説明

植物由来成分含有接着シート

【課題】大気中のCO2濃度の増加の抑制,化石燃料消費の削減、マテリアルリサイクルなどのリサイクルが可能な環境にやさしい、しかも接着材として従来、使用しにくかつた自動車内装材においても低VOCを実現できる接着シートを提供する。
【解決手段】ひまし油,ひまわり油,ヤシ油から選ばれた植物由来成分を一部あるいは100%含有した原料の合成からなる融点が80〜160℃の゜範囲でボリュームフローレイト(MVR)が8〜50(@170℃/2.16Kg)cm3/10minの特性を有する共重合ポリアミド樹脂を吐出し、線径が0.
02〜0.5mmφ,目付質量範囲が5〜200g/m2であるくもの巣状あるいは三次元立体構造に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物由来成分を含有した接着シートに係り、詳しくは植物由来成分を含有した原料の合成による樹脂より形成された、環境にやさしくCO2排出を削減する接着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりくもの巣状あるいは三次元立体構造の接着シートは公知であり(例えば特許文献1参照)、自動車内装材の貼り付けや不織布積層材における層間接着材として広く使用されている。ところが、上記従来使用されている接着材はポリエステル,ポリプロピレンなど、石油由来成分を原料として作成されたものが殆どであり、植物由来成分を原料とするものは見当たらなかった。しかし、近時、大気中のCO2濃度による換気用汚染が問題視され、CO2の排出量の削減が求められると共に再生可能資源の活用に関心が持たれて来た。そこで、CO2増加の抑制,化石燃料によるCO2の発生低減及びCO2消費量の削減に実効性のある物質として植物由来成分に着目し、その接着シートへの利用の検討を進めた。
【特許文献1】特開平7−302682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上述の如き実状に鑑み、これに対処すべく特に接着シートとして好適な植物由来成分を含有した原料を合成した樹脂を見出し、かつその特性ならびにシート構造を見出すことにより、大気中のCO2濃度の増加の抑制や、化石燃料消費の削減,マテリアルリサイクル,バイオリサイクルなどのリサイクルが可能な、環境にやさしい、しかも接着材として従来使用しにくかった自動車内装材においても揮発性有機化合物の排出低減(低VOC)を実現できる接着シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
即ち、上記目的を達成する本発明接着シートは、植物由来成分を含有した原料の合成からなる融点が80〜160℃の範囲でメルトボリュームフローレイト(MVR)(文中、単にボリュームフローレイトと略記する)が8〜50(@170℃/2.16Kg)cm3/10minの特性を有する共重合ポリアミド樹脂を吐出して形成され、線径が0.02〜0.5mmφ,目付質量が5〜200g/m2である三次元立体構造あるいはくもの巣状構造を有していることを特徴とする。
【0005】
ここで、植物由来成分としては、ひまし油,ひまわり油,ヤシ油が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合を100%又は一部、好ましくは25%以上含有した原料として合成し、前記共重合ポリアミド樹脂を製造する。
【発明の効果】
【0006】
上記本発明接着シートによれば、植物由来成分含有の原料により形成されるため、石油由来の合成成分と異なり、CO2排出量を削減し、大気中のCO2濃度の増加を抑制することができると共に、石油由来成分による化石燃料の消費削減に寄与し、再生資源の活用も可能で、環境にやさしい接着材として自動車内装材における接着に使用し揮発性有機化合物の排出量の低減化(低VOC)を実現することができる。
【0007】
しかも、三次元立体構造あるいはくもの巣状構造に作成されているから、線条間に多数の空隙が存在し、通気を阻害することがなく、さらに線接着となって接着効果も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、更に本発明の具体的な実施態様について説明する。先ず、本発明接着シートは植物由来原料を使用し、製造された樹脂により作成することにある。植物由来としてはひまし油,ひまわり油,ヤシ油の何れか又は混合を用い、これを100%あるいは一部、好ましくは25%以上含有せしめて原料を作成し、それを合成することにより接着シート材形成のもとになる共重合ポリアミド樹脂を製造して、該樹脂を既知の手段によって吐出し、くもの巣状あるいは三次元立体構造のシートに形成する。
【0009】
ここで上記植物由来原料をもとにして作成された共重合ポリアミド樹脂はその融点範囲は80〜160℃で、ボリュームフローレイト(MVR)が8〜50(@170℃/2.16Kg)cm3/10minの特性を有することが効果的である。融点が80℃未満であると接着を実施する処理条件が難しく、被接着体の接着点の耐熱性の点から好ましくなく、また、融点が160℃を超えると接着処理による被接着体自身の特性を損なうことが起こるので好ましくない。
【0010】
一方、ボリュームフローレイト(MVR)は樹脂押し出し量であり、8(@170℃/2.16Kg)cm3/10min未満であると、被接着体面の接着材の染み込みや濡れが悪くなり、一方、50(@170℃/2.16Kg)cm3/10minを超えると、被接着体面の接着材の染み込みや濡れの状態がひどくなり界面の接着材量が乏しくなり、接着力が悪くなるので好ましくない。なお、樹脂中の植物由来成分は米国の分析規格(ASTMD6866)に準じて測定することにより決定される。
【0011】
本発明は上記の特性を有する樹脂を用いて接着シートを作成するが、作成される接着シートの形態ならびに構成については多数の空隙を有する三次元立体構造あるいはくもの巣状構造が効果的であり、これにより被接着体の接着が線接着となり、接着効率が粉体接着に比べ非常に良好となる。
【0012】
上記くもの巣状構造あるいは三次元立体構造の接着シートの形成は前記共重合体ポリアミド樹脂を既知の手段により吐出することによって得ることができる。即ち、上記共重合ポリアミド樹脂をノズルより吐出し、エアーサッカー法による吸引でネット上にランダムに堆積し、巻き取ることによりくもの巣状構造を得、また共重合ポリアミド樹脂を所要の幅,長さのノズル有効面に適宜の孔間ピッチで配列したノズルより吐出させ、ノズル面下に配設された冷却水面に一部出るように配された一対の引き取りコンベア上に引き取り、両面を挟みつつ冷却水中へ引き込み固化させた後、巻き取ることにより三次元立体構造で繊維同士が一部融着されたシート構造体を得ることができる。
【0013】
かくして得られる上記の三次元立体構造あるいはくもの巣状構造を構成する紡出又は吐出された線径は0.02〜0.5mmφの範囲が好適であり、線径が0.02mmφ未満であるとそれより細くしても接着力は変わらないので細くするための生産性の低下を考えると得策でなく、技術等のコスト高も招くので好ましくない。逆に線径が0.5mmφを超えると、被接着体の接着材が太すぎて隙間が大きくなり、接点が太くなり過ぎて接着面が少なくなり、接着効率が低下する。
【0014】
また、接着シートの目付質量は5〜200g/m2の範囲が好ましく、目付質量範囲が5g/m2未満では接着材量が少なくなり、被接着体との接着が乏しく、接着力が小さくなる。また、目付質量が200g/m2を超えると接着量は十分あるので被接着体の接着は良好であるが、過剰品質となるのでコスト面等から好ましくない。よって前述した線径0.02〜0.5mmφの範囲ならびに5〜200g/m2の目付質量は本発明接着シートとして頗る効果的である。
【0015】
なお、上記共重合ポリアミド樹脂を組成するひまし油,ひまわり油,ヤシ油から選ばれた1種又は混合による植物由来成分は100%含有に限らず、石油由来成分と共に一部含有した原料であってもよいが、少なくとも25%含有することが好ましい。以下、本発明の実施例を比較例と対比して示す。
【実施例】
【0016】
実施例1
ひまし油100%からなる植物由来の共重合ポリアミド樹脂(融点120℃、ボリュームフローレイト10.0(@170℃/2.16Kg)cm3/10min)を紡糸温度200℃、ノズル0.6mmφ単孔吐出量1.0g/min/h、エアーサッカー法による吸引でネット上にランダムに堆積し巻き取った。巻き取ったシートはくもの巣状構造で1本の平均糸線径は0.035mmφであり、目付質量は10g/m2であった。
実施例2
ひまし油100%からなる植物由来の共重合ポリアミド樹脂(融点100℃、ボリュームフローレイト30(@170℃/2.16Kg)cm3/10min)を紡糸温度200℃、ノズル0.6mmφ単孔吐出量1.2g/min/h、エアーサッカー法による吸引でネット上にランダムに堆積し巻き取った。巻き取ったシートはくもの巣状構造で1本の平均糸線径は0.32mmφであり、目付質量は23g/m2であった。
実施例3
ひまし油100%からなる植物由来の共重合ポリアミド樹脂(融点120℃、ボリュームフローレイト9(@170℃/2.16Kg cm3/10mm)を幅20cm、長さ4cmのノズル有効面に孔径0.8mmφのオリフィスを孔間ピッチ10mm間隔で配列したノズルより、単孔吐出量を1.04g/分にて吐出させ、ノズル面25cm下に冷却水を配し、幅25cmのステンレス製エンドレスネットを平行に15mm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配した上に引き取り、両面を挟み込みつつ毎分1mの速度で20℃の冷却水中へ引き込み固化させた後、巻き取った。巻き取ったシートは三次元ランダム構造体で繊維同士が一部融着しており1本の平均糸線径は0.32mmφであり、目付質量は150g/m2であった。
実施例4
ひまし油25%からなる植物由来と石油から得られた75%との共重合体ポリアミド樹脂(融点110℃、)ボリュームフローレイト36(@170℃/2.16Kg)cm3/10min)を紡糸温度200℃、ノズル0.6mmφ単孔吐出量1.2g/min/h、エアーサッカー法による吸引でネット上にランダムに堆積し巻き取った。巻き取ったシートはくもの巣状構造で1本の平均糸線径は0.048mmφであり、目付質量は23g/m2であった。
比較例1
ひまし油100%からなる植物由来の共重合ポリアミド樹脂(融点120℃、ボリュームフローレイト5.0(@170℃/2.16Kg)cm3/10min)を紡糸温度220℃、ノズル0.6mmφ単孔吐出量1.0g/min/h、エアーサッカー法による吸引でネツト上にランダムに堆積し巻き取った。巻き取ったシートはくもの巣状構造で1本の平均糸線径は0.038mmφであり、目付質量は30g/m2であった。
比較例2
ひまし油100%からなる植物由来の共重合体ポリアミド樹脂(融点165℃、ボリュームフローレイト0.0(@170℃/2.16Kg)cm3/10min)を紡糸温度260℃、ノズル0.6mmφ単孔吐出量1.0g/min/h、エアーサッカー法による吸引でネット上にランダムに堆積し巻き取った。巻き取ったシートはくもの巣状構造で1本の糸線径は0.042mmφであり、目付質量は30g/m2であった。
比較例3
石油100%からなる共重合体ポリアミド樹脂(融点120℃、ボリュームフローレイト33(@170℃/2.16Kg)cm3/10min)を紡糸温度200℃ノズル0.6mmφ単孔吐出量1.0g/min/h、エアーサッカー法による吸引でネット上にランダムに堆積し巻き取った。巻き取ったシートはくもの巣状構造で1本の平均糸線径は0.046mmφであり、目付質量は30g/m2であった。
【0017】
上記得られた本発明実施例と比較例について夫々、剥離強力を測定し、接着材としての総合評価を確認したところ、表1に示す結果を得た。表中の各項目の測定は下記に基づいて行なった。
(イ)目付質量:g/m2
50cm×50cmの大きさを切り出し、そのときの重さを測定し、1m2当たりの重量に換算する。
(ロ)厚さ:mm
15cm×15cmの大きさを切り出し、初荷重0.05g/cm2を掛けて、4隅の高さを測定し、その平均値で示す。
(ハ)線径:mm
マイクロスコープ(株式会社キーエンス製)によって糸を150培に拡大して糸の直径を計測した。測定本数は10本(n=10)で平均値で示した。単位はmmφである。
(ニ)植物由来の炭素量:%
ASTMD6866に準ずる。
(ホ)融点:℃
DSC測定
測定条件
試料量 10mg
昇温速度 10℃/min
昇温温度 210℃
融解吸熱曲線より融点を評価
(ヘ)メルトボリュームフローレイト:cm3/10min(@170℃/2.16Kg)
JIS K7210に準じた。詳しくは、押し出し式流れ試験機に測定樹脂を一定量投入して、170℃の試験温度で2.16Kgの荷重をかけ、10min当たりの樹脂押し出し量を測定した。
(ト)剥離強力:N/25mm
被接着体(綿ブロード)に試料を挟み樹脂融点+20℃の温度で3Kg/cm2(ゲージ)15秒の処理をした。試料として25mm×200mmの試料を3個(n=3)採取する。東洋ボールドイン社製テンシロンを用い、掴み間隔100mm、引っ張り速度200mm/minで試料は100mm点まで剥がしチャックにそれぞれ50mm挟んで剥離応力を測定し、平均値で表す。
(チ)総合評価
植物由来成分を含有し、接着能を十分に備えている。 ○
植物由来成分を含有しているが、接着能が不十分であるか、
あるいは接着能を十分に備えているが、植物由来成分を全く含有していない。 ×
【0018】
【表1】

上記表1より本発明に係る各接着シートは各比較例に比べ剥離強力が優れ、石油由来によるものと何ら遜色なく、環境にやさしい接着材として極めて有効であることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来成分を含有した原料の合成からなる融点が80〜160℃の範囲で、ボリュームフローレイト(MVR)が8〜50(@170℃/2.16Kg)cm3/10minの特性を有する共重合ポリアミド樹脂を吐出形成してなり、線径が0.02〜0.5mmφ、目付質量範囲が5〜200g/m2である三次元立体構造あるいはくもの巣状構造を有することを特徴とする植物由来成分含有接着シート。
【請求項2】
植物由来成分がひまし油,ひまわり油及びヤシ油から選ばれた1種又は2種以上である請求項1記載の植物由来成分含有接着シート。
【請求項3】
植物由来成分含有量が25〜100%である請求項1または2記載の植物由来成分含有接着シート。

【公開番号】特開2009−280676(P2009−280676A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133172(P2008−133172)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(391021570)呉羽テック株式会社 (57)
【Fターム(参考)】