説明

植物栽培システム

【課題】
空気中の病原菌と植物に侵入した病原菌や害虫を効果的に駆除し、かつ、植物の育成を促進するシステムであって、簡素化した植物栽培システムを提供する。
【解決手段】
植物栽培室において、オゾンガスの放出とオゾン水の噴霧を併用することにより空気中や植物に侵入した病害虫の駆除を効果的に行う。また、オゾン水から生成することにより従来にない高濃度な酸素水を生成し、その高濃度酸素水を灌水することにより顕著な植物の育成を促進する。さらに、オゾンガスからオゾン水、及び高濃度の酸素水を生成するシステムを組むことによりシステムの簡素化を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を栽培するための閉空間を形成する栽培室と、オゾンガスを発生させるオゾンガス発生装置と、前記オゾンガス発生装置により発生したオゾンガスを前記栽培室内の閉空間に放出するオゾンガス放出装置とを備える植物栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、施設園芸の発展に伴い、野菜、果実、花卉、菌茸等の栽培はビニールハウス栽培や施設栽培が大きな割合を占めるようになってきた。しかし、野菜、果実、花卉、菌茸等は病気や害虫の被害に弱く、多くの農薬を使用して栽培を行っている。
【0003】
農薬を多量に用いるために、農薬散布による農業従事者の健康障害や、多量の農薬に汚染された野菜、果実等を食することによる様々な被害が報告されている。また、農薬は高価であり、植物を栽培する農家にとって大きな経済的負担となっている。そのため、無農薬で植物を栽培する方法が求められている。
【0004】
さらに、ビニールハウスや施設栽培では、1年の内に何度も花や野菜や果実等を収穫して市場へと出荷するが、短期間の内に植物の育成を促進させるための効果的な方法が求められている。
【0005】
無農薬で植物を栽培する方法としては、園芸施設内にオゾンガスを注入し、病原菌を駆除する方法が提案されている(特許文献1)。また、オゾン水等を土壌に灌水することにより土壌生息性有害生物の防除をする方法が提案されている(特許文献2)。
【0006】
また、植物の育成を促進する分野においては、オゾンガスを用いて植物の育成を促進する方法(特許文献3)、水にオゾンガスや酸素を溶解させて酸素水を生成し、酸素水を植物に供給することにより植物の育成を促進する方法(特許文献4)、水に酸素または空気を溶解させて酸素水を生成する方法(特許文献5)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−219808号公報
【特許文献2】特開平9−30912号公報
【特許文献3】特開2001−320962号公報
【特許文献4】特開2001−211770号公報
【特許文献5】特開2006−304714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法では、園芸施設内の温度や湿度を病原菌の発生にあわせて調整を行うための方法が煩雑である。また、高い濃度のオゾンガスは植物に対して有害であるために低濃度のオゾンガスを用いることとしているが、園芸施設内の隅々まで低濃度のオゾンガスを行き渡らせることは非常に困難であり、場所によりオゾン濃度が非常に低くなる箇所が発生する。そうすると効果的に病原菌を殺菌することができず、植物の病気を引き起こすという問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では、空気中の病原菌に対しては殺菌効果がほとんどないために、空気中の病原菌による病気の発生を防止できないという問題がある。
【0010】
特許文献3に記載の方法では、特許文献1に記載があるように、オゾンガスが直接植物に降りかかると、葉面に小班点、黄色斑点等の薬害が生じるという不具合がある。また、低濃度のオゾンガスを園芸施設内にくまなく行き渡らせることは相当厳密なオゾン濃度管理が要求されるため、コントロールが困難であるという問題がある。
【0011】
特許文献4に記載の方法では、装置全体として構造が複雑であり、かつ、加圧ミキシングタンクから排出される酸素水濃度は10ppm程度と低く、植物の育成を促進するには不十分であるという問題がある。また、オゾンガスを水中に溶解させたオゾン水は植物が効率よく吸収すると記載されているが、オゾン水をそのまま植物に灌水するとオゾンガスが発生して植物の葉や根に悪影響を与えるという問題がある。
【0012】
特許文献5に記載の方法では、溶存酸素濃度は10ppm〜16ppmと低く、十分に植物の育成を行えないという問題がある。
【0013】
本発明は、空気中の病原菌と植物に侵入した病原菌や害虫を効果的に駆除し、かつ、植物の育成を促進することを目的とする。また、簡素化した植物栽培システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明に係る植物栽培システムは、
植物を栽培するための閉空間を形成する栽培室と、
オゾンガスを発生させるオゾンガス発生装置と、
前記オゾンガス発生装置により発生したオゾンガスを前記栽培室内の閉空間に放出するオゾンガス放出装置とを備える植物栽培システムにおいて、
前記オゾンガスを水に溶解させオゾン水を生成するオゾン水生成装置と、
前記オゾン水生成装置により生成されたオゾン水を、前記栽培室内の前記植物に噴霧するオゾン水噴霧装置と、
前記オゾン水中のオゾンを分解して酸素水を生成する酸素水生成装置と、
前記酸素水生成装置により生成された酸素水を、前記栽培室内の前記植物の栽培床に灌水する酸素水灌水装置とを有し、
前記オゾン水生成装置は、オゾン濃度が、前記オゾンガスよりも高いオゾン水を生成することを特徴とする。
【0015】
また、前記植物栽培システムにおいては、前記オゾンガスのオゾン濃度が0.01ppm以上0.1ppm以下であることを特徴とする。
【0016】
さらに、前記植物栽培システムにおいては、前記オゾン水生成装置により生成されたオゾン水中のオゾン濃度が1ppm以上7ppm以下であることを特徴とする。
【0017】
さらにまた、前記植物栽培システムにおいては、前記オゾン水噴霧装置の噴霧ノズルが前記植物から0.5m以上5m以内の範囲に設けられていることを特徴とする。
【0018】
さらにまた、前記植物栽培システムにおいては、前記酸素水中の酸素濃度が20ppm以上60ppm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、オゾンガスと、オゾン濃度が、前記オゾンガスよりも高いオゾン水の噴霧とを併用することにより効果的に病気や害虫による被害を防止し、かつ、酸素水を灌水することにより植物の育成を促進することができる。
【0020】
また、オゾンガスからオゾン水及び酸素水を生成することにより、植物栽培システムを簡素化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明における植物栽培システムの実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
【0022】
図1はこの発明が適用される植物栽培システム1の全体図を示している。図1に示すように、本実施形態の植物栽培システム1は、植物56を栽培するための閉空間を形成する栽培室10と、オゾンガスを発生させるオゾンガス発生装置12と、オゾンガスを栽培室10内の閉空間に放出するオゾンガス放出装置14と、オゾンガスを水に溶解させオゾン水を生成するオゾン水生成装置16と、オゾン水を栽培室10内の植物56に噴霧するオゾン水噴霧装置18と、オゾン水中のオゾンを分解して酸素水を生成する酸素水生成装置20と、酸素水を栽培室10内の植物56の栽培床58に灌水する酸素水灌水装置22とを備えている。
【0023】
また、オゾンガス発生装置12はオゾンガス放出装置14とオゾン水生成装置16とに接続しており、オゾン水生成装置16はオゾン水噴霧装置18と酸素水生成装置20に接続しており、酸素水生成装置20は酸素水灌水装置22に接続している。
【0024】
図2は植物栽培システム1の栽培室10の外観図を示している。植物栽培システム1において、植物56を栽培するための閉空間を形成する栽培室10には、例えばビニールハウスやガラス温室や屋内園芸施設などがあげられる。なお、図1において、オゾンガス発生装置12、オゾン水生成装置16及び酸素水生成装置20は、栽培室10内に設置されているが、栽培室10外に設置されていてもよい。
【0025】
図3はオゾンガス発生装置12の構成を示している。図3に示すように、オゾンガス発生装置12は、コンプレッサー24と、コンプレッサー24から圧縮された空気が送られる除湿機26と、除湿機26で除湿された空気が送られる吸着塔28と、吸着塔28で処理された空気が送られるオゾナイザー30とを備えている。
【0026】
図4はオゾンガス放出装置14を示している。図4に示すように、オゾンガス放出装置14は、植物56の上方に配置される配管34と、配管34の所定箇所に所定の間隔で取り付けられ、オゾンガスを放出する複数のオゾンガス放出ノズル36と、オゾンガス発生装置12と配管34の間に設けられ、オゾンガスを配管34へ導入または停止をするためのバルブ32と、栽培室10内の所定の位置に設けられたオゾンガス濃度検出器38とを備えている。なお、図4において、配管34は円形となっているが、オゾンガスを放出するために様々な形態を取ることができる。
【0027】
図5はオゾン水生成装置16を示している。図5に示すように、オゾン水生成装置16は、オゾンガス発生装置12とポンプ48とに接続されたエジェクタ40と、エジェクタ40内で混合された気液混合体が送られるミキシング装置42と、ミキシング装置42で生成したオゾン水が送られるオゾン水貯留槽44と、オゾン水貯留槽44に設けられオゾン水中のオゾン濃度を測定するオゾン濃度検出器46と、オゾン水貯留槽44からオゾン水をエジェクタ40に還流するためのポンプ48と、オゾン水貯留槽44に水を送水するための送水管49とを備えている。ここで、オゾン濃度検出器46はオゾン水貯留槽44に取り付けられていても良く、あるいはオゾン水貯留槽44とエジュクタ40との間の循環ライン上に取り付けられていても良い。
【0028】
図6はオゾン水噴霧装置18を示す。図6に示すように、オゾン水噴霧装置18は、植物の近辺に配置された配管52と、配管52の所定箇所に所定の間隔で取り付けられたオゾン水を噴霧する複数のオゾン水噴霧ノズル54と、オゾン水貯留槽44と配管52との間に設けられ、オゾン水貯留槽44からオゾン水を配管54へと送水するポンプ50とを備えている。ここで、オゾン水噴霧ノズル54は、植物56の上方、側面、下方など様々な場所に配置することができ、かつ植物56から0.5m以上5m以内の範囲に設置されている。
【0029】
図7は酸素水生成装置20を示している。図7に示すように、酸素水生成装置20は、オゾン水貯留槽44から送られたオゾン水中のオゾンを分解して酸素水として貯留する酸素水貯留槽60と、オゾン水貯留槽44からオゾン水を酸素水貯留槽60へと送水するポンプ62と、酸素水貯留槽60に取り付けられた酸素濃度検出器64と、酸素水貯留槽60から酸素水をオゾン貯留槽44へ還流するポンプ66とを備える。また、酸素水貯留槽60内には図示しない水位センサーが設けられている。さらに、酸素水貯留槽60内には、オゾン水の分解を促進するための撹拌装置を備えていてもよい。
【0030】
図8に示すように、酸素水灌水装置22は、酸素水貯留槽60から酸素水を送水するポンプ70と、酸素水を栽培床58まで送るためにポンプ70に接続された配管72と、配管72に接続され、栽培床58上の植物56の根本近くに設けられた点滴チューブ74とを備えている。なお、点滴チューブ74は、栽培床58中に埋設してもよい。
【0031】
前記したように構成される植物栽培システムの動作について以下に説明する。
【0032】
まず、図3に示すオゾンガス発生装置12において、オゾンガスを発生させる。具体的には、オゾンガス発生装置12の電源を入れてコンプレッサー24を駆動させると、コンプレッサー24は空気を取り込み圧縮した空気を除湿機26に供給する。除湿機26は、供給された空気の空気中の水分を取り除き乾燥空気として吸着塔28へと送る。吸着塔28は供給された乾燥空気中の窒素を吸着し、酸素濃度を90%以上にしてオゾナイザー30へと供給する。そして、オゾナイザー30で高電圧をかけてオゾンガスを発生させる。
【0033】
次に、図4に示すオゾンガス放出装置14において、オゾンガス発生装置12で発生したオゾンガスはバルブ32を経由して配管34を通り、オゾンガス放出ノズル36から栽培室10内へと放出される。オゾンガスの放出は、オゾンガス放出装置14にある図示しないタイマーにより、所定の時間にバルブ32を開放し、オゾンガスを配管34へと導くことにより行われる。バルブ32を開放するとオゾンガスはオゾンガス発生器12から配管34を通り、配管34に取り付けられたオゾンガス放出ノズル36の先端の穴から栽培室10内に放出される。この時に、オゾンガス濃度検出器38を栽培室10に数カ所設置し、オゾンガス濃度が所定の濃度に達するとバルブ32を閉じる。
【0034】
ここで、オゾンガスは高い濃度では毒性を持つため、直接植物56に降りかかるとその部分の葉面に小班点や黄色斑点等の薬害が生じるために好ましくない。そのため、オゾンガス放出装置14に設けられたオゾンガス放出ノズル36は、直接オゾンガスが植物56に降りかかることを防止するために植物56より0.5m以上5m以内の範囲に設置されることが好ましい。また、オゾンガス放出ノズル36は水平方向にガスを放出するための穴を開けることにより、オゾンガスが直接植物56に降りかからないようにオゾンガスを水平方向へと放出することができる。
【0035】
さらにオゾンガス放出装置14において、栽培室10内で放出されるオゾンガス濃度は、0.01ppm以上0.1ppm以下の濃度に調整する。0.01ppm未満の濃度では効果的に植物病原菌の殺菌を行うことができず、病気により植物56が被害を受けてしまう。また、オゾンガスには害虫の忌避効果があり、栽培室10の内部への害虫の侵入を防止するが、0.01ppm未満の濃度では害虫の忌避効果が十分に得られない。一方、オゾンガスの濃度が0.1ppmを越える濃度では植物56への薬害が現れやすくなり、作業者にも悪影響をもたらすために好ましくない。
【0036】
次に、図5に示すオゾン水生成装置16において、オゾン水貯留槽44に送水管49から水を送り、オゾン水貯留槽44を所定量貯水する。ここで、オゾン水貯留槽44に送水管49から送られる水は、水道水、井水、再生水、雨水など様々な水を用いることができる。その後、オゾンガス発生装置12からエジェクタ40の一方の入口にオゾンガスを送る。同時に、ポンプ48を駆動してエジェクタ40の他方向の入口からオゾン水貯留槽44に貯留した水を送り、エジェクタ40内でオゾンガスと水とを混合する。混合されたオゾンガスと水は、エジェクタ40の出口からミキシング装置42内に送られ、さらにオゾンガスが水中に溶解してより濃度の高いオゾン水が生成し、オゾン水貯留槽44へと送られる。
【0037】
オゾン水生成装置16において、オゾン濃度検出器46が取り付けられており、オゾン水のオゾン濃度はオゾン濃度検出器46により測定される。オゾン水中のオゾン濃度が所定の濃度になるまで、オゾン水貯留槽44内に蓄えられたオゾン水はポンプ48を経由してエジェクタ40へと送水され、さらにオゾンガスと混合され、その後ミキシング装置42を経由して再度オゾン水貯留槽44に貯留される。オゾン水生成装置16ではこの循環を繰り返すことにより、1ppm以上7ppm以下のオゾン水を生成する。
【0038】
オゾン水生成装置16により生成されるオゾン水中のオゾン濃度は1ppm以上7ppm以下が好ましい。オゾン濃度が1ppm未満では植物56に対する病害の防止効果や害虫の忌避効果が低くなる。また、オゾン濃度が7ppmを超える値ではオゾン水を植物56に噴霧する際に高濃度のオゾンガスが発生し、植物に薬害を与えるために好ましくない。
【0039】
次に、図6に示すオゾン水噴霧装置18において、オゾン水噴霧は図示しないタイマーにより、所定の時間にポンプ50を駆動することにより行われる。オゾン水はオゾン水貯留槽44からポンプ50を経由して配管52へと導入され、配管52に取り付けられたオゾン水噴霧ノズル54の先端から植物56に噴霧される。噴霧時間は植物56にオゾン水が十分に行き渡るように数分から数十分の間で調整される。
【0040】
オゾン水が噴霧される際にオゾンガスが発生するが、高濃度のオゾンガスは植物56に対して有害であるために、オゾン水噴霧ノズル54は植物56から0.5m以上5m以内の範囲に設けられる。オゾン水噴霧ノズル54が植物56から0.5m未満に設置されると、オゾン水噴霧時に発生するオゾンガスにより植物56に薬害が生じやすくなる。また、オゾン水噴霧ノズル54が植物56から5mを超えて設置されると、噴霧されたオゾン水が植物56にかかりづらくなり、オゾン水噴霧の効果が減少するため好ましくない。
【0041】
オゾン水噴霧装置18において、オゾン水噴霧ノズル54はオゾン水を霧状に噴霧できればどのような形状でもかまわないが、気化熱による冷却効果や植物56にまんべんなくオゾン水を吹きかけるために、好ましくは水滴の大きさが200ミクロンより細かい細霧を噴霧できる形状のものが好ましい。
【0042】
前記したように、オゾンガス濃度が高濃度であると、植物に薬害が発生し、また人体にも悪影響があるために好ましくない。そのため、栽培室10内にある植物56付近のオゾン濃度は0.01ppm以上0.1ppm以下に調整することが好ましい。この場合、オゾンガス発生装置12で発生するオゾンガス濃度は1ppm未満が好ましい。1ppmより高い濃度のオゾンガスを栽培室10内で放出すると、植物56付近のオゾン濃度が0.1ppm以下まで減衰せず、オゾンガスによるによる薬害が発生しやすくなる。なお、1ppm以上のオゾンガスを栽培室10内に放出する場合には、オゾンガス放出ノズル36を植物56から十分に距離を取り、栽培室10内の空気の循環を十分に行う必要がある。一方、オゾン水生成装置16により生成されるオゾン水のオゾン濃度は1ppm以上であることが必要である。オゾン水中のオゾンはオゾンガスより毒性は低く、1ppm以上の濃度のオゾン水が植物に降りかかっても薬害は発生せず、病原菌や害虫を駆除することができる。すなわち、オゾンガスとオゾンガスよりも高濃度のオゾン水を併用することにより、植物56に薬害を発生させることなく、効果的に病気や害中の被害を防止することができる。
【0043】
次に、図7に示す酸素水生成装置20において、図示しない酸素水貯留槽60内に設けられた水位センサーにより、酸素水貯留槽60内の酸素水水位が所定のレベルになると、図示しない制御装置により、ポンプ62を駆動させてオゾン水貯留槽44から酸素水貯留槽60へとオゾン水が送水される。その後、酸素水貯留槽60に貯留されたオゾン水を室温で数十分から数時間放置することにより、オゾンを自然に分解して酸素水とすることができる。
【0044】
酸素水貯留槽60では、オゾン水中のオゾンの分解を促進するために攪拌装置を内部に取り付けることができる。攪拌機はどのような形状ものでも良いが、酸素水貯留槽60内のオゾン水を均一に攪拌できるものが好ましい。また、攪拌により過度に衝撃を与えると水中に溶存している酸素が脱気するので、緩やかに攪拌を行うことが好ましい。酸素水貯留槽60内において、室温で数分ほど攪拌を行うとオゾンが分解して水中の酸素濃度が安定するので、その後攪拌を停止する。
【0045】
また酸素水生成装置20において、酸素水貯留槽60に備え付けられた酸素濃度検出器64により酸素水貯留槽60中の酸素水の酸素濃度が定期的に測定される。所定の酸素濃度以下になった場合には図示しない制御装置によりポンプ66を駆動し、酸素水貯留槽60内の酸素水をオゾン水貯留槽44へと還流する。同時に図示しない制御装置は、ポンプ62を駆動して、オゾン水貯留槽44内のオゾン水を酸素水貯留槽60へと送水する。
【0046】
一方、植物56への酸素水の灌水量が多く、酸素水貯留槽60に長期間、酸素水を貯留しないために酸素濃度の低下がみられない場合には、酸素水貯留槽60からオゾン水貯留槽44へと還流させる配管やポンプ66を備えていなくてもよい。
【0047】
植物56の育成を効果的に促進するためには、酸素水中の酸素濃度は20ppm以上60ppm以下であることが好ましい。酸素濃度が20ppm未満では植物56の栽培を促進する効果が低下する。また、60ppmを超える値では酸素濃度を上げるために時間とコストがかかりすぎるために好ましくない。
【0048】
次に、図8に示す酸素水灌水装置22において、酸素水の灌水は、図示しないタイマーにより、ポンプ70を駆動することにより行われる。酸素水は、酸素貯留槽60からポンプ70を経由して配管72へと導入され、さらに点滴チューブ74へと導かれる。点滴チューブ74には、所定の位置に小径の穴が開けられており、小径の穴から酸素水が所定の量だけ植物56に灌水される。灌水量は植物56に十分に水分が行き渡る量に調整する。この時、液体肥料と酸素水を混合した後に灌水しても良い。
【0049】
また、酸素水灌水装置22において、点滴チューブ72が栽培床に直接導入されているものを用いて灌水したり、点滴チューブ72の代わりに散水管で酸素水を植物56に灌水することもできる。
【実施例】
【0050】
以下にオゾンガス、オゾン水及び酸素水の効果を観察した実施例を示す。栽培室10として、既存のビニールハウスを2棟用意した。一方にはオゾンガス発生装置12、オゾンガス放出装置14、オゾン水生成装置16、オゾン水噴霧装置18、酸素水生成装置20、酸素水灌水装置22等からなる本実施形態の植物栽培システム1を準備し、もう一方は植物栽培システム1を用いない通常のビニールハウスの環境のまま実験を行った。
【0051】
植物栽培システム1を導入したビニールハウス内に、200Lのオゾン水貯留槽44を、また500Lの酸素水貯留槽60を用意した。まず、オゾン水貯留糟44に水道水を200L送水した。その後、オゾンガス発生装置12を稼働させて10g/時間のオゾンガスを発生させ、エジェクタ40に4L/分の流量のオゾンガスを送った。そして、ポンプ48を駆動させてオゾン水貯留糟44中の水をエジェクタ40へ50L/分の流量で送水し、エジェクタ40内でオゾンガスと水とを混ぜ合わせ、ミキシング装置42を経由してオゾン水貯留槽44へと貯留した。
【0052】
オゾン水生成装置16において、約20分間オゾン水貯留槽44からエジェクタ40へと約50L/分の流量でオゾン水を循環させ、オゾン水中のオゾン濃度を2ppmから5ppmの間に調整した。
【0053】
オゾン水貯留槽44内のオゾン水中のオゾン濃度が2ppmから5ppmの間の所定の濃度に達した後にオゾン水を酸素水貯留槽60へと送り、酸素水貯留槽60に所定量のオゾン水を貯留した。そして、酸素水貯留槽60内では、攪拌を行うことによりオゾン水中に溶存しているオゾンを分解し、酸素水を生成した。この時の酸素水中の酸素濃度は約40ppmであった。
【0054】
植物56としては、病気や害虫に弱いバラを用いて実験を行った。バラの品種はジャンヌダルクを用いた。実験としてプランターを7つ用意し、バラを各プランターに4株づつ植え、株元から15cm程度の高さで枝を切りそろえた。その後、表1に示す試験内容に従ってバラに対する病気や害虫の影響や育成の状態を観察した。
【0055】
実験の要因としては、オゾンガスの放出の有無、オゾン水噴霧の有無、酸素水の灌水の有無である。この場合に、オゾンガス放出を行わないプランターは植物栽培システム1を用いない通常のビニールハウス内に置き、オゾンガス放出の影響をみるプランターは植物栽培システム1のあるビニールハウス内に置いた。オゾンガス濃度は植物56付近で0.01ppm以上0.05ppm以下であった。
【0056】
オゾンガスの放出とオゾン水の噴霧は1時間に1回の割合で同時に行った。また、酸素水の灌水は6時から16時までは1時間に1回の割合で行い、夜間は午前0時に1回の灌水を行った。
【0057】
実験は4週間行い、バラの病害虫の影響と育成状況を観察した。観察内容は、病気の有無、害虫の有無、新芽の数・伸び、バラの茎の長さ・太さ及び長さのばらつき、花の大きさ、葉の色・ツヤ、株の大きさである。表1に試験内容を、表2に病害虫の影響の結果を、表3にバラの育成結果をそれぞれ示す。
【0058】
試験結果より以下のことが判明した。
表2,表3の結果より、全体的なバラの発育はオゾンガスを放出したビニールハウス内の方が良好であった。これは病気や害虫の被害を効果的に防止できたためである。特に表2の結果より明らかなように、オゾンガスを放出したビニールハウス内のバラは、オゾン水噴霧を行わない場合には葉に小さな変色の発生は若干みられたものの「うどん粉病」は発生せず、オゾンガスのみでも病気を抑制する効果が認められた。また、害虫による被害は発生せず、害虫に対する忌避効果があることが証明された。
【0059】
オゾン水の噴霧はオゾンガスと併用することで病気や害虫の被害が全く発生せず、効果的に病害虫を防止する効果が認められた。高濃度のオゾンガスは植物や人間に対して毒性があるが、オゾン水中のオゾンは安定しているために毒性が低く、1ppm以上の濃度のオゾン水を植物に噴霧しても薬害は発生せず、植物に侵入した病原菌や害虫を駆除する効果がある。そのため、オゾンガス濃度を植物56付近で0.01ppm以上0.1ppm以下に調整し、1ppm以上のオゾン水噴霧とを併用することにより、効果的に栽培室10内に侵入した病原菌や害虫を駆除することが確かめられた。
【0060】
一方、オゾン水を噴霧したバラの葉は色・ツヤが非常に良好であった。これは、葉の表面を殺菌するため葉が活性化したためである。さらに、オゾン水噴霧は昼間の温度上昇時期にはバラを冷却する効果も認められ、バラの育成にも貢献することが確かめられた。
【0061】
単純に水を噴霧しても冷却効果は認められるが、水中には雑多な菌が繁殖しているために、水を噴霧して湿度を上げると菌の繁殖を促しバラが病気にかかりやすくなる。しかし、オゾン水中には菌がほとんど存在しないためにオゾン水を噴霧して湿度を上げてもバラの病気を引き起こすことがないことが確かめられた。
【0062】
さらに表3の結果より、酸素水の灌水はバラの芽の発生を通常より2倍以上増加させ、茎や株も著しく成長させた。通常よりも茎は太く、長く、株は大きく成長した結果、花の大きさも通常よりも大きくなった。さらに、茎の長さのばらつきも小さくなり、酸素水を灌水したプランターのバラはすべて同じように成長した。一方、酸素水を灌水しないバラは、茎や株の大きさは普通レベルであり、花も小さめであった。
【0063】
以上の結果より、本発明における植物栽培システム1は効果的に植物56の病気や害虫による被害を防止し、かつ植物56の育成を効果的に促進することが確かめられた。
【0064】
【表1】


【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態に係る植物栽培システムの全体図である。
【図2】本発明の実施形態に係る植物栽培システムの栽培室の外観図である。
【図3】本発明の実施形態に係る植物栽培システムに使用するオゾンガス発生装置の構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係る植物栽培システムに使用するオゾンガス放出装置の構成図である。
【図5】本発明の実施形態に係る植物栽培システムに使用するオゾン水生成装置の構成図である。
【図6】本発明の実施形態に係る植物栽培システムに使用するオゾン水噴霧装置の構成図である。
【図7】本発明の実施形態に係る植物栽培システムに使用する酸素水生成装置の構成図である。
【図8】本発明の実施形態に係る植物栽培システムに使用する酸素水灌水装置の構成図である。
【符号の説明】
【0068】

1 植物栽培システム
10 栽培室
12 オゾンガス発生装置
14 オゾンガス放出装置
16 オゾン水生成装置
18 オゾン水噴霧装置
20 酸素水生成装置
22 酸素水灌水装置
24 コンプレッサー
26 除湿機
28 吸着塔
30 オゾナイザー
32 バルブ
34 配管
36 オゾンガス放出ノズル
38 オゾンガス濃度検出器
40 エジェクタ
42 ミキシング装置
44 オゾン水貯留槽
46 オゾン濃度検出器
48 ポンプ
49 送水管
50 ポンプ
52 配管
54 オゾン水噴霧ノズル
56 植物
58 栽培床
60 酸素水貯留槽
62 ポンプ
64 酸素濃度検出器
66 ポンプ
70 ポンプ
72 配管
74 点滴チューブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を栽培するための閉空間を形成する栽培室と、
オゾンガスを発生させるオゾンガス発生装置と、
前記オゾンガス発生装置により発生したオゾンガスを前記栽培室内の閉空間に放出するオゾンガス放出装置とを備える植物栽培システムにおいて、
前記オゾンガスを水に溶解させオゾン水を生成するオゾン水生成装置と、
前記オゾン水生成装置により生成されたオゾン水を、前記栽培室内の前記植物に噴霧するオゾン水噴霧装置と、
前記オゾン水中のオゾンを分解して酸素水を生成する酸素水生成装置と、
前記酸素水生成装置により生成された酸素水を、前記栽培室内の前記植物の栽培床に灌水する酸素水灌水装置とを有し、
前記オゾン水生成装置は、オゾン濃度が、前記オゾンガスよりも高いオゾン水を生成することを特徴とする植物栽培システム。
【請求項2】
請求項1に記載の植物栽培システムにおいて、前記オゾンガスのオゾン濃度が0.01ppm以上0.1ppm以下であることを特徴とする植物栽培システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の植物栽培システムにおいて、前記オゾン水のオゾン濃度が1ppm以上7ppm以下であることを特徴とする植物栽培システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の植物栽培システムにおいて、前記オゾン水噴霧装置の噴霧ノズルが前記植物から0.5m以上5m以内の範囲内に設けられていることを特徴とする植物栽培システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の植物栽培システムにおいて、前記酸素水中の酸素濃度が20ppm以上60ppm以下であることを特徴とする植物栽培システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−55171(P2012−55171A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198486(P2010−198486)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(510239842)株式会社システムオースリー (1)
【出願人】(510239853)株式会社華ぷらす (1)
【出願人】(391045934)株式会社リガルジョイント (14)
【Fターム(参考)】