説明

植物栽培装置

【課題】複雑で高価な設備なしに、培地の温度や水分の環境条件、特に、植物の根域環境を容易に制御することができる植物栽培装置を提供する。更に、本発明は、複雑で高価な設備なしに、上記植物栽培装置を地面から適宜高さに位置するように支持した高設栽培装置を提供する。
【解決手段】本発明によれば、支持管の外側表面又は内側表面に培地管体を有せしめて、内側に両端を連通して延びる中空路を有する管状培地とし、この管状培地を水平に又は傾斜させて支持してなり、上記培地管体に灌水するために上記中空路を挿通する培地灌水手段を備え、及び/又は上記培地管体を加熱冷却するために上記中空路を臨んで若しくは上記中空路を挿通する培地加熱冷却手段を備えていると共に、上記支持管が外側表面に培地管体を有するときは、支持管が管壁に多数の貫通孔を有する植物栽培装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物栽培装置に関し、詳しくは、培地を管体として、その内側に中空路を有せしめ、この中空路を利用して、植物の根域環境を容易に制御することができるようにした植物栽培装置に関する。このような植物栽培装置はまた、高設栽培装置として好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、植物の種類にもよるが、収量を改善し、また、種々の農作業を容易にするために、様々の植物栽培装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、従来のこのような植物栽培装置においては、植物の根域の温度や水分等の環境制御は、極めて非効率的に行われており、場合によっては、不適切に行われている。例えば、培地を加熱(暖房)するには、例えば、ボイラー設備を利用して、植物栽培装置を設けた温室全体を加温し、又は栽培槽の周辺に温風を送っており、一方、培地を冷却(冷房)する場合には、培地に埋設した金属管に冷水を通し、又は培地上の植物の近傍を空調機にて局所的に冷却している。
【0003】
更に、従来の植物栽培装置によれば、培地は、通常、箱状乃至樋状の容器に充填されており、培地はその外側の表面のみが外気と接触しているので、培地を効率的に加熱冷却することができない。このように、従来の植物栽培装置は、その植物の根域の環境制御のために多額の費用を要する複雑で大規模な装置を備えていながら、根域の温度の制御は極めて非効率的に、場合によっては、不適切に行われている。
【0004】
更に、従来の植物栽培装置においては、植物の根域への水分の供給についても、問題がある。例えば、従来、培地に定植した植物への水分の供給は、通常、栽培槽上に設けた灌水管から培地上に散水して行うので、培地中の植物の根域近傍を生育に適した水分量に保とうとすれば、培地の表面付近が過度に湿潤になって、病害発生の危険を高めることとなる。
【0005】
このように、従来の植物栽培装置においては、培地に植生している植物の根域環境の制御が極めて非効率的に行なわれており、場合によっては、不適切であって、病害発生の危険性さえ、内包している。
【0006】
そこで、中空の管体を培地容器として利用した植物栽培装置も提案されている。一例を挙げれば、適宜の架台上に長管を傾斜して配設し、長管の管壁の上面側に穿設した複数の貫通孔のそれぞれに培地を充填した短管をその底部端面が上記長管の内側底壁面との間に空隙を有するように装着して、その長管の内側底壁面を自然流下による培養液流路とした栽培装置が提案されている(特許文献2参照)。このような植物栽培装置は、従来の前述したような栽培装置に比較すれば、単位当りの収量は改善され、また、根腐れのおそれも幾分、軽減されるとしても、植物の根域の温度を含めた環境の制御の問題は、依然として、解決されていない。
【0007】
一方、植物栽培に係わる別の問題として、従来、農作業における負担を軽減するために、種々の高設栽培装置が提案されている。例えば、イチゴは、丈の低い作物であるので、その栽培に際しては、苗取りから収穫まで、膝や腰への負担が大きい中腰の作業姿勢が強いられる。そこで、作業者に立ち作業を可能にする栽培方法が強く求められており、近年、このような要望に応えるべく、種々の高設栽培装置が提案されている。
【0008】
イチゴや葉物野菜等の栽培に用いられている従来の高設栽培装置は、例えば、培地を充填するための樋状のプラスチック製容器、即ち、栽培槽とこの栽培槽を地面から適当な高さに支持するための台座構造から構成されている。このような栽培装置の一例として、例えば、栽培槽の長手方向の両端を一対の架台で支持し、それぞれの架台を更に一対の支柱で支持して、上記栽培槽を地面から適当な高さに支持するようにした栽培装置が挙げられる(特許文献3参照)。
【0009】
このような高設栽培装置によれば、農作業者に立ち作業を可能にして、農作業における負担を軽減することはできるが、一方において、栽培槽を地面から適当な高さに支持するために、栽培槽ごとに地面に台座構造を組む必要がある。従って、このような高設栽培装置においては、上記台座構造を組み立てることと相俟って、前述した根域環境の制御には、一層、複雑で高価な設備が求められることとなる。
【0010】
そこで、台座構造を組む代わりに、培地を充填した栽培槽を、例えば、温室の天井から吊り下げてなる植物栽培装置も幾つか、提案されているが(特許文献4及び5参照)、従来の栽培装置と同じく、栽培槽が箱状の容器からなるので、培地の温度や水分の環境条件の制御の非効率性は依然として改善されていない。
【特許文献1】特開昭58−165722号
【特許文献2】特開2001−69865号公報
【特許文献3】特開2003−18916号公報
【特許文献4】特開2000−14250号公報
【特許文献5】特開2004−275178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来の植物栽培装置における上述した様々な問題を解決するためになされたものであって、複雑で高価な設備なしに、培地の温度や水分の環境条件、特に、植物の根域環境を容易に制御することができる植物栽培装置を提供することを目的とする。
【0012】
更に、本発明は、複雑で高価な設備なしに、上記植物栽培装置を地面から適宜高さに位置するように支持した高設栽培装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、支持管の外側表面又は内側表面に培地管体を有せしめて、内側に両端を連通して延びる中空路を有する管状培地とし、この管状培地を水平に又は傾斜させて支持してなり、上記培地管体に灌水するために上記中空路を挿通する培地灌水手段を備え、及び/又は上記培地管体を加熱冷却するために上記中空路を臨んで若しくは上記中空路を挿通する培地加熱冷却手段を備えていると共に、上記支持管が外側表面に培地管体を有するときは、支持管が管壁に多数の貫通孔を有することを特徴とする植物栽培装置が提供される。
【0014】
本発明の好ましい第1の態様によれば、管壁に多数の貫通孔を有し、内側に中空路を有する支持管の外側表面に培地管体を有せしめて管状培地とする。
【0015】
本発明の好ましい第2の態様によれば、管壁に多数の貫通孔を有し、又は有しない支持管の内側表面に培地管体を有せしめ、その内側に中空路を有せしめて、管状培地とする。
【0016】
本発明の好ましい第3の態様によれば、管壁に多数の貫通孔を有し、内側に中空路を有する内側支持管と管壁に多数の貫通孔を有し、又は有しない外側支持管からなる二重管の上記内側支持管と外側支持管との間の空隙に培地管体を有せしめて管状培地とする。
【0017】
本発明においては、上述したように、培地管体とは、支持管を含まない培地のみの管状物をいい、管状培地とは、支持管と共に培地管体を含む構造体をいい、植物栽培装置とは、上記管状培地を水平に又は傾斜させて支持してなり、上記培地管体に灌水するために上記中空路を挿通する培地灌水手段を備え、及び/又は上記培地管体を加熱冷却するために上記中空路を臨んで若しくは上記中空路を挿通する培地加熱冷却手段を備えている構造体をいうものとする。
【0018】
このように、本発明の植物栽培装置によれば、支持管の外側表面又は内側表面に培地管体を有する管状培地を備え、又は内側支持管と外側支持管との間に培地管体を有する管状培地を備えていることが第1の重要な特徴である。培地管体は、肉厚の円筒形状を有する。次に、本発明の植物栽培装置によれば、上記管状培地の内側の中空路に上記中空路を挿通する培地灌水手段を備え、及び/又は上記中空路を臨んで若しくは上記中空路を挿通する培地加熱冷却手段を備えていることが第2の重要な特徴である。
【0019】
更に、本発明によれば、上述した植物栽培装置を支持骨格から吊り下げ索にて吊り下げて水平に又は傾斜させて支持してなる高設栽培装置が提供される。また、本発明によれば、上述した植物栽培装置を支持骨格にて地面上に水平に又は傾斜させて支持してなる高設栽培装置が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の植物栽培装置によれば、このように、支持管の外側表面又は内側表面に培地管体を有する管状培地を有し、この管状培地は内側に中空路を有する。本発明による植物栽培装置は、このような管状培地を水平に又は傾斜させて支持してなり、上記管状培地に灌水するために上記中空路を挿通する培地灌水手段を備え、及び/又は上記管状培地を加熱冷却するために上記中空路を臨んで若しくは上記中空路を挿通する培地加熱冷却手段を備えており、上記支持管が外側表面に培地を有するときは、その支持管は管壁に多数の貫通孔を有する。従って、本発明によれば、培地管体の内側は中空路に直接、露出しているか、又は支持管がその管壁に多数有する貫通孔を介して中空路に露出している。
【0021】
ここに、本発明による植物栽培装置が上記中空路を挿通する培地灌水手段を備えている場合には、培地管体の内側に水を供給することによって、培地管体の表面に定植した植物の地上部を濡らしたり、培地管体の表面を過度に湿潤にすることなしに、植物の根域に効率よく水分を供給することができる。
【0022】
また、本発明による植物栽培装置が上記中空路を臨んで若しくは上記中空路を挿通する培地加熱冷却手段を備えている場合には、培地管体の内側から加熱冷却(暖房冷房)することによって、培地の根域の温度制御を効率よく行うことができ、必要に応じて、培地管体の外側からの加熱冷却と組み合わせることによって、培地管体の根域の温度制御を一層、容易に行うことができる。
【0023】
特に、本発明の植物栽培装置によれば、上述したように、培地管体の外側周面と内側周面を共に、少なくとも一部、外部に露出させることによって、培地管体の根域の温度制御を一層、容易に行うことができる。
【0024】
本発明による高設栽培装置は、上述した植物栽培装置を地面上、所望の高さに支持骨格から吊り下げ索にて吊り下げて水平に又は傾斜させて支持するか、又は上述した植物栽培装置を支持骨格にて地面上、所望の高さに水平に又は傾斜させて支持してなるものであるので、複雑で高価な台座構造の必要なしに、容易に地面から所望の高さの位置に支持することができる。また、上述したように、培地管体は、その外周面と内周面が共に、少なくとも一部、外部に露出しているので、培地の根域の温度制御を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明による植物栽培装置は、支持管の外側表面又は内側表面に培地管体を有せしめて、内側に両端を連通して延びる中空路を有する管状培地とし、この管状培地を水平に又は傾斜させて支持してなり、上記培地管体に灌水するために上記中空路を挿通する培地灌水手段を備え、及び/又は上記培地管体を加熱冷却するために上記中空路を臨んで若しくは上記中空路を挿通する培地加熱冷却手段を備えていると共に、上記支持管が外側表面に培地管体を有するときは、支持管が管壁に多数の貫通孔を有するものである。
【0026】
本発明による植物栽培装置は、通常、培地灌水手段や培地加熱冷却手段と共に管状培地を水平に支持してなることが好ましいが、必要に応じて、傾斜させて支持してもよい。しかし、余りに大きい角度にて傾斜させて支持するときは、培地環体の軸方向に培地の有する水分量が下側に偏在するおそれがあるので、傾斜させるとしても、その角度は、通常、水平方向に対して10度以下が好ましい。
【0027】
以下にこのような本発明による植物栽培装置とこれを利用した高設栽培装置について、添付図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0028】
図1(a)及び図1(b)は、本発明による植物栽培装置の第1の態様における管状培地を示す。図1(a)は正面縦断面図であり、図1(b)は、図1(a)において、線A−Aに沿う断面図である。但し、図1(a)において、支持管の管壁が有する貫通孔は、支持管の断面に現れるもの以外は、一部のみを図示している。
【0029】
本発明の第1の態様による植物栽培装置11は、管壁に多数の貫通孔12を有し、内側に両端を連通して延びる中空路13を有する支持管14の外側表面に培地管体15を有せしめて管状培地16とし、この管状培地を水平に又は傾斜させて支持してなり、上記培地管体に灌水するために上記中空路を挿通する培地灌水手段(図示せず)を備え、及び/又は上記培地管体を加熱冷却するために上記中空路を臨んで若しくは上記中空路を挿通する培地加熱冷却手段(図示せず)を備えている。
【0030】
本発明によれば、特に限定されるものではないが、支持管は、通常、その両端の短い距離を除いて、ほぼその全長にわたって、その外側表面上に培地管体を有する。
【0031】
第1の態様において、上記支持管は、管状培地を水平に又は傾斜させて支持するときに、培地管体をそのような形状に保持することができれば、どのような材料からなるものであってもよいが、好ましくは、プラスチック、木材、金属等からなる。但し、その形状は、管状であれば、特に限定されるものではなく、断面は、例えば、円筒でも角筒でもよい。
【0032】
このような第1の態様の植物栽培装置によれば、管壁に多数の貫通孔を有する支持管の外側表面に培地管体を有するので、培地管体はその外側周面が直接に外部に露出しているのみならず、内側周面も、支持管の管壁の有する貫通孔を介して外部に露出している。
【0033】
ここに、本発明による植物栽培装置が上記中空路を臨んで若しくは上記中空路を挿通する培地加熱冷却手段を備えているときは、培地管体は、内側から加熱冷却することによって、植物の根域の温度環境を容易に効率的に制御することができる。このような培地管体の内側からの加熱冷却を培地管体の外側からの加熱冷却と組み合わせることによって、培地管体の根域の温度環境を一層、容易に制御することができる。
【0034】
また、本発明による植物栽培装置が上記中空路を挿通する培地灌水手段を備えているときは、培地管体の内側に水を供給することによって、培地に定植した植物の地上部を濡らしたり、培地の表面を過度に湿潤にすることなしに、植物に根域に効率よく水分を供給することができる。
【0035】
本発明による植物栽培装置の第2の態様を図2A及び図2Bに示す。図2(a)は正面縦断面図であり、図2(b)は、図2(a)において、線A−Aに沿う断面図である。
【0036】
本発明の第2の態様による植物栽培装置21は、管壁に多数の貫通孔22を有し、又は有しない支持管23の内側表面に培地管体24を有せしめて、その内側に両端を連通して延びる中空路25を有する管状培地26とし、この管状培地を水平に又は傾斜させて支持してなり、上記培地管体に灌水するために上記中空路を挿通する培地灌水手段(図示せず)を備え、及び/又は上記管状培地を加熱冷却するために上記中空路を臨んで若しくは上記中空路を挿通する培地加熱冷却手段(図示せず)を備えている。
【0037】
第2の態様において、上記支持管は、管状培地を水平に又は傾斜させて支持するときに、培地管体をそのような形状に保持することができれば、どのような材料からなるものであってもよいが、好ましくは、プラスチック、木材、金属等からなる。但し、その形状は、管状であれば、特に限定されるものではなく、断面は、例えば、円筒でも角筒でもよい。
【0038】
本発明によれば、特に限定されるものではないが、支持管は、通常、その両端の短い距離を除いて、ほぼその全長にわたって、その内側表面上に培地管体を有する。
【0039】
第2の態様の植物栽培装置によれば、管壁に多数の貫通孔を有し、又は有しない支持管の内側表面に培地管体を有せしめて管状培地が形成されており、この管状培地の内側に中空路を有する。従って、培地管体は、その内側周面がそれ自身が内側に有する中空路に直接、露出しているのみならず、外側周面も、支持管が管壁の有する貫通孔を有するときは、その貫通孔を介して外部に露出している。
【0040】
ここに、本発明による植物栽培装置が上記中空路を臨んで若しくは上記中空路を挿通する培地加熱冷却手段を備えているときは、培地管体を内側から加熱冷却することによって、植物の根域の温度環境を容易に効率的に制御することができる。このような培地管体の内側からの加熱冷却を培地管体の外側からの加熱冷却と組み合わせることによって、培地管体の根域の温度環境を一層、容易に制御することができる。
【0041】
また、本発明による植物栽培装置が上記中空路を挿通する培地灌水手段を供えているときは、管状培地は、その内側に水を供給することによって、定植した植物の地上部を濡らしたり、培地の表面を過度に湿潤にすることなしに、植物に根域に効率よく水分を供給することができる。
【0042】
以上に述べた第1の態様の植物栽培装置においては、支持管の外側表面上に培地管体を有せしめて管状培地とし、支持管の内側に中空路を有せしめ、一方、上記第2の態様の植物栽培装置においては、支持管の内側表面上に培地管体を有せしめて管状培地とし、その内側に中空路を有せしめている。
【0043】
従って、第1及び第2の態様の植物栽培装置においては、培地管体は、通常、要求される培地としての特性、例えば、保水性、通気性、植付け等の作業の容易性等に加えて、それ自身にて管状の形状を維持することができる形状保持性を有することが必要であり、更に、軽量であることも望ましい。従って、第1及び第2の態様の植物栽培装置においては、培地管体は、一例として、適宜の培地素材を固形化剤と共に管状に成形し、固形化したものが好ましく用いられる。
【0044】
このように培地素材を固形化剤と共に成形し、所要の形状に固形化する技術は既に種々のものが知られており、本発明においては、それら既に知られている技術を適宜に採用して、培地管体を調製することができる。
【0045】
このような固形化培地を得る方法は、例えば、特開2005−102578号公報に詳細に記載されている。一例を挙げれば、培地素材としてのピートモス25重量部とパーライト15重量部と土壌改良剤としての方解石45重量部と熱融着性繊維15重量部を混合し、これを成形、固形化後の密度が0.1〜1.0g/cm3の範囲にあるように管状のキャビティーを有する成形型枠に充填した後、成形型枠内に水1.5Lを加え、これをオートクレーブに仕込み、110℃に15分間加熱して、成形、固形化を行い、得られた固形化培地を成形型枠から抜き取って、目的とする培地管体を得ることができる。
【0046】
上記熱融着性繊維とは、上記培地素材や、必要に応じて、土壌改良剤等と混合し、加熱することによって、繊維の中心部(芯部)によって繊維の形状を維持しつつ、繊維の表面部(鞘部)が溶融又は軟化し、繊維が相互に融着し、また、繊維が培地素材中の成分や他の成分に接着し、かくして、繊維が培地素材やその他の土壌改良剤等を含みながら、三次元網状構造を形成するように結合して、培地素材等を固形化することができる繊維をいう。このような熱融着性繊維として、例えば、融点又は軟化温度の高いポリエステルからなる芯部(例えば、融点260℃)と融点又は軟化温度の低いポリエステルからなる鞘部(例えば、軟化温度110℃)からなる所謂鞘芯型ポリエステル繊維を市販品として入手することができる(例えば、(株)クラ製N−720)。
【0047】
従って、培地素材とこのような鞘芯型繊維の混合物を上述したように成形型枠の管状のキャビティーに充填し、鞘部は溶融又は軟化するが、芯部は溶融又は軟化しない温度、例えば、例示した上記鞘芯型繊維についていえば、110℃に加熱すれば、鞘芯型繊維は、芯部によって繊維形状を維持しつつ、溶融又は軟化する鞘部によって、培地素材や土壌改良剤等を含みながら、三次元網状を形成するように融着し、また、繊維が培地素材に接着し、かくして、三次元網状構造を形成した繊維によって培地素材が管状に固形化される。
【0048】
上述した培地管体の調製においては、培地素材としてピートモスとパーライトを用い、土壌改良剤として方解石を用いているが、しかし、培地素材や土壌改良剤はこれらに限られず、必要に応じて、培地素材として、上記に代えて、又は上記と共に、例えば、ロックウール、グラスウール、ゼオライト、バーミキュライト、ベントナイト、籾殻等を用いることができ、また、土壌改良剤として、例えば、石灰石、鉱滓等を用いることもできる。
【0049】
第1の態様の植物栽培装置は、例えば、培地管体を上述したようにして調製した後、この培地管体の内側の中空路に支持管を挿入して製作することができる。同様に、第2の態様の植物栽培装置は、例えば、培地管体を上述したようにして調製した後、支持管の中空路内にこの培地管体を挿入して製作することができる。また、別の方法として、第1及び第2のいずれの態様の植物栽培装置についても、例えば、成形型枠の管状のキャビティーに培地素材と熱融着性繊維と土壌改良剤等の混合物と共に支持管を成形型枠の管状のキャビティーに仕込み、培地管体と一体に成形して、管状培地を調製することもできる。
【0050】
上記第1及び第2の態様の植物栽培装置における管状培地の支持の方法、培地灌水手段及び培地加熱冷却手段は、第3の態様による植物栽培装置と共通するので、それら管状培地の支持の方法、培地灌水手段及び培地加熱冷却手段については、第3の態様による植物栽培装置において、詳細に説明する。
【0051】
本発明による植物栽培装置の第3の態様を図3(a)及び(b)に示す。図3(a)は正面縦断面図であり、図3(b)は、図3(a)において、線A−Aに沿う断面図である。但し、図3(a)において、内側支持管の管壁が有する貫通孔は、内側支持管の断面に現れるもの以外は、一部のみを図示している。
【0052】
本発明の第3の態様による植物栽培装置31は、管壁に多数の貫通孔32を有し、内側に両端を連通して延びる中空路33を有する内側支持管34と管壁に多数の貫通孔35を有し、又は有しない外側支持管36からなる二重管の上記内側支持管と外側支持管との間の空隙に培地管体37を有せしめて管状培地38とし、この管状培地を水平に又は傾斜させて支持してなり、上記培地管体に灌水するために上記中空路を挿通する培地灌水手段39を備え、及び/又は上記培地管体を加熱冷却するために上記中空路を臨んで若しくは上記中空路を挿通する培地加熱冷却手段40を備えている。
【0053】
本発明の第3の態様による植物栽培装置は、外側支持管と内側支持管からなる二重管が培地容器として機能し、ここに、上記内側支持管は、その管壁に多数の貫通孔を有し、上記外側支持管と内側支持管の間の空隙に培地管体を有せしめて管状培地が形成されており、内側支持管はこの培地管体によって外側支持管の内部に二重管を形成するように保持されている。従って、内側支持管は外側指示管に支柱(図示せず)のような適宜の手段によって支持され、固定されている必要はない。しかし、必要に応じて、内側支持管は、そのような支柱によって、外側支持管に支持され、固定されていてもよい。
【0054】
本発明による第1、第2及び第3の植物栽培装置を水平に又は傾斜させて支持するには、第1及び第3の態様の植物栽培装置におけるように、培地管体がその内側に支持管を有するときは、例えば、図3(a)及び(b)に示すように、支持管の中空路に金属、木材、プラスチック等からなる支持棒41を挿通すると共に、植物栽培装置を配設しようとする所定の場所において、上方に適宜に配設した指示骨格(図示せず)、例えば、温室の天井の梁から支持管のほぼ長さに等しい間隔にて一対の吊り下げ索42を下ろして、それぞれの下端を上記指示棒の両端に結んで、植物栽培装置を吊り下げればよい。
【0055】
また、場合によっては、吊り下げ索を結び付けることができる固定具を支持管の両端に取り付け、又は上述したような固定具の適当数を支持管の長さ方向に適宜の間隔を置いて取り付け、温室の天井の梁から吊り下げ索を下ろして、それぞれの下端をこれら固定具に結び付けて、植物栽培装置を吊り下げてもよい。第2の態様による植物栽培装置も、支持管に固定具を取り付けることによって、同様にして、水平に又は傾斜させて支持することができる。
【0056】
第1、第2及び第3の態様の植物栽培装置のいずれについても、場合によっては、地面上に設けた適宜の台座構造(図示せず)によって管状培地を適宜の高さに支持してもよい。第1及び第3の態様の植物栽培装置の場合であれば、例えば、簡単な構成として、地面に支柱を立てて、その上端にて前記支持棒を支持することによって、管状培地を適宜の高さに支持することができる。また、第2の態様の植物栽培装置の場合であれば、例えば、支持管をそのまま、適当な台座上に置けばよい。
【0057】
本発明による第3の態様の植物栽培装置おいては、上述したように、管体培地を上記外側支持管と内側支持管の間の空隙に有せしめて管状培地としているので、培地管体は、必ずしも、第1及び第2の態様による植物栽培装置における培地管体のように、それ自体で、形状保持性を有する必要はない。従って、外側支持管と内側支持管の有する貫通孔の大きさを考慮して、例えば、ロックウールやグラスウールやウレタンフォーム等の培地素材を上記外側支持管と内側支持管の間の空隙に充填すれば、直ちに、培地素材は培地管体を形成し、同時に、管状培地を形成する。勿論、前述したように、培地素材と熱融着性繊維と、必要に応じて、土壌改良剤等を用いて、培地素材を固形化して培地管体を調製し、この培地管体の外側周面と内側周面に沿うように外側支持管と内側支持管を取り付けてもよい。
【0058】
また、第3の態様の植物栽培装置において、外側支持管と内側支持管は、培地管体をその形状に保持しつつ、二重管を形成することができれば、それぞれその断面形状は何ら限定されるものではなく、それぞれ独立に円筒でも、角筒でもよい。また、本発明において、外側支持管と内側支持管が形成する二重管は、同軸である必要はない。
【0059】
本発明の第3の植物栽培装置において、外側支持管と内側支持管は、外側支持管と内側支持管の間に培地が充填された状態で上記二重管構造を維持することができるに足りる強度を有すれば、その素材は特に限定されるものではない。従って、外側支持管と内側支持管は、例えば、プラスチック、木材、金属等からなり、管壁に多数の貫通孔を有するものであるときは、管壁に貫通孔を穿設した管でもよく、また、ポリエチレンやポリプロピレン等のプラスチック製のメッシュからなる管であってもよい。場合によっては、強度を有する繊維製シートを円筒状に縫製してなる管も、外側支持管や内側支持管として用いることができる。
【0060】
前述したように、培地灌水手段及び培地加熱冷却手段は、第1、第2及び第3の態様の植物栽培装置に共通する。
【0061】
本発明によれば、培地灌水手段は、中空路の内部から培地管体の内側に水を供給することができれば、その構造及び形状は何ら制約を受けるものではないが、好ましくは、中空路を挿通させた、一定の間隔ごとに水を噴出させる噴水装置43を備えた灌水管39である。
【0062】
この灌水管は、管状培地の内側支持管に適宜に支持させてもよく、また、場合によっては、管状培地を前述したように適宜の高さに吊り下げた後、管状培地と同様に、上方の支持骨格によって適宜に支持しつつ、内側支持管の内側に挿通してもよい。
【0063】
このような培地灌水手段によれば、前述したように、培地管体の内側に水を供給することができるので、培地管体の外側で生長した植物を濡らしたり、培地管体の外側表面を過度に湿潤にすることなく、培地における植物の根域近傍に水分を効率的効果的に供給することができる。
【0064】
また、前記培地加熱冷却手段も、培地管体を内側から加熱し、又は冷却することができれば、特に限定されるものではないが、例えば、加熱冷却用媒体として液体を用いるときは、上記灌水管と同様に、中空路を挿通させた加熱冷却用媒体流通管40である。即ち、このような加熱冷却用媒体流通管に加熱冷却用媒体を流通させることによって、培地管体の内側から培地を加熱冷却することができ、従って、培地管体を効率よく加熱冷却することができる。この培管体地の内側からの加熱冷却を培地管体の外側からの加熱冷却と組み合わせることによって、培地管体の温度条件を一層、効率よく制御することができる。
【0065】
加熱冷却用媒体として、加熱冷却空気のような気体を用いるときも、上述したように、加熱冷却空気を加熱冷却用媒体とする加熱冷却用媒体流通管を加熱冷却手段として用いることができる。
【0066】
また、図示しないが、中空路を臨んで、適宜の加熱冷却源を配設すると共に、その背後に送風機を置いて、加熱冷却用気体の吹き込み装置とし、これを用いて、中空路中に加熱冷却空気を送り込むことによっても、培地管体をその内側から加熱冷却することができる。従って、この場合も、培地管体の外側からの加熱冷却と組み合わせることによって、培地管体を効率よく加熱冷却することができる。
【0067】
更に、必要に応じて、管壁に多数の貫通孔を有する細管(図示せず)を外側支持管の内側底部に沿って挿通させ、これを排水管とすることができる。
【0068】
図4は、それぞれプラスチックス製メッシュからなる外側支持管36と内側支持管34の間の空隙に培地37を充填して管状培地38を形成し、内側支持管を挿通する支持棒41を吊り下げ索(図示せず)にて水平に又は傾斜させて支持すると共に、内側支持管を挿通するように培地灌水管39と培地加熱冷却手段40を適宜に支持して植物栽培装置31とし、この植物栽培装置の管状培地にイチゴ43が定植されている状況を示す。培地管体に植物を植着けるには、外側支持管の貫通孔35の直径が小さいときは、必要に応じて、上記貫通孔の複数を含む適当な面積を有する大きさに外側支持管の管壁に植穴44を開けて、この植穴から培地内に植物の根部分を埋め込めばよい。しかし、図示したような管状培地であっても、場合によっては、植物を外側支持管の表面に貼り付けることによって、植物に自ずからその根を培地中に伸長させ、生育させることができる。
【0069】
本発明による植物栽培装置は、好ましくは、作業者の作業に適する適宜の高さに位置するように、管状培地を適宜の手段にて吊り下げて、高設栽培装置として用いられる。例えば、図3(a)及び図4に示すように、内側支持管に金属、木材、プラスチック等からなる支持棒を挿通すると共に、本発明による植物栽培装置を配設しようとする所定の場所において、上方に適宜に配設した支持骨格(図示せず)、例えば、温室の天井の梁から吊り下げ索を降ろして、その下端を上記支持棒の両端に結んで、管状培地を適宜の高さに位置するように吊り下げることができる。
【0070】
しかし、本発明によれば、図示しないが、地面上に設けた適宜の台座構造によって、管状培地を適宜の高さに支持して、高設栽培装置としてもよい。簡単な構成として、地面に支柱を立てて、その上端にて前記支持棒を支持することによって、管状培地を適宜の高さに支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】(a)は本発明の第1の態様による植物栽培装置における管状培地の縦断面図であり、(b)は上記管状培地の線A−Aに沿う断面図である。
【図2】(a)は本発明の第2の態様による植物栽培装置における管状培地の縦断面図であり、(b)は上記管状培地の線A−Aに沿う断面図である。
【図3】(a)は本発明による第3の態様による植物栽培装置の縦断面図であり、(b)は上記植物栽培装置の線A−Aに沿う断面図である。
【図4】本発明の第3の態様による植物栽培装置にイチゴが定植している状況を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0072】
11…第1の態様による植物栽培装置における管状培地
12…貫通孔
13…中空路
14…支持管
15…培地管体
16…管状培地
21…第2の態様による植物栽培装置における培地管体
22…貫通孔
23…支持管
24…培地管体
25…中空路
26…管状培地
31…第3の態様による植物栽培装置
32…内側支持管が管壁に有する貫通孔
33…中空路
34…内側支持管
35…外側支持管が管壁に有する貫通孔
36…外側支持管
37…培地管体
38…管状培地
39…培地灌水手段
40…培地加熱冷却手段
41…支持棒
42…吊り下げ索
43…イチゴ
44…植穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持管の外側表面又は内側表面に培地管体を有せしめて、内側に両端を連通して延びる中空路を有する管状培地とし、この管状培地を水平に又は傾斜させて支持してなり、上記培地管体に灌水するために上記中空路を挿通する培地灌水手段を備え、及び/又は上記培地管体を加熱冷却するために上記中空路を臨んで若しくは上記中空路を挿通する培地加熱冷却手段を備えていると共に、上記支持管が外側表面に培地管体を有するときは、支持管が管壁に多数の貫通孔を有することを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
管壁に多数の貫通孔を有し、内側に中空路を有する支持管の外側表面に培地管体を有せしめて管状培地とした請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項3】
管壁に多数の貫通孔を有し、又は有しない支持管の内側表面に培地管体を有せしめ、その内側に中空路を有せしめて管状培地とした請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項4】
管壁に多数の貫通孔を有し、内側に中空路を有する内側支持管と管壁に多数の貫通孔を有し、又は有しない外側支持管からなる二重管の上記内側支持管と外側支持管との間の空隙に培地管体を有せしめて管状培地とした請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項5】
培地灌水手段が灌水管である請求項1から4のいずれかに記載の植物栽培装置。
【請求項6】
培地加熱冷却手段が中空路を挿通して設けた加熱冷却用媒体の流通管である請求項1から4のいずれかに記載の植物栽培装置。
【請求項7】
培地加熱冷却手段が中空路を臨んで設けた加熱冷却用気体の吹き込み装置である請求項1から4のいずれかに記載の植物栽培装置。
【請求項8】
支持管に植穴を設けた請求項3に記載の植物栽培装置。
【請求項9】
外側支持管に植穴を設けた請求項4に記載の植物栽培装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の植物栽培装置を支持骨格から吊り下げ索にて吊り下げて水平に又は傾斜させて支持してなる高設栽培装置。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載の植物栽培装置を支持骨格にて地面上に水平に又は傾斜させて支持してなる高設栽培装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−130981(P2010−130981A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311990(P2008−311990)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(508361737)株式会社ヴェイル (2)
【Fターム(参考)】