説明

植物環境管理システム

【課題】 昼夜を問わず、栽培用ハウスの室内温度を適切に制御可能とするとともに、ヒートポンプのCOPを向上させる。
【解決手段】 植物を栽培するための栽培用ハウス10と、この栽培用ハウス10の室内温度を降下又は上昇させるためのヒートポンプ20と、このヒートポンプ20の吸気が通る複数の経路のそれぞれに取り付けられた吸気用切替手段35−1、35−2と、ヒートポンプ20で回収された熱を、熱媒体の貯留により蓄える蓄熱槽40と、熱媒体を用いて、栽培用ハウス10の室内温度を局所的に上昇させる局所暖房手段50と、吸気用切替手段35−1、35−2を動作させて吸気先を切り替える吸気先制御手段80とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を栽培するための栽培用ハウスの室内温度を制御する植物環境管理システムに関し、特に、ヒートポンプからの排気により、その温度制御を行う植物環境管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
トマト、キュウリ、ほうれん草などの生鮮野菜は、消費者のニーズに応じて年間栽培されている。例えば、冬場や高冷地などでは、ガラス製やビニール製の温室内に暖房設備を設置し、野菜の生育に必要な熱を供給することによって周年栽培を可能としている。
その温室内に設置される暖房設備には、例えば、A重油を燃料とする温風型加温機や、温水を循環させる管、電気式ヒータ、発熱ランプなどを用いた装置などがある。
【0003】
また、近年では、その暖房設備としてヒートポンプを用いるところもある。
ヒートポンプは、基本構成として、熱源から熱を回収して熱媒体を加温し、冷風を排気する熱源側装置と、熱媒体の熱により吸気を加温し温風として排気する制御側装置によって構成されている。また、中には、熱媒体の熱により冷水を加温して温水を排出するヒートポンプ給湯器もある。
【0004】
このヒートポンプを用いた温室内の冷暖房に関する技術が提案されている。
例えば、ヒートポンプを温室内に設置し、このヒートポンプを熱源機として温水を加熱し、地中に埋設した放熱パイプにその温水を循環させて土壌を加熱する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−136203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、次のような状況があった。
同技術において、ヒートポンプは、熱源となる空気を温室内から取り込んで熱交換を行うと、冷風を温室内に排気していた。つまり、ヒートポンプの吸気は、ヒートポンプ自身の排気により温度が低下していた。このため、ヒートポンプのCOP(Coefficient of Performance、消費電力に対する加熱能力)が低下していた。
【0007】
また、夏場や冬場の日中は、温室内の温度が異常に上昇するため、植物の周辺温度を低下させる必要があるが、同技術においては、熱回収後の冷気をヒートポンプからそのまま吐き出しているため、ヒートポンプの近傍では温度が低下するものの、ヒートポンプから離れたところでは温度が低下せず、植物の生育に支障をきたしていた。
【0008】
さらに、特許文献1の図2に記載の技術は、ヒートポンプを小部屋(ケーシング)に収め、昼間は、温室内に連通する内扉を開けて、温室外に連通する外扉を閉めていた。また、夜間は、内扉を閉めて、外扉を開けていた。
ところが、ヒートポンプが収められた小部屋は、内部に仕切りがなく、ヒートポンプの吸気と排気が混合し循環していた。このため、昼間も夜間も、吸気の温度が排気により低下し、この場合も、ヒートポンプのCOPが低下していた。
【0009】
本発明は、上記の事情にかんがみなされたものであり、昼夜を問わず、温室の室内温度を適切に制御可能とするとともに、ヒートポンプのCOPを向上可能とする植物環境管理システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため、本発明の植物環境管理システムは、植物を栽培するための栽培用ハウスと、この栽培用ハウスの内部温度を降下又は上昇させるためのヒートポンプと、このヒートポンプの吸気が通る複数の経路のそれぞれに取り付けられた吸気用切替手段と、ヒートポンプで回収された熱を、熱媒体の貯留により蓄える蓄熱槽と、熱媒体を用いて、栽培用ハウスの内部温度を局所的に上昇させる局所暖房手段と、吸気用切替手段を動作させて吸気先を切り替える吸気先制御手段とを備えた構成としてある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の植物環境管理システムによれば、フレキシブルに吸気先や排気先を切り替えることができ、これにより、ヒートポンプのCOPを向上させることができる。例えば、冬場の晴天時には、栽培用ハウス内が高温となる。この場合、栽培用ハウス内の上部から高温の空気を吸気することで、ヒートポンプのCOPを向上させることができる。
また、ヒートポンプからの排気(冷風)を栽培用ハウス内の下部に排出することにより、栽培用ハウス内の上部に滞留する高温の空気との温度移動を少なくして、ヒートポンプのCOPの低下を抑制できる。
【0012】
さらに、局所暖房手段を備えることにより、栽培用ハウスの中でも特に温度管理の必要な局所、例えば植物周辺の温度制御を適切に行うことができる。
しかも、蓄熱槽を備えて、必要なときに温水を局所暖房手段に供給可能とすることで、時間を問わず、栽培用ハウスの室内を適切な温度に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】植物環境管理システムの構成を示す概略図である。
【図2】ケーシングの構成を示す内部構成図である。
【図3】栽培用ハウスの室内に配置された送風配管の構成を示す栽培用ハウスの上面図である。
【図4】局所暖房手段の放熱配管の構成を示す正面外観図である。
【図5】制御手段の構成を示すブロック図である。
【図6】栽培用ハウスの室内における温度センサの配置を示す斜視図である。
【図7】栽培用ハウスの室内における気流発生手段の配置を示す側面図である。
【図8】内部循環モードが選択されたときの熱循環の様子を示すシステム構成図である。
【図9】外気導入モードが選択されたときの熱循環の様子を示すシステム構成図である。
【図10】外気導入モードでヒートポンプを運転したときのCOPと、内気循環モードでヒートポンプを運転したときのCOPとを比較したときの、前者に対する後者のCOP向上率を示す図表である。
【図11】二酸化炭素供給手段を備えた植物環境管理システムの構成を示す概略図である。
【図12】植物環境管理システムの他の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る植物環境管理システムの好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
[植物環境管理システム]
本実施形態の植物環境管理システム1は、図1に示すように、栽培用ハウス10、ヒートポンプ20、ケーシング30、蓄熱槽40、局所暖房手段50、養液供給手段60、及び、太陽光パネル70を備えている。
なお、ここでは、温度制御システムの各構成、及び、構成上の効果について説明することとし、具体的な制御方法については、後記の「温度制御方法」で詳述する。
【0016】
(栽培用ハウス)
栽培用ハウス10は、植物の栽培を目的として屋外又は屋内に設置された農業用の小屋である。具体的には、例えば、木材や鋼材などで骨格を形成し合成樹脂フィルムで被覆したビニールハウスや、外壁及び天井13に板ガラスを嵌め込んだガラスハウスなどがある。このように、透明又は半透明の材料で栽培用ハウス10を形成することで、太陽光を栽培用ハウス10の室内に取り込むことができる。
また、栽培用ハウス10には、例えば、室温管理や養液の補給などをシステム的に行う植物栽培用プラントや、室内の温度を上昇させて植物の生育を促す温室なども含まれる。
【0017】
この栽培用ハウス10の室内には、載置式の水耕栽培用ベッド11が地面の直上に(又は、地面から所定の高さのところに)複数配置されている。この水耕栽培用ベッド11には、栽培の対象となる植物が植えられている。植物は、水耕栽培が可能な植物、たとえば、トマト、キュウリ、ほうれん草、レタス、ナス、ピーマンなどの野菜であってもよく、果実、あるいは、これら以外の植物であってもよい。
なお、本実施形態においては、栽培用ベッドとして水耕栽培用ベッド11を用いることとするが、これに限るものではなく、例えば、噴霧耕栽培用ベッド、培地を用いた固形培地耕栽培用ベッド、培地に土を用いた養液土耕栽培用ベッドなどを用いてもよい。さらに、一般的な土耕栽培であってもよい。
【0018】
栽培用ハウス10の室内中段部には、水平方向に開閉可能な遮光カーテン12が設置されている。遮光カーテン12は、網状に縫い合わされた布製又は合成樹脂製のシートであって、手動又は自動で開閉できる。
この遮光カーテン12は、栽培用ハウス10の天井13又は壁部14から入射した太陽光が水耕栽培用ベッド11に届くのを遮る機能を有している。例えば、日中、栽培用ハウス10の室内(特に、水耕栽培用ベッド11付近)の温度が所定の温度以上に上昇したときに、遮光カーテン12を広げる。これにより、栽培用ハウス10の天井13等から入射した太陽光の一部が遮光カーテン12で遮られて、水耕栽培用ベッド11に届く光が減少する。つまり、広げた遮光カーテン12により水耕栽培用ベッド11が日陰となるので、この水耕栽培用ベッド11とその周辺の温度上昇を抑制できる。
【0019】
また、遮光カーテン12が広げられた状態では、栽培用ハウス10の室内が上下二つの空間に仕切られる。このため、栽培用ハウス10の室内のうち、遮光カーテン12より上方(上層)では、日中、温度が上昇し、一方、遮光カーテン12より下方(下層)では、送風配管36(後述)から放出される冷風により温度が低下する。そして、栽培用ハウス10の室内上層の上昇した温度と、室内下層の低下した温度とは、遮光カーテン12により仕切られて熱移動が少なくなるため、室内下層における冷風放出による冷却効果を長時間維持できる。
【0020】
栽培用ハウス10の天井13には、開閉可能な天窓15が設けられている。天窓15は、通常閉じた状態にされており、栽培用ハウス10の室内と室外とを遮断している。ただし、栽培用ハウス10の室内の温度が所定温度以上(例えば、28℃以上)になると、制御手段80(後述)の制御により自動的に開く。これにより、この天窓15から外気が取り込まれて、栽培用ハウス10の室内温度を低下させることができる。
【0021】
この天窓15の開閉制御は、遮光カーテン12の開閉と連動して行うことができる。例えば、栽培用ハウス10の室内温度が所定温度以上(例えば、25℃以上)となったために遮光カーテン12を広げて太陽光を遮光したものの、室内下層の温度上昇を抑制できず、室内温度が所定温度以上(例えば、28℃以上)に上昇したときに、天窓15を自動的に開放する。このように、遮光カーテン12を広げるとともに天窓15を開けることで、栽培用ハウス10の室内温度を低下させることができる。
【0022】
なお、栽培用ハウス10の室内には、温度センサ81が複数箇所に配置されている。この温度センサ81については、後記の「制御手段」にて詳述する。
また、水耕栽培用ベッド11に植えられた植物の近傍には、局所暖房手段50が設置されている。この局所暖房手段50については、後記の「局所暖房手段」にて詳述する。
【0023】
(ヒートポンプ)
ヒートポンプ20は、図2に示すように、吸気口21と排気口22とを有しており、吸気口21から温風(又は外気)を吸気し、熱交換機(図示せず)により吸気から熱を回収して、冷風を排気口22から排気する。また、ヒートポンプ20は、加温配管23に流れる冷水を、温風又は外気から回収した熱によって加温し、この温水を蓄熱槽40に返す。
このヒートポンプ20には、例えば、自然冷媒ヒートポンプ給湯器(例えば、エコキュート(登録商標))を用いることができる。
【0024】
なお、ヒートポンプ20は、電気式であってもよく、あるいは、ガス式であってもよい。また、室外機と本体とが一体化したタイプでもよく、あるいは、分離したタイプでもよい。
また、ヒートポンプ20の運転/停止の切替制御は、制御部85(後述)により実行される。例えば、制御部85は、内部循環モード又は外気導入モードを選択したときは、ヒートポンプ20を運転モードに切り替えて、熱回収や熱交換などを実行させる。
【0025】
(ケーシング)
ケーシング30は、ヒートポンプ20が内部に収められた直方体状の収納庫である。
このケーシング30の本体31には、図2に示すように、複数の吸入口32(32−1、32−2)と、複数の排出口33(33−1、33−2)が形成されている。
【0026】
第一の吸入口32−1は、栽培用ハウス10の室内上部から空気(温風)を取り込むための開口である。この第一の吸入口32−1には、吸入管34の一端が接続されており、吸入管34の他端が栽培用ハウス10の壁部14の上方に接続されている。なお、吸入管34については、後記の「吸入管」にて詳述する。
また、第一の吸入口32−1には、温風の流通を制御する温風用ダンパ35−1が取り付けられている。温風用ダンパ35−1は、制御手段80(後述)の制御により、第一の吸入口32−1を開放又は閉塞するモータ付き開閉装置である。この温風用ダンパ35−1が開状態となり第一の吸入口32−1が開放されているときは、栽培用ハウス10の室内上部からケーシング30の内部に温風を取り込むことができる。一方、温風用ダンパ35−1が閉状態となり第一の吸入口32−1が閉塞されているときは、栽培用ハウス10の室内上部から温風を取り込むことができない。
【0027】
第二の吸入口32−2は、ケーシング30の室外(大気中)から外気を取り込むための開口である。
この第二の吸入口32−2には、外気の取り込みを制御する外気用ダンパ35−2が取り付けられている。外気用ダンパ35−2は、制御手段80の制御により、第二の吸入口32−2を開放又は閉塞するモータ付き開閉装置である。この外気用ダンパ35−2が開状態となり第二の吸入口32−2が開放されているときは、外気をケーシング30の内部に取り込むことができる。一方、外気用ダンパ35−2が閉状態となり第二の吸入口32−2が閉塞されているときは、外気を取り込むことができない。
【0028】
なお、温風用ダンパ35−1と外気用ダンパ35−2は、ヒートポンプ20の吸気が通る複数の経路(吸入管34及び第一の吸入口32−1、第二の吸入口32−2)のそれぞれに取り付けられて、吸気の取り込みと停止とを切り替えることから「吸気用切替手段」としての機能を有している。
【0029】
第一の排出口33−1は、ヒートポンプ20から排気された冷風を栽培用ハウス10の室内中段部又は室内下部へ送り出すための開口である。この第一の排出口33−1には、送風配管36(後述)の一端が接続されている。
また、第一の排出口33−1には、冷風の送出を制御するファン35−3が取り付けられている。ファン35−3は、制御手段80の制御により回転又は停止する送風機である。このファン35−3が回転すると、ケーシング30から栽培用ハウス10の室内に冷風が送り込まれる。一方、ファン35−3の回転が停止すると、栽培用ハウス10への冷風の送り込みは行われない。
なお、ヒートポンプ20の本体の排気ファン22−1が十分な排気能力を有する場合は、ファン35−3を省略することができる。
また、ファン35−3の出口側(又は、入口側)に温風用ダンパ35−1と同様の仕切手段を設け、ファン35−3の起動と同時に開放し、停止とともに閉止することで、必要なとき以外に送風配管36に排気が漏れ込むのを防止できる。
【0030】
第二の排出口33−2は、ヒートポンプ20からの冷風をケーシング30の室外へ送り出すための開口である。
この第二の排出口33−2には、冷風の送り出しを制御する排出用ダンパ35−4が取り付けられている。排出用ダンパ35−4は、制御手段80の制御により、第二の排出口33−2を開放又は閉塞するモータ付き開閉装置である。この排出用ダンパ35−4が開状態となり第二の排出口33−2が開放されているときは、冷風をケーシング30の室外に送り出すことができる。一方、排出用ダンパ35−4が閉状態となり第二の排出口33−2が閉塞されているときは、冷風を送り出すことができない。
【0031】
なお、ファン35−3と排出用ダンパ35−4は、ヒートポンプ20の排気が通る複数の経路(送風配管36及び第一の排出口33−1、第二の排出口33−2)のそれぞれに取り付けられて、排気の送り出しと停止とを切り替えることから「排気用切替手段」としての機能を有している。
【0032】
ケーシング30の内部には、吸気空間37と排気空間38の二つの空間が設けられている。
吸気空間37は、ヒートポンプ20の吸気口21とケーシング本体31の複数の吸入口32(32−1、32−2)が連通した空間である。この吸気空間37においては、第一の吸入口32−1又は第二の吸入口32−2のいずれか一方から温風又は外気が取り込まれ、ヒートポンプ20の吸気口21にて吸気される。それら温風又は外気を取り込む吸入口32(32−1、32−2)の選択制御は、制御手段80により実行される。この選択制御については、後記の「制御手段」にて詳述する。
【0033】
排気空間38は、ヒートポンプ20の排気口22とケーシング本体31の複数の排出口33(33−1、33−2)が連通した空間である。この排気空間38においては、ヒートポンプ20の排気口22からの冷風が、第一の排出口33−1又は第二の排出口33−2のいずれか一方を介して栽培用ハウス10の室内又はケーシング30の室外へ送り出される。それら冷風を送り出す排出口33(33−1、33−2)の選択制御は、制御手段80により実行される。この選択制御については、後記の「制御手段」にて詳述する。
【0034】
吸気空間37と排気空間38との間は、仕切部材39で仕切られている。この仕切部材39を設けることにより、吸気と排気の混合を防止できる。
なお、本実施形態においては、吸気空間37と排気空間38の両方を一のケーシング30の内部に設けてあるが、これに限るものではなく、例えば、吸気空間37用のケーシングと排気空間38用のケーシングとをそれぞれ別個独立して形成し、吸気空間37用のケーシングは、ヒートポンプ20の吸気口21に取り付け、排気空間38用のケーシングは、ヒートポンプ20の排気口22に取り付けるようにすることもできる。
【0035】
また、ケーシング本体31や仕切部材39は、金属や木材の板状部材、樹脂製シートなどを用いて形成することができる。
さらに、本実施形態においては、第一の吸入口32−1、第二の吸入口32−2、第二の排出口33−2に電動ダンパを設けているが、電動ダンパに限るものではなく、例えば、モータ駆動されるバタフライバルブや電動シャッタ、油圧式ダンパ等、人力を介さずに作動するその他の開閉手段を設けることもできる。
【0036】
(吸入管)
吸入管34は、合成樹脂などの可撓性材料又は亜鉛メッキ板などの剛性材料で形成された管状部材である。この吸入管34は、一方の端部がケーシング30の第一の吸入口32−1に接続されており、他方の端部が栽培用ハウス10の壁部14の上方に接続されている。これにより、栽培用ハウス10の室内上方に滞留した昇温した空気を温風として、ケーシング30の吸気空間37に取り込むことができる。そして、ヒートポンプ20の吸気口21にてその温風を吸気して、このヒートポンプ20のCOPを高めることができる。
【0037】
この吸入管34の他端は、栽培用ハウス10の壁部14のうち、遮光カーテン12が取り付けられた高さよりもさらに高い位置に取り付けられている。これにより、栽培用ハウス10の室内の空気のうち、遮光カーテン12の上方に滞留した昇温した空気をヒートポンプ20が取り込むことができる。換言すれば、栽培用ハウス10を集熱室として使用し、ここから熱源となる温風を取り込むことができる。このように、栽培用ハウス10の室内の昇温した空気(外気より高温の空気)を利用できるので、ヒートポンプ20のCOPを向上できる。
【0038】
(送風配管)
送風配管36は、ヒートポンプ20の排気である冷風を栽培用ハウス10の室内に送り込むための空気用配管である。
送風配管36は、合成樹脂や鋼材などで形成された筒状の空気用配管である。
この送風配管36は、図3に示すように、栽培用ハウス10の壁部14の内側に沿って配設された環状部36−1と、この環状部36−1から分岐して栽培用ハウス10の壁部14を貫通しケーシング30の第一の排出口33−1に接続された連結部36−2とを有している。そして、環状部36−1の下面には、下方に向かって突設された支流部36−3が複数配設されている。
【0039】
この送風配管36は、ヒートポンプ20から排気された冷風を栽培用ハウス10の室内中段部又は室内下部へ送る。具体的には、冷風は、ヒートポンプ20の排気口22から排気されると、ケーシング30の排気空間38及び第一の排出口33−1から送風配管36の連結部36−2へ送られ、環状部36−1を通って、支流部36−3のそれぞれから栽培用ハウス10の室内中段部又は室内下部へ排出される。これにより、栽培用ハウス10の室内下層(具体的には、遮光カーテン12より下方)において、冷風による温度制御を容易に行うことができ、特に水耕栽培用ベッド11の周辺の温度を効率よく確実に低下させることができる。
【0040】
なお、地面から環状部36−1の配設位置までの高さは、任意に決めることができる。例えば、地面から約1mの高さとすることができる。
また、本実施形態において、送風配管36は、環状部36−1を有しているが、栽培用ハウス10の室内に配置された送風配管36の形状は、環状に限るものではなく、例えば、櫛状や格子状に形成することもできる。これら櫛状や格子状の場合、送風配管36は、水耕栽培用ベッド11の上方に配置される。
【0041】
(蓄熱槽)
蓄熱槽40は、熱媒体を貯留して蓄熱する温度成層タンクである。熱媒体には、例えば、水を用いることができる。
この蓄熱槽40の内部では、上層と下層で水温が異なっている。例えば、上層の水温を約60℃〜90℃、下層の水温を約20℃〜30℃とすることができる。
【0042】
この蓄熱槽40には、熱媒体をヒートポンプ20に流通させる蓄熱用配管41と、熱媒体を局所暖房手段50に流通させる放熱用配管42が接続されている。
蓄熱用配管41には、一方の端部が蓄熱槽40の下方に接続され、他方の端部がヒートポンプ20の給水口24に接続された冷水配管41−1と、一方の端部が蓄熱槽40の上方に接続され、他方の端部がヒートポンプ20の排水口25に接続された温水配管41−2がある。また、ヒートポンプ20の内部には、給水口24と排水口25とを繋ぐ加温配管23が配設されている。
【0043】
そして、ヒートポンプ20が作動すると、蓄熱槽40の下方に貯留していた冷水が、冷水配管41−1を通ってヒートポンプ20の給水口24に供給され、加温配管23へ送られる。加温配管23では、温風又は外気から回収された熱により冷水が加温されて温水となる。この温水が、ヒートポンプ20の排水口25から温水配管41−2を通って蓄熱槽40の上方に戻される。
このように、ヒートポンプ20での作湯に冷水を供給することで、温水を供給する場合に比べて、ヒートポンプ20の効率を大幅に向上させることができる。
【0044】
放熱用配管42には、蓄熱槽40から局所暖房手段50へ温水を供給する温水配管42−1と、局所暖房手段50から蓄熱槽40へ冷水を送る冷水配管42−2がある。
温水配管42−1は、一方の端部が蓄熱槽40の上部に接続されており、他方の端部が温度調整機43及び温水ポンプ44を介して局所暖房手段50に接続されている。冷水配管42−2は、一方の端部が局所暖房手段50に接続されており、他方の端部が蓄熱槽40の下部に接続されている。
【0045】
温度調整機43は、三方弁(図示せず)を有しており、蓄熱槽40の上部から送られてきた温水に、蓄熱槽40の下部から送られてきた冷水を調合して、温水を所定の温度にする。
ポンプ44は、温度調整機43からの温水を所定の流量で局所暖房手段50へ送る。
これにより、蓄熱槽40の上部の温水を所定の温度に制御した後に局所暖房手段50へ供給し、局所暖房手段50から送られてきた冷えた温水を、蓄熱槽40の下部に戻すことができる。
【0046】
この蓄熱槽40を設けることで、日中の栽培用ハウス10の室内の熱を蓄熱槽40に一旦蓄えておき、局所暖房手段50による夜間の暖房に活用することができる。
なお、本実施形態においては、蓄熱槽40の形状を円筒形状としているが、これに限るものではなく、例えば直方体など任意の形状とすることができる。
また、本実施形態において、蓄熱槽40は、栽培用ハウス10の外に設置する構成としているが、これに限定されるものではなく、栽培用ハウス10の室内や地中に設置することもできる。
【0047】
(局所暖房手段)
局所暖房手段50は、栽培用ハウス10の室内の局所、特に、植物及びその周辺を昇温するための手段である。
この局所暖房手段50は、植物の近傍に配設された放熱配管51を備えている。
放熱配管51は、ゴム、ビニール、プラスチック、布などで形成された中空の管であって、温水ポンプ44により供給されてきた温水(加温用流体)が内部を流れることで輻射熱を放出し、植物及びその周辺を昇温するものである。その際、藻の発生を防止するために、遮光性に富んだ配管であるとより好ましい。
この放熱配管51は、植物から所定距離の範囲内(例えば、植物からの距離が1mあるいは数十cmの範囲内)に配設されている。
なお、この領域には、たとえば、放熱配管51が植物の葉と接触する位置や、葉と葉の間に放熱配管51が位置する場合も含まれる。ただし、放熱配管51と葉や果実が直接接触する可能性がある場合は、放熱を妨げないネット(図示せず)などで保護するとより好ましい。
【0048】
また、放熱配管51は、図4に示すように、複数本の直線配管部51−1と複数本の曲線配管部51−2が組み合わされて、一本の流路を形成している。
複数本の直線配管部51−1は、いずれも長手方向が地面に対して水平に配置されている。また、複数本の直線配管部51−1は、地面に対してほぼ垂直方向に上下に配置され、さらに、ほぼ等間隔で平行に配置されている。
そして、複数本の直線配管部51−1のうち上下二本ずつを一つの組とし、各組における一方の端部同士を曲線配管部51−2で接続し、今度は、最上位置にある直線配管部51−1と最下位置にある直線配管部51−1を除く複数本の直線配管部51−1のうち上下二本ずつを一つの組とし、各組における他方の端部同士を曲線配管部51−2で接続し、最上位置にある直線配管部51−1の他端には、蓄熱槽40の上部に接続された放熱用配管42の温水配管42−1の他端が接続され、最下位置にある直線配管部51−1の他端には、蓄熱槽40の下部に接続された冷水配管42−2の他端が接続されて、つづら折れのように一本の流路を形成している。
【0049】
このような構成の放熱配管51を植物の近傍に配置することで、放熱配管51からの輻射熱、及び熱対流により、植物に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御(温度上昇)を行うことができる。また、栽培用ハウス10の室内全体を加温する場合に比べて、大幅な省エネや地球温暖化防止対策(二酸化炭素の排出量の削減など)を図ることができる。
【0050】
なお、放熱配管51は、例えば、植物の上方から吊るされたネット(図示せず)に取り付けることができる。
また、放熱配管51は、好ましくは、植物の特定部分の近傍に配置するのが望ましい。特定部分とは、植物の成長や収穫物の数量・品質に影響を及ぼす部分をいい、トマト、キュウリ、ナス、ピーマン及びレタスなどにおいては、花芽(花房)や成長点(茎頂成長点)などである。このようにすると、収穫物(果実)の数量や品質を向上又は維持させつつ、省エネなどを図ることができる。
【0051】
さらに、本実施形態において、放熱配管51は、直線配管部51−1が水平に配置してあるが、これに限定されるものではなく、たとえば、地面に対して垂直方向に配置したり、植物の周囲に螺旋状に設けたりすることもできる。
また、本実施形態において、放熱配管51には、可撓性のホースを用いるが、これに限定されるものではなく、たとえば、塩化ビニール製や金属製のパイプなどを用いることもできる。
【0052】
(養液供給手段)
養液供給手段60は、水耕栽培用ベッド11に供給される養液を管理する装置である。この養液供給手段60は、図1に示すように、養液タンク61と、養液ヒータ62と、養液供給部63と、養液帰還部64とを有している。
養液タンク61は、養液を貯めておく容器である。この養液タンク61は、例えば、地中に埋設したり、地表に設置したりすることができる。
【0053】
養液ヒータ62は、内部に温水が流れる管である。この養液ヒータ62には、温水配管42−1に接続された分岐管から温水が供給され、冷水配管42−2に接続された分岐管に低温化した温水を返す。この養液ヒータ62に温水を流す制御は、制御手段80によって行われる。
【0054】
養液供給部63は、供給ポンプ63−1により養液タンク61から養液を汲み上げて水耕栽培用ベッド11に供給する。
養液帰還部64は、水耕栽培用ベッド11からの余剰の養液を養液タンク61に返す。
【0055】
(太陽光パネル)
太陽光パネル70は、太陽光を受けて発電し、電力配線71を介して、ヒートポンプ20に電力を供給する。
なお、太陽光パネル70が十分な電力を発電できないとき、例えば、夜間や天候不良のときは、他の電源からヒートポンプ20に電力が供給される。
【0056】
(制御手段)
制御手段80は、温度制御システム1を構成する各装置の動作制御を行う。
この制御手段80は、複数の温度センサ81と、日射量測定センサ82と、計時部83と、二酸化炭素濃度センサ84と、制御部85とを有している。
温度センサ81は、温度管理を行う対象物又は対象範囲に設置されている。具体的には、例えば、図5に示すように、ハウス用センサ81−1〜81−2、外気温度測定用センサ81−3、蓄熱槽用センサ81−4、養液温度測定用センサ81−5、温水温度測定用センサ81−6がある。
【0057】
ハウス用センサ81−1〜81−2は、栽培用ハウス10の室内各所の温度を測定する。このハウス用センサ81−1〜81−2は、例えば、図6に示すように、栽培用ハウス10の室内上部の五箇所(遮光カーテン12より上方であって、中央付近と、四方の各壁部14の上方付近、同図における温度センサ81−11〜81−15)、室内下部の五箇所(地面から所定の高さであって、中央付近と、四方の各壁部14の下方付近、同図における温度センサ81−21〜81−25)にそれぞれ配置することができる。
外気温度測定用センサ81−3は、外気温を測定するセンサであって、例えば、栽培用ハウス10の室外の任意の箇所に設置することができる。
【0058】
蓄熱槽用センサ81−4は、蓄熱槽40に貯留している熱媒体の温度を測定する。この蓄熱槽用センサ81−4は、例えば、蓄熱槽40の内部の上層(温度センサ81−41)、中層(温度センサ81−42)、下層(温度センサ81−43)、最下層(温度センサ81−44)のそれぞれに配置することができる。
養液温度測定用センサ81−5は、養液タンク61に収められた養液の温度を測定する。この養液温度測定用センサ81−5は、養液タンク61の内部(養液に接触する位置)に配置することができる。
【0059】
温水温度測定用センサ81−6は、温度調整機43から排出される温水の温度を測定する。この温水温度測定用センサ81−6は、例えば、温度調整機43により温度が調整された後の温水に接触する位置(例えば、温水の放出口など)に配置することができる。
なお、各温度センサ81の設置位置は、本実施形態においては、上記のようにするが、これらに限るものではなく、各装置の形状や機能に応じて任意に決めることができる。
【0060】
日射量測定センサ82は、太陽光の日差しの強さを測定する。この日射量測定センサ82は、例えば、栽培用ハウス10の室外に設置することができる。
計時部83は、現在の時刻を計る。
二酸化炭素濃度センサ84は、該センサ84の近傍における二酸化炭素の濃度を測定する。
制御部85は、温度センサ81や日射量測定センサ82、計時部83、二酸化炭素濃度センサ84からの測定結果にもとづいて、植物環境管理システム1を構成する各装置の動作制御を行う。
この制御手段80が行う各種制御については、後記の「温度制御方法」にて詳述する。
【0061】
なお、栽培用ハウス10の室内上部には、図7に示すように、気流発生手段16を備えることができる。
気流発生手段16は、例えば、エアー搬送ファンなどで構成することができ、送風口16−1から風を吹き出して、周囲の空気を巻き込みながら、水平方向に空気の流れ(気流)をつくる装置である。
送風口16−1は、気流発生手段16の本体側面のうち、吸入管34が設けられた方に向かう面に形成されている。このため、送風口16−1から吹き出された風は、吸入管34に向かって気流をつくる。よって、栽培用ハウス10の室内上部に滞留していた高温の空気を、吸入管34に向かって効率良く送り込むことができる。
この気流発生手段16の動作制御は、制御部85が行うことができる。制御部85は、内気循環モード(後述)を選択したときに、気流発生手段16を動作させる。これにより、栽培用ハウス10の室内上部に水平方向の気流をつくり、高温の空気を吸入管34に送り込むことができる。
【0062】
[温度制御方法]
次に、本実施形態の植物環境管理システムが実行する温度制御方法について説明する。
なお、ここでは、次の各制御について、順次説明する。
(1)内気循環モードと外気導入モードの切替制御
(ヒートポンプ20の熱源の内気・外気の切替制御)
(2)局所暖房手段50による植物の温度制御
(栽培用ハウス10の室内の気温制御)
(3)蓄熱槽40の水温制御
(4)養液の液温制御
【0063】
(1)内気循環モードと外気導入モードの切替制御
この切替制御は、基本的な考え方として、次の(a)〜(d)にもとづいて行う。
(a)内気循環モードと外気導入モードのいずれを選択するかは、栽培用ハウス10の室内上部温度、室内下部温度、外気温、時刻、日射量(以下、「判断パラメータ」という)を用いて決定する。
(b)栽培用ハウス10の室内に十分熱が蓄えられ、暖気を採取しても栽培用ハウス10の室内下部温度が過度に低下しない条件が揃った場合のみ、内気循環モードを選択する。
(c)内気循環モードの選択条件は、各判断パラメータに閾値を設けることで規定する。閾値は、システムが設置される地域、栽培作物、温室仕様等に応じて任意に設定できる。
(d)この切替制御は、制御部85が行う。
【0064】
これら(a)〜(d)の考え方にもとづいて行う内気循環モードと外気導入モードの切替制御について、以下、説明する。
以下の説明は、次の(i)〜(iii)の各項目に分けて説明する。
(i)内気循環モード
(ii)外気導入モード
(iii)切替制御の具体例
(iii-1)温度による切替制御
(iii-2)時刻による切替制御
(iii-3)日射量による切替制御
【0065】
(i)内気循環モード
内気循環モードとは、栽培用ハウス10を蓄熱室として、この栽培用ハウス10の室内上部からケーシング30へ空気(温風)を取り込み、ヒートポンプ20がその温風を吸気して熱を回収し、この回収した熱により蓄熱槽40からの冷水を加温し、この温水を蓄熱槽40に送り、冷風を栽培用ハウス10の室内に送り出すために、吸気用切替手段及び排気用切替手段を動作制御するモードをいう。
具体的には、制御部85は、外気用パンダ35−2を閉、排出用ダンパ35−4を閉、温風用ダンパ35−1を開、ファン35−3を作動(回転)にする。これにより、図8に示すように、温風用ダンパ35−1が取り付けられた第一の吸入口32−1から温風が取り込まれ、ヒートポンプ20にて、その温風が吸気されて熱が回収され、冷風が排気されて、ファン35−3が取り付けられた第一の排出口33−1から排出される。
【0066】
(ii)外気導入モード
外気導入モードとは、ケーシング30の室外から外気を取り込み、ヒートポンプ20がその外気を吸気して熱を回収し、この回収した熱により蓄熱槽40からの冷水を加温し、この温水を蓄熱槽40に送り、冷風をケーシング30の室外へ送り出すために、吸気用切替手段及び排気用切替手段を動作制御するモードをいう。
具体的には、制御部85は、外気用パンダ35−2を開、排出用ダンパ35−4を開、温風用ダンパ35−1を閉、ファン35−3を停止にする。これにより、図9に示すように、外気用ダンパ35−2が取り付けられた第二の吸入口32−2から外気が取り込まれ、ヒートポンプ20にて、その外気が吸気されて熱が回収され、冷風が排気されて、排出用ダンパ35−4が取り付けられた第二の排出口33−2から排出される。
【0067】
なお、制御部85が選択するモードには、内気循環モードや外気導入モードの他に、停止モードを設けることができる。
停止モードとは、ヒートポンプ20が熱回収や熱交換を行わないモードをいう。
具体的には、例えば、栽培用ハウス10の室内温度が所定温度の範囲内にあるために冷風を送る必要がない場合や、内気循環モードにより冷風を送り込んだことで栽培用ハウス10の室内温度が所定温度以下に下がった場合、蓄熱槽40に蓄えられた熱媒体の温度が所定温度の範囲内にあるために温水を供給する必要がない場合、外気導入モードにより温水を供給したことで蓄熱槽40に蓄えられた熱媒体の温度が所定温度以上になった場合などに、停止モードが選択される。
この停止モードが選択された場合、制御部85は、外気用パンダ35−2を閉、排出用ダンパ35−4を閉、温風用ダンパ35−1を閉、ファン35−3を停止にする。これにより、温風用ダンパ35−1や外気用パンダ35−2からは、空気が吸入されず、ファン35−3や排出用ダンパ35−4では、空気が排出されない。
なお、この停止モードでは、ヒートポンプ20も停止状態(停止モード)とされ、熱回収や熱交換は行われない。
【0068】
(iii)切替制御の具体例
【0069】
(iii-1)温度による切替制御
制御部85の記憶部(図示せず)には、予め閾値Td℃が設定されている。閾値Td℃は、例えば、15℃とすることができる。
制御部85は、栽培用ハウス10の室内温度の測定値を、温度センサ81−1、81−2から収集する。そして、栽培用ハウス10の室内温度を特定し、この室内温度が閾値Td℃以上か否かを判断する。
判断の結果、室内温度が閾値Td℃未満であるときは、制御部85は、外気導入モードを選択する。これにより、ケーシング30の室外の空気(外気)が、ヒートポンプ20の熱源としてケーシング30の内部に取り込まれる。そして、ヒートポンプ20は、その外気から回収した熱により冷水を加温して、この温水を蓄熱槽40に供給する(図9参照)。
【0070】
一方、室内温度が閾値Td℃以上であるときは、制御部85は、内気循環モードを選択する。これにより、栽培用ハウス10の室内上部の高温の空気がヒートポンプ20の熱源としてケーシング30に取り込まれるとともに、送風配管36を介して冷風が栽培用ハウス10の室内下部に送風される(図8参照)。このため、栽培用ハウス10の室内下部(特に、植物周辺)の温度を低下させることができる。
【0071】
そして、このように内気循環モードを選択することにより、ヒートポンプ20のCOPを向上させることができる。
COP向上率の実測値を、図10に示す。同図は、外気導入モードでヒートポンプ20を運転したときのCOPと、内気循環モードでヒートポンプ20を運転したときのCOP、そして、前者のCOPに対する後者のCOPの向上率を示す図表である。
また、この実測値は、冬季かつ晴天の同一日において、内気循環モードから外気導入モードの順に連続した時刻に測定したものである。さらに、同図のデータは、10分間測定した結果の平均値を示す。
【0072】
同図に示すように、ヒートポンプ20の運転時の外気温度は、6℃であった。また、外気導入モードでは、ヒートポンプ20の吸気温度が5℃であった。
これに対し、内気循環モードでは、ヒートポンプ20の吸気温度が27℃であった。そして、外気導入モードでのCOPに対する内気循環モードでのCOPの向上率は、+30%であった。
このように、内気循環モードでのCOPの向上率が高い値を示した。これは、栽培用ハウス10の室内上部の高温の空気をヒートポンプ20の熱源としているためと考えられる。
【0073】
なお、制御部85が栽培用ハウス10の室内温度を収集するための温度センサ81は、図6に示す温度センサ81−1(81−11〜81−15)、81−2(81−21〜81−25)のすべてであってもよく、一部あるいは一つであってもよい。一部の場合は、例えば、栽培用ハウス10の室内上部に設けられた温度センサ81−11〜81−15の五つのみであってもよく、あるいは、室内下部に設けられた温度センサ81−21〜81−25の五つのみであってもよい。また、温度センサ81を複数用いる場合は、これら温度センサ81の測定値の平均温度を採用したり、複数の測定値のうち最低温度を示す測定値を基準に制御したりすることができる。このことは、後述する(2)「局所暖房手段50による植物の温度制御」においても同様である。
【0074】
また、制御部85は、栽培用ハウス10の室内上部の温度の閾値と、栽培用ハウス10の室内下部の温度の閾値とをそれぞれ別の値で設定することができる。そして、制御部85は、栽培用ハウス10の室内上部の温度の測定値が前者の閾値よりも高く、かつ、栽培用ハウス10の室内下部の温度の測定値が後者の閾値よりも高い場合に、内気循環モードを選択するようにすることができる。
【0075】
さらに、制御部85は、栽培用ハウス10の室内温度と外気温度との温度差に閾値を設け、ハウス用センサ81−1〜81−2による測定値と外気温度測定用センサ81−3による測定値との差を求め、この差が閾値以上か否かを判断することによりモードの選択を行うこともできる。
加えて、制御部85は、栽培用ハウス10の室内上部温度と外気温度との差に閾値を設定するとともに、栽培用ハウス10の室内下部温度と外気温度との差に閾値を設定することができる。そして、制御部85は、栽培用ハウス10の室内上部温度と外気温度との差が前者の閾値よりも高く、室内下部温度と外気温度との差が後者の閾値よりも高い場合に、内気循環モードを選択することができる。
【0076】
また、外気導入モードから内気循環モードへ切り替える際に用いる閾値と、内気循環モードから外気導入モードへ切り替える際に用いる閾値とは、異なる値を設定することができる。
【0077】
(iii-2)時刻による切替制御
制御部85の記憶部(図示せず)には、予め、外気導入モードと内気循環モードとを切り替える時刻(設定時刻t1、t2)が設定されている。設定時刻は、例えば、t1=午前6時、t2=午後4時などのように設定することができる。
そして、制御部85は、現在の時刻を計時部83から受け取り、この現在の時刻が設定時刻t1とt2との間か否かを判断する。
判断の結果、現在の時刻が設定時刻t1とt2との間であるときは、内気循環モードを選択する。
一方、現在の時刻が設定時刻t1とt2との間でないときは、外気導入モードを選択する。
これにより、外気導入モードと内気循環モードとの切り替えを、時刻によって行うことができる。特に、設定時刻を、上記のように、t1=午前6時、t2=午後4時などとすれば、日中と夜間でモードを切り替えることができる。
【0078】
なお、設定時刻t1、t2は、任意の時刻に設定することができる。
また、設定時刻t1、t2は、季節によって(例えば、夏場と冬場で)異なる時刻に設定することができる。
さらに、制御部85は、時刻による切替制御と温度による切替制御とを組み合わせた制御を行うこともできる。
例えば、現在の時刻が設定時刻t1とt2との間であるときにおいて、栽培用ハウス10の室内下部の温度が設定値Tib℃以下であるときは、外気導入モードを選択することができる。一方、現在の時刻が設定時刻t1とt2との間であるときにおいて、栽培用ハウス10の室内下部の温度が設定値Tib℃以上であるときは、内気循環モードを選択することができる。そして、現在の時刻が設定時刻t1とt2との間でないときは、外気導入モードを選択することができる。
【0079】
(iii-3)日射量による切替制御
制御部85の記憶部(図示せず)には、予め、日射量の閾値Rが設定されている。そして、制御部85は、日射量の測定値を日射量測定センサ82から受け取り、この測定値が閾値Rよりも高いか否かを判断する。
判断の結果、測定値が閾値Rよりも高いときは、内気循環モードを選択する。
一方、測定値が閾値Rよりも低いときは、外気導入モードを選択する。
例えば、日差しが強いときは、栽培用ハウス10の室内上部の温度が上がりやすい。このため、早めに内気循環モードに切り替えるのが有効となる。
なお、日射量に代えて、日照時間を用いることもできる。
【0080】
ここまで説明したように、制御部85は、吸気用切替手段を動作させて吸気先を切り替えることから、「吸気先制御手段」としての機能を有している。
また、制御部85は、排気用切替手段を動作させて排気先を切り替えることから、「排気先制御手段」としての機能を有している。
【0081】
(2)局所暖房手段50による植物の温度制御(栽培用ハウスの室内の気温制御)
この温度制御は、制御部85の制御により、局所暖房手段50の放熱配管51に温水を流すことで、植物及びその近傍を加温するものである。
【0082】
この温度制御は、次の手順で行うことができる。
制御部85は、温度センサ81−2から栽培用ハウス10の室内下部の温度(特に、植物の近傍の温度)を収集するとともに、温度センサ81−3から外気の温度を収集する。
制御部85は、温度センサ81−2から収集した栽培用ハウス10の室内下部の温度が所定温度(例えば、20℃)を下回っているか否かを判断する。判断の結果が、室内下部の温度が所定温度を下回っているときは、温水ポンプ44を起動し、温水配管42−1の遮断弁45を開にして、温水を放熱配管51に流す。
【0083】
このとき、制御部85は、温度センサ81−2から収集した室内温度と、温度センサ81−3から収集した外気温にもとづいて、栽培用ハウス10の室内温度を適温(例えば、22℃)に維持するのに必要な温水の温度Tbを算出する。
そして、制御部85は、温度調整機43を制御して温水の温度を調整させる。具体的には、制御部85は、温水の温度がTbとなるように、蓄熱槽40の上層の温水(例えば、90℃)と、下層の冷水(例えば、20℃)を、温度調整機43の三方弁で混合する。また、温水ポンプ44を制御して温水の流量を調整する(例えば、毎分200cc)。
このようにすると、外気温度の変化に応じて、自動的に温水の温度制御を行うことができる。
【0084】
一方、制御部85は、栽培用ハウス10の室内下部の温度が所定温度(例えば、25℃)を上回った場合には、温水ポンプ44を停止して、温水配管42−1の遮断弁45を閉にし、温水が放熱配管51に流れるのを停止させる。
【0085】
この温度制御を実行することにより、放熱配管51からの輻射熱、及び熱対流により、植物に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御を行うことができる。これにより、たとえば、温室栽培においては、温室全体を加温する場合と比べると、大幅な省エネや地球温暖化防止対策(二酸化炭素の排出量の削減など)を図ることができる。
【0086】
なお、この温度制御では、局所暖房手段50を用いて植物を加温しているが、これに限るものではなく、例えば、栽培用ハウス10の室内に温水−空気熱交換器を設け、温水ポンプを起動するとともに、熱交換器に取り付けられた送風ファンを回すことにより、温風暖房を行うこともできる。
【0087】
(3)蓄熱槽40の水温制御
制御部85は、蓄熱槽40に貯留された熱媒体の温度(水温)を調整制御する。
この水温制御は、次の手順で行うことができる。
制御部85は、蓄熱槽40の上層及び最下層における水温を温度センサ81−4から収集する。
次いで、制御部85は、蓄熱槽40の上層の水温が所定温度(例えば、90℃)以下であり、かつ、最下層が所定温度(例えば、20℃)以下の場合には、ヒートポンプ20を起動させて、温水を蓄熱槽40に供給させる。
【0088】
一方、蓄熱槽40の上層の水温が解除温度である所定温度(例えば、92℃)以上となった場合、又は、蓄熱槽40の最下層の水温が解除温度である所定温度(例えば、25℃)以上となった場合には、ヒートポンプ20の運転を停止して、蓄熱槽40への温水の供給を停止する。
このような水温制御を行うことで、蓄熱槽40に貯留された熱媒体の温度を所望の温度に調整することができる。
【0089】
なお、温水をつくりすぎて蓄熱槽40の最下層の温度が上がると、この層の冷水から作湯しているヒートポンプ20の効率が落ちるため、蓄熱槽40の最下層の温度は、30℃程度を目安にし、それ以上温度が上がらないよう制御するのが望ましい。
さらに、貯湯温度の設定値は、蓄熱槽40やヒートポンプ20、局所暖房手段50の性能に応じて任意に決めることができる。
【0090】
(4)養液の液温制御
制御部85は、養液タンク61に貯留された養液の温度を制御する。
制御部85は、温度センサ81−5で測定された養液の温度を収集する。
次いで、制御部85は、養液タンク61の内部の温度が所定温度(例えば、20℃)を下回っているか否かを判断する。判断の結果、所定温度を下回っている場合は、温水ポンプ44を起動、温水配管42−1の遮断弁46を開にして、養液ヒータ62に温水を流して、養液を加温する。
一方、養液タンク61の内部の温度が解除温度である所定温度(例えば、22℃)を上回った場合は、制御部85は、温水ポンプ44を停止し、温水配管42−1の遮断弁46を閉にして、養液ヒータ62への温水の供給を停止し、養液の加温を終了する。
これにより、養液の温度調整を行うことができる。
【0091】
なお、制御部85は、蓄熱槽40からの熱媒体を用いて、水耕栽培用ベッド11に供給される養液の温度制御を行うことから、「養液温度制御手段」としての機能を有している。
【0092】
[病虫害の防除]
温度制御システム1の局所暖房手段50に温水を流して植物及びその近傍を加温することで、病虫害を防除できる。
これは、局所暖房手段50の放熱配管51からの輻射熱によって植物の葉面が暖められ、葉面の結露が少なくなって、湿度が低下することから、病虫害を防除可能とするものである。
また、内気循環モードにおいては、栽培用ハウス10の室内の過剰な水分を含む空気をヒートポンプ20で除湿して、栽培用ハウス10の室内へ戻す効果もあり、過湿による病害防除効果も期待できる。
【0093】
また、送風配管36には、生物農薬(例えば、バチルス)を冷風に混入させる農薬混入手段17を設ける(図1参照)。これにより、送風配管36の分岐管36−3から冷風が排出されることで、生物農薬が植物に気中散布させるので、病虫害を防除することができる。
なお、病虫害の防除には、前記の他に、例えば、(a)生物農薬による病害防除、(b)天敵生物による害虫防除、(c)化学農薬を併用、(d)天然物、微生物資材など農薬以外で病虫害防除効果がある資材を使用、(e)粘着板、粘着テープなど、物理的害虫防除資材を使用などがある。
【0094】
[二酸化炭素供給手段]
二酸化炭素供給手段90は、栽培用ハウス10の室内に二酸化炭素(CO)を供給する手段である。
植物は、葉緑体を有しており、光合成を行うことができる。光合成は、光から変換した化学エネルギーを用いて、水と二酸化炭素から炭水化物(糖類)を合成し、水を分解する過程で生じた酸素を外部へ放出するはたらきをいう。合成された炭水化物(糖類)は、植物が生長するためのエネルギー源や新しい細胞の構築原料となる。よって、植物の生育を促進させるためには、光合成を活発に行わせるのが効果的である。
【0095】
この光合成は、植物の周辺における二酸化炭素の濃度が高いほど活発に行われる(光合成速度が速くなる)ことが知られている。
ところが、栽培用ハウス10は、室内温度を保持するために、通常、壁部14の窓や天窓15を閉じた状態にしている。このため、外気が栽培用ハウス10の室内に流入しなくなり、室内の空気が滞留した状態となる。また、植物は、光合成を行うことで酸素を放出している。これにより、その滞留した空気の二酸化炭素の濃度が低下して、光合成速度が遅くなり、植物の生育が抑制される。
そこで、植物の周辺における二酸化炭素の濃度を高めて、植物の生育を促進するために、二酸化炭素供給手段90を備えるものである。
【0096】
二酸化炭素供給手段90は、図11に示すように、二酸化炭素ボンベ91と、配管92と、電磁弁93とを有している。
二酸化炭素ボンベ91は、液化した二酸化炭素が封入されたボンベである。二酸化炭素は、二酸化炭素ボンベ91の頭部に取り付けられたエアレギュレータ(図示せず)により減圧気化されて放出される。
配管92は、二酸化炭素ボンベ91の頭部(エアレギュレータ)と送風配管36とを接続する管状部材である。つまり、二酸化炭素ボンベ91から放出された二酸化炭素は、配管92を通って送風配管36へ送られる。これにより、二酸化炭素は、ヒートポンプ20の排気である冷風とともに栽培用ハウス10の室内へ送られ、植物の周辺に排出される。特に、送風配管36の環状部36−1は、栽培用ハウス10の室内の壁面に沿って環状に形成されているため、栽培用ハウス10の室内下部のほぼ全体にわたって、二酸化炭素の濃度を高めることができる。
【0097】
電磁弁93は、制御部85の制御により開閉して、配管92に二酸化炭素を流したり止めたりする。例えば、電磁弁93が開状態のときは、二酸化炭素ボンベ91の口部から二酸化炭素が放出され、配管92を通って送風配管36へ送り込まれる。これにより、送風配管36を流れる冷風に二酸化炭素が混入される。一方、電磁弁93が閉状態のときは、二酸化炭素ボンベ91の口部から放出された二酸化炭素が電磁弁93で止められる。これにより、送風配管36を流れる冷風に二酸化炭素が混入しなくなる。
【0098】
また、栽培用ハウス10の室内の所定箇所(例えば、植物の近傍で、地面からの高さが1m付近など)には、二酸化炭素センサ84が設けられている。
二酸化炭素センサ84は、設置箇所における二酸化炭素の濃度を測定し、この測定結果を制御部85へ送る。
【0099】
制御部85は、二酸化炭素センサ84から送られてきた測定結果と、現在実行されているモードが内気循環モード、外気導入モード又は停止モードのいずれであるかによって、電磁弁93の開閉制御を行う。
例えば、現在実行されているモードが外気導入モード又は停止モードであるときは、電磁弁93を閉にする。
また、現在実行されているモードが内気循環モードであって、二酸化炭素センサ84から送られてきた測定結果(二酸化炭素濃度)が所定値以上(例えば、350ppm以上)を示しているときは、電磁弁93を閉にする。
一方、現在実行されているモードが内気循環モードであって、二酸化炭素センサ84から送られてきた測定結果(二酸化炭素濃度)が所定値以下(例えば、350ppm以下)を示しているときは、電磁弁93を開にする。
【0100】
このような制御を行うことにより、次のような効果が得られる。
外光が栽培用ハウス10の室内に入射しない夜間では、植物は、光合成を行わない。このため、植物の周辺では、二酸化炭素の濃度が低下することはない。また、夜間には、制御部85が外気導入モードを選択する。よって、外気導入モードが実行されているときは、電磁弁93を閉にすることで、栽培用ハウス10の室内への二酸化炭素の供給を行わないようにする。
【0101】
一方、外光が栽培用ハウス10の室内に入射する日中は、植物が光合成を盛んに行う。このため、植物の周辺では、二酸化炭素の濃度が低下する。そして、日中、栽培用ハウス10の室内温度が所定温度以上に上昇すると、制御部85は、内気循環モードを選択する。ここで、植物の周辺における二酸化炭素の濃度が所定値以上であるときは、光合成速度が速い状態である。よって、この場合は、電磁弁93を閉にして、栽培用ハウス10の室内への二酸化炭素の供給を行わないようにする。一方、植物の周辺における二酸化炭素の濃度が所定値以下であるときは、光合成速度が低下して、植物の生育が抑制される。よって、この場合は、電磁弁93を開にして、栽培用ハウス10の室内への二酸化炭素の供給を行うようにする。これにより、植物の周辺における二酸化炭素の濃度が上昇して、光合成速度が速くなり、植物の生育を促進させることができる。
なお、制御部85が停止モードを選択しているときは、ヒートポンプ20が稼動していないので、二酸化炭素供給手段90から栽培用ハウス10の室内への二酸化炭素の供給は行われない。
【0102】
また、本実施形態では、植物の周辺における二酸化炭素の濃度が350ppm以下となった場合に電磁弁93を開に切り替えることとしているが、その電磁弁93の切り替えの閾値は、350ppmに限るものではなく、任意の濃度を用いることができる。
さらに、電磁弁93を閉から開に切り替えるときの閾値と、開から閉に切り替えるときの閾値は、同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、閉から開に切り替えるときの閾値を350ppm、開から閉に切り替えるときの閾値を500〜1000ppmのいずれかの値とすることができる。そして、植物の周辺における二酸化炭素の濃度が外気における二酸化炭素の濃度(通常、350ppm)よりも高くなったときは、これを維持するために、壁部14の窓や天窓15を開けないようにするのが望ましい。
【0103】
加えて、本実施形態においては、二酸化炭素供給手段90により二酸化炭素を送風配管36に送入することとしているが、これに限るものではなく、例えば、配管92を栽培用ハウス10の壁部14に直接接続して、その室内に二酸化炭素を送入するようにしてもよい。
また、本実施形態においては、二酸化炭素センサ84を栽培用ハウス10の室内に一つ設ける構成としているが、これに限るものではなく、複数設けることができる。この場合、制御部85は、電磁弁93の開閉制御に用いる閾値として、それら複数の二酸化炭素センサ84からの測定結果の平均値を用いたり、あるいは、最小値を用いたりすることができる。
【0104】
以上説明したように、本実施形態の植物環境管理システムによれば、栽培用ハウス内に温水や冷風を供給することで、その栽培用ハウスの室内の温度を調整できる。
また、ヒートポンプの吸気先を複数とし、これら複数の吸気経路のそれぞれに吸気用切替手段を設け、それら吸気先の中から高温の空気を取り込み可能な吸気先を選択する制御部を備えたことにより、ヒートポンプが高温の空気を熱源として吸気でき、このヒートポンプのCOPを高めることができる。
さらに、ヒートポンプの吸気先の一つを栽培用ハウスの室内上部とすることにより、この栽培用ハウスを集熱室とし、室内上部に滞留した高温の空気を熱源として利用して、ヒートポンプに吸気することができ、これにより、ヒートポンプのCOPを向上させることができる。
【0105】
また、栽培用ハウスの室内の温度と外気の温度とを常時モニタし、栽培用ハウスの室内の温度が外気の温度より十分高く、かつ冷風の循環により栽培用ハウスの室内が冷えすぎない条件が揃ったときに、自動的に内気循環モードに切り替えることができる。これにより、ヒートポンプの吸気が高温となり、このヒートポンプのCOPを確実に向上させることができる。
さらに、内気循環モードと外気導入モードとの切替条件は、時間毎に設定できる。例えば、栽培用ハウスの室内温度を高めにする必要のある午前中は、外気との熱交換を優先し、午後は積極的に温室内の温かい空気を利用すると同時に温室内を冷却する、といった運転シフトを行うことができる。
【0106】
しかも、栽培用ハウスは、太陽光を取り入れるという構造上、一般的な建築物のような断熱が施せないため、日中は、室内が暖まりすぎる反面、夜間は外部への放熱が大きく、大量の熱を暖房で消費するという欠点がある。そこで、本発明の温度制御システムは、栽培用ハウスにおける日中の過剰な熱をヒートポンプで効率的に回収し、温水の形で蓄熱槽に蓄熱して夜間の暖房に活用することで、昼夜の熱のアンバランスを解消できる。
加えて、蓄熱槽を介して、局所暖房手段に温水を供給することができるため、熱循環の効率化を図ることができる。
【0107】
また、通常の栽培用ハウスでは、真冬でも晴天時には温室内の温度が上がりすぎる場合が多く、天窓や側窓を開放して冷却している。ところが、作物の生育を促進する目的でCO濃度を高める場合に、天窓が開けられると、外気の導入によってCOが希釈されることから、濃度の制御が困難になる。そこで、本発明の温度制御システムは、天窓を開けなくても、栽培用ハウスの室内温度をヒートポンプで冷却して再循環することができるので、栽培用ハウスの室内温度を適温に保ちつつ、CO濃度も制御することができる。
【0108】
以上、本発明の植物環境管理システムの好ましい実施形態について説明したが、本発明に係る植物環境管理システムは上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上述した実施形態では、一つの栽培用ハウスにヒートポンプや蓄熱槽などを一台ずつ備える構成としているが、これに限るものではなく、例えば、一つの栽培用ハウスに複数のヒートポンプや蓄熱槽を備えることができる。また、複数の栽培用ハウスに一台のヒートポンプや蓄熱槽を備えることもできる。さらに、複数の栽培用ハウスに複数台のヒートポンプや蓄熱槽を備えることもできる。しかも、栽培用ハウスの中に水耕栽培用ベッドが複数配置されているときは、一又は二以上の水耕栽培用ベッドごとに、ヒートポンプや蓄熱槽を備えることもできる。
また、蓄熱槽を栽培用ハウスの内部に設置することにより、蓄熱槽に蓄えられた温水から外部への熱損失を抑制することも可能である。
【0109】
また、上述した実施形態では、ヒートポンプ及びケーシングを栽培用ハウスの外に設置する構成としてあるが、これに限るものではなく、栽培用ハウスの室内に設置することもできる。
さらに、上述した実施形態では、ヒートポンプ及びケーシングは、冷風を栽培用ハウスの室内へ排気する構成としているが、冷風に限るものではなく、温風を栽培用ハウスの室内へ排気することもできる。これにより、寒冷地や冬場の夜間における栽培用ハウスの室内の温度調整が可能となる。
【0110】
加えて、上述した実施形態において、ケーシングの構成は、図2に示す構成としたが、同図に限る構成に限るものではなく、例えば、第一の吸入口や第一の排出口、第二の排出口を複数設けることができる。また、第一の吸入口と第二の吸入口は、ケーシング本体の同じ面に設けることができる。さらに、ヒートポンプは、ケーシングの内部の中央ではなく、壁面近傍又は壁面に接した位置に配置することができる。
【0111】
また、上述した実施形態において、温度制御システムの構成は、図1に示す構成としたが、同図に限るものではなく、例えば、図12に示すような構成とすることができる。すなわち、ヒートポンプを室外機と熱交換機の分離型とし、室外機を吸入管の途中に配置する。この吸入管は、一端が栽培用ハウスの上部と連通し、他端が栽培用ハウスの中段部と連通している。さらに、室外機の上流側には、外気と連通するための切替弁が設けられ、下流側にも、外気と連通する切替弁が設けられている。この構成において、室外機が、栽培用ハウスの室内上部から温風を取り込んで熱を回収し、この熱を作動媒体によって熱交換機へ送る。熱交換機は、作動媒体によって送られてきた熱により冷水を加温し、この温水を温水タンクに供給する。温水タンクに貯められた温水は、局所暖房手段へ送ることで、植物及びその周囲を加温することができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、栽培用ハウスの温度制御を行う装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0113】
1 植物環境管理システム
10 栽培用ハウス
11 水耕栽培用ベッド
16 気流発生手段
17 農薬混入手段
20 ヒートポンプ
30 ケーシング
34 吸入管
35−1 温風用ダンパ
35−2 外気用ダンパ
35−3 ファン
35−4 排出用ダンパ
36 送風配管
40 蓄熱槽
50 局所暖房手段
80 制御手段
85 制御部
90 二酸化炭素供給手段(CO供給手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を栽培するための栽培用ハウスと、
この栽培用ハウスの室内温度を降下又は上昇させるためのヒートポンプと、
このヒートポンプの吸気が通る複数の経路のそれぞれに取り付けられた吸気用切替手段と、
前記ヒートポンプで回収された熱を、熱媒体の貯留により蓄える蓄熱槽と、
前記熱媒体を用いて、前記栽培用ハウスの室内温度を局所的に上昇させる局所暖房手段と、
前記吸気用切替手段を動作させて吸気先を切り替える吸気先制御手段とを備えた
ことを特徴とする植物環境管理システム。
【請求項2】
前記吸気先の一つが、前記栽培用ハウスの室内上部であり、
この室内上部の空気を前記ヒートポンプへ送る吸入管を備えた
ことを特徴とする請求項1記載の植物環境管理システム。
【請求項3】
前記ヒートポンプが収められたケーシングを備え、
このケーシングに前記吸入管が接続され、
この吸入管に前記吸気用切替手段が設けられた
ことを特徴とする請求項2記載の植物環境管理システム。
【請求項4】
前記ヒートポンプの排気が通る複数の経路のそれぞれに取り付けられた排気用切替手段と、
この排気用切替手段を動作させて排気先を切り替える排気先制御手段とを備えた
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の植物環境管理システム。
【請求項5】
前記排気先の一つが、前記栽培用ハウスの室内中段部又は室内下部であり、
前記ヒートポンプからの排気を前記栽培用ハウスの室内中段部又は室内下部へ送る送風配管を備えた
ことを特徴とする請求項4記載の植物環境管理システム。
【請求項6】
前記ヒートポンプが収められたケーシングを備え、
このケーシングに前記送風配管が接続され、
この送風配管に前記排気用切替手段が設けられた
ことを特徴とする請求項5記載の植物環境管理システム。
【請求項7】
前記栽培用ハウスの室内に、栽培用ベッドが配置されており、
前記蓄熱槽からの熱媒体を用いて、前記栽培用ベッドに供給される養液の温度制御を行う養液温度制御手段を備えた
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の植物環境管理システム。
【請求項8】
前記送風配管の内部を流れる排気に農薬を混入させる農薬混入手段を備えた
ことを特徴とする請求項5又は6記載の植物環境管理システム。
【請求項9】
前記農薬が生物農薬であることを特徴とする請求項8記載の植物環境管理システム。
【請求項10】
前記栽培用ハウスの室内上部に、水平方向に空気の流れをつくる気流発生手段を備えた
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の植物環境管理システム。
【請求項11】
前記栽培用ハウスの室内に二酸化炭素を供給するCO供給手段を備えた
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の植物環境管理システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−244697(P2011−244697A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117749(P2010−117749)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】