説明

植生浮島

【課題】動物により、植栽基盤が破壊されたり、また、植栽されている植物が食害にあったり、或いは、巣など作られたりすることを防止できる植生浮島を提供する。
【解決手段】本発明に植生浮島は、植物を植栽し、河川や湖沼などの水域に浮游状態で設置する植生浮島において、発泡浮力体(16、17)と、前記発泡浮力体(16、17)により浮遊状態とされる植栽基盤(31、32、33)と、前記植栽基盤を覆う金網(25)と、からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水辺における修景、などに利用される植生浮島に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、湖沼 河川、ダム等の水域において、生物生息空間の創造、水質浄化、修景といった自然環境の保全や修復を図るために植生浮島が利用されてきた。このような植生浮島は、概略、浮力を有する構造体と、土壌などからなる植栽基盤部などで構成されるものが多い。このような植生浮島における植栽基盤に、例えばヨシなどを植生し水辺に、係留することで、水辺の快適性や生物多様性の増加、修景または水質浄化などを行うことが可能となる。
【0003】
上記のような植生浮島としては、例えば、特許文献1(特開平8−72787号公報)には、条材で組立てた任意外形の枠体にフロートを取付け、枠体を水面下に保持するとともに、枠体およびフロートの上に積層した植栽基盤材を水面上に保持したことを特徴とする植生浮島が開示されている。
【特許文献1】特開2003−35703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の植生浮島においては、ネズミやヌートリアなどの動物にその植栽基盤が破壊されたり、また、これらの動物により植栽されている植物が食害にあったりするなどの問題があった。また、従来の植生浮島では、植栽基盤内にネズミなどが巣を作る、という問題もあった。
【0005】
上記のような問題のために、動物の嫌がる臭いをもった忌避剤を撒いたり、音波などにより侵入を防ぐ試みなどがなされたりしているが、もともと効果がないか、効果が持続しなかった。
【0006】
また、植生浮島に植栽した植物は、植生浮島の植栽基盤が薄い場合が多いので、植物を根で保持することが難しく、波や風で植物が抜け落ちやすい、という問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を解決するものであって、請求項1に係る発明は、植物を植栽し、河川や湖沼などの水域に浮游状態で設置する植生浮島において、発泡浮力体と、前記発泡浮力体により浮遊状態とされる植栽基盤と、前記植栽基盤を覆う金網と、からなることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の植生浮島において、前記金網がステンレス材料により構成されることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の植生浮島において、前記金網の網目の長さが10mm以下であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の植生浮島において、前記金網は複数枚重ねられることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の植生浮島にお
いて、前記金網の上には押さえネットが載置されることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の植生浮島において、前記金網の上には押さえマットが載置されることを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の植生浮島において、前記押さえマットの上には表層ネットが載置されることを特徴とする。
【0014】
また、請求項8に係る発明は、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の植生浮島において、前記植栽基盤の最表層には熱融着培土が用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る植生浮島は、植栽基盤が金網によって覆われているために、ネズミやヌートリアなどの動物の頭の部分が、植栽基盤に入らないようにブロックすることが可能となる。このため、このような本発明に係る植生浮島によれば、動物により、植栽基盤が破壊されたり、また、植栽されている植物が食害にあったり、或いは、植栽基盤内に巣などを作られたりすることを防止できる。
【0016】
また、本発明に係る植生浮島は、植栽基盤が金網によって覆われた構造であるために、本発明に係る植生浮島によれば、植栽された植物の抜け落ちを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る植生浮島の製造工程を説明する斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る植生浮島の製造工程を説明する断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る植生浮島の製造工程を説明する斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係る植生浮島の製造工程を説明する斜視図である。
【図5】本発明の実施形態に係る植生浮島で用いられる金網の寸法を説明する図である。
【図6】本発明の実施形態に係る植生浮島の製造工程を説明する斜視図である。
【図7】本発明の実施形態に係る植生浮島の製造工程を説明する断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る植生浮島の製造工程を説明する斜視図である。
【図9】本発明の実施形態に係る植生浮島50を示す斜視図である。
【図10】本発明の実施形態に係る植生浮島50を示す断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係る植生浮島50に植物を植栽した様子を示す図である。
【図12】本発明の実施形態に係る植生浮島50に植物を植栽し、河川や湖沼などの水域に浮游状態で設置された状態を示す断面図である。
【図13】本発明の他の実施形態に係る植生浮島50を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施形態に係る植生浮島の製造工程を説明する斜視図であり、図2は本発明の実施形態に係る植生浮島の製造工程を説明する断面図である。図2は、図1の線X−X’を含む垂直面によって植生浮島をきったところをみた断面である。以下の図面においても、断面図はこの視点が用いられている。
【0019】
枠体10は、例えば、4枚の木材を連結させて製作されたものであり、天面と下面とが抜かれた構造となっている。11は廃タイヤであり、この廃タイヤ11の内部には、発泡ポリウレタン樹脂製の発泡浮力体16が充填されている。また、廃タイヤ11と枠体10
との間にも、同じく発泡ポリウレタン樹脂製の発泡浮力体17が充填されており、発泡浮力体16及び発泡浮力体17の双方により植生浮島が水面で浮くために必要な浮力を稼がれる。
【0020】
廃タイヤ11と枠体10との間に充填される発泡浮力体17は、廃タイヤ11と枠体10とを一体化する役割も果たしている。
【0021】
廃タイヤ11の下側にはバスケット14がはめ込まれている。バスケット14は、所定深さを有し、上部の直径に比べ下部の直径がわずかに小さい略筒状をなす深底形状の篭状体である。このバスケット14は、例えば、ポリエチレン樹脂成形品から構成することができる。
【0022】
バスケット14と廃タイヤ11の下面全体を覆うように、植生浮島の下面には、被覆ネット19が張設されている。この被覆ネット19には、バスケット14内に収容される植栽基盤が十分保持できるような強度と目開きで粗織りしたポリエチレン樹脂繊維織布ネットを使用することができる。この被覆ネット19の端部は、図2に示すように、廃タイヤ11と枠体10との間に充填される発泡浮力体17の中に埋設するようにして定着されている。
【0023】
図3に示すように、枠体10を構成する4枚の木材の上部に対し、それぞれ4枚の表層ネット20a、20b、20c、20dが取り付けられる。表層ネット20としてはヤシネットを用いることができ、一枚の表層ネット20は、枠体10の上部開口を略覆うことができる程度の広さとされる。この表層ネット20は、植生浮島の完成時、その上部を覆うようにされるものであり、これにより植生浮島の景観的な不具合を抑えることができる。
【0024】
次に、図4に示すように、枠体10を構成する4枚の木材の上部に対し、それぞれ4枚の金網25a、25b、25c、25dが取り付けられる。一枚の金網25は、枠体10の上部開口を略覆うことができる程度の広さとされる。図5は本発明の実施形態に係る植生浮島で用いられる金網25の寸法を説明する図である。図5におけるa,bは金網25の網目の長さである。本実施形態に係る植生浮島で用いる金網25の網目の長さ(a,b)は10mm以下とすることが好ましい。植生浮島の完成時、金網25は植栽基盤を覆うようにされるが、ネズミやヌートリアなどの動物の頭の部分が、植栽基盤に入らないようにブロックするために適切な、金網25の網目の長さが10mm以下であるからである。また、金網25を構成する材料としては、腐食を防ぐためにステンレス材料によるものであることが好ましい。
【0025】
次に、図6及び図7に示すように、バスケット14、廃タイヤ11の孔部、枠体10の内部に植栽基盤を充填する。植栽基盤としては、バスケット14の底部から廃タイヤ11の上部に相当する部分までにはパーライト31を充填し、さらにその上にメサライト32を充填し、メサライト32の上部に熱融着培土33を充填する。熱融着培土33は、土壌とパーライトなどの無機質発泡体(発泡体)と熱融着性繊維を混合し熱処理によって固形化して形成されている。
【0026】
すなわち、熱融着培土33は、熱処理によって熱融着性繊維同士が接着したり、繊維と発泡体、繊維と土壌が接着することで三次元の網状構造が形成され、これにより、土壌が保持されるとともに固形化した形状が好適に保持される。そして、このように固形化した状態の熱融着培土33は、植生浮島を水域に設置した場合においても、土壌が外部に流出するようなことがなく、その形状が長期にわたって保持される程度の強度特性を備えて形成されている。また、このような熱融着培土33は、無機質発泡体の単位体積当りの重量
が例えば0.5kg/リットル以下とされ、この無機質発泡体が混在することによって、軽量化が図られるとともに、植物の生育に対する適度な保水性と排水性が付与されている。
【0027】
以上のように、植生浮島内に、植栽基盤が充填されると、次に、4枚の金網25a、25b、25c、25dを、図6のA、B、C、Dの矢印の方向に折りたたみ、熱融着培土33を覆うようにする。熱融着培土33上には、複数枚の金網25が重ねられることなり、動物の頭の部分が、植栽基盤に入らないようにブロックする効果が、一枚の金網に覆われている場合に比べて、より高まる。
【0028】
本発明に係る植生浮島においては、金網25によって、熱融着培土33の上を覆うことにより、ネズミやヌートリアなどの害獣の侵入を防ぐとともに金網に植物の根を絡ませたり、根系部分を押さえることで抜け落ちを防いだりすることができる。また、植物は十分に金網25の中に根を張ることができ、浮島の初期の目的を阻害するものではない。金網25の網目の長さは、10mm以下であればよく、材質は腐食を防ぐためにステンレスを用いることが望ましい。
【0029】
以上のように、熱融着培土33の上に金網25が折りたたまれると、図8に示すように、金網25の上には、ヤシマットのような押さえマット40を載置する。さらに、4枚の表層ネット20a、20b、20c、20dを、図8のA、B、C、Dの矢印の方向に折りたたみ、前記の押さえマット40を覆うようにすると、図9に示す本発明に係る植生浮島50を得ることができる。図10は本発明に係る植生浮島50の断面構造を示している。
【0030】
植栽基盤の最上部を構成する熱融着培土33の上に複数枚の金網25が配され、さらにその上に押さえマット40が、また押さえマット40の上には複数枚の表層ネット20が折りたたまれるように配されることとなる。
【0031】
このような構造の本発明に係る植生浮島50は、植栽基盤が金網25によって覆われているために、ネズミやヌートリアなどの動物の頭の部分が、植栽基盤に入らないようにブロックすることが可能となる。このため、このような本発明に係る植生浮島50によれば、動物により、植栽基盤が破壊されたり、また、植栽されている植物が食害にあったり、或いは、植栽基盤内に巣などを作られたりすることを防止できる。
【0032】
また、本発明に係る植生浮島50は、植栽基盤が金網によって覆われた構造であるために、本発明に係る植生浮島50によれば、植栽された植物の抜け落ちを抑制することが可能となる。
【0033】
図11は本発明の実施形態に係る植生浮島50に植物を植栽した様子を示す図であり、図12は本発明の実施形態に係る植生浮島50に植物を植栽し、河川や湖沼などの水域に浮游状態で設置された状態を示す断面図である。植生浮島50の植栽基盤に植物を植栽する際には、種から植栽する方法、又は、植栽基盤上の表層ネット20、押さえマット40、金網25を破り植栽する方法のいずれかをとることができる。図12に示す植生浮島50においては、不図示の係留手段によって、植生浮島50が流されないようにする。
【0034】
金網を施していない植生浮島には、ネズミの侵入による植栽基盤の掘削がみられたが、本発明の実施形態に係る植生浮島50では、ネズミの頭の部分が金網25にぶつかり、掘削を断念した跡が観察され、本発明の実施形態に係る植生浮島50によれば、害獣による掘削に対して有効に機能することが証明された。
【0035】
また、本発明の実施形態に係る植生浮島50では、金網25があることで植物の根が固定され、風、波などで抜けることが抑制される効果も確認できた。
【0036】
また、本発明の実施形態に係る植生浮島50では、金網25があることで植栽基盤上に水鳥などが巣を形成しても、重さで植栽基盤が変形されることなく、形が保たれる。
【0037】
以上、本発明に係る植生浮島は、植栽基盤が金網によって覆われているために、ネズミやヌートリアなどの動物の頭の部分が、植栽基盤に入らないようにブロックすることが可能となる。このため、このような本発明に係る植生浮島によれば、動物により、植栽基盤が破壊されたり、また、植栽されている植物が食害にあったり、或いは、植栽基盤内に巣などを作られたりすることを防止できる。
【0038】
また、本発明に係る植生浮島は、植栽基盤が金網によって覆われた構造であるために、本発明に係る植生浮島によれば、植栽された植物の抜け落ちを抑制することが可能である。
【0039】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。先の実施形態に係る植生浮島50は廃タイヤ11を利用した構造であったが、本発明に係る植生浮島は、このような構造のものに限らない。図13は本発明の他の実施形態に係る植生浮島50を示す図であり、図13(A)は他の実施形態に係る植生浮島50の平面図であり、図13(B)は他の実施形態に係る植生浮島50の断面図である。
【0040】
他の実施形態に係る植生浮島50においては、植生浮島が水面で浮くために必要な浮力を稼ぐために、図13に示すような発泡スチロール製の浮体45が用いられている。この発泡スチロール製浮体45における中央凹部には、例えば、下から順に、パーライト31、メサライト32、熱融着培土33、金網25、押さえマット40、表層ネット20が積層されてなる。
【0041】
以上のような他の実施形態に係る植生浮島50によっても、先の実施形態と同様の効果を享受することができる。
【0042】
本発明に係る植生浮島に用いる浮体としては、上記のような発泡スチロール製に限らず、木製、コンクリート製のものなども用いることができる。また、植生浮島50の植生基盤としては、自然土壌、人工土壌などいずれのものも用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
10・・・枠体
11・・・廃タイヤ
14・・・バスケット
16・・・発泡浮力体
17・・・発泡浮力体
19・・・被覆ネット
20、20a、20b、20c、20d・・・表層ネット
25、25a、25b、25c、25d・・・金網
31・・・パーライト
32・・・メサライト
33・・・熱融着培土
40・・・押さえマット
45・・・発泡スチロール性浮体
50・・・植生浮島

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を植栽し、河川や湖沼などの水域に浮游状態で設置する植生浮島において、
発泡浮力体と、
前記発泡浮力体により浮遊状態とされる植栽基盤と、
前記植栽基盤を覆う金網と、からなることを特徴とする植生浮島。
【請求項2】
前記金網がステンレス材料により構成されることを特徴とする請求項1に記載の植生浮島。
【請求項3】
前記金網の網目の長さが10mm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の植生浮島。
【請求項4】
前記金網は複数枚重ねられることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の植生浮島。
【請求項5】
前記金網の上には押さえネットが載置されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の植生浮島。
【請求項6】
前記金網の上には押さえマットが載置されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の植生浮島。
【請求項7】
前記押さえマットの上には表層ネットが載置されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の植生浮島。
【請求項8】
前記植栽基盤の最表層には熱融着培土が用いられることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の植生浮島。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−17425(P2013−17425A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153452(P2011−153452)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】