説明

植物用栽培床及び植物栽培方法

【課題】できるだけ再利用可能で、栽培期間の短縮、労務量の削減を図ることのできる植物用栽培床及び植物栽培方法の提供。
【解決手段】支持ネットの裏面に保水マットを積層し、支持ネット及び保水マットの周囲を枠体で支持してある植物用栽培床において、保水マットの表面側に凹部を形成し、支持ネットと凹部によって植物収容空間を形成してある。また、支持ネットの表面から植物を突出させ、その突出部分については刈り取って収穫し、刈り取り後の植物用栽培床を再度栽培することによって凹部に残った植物を支持ネットの表面から再度突出させることを特徴とする植物栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を栽培するのに好適な床、およびそれを使用するのに好適な栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の植物用栽培床としては、遮光性及び透根性を兼備した第一遮光シートを、植物の根を絡ませる支持ネットの表面に剥離可能に積層し、支持ネットの周囲を枠体で支持し、支持ネットの裏面に保水マットを積層してあるものが既に公知となっている。
【0003】
これは、植物の栽培後に遮光シートを剥離するだけで、植物を採取することができる有用なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−88314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記の植物用栽培床は、植物の栽培後に遮光シートを再利用する考えはなく、別の遮光シートを再度支持ネットの上に載せて使用する旨が記載されている。
【0006】
また、一度、遮光シートを剥離すると、植物の根が支持ネットや保水マットから剥がれるため、同じ保水マットを利用して植物を再度栽培しようとした場合、遮光シートが再利用できないことからコスト高になるばかりでなく、新品の遮光シートに新たに植物を植えつける手間がかかることになり、新品の保水マットを利用した場合と同等の栽培期間、労務量、及び収穫量となることに本発明者は、気付いた。より詳しく言えば、上記栽培方法では、第一遮光シートの上に植物を載せ、その根が第一遮光シート、及びその下の支持ネットを通過して絡まった後に、植物用栽培床を立てて育成するのであるが、第一遮光シートを剥離すると、根が支持ネットからも剥がれるのである。
【0007】
本発明は、上記実情を考慮したもので、できるだけ再利用可能で、栽培期間の短縮、労務量の削減を図ることのできる植物用栽培床及び植物栽培方法の提供を目的とする。また、可能であれば、収穫量の増大を見込めるようにすることも目的の一つである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、支持ネットの裏面に保水マットを積層し、支持ネット及び保水マットの周囲を枠体で支持してある植物用栽培床において、保水マットの表面側に凹部を形成し、支持ネットと凹部によって植物収容空間を形成してあることを特徴とする。
【0009】
支持ネットについては、その原材料を問わない。ただし、支持ネットの表面から突出する植物を刈り取る際に破損を防止するには次のようにすることが望ましい。すなわち、支持ネットが金属製であることである。
【0010】
また、植物は、再生可能なものであれば良い。望ましくは、植物がコケ植物であることである。
【0011】
更に、上述した植物用栽培床を用いる好適な植物栽培方法は、以下の通りである。すなわち、植物用栽培床を用い、その凹部に植物を収容した状態で栽培することによって支持ネットの表面から植物を突出させ、その突出部分については刈り取って収穫し、刈り取り後の植物用栽培床を用いて再度栽培することによって凹部に残った植物を支持ネットの表面から再度突出させることである。
【0012】
また、前記した植物栽培方法を行う場合には、植物が保水マットに絡んでいるほうが、水分が植物に供給され易く、育成環境としては望ましい。また、栽培することによって植物から生み出される不純物が保水マット等を汚しやすく、汚れた保水マット等は、植物の育成には望ましくない。これを防ぐには、前記不純物が自然と流れ落ちてくれることが望ましい。これらを兼備するには、次のようにすることが望ましい。すなわち、植物用栽培床を用い、その凹部に植物を収容した状態で植物用栽培床を横に寝かして育成し、植物の根が保水マットに絡んだ後に植物用栽培床を立てて植物を育成して支持ネットの表面から植物を突出させ、その突出部分については刈り取って収穫し、刈り取り後の植物用栽培床を立てて再度栽培することによって凹部に残った植物を支持ネットの表面から再度突出させることである。
【0013】
更に、植物を収穫する際に、支持ネットの表面から出ている植物を鋏等で切り落とす手法もあるが、収穫作業を容易にするには、次のようにすることが望ましい。すなわち、刈取り板を支持ネットの表面を擦りながら動かすことによって、支持ネットの表面から突出する植物を刈り取ることである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、保水マットの表面側に形成された凹部と、その表面側を覆う支持ネットよって植物収容空間が形成されるので、支持ネットの表面から突出している部分の植物を刈り取って収穫しても、植物収容空間には植物が残っている。そして、植物収容空間に残っている植物は、根が既に保水マットに絡んでいるので、初めて凹部に植えつけた場合よりも吸水効率が良い。従って、その植物用栽培床を使ってそのまま植物を栽培することにより、植物を植えつける手間が省けて労務量が削減し、根を絡ませる期間が不要となって栽培期間が短縮する。また、植物用栽培床をそのまま再利用できる優れたものである。
【0015】
しかも、支持ネットが金属製であれば、樹脂製に比べれば、支持ネットの表面から突出する植物を刈り取る際に、刈り取り板が支持ネットの表面を擦りながら動いても、支持ネットが破損しづらい。その上、支持ネットの表面から突出する植物を鋏等で切り落とす手法に比べれば、刈取り板を動かすだけでよいので、収穫作業も容易である。
【0016】
そして、この植物用栽培床は、コケ植物のように再生可能なものに好適である。
【0017】
また、植物の根が保水マットに絡むまで横に寝かせて育成し、絡んだ後に保水マットを立てて育成すれば、生育が促進され、しかも、植物から生み出される不純物が自然と流れ落ちてくれるので、理想的な育成環境と言える。特に、植物用栽培床を2回、3回と繰返し使った場合には、1回目よりも収穫量が増大するという実験結果が得られている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の植物用栽培床の縦断面図であって、要部を拡大してある。
【図2】本発明の植物用栽培床を分解した縦断面図である。
【図3】本発明の植物用栽培床の正面図でであって、要部を拡大してある。
【図4】本発明の植物栽培方法を示す説明図である。
【図5】本発明の植物栽培方法で収穫量を確認した実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
植物用栽培床1は、図1〜図3に示すように、枠体2と、枠体2の開口を塞ぐ状態に張られた支持ネット3と、支持ネット3の裏面に順番に積層された、保水マット4、遮光シート5と、これら保水マット4及び遮光シート5を支持ネット3の裏面に固定するシート押え6から構成するものである。つまり、植物用栽培床1は、支持ネット3や保水マット4等からなる3層の積層構造であり、その外周縁部を枠体2で補強したものである。以下、各構成要素について詳述する。
【0020】
枠体2は、上下、左右の框を矩形に組んだもので、裏面には、シート押え6を嵌め込む凹溝2aが矩形全周に亘って連続して設けてある。また、枠体2は、材料の一例としてアルミニウム合金を用いるものである。
【0021】
支持ネット3は、その網目から植物を通過させながら成長させるもので、具体的には金網であって金属の一例としてはステンレスを用いる。また、縦横に仕切られた網目の大きさが、一辺を1.6〜2.4mmとする正方形のものである。
【0022】
保水マット4は、遮光シート5よりも多量の水分を蓄えられるもので、その材料の一例としてはポリウレタン(吸水性に富む連続気泡スポンジのポリウレタン)を用いる。具体的には、厚みを2〜4mmとし、表面側には所々に凹部4aを形成してある。この凹部4aは、裏面に貫通しておらず、つまり底のある構造であって、その底に植物を載せられるようになっている。そして、凹部4aと、凹部4aの上方を覆う支持ネット3とによって、植物収容空間が形成される。
【0023】
遮光シート5は、保水マット4の裏面に光ができるだけ当たらないようにする遮光性と、水分で湿る保水性とを兼備するもので、その材料の一例としてはポリエステルを用いる。具体的には、色の付いた(黒色)の不織布であって、厚みを0.17〜0.24mmとするものである。遮光シート5は、単に保水マット4の裏面に置いたもので、剥離可能であり、且つ3層からなる植物用栽培床1の裏面層を形成する。
【0024】
シート押え6は、弾力性のある帯状のものである。シート押え6を枠体2の凹溝2aに圧入することによって、支持ネット3、保水マット4及び遮光シート5の各縁部が枠体2にまとめて留められる。
【0025】
上述した植物用栽培床1は、一般的に少量の水で育成する植物に適したもので、望ましくはコケ植物、より具体的にはゼニゴケに対して使用する。
【0026】
上述した植物用栽培床1を用いた植物栽培方法は、次の通りである。図4には、その概要が示されている。
(1)作業者は、平らなテーブル等の上に、遮光シート5、保水マット4を順次重ね、保水マット4の凹部4aの中にゼニゴケを適当な量載せる。次に、保水マット4の上に支持ネット3を載せてゼニゴケを凹部4aの中に収容し、この状態のまま、これらが積層された保水マット4の上に枠体2を載せ、遮光シート5の裏側からシート押え6を枠体2の凹溝2aに圧入し、一体化した植物用栽培床1を作成する。
(2)この植物用栽培床1を横置き状態(水平な状態)のまま保持し、必要なだけ散水し、周囲に配置した照明から光を当てる。このような育成環境下に、約数週間、植物用栽培床1を置いておく。そうすると、ゼニゴケの根(仮根)が保水マット4内に入り込む。このようにして保水マット4にゼニゴケの仮根が入り込むと、植物用栽培床1を鉛直に立てたとしてもゼニゴケには十分な水分が保水マット4から与えられる。
(3)続いて、植物用栽培床1を立て、図示しない吊り下げ部材の下に吊るす状態で栽培する。図示の例では、2枚の植物用栽培床1の裏面側を重ね合わせるようにして吊るしてある。そして、この育成環境下において、成長度合いに見合った量の散水、および光を当てる。
(4)前記育成環境下でゼニゴケを十分に成長させ、支持ネット3からゼニゴケを突出させる。吊り下げ状態で散水することによって、散水時に保水マット4によって吸収し切れなかった水が、植物から生み出される不純物を自然と流れ落としてくれるので、理想的な育成環境と言える。
(5)支持ネット3から突出したゼニゴケを収穫するため、刈取り板7としての平らなヘラを支持ネット3の表面に押し付けたまま動かすことによって、突出した部分のゼニゴケが回収される。
(6)保水マット4の凹部4aにはゼニゴケが残っているので、そのまま植物用栽培床1を立て、上から吊るす状態で再利用して栽培する。つまり、(3)に戻る。以後(3)〜(5)を繰り返す。
【0027】
上記(1)で用いるゼニゴケの一例としては以下のものがある。M51Cと言われる寒天濃度1.3%の無菌栄養培地を直径9cmのシャーレに敷き、その上にゼニゴケのゲンマを置く生育条件を用いる。杯状体の中の単一の始原細胞から生じたゲンマを白色光連続照射環境下で成育し、若い葉状体(ゼニゴケ)となってから採取したものである。また、回収したゼニゴケを、新品の保水マット4の凹部4aに植え付けて、新たな植物用栽培床1を作成しても良い。
【0028】
図5のグラフには、上述した植物用栽培方法で、3回、ゼニゴケを収穫した実験結果が示されている。縦軸の増加率は、最初に凹部4aに植えつけたゼニゴケの重量に対して、収穫された重量を、%で表したものである。横軸の回数は、収穫回数を表しており、植え付けから1回目の収穫までの間隔、また、1回目から2回目、及び2回目から3回目の収穫までの間隔がそれぞれ7週間前後の結果である。1回目の収穫量の増大率が、15%程度であるにも関わらず、2回目は40%弱、3回目は180%となっている。1回目に比べて、2回目、3回目の収穫量の増加率が増えているのは、植え付けた箇所以外にもゼニゴケが繁殖することや、成長点が増えたことによるものと推測される。従って、育成環境さえ整えば、安定した収穫量が得られるものと推測される。
【0029】
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、植物用栽培床1の形状や厚み等は、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0030】
1植物用栽培床
2枠体
2a凹溝
3支持ネット
4保水マット
4a凹部
5遮光シート
6シート押え
7刈取り板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持ネットの裏面に保水マットを積層し、支持ネット及び保水マットの周囲を枠体で支持してある植物用栽培床において、
保水マットの表面側に凹部を形成し、支持ネットと凹部によって植物収容空間を形成してあることを特徴とする植物用栽培床。
【請求項2】
支持ネットが金属製であることを特徴とする請求項1記載の植物用栽培床。
【請求項3】
植物がコケ植物であることを特徴とする請求項2記載の植物用栽培床。
【請求項4】
請求項1、2、又は3記載の植物用栽培床を用い、その凹部に植物を収容した状態で栽培することによって支持ネットの表面から植物を突出させ、その突出部分については刈り取って収穫し、刈り取り後の植物用栽培床を用いて再度栽培することによって凹部に残った植物を支持ネットの表面から再度突出させることを特徴とする植物栽培方法。
【請求項5】
請求項1、2、又は3記載の植物用栽培床を用い、その凹部に植物を収容した状態で植物用栽培床を横に寝かして育成し、植物の根が保水マットに絡んだ後に植物用栽培床を立てて植物を育成して支持ネットの表面から植物を突出させ、その突出部分については刈り取って収穫し、刈り取り後の植物用栽培床を立てて再度栽培することによって凹部に残った植物を支持ネットの表面から再度突出させることを特徴とする植物栽培方法。
【請求項6】
刈取り板を支持ネットの表面を擦りながら動かすことによって、支持ネットの表面から突出する植物を刈り取ることを特徴とする請求項4又は5記載の植物栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−31391(P2013−31391A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168547(P2011−168547)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(生物系特定産業技術研究支援センター「平成23年度生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)」
【出願人】(000242644)北陸電力株式会社 (112)
【Fターム(参考)】