説明

植物栽培方法

【課題】大地土壌中の病原菌や農薬等による植物の汚染を防止しつつ、植物を大地土壌上で栽培することを可能にする。
【解決手段】栽培すべき植物体を適宜植物栽培用支持体と共に、水を含む土壌上または土壌中に配置された、植物体の根と実質的に一体化しうるフィルムの上に配置し、該フィルム下の大地土壌に水および/または肥料を供給し、更に、植物体の根と該フィルムが実質的に一体化した後には、該フィルム上方からも水および/または肥料を適宜供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物栽培方法に関する。より詳しくは、本発明は、植物の根と実質的に一体化できるフィルムを用いた植物栽培方法に関する。
【0002】
本発明によれば植物体を栽培するときに、土耕栽培または養液土耕栽培において使用される大地土壌の上に無孔性親水性フィルムを配置し、その上で植物を栽培することによって、従来の土耕栽培または養液土耕栽培の問題点である、連作障害などの原因となる土壌中の線虫などの微生物、細菌類、ウイルス類などによる植物汚染、土壌中の残留農薬などによる植物汚染、土壌表層への塩類の蓄積による植物の生育阻害、肥料の流亡による地下水汚染などが防げる。
【0003】
本発明は、植物の根と大地土壌が直接接することにより生ずる上記の問題を解消することができる。更に、本発明の栽培方法では、水、肥料の使用量が極めて少ないため、肥料流亡による汚染の防止および栽培コストを大幅に引き下げることができる。
【0004】
また本発明の栽培方法により、栽培すべき植物を水分抑制状態として、該植物を高品質化することが容易になる。
更に、本発明の栽培方法によって、近年、問題視されている硝酸態窒素の含有量を減ずることも可能になる。
【背景技術】
【0005】
従来、種々の植物が、太陽、土、雨水などの自然の恵みを利用して、露地(ろじ)あるいは施設内で栽培されて来た。
露地栽培あるいは施設内栽培においても、土壌は表層から下は連続的に地中深く繋がっている。このため連作障害の主因である、線虫などの有害な微生物、細菌類が土壌中に繁殖した場合は、土壌の消毒や大量の汚染されていない土壌を他所から運んで交換する、いわゆる客土が必要となる。しかし、土壌消毒の代表的方法である燻蒸法に使用する臭化メチルの全面使用禁止で土壌消毒が困難となってきた。また、大量の客土の使用はコスト的にも物理的にも殆ど不可能である。
【0006】
更に、過去に大量に使用されてきた有機リン系農薬によって土壌は汚染されていて、これによる農産物汚染の問題が深刻化している。有機リン系農薬は分解、無毒化しにくいため、この問題を解決するには、やはり大量の客土が必要になる。
【0007】
一方、従来の施肥の方法で、大量の元肥を大地に施し、栽培期間中には追肥として1〜2週間分の肥料をまとめて施している。こうした従来の施肥管理は、「植物が小さいときは肥料吸収量が少なく、生育するに従って多くなる」という実体とかけはなれていて、施肥に無駄が多く、結果として土壌の塩類蓄積の原因となっている。特に、施設内の土壌では、水分は下方から上方に移行し、潅水により重力で水が一時的に肥料成分を下方に運ぶものの、潅水を中止すると土壌水分は再び土壌の表面に向かって移動し、塩類も一緒に運ばれる。土壌表面では水のみが蒸発により失われるので、この繰り返しにより塩類が土壌表層で集積する。余剰な塩類が多ければ集積の程度は高まり、植物生育の阻害原因となる。降雨量の極端に少ない砂漠土壌の状態と酷似している。この状態を改善するためには大量の水を使用し、表層の集積塩類を洗い流す方法あるいは、大量の客土を使用する方法しかなく、いずれも莫大なコストがかかる。
【0008】
上記した無駄な施肥は、地下水汚染の原因にもなっている。通常の施肥量では、特に窒素肥料は土壌微生物により分解され、有機態→NH4+→NO2-→NO3-の順に酸化される。しかし、施肥量が多すぎる場合あるいは土壌硝化細菌の活性が弱い状況では、酸化が進まないため、NH4+やNO2-が土壌に過剰に蓄積し、負に帯電している土壌コロイド表面にNH4+は吸着されるものの、NO3-は土壌に吸着されず、流亡し、地下水を汚染することになる。
【0009】
また、潅水に関しても、数日毎に大量の潅水をするため、潅水直後には土壌が過湿気味となり、次に潅水する直前には乾燥気味となるなど、植物に対しての水分ストレスを制御することが難しく、高糖度などの高品質化を達成することが困難である。
【0010】
これに対し、養液土耕と言われる栽培方法があり、土壌栽培の利点を活かしながら、植物の生育に合わせて、植物が必要とする肥料成分を、必要なときに必要量だけ施肥する方法である。土壌に点滴チューブを設置し、土壌中の肥料および水分量測定をリアルタイムで実施しながら、給液設備から植物に合った窒素、燐酸、カリの他、カルシウムなどの微量要素成分を含む養液を過不足なく植物に供給する潅水施肥技術である。養液土耕栽培の構成要件は、以下の通りである。
【0011】
1)基肥は施さない(ただし、土壌の物理化学性や微生物を維持・改善するための有機物質材や土壌改良材は施す)
2)毎日、潅水および施肥を行う
3)養水分測定に基づく適切な潅水施肥を行う
4)植物の養分吸収比率に合った成分組成で、不必要な副成分を含まない肥料を用いる
5)正確に液肥成分を混合し、かつ容易に混合倍率を変更できる液肥混入機を用いる
6)潅水施肥量を把握するための流量計を備えている
7)圃場全面に均一潅水が可能な潅水チューブ(点滴チューブなど)を用いる
【0012】
以上に述べたように、養液栽培の場合には土耕栽培に比べて、施肥量と潅水量が減るために、土壌表層への塩類の集積による生育障害は改善される。又、過剰施肥による地下水汚染が軽減されるという利点がある。しかしながら、植物の根が直接大地に接触していることによって発生する連作障害あるいは残留農薬による農産物汚染などの解決策とはならない。
【非特許文献1】「養液土耕栽培の理論と実際」2〜18頁 編者:青木宏史、梅津憲治、小野信一 発行所:誠文堂新光社、2001年6月発行
【0013】
一方、今日の大量の施肥、潅水による農産物生産の問題として、特にサラダ菜、ホウレン草などの葉采類中に高濃度で蓄積される硝酸態窒素の健康障害が上げられる。サラダやホウレン草等の葉菜にはその可食部に葉柄部が含まれているため、高い濃度で硝酸塩が含まれていることがある。硝酸塩は唾液と反応して亜硝酸塩となり、更に消化の過程で発ガン性を持つニトロソアミンという物質を生成するとされている。このため、野菜に含まれる硝酸含量が品質の重要な基準の1つになりつつあり、その低含量化が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消した植物栽培方法を提供することにある。
より詳しくは、本発明の目的は、大地の土壌と植物の根をフィルムで隔離し、大地の土壌が持つ水や養分をフィルムを介し根に供給するものの、土壌中の病原菌や線虫といった連作障害の害を与える物質から根を守る植物栽培方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、残留農薬などで汚染されている大地の土壌と植物の根をフイルムで隔離して栽培することによって、植物の汚染を防止する方法を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、大地の土壌への肥料および水の供給を極限にまで減少させ、塩類の集積または肥料の系外への流亡を軽減する植物栽培方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、大地から隔離されたフィルム上の少量の客土に少量の肥料と水分を効率的に供給することによる、経済的であると同時に高品質の植物の栽培方法を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、栽培された植物体の硝酸態窒素を低減する栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは鋭意研究の結果、フィルム( 例えば高分子製フィルム) が、植物の根と実質的に一体化するという全く新たな現象を見出した。
【0018】
本発明者らは、このような知見に基づいて更に研究を進めた結果、フィルムと実質的に
一体化した植物の根が、フィルムを介して、フィルムに接触した水溶液中の肥料成分および水を植物の成長に必要な程度、吸収する現象をも見出した。さらに、根がフイルムと一体化し、フイルムを介して水および肥料成分を吸収しようとするために、膨大な数の毛根が生起されことによって、根の近傍にある水、肥料成分、空気などを効率良く吸収できることも見出した。
【0019】
本発明の植物栽培方法は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、栽培すべき植物体が、土壌上または土壌中に配置された、根と実質的に一体化しうるフィルムの上に少なくともあることを特徴とするものである。
本発明によれば、更に、土壌上に配置された、根と実質的に一体化しうるフィルムの上に少なくともあり、該フィルム上に植物栽培用支持体および植物体を配置し、前記植物体を栽培する植物栽培方法が提供される。
【0020】
本発明によれば、更に、土壌上に配置された、根と実質的に一体化しうるフイルムの上に少なくともあり、該フイルム上に植物体および水蒸気を通過させないマルチングフイルムあるいはマルチング部材を配置し、前記植物体を栽培する植物栽培方法が提供される。
本発明によれば、更に、植物体の根とフィルムとの実質的な一体化を促進させるために、フィルム下の大地土壌に水および/又は肥料を供給し、植物を栽培する植物栽培方法が提供される。
【0021】
本発明によれば、更に、植物体の根とフィルムとが実質的に一体化した後には、フィルム上方から水および/又は肥料を適宜供給する植物栽培方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
上記構成を有する本発明の植物栽培方法においては、植物の根と大地土壌とがフイルムによって隔離され、直接には接触していないため、大地の土壌が病原微生物、病原菌で汚染されていても、微生物、細菌は該フィルムを透過できないため、根に触れることがなく、連作障害などの植物汚染を回避できる。
【0023】
更に、本発明によれば、たとえ大地土壌が残留農薬などで汚染されていたとしても、大地土壌と根がフイルムで隔離されているために、植物の汚染が軽減される。
更に、本発明によれば、大地土壌の上にあるフイルムは、大地土壌中の水が大気中に蒸散することを妨げる効果を有していて、塩類の大地土壌表層への移行、蓄積が軽減される。特に、該フイルム上に植物栽培用支持体あるいは水蒸気を遮断するマルチングフイルムを配置した場合には、更に、この効果が強く発揮される。又、たとえ大地土壌の表層に塩類の蓄積があっても、フイルムがあるために、直接根に触れることがなく、且つ植物は有用な成分のみをフィルムを介して吸収利用するために、集積塩類は植物生育に大きな影響を与えない。
【0024】
更に、本発明によれば、フイルム下の大地土壌に供給される水および養分、フイルム上に供給される水および養分の量は、いずれも極めて少量ないしゼロであり、地下水汚染、大地土壌の表層への塩の蓄積といった環境面、更には、貴重な水資源の有効利用、肥料使用量の低減などといった栽培コスト面で極めて有利である。
【0025】
更に、本発明の植物栽培方法により、栽培すべき植物に対する水分ストレスの制御が極めて容易となり、該植物を高品質化することができる。
更に、本発明によれば、フィルム下の大地土壌に主として、水のみを供給し、フィルム上から少量の養液を、量および時間を厳密に制御した状態で供給し、栽培後半に水のみを供給することにより、容易に栽培植物中の硝酸態窒素量を大幅に低減できる。
【0026】
ここで、該フイルムの下の大地土壌への水あるいは養液の供給、およびフイルム上の客土への水あるいは養液の供給には、制御のし易さなどの点から、点滴チューブが好適に使用される。
【0027】
一方、本発明に記載の無孔性親水性であり、且つ植物体の根と一体化するフイルム以外のフイルム、例えば植物体と根が実質的に一体化できないポリエチレンフイルムの場合には、該フイルム下の大地土壌中の水分および肥料成分を該フイルム上の植物は吸収することができない。従って、該フイルム上の植物を栽培するためには、フイルム上から水および肥料を大量に供給する必要がある。即ち、水の供給量が不足し、乾燥ぎみになると植物はすぐに枯死してしまい、逆に水の供給量が多すぎると、過湿状態となり酸素不足による根腐れを起こしてしまう。即ち、大量の水および肥料供給の厳密な制御が不可欠になる。特に、フイルム上の客土が少ない場合には、その制御は大変難しく、実際には、植物の栽培はほとんど不可能である。又、先にも述べたように、大量の客土の使用は大きなコスト負担につながる。
【0028】
一方、本発明のフイルムを用いた場合には、先にも述べたように、根がフィルム下の大地土壌の水分および養分を吸収し、植物体と根が一体化することによって膨大な量の毛根を生起し、非常に高い効率で、根の周囲の水、肥料成分、空気などを摂取し生育することが可能になる。従って、フイルム上に供給する水、肥料、空気の量は極めて少量で良い。言い換えれば、フィルム上の客土が乾燥し極度に水分が無い状態であっても、植物は生育を続けることができる。又、逆に過湿状態で極度に酸素が不足した状態でも比較的長期間生育できる。即ち、コストのかかる、フイルム上の客土量を大幅に減じることができると同時に、客土中の水分量、肥料濃度などの厳密な制御が不要になるという大きな利点につながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0030】
(植物栽培方法)
本発明の植物栽培方法は、土壌上に配置された無孔性親水性フィルムを少なくとも含むことを特徴とする植物栽培方法である。
図1は、本発明の植物栽培方法の基本的な一態様を示す模式断面図である。図1を参照して、この態様の植物栽培方法は、大地の土壌2に植物体が配置されるべき無孔性親水性フィルム1が配置される。
【0031】
(他の態様1)
図2は、本発明の植物栽培方法の他の態様を示す模式断面図である。図2を参照して、この態様においては、大地土壌2表層に潅水手段3(例えば、点滴チューブ)を配置し、その上にフィルム1または揚水シート8(不織布)を挟んでフィルム1が配置されている。このような潅水手段3を配置することにより、無孔性親水性フィルム1に効果的に養液を供給できるというメリットを得ることができる。
【0032】
(追加的手段)
図2の態様においては、必要に応じて、フィルム1の上に土壌などの植物栽培用支持体4、および/又は、水蒸気を通さないか、または低透過性の蒸発抑制部材5(例えば、後述するマルチング材)を配置することができる。このような蒸発抑制部材5を配置することによりフィルム1から大気中に蒸散する水蒸気を蒸発抑制部材5表面あるいは植物栽培用支持体4中に凝結させ、水として植物が利用できる。また、フィルムの下に不織布のような揚水シート8を設置することもでき、大地土壌中の水分および養分を吸い取り、フィルムに均一に供給することができる。
【0033】
更に、必要に応じて、フィルム1の上には間歇的に水または養液を供給するための潅水手段6(例えば、点滴チューブ)を配置することが出来る。このような潅水手段6を配置することにより、植物がフィルムを介して摂取する水または肥料成分が不足した場合にそれを補うことができるというメッリトを得ることができる。
【0034】
更に、必要に応じて、フィルム1を含む栽培領域の上部に細霧噴霧用手段7(例えば、バルブ)を配置し、間歇的に水、養液または農薬希釈液を噴霧することができる。このような細霧噴霧用手段7を配置することにより、水の間歇的噴霧による特に夏季の冷却、養液の噴霧による環境の冷却と葉面散布による肥料成分の供給、農薬の配合された水または養液の噴霧による農薬の散布などの自動化が可能となるというメリットを得ることができる。
図2の構成においては、上記した以外の構成は図1におけると同様である。
【0035】
(他の態様2)
図3は、本発明の植物栽培方法の他の態様を示す模式断面図である。図3を参照して、この態様においては、大地土壌2に畝を作り周囲より高くし、フィルム1を畝に被せてフィルム1の端を畝の側面に沿うように下げる。フィルム1の上に配置する植物栽培用支持体4(土壌)が周囲に落ちないよう保護するプラスチックや木などで作製した植物栽培用支持体保持枠9を配置し、該枠9とフィルム1の間に水が通る隙間を設ける。これにより、ハウスなどの雨を防ぐ手段を持たない屋外においても、雨が降ったときに過剰な水をフィルム上から逃がすことができる。
図3の構成においては、上記した以外の構成は図2と同様である。
【0036】
(マルチング材料)
本発明においては、いわゆる「マルチング」も、好適に使用することができる。ここに、「マルチング」とは、植物の生長を助けるため、防寒・乾燥防止などを根元や幹などに施すために使用されるフィルムなどの材料を言う。このようなマルチングを用いた場合には、水分の有効利用性が高まるというメリットを得ることができる。
【0037】
すなわち、本発明によるシステムでは、大地土壌2からフィルム1中に移動した水や養分が、フィルム1と一体化した植物の根によって直接吸収される以外に、フィルム1の表面から水蒸気として蒸発する傾向がある。このように蒸発する水蒸気を大気中に出来る限り逃がさないようにするために、土壌表面をマルチング材料5で覆うことができる。マルチング材料5で覆うことにより、フィルムの上のマルチング材料5の表面あるいは植物栽培用支持体表面に水蒸気を凝結させ、水として利用することができる。
【0038】
(潅水手段)
潅水手段3、6(例えば、点滴チューブ)は培土あるいは土壌等の植物栽培用支持体に、水あるいは養液を間歇的に少量ずつ供給するために用いることができ、土のもつ緩衝機能を活かしながら栽培するためのものである。例えば、水が貴重なイスラエルで開発された点滴チューブ(例えば、「ドリップチューブ」とも称される)であるが、点滴潅水で作物の生育に必要な水および肥料をできるだけ少量供給する手段として用いることができる。
【0039】
(細霧噴霧手段)
施設栽培で夏季における高温対策として行われる遮光や換気だけでは間に合わず、かといって冷房をするにはエネルギーコストが上がってしまう可能性がある。そこで、細霧噴霧用手段7を配置して、細霧噴霧と称される、非常に粒子の細かい霧状の水を植物に噴霧し、空気中の気化熱を奪い冷却するために行うことができる。冷房の目的以外に、水に肥量および/または農薬を加え噴霧することにより、葉面からの肥料の吸収および/または農薬散布の省力化を兼ねて行うこともできる。
【0040】
(栽培方法)
本発明においては、上記した構成を有する限り、これと組み合わせて使用すべき栽培方法は特に制限されない。本発明の栽培方法の特徴である、連作障害、農薬汚染、地下水汚染、塩類の土壌表層への集積などの軽減、および栽培植物の高品質化、低硝酸態窒素化などを達成するための好適な栽培方法の態様を以下に述べる。
【0041】
(好適な栽培方法−1)
図2の模式断面図を参照して、この態様においては、大地土壌2表層に潅水手段3(例えば、点滴チューブ)を配置し、大地土壌2表層に供給された水または養液は、その上に配置されたフィルム1中に移行する。植物体の根はフィルム1に移行した水および養分を吸収し生育する。フィルム1と根が一体化するまでは、大地土壌2に水または養液を供給し、根とフィルム1が一体化(密着)した後は、水または養液の供給を止めることもできる。
【0042】
必要に応じて、フィルム1の上には間歇的に水または養液を供給するための潅水手段6(例えば、点滴チューブ)を配置することができる。このような潅水手段6を配置することにより、制御された量の水あるいは養液を植物栽培用支持体4(土壌)に供給でき、植物がフィルム1を介して摂取する水または肥料成分が不足した場合にそれを補うことができるというメッリトを得る。植物体の根がフィルム1と一体化したら、大地土壌2への水または養液の供給を中止し、フィルム1上への水または養液を供給する方法に切り替えることもできる。
【0043】
また、水蒸気を通さないか、または低透過性の蒸発抑制部材5(例えば、後述するマルチング材)を配置することができる。このような蒸発抑制部材5を配置することによりフィルム1から大気中に蒸散する水蒸気を蒸発抑制材5表面あるいは植物栽培用支持体4(土壌)中に凝結させ、水として植物が利用できる。
【0044】
更に、必要に応じて、フィルム1の上部に細霧噴霧用手段7(例えば、バルブ)を配置し、間歇的に水、養液または農薬希釈液を噴霧することができる。このような細霧噴霧用手段7を配置することにより、水の間歇的噴霧による特に夏季の冷却と、養液の噴霧による環境の冷却と葉面散布による肥料成分の供給、農薬の配合された水または養液の噴霧による農薬の散布などの自動化が可能となるというメリットを得ることができる。
【0045】
(好適な栽培方法−2)
本発明において、植物体の特定の成分(たとえば、硝酸態窒素)を低減することを意図する際には、基本的には、(養分蓄積を避けるため)フィルム下の大地土壌からは水のみを供給することが好ましい。ただし、必要に応じて、多少の養分を、フィルムの下の大地土壌に加えても良い。フィルム下に養分を加えた場合には、(他は同じ条件として)フィルム下に養分を加えない場合と比較して、該フィルムと根の「一体化」の強度が増大する傾向がある。
【0046】
フィルムと根の「一体化」が完成する前に、フィルム上から水分を加え過ぎると、植物はフイルム上の取り易い水分を吸収して、フィルム下からの水分を取る必要が減じ、その結果、根がフィルムと一体化し難くなる傾向がある。したがって、根がフィルムと一体化するまでは、フィルム上からは、過剰の水分を加えることは好ましくない。
【0047】
他方、根がフィルムと一体化した後であれば、適宜、フィルム上から水分/養分を与えても良い。ただし、このように「フィルム上から/養分を与える」場合には、以下の点に注意することが好ましい。本発明の根がフィルムと一体化することにより、根はフィルムから水または養分を吸い上げることができ、植物が生長していくために必要な最小限の水を得ることができる。根とフィルムが一体化していると、植物は昼間、太陽が当って温度が上昇すると、水の蒸散を防ぐため、葉の気孔を閉じ萎れるが、夜または早朝には萎れも無く元気に生育しており、全く問題ない。フィルム上から水または養分を加える場合には、この根とフィルムの一体化が維持されることが必要である。常時フィルムの上から大量の水または養液が供給されると、根はフィルムから水または養液を吸うことを止め、フィルム上に供給される水または養液だけを摂取するようになる。この場合には、根とフィルムの一体化が弱くなって、根がフィルムから水または養液を吸う力が弱くなる、あるいは全く吸う力が無くなってしまう。
【0048】
従って、前述したように、昼間の葉の萎れが見られることが大切で、この萎れが無いことは、フィルム上からの水または養液の供給が多すぎることを示唆している。どの程度、フィルムの上から水または養液を加えることが可能かは、植物の種類や生育段階、および栽培環境で異なるが、少なくとも、昼間の太陽が当っている時期に過剰な水または養液がフィルム上に存在することは避けなければいけない。即ち、夕方以降にフィルム上に供給された水分が、太陽が当って温度上昇が始まるまでには消費され、フィルム上には殆ど無くなる程度の量以上に供給されるべきではない。特に、昼間、葉の萎れがあるからということで、フィルム上に水または養液を供給することは避けなければいけない。従って、フィルム上から供給する水または養液の供給する時間は昼間を避け、夕方から深夜の間が好ましく、供給量および頻度も植物種類、生育段階および栽培環境条件に合わせ、前記した制限のもとに決める必要がある。
【0049】
(本発明の利点)
上記構成を有する本発明の栽培方法を用いることにより、大地土壌2と植物体の根がフィルム1により隔離され、連作障害の原因となる病原菌や線虫などと接触することがなく、また、大地土壌が残留農薬に汚染されていたとしても、植物汚染は大幅に軽減される。更に、土壌表層に塩の集積があっても直接根と接触することがないため植物生育に与える影響は少ない。大地土壌2への肥料の供給はあったとしても植物生育の極初期に限られており、従来の土耕または養液栽培に比べて圧倒的に少量であり、地下水の汚染が防止できる。また、大地土壌2への潅水が制限されることと大地土壌2がフィルム1で覆われるので、過湿と乾燥の繰り返しが原因とされる土壌表層への塩の蓄積も防止できる。加えて、植物に対しての水分供給が容易に制御できるため、糖度等の栄養成分が高くなるという点で植物の質の向上も可能となる。
【0050】
従来の土耕、養液土耕栽培では、大地土壌2に供給された肥料成分は土壌中に広く分散しており、栽培の終盤に水だけに切り替えても、土壌中の肥料濃度を低減することは困難であるが、本発明による栽培方法では、植物体の存在するフィルム1上の客土は非常に少なく、供給される養液または水も少量ですみ、栽培段階で養液から水のみに切り替えることで、植物体に残存する硝酸態窒素を極めて簡便に低減できる。
【0051】
(各部の構成)
以下、本発明の栽培方法における各部の構成について詳細に説明する。このような構成(ないしは機能)に関しては、必要に応じて、本発明者による文献(WO 2004/064499号)の「発明の詳細な説明」、「実施例」等を参照することができる。
【0052】
(フィルム)
本発明において、構成されるフィルム1は、「植物体の根と実質的に一体化し得る」であることが特徴である。本発明において「植物体の根と実質的に一体化」できるか否かは、例えば、後述する「一体化試験」によって判断できる。本発明者らの知見によれば、「植物体の根と実質的に一体化し得る」フィルムとしては、以下のような水分透過性/イオン透過性のバランスを有するフィルムが好ましいことが見出されている。本発明者らの知見によれば、このような水分/イオン透過性のバランスを有するフィルムにおいては、栽培すべき植物の生長(特に、根の生長)に好適な水分/養分透過性のバランスが容易に実現できるため、根と実質的に一体化が可能となると推定される。
【0053】
本発明において、植物はフィルム1を通して肥料をイオンとして吸収するが、このように使用するフィルムの塩類(イオン)透過性が、植物に与えられる肥料成分の量に影響すると推定される。該フィルムを介して水と塩水を対向して接触させた際に、下記に示す測定開始4日後の水/塩水の電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下のイオン透過性を有するフィルムを好適に用いることができる。このようなフィルムを用いた際には、根に対する好適な水あるいは肥料溶液を供給し、該フィルムと根との一体化を促進することが容易となる。
【0054】
このフィルム1は、耐水圧として10cm以上の水不透性を有することが好ましい。このようなフィルム1を用いた際には、根とフイルムの一体化を促進することができる。又、根に対する好適な酸素供給および該フィルム1を介しての病原菌汚染を防止することが容易となる。
【0055】
(耐水圧)
耐水圧はJIS L1092(B法)に準じた方法によって測定することができる。本発明のフィルム1の耐水圧としては10cm以上、好ましくは20cm以上、より好ましくは30cm以上である。
【0056】
(水分/イオン透過性)
本発明においては、上記フィルム1は、該フィルムを介して水と塩水(0.5質量%)とを対向して接触させた際に、測定開始4日後の水/塩水の栽培温度において測定した電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下であることが好ましい。この電気伝導度の差は、更には3.5dS/m以下であることが好ましい。特に、2.0dS/m以下であることが好ましい。この電気伝導度の差は、以下のようにして測定することが好ましい。
【0057】
<実験器具等>
なお、本明細書の以降の部分(実施例も含む)において用いた実験器具、装置および材料は、(特に指定がない限り)後述する「実施例」の前の部分に示した通りである。
【0058】
<電気伝導度の測定方法>
肥料は、通常イオンの形で吸収されるため、液中に溶けている塩類(あるいはイオン)量を把握することが望ましい。このイオン濃度を測定する手段として電気伝導度(EC、イーシー)を用いる。ECは比導電率ともいい、断面積1cm2の電極2枚を1cmの距離に離したときの電気伝導度の値を使用する。単位はシーメンス(S)が使われ、S/cmとなるが肥料養液のECは小さいので、1/1000のmS/cmを使う(国際単位系ではdS/m(dはデシ)と表示する)。
実際の測定においては、上記した電気伝導度の測定部位(センサー部)にスポイトを用いて試料(例えば溶液)を少量乗せ、導電率を測定する。
【0059】
<フィルムの塩/水の透過試験>
市販の食塩(例えば、後述する「伯方の塩」)10gを水2000mlに溶解して、0.5%塩水を作製する(EC:約9dS/m)。
「ざるボウルセット」を使い、ざる上に試験すべきフィルム(サイズ:200〜260×200〜260mm)を乗せ、該フィルム上に水150gを加える。他方、ボウル側に上記の塩水150gを加え、得られた系全体を食品用ラップ(ポリ塩化ビニリデンフィルム、商品名:サランラップ、旭化成社製)で包んで、水分の蒸発を防ぐ。この状態で、常温で放置して、24hrs毎に水側、塩水側のECを測定する。
【0060】
本発明においては、フィルムを介する植物の根の養分(有機物)吸収を容易とする点からは、上記フィルムは、所定のグルコース透過性を示すことが好ましい。このグルコース透過性は、下記の水/グルコース溶液の透過試験により好適に評価できる。本発明においては、上記フィルムは、該フィルムを介して水とグルコース溶液とを対向して接触させた際に、測定開始後3日目(72時間)の水/グルコース溶液の栽培温度において測定した濃度(Brix%)の差が4以下であることが好ましい。この濃度(Brix%)の差は、更には、3以下、より好ましくは2以下(特に1.5以下)であることが好ましい。
【0061】
<フィルムの水/グルコース溶液透過試験>
市販のグルコース(ブドウ糖)を用いて5%グルコース溶液を作製する。上記塩水試験と同様の「ざるボウルセット」を使い、ざる上に試験すべきフィルム(サイズ:200〜260×200〜260mm)を乗せ、該フィルム上に水150gを加える。他方、ボウル側に上記のグルコース溶液150gを加え、得られた系全体を食品用ラップ(ポリ塩化ビニリデンフィルム、商品名:サランラップ、旭化成社製)で包んで、水分の蒸発を防ぐ。この状態で、常温で放置して、24hrs毎に水側、グルコース溶液側の糖度(Brix%)を糖度計で測定する。
【0062】
(根とフイルムの一体化)
後述する実施例2の条件(バーミキュライト使用)で、試験を行う。すなわち、サニーレタス(本葉1枚強)を2本用いて、35日間、植物の生育試験を行う。
得られた植物−フィルムの系において、植物苗の根元で茎葉を切断する。根の密着したフィルムの茎がほぼ中心になるように、該フィルムを巾5cm(長さ:約20cm)に切断して試験片とする。
【0063】
ばね式手秤に市販のクリップを付け、上記で得た試験片の一方をクリップで固定して、ばね式手秤の示す重量(試験片の自重に対応=Aグラム)を記録する。次いで試験片の中心にある茎を手で持ち、下方に緩やかに引き下げて、根とフィルムが離れる(または切断される)際の重量(荷重=Bグラム)をばね式手秤の目盛りから読み取る。この値から初期の重量を差し引き、得られた(B−A)グラムを巾5cmの引き剥がし荷重とする。
【0064】
本発明においては、このようにして測定された剥離強度において、前記植物体の根に対して10g以上の剥離強度を示すフィルムが好適に使用可能である。この剥離強度は、更には30g以上、特に100g以上であることが好ましい。
【0065】
(フィルム材料)
上述した「根と実質的に一体化し得る」性質を満足する限り、本発明において、使用可能なフィルム材料は、特に制限されず、公知の材料から適宜選択して使用することが可能である。このような材料は、通常フィルムないし膜の形態で用いることができる。
より具体的には、このようなフィルム材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、セロファン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、エチルセルロース、ポリエステル等の親水性材料が使用可能である。
【0066】
上記フィルムの厚さも特に制限されないが、通常は、300μm以下程度、更には200〜5μm程度、特に100〜20μm程度であることが好ましい。
【0067】
(植物栽培用支持体)
上述したように、通常使用される土壌ないし培地は、本発明において、いずれも使用可能である。このような土壌ないし培地としては、例えば、土耕栽培に用いられる土壌、および水耕栽培に用いられる培地が挙げられる。
【0068】
例えば、無機系では天然の砂、れき、パミスサンドなど、加工品(高温焼成等)では、ロックウール、バーミキュライト、パーライト、セラミック、籾殻くん炭など。有機系では天然のピートモス、ココヤシ繊維、樹皮培地、籾殻、ニータン、ソータンなど、合成品の粒状フェノール樹脂などがある。また、これらの混合物でもよい。また、合成繊維の布あるいは不織布も使用可能である。必要最小限の肥料および微量要素を、これらの土壌ないし培地に加えてもよい。本発明者らの知見によれば、植物の根が、フィルムを介して接触する大地土壌から水または養分を吸収可能な程度に伸びるまで、言い換えると根とフイルムが一体化するまでの養分は、ここに言う「必要最小限の肥料および微量要素」として、フィルム上の植物栽培用支持体に加えておくことが望ましい。
【0069】
(養液)
本発明において使用可能な養液(ないし肥料溶液)は特に制限されない。例えば、従来の土耕栽培ないし養液土耕栽培において使用されてきた養液は、本発明においていずれも使用可能である。
【0070】
一般には、水または養液として植物の生育にとって必要不可欠な無機成分としては、主要な成分として:窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、硫黄(S)、微量成分として:鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)が挙げられる。さらにこの他に、副成分として、珪素(Si)、塩素(Cl)、アルミニウム(Al)、ナトリウム(Na)等がある。必要に応じて、本発明の効果を実質的に阻害しない限り、その他の生理活性物質も加えることができる。更に、グルコース(ブドウ糖)などの糖質、アミノ酸等を添加することも可能である。
【0071】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0072】
実施例1
1)試験方法
簡易型のハウスの中で、ハウス内土壌中に縦40×幅30×深さ10cmの穴を堀り、自動潅水器のノズル2本を穴の表面上に置き、その上にフィルムを設置した。フイルムの上に、客土としてスーパーミックスA((株)サカタの種)を2cmの深さで載せ、自動潅水器のノズル2本を該客土上に設置した。マルチングフイルムとしてシルバーマルチ30μm(東罐興産(株)製)に、苗植え付け用として15cm間隔で6箇所のX印の穴を開け、客土を被覆した。苗植え付け場所は2箇所準備した。
【0073】
土壌の上に設置するフィルムは、厚さ65μmのHymecフィルム(メビオール(株))と 厚さ約50μmのポリエチレンフイルムの2種類を使用した。
サニーレタスレッドウエーブ((株)サカタのタネ)の種子をセルトレー内で本葉1〜2枚の幼苗にまで生育し、マルチングフイルム上の6箇所の穴に植え付け、初期潅水を行い、栽培を開始した。
【0074】
自動潅水器:自動水やりタイマーEY4200−H(松下電工(株))を使用した。
栽培方法:苗植え付け後に、フイルム下のハウス内土壌に自動潅水器のノズルから500mL/日の割合で養液を午後7時に供給した。1週間後にハウス内土壌中への潅水を中止して、フイルム上部の潅水(養液)を自動潅水器を用いて開始した。上部の潅水(養液)量は苗1本あたり10mlとした。栽培期間は苗植え付けから1ヶ月であった。
【0075】
養液:ECは1.2で、 大塚ハウス1号0.6g/Lと大塚ハウス2号0.9g/Lの混合養液1Lに、大塚ハスス5号0.03gを混合したものを使用した。
【0076】
2)試験結果
レタス幼苗を植え付け後、フイルム下のハウス内土壌に1週間養液を潅水し続けた結果、Hymecフィルムを使用した系は順調に生育したが、ポリエチレンフイルムを使用した系では殆どが枯死した。順調に生育したHymecフィルムの系について、1週間後にフイルム下への潅水を中止し、フィルム上への潅水(養液)に切り替え、1ヶ月間栽培を続けた結果、苗6本の葉茎重量の合計が58.6gまでに生育した。大地土壌を無孔性親水性フィルムであるHymecフィルムで覆い、該フイルムによって植物の根が大地土壌との直接接触を絶たれても、植物は順調に生育できることがわかった。又、フイルム下の大地土壌への1週間に亘る養液潅水の結果、レタスの根がHymecフイルム上に密着し、根とフイルムの一体化が見られ、且つ多量の毛根の発生が認められた。
【0077】
更に、植え付け1週間後に大地土壌への潅水を中止しても、フイルム上方から極微量の養液を点滴潅水するだけでレタスは順調に生育することもわかった。この極微量の養液点滴量で苗が順調に生育できるのは、前述したように、根とフイルムが一体化して無数の毛根が生起したためと考えられる。一方、ポリエチレンフイルムの場合には、植え付け後1週間で枯死してしまった。これは、大地土壌中に供給された水分と養分が該フイルムによって遮断され、根が吸収できないためと考えられる。又、ポリエチレンフイルム上にはレタス苗の根は密着せず、根とフイルムとの一体化は認められなかった。
【0078】
以下で用いた実験方法は、上述したものの他は、以下の通りである。
【0079】
<pHの測定>
pHの測定は後述のpHメーターによって行った。標準液(pH7.0)で校正したpHメーターのセンサー部分を測定すべき溶液につけ、本体を軽く揺らし、値が安定するのを待ち、LCD(液晶)表示部に表示される値を読み取った。
【0080】
<Brix%の測定>
Brix%測定は後述の糖度計(屈折計)を用いて行った。測定溶液をスポイトでサンプリングし、糖度計のプリズム部分に滴下し測定後、LCDの値を読み取った。
【0081】
<実験器具等>
1.使用器具および装置
1)ざるボウルセット:ざるの半径6.4cm(底面の面積約130cm2
2)発泡スチロール製トロ箱:サイズ55×32×15cm等
3)上皿電子天秤:Max.1Kg、(株)タニタ
4)ばね式天秤:Max.500g、(株)鴨下精衡所
5)ポストスケール:ポストマン100、丸善(株)
6)電気伝導度計:Twin
Cond B−173、(株)堀場製作所
7)pHメーター:pHパル TRANSInstruments、グンゼ産業(株)、
コンパクトpHメーター(TwinpH)B-212 (株)堀場製作所
8)糖度計(屈折計):PR201 、(株)アタゴ
【0082】
2.使用材料
(土壌)
1)スーパーミックスA:水分約70%
微量肥料入り、(株)サカタのタネ
2)ロックファイバー:栽培用粒状綿66R(細粒)、日東紡(株)
3)バーミキュライト:タイプGS
、ニッタイ株式会社
(フィルム)
4)ポリビニルアルコール(PVA):
アイセロ化学(株)、厚さ40μm
5)二軸延伸PVA:ボブロン、日本合成化学工業(株)
6)親水性ポリエステル:デュポン社(株)、厚さ12μm
7)浸透セロファン:(燻製作製用フィルム)((株)東急ハンズ)
8)セロファン:二村化学工業(株)、厚さ35μm
9)微孔性ポリプロピレンフィルム:PH−35、(株)トクヤマ
10)不織布:シャレリア(超極細繊維不織布)、旭化成(株)
【0083】
(苗用種)
11)サニーレタス:レッドファイヤー
、タキイ種苗(株)
(肥料)
12)原液ハイポネックス:(株)ハイポネックスジャパン
13)大塚ハウス1号、2号、5号: 大塚化学(株)
(その他)
14)伯方の塩:
伯方塩業(株)
15) ブドウ糖:ブドウ糖100
、(株)イーエスNA
【0084】
実施例2
(根とフイルムの一体化現象)
肥料濃度の根のフイルムとの一体化現象に与える効果を調べた。養液として、ハイポネックス100倍希釈液、1000倍希釈液、および水(水道水)を用いて、その効果を比較した。
【0085】
約20cm×20cmの無孔性親水性フィルム(PVA)上に土壌として、バーミキュライト、またはロックファイバーを約300ml配置した。この土壌内に、植物の苗として、サニーレタスの幼苗(本葉1枚強)を2本植え付けた。土壌として2種類、養液として3種類の合計6種類の系を作製した。養液量は各300mlであった。フィルム(PVA)上には約2cmの厚さの土壌を載せた。実験はハウス内で行い、自然光を使用した。栽培期間中のの気温は0〜25℃、湿度は50〜90%RHであった。
【0086】
水分蒸発量および養液のEC値を、栽培開始13日後、および35日後にそれぞれ測定した。35日後には、前述したように、根とフイルムの一体化現象の目安である「引き剥がし試験」を行った。
【0087】
上記実験条件を纏めると、以下の通りである。
1.実験
1)フィルム:PVA40μm(アイセロ化学)
200×200mm
2)苗:サニーレタス幼苗(本葉1枚強)
3)土壌:バーミキュライト(細粒)、ロックファイバー66R
4)溶液:水、ハイポネックス原液
100倍希釈水溶液、1000倍希釈水溶液
5)器具:ざるとボウルのセット
6)置き場所:ハウス(温度湿度制御無し)
【0088】
7)実験方法:
ざる上のフィルム(200×200mm)上にバーミキュライト150g(水分73%、乾燥重量40g)あるいはロックファイバー200g(水分79%、乾燥重量40g)を載せ、苗を2本植え付ける。該ざるを、240〜300gの養液または水が張られたボール中に設置し、該フイルムを該養液あるいは水と接触させ、幼苗を栽培する。
8)栽培期間:10月29日〜12月4日
【0089】
上記実験により得られた結果を、表1に示す。
EC:液肥追加前/追加後
【0090】
【表1】

【0091】
(実験結果に対する記述)
上記した表1からわかるように、フイルム下に水を使用した場合に比較して、養液を使用した方が、植物の生育のみならず、根とフイルムの接着強度が著しく向上する。これは、植物がフィルムを介して、水のみならず肥料成分をも吸収していることを示している。更に、フイルムを介して水および肥料成分を効率良く吸収するためには、根がフイルム表面に強く密着することが必須であり、その結果として根とフイルムが一体化することになるものと考えられる。
【0092】
実施例3
(塩水透過試験)
前述の<フィルムの塩/水透過試験>方法に従って、各種フィルムの塩透過試験を行った。フィルムはPVA、ボブロン(二軸延伸PVA)、親水性ポリエステル、セロファン、PH−35、超極細繊維不織布(シャレリア)の6種類である。
上記実験により得られた結果を表2に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
(実験結果に対する記述)
6種類のフィルムのうち、塩の透過性が大きなものは、超極細繊維不織布(シャレリア)、PVA、親水性ポリエステルおよびセロファンであった。塩の透過性が小さいものがボブロンであった。塩の透過性が全く認められなかったものが微孔性ポリプロピレンフイルム(PH−35)であった。本発明に好適に用いられるフイルムの塩透過性の観点から、微孔性ポリプロピレンフイルム(PH−35)は不適であることがわかった。
【0095】
実施例4
(ブドウ糖透過試験)
前述の<グルコース(ブドウ糖)透過試験>方法に従って、各種フィルムのブドウ糖透過試験を行った。フィルムはPVA、ボブロン(二軸延伸PVA)、セロファン、浸透セロファン、PH−35の5種類である。
上記実験により得られた結果を表3に示す。
【0096】
【表3】

【0097】
(実験結果に対する記述)
5種類のフィルムのうち、PVA、セロファンおよび浸透セロファンはブドウ糖の透過性は良好であったが、ボブロンではブドウ糖透過性はほとんど認められなかった。又、PH−35では透過性は全く見られなかった。この結果から、ブドウ糖透過性という観点からは、本発明に好適に使用されるフイルムはPVAとセロファンであることがわかった。
【0098】
実施例5
(耐水圧試験)
前述したように、JIS
L1092(B法)に準じた試験により、200cmH2Oの耐水圧試験を行った。
(実験結果)
フィルム種
耐水圧(cmH2O)
PVAフィルム(40μm) 200以上
二軸延伸PVA(ボブロン)
200以上
セロファン
200以上
親水性ポリエステル
200以上
超極細繊維不織布

【0099】
(実験結果に対する記述)
良好な耐水性を有するフイルムの、本発明における重要な役割は、該フイルム下の水がフイルムを通過してフイルム上に浸透した結果、植物が該フイルム中の水または養液を吸収する必要がなく、根とフイルムの一体化が損なわれることを防止すると同時に、フイルム下の微生物、細菌類、ウイルス類による植物の汚染を防止することである。
本実験結果から、フイルムの耐水圧という観点から、本発明に好適に使用できるフイルムとして、超極細繊維不織布のように孔を有する不織布、織布は不適であることがわかった。
【0100】
前述した実施例2、3、4、5に示すように、塩とブドウ糖の好適な透過性と同時に好適な耐水性を有するフイルムはPVA,セロファン、親水性ポリエステルなどの素材からなる無孔性親水性フイルムに限定され、該無孔性親水性フイルムによって、はじめて根とフイルムの一体化が生じることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、植物の根と大地土壌とがフイルムによって隔離され、直接には接触していないため、大地の土壌が病原微生物、病原菌で汚染されていても、微生物、細菌は該フィルムを透過できないため、根に触れることがなく、連作障害などの植物汚染を回避できる。また、たとえ大地土壌が残留農薬などで汚染されていたとしても、大地土壌と根がフイルムで隔離されているために、植物の汚染が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】は、本発明の植物栽培方法の基本的な態様の例を示す摸式断面図である。
【図2】は、本発明の植物栽培方法の他の態様の例を示す摸式断面図である。
【図3】は、本発明の植物栽培方法の他の態様の例を示す摸式断面図である。
【符号の説明】
【0103】
1 無孔性親水性フィルム
2 大地の土壌
3 潅水手段(大地土壌)
4 植物栽培用支持体(土壌)
5 蒸発抑制部材
6 潅水手段(植物栽培用支持体)
7 細霧噴霧バルブ
8 揚水シート
9 植物栽培支持体保持枠


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含む大地土壌上に配置された無孔性親水性フィルムを少なくとも含み、該フィルム上で植物を栽培することを特徴とする植物栽培方法。
【請求項2】
前記無孔性親水性フィルムが、該フィルムを介して水と塩水とを対向して接触させた際に、測定開始後4日目(96時間)の水/塩水の電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下のフィルムである請求項1に記載の植物栽培方法。
【請求項3】
前記無孔性親水性フィルムが、該フィルムを介して水とグルコース溶液とを対向して接触させた際に、測定開始後3日目(72時間)の水/グルコース溶液の濃度(Brix%)の差が4以下のフィルムである請求項1または2に記載の植物栽培方法。
【請求項4】
前記無孔性親水性フィルムが、該フィルム上に植物体を配置して栽培を開始した35日後に、前記植物体の根に対して10g以上の剥離強度を示すフィルムである請求項1〜3のいずれかに記載の植物栽培方法。
【請求項5】
前記無孔性親水性フィルムが、耐水圧として10cm以上の水不透性を有する請求項1〜4のいずれかに記載の植物栽培方法。
【請求項6】
前記植物体とフィルムとの間に、植物栽培用支持体を配置する請求項1〜5に記載の植物栽培方法。
【請求項7】
前記植物体とフィルムとの間に、マルチング材料を配置する請求項1〜6に記載の植物栽培方法。
【請求項8】
栽培すべき植物の生長段階に応じて、該フィルムの下の土壌に潅水する請求項1〜7のいずれかに記載の植物栽培方法。
【請求項9】
栽培すべき植物の生長段階に応じて、該フィルムの上からも潅水する請求項1〜8のいずれかに記載の植物栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−72931(P2008−72931A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254439(P2006−254439)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(596009814)メビオール株式会社 (23)
【Fターム(参考)】