説明

植物育成装置

【課題】カーテンにより囲まれた領域で植物が育成可能であるような装置を提供すること、詳細には、植物を育成するために必要な気体、例えば二酸化炭素をカーテンの液膜により囲まれた領域に必要量確保することができるとともに、該領域で植物を育成するために適した湿度や温度に調節可能とすることとする。
【解決手段】植物と、該植物周囲領域の少なくとも一部を取り囲む液膜を形成するカーテン形成手段と、前記液膜により囲まれた領域の少なくとも温度と湿度を制御する内部環境制御手段を備え、該内部環境制御手段は、一端部が前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに他端部が前記液膜により囲まれた領域の外部に配される気体吹込みパイプと、該気体吹込みパイプに接続されるファンを備え、前記気体吹込みパイプが前記液膜を横切らず、前記液膜により囲まれた領域と領域外部が略完全に遮断されている植物育成装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体からなるカーテンを形成する液膜により囲まれた領域で植物を育成するための装置であって、前記領域には、植物を育成するために必要な二酸化炭素等の気体の必要量を確保するとともに、前記領域の湿度や温度を調節可能とする装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水を空間に噴出又は流下させる手段を用いた噴水装置を設置することにより、住環境に憩いの場が提供されている。噴水装置は、今日では公園や駅周辺等の野外のみならず、デパート、博物館であるような屋内にも設置され、見る人の目を楽しませている。
【0003】
このような噴水装置として、例えば、特許文献1には、音に反応して異なる発光色を点滅させる多色光源を備えた噴水装置が開示されている。
或いは、特許文献2には、垂直に立設した支柱の最上部に設けられた円形状の受水面から流水させることによりドーム状のウォータカーテンを形成させる装置が開示されている。
【0004】
上記の如く、流水を用いた幻想的な空間を提供することにより、視覚的効果だけでなく、「癒し」を提供することができる。この「癒し」を提供するための他の装置として、例えば特許文献3には、水中ポンプにより水を空間に噴出させるとともに、花器を噴水受け器に組み込んだ卓上型噴水装置が開示されている。この発明によると、流水によるイオン放出や加湿効果が得られるとともに植物観賞も行うことができると記載されている。
【0005】
特許文献3で開示されているように、流水と植物をうまく融合させることができれば、高い癒し効果を得ることが可能となる。そこで、例えば、ドーム状のカーテンの閉鎖空間に植物を設置可能とする装置を発明することにより、癒し効果に加えてさらに幻想的な空間をも提供できると考えられる。
【0006】
一方で、植物育成のための閉鎖空間は、従来、箱を用いて形成されてきた。このように箱を用いた閉鎖空間は、次のような問題を有していた。使用される箱が不透明であれば、その中が見えない。また、アクリル等の透明な箱を使用しても、水遣り等の植物の手入れをする度に箱を移動させる必要がある。このように植物の手入れの度に箱を移動させる必要があるため、閉鎖空間の環境は大きく崩される。加えて、箱表面は時間が経つごとに汚れてくるので、内部が見えなくなるだけでなく視覚的効果に劣る。さらに、このような箱内で植物を育成することは一般的に行われていることであり、ディスプレイとして魅力的ではない。
【0007】
次に、従来使用されている箱に代わって流水によるカーテンの内部環境に植物を置いて、植物が育成可能か否かを検討すると、ドーム状のカーテンの内部はその外部と遮断されているために、植物の光合成に必要な二酸化炭素が不足すること、また、カーテンの内部環境の高湿度は、特定の植物に対しては適さないこと等の理由で、カーテンの内部環境で植物を育成することは困難であると言わざるを得ない。このため、カーテンの内部環境に、植物を育成するために十分な量の二酸化炭素を確保して、湿度や温度調節をすることを可能とする手段が必要とされる。該手段としては、例えば、定期的にカーテンを開けて内側と外側の気体を入れ替える、或いは植物を移動させる手段等が挙げられる。しかしながら、このような手段は、装置の規模や植物の量が大きくなれば、多大な労力を要するとともに作業が繁雑になるために適切な手段であるとはいえない。
【0008】
【特許文献1】実開昭50−61998号公報
【特許文献2】実開平04−61660号公報
【特許文献3】特開2004−17038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
即ち、本発明の課題は、液体からなるカーテンにより囲まれた領域で植物が育成可能であるような装置を提供することとする。詳細には、植物を育成するために必要な気体、例えば二酸化炭素をカーテンの液膜により囲まれた領域に必要量確保することができるとともに、該領域で植物を育成するために適した湿度、温度及び光に調節可能とする植物育成装置を提供することとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、植物と、該植物周囲領域の少なくとも一部を取り囲む液膜を形成するカーテン形成手段と、前記液膜により囲まれた領域の少なくとも温度と湿度を制御する内部環境制御手段を備え、該内部環境制御手段は、一端部が前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに、他端部が前記液膜により囲まれた領域の外部に配される気体吹込みパイプと、該気体吹込みパイプに取り付けられる送風機を備え、前記気体吹込みパイプが前記液膜を横切らないことを特徴とする植物育成装置に関する。
請求項2に係る発明は、前記液膜により囲まれた領域と領域外部が略完全に遮断されていることを特徴とする請求項1記載の植物育成装置に関する。
請求項3に係る発明は、前記内部環境制御手段が、前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに、該領域の温度を検知する温度センサと、前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに、該領域の湿度を検知する湿度センサと、前記温度センサが検知する温度に応じて該温度センサが送信する温度信号と、前記湿度センサが検知する湿度に応じて該湿度センサが送信する湿度信号を受信するとともに、前記送風機に制御信号を送信し、該送風機で送風する気体の流量を制御する制御盤を更に備えることを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置に関する。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記内部環境制御手段が、一の気体成分を貯蔵するとともに、前記気体吹込みパイプに接続する気体貯蔵タンクと、前記気体貯蔵タンクと前記気体吹込みパイプの接続経路中に設けられる開閉弁を更に備えることを特徴とする請求項3記載の植物育成装置に関する。
請求項5に係る発明は、前記気体貯蔵タンクに、二酸化炭素、酸素、エチレン、テルペン類のうち少なくともいずれかが貯蔵されていることを特徴とする請求項4記載の植物育成装置に関する。
請求項6に係る発明は、前記内部環境制御手段が、前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに、該領域の気体成分濃度を検知する気体濃度センサを更に備え、前記制御盤が、前記気体濃度センサから気体濃度信号を受信するとともに、前記送風機で送風する気体の流量及び/又は前記開閉弁の開閉を制御することを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の植物育成装置に関する。
【0012】
請求項7に係る発明は、前記液膜を形成する液体が、重炭酸塩及び/又は有機酸塩を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置に関する。
請求項8に係る発明は、前記液膜を形成する液体が、水又は水単独よりも大きい粘性を有する流体であることを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置に関する。
請求項9に係る発明は、前記液膜を形成する液体が、水と親和性をもつ物質を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置に関する。
【0013】
請求項10に係る発明は、前記水と親和性をもつ物質が、砂糖、エチレングリコール、ポリマーのうち一種以上であることを特徴とする請求項9記載の植物育成装置に関する。
請求項11に係る発明は、前記液膜を形成する液体が、香料及び/又は吸入薬を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置に関する。
請求項12に係る発明は、前記内部環境制御手段が、前記気体吸込みパイプに取り付けられるヒータを更に備えることを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置に関する。
請求項13に係る発明は、前記ヒータが、前記液膜により囲まれた領域に配されることを特徴とする請求項12記載の植物育成装置に関する。
【0014】
請求項14に係る発明は、前記ヒータが、前記送風機より、前記気体吹込みパイプにおける下流側に取り付けられていることを特徴とする請求項12又は13記載の植物育成装置に関する。
請求項15に係る発明は、前記温度、湿度センサ及び気体濃度センサと前記制御盤を接続するケーブルが、前記液膜を横切らないことを特徴とする請求項6記載の植物育成装置に関する。
請求項16に係る発明は、前記液膜により囲まれた領域に配される光源を更に備えることを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置に関する。
【0015】
請求項17に係る発明は、前記光源が、発光ダイオード、白色電球、ハロゲンランプ、誘導太陽光及び蛍光灯から選択される一種以上であることを特徴とする請求項16記載の植物育成装置に関する。
請求項18に係る発明は、前記内部環境制御手段に、一端部が前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに他端部が前記液膜により囲まれた領域の外部に配される排気口を更に備え、該排気口は前記液膜を横切らないことを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の植物育成装置に関する。
請求項19に係る発明は、前記植物周囲領域の少なくとも一部を取り囲む液膜を形成するカーテン形成手段が、前記液膜を形成するために前記液体を、前記植物より上方に供給するための液体循環パイプと、前記液体循環パイプから放出される液体を受けるように配されるとともに、前記植物より上方に配置される液膜形成ベッセルを備え、前記カーテン形成手段は、前記液膜形成ベッセルに供給される液体が、該液膜形成ベッセルの周縁を溢れ出すことにより液膜を形成することを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置に関する。
【0016】
請求項20に係る発明は、前記液膜形成ベッセルに供給される液体の流量を制御することにより、前記液膜の形状を調節可能とすることを特徴とする請求項19記載の植物育成装置に関する。
請求項21に係る発明は、前記気体吹き込みパイプから供給される気体の流量を制御することにより、前記液膜の形状を調節可能とすることを特徴とする請求項2記載の植物育成装置に関する。
請求項22に係る発明は、前記内部環境制御手段が、前記液膜を横切る障害物を更に備え、前記障害物で、前記液膜で囲まれた領域と外部を連通することにより前記内部環境を制御可能であることを特徴とする請求項1記載の植物育成装置に関する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の植物育成装置は、植物と、該植物周囲領域の少なくとも一部を取り囲む液膜を形成するカーテン形成手段と、前記液膜により囲まれた領域の少なくとも温度と湿度を制御する内部環境制御手段を備え、該内部環境制御手段は、一端部が前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに他端部が前記液膜により囲まれた領域の外部に配される気体吹込みパイプと、該気体吹込みパイプに取り付けられる送風機を備え、前記気体吹込みパイプが前記液膜を横切らない植物育成装置である。
この実施形態によると、カーテンの液膜により囲まれた領域(以下、内部環境という場合がある)に、気体吹込みパイプにより、植物を育成するために必要な気体、例えば、二酸化炭素を十分な量だけ送込むことができる。従って、それぞれの植物に適するように管理された内部環境を有する閉鎖空間を形成することにより、様々な植物を育成することが可能となる。
【0018】
請求項2に記載の植物育成装置は、前記液膜により囲まれた領域と領域外部が略完全に遮断されていることを特徴とする植物育成装置である。
この実施形態によると、内部環境は、前記気体吹込みパイプを通って内部に送り込まれる外気により、その大部分が構成されることとなるから、内部環境の温度及び湿度の調節をより詳細に行うことができる。
【0019】
請求項3に記載の植物育成装置は、前記内部環境制御手段が、前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに、該領域の温度を検知する温度センサと、前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに、該領域の湿度を検知する湿度センサと、前記温度センサが検知する温度に応じて該温度センサが送信する温度信号と、前記湿度センサが検知する湿度に応じて該湿度センサが送信する湿度信号を受信するとともに、前記送風機に制御信号を送信し、該送風機で送風する気体の流量を制御する制御盤を更に備える植物育成装置である。
この実施形態によると、前記温度及び湿度センサにより内部環境の温度および湿度が管理され、このセンサが感知した温度及び湿度信号に基づき、送風機で送風する気体の流量が制御される。したがって、植物の生育状況に応じて、温度や湿度を微調節することが可能となる。さらには育成される植物の種類やその生育状況に応じての内部環境の温度や湿度を調節して変更することができるという利点も有する。
【0020】
請求項4に記載の植物育成装置は、前記内部環境制御手段が、一の気体成分を貯蔵するとともに、前記気体吹込みパイプに接続する気体貯蔵タンクと、前記気体貯蔵タンクと前記気体吹込みパイプの接続経路中に設けられる開閉弁を更に備える。
この実施形態によると、開閉弁の開閉を制御することにより、内部環境の気体濃度を所望の状態に調節できるので、植物の種類や生育状況に応じて、植物育成に最適な環境を提供することができる。
【0021】
請求項5に記載の植物育成装置は、前記気体貯蔵タンクに、二酸化炭素、酸素、エチレン、テルペン類のうち少なくともいずれかが貯蔵されている植物育成装置である。
この実施形態によると、内部環境へ二酸化炭素、酸素、エチレン、テルペン類のうち少なくとも1種が外気と共に送り込まれるから、植物がよく育つ。詳細には、植物ホルモンの1つであるエチレンは、種子発芽や根毛の分化を促進する効果を有する。またテルペン類を用いると、植物の抗菌活性力を強化することができる。
【0022】
請求項6に記載の植物育成装置は、前記内部環境制御手段が、前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに、該領域の気体成分濃度を検知する気体濃度センサを更に備え、前記制御盤が、前記気体濃度センサから気体濃度信号を受信するとともに、前記送風機で送風する気体の流量及び/又は前記開閉弁の開閉を制御する植物育成装置である。
この実施形態によると、内部環境の気体成分濃度が検知可能となるから、内部環境の気体濃度成分に応じてより詳細に且つ正確に気体成分濃度が調節可能となる。従って、植物育成に重要な気体を増やしたり、或いは植物育成に有害な気体を減らしたりすることができるので、植物がよく育つという利点がある。
【0023】
請求項7に記載の植物育成装置は、前記液膜を形成する液体が、重炭酸塩及び/又は有機酸塩を含有する植物育成装置である。
この実施形態によると、前記気体吹込みパイプから植物育成に必要な気体を導入することに加えて、前記液体からも内部環境へ気体を送ることができる。
【0024】
請求項8に記載の植物育成装置は、前記液膜を形成する液体が、水又は水単独よりも大きい粘性を有する流体である植物育成装置である。
さらに、請求項9に記載の植物育成装置は、前記液膜を形成する液体が、水と親和性をもつ物質が含有されてなる植物育成装置である。
この実施形態によると、高い粘性率を有する流体によりカーテンの液膜上に開口部が生じにくい。さらに、本実施形態によると、カーテンを構成する液体が、水槽に向かって流れ落ちて水槽内の液体と混合する際に、しぶきが立ちにくいという利点がある。
したがって、鑑賞者が本実施形態の植物育成装置に近づいても、しぶきにより衣服を濡らす問題がないから、内部環境に置かれる植物を近距離で鑑賞することができる。
【0025】
請求項10に記載の植物育成装置は、前記水と親和性をもつ物質が、砂糖、エチレングリコール、ポリマーのうち一種以上である植物育成装置である。
この実施形態によると、前記水と親和性をもつ物質が、砂糖、エチレングリコール、ポリマーのうち一種以上であるから、カーテンを構成する液体が、水槽に向かって流れ落ちて水槽内の液体と混合される際に、さらに、しぶきが立ちにくいという利点がある。
請求項11に記載の植物育成装置は、前記液膜を形成する液体が、香料及び/又は吸入薬を含有する植物育成装置である。
この実施形態によると、嗅覚的効果が付与されているから、例えば、香料として、アロマオイル等を使用した場合は、癒し効果がさらに優れる。或いは、硫酸サルブタモール等の吸入薬を使用すれば、鑑賞者の狭くなっている気道を広げることができるから、呼吸を楽にすることができる。即ち、本実施形態は、気管支ぜんそく、小児ぜんそく、肺気腫、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺結核等の患者に対し好適に使用され得る。
【0026】
請求項12に記載の植物育成装置は、前記内部環境制御手段が、前記気体吸込みパイプに取り付けられるヒータを更に備える植物育成装置である。
さらに、請求項13に記載の植物育成装置は、前記液膜により囲まれた領域に配される植物育成装置である。
この実施形態の内部環境制御手段には、送風機とともにヒータを備えるから、液膜により囲まれた領域の温度および湿度をより詳細に調節することが可能となる。
【0027】
請求項14に記載の植物育成装置は、前記ヒータが、前記送風機より、前記気体吹込みパイプにおける下流側に取り付けられている植物育成装置である。
この実施形態によると、気体吹込みパイプ内に送風機とヒータの両方を含むから、両者同時に作動させることにより、温度又は湿度調節を効率よく行うことができる。
【0028】
請求項15に記載の植物育成装置は、前記温度、湿度センサ及び気体濃度センサと前記制御盤を接続するケーブルが、前記液膜を横切らない植物育成装置である。
この実施形態によると、カーテンを形成する液流はケーブルで破られないから、カーテン上に液膜の内側と外側を連通するような開口部が生じにくい。即ち、カーテンの液膜により囲まれた領域は、前記気体吹込みパイプを通る気体により、その大部分が構成されることとなるから、カーテンの内部環境の温度、湿度及び気体濃度がより詳細に調節可能となる。
【0029】
請求項16に記載の植物育成装置は、前記液膜により囲まれた領域に配される光源を更に備える植物育成装置である。
さらに、請求項17に記載の植物育成装置は、前記光源が、発光ダイオード、白色電球、ハロゲンランプ、誘導太陽光及び蛍光灯から選択される一種以上である植物育成装置である。
この実施形態によると、内部環境内が光源により照明されるから、室内においても植物の光合成に必要な光を得ることができるとともに、その優れた視覚的効果により更に幻想的なディスプレイが提供できるという利点がある。
【0030】
請求項18に記載の植物育成装置は、前記内部環境制御手段に、一端部が前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに他端部が前記液膜により囲まれた領域の外部に配される排気口を更に備え、該排気口は前記液膜を横切らない植物育成装置である。
この実施形態によると、前記気体吹込みパイプと排気口の両方が存在することにより、温度又は湿度調節を効率よく行うことができる。また、排気口は液膜を横切らないから、略完全に内部環境を外部から遮断することにより、効率よく温度又は湿度調節を行うことができる。
【0031】
請求項19に記載の植物育成装置は、前記植物周囲領域の少なくとも一部を取り囲む液膜を形成するカーテン形成手段が、前記液膜を形成するために前記液体を、前記植物より上方に供給するための液体循環パイプと、前記液体循環パイプから放出される液体を受けるように配されるとともに、前記植物より上方に配置される液膜形成ベッセルを備え、前記カーテン形成手段は、前記液膜形成ベッセルに供給される液体が、該液膜形成ベッセルの周縁を溢れ出すことにより液膜を形成する植物育成装置である。
さらに、請求項20に記載の植物育成装置は、前記液膜形成ベッセルに供給される液体の流量を制御することにより、前記液膜の形状を調節可能とする植物育成装置である。
この実施形態によると、液膜形成ベッセルに供給される液体の流量を制御することにより、植物の大きさ等に応じて、容易に液膜の形状が変更可能となる。
【0032】
請求項21に記載の植物育成装置は、前記気体吹き込みパイプから供給される気体の流量を制御することにより、前記液膜の形状を調節可能とする植物育成装置である。
この実施形態によると、特に、前記液膜により囲まれた領域と領域外部が略完全に遮断されているときに、気体吹き込みパイプから供給される気体の流量を制御して液膜の形状が変更可能となる。
【0033】
請求項22に記載の植物育成装置は、前記内部環境制御手段が、前記液膜を横切る障害物を更に備え、前記障害物で、前記液膜で囲まれた領域と外部を連通することにより前記内部環境を制御可能である植物育成装置である。
この内部環境制御手段によると、液膜を横切る障害物を備えることにより、前記液膜で囲まれた領域と外部を連通させて、例えば内部と外部の気体を移動可能とすることにより、内部環境を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の植物育成装置を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の植物育成装置の実施形態を示す図である。図1中、本発明の植物育成装置(1)を示す。
この植物育成装置(1)は、植物(41)と該植物周囲領域の少なくとも一部を取り囲む液膜を形成するカーテン形成手段(3)と、前記液膜(51)により囲まれた領域(内部環境(4)という場合がある)の少なくとも温度と湿度を制御する内部環境制御手段(2)を備える。尚、図1中に示される矢印は、液体(17)の循環方向を示す。
【0035】
前記内部環境制御手段(2)は、一端部が前記液膜(51)により囲まれた領域に配されるとともに他端部が前記液膜(51)により囲まれた領域の外部に配される気体吹込みパイプ(25)と、該気体吹込みパイプに取り付けられる送風機(26)を備える。図1中では、この送風機(26)は、気体吹込みパイプ(25)の上流側の端内部に配されているが、その配置場所は特に限定されず、少なくとも送風機(26)の送風が、気体吹込みパイプを通るように配置される。を前記気体吹込みパイプ(25)は、前記液膜(51)を横切らないように配されている。
好ましくは、本発明の植物育成装置(1)において、前記液膜(51)により囲まれた領域と領域外部は略完全に遮断されている。
前記送風機(26)は、常時稼動されていてもよく、或いは、任意の時間帯に稼動させてもよい。例えば、送風機制御器(203)にタイマを備えて、所定の時間に送風機が稼動し、所定の時間に送風機が稼動しないように設定することも可能である。この送風機(26)を稼動させることにより、内部環境(4)へ外部の空気が効率よく送りこまれる。
【0036】
前記内部環境制御手段(2)は、前記液膜(51)により囲まれた領域に配されるとともに該領域の温度を検知する温度センサ(21)と、前記液膜(51)により囲まれた領域に配されるとともに該領域の湿度を検知する湿度センサ(22)を更に備えてもよい。この場合、前記内部環境制御手段(2)は、前記温度、湿度センサ(21,22)から検知信号を受信する制御盤(200)を更に備え、該制御盤(200)は、温度信号受信器(201)、湿度信号受信器(202)及び送風機制御器(203)が備わる。
【0037】
前記温度センサ(21)が、内部環境(4)の温度を検知した後、温度信号を温度信号受信器(201)に送る。前記湿度センサ(22)は、内部環境(4)の湿度を検知した後、湿度信号を湿度信号受信器(202)に送る。
送られた温度信号及び湿度信号は、制御盤(200)を介して、送風機制御器(203)に送られた後、該送風機制御器(203)は、送風機(26)に送風機制御信号を送り、送風機が送風する気体の流量を制御する。
本発明の植物育成装置において、前記温度センサ(21)と温度信号受信器(201)による温度制御機能、及び湿度センサ(22)と湿度信号受信機(202)による湿度制御機能のうち、少なくとも1つの機能が備わることが望ましく、温度制御機能と湿度制御機能の両方を備えることが更に好ましい。
【0038】
前記内部環境制御手段(2)は、気体吹込みパイプ(25)に取り付けられるヒータを更に備えてもよい。このヒータは、前記液膜により囲まれた領域の外部に備えられても、内部環境(4)に備えられてもよいが、好ましくは、内部環境(4)に備えられる。また、ヒータ(27)は、図1中に示す如く、気体吹込みパイプ(25)の、前記送風機(26)より下流側に取り付けられてもよい。気体吹込みパイプ(25)内に、送風機(26)とヒータ(27)の両方が備わると、送風機により吹込まれた気体が、ヒータ(27)を通ることによって、吹き込まれた気体の温度と湿度を効率よく調節することができるから、内部環境(4)の温度と湿度も詳細に調節できる。
この場合、制御盤(200)は、ヒータ制御器(204)をさらに備える。前記温度センサ(21)及び湿度センサ(22)から送られた温度信号及び湿度信号に基づいて、送風機制御器(203)は送風機(26)を制御して、ヒータ制御器(204)はヒータ(27)を制御する。
【0039】
前記気体吹込みパイプ(25)は、その外周面に断熱材を使用していることが望ましい。この断熱材を使用することにより、外気やヒータ(27)により熱されたパイプ(25)から熱が放出することを防ぐことができる。したがって、パイプ(25)からの熱放出の影響を受けずに、内部環境(4)の温度及び湿度が調節可能となる。
【0040】
本実施形態においては、前記温度センサ(21)及び湿度センサ(22)と、前記制御盤(200)を接続するケーブル(23、24)が、前記液膜(51)を横切らない。或いは、前記温度、湿度センサ(23,24)と前記制御盤(200)の電気的接続を、ケーブル(23、24)を使用せず、無線で行ってもよい。
こうすることにより、液膜(21)が破れていない状況であるから、前記液膜(51)により囲まれた領域と領域の外部を連通するような開口部を生じない。したがって、開口部を介した気体の出入りを防ぐことにより、内部環境(4)の温度と湿度の制御を効率よく行うことができるとともに、制御盤(200)による詳細な温度と湿度調節も可能となる。
尚、内部環境(4)の湿度は、前記制御盤(200)により何ら制御されていない状態において、略100%である。
【0041】
前記気体吹込みパイプ(25)を介して、領域外部の空気の他に、二酸化炭素、酸素、エチレン、テルペン類のうち少なくとも1種が内部環境(4)へ送込まれてもよく、前記気体成分を内部環境へ送り込むことにより、植物がよく育つという利点がある。詳細には、植物ホルモンの1つであるエチレンは、種子発芽や根毛の分化を促進する効果を有し、或いは、テルペン類を用いると、植物の抗菌活性力を強化することができる。
これら気体成分の種類は、育成される植物(41)の種類や成長状況等を考慮して適宜決定することができる。また、内部環境(4)に存在する二酸化炭素は、育成される植物に応じて最適な濃度に調整することができる。
【0042】
前記気体吹込みパイプ(25)を介して気体成分を送込む手段は特に限定されない。好ましくは、前記気体成分を封入したタンクを前記気体吹込みパイプ(25)の上流側に接続することにより送込まれてもよく、具体的には、図2で示す内部環境制御手段により行われることが望ましい。
図2は、図1の内部環境制御手段(2)の部分拡大図である。図2において、内部環境制御手段(2)は、図1で示す内部環境手段(2)のほかに、気体貯蔵タンク(207)、開閉弁(208)を備える。
前記気体貯蔵タンク(207)は、少なくとも一の気体成分を貯蔵する。貯蔵される気体成分としては、二酸化炭素、酸素、エチレン、テルペン類が挙げられる。気体貯蔵タンク(207)は、パイプ等により前記気体吹込みパイプ(25)に接続され、貯蔵される気体成分を気体吹込みパイプ(25)へ送込むことを可能とする。
前記開閉弁(208)は、前記気体貯蔵タンク(207)と前記気体吹込みパイプ(25)の接続経路中に設けられる。
この場合、制御盤(200)は、弁制御器(210)を更に備える。
【0043】
この実施形態によると、育成される植物(41)の種類や成長状況等を考慮して所望の気体成分を気体貯蔵タンク(207)に封入して、弁制御器(210)と送風機制御器(203)を操作することにより、任意の量、任意の時間帯に気体成分を内部環境(4)へ送込むことができる。
【0044】
さらに、本発明に係る内部環境制御手段(2)は、内部環境(4)の気体成分濃度を検知するために内部環境(4)に気体濃度センサ(29)を備えてもよい。
この場合、前記制御盤(200)は、気体濃度信号受信器(206)を更に備える。
この制御盤(200)は、前記気体濃度センサ(29)が検知する気体成分濃度に応じて、該気体濃度センサ(29)が送信する気体濃度信号を、ケーブル(209)を介して、気体濃度信号受信器(206)により受信し、この信号に基づき、送風機制御器(203)及び弁制御器(210)を機能させて、送風機(26)で送風する気体の流量及び開閉弁(208)の開閉を制御する。
【0045】
この実施形態において、好ましくは、前記気体濃度センサ(29)により検知される気体成分が、前記気体貯蔵タンク(207)に貯蔵されている。即ち、例えば、内部環境手段(2)に、気体濃度センサ(29)が備えられ、このセンサ(29)が二酸化炭素の濃度を検知する時、気体貯蔵タンク(207)に二酸化炭素が貯蔵されている。この場合、気体濃度センサ(29)が、所定値未満の二酸化炭素濃度を検知した時、気体濃度信号受信器(206)がこの信号を受信して、制御盤(200)を介して、二酸化炭素が貯蔵されている気体貯蔵タンク(207)に接続する開閉弁(208)を開くように信号を送るとともに、送風機(26)で送風する気体の流量を増やすように信号を送る。そして、気体貯蔵タンク(207)に貯蔵されている二酸化炭素は開閉弁を通過し、気体吹込みパイプ(25)を通って内部環境へ送り込まれる。
【0046】
前記制御盤(200)と気体濃度センサ(29)を接続するケーブル(209)は、温度センサ(21)及び湿度センサ(22)のケーブル(23、24)と同様に、前記液膜(51)を横切らない。或いは、気体濃度センサ(29)と制御盤(200)の電気的接続を、ケーブル(209)を使用せず、無線で行ってもよい。
こうすることにより、液膜(51)がケーブル(209)により破られていない状況であるから、前記液膜(51)により囲まれた領域と領域の外部を連通するような開口部を生じない。従って、開口部を介した気体の出入りを防ぐことにより、内部環境(4)の気体濃度の制御を効率よく行うことができるとともに、制御盤(200)による詳細な気体濃度調節も可能となる。
【0047】
内部環境の温度、湿度、気体成分濃度に加えて、内部環境制御手段(2)は、内部環境(4)の光を検知するために内部環境(4)に光センサ(図示せず)を備えてもよい。
この場合、前記制御盤(200)は、光信号受信器及び光源制御器を更に備える。
この制御盤(200)は、前記光センサが検知する光強度に応じて、該光センサが送信する光信号を、ケーブルを介して、光信号受信器で受信し、この信号に基づき、光源制御器を機能させて、例えば、照明部材(61)を制御する。
【0048】
本発明の植物育成装置において、好ましくは、制御盤(200)により内部環境(4)の温度、湿度、気体成分濃度、及び光が制御されている。したがって、植物の育成に最適な環境を作り出すことができる。
【0049】
前記気体吹込みパイプ(25)を介して送込まれる気体の量は、内部環境(4)の温度、湿度、気体濃度に応じて、或いは、育成される植物(41)の種類や成長状況等に応じて適宜決定される。或いは、送込まれる気体量を変化させることにより、カーテンの形状を変更させることができる。
【0050】
さらに、内部環境制御手段(2)には、一端部が前記液膜により囲まれた領域に配され、他端部が前記液膜により囲まれた領域の外部に配されるとともに、前記液膜を横切らない排気口(図示はしないが、気体吹込みパイプ(25)と略同じ形態であってもよい)を更に備えてもよい。
この実施形態の場合は、気体吹込みパイプ(25)からの気体の送込みと、排気口からの気体の排出の両方で、内部環境(4)の温度や湿度、気体濃度が調節可能となるため効率よく温度や湿度、気体濃度を調節することができる。
前記排気口は、好ましくは、外気が逆流して内部環境(4)へ流入することを防ぐように逆止弁が配されている。これにより、内部環境(4)の温度、湿度、気体濃度が外気からの影響を殆ど受けることなく、制御盤(200)により制御されるため好ましい。
【0051】
本実施形態において、排気口内に、送風機が配されてもよい。送風機により内部環境(4)の気体を排気することにより、内部環境(4)の温度、湿度調整をすばやく行うことができる。
他の実施形態としては、気体吹込みパイプ(25)の送風機(26)を逆転可能にしてもよい。これにより、必要に応じて、送風機を逆転することにより、前記気体吹込みパイプ(25)を排気口として利用可能である。
【0052】
本発明に係る内部環境制御手段には、さらに、前記液膜(51)を横切る障害物(図示せず)を更に備えてもよい。この実施形態によると、液膜(51)を横切る障害物を備えることにより、前記内部環境とその外部を連通させて、例えば内部と外部の気体を移動可能とすることにより、内部環境の温度、湿度および気体濃度を制御することができる。
【0053】
次に、カーテン形成手段(3)について説明する。
カーテン形成手段(3)により、植物(41)の周囲領域の少なくとも一部を取り囲む液膜(51)が形成される。
カーテンを形成する手段としては、従来の手段により形成することができるが、例えば、図1に示す手段を採用できる。
【0054】
カーテン形成手段(3)は、液体(17)を収容する水槽(12)と、液体(17)に浸漬されるポンプ(11)、該ポンプ(11)から略垂直上方向に延びるように配される液体循環パイプ(13)を備える。前記液体循環パイプ(13)が略垂直上方向に延びている部分(13a)の高さは、少なくともカーテン(液膜)(51)及び植物(41)の高さより長い。詳細には、液体循環パイプ(13)が、該垂直上方向に延びている部分(13a)の最高部から略直角に折れ、そこから水平に延びる部分(13b)の末端から、さらに略垂直下方向に延びている部分(13c)により構成される場合、略垂直上方向に延びている部分(13a)の長さから、略垂直下方向に延びている部分(13c)の長さを差し引いた数が、カーテン(液膜)(51)の高さと略等しい値となる。また、該垂直上方向に延びている部分(13a)の最高部から略直角に折れた水平に延びる部分(13b)の長さの値は、少なくとも、前記カーテンの液体(17)が落下した際の水面との接触点を結んだ略円形の半径より大きい。
カーテン形成手段(3)は、該液体循環パイプ(13)の末端に取り付けられるフィルタ(14)を備えてもよい。このフィルタ(14)により、液体循環パイプ(13)から流出する液圧を調節することができる。
【0055】
前記カーテン形成手段(3)は、前記フィルタ(14)から放出される液体を受け取り可能なように配される液膜形成ベッセル(15)を更に備える。この液膜形成ベッセル(15)は、円形縁を有する略円形皿部材(15a)と、その円形縁の外周に形成される外周斜面板(15b)により形成されている。前記フィルタ(14)から略円形皿部材(15a)に入った液体が溢れ出して外周斜面板(15b)を滑り落ちることにより、液膜(51)のカーテンが形成される。
液膜(51)は、その下方の水槽(12)に落下し、液体(17)となって、ポンプ(11)に再び吸い上げられる。
【0056】
本明細書でいうカーテンは、前記液膜(51)により形成されている。このカーテンは、円錐状又は半円錐状の液膜(51)により形成され、その内側(即ち、内部環境(4))で植物の育成が可能となる。
【0057】
前記液膜形成ベッセル(15)の形状は任意に設計可能であるが、例えば、前記外周斜面板(15b)と略円形皿部材(15a)の間の角度が小さいほど、形成されるカーテンは直径の小さい半円錐状形状となり、逆に角度が大きいほど、形成されるカーテンは直径の大きい円錐状形状となる。或いは、液膜形成ベッセル(15)の直径を大きくすると、円筒形状に近いカーテンを形成することができる。
前記液膜形成ベッセル(15)の形状のほかに、液膜形成ベッセルに供給される液体の流量を制御することにより、植物の大きさ等に応じて、容易に液膜の形状が変更可能となる。或いは、液体循環パイプ(13)から液膜形成ベッセル(15)に放出される液圧、液体の種類等によっても、カーテンの形状や、液膜の厚さを調節することができる。
さらには、気体吹き込みパイプから供給される気体の流量を制御することにより、液膜の形状が変更可能となる。例えば、前記気体量を増やしてカーテンを膨らませたり、逆に減らすことによりカーテンをしぼませたりすることが可能である。但し、この手段で液膜の形状を変更するときは、前記内部領域と領域外部が略完全に遮断されていることが好ましい。
【0058】
前記液膜形成ベッセル(15)は、吊り下げ部材(16)により、上方から吊り下げられてもよい。或いは、該液体循環パイプ(13)と液膜形成ベッセル(15)を、適切な固定部材(図示せず)により固定することにより、液膜形成ベッセル(15)を固定してもよい。
【0059】
内部環境(4)には、植物(41)が配される。図1中には、テーブル(30)上に植物(41)が置かれているが、例えば、テーブル(30)の代わりに、水槽(12)の底面を隆起させて、該隆起部分の少なくとも一部が液体(17)の液面より上に現れるように設計されて、その現れた部分に植物を置いてもよい。本発明の植物育成装置(1)の内部環境(4)は、高湿、低湿、高温、低温、乾燥等の如何なる状態にも制御可能であるから、如何なる植物も育成することができる。前記植物(41)には、高湿環境でよく生育するコケ類や、乾燥を好むサボテンも含まれる。
【0060】
前記液体(17)には、重炭酸塩及び/又は有機酸塩を含有してもよい。これにより、前記気体吹込みパイプ(25)から二酸化炭素等の植物に必要な気体を導入することに加えて、前記液体(17)から植物育成を促進する気体を発生させることができる。例えば、前記液体(17)に、重炭酸ナトリウム(NaHCO)を含有すると、液膜から二酸化炭素を発生させることが可能となる。したがって、内部環境(4)に植物育成のために十分な量の二酸化炭素を確保することができる。
【0061】
前記液体(17)は、好ましくは、水又は水単独よりも大きい粘度を有する流体とすることができる。この場合、液膜(51)が破れにくい。また、液膜(51)が、水槽に向かって流れ落ちて水槽(12)中の液体(17)と混合される際に、しぶきが立ちにくい。したがって、鑑賞者が本植物育成装置(1)に近づいても、しぶきにより衣服を濡らす問題がないから、内部環境(4)に置かれる植物を近距離で鑑賞することができる。
また、高い粘性率を有する流体(17)を使用すると、液膜(51)と液体(17)面が接触する際に、内部環境(4)と外部を連通するような開口部を生じにくい。
【0062】
前記高い粘性率を有する流体(17)とするためには、好ましくは、親水性物質、即ち、水と親和性をもつ物質を添加する。この水と親和性をもつ物質としては、例えば、砂糖、エチレングリコール、ポリマー等が挙げられ、これらを単独で、或いは混合して使用してもよい。
【0063】
前記液体(17)に添加され得る他の成分として、水の腐食やコケの発生を防ぐために防腐剤を適宜使用してもよい。また、蛍光色素等の着色剤を使用することにより、有色のカーテンを形成すると、より幻想的な空間を演出することができる。
或いは、植物(41)の種類に応じて、発育促進剤を添加してもよい。例えば、後述の図5で示す如く、装飾目的のコケや藻を育成する場合は、これらの成長を促進させるための化学物質を添加してもよい。
前記液体(17)に添加され得る他の成分として、香料及び/又は吸入薬を使用しても良い。これらの成分は、鑑賞者に対し嗅覚的効果を付与することができる。前記香料としては、ラベンダー、ミント、ローズマリー等の植物精油関連の香料(所謂エッセンシャルオイル等)、或いは、アロマセラピー等で使用され得るアロマオイルが挙げられ、この場合、癒し効果がさらに優れる。前記吸入薬としては、通常吸入薬として市販されている商品の有効成分であれば限定されないが、例えば、硫酸サルブタモール、プロピオン酸フルチカゾン、プロピオン酸ベクロメタゾン、塩酸プロカテロール、クロモグリク酸ナトリウム等が挙げられる。例えば、硫酸サルブタモール等の吸入薬を使用すれば、鑑賞者の狭くなっている気道を広げることができるから、呼吸を楽にすることができる。即ち、本実施形態は、気管支ぜんそく、小児ぜんそく、肺気腫、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺結核等の患者に対し好適に使用され得る。
【0064】
植物育成装置(1)は、内部環境(4)に、照明部材(61)等の光源を更に備えても良い。前記光源としては、例えば、発光ダイオード、白色電球、ハロゲンランプ、蛍光灯等の発光体及び誘導太陽光等の光源が挙げられる。これら光源は、単独で、或いは組み合わせて複数取り付けられてよい。照明部材(61)で、植物(41)に照明が当てられることにより、室内においても植物の光合成に必要な光を得ることができるとともに、その優れた視覚的効果により更に幻想的なディスプレイとなる。
例えば、前記誘導太陽光を得るために、内部環境(4)に外光を取り込むように液膜形成ベッセル(13)の一部を透明部材で形成してもよい。或いは、液膜形成ベッセル(13)の形状を改良して開口部を設けてもよい。但し、開口部を設けるときは、内部環境(4)の温度、湿度、或いは気体濃度の調節、及び育成されている植物を考慮して、開口部の大きさや場所を決定する必要がある。
【0065】
図3は、本発明の植物育成装置の他の実施形態を示す図である。尚、図中記される符号は、図1中の同じ符号で示した要素と実質的に同じものを示す。
図3で示す実施形態によると、液体循環パイプ(13)が、装飾部材(71)で覆われている。このように、液体循環パイプ(13)を装飾部材(71)で覆うことにより、視覚的効果を奏する。さらに、図3における液体循環パイプ(13)は、曲線パイプにより形成されている。フィルタ(14)も、装飾部材(71)で覆われていてもよい。
【0066】
図4は、本発明の植物育成装置の他の実施形態を示す図である。
図4で示す実施形態によると、ポンプ(11)が、カーテンの略中心に備わり、該ポンプ(11)から、略垂直上方向に延びるように液体循環パイプ(13)が備わる。該液体循環パイプ(13)は、液膜形成ベッセル(15)を貫通して、該液体循環パイプ(13)の端部にフィルタ(14)が取り付けられている。
【0067】
本実施形態において、液体循環パイプ(13)、ポンプ(11)、液膜形成ベッセル(15)等を、透明部材により形成してもよく、この場合、カーテン内の植物(41)がより映えるため視覚的効果を奏する。
【0068】
前述の図1乃至4で示した実施形態において、「内部環境」とは、水槽(12)内の液体(17)の液面と、液膜(51)により囲まれた円錐形状の空間内の環境をいう。以下に示す図5における「内部環境」とは、水槽(12)内の液体(17)の液面と、液膜(51)、装飾壁(72)と装飾材(73)により囲まれる空間の環境をいう。
【0069】
図5で示す実施形態においても、カーテンが破れていない状態であるとともに、装飾壁(72)とカーテンとの間に開口部が存在しないことが望ましい。
【0070】
装飾壁(72)は、岩の装飾壁である。岩壁(72)の下方には植物を育成することができる。また、岩表面にはコケ等の植物も育成することができる。液体循環パイプ(13)は、装飾壁(72)で覆われている。
【0071】
さらに、図5には水槽(12)内に、装飾材(73)(図中は岩である)を備える。この装飾材(73)は、液膜(51)の落下線上に配置される。本実施形態によると、液膜(51)が落下して、装飾材(72)に当たることにより発生する音を楽しむことができるから、聴覚的効果を奏する。
【0072】
本発明の植物育成装置(1)には、任意に、音響装置を備えてもよい。この実施形態によると、音楽に合わせて、例えば、気体吹込みパイプ(25)により送込まれる気体量を調節してカーテンを揺らすことができるから、ディスプレイ効果に優れる。
【0073】
本発明の植物育成装置(1)は、屋内と屋外の両方で使用可能である。例えば屋外で使用される場合は、本発明に係るカーテンは、風速3m/s程度の風により破れることがないように形成されることが望ましい。
【0074】
本発明の植物育成装置(1)において、前記液膜(51)により囲まれた領域と領域外部が略完全に遮断されているとは、前記液膜(51)が破れていない状態であることを意味する。或いは、図5で示す如く、カーテンと構造物により、内部環境を形成する場合は、カーテンが破れていない状態であるとともに、構造物とカーテンとの間に開口部が存在しないことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の植物育成装置の実施形態を示す図である。
【図2】図1の内部環境制御手段の部分拡大図である。
【図3】本発明の植物育成装置の実施形態を示す図である。
【図4】本発明の植物育成装置の実施形態を示す図である。
【図5】本発明の植物育成装置の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1 植物育成装置
2 内部環境制御手段
3 カーテン形成手段
17 液体
21 温度センサ
22 湿度センサ
23 ケーブル
24 ケーブル
25 気体吹込みパイプ
26 送風機
27 ヒータ
29 気体濃度センサ
51 液膜
200 制御盤
207 気体貯蔵タンク
208 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物と、該植物周囲領域の少なくとも一部を取り囲む液膜を形成するカーテン形成手段と、前記液膜により囲まれた領域の少なくとも温度と湿度を制御する内部環境制御手段を備え、
該内部環境制御手段は、
一端部が前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに、他端部が前記液膜により囲まれた領域の外部に配される気体吹込みパイプと、
該気体吹込みパイプに取り付けられる送風機を備え、
前記気体吹込みパイプが前記液膜を横切らないことを特徴とする植物育成装置。
【請求項2】
前記液膜により囲まれた領域と領域外部が略完全に遮断されていることを特徴とする請求項1記載の植物育成装置。
【請求項3】
前記内部環境制御手段が、
前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに、該領域の温度を検知する温度センサと、
前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに、該領域の湿度を検知する湿度センサと、
前記温度センサが検知する温度に応じて該温度センサが送信する温度信号と、前記湿度センサが検知する湿度に応じて該湿度センサが送信する湿度信号を受信するとともに、前記送風機に制御信号を送信し、該送風機で送風する気体の流量を制御する制御盤を更に備えることを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置。
【請求項4】
前記内部環境制御手段が、
一の気体成分を貯蔵するとともに、前記気体吹込みパイプに接続する気体貯蔵タンクと、
前記気体貯蔵タンクと前記気体吹込みパイプの接続経路中に設けられる開閉弁を更に備えることを特徴とする請求項3記載の植物育成装置。
【請求項5】
前記気体貯蔵タンクに、二酸化炭素、酸素、エチレン、テルペン類のうち少なくともいずれかが貯蔵されていることを特徴とする請求項4記載の植物育成装置。
【請求項6】
前記内部環境制御手段が、
前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに、該領域の気体成分濃度を検知する気体濃度センサを更に備え、
前記制御盤が、前記気体濃度センサから気体濃度信号を受信するとともに、前記送風機で送風する気体の流量及び/又は前記開閉弁の開閉を制御することを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の植物育成装置。
【請求項7】
前記液膜を形成する液体が、重炭酸塩及び/又は有機酸塩を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置。
【請求項8】
前記液膜を形成する液体が、水又は水単独よりも大きい粘性を有する流体であることを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置。
【請求項9】
前記液膜を形成する液体が、水と親和性をもつ物質を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置。
【請求項10】
前記水と親和性をもつ物質が、砂糖、エチレングリコール、ポリマーのうち一種以上であることを特徴とする請求項9記載の植物育成装置。
【請求項11】
前記液膜を形成する液体が、香料及び/又は吸入薬を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置。
【請求項12】
前記内部環境制御手段が、前記気体吸込みパイプに取り付けられるヒータを更に備えることを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置。
【請求項13】
前記ヒータが、前記液膜により囲まれた領域に配されることを特徴とする請求項12記載の植物育成装置。
【請求項14】
前記ヒータが、前記送風機より、前記気体吹込みパイプにおける下流側に取り付けられていることを特徴とする請求項12又は13記載の植物育成装置。
【請求項15】
前記温度、湿度センサ及び気体濃度センサと前記制御盤を接続するケーブルが、前記液膜を横切らないことを特徴とする請求項6記載の植物育成装置。
【請求項16】
前記液膜により囲まれた領域に配される光源を更に備えることを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置。
【請求項17】
前記光源が、発光ダイオード、白色電球、ハロゲンランプ、誘導太陽光及び蛍光灯から選択される一種以上であることを特徴とする請求項16記載の植物育成装置。
【請求項18】
前記内部環境制御手段に、一端部が前記液膜により囲まれた領域に配されるとともに他端部が前記液膜により囲まれた領域の外部に配される排気口を更に備え、該排気口は前記液膜を横切らないことを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の植物育成装置。
【請求項19】
前記植物周囲領域の少なくとも一部を取り囲む液膜を形成するカーテン形成手段が、
前記液膜を形成するために前記液体を、前記植物より上方に供給するための液体循環パイプと、
前記液体循環パイプから放出される液体を受けるように配されるとともに、前記植物より上方に配置される液膜形成ベッセルを備え、
前記カーテン形成手段は、前記液膜形成ベッセルに供給される液体が、該液膜形成ベッセルの周縁を溢れ出すことにより液膜を形成することを特徴とする請求項1又は2記載の植物育成装置。
【請求項20】
前記液膜形成ベッセルに供給される液体の流量を制御することにより、前記液膜の形状を調節可能とすることを特徴とする請求項19記載の植物育成装置。
【請求項21】
前記気体吹き込みパイプから供給される気体の流量を制御することにより、前記液膜の形状を調節可能とすることを特徴とする請求項2記載の植物育成装置。
【請求項22】
前記内部環境制御手段が、
前記液膜を横切る障害物を更に備え、
前記障害物で、前記液膜で囲まれた領域と外部を連通することにより前記内部環境を制御可能であることを特徴とする請求項1記載の植物育成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−17805(P2009−17805A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181539(P2007−181539)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(390033857)株式会社フジキン (148)
【出願人】(501411400)
【Fターム(参考)】