説明

植込み可能医療装具内の組織化微細構造を作り出す方法

【課題】単一構造的に均質な植込み可能な生体適合性材料内、特に合金内の組織化微細構造を加工する能力を促進する方法を提供する。
【解決手段】5マイクロメートルよりも小さい平均線形粒径を有する超微細粒状の等軸微細構造から出発し、断面寸法にわたり温度勾配を確立することで機能的に傾斜した微細構造を発達させる。管状製品形状の場合、この寸法は外表面と内表面により形作られる。温度勾配は、一つの表面を他の表面よりも実質的に低温に保つことで作り出す。さらに本発明は、組織化微細構造を含む植込み可能医療装具も提供する。本発明によると、組織化微細構造は、超微細粒状化等軸微細構造を有する第1の表面部位と、25マイクロメートルよりも大きい平均線形粒径を有する再結晶化した粗粒状の微細構造を備える第2の表面部位とを含み、第1と第2の表面部位は転移部位により分離されている。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は植込み可能医療装具に関し、特に装具自身内に組織化微細構造を含む植込み可能医療装具に関する。本発明はさらに、植込み可能医療装具内のそのような組織化微細構造を作製する方法に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
例えばステント、血液フィルタ、人工心臓バルブ、血管オクルーダ(vascular occluders)、動脈瘤コイル、ステント移植片を含む人工移植片などは、一般に患者に挿入すると過酷な作業条件や環境に曝される。例えばステント、および血液フィルタは圧縮された形で患者の体内に導入され、その後、体内の目標位置に留置されると最終的に有用な形状に拡大される。留置後、植込み可能装具は、医療装具の予想有効寿命を通して遂行する十分な物理的、生物学的、および機械的特性を有していなければならない。その他の植込み可能医療装具には、さらに骨用ピン、シャント、ネジ、脊髄固定装具、および臀部、膝関節、脊髄椎間板などの植込み可能の整形人工装具が含まれる。
【0003】
医療器具の厳しい要件に鑑みて、それらの装具を形成するのに使用する過程は正確で再現可能であり、所望の寸法的、成分的、機械的性質を得られるものでなければならない。しかし従来の生産過程はしばしば複雑で、費用が高くついている。さらに従来の過程に関係した製造工程のほとんどでは、形成した植込み可能医療装具の金属的構造に欠陥を生じている。該欠陥には、過剰酸化、局所的変形、表面きずなどがある。それらの欠陥により、強度、耐疲労性、および耐腐食性などの所望の特性が減少することがある。
【0004】
植込み可能医療装具の性能特性は製造過程だけでなく、原材料の材料特性にも影響される。例えば植込み可能医療装具を形成するのに使用するワイヤ、またはチューブが材料的あるいは構造的欠陥を含む場合、形成された医療装具は同様な、またはより大きな欠陥を含むことがある。形成された装具の一部の欠陥はアニーリングなどの手法で削減できるが、それらの手法は望ましくない効果をもたらすことがある。例えばアニ―リング(annealing)では、金属製装具の微細構造を再結晶化して粒径と残留応力を削減するため、金属製装具の高温の熱処理がしばしば必要とされる(約0.88から0.90台のホモローグ(homologous)温度以上。ホモローグ温度とは、物質の溶融温度とも一般に云われている、工業的に認められた液相温度)。そのような高温の熱処理は、加熱および冷却工程または微細構造自身の変化により、装具の物理的変形を生じることがある。
【0005】
上述の従来のアニーリング過程の1つの問題は、装具全体の材料の微細構造が実質的に同一である、単一構造的な装具が形成されるということである。実質的に同一微細構造を有するそのような単一構造的な装具を形成すると、植込み可能医療装具の使用中に、ひび割れの核形成および伝播に繋がることがある。さらに、実質的に同一の微細構造を有する材料から作製した従来装具は、強度の最も高い部位が必ずしも最高レベルの負荷が予期される場所ではないので、疲労する傾向にある。
【0006】
したがって、従来技術の欠点を持たない医療装具を形成する過程が必要とされている。さらに、生体適合性と機械的性質を改善した医療装具が必要とされている。
【0007】
〔発明の概要〕
本発明は、単一構造的に均質な植込み可能の生体適合性材料内、特に合金内の組織化微細構造を加工する能力を促進する方法を提供する。5マイクロメートルよりも小さい平均線形粒径を有する超微細粒状の等軸微細構造から出発し、断面寸法にわたり温度勾配を確立することで機能的に傾斜した微細構造を作り出す。管状製品形状の場合、この寸法は外表面と内表面(即ち外径ODの面、内径IDの面)により形作られる。温度勾配は、一つの表面を他の表面温度(例えば溶融温度の半分よりも高い温度)よりも実質的に低温(例えば周囲温度)に保つことで作り出す。
【0008】
一つの表面が化学的に均質な材料系の再結晶温度(即ち、ひずみや応力のない粒子が、高い応力下の古い粒子を犠牲にして核形成する温度)よりも実質的に低い限り、その表面は粒子の核形成と成長過程を経ない。逆に、反対側の面は、殆どの材料系に共通した熱的に活性化する熱力学過程の結果、再生、再結晶、および後続の粒子成長過程を経る。
【0009】
断面寸法にわたって生じた微細構造は、平均線形粒径(average linear grain size)で転移を示す。低温に維持された表面は、当初の超微細粒状等軸微細構造(ultra-fine grained, equiaxed microstructure)を保持する。反対側の表面は、再結晶化した粗粒状の微細構造(平均線形粒径は25マイクロメートルよりも大きい)により特徴づけられる。2つの表面は、粒径が微細から粗の粒子に増加する転移部位により連結されている。このように生じた、1つの表面から他の表面への断面は、機能的に傾斜した微細構造として特徴づけられる。
【0010】
機能的に傾斜した微細構造を形成することで、生じる両面の強度と靭性属性は、従来の単一構造形態から実質的に変化する。強度は粒径の平方に逆比例するという従来から認められたホール・ペック関係(Hall-Petch relationship)を用いると、粒径が減少するにつれて強度は増大する。
【0011】
超微細粒状化微細構造の否定的な効果は、延性(即ち破損の延長度)の著しい減少と、対応する靭性の減少である。引張り負荷(即ち応力)が最大の場所に応力が高い微細構造を配置するように構造を加工することで、断面にわたる延性および靭性の全体的な損失を伴わずに、新たな欠陥またはきずの核形成が阻止される。
【0012】
応力制御変形状態下では、構造の断面寸法を最小化にしつつ(例えば、管状構造では、この寸法は壁の厚さ)、疲労ひび割れの核形成およびその後の伝播を阻止するように、構造を加工できる。疲労する傾向にある構造はさらに、本発明により材料の化学的成分を変えずに、再加工される。
【0013】
一般に、本発明は植込み可能医療装具内の組織化微細構造を作製する方法を提供する。植込み可能医療装具内の組織化微細構造を作製する方法は、
少なくとも2つの露出面を含む単一構造的で均質な植込み可能生体適合性材料を準備する工程であって、前記生体適合性材料は、5マイクロメートルよりも小さい平均線形粒径を有する超微細粒状化等軸微細構造を備える、工程と、
露出面の1つを第1の温度T1に保持し、露出面の他面を第2の温度T2に保持し、T1はT2より低く、T1は生体適合性材料の再結晶化温度以下である、条件下で、生体適合性材料を加熱し、組織化微細構造を提供する工程であって、前記組織化微細構造は、超微細粒状化等軸微細構造を有する第1の表面部位、および25マイクロメートルよりも大きい平均線形粒径を有する再結晶化した粗い粒状微細構造を含む第2の表面部位、を具備し、前記第1の表面部位および前記第2の表面部位は、転移部位により分離されている、工程と、
を含む。
【0014】
上記の方法に加えて、本発明は、本発明の方法により形成される組織化微細構造を含む植込み可能医療装具にも関する。一般に、本発明の植込み可能医療装具は、5マイクロメートルよりも小さい平均線形粒径を有する、超微細粒状化等軸微細構造を有する第1の表面部位と、25マイクロメートルよりも大きい平均線形粒径を有する再結晶化した粗粒状の微細構造を含む第2の表面部位と、を備える。この場合、第1の表面部位と第2の表面部位とは、転移部位により分離されている。
【0015】
〔発明の詳細な説明〕
植込み可能医療装具内の組織化微細構造を作製する方法、および組織化微細構造を含む植込み可能医療装具を提供する本発明を、以下の本出願に伴う説明および図面を参照して詳細に説明する。なお、図面は例示目的で提供されるので、縮尺どおりではないことに、留意すべきである。
【0016】
本発明の方法を利用して生成された本発明の組織化微細構造10を示す拡大断面図である図1を最初に参照する。図示するように、組織化微細構造10は、超微細粒状の等軸微細構造(下記に、より詳細に説明)を有する第1の表面部位12と、再結晶化した粗い粒状の微細構造を有する第2の表面部位16(下記に、より詳細に説明)とを有している。本発明の微細構造10はさらに、第1の表面部位12を第2の表面部位16から分離する転移部位14(下記に、より詳細に説明)を含んでいる。
【0017】
本発明によると、図1に示す組織化微細構造10は植込み可能医療装具内にある。本明細書では「植込み可能医療装具」という用語を使用して、生体組織に導入可能な治療処置に使用される物理的な物品を示す。本発明の組織化微細構造10を含むことのできる適切な植込み可能医療装具には、ステント、血液フィルタ、人工心臓バルブ、動脈瘤コイル、ステント移植片を含む人工移植片、蝸牛インプラント、視覚補綴、神経刺激器、筋肉刺激器、深脳刺激器などがあるが、それらに限定されない。本発明の組織化微細構造10は、植込み可能生体適合性材料から構成される。「植込み可能」とは、医療用に生きた部位に材料を挿入できることを意味する。「生体適合性」という用語は、植込み可能材料が、生きた組織または生体と、毒性または有害性ではなく、および免疫反応を生じることなく、適合性があることを示す。本発明で使用できる適切な植込み可能生体適合性材料には、金属、合金、セラミック材およびポリマーがあるが、それらに限定されない。本発明では、合金が特に好ましい。
【0018】
この実施例では、純粋元素金属(elemental pure metal)、合金、セラミック材および/またはポリマー材などが適切な生体適合性材料として考えられる。鉄ベース合金、コバルトベース合金、耐火性ベース合金、耐火性金属、貴金属ベース合金、貴金属およびチタンベース合金を含む任意の数の合金および工学的金属(即ち成分的に純粋な単一結晶からなる金属)を、本発明で使用できることに留意すべきである。
【0019】
さらに別の例示的な実施例によると、非架橋熱塑性プラスチック、架橋熱硬化物質、その化合物および混合物を含むポリマー材料などの非金属材料から、管腔内骨組み要素を作製できる。ポリマーが固体と関連した機械的特性を発揮する形態には典型的に、結晶構造、半結晶構造および/または非結晶構造の、3つの異なる形態がある。結晶化が生じるにはポリマー鎖内の高度の分子規則性が必要不可欠であるので、すべてのポリマーが完全に結晶化できるわけではない。実質的に結晶化するポリマーであっても、結晶化率は一般に100パーセットよりも少ない。完全に結晶化した構造と非結晶構造の連続体の中で、2つの可能な熱転移がある。即ち、結晶―液体転移(即ち、溶融点温度、Tm)と、ガラス−液体転移(即ち、ガラス転移温度、Tg)とがある。それらの2つの転移の間の温度範囲には、規則正しく整列した結晶と無秩序な非結晶ポリマー領域の混合体がありうる。
【0020】
互いに架橋したいくつかの構造単位からなる高分子量を持つ化合物を示すポリマーであり、本発明で使用できるポリマーには、シリコンポリマー(silicone polymers)(即ちオルガノシロキサン(organosiloxane))、ポリウレタン、ポリアミド、パリレン、例えばテフロン(登録商標)などのフルオロポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、コラーゲン、キチン、アルギン酸、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリグリコール乳酸(polyglycoal lactic acid)、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン(polycaprolactone)、ポリアミノ酸(polyamino acids)、例えばカルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose)などのヒドロゲルが含まれるが、それらに限定されない。
【0021】
上述したように組織化微細構造10は、超微細粒状の等軸微細構造を有する第1の表面部位12を備えている。「等軸微細構造」という用語は、断面方位の連続体上で評価したとき、結晶の粒状性が空間次元で実質的に等しく、目的の微細構造の結果、均質かつ等方性である測定可能な機械的属性を有する構造を示す。「超微細粒状化」という用語は、約5マイクロメートルよりも小さい平均線形粒径を示す。より典型的には、超微細粒状化等軸微細構造は、約1マイクロメートルから約100ナノメートルの平均線形粒径を有する。平均線形粒径は、当業界でよく知られた、微細構造断面を判定し、分析するための工業的に承認されたコンセンサス基準で判定される。
【0022】
第1の表面部位12は、約10%台(工学的変形:engineering strain)以下の比較的低い延性(即ち破損の延長度)と、比較的低い靭性を有する性質を持つ。このように第1の表面部位12は第2の表面部位16よりも高い機械的強度を持つことで特徴付けられる。なお、本発明では、第1の表面部位12は、引張り負荷により生じる応力が最高の植込み可能医療装具内の位置に配置されるように加工されることに留意すべきである。
【0023】
第1の表面部位12の厚さは植込み可能医療装具のサイズによる。ほとんどの植込み可能医療装具について、第1の表面部位12の厚さは典型的に約100ナノメートルから約5マイクロメートルで、約200ナノメートルから約2マイクロメートルの厚さがより一般的である。
【0024】
第1の表面部位12と第2の表面部位16との間にある転移部位14は、本発明の組織化微細構造10内で、超微細から粗い粒状微細構造の変化がある領域として特徴付けられる。本発明の組織化微細構造10は、第1の表面部位12と第2の表面部位16間に転移部位14があるゆえに、機能傾斜性微細構造として特徴づけることができる。転移部位14内で、平均線形粒径は超微細(第1の表面部位12またはその近くにある)から粗(第2の表面部位16またはその近くにある)へと増加する。転移部位14の厚さも植込み可能医療装具のサイズにより可変である。典型的に、および殆どの従来の植込み可能医療装具について、転移部位14の厚さは約100ナノメートルから約30マイクロメートルで、約2マイクロメートルから約20マイクロメートルの厚さがより典型的である。
【0025】
図1に示す本発明の構造には第2の表面部位16も含まれる。第2の表面部位16は、25マイクロメートルよりも大きい平均線形粒径を有する、再結晶化し、粗い粒子の等軸微細構造を含む。より典型的には、脈管内冠状動脈ステントについては、再結晶化微細構造の平均線形粒径は約40から約50マイクロメートルである。しかし平均線形粒径は、応用および目的の装具によって変わることは留意すべきである。
【0026】
第2の表面部位16は、約40%台(工学的変形)以上の比較的高い延性(即ち破損の延長度)と、比較的高い靭性を持つ性質を有する。このように第2の表面部位16は第1の表面部位12よりも低い機械的強度を持つことで特徴付けられる。なお、本発明では、第2の表面部位16を引張り負荷により生じる応力が最低の植込み可能医療装具内の位置に来るように加工されることに留意すべきである。機械的強度が高い微細構造(即ち、第1の表面部位12)を引張り負荷(即ち応力)が最大の部位に配置するように装具を加工することで、延性および靭性の全体的な損失なしに新しい欠陥またはきずの核形成を防ぐ。
【0027】
第2の表面部位16の厚さは、植込み可能医療装具のサイズにほぼ依存する。大部分の植込み可能医療装具では、第2の表面部位16の厚さは典型的に約70マイクロメートルから約90マイクロメートルまたはそれ以上で、より典型的な厚さは約75から85マイクロメートルである。
【0028】
なお、応力制御変形状態では、本発明の組織化微細構造を備えた植込み可能医療装具は、構造的な断面寸法を最小にしつつ、疲労ひび割れの核形成およびその後の伝播を阻止するように加工できる。「応力制御変形状態」とは、誘発負荷および結果的な変形が生体内環境で調整されることを意味する。
【0029】
図2は、管状の本発明の組織化微細構造10を描いた拡大断面図である。図示する特定の実施例では、管の外径を第1の表面部位12で構成し、管の内径を第2の表面部位16で構成している。それらの表面を逆転した管状に構築することも可能である。
【0030】
図1、図2に示す構造または任意の他の相当する構造はまず、少なくとも2つの露出面を含む、単一構造的に均質な植込み可能生体適合性材料を備えて形成される。本発明によると、当初の生体適合性材料は、5マイクロメートルよりも小さい平均線形粒径を有し、より好適には約200ナノメートルから約2マイクロメートルの平均線形粒径を有する超微細粒状の等軸微細構造を有している。
【0031】
単一構造的に均質な植込み可能生体適合性材料は典型的には、当分野でよく知られた従来の過程を利用して形成される。この例示的な実施例では、介入装具に適した所望の小径で薄壁の管を最終的に生み出す熱動力処理を行なうことが必要な当初の原材料製品形状は、所定の長さの、適当な大きさの丸棒(例えば直径25ミリメートル(1インチ)の丸棒ストック)である。最初の棒ストックをはるかに小さい管構造への縮小を容易にするため、製品の長さにわたって走る棒ストックに最初のクリアランス穴を配置しなければならない。これらの管空洞(即ち、分厚い壁の管)は、棒ストックにガンドリリング(gun-drilling)(即ち径に対して深い割合の穴あけ)をすることによって作ることができる。管作成の当業者は、丸い棒ストックから管空洞を作る他の工業的に関連した方法を利用できるであろう。
【0032】
以下の内部支持(即ち内径、ID)方法のいずれかを使用した、圧縮外径(OD)かつ精密成形(即ち、切断)された円周的に完全なダイアモンドダイを通した延伸などの連続機械的冷間仕上げ作業は、例えば硬質マンドレル(即ちロッド延伸とも言われる、比較的長行程IDマンドレル)、浮きプラグ(即ちOD圧縮ダイの部位内で「浮く」比較的短いIDマンドレル)および固定プラグ(即ち、比較的短い加工品(work pieces)が加工処理される延伸装置に「固定」されたIDマンドレル)があるが、それら従来の形成方法には必ずしも限定されない。それらの加工処理工程は、外径(OD)と最初の管中空の対応する壁の厚さを仕上げ品の所望の寸法に削減することを目的とする。
【0033】
必要ならば、内部支持(即ちIDマンドレルなし)で圧縮ダイを通して加工品を延伸することで、空引き加工(tube sinking)(即ち、実質的な管壁削減を誘起しない加工品のOD削減)を達成できる。従来、仕上げ品の所望の寸法的な属性を達成する最終または最終に近い機械的処理加工工程として、一般に空引き加工が利用される。当初の単一構造材料は、植込み可能医療装具に適用されるコーティングとすることができ、または該材料で全体の植込み可能医療装具自身を含むことができる。
【0034】
実質的には重要ではないが、特定の成分的な定式化が、当初の原材料形状から仕上げ製品の所望の寸法への一つの縮小を補佐するならば、過程内の熱処理は必要ない。仕上げ製品の目的とする機械的特性を達成するのに必要な場合は、最終熱処理工程を利用する。
【0035】
従来、本発明による全ての合金は、当初の原材料形状から仕上げ製品の所望の寸法に到達するのに、増分的寸法縮小を必要とする。この加工上の制約は、構造的欠陥(例えば、ひずみにより誘発された破損、亀裂、広範な空隙の形成など)なしに、処理加工工程当たりの誘発された機械的損失の有限度を補佐する、材料の能力による。
【0036】
上述の冷間仕上げ工程のいずれかの間に誘発された意図しない機械的損失(即ち冷間加工)を補正するため、定期的な熱処理を利用して応力を緩和し(即ち冷間加工などの処理の結果である、有害な内部残留応力の最小化)、それにより後続の縮小前に、加工品の加工性(即ち、測定可能な欠陥なしに追加の機械的損失を補佐する能力)を高める。それらの熱処理は典型的には、不活性ガス炉(例えば窒素、アルゴンなど)、酸素希薄化水素炉、従来の真空炉、およびあまり通常行なわれない加工条件である大気、などの比較的、不活性な環境内で行なわれるが、必ずしもそれらに限定されない。真空炉を利用すると、一般にmmHgまたはtorr(1mmHgは1単位torrに等しい)の単位で測定される真空レベル(即ち、大気圧以下)は、熱処理中に過度の劣化的な高温酸化過程が機能的に作用しないように保証するには十分であろう。この過程は通常、133.3×10-4Pa(10-4mmHg(0.0001torr))以下(即ち低度)の真空状態で達成できる。
【0037】
この最後の冷間仕上げ工程は、プロセス冶金の当業者によって判定でき、処理された微細構造は超微細粒状の等軸微細構造を有する組織化微細構造から構成されることにより特徴づけられる。「等軸微細構造」という用語は、断面方位の連続体上で評価したとき、結晶の粒状性が空間次元で実質的に等しく、目的とする微細構造の結果、均質で等方性である測定可能な機械的属性を有する構造を示す。「超微細粒状化」という用語は、約5マイクロメートルよりも小さい平均線形粒径を示す。より典型的には、超微細粒状化等軸微細構造は、約1マイクロメートルから約100ナノメートルの平均線形粒径を有する。平均線形粒径は、当業界で知られているように、微細構造断面を判定し分析する、工業的に承認されたコンセンサス基準で判定される。
【0038】
本明細書で説明する例示的な実施例で特徴づけられる加工済み材料内の超微細粒状の等軸微細構造を確実にするのに使用する最後の熱力学処理工程は、必要に応じて追加の高温熱処理工程を含み、生じた原材料が十分に延性があり、予期せぬ原材料の欠陥なしに、目的の最終製品の形状と構造を製造するのに必要な取り扱い加工工程を容易にする。それらの予期せぬ原材料の欠陥は典型的に、劣化性のぜい性破壊により特徴づけられる。時間、温度、熱処理環境、冷却媒体、および十分な高熱暴露ならびに詳細な加工スケジュール後の対応冷却速度は全て、加工する材料系の関数として容易に決定可能で、冶金の当業者には典型的に知られた処理要素である。
【0039】
次に生体適合性材料は、露出面の一つの面を第1の温度T1に保ち、露出面の他の面を第2の温度T2に保持する条件下において、加熱される。ここでT1はT2よりも低く、T1は生体適合性材料の再結晶温度以下である。これらの条件下で、例えば図1、および図2に示す本発明の組織化微細構造がもたらされる。
【0040】
本発明によると、T1に保持された表面は、当初の単一構造的な生体適合性材料の超微細構造を維持し、T2に保持された他の面は、上述の粗粒状の微細構造に再結晶化する。T2に保持された表面は、もたらされる表面特有の熱エネルギーの結果、2段階の微細構造的な発達を経る。材料の再結晶温度以上に加熱すると、鋳塊段階の加工中の当初の溶融凝固物から保持された応力の高い古い結晶粒は、内部欠陥を持つ領域(即ち、結晶面および各々別個の粒子を特徴づける主な結晶面内の対応する「スリップ(slip)」方向またはせん断方向)に沿って応力およびひずみがない粒子の核を形成することで、内部応力の軽減の一つの形を示す。再結晶温度とは、二次的かつ結晶学的な応力およびひずみがない粒の核形成が熱力学的に安定し、当初の粒子に対してエネルギー的に好適に存在する温度を指す。それらの新たに核形成された粒子が親粒子のエネルギー的な犠牲の元に成長すると、主要な核形成メカニズムは、本明細書に示す例示的な実施例の特徴である、表面が方位づけられた微細構造的な発達または変化の全体的な反応機構を支配することが予期される、速度制御粒子成長態様に取って代わられる。
【0041】
加熱工程は、冷源(例えば液体窒素コールドフィンガー(liquid nitrogen cold finger))を利用して行なうことができ、温度をT1に保持できる。温度T1は典型的には公称室温(20℃〜40℃)または、公称室温以下の温度であり、例えばT1は液体窒素の温度の―194℃(標準大気圧で)とすることができる。一実施例では、局所ヒートシンクを用いて表面の一つをT2に加熱する。なお、温度T2は典型的に、選択した生体適合性材料の溶融温度の約1/2よりも高いことに、留意すべきである。さらに上述したように、T2も、選択した生体適合性材料の再結晶化温度よりも高い。例えば高温(即ちT2)での表面特定処理にはしばしば、その微細構造を再結晶化して粒径および完成した製品形態内で保持された残留応力を削減するため、金属製装具の高温処理(典型的には約0.75から0.90台以上のホモローグ温度。ホモローグ温度は、物質の溶融温度とも一般に云われる、工業的に認められた液相温度)が必要とされる。
【0042】
ヒートシンクに加えて、直接接触伝導、赤外線加熱、熱エネルギーにより送達されるレーザ加熱、高周波コイルを加工品に直接結合することによる渦電流誘起を通した高周波(RF)誘導加熱、または、導電性受容器、もしくは対応する加工品を二次的な導電性、対流的および/または放射性加熱により加熱する隣接加熱要素に、高周波コイルを結合することによる渦電流誘起を通した高周波(RF)誘導加熱、を使用することができる。
【0043】
図3は、面51、および面52を有する単一構造的に均質な植込み可能生体適合性材料50を含む管状構造の絵画図である。52は、加熱源56を利用して温度T2まで加熱され、51は、生体適合性材料50を配置できる開口部54を含むコールドシンク52を利用して温度T1に保持される。
【0044】
なお、本発明は、ひび割れの核形成および伝播過程を防ぐ植込み可能医療装具内の機能的に組織化された微細構造を形成できる方法を提供する。さらに、本発明は、i)疲労を生じやすい構造を微細構造レベルで再加工する、ii)先の構造分析の結果、高レベルの応力が予期されるところに、微細構造の最強力部位を配置できる、iii)先の特性の結果、微細構造を、比較的少ない負荷担持断面積(即ち管状構造の場合、薄い壁の寸法)を伴うように設計できる、および、iv)微細構造の断面寸法(即ち管状構造の場合、それぞれ、壁の寸法および縦方向の軸)の両方を通して、強度属性を設計できる。
【0045】
本発明を詳細に示し、その好適な実施例に関して説明したが、形式および詳細の上述の変更は、本出願の趣旨および範囲を逸脱せずに行なうことができることを当業者は理解するであろう。したがって、本発明は、本明細書で説明され、例示された形式および詳細によっては限定されず、添付の特許請求の範囲に属することを意図するものである。
【0046】
〔実施の態様〕
(1)方法において、
少なくとも2つの露出面を含む単一構造的で均質な植込み可能生体適合性材料を準備する工程であって、前記生体適合性材料は、5マイクロメートルよりも小さい平均線形粒径を有する超微細粒状等軸微細構造を備える、工程と、
前記露出面の1つを第1の温度T1に保持し、前記露出面の他面を第2の温度T2に保持し、T1はT2より低く、T1は生体適合性材料の再結晶化温度以下である、条件下で、前記生体適合性材料を加熱し、組織化微細構造を提供する工程であって、
前記組織化微細構造は、前記超微細粒状等軸微細構造を有する第1の表面部位、および25マイクロメートルよりも大きい平均線形粒径を有する再結晶化した粗い粒状微細構造を含む第2の表面部位、を具備し、
前記第1の表面部位および前記第2の表面部位は、転移部位により分離されされている、
工程と、
を含む、方法。
(2)実施態様1の方法において、
前記生体適合性材料は、金属、合金、セラミック材、またはポリマーを含む、方法。
(3)実施態様2の方法において、
前記生体適合性材料は、鉄ベース合金、コバルトベース合金、耐熱性金属ベース合金、貴金属ベース合金、貴金属、およびチタンベース合金からなる群から選択された、合金または成分的に純粋な単一結晶からなる金属である、方法。
(4)実施態様1の方法において、
前記生体適合性材料は、管状に加工される、方法。
(5)実施態様1の方法において、
前記超微細粒状等軸微細構造を有する前記第1の表面部位の前記平均線形粒径は、約1マイクロメートルから約100ナノメートルである、方法。
【0047】
(6)実施態様1の方法において、
前記再結晶化した粗粒状の微細構造の前記平均線形粒径は、約40マイクロメートルから約50マイクロメートルである、方法。
(7)実施態様1の方法において、
前記T1は、公称室温または公称室温未満の温度である、方法。
(8)実施態様7の方法において、
前記T1は、標準大気状態の液体窒素の温度である、方法。
(9)実施態様1の方法において、
前記T2は、前記生体適合性材料の溶融点の約1/2よりも高い温度である、方法。
(10)実施態様9の方法において、
前記T2は、約0.75から約0.90ホモローグ温度以上であり、
前記ホモローグ温度は、工業的に認められた液相温度である、
方法。
【0048】
(11)植込み可能医療器具において、
生体適合性材料であって、
5マイクロメートルよりも小さい平均線形粒径を有する超微細粒状の等軸微細構造を有する第1の表面部位、および、
25マイクロメートルよりも大きい平均線形粒径を有する再結晶化した粗い粒状の微細構造を含む第2の表面部位、
を備え、
前記第1の表面部位、および前記第2の表面部位は、転移部位により分離されている、
生体適合性材料、
を具備する、植込み可能医療装具。
(12)実施態様11の植込み可能医療器具において、
前記生体適合性材料は、金属、合金、セラミック材、またはポリマーを含む、植込み可能医療器具。
(13)実施態様12の植込み可能医療器具において、
前記生体適合性材料は、鉄ベース合金、コバルトベース合金、耐熱性金属ベース合金、貴金属ベース合金、貴金属、およびチタンベース合金からなる群から選択された、合金または成分的に純粋な単一結晶からなる金属である、植込み可能医療器具。
(14)実施態様11の植込み可能医療器具において、
前記生体適合性材料は、管状に加工される、植込み可能医療器具。
(15)実施態様11の植込み可能医療器具において、
前記超微細粒状の等軸微細構造を有する前記第1の表面部位の前記平均線形粒径は、約1マイクロメートルから約100ナノメートルである、植込み可能医療器具。
【0049】
(16)実施態様11の植込み可能医療器具において、
前記再結晶化した粗粒状の微細構造の前記平均線形粒径は、約40マイクロメートルから約50マイクロメートルよりも大きい、植込み可能医療器具。
(17)実施態様11の植込み可能医療器具において、
前記植込み可能医療装具は、ステント、血液フィルタ、血管オクルーダ、人工心臓バルブ、動脈瘤コイル、ステント移植片を含む人工移植片、蝸牛インプラント、視覚補綴、神経刺激器、筋肉刺激器、または深脳刺激器のうちの一つである、植込み可能医療器具。
(18)実施態様11の植込み可能医療器具において、
前記第1の表面部位は、約10%以下の延性(破損する加工ひずみ)を有する、植込み可能医療器具。
(19)実施態様11の植込み可能医療器具において、
前記第2の表面部位は、約40%以上の延性(破損する加工ひずみ)を有する、植込み可能医療器具。
(20)実施態様11の植込み可能医療器具において、
前記転移部位は、前記第1の表面部位に最も近い表面の前記超微細構造から、前記第2の表面部位に最も近い表面の前記粗粒状の微細構造まで、変化がある領域である、植込み可能医療器具。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の方法を利用して生成された本発明の線形の組織化微細構造を描いた(断面図を通した)絵画図である。
【図2】本発明の方法を利用して生成された本発明の管状の組織化微細構造を描いた(断面図を通した)絵画図である。
【図3】本発明の管状の組織化微細構造を含む植込み可能医療装具を形成する、本発明の実施例を示した(上下斜視図を通した)絵画図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法において、
少なくとも2つの露出面を含む単一構造的で均質な植込み可能生体適合性材料を準備する工程であって、前記生体適合性材料は、5マイクロメートルよりも小さい平均線形粒径を有する超微細粒状等軸微細構造を備える、工程と、
前記露出面の1つを第1の温度T1に保持し、前記露出面の他面を第2の温度T2に保持し、T1はT2より低く、T1は生体適合性材料の再結晶化温度以下である、条件下で、前記生体適合性材料を加熱し、組織化微細構造を提供する工程であって、
前記組織化微細構造は、前記超微細粒状等軸微細構造を有する第1の表面部位、および25マイクロメートルよりも大きい平均線形粒径を有する再結晶化した粗い粒状微細構造を含む第2の表面部位、を具備し、
前記第1の表面部位および前記第2の表面部位は、転移部位により分離されている、
工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、
前記生体適合性材料は、金属、合金、セラミック材、またはポリマーを含む、方法。
【請求項3】
請求項2の方法において、
前記生体適合性材料は、鉄ベース合金、コバルトベース合金、耐熱性金属ベース合金、貴金属ベース合金、貴金属、およびチタンベース合金からなる群から選択された、合金または成分的に純粋な単一結晶からなる金属である、方法。
【請求項4】
請求項1の方法において、
前記生体適合性材料は、管状に加工される、方法。
【請求項5】
請求項1の方法において、
前記超微細粒状等軸微細構造を有する前記第1の表面部位の前記平均線形粒径は、約1マイクロメートルから約100ナノメートルである、方法。
【請求項6】
請求項1の方法において、
前記再結晶化した粗粒状の微細構造の前記平均線形粒径は、約40マイクロメートルから約50マイクロメートルである、方法。
【請求項7】
請求項1の方法において、
前記T1は、公称室温または公称室温未満の温度である、方法。
【請求項8】
請求項7の方法において、
前記T1は、標準大気状態の液体窒素の温度である、方法。
【請求項9】
請求項1の方法において、
前記T2は、前記生体適合性材料の溶融点の約1/2よりも高い温度である、方法。
【請求項10】
請求項9の方法において、
前記T2は、約0.75から約0.90ホモローグ温度以上であり、
前記ホモローグ温度は、工業的に認められた液相温度である、
方法。
【請求項11】
植込み可能医療器具において、
生体適合性材料であって、
5マイクロメートルよりも小さい平均線形粒径を有する超微細粒状の等軸微細構造を有する第1の表面部位、および、
25マイクロメートルよりも大きい平均線形粒径を有する再結晶化した粗い粒状の微細構造を含む第2の表面部位、
を備え、
前記第1の表面部位、および前記第2の表面部位は、転移部位により分離されている、
生体適合性材料、
を具備する、植込み可能医療装具。
【請求項12】
請求項11の植込み可能医療器具において、
前記生体適合性材料は、金属、合金、セラミック材、またはポリマーを含む、植込み可能医療器具。
【請求項13】
請求項12の植込み可能医療器具において、
前記生体適合性材料は、鉄ベース合金、コバルトベース合金、耐熱性金属ベース合金、貴金属ベース合金、貴金属、およびチタンベース合金からなる群から選択された、合金または成分的に純粋な単一結晶からなる金属である、植込み可能医療器具。
【請求項14】
請求項11の植込み可能医療器具において、
前記生体適合性材料は、管状に加工される、植込み可能医療器具。
【請求項15】
請求項11の植込み可能医療器具において、
前記超微細粒状の等軸微細構造を有する前記第1の表面部位の前記平均線形粒径は、約1マイクロメートルから約100ナノメートルである、植込み可能医療器具。
【請求項16】
請求項11の植込み可能医療器具において、
前記再結晶化した粗粒状の微細構造の前記平均線形粒径は、約40マイクロメートルから約50マイクロメートルよりも大きい、植込み可能医療器具。
【請求項17】
請求項11の植込み可能医療器具において、
前記植込み可能医療装具は、ステント、血液フィルタ、血管オクルーダ、人工心臓バルブ、動脈瘤コイル、ステント移植片を含む人工移植片、蝸牛インプラント、視覚補綴、神経刺激器、筋肉刺激器、または深脳刺激器のうちの一つである、植込み可能医療器具。
【請求項18】
請求項11の植込み可能医療器具において、
前記第1の表面部位は、約10%以下の延性(破損する加工ひずみ)を有する、植込み可能医療器具。
【請求項19】
請求項11の植込み可能医療器具において、
前記第2の表面部位は、約40%以上の延性(破損する加工ひずみ)を有する、植込み可能医療器具。
【請求項20】
請求項11の植込み可能医療器具において、
前記転移部位は、前記第1の表面部位に最も近い表面の前記超微細構造から、前記第2の表面部位に最も近い表面の前記粗粒状の微細構造まで、変化がある領域である、植込み可能医療器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−215994(P2007−215994A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−355384(P2006−355384)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(597041828)コーディス・コーポレイション (206)
【氏名又は名称原語表記】Cordis Corporation
【Fターム(参考)】