な製造方法の構成を示すフロー図である。
【図1−2】本発明の酵素処理を用いた植物材料糖化物(2次糖化液)および醸造物(食酢)の具体的製造方法例の構成を示すフロー図である。
【図1−X】酵素処理を用いない場合の醸造物(食酢)の具体的製造方法例の構成を示すフロー図である。
【図1−3】植物材料として搾汁残渣を用いる場合の本発明の各製造方法による生成物の利用性を、酵素処理のない従来技術と比較してまとめた説明図である。
【図2】以下はすべて実施例に係る図であり、本図はリンゴ搾汁残渣水洗操作による糖量変化を示すグラフである。
【図3】搾汁残渣の水洗と酵素処理工程を示すフロー図である。
【図4】スミチームAC(登録商標)処理後の最終上清の構成糖分析結果を示すグラフである。
【図5】スミチームPTE(登録商標)処理後の最終上清の構成糖分析結果を示すグラフである。
【図6】混合酵素処理後の最終上清の構成糖分析結果を示すグラフである。
【図7】各試料についてゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布を示すグラフである。
【図8】リンゴ搾汁残渣による食酢製造試験の工程を示すフロー図である。
【図9】各食酢試料についてゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布を示すグラフである。
【図10】各食酢試料について行った構成糖分析結果を示すグラフである。
【図11】各試料についてDPPHラジカル消去活性による抗酸化試験結果を示すグラフである。
【図12】各試料についてガン細胞増殖抑制試験結果を示すグラフである。
【図13】酵素処理回数と生産されたオリゴ糖量の関係を示すグラフである
【図14】酵素処理回数と回収可能上清量の関係を示すグラフである。
【図15】酵素処理回数と生産されたオリゴ糖濃度の関係を示すグラフである。
【図16】1次糖化液と2次糖化液のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布(吸光度490nm)を示すグラフである。
【図17】食酢3と食酢5のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布(吸光度490nm)を示すグラフである。
【図18】食酢4と食酢6のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布(吸光度490nm)を示すグラフである。
【図19】残渣使用量を1kgと想定した場合の、食酢1から6の各酢から回収可能なオリゴ糖量を酵素処理回数別に示したグラフである。
【図20】搾汁残渣使用量を1kgと想定した場合の、食酢1から6の各酢から回収可能な総ポリフェノール量を酵素処理回数別に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明について、さらに詳細に説明する。
本発明の植物材料糖化物は、原料たる植物材料の酵素処理により得られるものであり、従来のように濃縮処理を経ることなく、酵素処理によって、後からの添加などによらない、原料由来のオリゴ糖、もしくは原料由来のポリフェノール、またはその双方の濃度が高められた状態となっている植物材料糖化物である。
【0021】
植物材料としては、実施例に後述する果樹果実の搾汁処理済みの植物材料を用いることができ、そのことは工業的に産出される廃棄物の効果的な処理、有効利用、付加価値創造を実現するものである。しかしながら本発明の植物材料がこれに限定されるものではなく、要するに酵素処理によって原料由来の上記機能性成分を増加させることのできるものであれば、従来低利用・未利用のものも含め、広く本発明の原料として用いることができる。
【0022】
酵素処理には、セルラーゼ、またはペクチナーゼを用いることができるが、さらに好適には、これらを混合した混合酵素を用いるものとすることができる。植物組織は一般に、セルロースおよびペクチンを多量に含んで構成されているため、これら酵素の利用、特に併用が有効だからである。なお、他の酵素も排除されるものではない。
【0023】
植物材料としてはリンゴその他の果実の搾汁残渣を用いるものとすることができる。リンゴ、カキ、モモ、ナシ、その他果樹の果実全般のみならず、トマト、スイカなど果樹以外の植物の果実も、もちろん果実の範囲内である。なお、植物材料としてこれ以外のものが排除されるものではない。
【0024】
また、上記植物材料糖化物を酢酸発酵処理することによって得られる醸造物も、本発明の範囲内である。したがって、上記植物材料糖化物から得られる食酢は、本発明の範囲内である。
【0025】
加えて、上記植物材料糖化物をアルコール発酵処理することによって得られるオリゴ糖高濃度の糖質素材もまた、本発明の範囲内である。糖質素材は、種々の食品加工、薬品製造、その他における糖質材料として、広範な用途が考えられる。
【0026】
本発明の植物材料糖化物製造方法は、原料である植物材料を加水処理、粉砕処理および加熱処理に供し、その後、1回または2回以上酵素処理することを、主たる構成とする。かかる方法によって、濃縮処理を経ることなく原料由来オリゴ糖または原料由来ポリフェノールの少なくともいずれかの濃度が高められた植物材料糖化物を得ることができる。
【0027】
本製法においては、植物材料として搾汁処理済み植物材料か、またはその他の植物組織分離処理済み植物材料を用いることができる。ここで、「その他の植物組織分離処理済み植物材料」とは、搾汁処理以外の処理であって、セルロースやペクチンといった成分を主とする植物組織が分離可能な処理のことであり、物理的な方法、化学的な方法その他を問わず、従来食品関連の産業分野において行われている、あるいは実施可能な分離方法であれば、あらゆるものが該当する。なお、植物材料として、搾汁処理済み植物材料か、またはその他の植物組織分離処理済み植物材料以外のものが排除されるものではない。
【0028】
本発明製法においては、酵素処理にはセルラーゼおよびペクチナーゼを混合した混合酵素を用いるものとすることができる。かかる構成の混合酵素により、原料たる植物組織に由来する機能性成分が強化された状態の糖化物や醸造物を得ることができ、充分に発明の目的を達することができるからである。なお、他の酵素が排除されるものではない。
【0029】
本発明製法では特に、酵素処理は2回以上行われることとし、先行する酵素処理により得られる1次糖化液を未処理の原料に加液処理し、さらに粉砕処理および加熱処理を経た後で、後続の酵素処理がなされる構成をとることができる。実施例に詳述するように、かかる工程を経ることによって、より有用性の高い結果物を得ることができる。なお、酵素処理回数や酵素処理工程の進め方をかかる方法以外のものとすることも、本発明から排除されない。
【0030】
植物材料としては特に、実施例に詳述するようにリンゴその他の果実の搾汁残渣を用いてもよい。リンゴその他の果実の搾汁残渣は要するに産業廃棄物であるが、本発明によってその効果的な処理、有効利用等を図れるものである。
また、上述の製造方法によって得られた植物材料糖化物を、アルコール発酵処理するか、あるいはアルコール添加処理し、その後酢酸発酵処理する工程を経ることによって、醸造物を得ることができる。
【0031】
図1は、本発明の植物材料糖化物の典型的な製造方法の構成を示すフロー図である。また、
図1−2は、本発明の酵素処理を用いた植物材料糖化物(2次糖化液)および醸造物(食酢)の具体的製造方法例の構成を示すフロー図、
図1−Xは、酵素処理を用いない場合の醸造物(食酢)の具体的製造方法例の構成を示すフロー図である。本発明では、植物組織を酵素により分解するため、セルラーゼとペクチナーゼを混合した混合酵素を使用し、図1、図1−2に示したような製法によって、植物材料糖化物(2次糖化液)や醸造物(食酢)中におけるオリゴ糖やポリフェノールを増加、強化することができる。なお、追って説明する実施例との関係においては、「1次糖化液」は図1中の「上清」に、また「加液残渣」は図1中の「加液農産物」に、それぞれ対応する。
【0032】
なお、2次糖化物をアルコール発酵することによって、単糖は消費されてオリゴ糖は残存することから、機能性成分であるオリゴ糖比率の高い醸造物(2次アルコール発酵物)を得ることができる。また、2次アルコール発酵物、2次糖化物あるいは2次糖化物に醸造用アルコールを添加したものを酢酸発酵することで醸造物(2次酢酸発酵物)を得ることができる。
【0033】
図1−3は、植物材料として搾汁残渣を用いる場合の本発明の各製造方法による生成物の利用性を、酵素処理のない従来技術と比較してまとめた説明図である。図示するように、搾汁残渣等の植物材料を原料とした本発明各製造方法によれば、原料由来の機能性成分によって強化された食酢や糖質素材を得ることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。なお実施例は、本発明に到る実験経過および実験結果を記述するものである。
【0035】
1)酵素処理条件の検討(本発明において混合酵素を用いることとした理由)
酵素処理によって生成するオリゴ糖を確認するため、リンゴジュース製造工程から排出されるリンゴ搾汁残渣を原料とし、それに含まれる遊離糖を水洗によって除去し、これを使い酵素処理試験を行った。すなわち、リンゴ搾汁残渣に2倍量加水後、卓上型万能ミキサー(愛工舎、ケンミックスKM−600)で粉砕し、遠心分離(9000rpm、15分)によって上清と沈澱残渣に分離し、上清中に糖が検出されなくなるまで、沈澱残渣の水洗を繰り返した。5回水洗を繰り返すことで、上清中の残糖がほとんどゼロの状態を確認したので、5回水洗後の沈澱残渣を水洗残渣とした。さらに水洗残渣に同重量加水し、粉砕、加熱(121℃、20分)したものを水洗加水残渣とした。
【0036】
図2は、リンゴ搾汁残渣水洗操作による糖量変化を示すグラフである。図示するように、水洗加水残渣では酸性多糖が増加することを確認した。なお、全糖量はフェノール硫酸法にてグルコース相当量として、酸性糖量はカルバゾール硫酸法にてガラクツロン酸相当量として算出した。
【0037】
これを原料として、下記のとおり3種類の酵素処理試験を行った。
・スミチームAC(登録商標)(リンゴ搾汁残渣重量比0.5%)、
・スミチームPTE(登録商標)(同0.5%)、
・スミチームAC(登録商標)(同0.25%)+スミチームPTE(登録商標)(同0.25%))
各酵素処理後の糖化物を酵素失活のために加熱(121℃、5分)し、遠心分離(9000rpm、15分)で最終沈澱残渣と最終上清に分離した。以降、スミチームAC(登録商標)+スミチームPTE(登録商標)を混合酵素と称することとした。なお、
図3は、以上述べたリンゴ搾汁残渣の水洗と酵素処理工程を示すフロー図である。なお、図中の「水洗加水残渣」は単に「加水残渣」ともいう。また「最終上清」は本説明中の「1次糖化液」と対応する。
【0038】
酵素処理後の各最終上清(糖量10mg相当量)をBio−Gel P−2のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、フェノール硫酸法による吸光度490nmおよびカルバゾール硫酸法による吸光度530nmを測定した。
図4は、スミチームAC(登録商標)処理後の最終上清の構成糖分析結果を示すグラフ、
図5は、スミチームPTE(登録商標)処理後の最終上清の構成糖分析結果を示すグラフ、そして、
図6は、混合酵素処理後の最終上清の構成糖分析結果を示すグラフである。いずれの測定でも、マーカーには、グルコース(G1)、マルトース(G2)、マルトトリオース(G3)、マルトペンタオース(G5)、マルトヘプタオース(G7)、ブルーデキストラン2000(V0)を使用した。
【0039】
さらに、各試料に含まれる全糖(フェノール硫酸法による)、酸性糖(カルバゾール硫酸法による)、オリゴ糖量(ゲルろ過分布より算出)について分析した。表1に、各試料中の糖量分析結果を示す。これらの結果から、スミチームAC(登録商標)ではオリゴ糖・単糖が増加し、スミチームPTE(登録商標)では多糖が増加し、スミチームAC(登録商標)+スミチームPTE(登録商標)ではスミチームAC(登録商標)に近似し、多糖も若干増加することが明らかとなった。なお表中、スミチームPTE(登録商標)、スミチームAC(登録商標)である。また、後掲図中に表示される場合も同様である。
【0040】
【表1】
【0041】
本発明においては、酵素処理を繰り返すことによって糖量を増加させることを想定しているが、スミチームAC(登録商標)処理を2回繰り返すと単糖化が進みオリゴ糖が減少すると想定されたこと、および、スミチームPTE(登録商標)処理のみではオリゴ糖の増加量が少ないことから、スミチームAC(登録商標)とスミチームPTE(登録商標)の混合酵素で処理する方法を選択した。
【0042】
2)リンゴ搾汁残渣オリゴ糖化試験
リンゴ搾汁残渣は、そのままでは水分量が不足し酵素反応が進まないことから、残渣に対し同重量以上の加水が必要であった。本発明では、搾汁残渣に同重量の水を加え、粉砕後にオートクレーブ処理(121℃、20分)したものを加水残渣として使用した。次に、加水残渣を40℃に加温した状態で、スミチームAC(登録商標)とスミチームPTE(登録商標)をそれぞれ残渣湿重量比で0.25%(w/w)ずつ添加し、ジャーファメンター(東京理科器械、ジャーファメンターMBF250−M)を使用して、40℃のもと24時間撹拌により酵素処理を行い、1次糖化物を得た。続いて、1次糖化物を遠心分離(9000rpm、30分)し、その上清を1次糖化液として、新たなリンゴ搾汁残渣に対し同重量添加して粉砕後にオートクレーブ処理(121℃、20分)したものを加液残渣として、前述の加水残渣と同様に2回目の酵素処理を行った。この操作によって得られた可溶化物を2次糖化物とした。
【0043】
オリゴ糖化試験のうち、搾汁残渣、加水残渣、1次糖化物、2次糖化物それぞれの遠心分離上清について全糖、酸性糖、オリゴ糖量、ポリフェノール量(フォーリンチオカルト法による)をそれぞれ測定した。表2に、オリゴ糖化試験における各試料の分析結果を示す。
【0044】
【表2】
【0045】
この結果から、2次糖化物では加水残渣に比べてオリゴ糖量が約4.4倍に増加していることを確認した。また、ポリフェノールも酵素処理に伴い増加しており、果皮等から溶出したものと考えられた。また、各最終上清(糖量10mg相当量)をBio−Gel P−2のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、フェノール硫酸法による吸光度490nmおよびカルバゾール硫酸法による吸光度530nmを測定したところ(図7)、オリゴ糖領域(フラクションNo.33からNo.64)に、酵素処理に伴いオリゴ糖が検出された。
図7は、各試料についてゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布を示すグラフである。図中、黒丸:全糖(490nm)、白丸:酸性糖(530nm) である。
【0046】
3)リンゴ搾汁残渣食酢化試験
・アルコール発酵
1次糖化物、2次糖化物に加えて、加水残渣を遠心分離(9000rpm、30分)した上清(加水残渣上清)を、500ml容ガラス容器にそれぞれ200g分注し、ガラス容器の口には通気性のシリコセンを付け、さらにアルミ箔で覆い、半密閉状態とした。これをオートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、室温まで放冷した後、復元した酵母を500μl(0.25%(v/w))接種し、25℃のもとに静置し、アルコール発酵を開始した。アルコール発酵に伴いCO2が発生し、これが容器外に抜けることで全体の重量が減少することから、1日1回容器全体の重量測定を行い、その重量減少が止まった時点を発酵終了と判断した。
【0047】
・酢酸発酵
次に、1次糖化物、2次糖化物および加水残渣上清の各アルコール発酵終了時に一部サンプリングし、それぞれ遠心分離(10000rpm、10分)した上清についてアルコール濃度を測定(理研計器、アルコメイトAL−2型)した。その結果をもとに、非アルコール発酵試験として1次糖化物、2次糖化物および加水残渣上清にそれぞれのアルコール発酵試験区と同濃度となるように、醸造用アルコールをクリーンベンチ内で添加した。
【0048】
次いで、アルコール発酵試験および非アルコール発酵試験の計6試験区に拡大培養した酢酸菌を各2%(v/w)相当接種した。その後、シリコセンを覆っていたアルミ箔を取り除き、通気しやすい状態にして30℃で静置し、3〜4日おきにサンプリングして酸度を測定し、酸度上昇が止まった時点を酢酸発酵終了と判断した。
図8は、以上リンゴ搾汁残渣による食酢製造試験の工程を示すフロー図である。また、表3に各食酢の製造工程概要を示す。
【0049】
【表3】
【0050】
試験製造した食酢を市販の食酢と比較するため、店頭市販されているリンゴ酢を2品入手した。市販酢としては、原材料の表記から、オリゴ糖類を添加せず、アルコール発酵により製造された食酢(市販酢1)と、アルコール添加により製造された食酢(市販酢2)を選んだ。なお、ともにJAS(日本農林規格)マークが付されているものである。
【0051】
このうち、食酢1、2、5、6および市販酢1、2について、各遠心分離上清(糖量10mg相当量)をBio−Gel P−2のゲルろ過クロマトグラフィーに供し、フェノール硫酸法による吸光度490nmおよびカルバゾール硫酸法による吸光度530nmを測定した。
図9は、各食酢試料についてゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布を示すグラフである。図中、黒丸:全糖(490nm)、白丸:酸性糖(530nm) である。
【0052】
さらに、搾汁残渣上清、2次糖化液、食酢1、2、5、6、市販酢1、2のゲルろ過フラクションについて構成糖分析を行ったところ、酵素処理によって増加した植物多糖類由来の複数種類のオリゴ糖が、醸造後にも微生物に資化されることなく残存していることを確認した。
図10は、各食酢試料について行った構成糖分析結果を示すグラフである。
【0053】
4)成分分析および機能性評価試験
上述のようにして製造した食酢6点に市販酢2点を加え、全糖量、酸性糖量、オリゴ糖量およびポリフェノール量について測定した。表4に、各食酢の成分分析結果を示す。
【0054】
【表4】
【0055】
この結果から、酵素処理を2回行った食酢(食酢5、6)では、オリゴ糖およびポリフェノール量が増加していることを確認した。また、食酢3、5ではアルコール発酵に伴う単糖の消費によって全糖に対するオリゴ糖比率が8割にまで上昇しており、低単糖高オリゴ糖酢として製品化が期待された。市販酢1の全糖量は、リンゴ原料に含まれる糖量を超えていたことから、リンゴ濃縮果汁を使用して製造された可能性が示唆された。
【0056】
次に、沖らの方法(沖智之、増田真美、古田收、西場洋一、須田郁夫、紫サツマイモを原材料にしたチップスのラジカル消去活性、食科工、48、pp.926-932(2001))を参考にDPPHラジカル消去活性を測定した。
図11は、各試料についてDPPHラジカル消去活性による抗酸化試験結果を示すグラフである。この結果から、酵素処理を繰り返すことで抗酸化作用が強くなっていくことが確認された。濃縮果汁の使用が推測される市販酢1には及ばないものの、抗酸化活性は高まっていることから、本発明で製造した食酢は抗酸化の機能性を充分期待できるものであった。
【0057】
さらに、ヒト大腸ガン細胞DLD−1を使用し、加藤らの方法(:Kato, Y., Uchida, J., Ito, S. and Mitsuishi, Y., Structural analysis of the oligosaccharide units of xyloglucan and their effects on growth of COLO201.
human tumor cells. International Congress Series,1223,pp.161-164(2001))を参考として、細胞増殖抑制試験を行った。各試料は凍結乾燥後、段階希釈して使用した。細胞培養後、Tetra Color ONE試薬(生化学バイオビジネス製)によって生細胞数を吸光度測定により算出し、濃度依存的に細胞増殖の抑制を認めたため、細胞のみの場合を生存率100%とみなし、これを50%抑制する試料濃度をIC50とした。
【0058】
図12は、各試料についてガン細胞増殖抑制試験結果を示すグラフである。この結果から、酵素処理回数が増えるにつれ、また、酢酸発酵を行うことによって、それぞれガン細胞の増殖抑制効果が見られた。
【0059】
これらの食酢8点について、品名、製法等を伏せたブラインドによる官能評価を38名のパネル(男性15名、女性23名、21〜60歳、平均37.3歳)により行った。色、香り、風味の各項目と総合評価について、それぞれ5段階(優良5、良好4、おおむね良好3、劣る2、不良1)で採点し、その平均値(mean)と標準偏差(SD)を求めた。表5に、食酢の官能試験結果を示す。
【0060】
【表5】
【0061】
その結果、5点評価ということもあって顕著な差は見られなかったものの、アルコール発酵した食酢(食酢1、3、5)とアルコール添加による食酢(食酢2、4、6)を比較すると、より後者の方が色、香り、風味、総合ともに評価が高かった。これは、アルコール発酵を行うことで酵母によって単糖が減少して甘味不足となったことや、発酵に伴う香りの変化によるものと思われた。また、酵素処理を繰り返し行った方がより評価が高くなる傾向にあった。すなわち、試験醸造したリンゴ搾汁残渣を原料とし、酵素処理を2回行い製造した食酢において、市販酢と同等の評価が得られており、機能性だけではなく香味の観点も含め、食品としてより一層好ましい食酢を製造できる方法であると評価できた。
【0062】
5)その他
さて、農産物は植物性多糖類で構成されており、これを分解するには幾つかの方法がある。たとえば、特開2009−195189号「多糖類からの単糖またはオリゴ糖の製造方法」、特開2009−11317号「酸性糖を利用する多糖類からの単糖もしくはオリゴ糖の製造方法」、特開2005−110675号「低糖及び/又はオリゴ糖の製造方法及び機能性の低糖及び/又はオリゴ糖」、などに開示された各方法である。
【0063】
本発明は混合酵素、具体的にはセルラーゼおよびペクチナーゼを作用させ、植物組織に由来する単糖およびオリゴ糖を増加させる方法により分解するものである。しかし、単に酵素処理回数を増やす方法においてはオリゴ糖自体が低分子化することも考えられたため、オリゴ糖化試験および糖化物を利用した食酢製造試験を行い、オリゴ糖の低分子化について検証した。
【0064】
ここで、前述の試験で得られた収率をもとに、使用する残渣量を1kgと想定して、回収可能なオリゴ糖量を算出したところ、加水残渣(酵素処理0回)ではオリゴ糖化が進んでいないので、回収できるオリゴ糖は少なかった(本試験条件下では、残渣1kgからオリゴ糖(スクロース)7g程度)が、酵素処理することで回収できるオリゴ糖は約4倍に増加した。しかし、酵素処理1回と2回とで、回収できる総オリゴ糖量に大差はなく、処理する残渣量によって回収できる量が一定であると考えられた。
図13は、酵素処理回数と生産されたオリゴ糖量の関係を示すグラフである。図示するように本試験条件下では、残渣1kgからオリゴ糖27〜28gが回収された。
【0065】
図14は、酵素処理回数と回収可能上清量の関係を示すグラフである。また、
図15は、酵素処理回数と生産されたオリゴ糖濃度の関係を示すグラフである。これらの図に示されるとおり、回収できる上清量(液量)に着目すると、酵素未処理時に比べ、酵素処理1回では液化が進むことで増加するが、酵素処理2回目では加水量が少ないことから、回収量は低減した。つまり本発明製法によって、オリゴ糖濃度は酵素処理の回数とともに高くなっていくことが確認された(図15)。
【0066】
そこで、たとえば最初の加水量を同重量ではなく1/3加水で製造することができれば1回の処理で済むと考えられた。しかしながら、少なくとも等量加水しなければ粉砕処理が困難であること、また、粉砕しなければ酵素処理が進まないことから、本発明製法のように酵素処理を繰り返すことによって濃縮された糖化液を製造する方法が望ましいと考えられる。工業的には、毎回このように2回処理を行う必要はなく、等量加水で製造した1次糖化液を作り置きしておき、適宜、これを用いた等量加液による酵素処理1回を行うこととすればよい。
【0067】
図16は、1次糖化液と2次糖化液のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布(吸光度490nm)を示すグラフである。また、
図17は、食酢3と食酢5のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布(吸光度490nm)を示すグラフ、
図18は、食酢4と食酢6のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布(吸光度490nm)を示すグラフである。これらの図に示されるように、ごくわずかではあるが、酵素処理を2回することでオリゴ糖の高分子領域No.33から45にかけての比率が低下している様子が認められる。
【0068】
さらに、糖化液を使用して酢酸発酵した食酢のうちアルコール発酵による食酢(図17)とアルコール添加による食酢(図18)とに分けて示すと、オリゴ糖高分子領域の比率低減がさらに顕著となった。これは、食酢3および4では酵素処理や殺菌のために2回の加熱処理を行っているが、食酢5および6では合計3回の加熱処理を行っていることから、酸性糖が増加した2次糖化物の加熱時に高分子オリゴ糖の分解が進んだものと考えられた。
【0069】
図19は、搾汁残渣使用量を1kgと想定した場合の、食酢1から6の各酢から回収可能なオリゴ糖量を酵素処理回数別に示したグラフである。この結果、酵素未処理で製造した食酢ではもともとオリゴ糖が少なかったために回収できるオリゴ糖量も少なく、酵素処理1回後の糖化物を使用した食酢では、アルコール発酵酢とアルコール添加酢の間に差はほとんどなかった(どちらも、酵素処理によってオリゴ糖は増加しており、残渣1kgから27〜28gのオリゴ糖を製造できることが想定された。)。
【0070】
酵素処理2回後の糖化物を使用した食酢では、アルコール発酵酢に関しては、1回酵素処理より若干増加したが、アルコール添加酢では減少した。アルコール添加酢での減少は、上述したようにオリゴ糖の分解によるものと考えられたが、アルコール発酵酢に関しては、酵母自身が持つペクチナーゼによると思われる2〜3糖付近のオリゴ糖増加が認められたことから、2次糖化物を使用した食酢から得られる総オリゴ糖量は、発酵方法によって差が生じることが明らかとなった。
【0071】
図20は、搾汁残渣使用量を1kgと想定した場合の、食酢1から6の各酢から回収可能な総ポリフェノール量を酵素処理回数別に示したグラフである。以上より、酵素処理を複数回繰り返すことは生産されたオリゴ糖の低分子化を進める要因となり、特にアルコール添加法によって製造される食酢では単糖比率が高くなって、機能性成分のオリゴ糖は減少していくことが想定されたものの、図20に示すように総ポリフェノール量については逆に、残渣1kgを原料として回収できる量は酵素処理回数に伴って増加すると想定された。
【0072】
このことから、酵素処理回数を適宜決定することによって、目的とする機能性成分を強化できることが明らかとなった。一方、一定以上のオリゴ糖量の強化を考慮した場合には、2回酵素処理による濃縮された糖化物を使い、食酢を製造することが最適であると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の植物材料糖化物、醸造物およびそれらの製造方法によれば、植物材料糖化物や食酢等の醸造物において、これらの中に健康機能成分のオリゴ糖やポリフェノールを、原料に由来する形態にて増加、強化させた植物材料糖化物や食酢等の醸造物を得ることができる。本発明に係る植物材料は、オリゴ糖等の機能性成分を得ることのできる植物組織に係るものである限り、上述したように特に限定されるものではないが、特にリンゴ搾汁残渣等の産業廃棄物を用いて本発明のような付加価値の高い製品を得られることは、廃棄物の効果的処理、低利用・未利用資源の有効活用、および高付加価値化の点で大いに有意義なものであり本発明は産業上利用性が高い発明である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料である植物材料の酵素処理により得られ、濃縮処理を経なくても該酵素処理によって原料由来オリゴ糖または原料由来ポリフェノールの少なくともいずれかの濃度が高められた状態である、植物材料糖化物。
【請求項2】
前記植物材料は搾汁処理済み植物材料か、またはその他の植物組織分離処理済み植物材料であることを特徴とする、請求項1に記載の植物材料糖化物。
【請求項3】
前記酵素処理にはセルラーゼおよびペクチナーゼを混合した混合酵素を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の植物材料糖化物。
【請求項4】
前記植物材料はリンゴその他の果実の搾汁残渣であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の植物材料糖化物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の植物材料糖化物の酢酸発酵処理により得られる醸造物。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載の植物材料糖化物のアルコール発酵処理により得られる、オリゴ糖高濃度の糖質素材。
【請求項7】
原料である植物材料を加水処理、粉砕処理および加熱処理に供した後、1回または2回以上酵素処理することにより、濃縮処理を経ることなく原料由来オリゴ糖または原料由来ポリフェノールの少なくともいずれかの濃度が高められた植物材料糖化物を得られる、植物材料糖化物の製造方法。
【請求項8】
前記植物材料は搾汁処理済み植物材料か、またはその他の植物組織分離処理済み植物材料であることを特徴とする、請求項7に記載の植物材料糖化物の製造方法。
【請求項9】
前記酵素処理にはセルラーゼおよびペクチナーゼを混合した混合酵素を用いることを特徴とする、請求項7または8に記載の植物材料糖化物の製造方法。
【請求項10】
前記酵素処理は2回以上行われ、先行する酵素処理により得られる1次糖化液を未処理の原料に加液処理し、さらに粉砕処理および加熱処理を経た後、後続の酵素処理がなされることを特徴とする、請求項9に記載の植物材料糖化物の製造方法。
【請求項11】
前記植物材料はリンゴその他の果実の搾汁残渣であることを特徴とする、請求項7ないし10のいずれかに記載の植物材料糖化物の製造方法。
【請求項12】
請求項7ないし11のいずれかに記載の製造方法によって得られた植物材料糖化物を、アルコール発酵処理またはアルコール添加処理し、その後酢酸発酵処理することにより醸造物を得る、醸造物の製造方法。
【請求項1】
原料である植物材料の酵素処理により得られ、濃縮処理を経なくても該酵素処理によって原料由来オリゴ糖または原料由来ポリフェノールの少なくともいずれかの濃度が高められた状態である、植物材料糖化物。
【請求項2】
前記植物材料は搾汁処理済み植物材料か、またはその他の植物組織分離処理済み植物材料であることを特徴とする、請求項1に記載の植物材料糖化物。
【請求項3】
前記酵素処理にはセルラーゼおよびペクチナーゼを混合した混合酵素を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の植物材料糖化物。
【請求項4】
前記植物材料はリンゴその他の果実の搾汁残渣であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の植物材料糖化物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の植物材料糖化物の酢酸発酵処理により得られる醸造物。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載の植物材料糖化物のアルコール発酵処理により得られる、オリゴ糖高濃度の糖質素材。
【請求項7】
原料である植物材料を加水処理、粉砕処理および加熱処理に供した後、1回または2回以上酵素処理することにより、濃縮処理を経ることなく原料由来オリゴ糖または原料由来ポリフェノールの少なくともいずれかの濃度が高められた植物材料糖化物を得られる、植物材料糖化物の製造方法。
【請求項8】
前記植物材料は搾汁処理済み植物材料か、またはその他の植物組織分離処理済み植物材料であることを特徴とする、請求項7に記載の植物材料糖化物の製造方法。
【請求項9】
前記酵素処理にはセルラーゼおよびペクチナーゼを混合した混合酵素を用いることを特徴とする、請求項7または8に記載の植物材料糖化物の製造方法。
【請求項10】
前記酵素処理は2回以上行われ、先行する酵素処理により得られる1次糖化液を未処理の原料に加液処理し、さらに粉砕処理および加熱処理を経た後、後続の酵素処理がなされることを特徴とする、請求項9に記載の植物材料糖化物の製造方法。
【請求項11】
前記植物材料はリンゴその他の果実の搾汁残渣であることを特徴とする、請求項7ないし10のいずれかに記載の植物材料糖化物の製造方法。
【請求項12】
請求項7ないし11のいずれかに記載の製造方法によって得られた植物材料糖化物を、アルコール発酵処理またはアルコール添加処理し、その後酢酸発酵処理することにより醸造物を得る、醸造物の製造方法。
【図1】
【図1−2】
【図1−X】
【図1−3】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図1−2】
【図1−X】
【図1−3】
【図2】
【図3】
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【図11】
【図12】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−148724(P2011−148724A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10508(P2010−10508)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年7月20日 日本応用糖質科学会発行の「日本応用糖質科学会平成21年度大会(第58回)第17回糖質関連酵素化学シンポジウム講演要旨集(Journal of Applied Glycoscience Vol.56 Suppl.2009)」に発表
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年7月20日 日本応用糖質科学会発行の「日本応用糖質科学会平成21年度大会(第58回)第17回糖質関連酵素化学シンポジウム講演要旨集(Journal of Applied Glycoscience Vol.56 Suppl.2009)」に発表
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【Fターム(参考)】
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