説明

植物由来のエーテルジオールを原料とする安定化されたポリカーボネートの製造方法

【課題】溶融安定性および溶融成形性が改善された植物由来成分を含有するポリカーボネート樹脂を提供する。
【解決手段】イソソルビドなどの植物由来原料のエーテルジオールと1,3プロパンジオールなどのグリコール類とを、炭酸ジエステルと重縮合触媒の存在下、溶融重縮合せしめポリカーボネートを製造する際、反応混合物の還元粘度が0.1〜1.0dL/gの範囲にある状態で、スルホン酸塩化合物を安定剤として添加することにより、溶融成形時の還元粘度低下が抑制され安定化されたポリカーボネートを得る製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来のエーテルジオールを原料とする安定化されたポリカーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は透明性、耐熱性、耐衝撃性に優れており、現在、光メディア分野、電気・電子・OA分野、自動車・産業機器分野、医療分野、その他の工業分野で広く使用されている。しかしながら、現在一般に用いられている芳香族ポリカーボネートは石油資源から得られる原料より製造されている。そのため、石油資源の枯渇や、廃棄物の焼却処理に伴い発生する二酸化炭素による地球温暖化が懸念されている昨今において、芳香族ポリカーボネートと同様の物性を有しながら、より環境負荷が小さい材料の登場が待たれている。
【0003】
このような状況の中、無水糖アルコールであるジアンハイドロヘキシトール類(イソマンニド、イソイディド及びイソソルビドなど。以下、エーテルジオールと称することもある。)は、マンニトール、イジドール及びソルビトールといった植物由来の原料から誘導することができ、ポリマー特にポリエステルおよびポリカーボネート製造用の再生可能資源(石油や石炭のような枯渇性のあるような天然資源とは異なり、森林資源、バイオマス、風力、小規模水力などのようにそれ自身が再生能力を持つような資源)として検討されている。なかでも、安価なデンプンを出発原料として作られ、医薬品原料としても用途があり商業的に入手しやすいイソソルビドを用いたポリマーの検討が盛んに行われている(例えば特許文献1〜3等)。
【0004】
更に、イソソルビドとともに、ポリエステル原料に使用されるグリコール類などをジオール成分として共重合したカルボネートの検討も行われている(例えば特許文献4〜5等)。これは、ジオール成分がイソソルビドのみのポリカーボネートは、その剛直な構造のため、溶融粘度が非常に高く成形加工が難しい等の問題があるためである。また、ジアンハイドロヘキシトール類はポリマー原料としてはかなり高価でありコスト面の課題もある。つまり、必要なポリマー物性を維持できる範囲で、安価なグリコール類を共重合させることは、原料のコストダウンという利点もある。
【0005】
前記のような植物由来成分を有するポリカーボネート樹脂の製造方法としては、ジオール化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応(溶融重縮合法)が、ジヒドロキシ化合物にホスゲンを直接反応させる方法(界面重縮合)に比べ、有毒なホスゲンや、メチレンクロリド等のハロゲン化合物を溶媒として使用する問題が無いという点で優れている。
【0006】
エステル交換法による溶融重縮合法では、製造効率を上げるためエステル交換触媒が使用されるが、得られたポリカーボネート中には、それらエステル交換触媒として使用した化合物もしくはその残渣が残存し、ポリカーボネートの安定性に悪影響を与えることが知られている。特に、当該ポリカーボネート樹脂を加熱溶融成形する際の分子量低下およびそれに伴う熱物性や機械物性の低下が大きいということが問題であった。
【0007】
【特許文献1】英国特許第1079686号明細書
【特許文献2】国際公開第1999/054119号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2007/013463号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2004/111106号パンフレット
【特許文献5】特開2003−292603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術のこれらの問題点を解決し、溶融安定性および溶融成形性が改善された植物由来成分を含有するポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、以下を要旨とするものである。
1.下記式(1)
【化1】

(R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選ばれる基であり、Rは炭素数が2から12である脂肪族炭化水素基であり、またnは0.4≦n≦1.0である)
で表されるポリカーボネートを製造するにおいて、
下記式(2)で表されるジオールと、
【化2】

(R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選ばれる基である)、
下記式(3)で表されるジオールとをジオール成分として用い、
【化3】

(Rは炭素数が2から12である脂肪族炭化水素基)
下記式(4)
【化4】

(RおよびRは、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選ばれる基であり、RとRは同じ基であっても異なる基であってもよい)
で表される炭酸ジエステルと、重縮合触媒の存在下に溶融重縮合させ、反応物の還元粘度が0.1〜1.0dL/gの範囲にある状態で、下記式(5)
【化5】

(ここで、Aはm価の飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基または飽和脂肪族―芳香族炭化水素基であり、Yは単結合または酸素原子であり、Xは1価の金属カチオン(ただしNaを除く)、アンモニウムカチオンまたはホスホニウムカチオンであり、mは1〜4の整数である。)
で表わされる化合物から選ばれる少なくとも1種の安定剤を、触媒化合物や原料中の不純物に由来して重縮合反応系内に持ち込まれるアルカリ金属成分1モルあたり、0.5〜50モルの割合で添加して、所望の固有粘度のポリカーボネートを生成せしめることを特徴とする安定化されたポリカーボネートの製造方法。
2.前項1記載の式(5)において、Aがm価のC1〜C15のアルキル基、m価の芳香族炭化水素基、またはm価のC1〜C15のアルキル基置換ベンゼンである前項1記載の製造方法。
3.前項1記載の式(5)において、Yが単結合である前項1記載の製造方法。
4.前項1記載の式(5)において、Xが1価のホスホニウムカチオンである前項1記載の製造方法。
5.ホスホニウムカチオンが、下記式(6)
【化6】

(ここで、R、R、R10およびR11は、互いに独立に水素原子または1価で炭素数1〜6の炭化水素基である。)
で表わされるホスホニウムカチオンである前項4記載の製造方法。
6.重縮合触媒がアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、または含窒素塩基性化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1つ以上である前項1に記載の製造方法。
7.安定剤を、ポリカーボネートの還元粘度が少なくとも0.2dL/gの状態で添加する前項1に記載の製造方法。
8.生成するポリカーボネートの所望の還元粘度が0.5〜1.0dL/gの範囲にある、前項1に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶融安定性および溶融成形性が改善された植物由来成分を含有するポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態につき詳細に説明する。
本発明において製造されるポリカーボネートは前記の式(1)で表され、その全ジオール残基中の、前記式(2)の原料に由来するエーテルジオール残基のモル比(前記式(1)中のn)が0.4以上1以下の範囲である。エーテルジオール残基のモル比がこの範囲よりも小さくなると、得られる樹脂のガラス転移温度が低くなるため耐熱性が悪化し好ましくない。また、n=1つまり、ジオール残基が全てエーテルジオール残基の場合は、溶融粘度が高いため、高い重合度のポリマーを生産や成形加工が困難になることもありうる。全ジオール残基中のエーテルジオール残基のモル比nのより好ましい範囲は0.6以上0.9以下であり、特に好ましい範囲は0.65以上0.85以下である。
【0012】
本発明で使用される植物由来であるエーテルジオール成分は前記式(2)で表され、具体的にはジアンハイドロヘキシトール類である。ジアンハイドロヘキシトール類としては、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−マンニトール(本明細書では以下、イソマンニドと略称することがある)、1,4:3,6−ジアンヒドロ−L−イジトール(本明細書では以下、イソイディドと略称することがある)および1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール(本明細書では以下、イソソルビドと略称することがある)が挙げられる(それぞれ下記式(7)、(8)、(9))。
【0013】
【化7】

【化8】

【化9】

【0014】
これらジアンハイドロヘキシトール類は、自然界のバイオマスからも得られる物質で、再生可能資源と呼ばれるものの1つである。イソソルビドはでんぷんから得られるD-グルコースに水添した後、脱水を受けさせることにより得られる。その他のジアンハイドロヘキシトール類についても、出発物質を除いて同様の反応により得られる。イソソルビドはでんぷんなどから簡単に作ることがジオールであり資源として豊富に入手することができる上、イソマンニドやイソイディッドと比べても製造の容易さにおいて優れている。
【0015】
共重合されるジオール成分は前記式(3)で表され(以下、式(3)のジオールをグリコール類と略称することがある)、エチレングリコール、プロプレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。この中でもポリマーの合成において重合性が高く、またポリマーの物性においても高いガラス転移点を示すといった点で1,3−プロパンジオール(以下、1,3−PDOと略することもある)、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールが好ましく、更には、植物原料からも得ることができ、かつ共重合による溶融流動性の向上効果が大きいという点で1,3−プロパンジオールが特に好ましい。また、これら式(3)のジオール成分を少なくとも2種類以上組み合わせても良い。
【0016】
本発明で使用される炭酸ジエステルとしては前記式(4)で表され、たとえばジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ジキシリルカーボネート、ビス(エチルフェニル)カーボネート、ビス(メトキシフェニル)カーボネート、ビス(エトキシフェニル)カーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネートなどの芳香族系炭酸ジエステルや、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等の脂肪族系炭酸ジエステルが挙げられる。このような化合物のうち反応性、コスト面から芳香族系炭酸ジエステルを用いることが好ましく、ジフェニルカーボネートを用いることが更に好ましい。
【0017】
ポリカーボネート樹脂の公知の製造方法としては、主としてジヒドロキシ化合物のアルカリ水溶液とホスゲンを有機溶媒の存在下反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルをエステル交換触媒の存在下高温・高真空下で溶融重縮合反応させる溶融重縮合法が挙げられる。このうち溶融重縮合法は、エステル交換触媒と高温・高真空を必要とするプロセスであるが、ホスゲン法に比較して経済的であり、更に塩素原子を実質的に含まないポリカーボネート樹脂が得られる利点がある。本発明においては溶融重縮合法により上記ポリカーボネートを製造する。
【0018】
更に、本発明の製造方法では、好ましくは前記式(2)および(3)で表されるジオール、および前記式(4)で表される炭酸ジエステルとから溶融重縮合法により前記式(1)のポリカーボネートを製造する。
【0019】
本発明のポリカーボネートを得る溶融重合においては、炭酸ジエステルをジオール成分1モルに対して、0.90〜1.30モルの量を用いるのが好ましく、0.98〜1.05モルの量で用いるとより好ましい。
【0020】
本発明にかかる製造方法では触媒を用いることが好ましい。使用できる触媒としては、アルカリ金属のアルコキシド類またはフェノキシド類、アルカリ土類金属のアルコキシド類またはフェノキシド類、含窒素塩基性化合物類、第4級アンモニウム塩類、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の有機酸塩類、ホウ素化合物類、アルミニウム化合物類、亜鉛化合物類、ホウ素化合物類、珪素化合物類、チタン化合物類、有機スズ化合物類、鉛化合物類、オスニウム化合物類、アンチモン化合物類、ジルコニウム化合物類、マンガン化合物などのエステル交換反応またはエステル化反応への触媒能を有する化合物が挙げられるが、反応性、成形体品質への影響、コスト、および衛生性といった点から好ましいのは(i)含窒素塩基性化合物、(ii)アルカリ金属化合物および(iii)アルカリ土類金属化合物である。これらは一種類を単独で使用しても、二種類以上を併用してもよいが、(i)と(ii)、(i)と(iii)、(i)と(ii)と(iii)の組み合わせで併用することが特に好ましい。
【0021】
(i)については好ましくはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、(ii)については、好ましくはナトリウム塩類であり、中でも水酸化ナトリウム、または2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩を用いることが特に好ましい。
【0022】
上記(i)の窒素塩基性化合物は、塩基性窒素原子が、全ジオール化合物合計もしくは炭酸エステルのいずれか仕込みモル量の少ない方1モルに対し、1×10−5〜1×10−3モルとなる割合で用いるのが好ましく、より好ましくは2×10−5〜8×10−4モルとなる割合である。
【0023】
上記の触媒(ii)アルカリ金属化合物および(iii)アルカリ土類金属化合物については、アルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素としての添加量合計が、全ジオール化合物合計もしくは炭酸エステルのいずれか仕込みモル量の少ない方1モルに対し、0から1×10−5モルの範囲にあるのが好ましく、0〜5×10−6モルの範囲にあるとより好ましい。
【0024】
本発明の製造方法では、好ましくは重合触媒の存在下、原料であるジオールと炭酸ジエステルとを常圧で加熱し、予備反応させた後、減圧下で280℃以下の温度で加熱しながら撹拌して、生成するフェノール類またはアルコール類を留出させる。反応系は窒素などの原料、反応混合物に対し不活性なガスの雰囲気に保つことが好ましい。窒素以外の不活性ガスとしては、アルゴンなどを挙げることができる。
【0025】
反応初期に常圧で加熱反応させることが好ましい。これはオリゴマー化反応を進行させ、反応後期に減圧してフェノール類またはアルコール類を留去する際、未反応のモノマーが留出してモルバランスが崩れ、重合度が低下することを防ぐためである。本発明にかかる製造方法においてはフェノール類またはアルコール類を適宜系(反応器)から除去することにより反応を進めることができる。そのためには、減圧することが効果的であり、好ましい。
【0026】
本発明の製造方法において、ジオールの分解を抑え、着色が少なく高粘度の樹脂を得るためにはできるだけ低温の条件が好ましいが、重合反応を適切に進めるためには重合温度は180℃以上280℃以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは230〜260℃の範囲に最高の重合温度がある条件である。
【0027】
本発明のポリカーボネートの製造方法においては、溶融重縮合反応物が還元粘度0.1〜1.0dL/g相当、より好ましくは還元粘度0.2〜0.8dL/g相当まで重合度が達している状態にて、前記式(5)の化合物から選ばれる少なくとも1種の安定剤を、触媒化合物や原料中の不純物に由来して重縮合反応系内に持ち込まれるアルカリ金属成分1モルあたり、0.5〜50モルの割合で添加するのが好ましく、当該アルカリ金属成分1モルあたり、1〜10モルの割合だとより好ましい。当該安定剤の添加により、溶融・成形時の分子量低下つまり還元粘度の低下が抑制されたポリカーボネートを得ることができる。
【0028】
安定剤を投入する時点の反応物の重合度が還元粘度0.1dL/g相当未満だと反応の初期過ぎて安定剤が分解し効果が低下する恐れがあり、反応物の重合度が還元粘度1.0dL/g相当を超過すると重合度が進みすぎて、ポリマーへの安定剤の分散が不十分だったり、ポリマーの色相が悪化したり、ポリマーを反応機から取り出せなくなったりする危険がある。
【0029】
安定剤の添加量が触媒化合物や原料中の不純物に由来して重縮合反応系内に持ち込まれるアルカリ金属成分1モルあたり、0.5モル未満だと効果が不十分であり、50モル以上では、添加量が多すぎてポリマー色相が悪化する恐れがある。
【0030】
上記の前記式(5)の安定剤としては、スルホン酸の金属塩(ただしNaを除く)、アンモニウム塩またはホスホニウム塩を用いることができる。前記式(5)において、Aがm価のC1〜C15のアルキル基、m価の芳香族炭化水素基、またはm価のC1〜C15のアルキル基置換ベンゼンであると好ましく、式(5)において、Yが単結合であると更に好ましく、ホスホニウム塩であると、なお好ましい。
【0031】
このようなスルホン酸のホスホニウム塩化合物としては、ヘキシルスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、ヘキシルスルホン酸テトラエチルホスホニウム塩、ヘキシルスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ヘキシルスルホン酸テトラヘキシルホスホニウム塩、ヘキシルスルホン酸テトラオクチルホスホニウム塩、オクチルスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、オクチルスルホン酸テトラエチルホスホニウム塩、オクチルスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、オクチルスルホン酸テトラヘキシルホスホニウム塩、オクチルスルホン酸テトラオクチルホスホニウム塩、デシルスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、デシルスルホン酸テトラエチルホスホニウム塩、デシルスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、デシルスルホン酸テトラヘキシルホスホニウム塩、デシルスルホン酸テトラオクチルホスホニウム塩、ドデシルスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、ドデシルスルホン酸テトラエチルホスホニウム塩、ドデシルスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ドデシルスルホン酸テトラヘキシルホスホニウム塩、ドデシルスルホン酸テトラオクチルホスホニウム塩、ヘキサデシルスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、ヘキサデシルスルホン酸テトラエチルホスホニウム塩、ヘキサデシルスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ヘキサデシルスルホン酸テトラヘキシルホスホニウム塩、ヘキサデシルスルホン酸テトラオクチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラエチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラヘキシルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラオクチルホスホニウム塩、トルエンスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、トルエンスルホン酸テトラエチルホスホニウム塩、トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、トルエンスルホン酸テトラヘキシルホスホニウム塩、トルエンスルホン酸テトラオクチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラエチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラヘキシルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラオクチルホスホニウム塩等が挙げられる。
【0032】
これらの中でも特にドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩が、ポリカーボネート樹脂の溶融安定性および溶融成形性の向上により高い効果を発現し、かつ比較的安価で商業的にも入手し易いので特に好ましい。
【0033】
本発明によって製造されるポリカーボネートは、還元粘度が0.5〜1.0dL/gの範囲にあるものであることが好ましく、より好ましくは0.6〜0.8dL/gの範囲にあるものである。
【0034】
本発明によって製造されるポリカーボネートをシリンダー温度150℃〜240℃、金型温度20℃〜120℃の条件下で厚さ2mm、直径35mmの円盤状の成形片を作製し、成形前のポリカーボネート樹脂の還元粘度(η)と、成形片の還元粘度(η)から、計算式100×(η−η)/ηpに基づいて、成形による還元粘度低下率(%)を求めると、0.4〜5%である。成形による還元粘度低下率が5%よりも大きくなると、成形前の樹脂が有する熱物性および機械物性が大幅に低下するため好ましくない。また成形による還元粘度低下率は小さければ小さいほど良いが現実にゼロにするのは困難であり、良好な成形品を効率よく成形しながら到達可能な還元粘度低下率の下限は0.4%程度である。
【0035】
本発明によって製造されたポリカーボネートは単独で成形加工等に用いてもよく、また本発明の目的を損なわない範囲で他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂など)、充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、天然繊維、有機繊維、セラミックスファイバー、セラミックビーズ、タルク、クレーおよびマイカなど)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系化合物、イオウ系酸化防止剤など)、難燃添加剤(リン系、ブロモ系など)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系など)、流動改質剤、着色剤、光拡散剤、赤外線吸収剤、有機顔料、無機顔料、離形剤、可塑剤などを添加することができる。
【0036】
また、本発明によって製造されたポリカーボネートは、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、押し出し成形、ブロー成形、溶剤キャスト法、溶融押し出し法、カレンダー法などの種々の成形、製膜法によって加工された後、光メディア用途、電気・電子・OA用途、自動車・産業機器用途、医療・保安用途、シート・フィルム・包装用途、雑貨用途をはじめとする様々な用途に幅広く用いることができる。具体的には、光メディア用途としてDVD、CD−ROM、CD−R、ミニディスク、電気・電子・OA用途として携帯電話、パソコンハウジング、電池のパックケース、液晶用部品、コネクタ、自動車・産業機器用途としてヘッドランプ、インナーレンズ、ドアハンドル、バンパ、フェンダ、ルーフレール、インバネ、クラスタ、コンソールボックス、カメラ、電動工具、医療・保安用途として銘板、カーポート、液晶用拡散・反射フィルム、飲料水タンク、雑貨としてパチンコ部品、消火器ケースなどが挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例に使用したイソソルビドはロケット社製、ジフェニルカーボネートは帝人化成製、1,3-プロパンジオールは和光純薬製を使用した。
ポリカーボネート樹脂および成形品の還元粘度はフェノール/テトラクロロエタン(体積比50/50)の混合溶媒10mLに対してポリカーボネート樹脂120mgを溶解して得た溶液の35℃における粘度をウデローベ粘度計で測定した(dL/g単位)。
ガラス転移温度の測定はTA Instruments社製DSC2920を用いて測定した。
【0038】
原料のイソソルビドや、ポリカーボネート樹脂中のナトリウム含有量は、試料を白金皿に精秤し、濃硫酸を加えて灰化した後、その灰分を硫酸水素カリウムで融解し、希硝酸に溶解してICP発光分析(バリアン社製 VISTA MP−X(マルチ型))を行うことにより評価した。本方法によるNa定量の下限は0.1ppmであり、本方法による測定で原料やポリマー中のNaが少なすぎて定量できなかった場合、つまりNa量が0.1ppm未満の場合は、当該原料もしくはポリマーはNa含有量ゼロと見なした。
【0039】
ポリカーボネート樹脂中の硫黄含有量は、試料を密閉石英管内で燃焼(900℃、Ar‐O雰囲気)処理し、発生したガスを過酸化水素水に吸収させて、イオンクロマトグラフ法(IC法、日本ダイオネクス(株)製 DX‐500使用)により硫酸イオンを定量し、硫黄分に換算することにより定量した。
【0040】
ポリカーボネート樹脂中のリン含有量は、試料を濃硝酸と共に密閉容器中でマイクロ波分解を行い、ICP発光分析法により定量した。マイクロ波分解法ではサンプル処理量が限定されて、定量下限がわるくなるので、サンプル処理量が多い乾式灰化法による分析法も並行して実施した。試料に濃硫酸と捕捉剤を添加して加熱し、樹脂を分解した。電気炉(650℃)でカーボンを完全除去後、硫酸水素カリウムで融解し、希硝酸に溶解してICP発光分析法(株式会社島津製作所製 ICPS8100を使用)によりリンを定量した。
【0041】
射出成形機(日精樹脂工業株式会社製PS20)にて、厚さ2mm、直径35mmの円盤状の成形片を作製した(成形温度は各実施例および比較例中に記載)。成形前のポリカーボネート樹脂の還元粘度(η)と、成形片の還元粘度(η)から、以下計算式に基づいて、成形による還元粘度低下率を求めた。
還元粘度低下率[%]=100×(η−η)/η
【0042】
[実施例1]
イソソルビド(1.28kg、8.75モル、Na含有量0.4ppm(2.23×10−5モル))、1,3−プロパンジオール(0.300kg、3.94モル、Na含有量0.1ppm未満)およびジフェニルカーボネート(2.68kg、12.5モル、Na含有量0.1ppm未満)とを重合槽に入れ、また重合触媒として水酸化ナトリウム(0.50mg、1.25×10−5モル)およびテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(22.8mg、2.50×10−4モル)を加え窒素雰囲気下180℃で溶融した。攪拌下、減圧および昇温を行い、生成するフェノールを留去しながら反応槽内を0.067kPa(0.5mmHg)、反応槽温度を250℃に到達せしめた。重合の進行は反応液の撹拌に要する電力値の上昇によって確認し、この値が一定になった時点で反応を停止した。ここで一旦反応槽内を窒素雰囲気下、常圧に戻しドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩(29.2mg、5.00×10−5モル、イソソルビドと水酸化ナトリウム触媒によって系内に持ち込まれたNaに対して1.4倍モル)を添加し、再度反応槽内を減圧し2.67kPa(20mmHg)の減圧下で20分間撹拌した。
【0043】
得られたポリカーボネート樹脂のDSC測定によるガラス転移点は125℃であった。このポリカーボネート樹脂をシリンダー温度230℃、金型温度50℃で射出成形した。ポリカーボネート樹脂の成形前および成形後の還元粘度を測定し、成形による還元粘度低下率を算出した。を算出した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2]
重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(22.8mg、2.50×10−4モル)のみを用い、またドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩の添加量を(52.1mg、8.9×10−5モル、イソソルビドと触媒によって系内に持ち込まれたNaに対して4倍モル)とする以外は実施例1と同様の操作によってポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂のDSC測定によるガラス転移点は125℃であった。このポリカーボネート樹脂をシリンダー温度230℃、金型温度80℃で射出成形した。ポリカーボネート樹脂の成形前および成形後の還元粘度を測定し、成形による還元粘度低下率を算出した。結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
重合触媒として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩(0.851mg、3.13×10−6モル)およびテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(22.8mg、2.50×10−4モル)を用い、またドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩の添加量を(7.31mg、1.25×10−5モル、イソソルビドと触媒によって系内に持ち込まれたNaに対して0.44倍モル))とする以外は実施例1と同様の操作によってポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂のDSC測定によるガラス転移点は125℃であった。このポリカーボネート樹脂をシリンダー温度230℃、金型温度50℃で射出成形した。ポリカーボネート樹脂の成形前および成形後の還元粘度を測定し、成形による還元粘度低下率を算出した。を算出した。結果を表1に示す。
【0046】
[比較例2]
重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(22.8mg、2.50×10−4モル)のみを用い、またドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩を無添加とする以外は実施例1と同様の操作によってポリカーボネートを得た。得られたポリカーボネート樹脂のDSC測定によるガラス転移点は125℃であった。このポリカーボネート樹脂をシリンダー温度230℃、金型温度80℃で射出成形した。ポリカーボネート樹脂の成形前および成形後の還元粘度を測定し、成形による還元粘度低下率を算出した。結果を表1に示す。
【0047】
表1から、実施例1および実施例2では、比較例1および2に比べて溶融安定性および溶融成形性が改善され、成形前後での還元粘度の低下が抑えられていることがわかる。
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選ばれる基であり、Rは炭素数が2から12である脂肪族炭化水素基であり、またnは0.4≦n≦1.0である)
で表されるポリカーボネートを製造するにおいて、
下記式(2)で表されるジオールと、
【化2】

(R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選ばれる基である)、
下記式(3)で表されるジオールとをジオール成分として用い、
【化3】

(Rは炭素数が2から12である脂肪族炭化水素基)
下記式(4)
【化4】

(RおよびRは、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選ばれる基であり、RとRは同じ基であっても異なる基であってもよい)
で表される炭酸ジエステルと、重縮合触媒の存在下に溶融重縮合させ、反応物の還元粘度が0.1〜1.0dL/gの範囲にある状態で、下記式(5)
【化5】

(ここで、Aはm価の飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基または飽和脂肪族―芳香族炭化水素基であり、Yは単結合または酸素原子であり、Xは1価の金属カチオン(ただしNaを除く)、アンモニウムカチオンまたはホスホニウムカチオンであり、mは1〜4の整数である。)
で表わされる化合物から選ばれる少くとも1種の安定剤を、触媒化合物や原料中の不純物に由来して重縮合反応系内に持ち込まれるアルカリ金属成分1モルあたり、0.5〜50モルの割合で添加して、所望の固有粘度のポリカーボネートを生成せしめることを特徴とする安定化されたポリカーボネートの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の式(5)において、Aがm価のC1〜C15のアルキル基、m価の芳香族炭化水素基、またはm価のC1〜C15のアルキル基置換ベンゼンである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の式(5)において、Yが単結合である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の式(5)において、Xが1価のホスホニウムカチオンである請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
ホスホニウムカチオンが、下記式(6)
【化6】

(ここで、R、R 、R10およびR11は、互いに独立に水素原子または1価で炭素数1〜6の炭化水素基である。)
で表わされるホスホニウムカチオンである請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
重縮合触媒がアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、または含窒素塩基性化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1つ以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
安定剤を、ポリカーボネートの還元粘度が少なくとも0.2dL/gの状態で添加する請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
生成するポリカーボネートの所望の還元粘度が0.5〜1.0dL/gの範囲にある請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2009−84532(P2009−84532A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259869(P2007−259869)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】