説明

植込み型弁プロテーゼ及びかかる弁の製造方法

本発明は、支持構造と少なくとも1つの弁リーフレットとを場合により備える植込み型弁プロテーゼに関する。弁プロテーゼは、少なくとも二方向に延在する、延伸超高分子量ポリオレフィンの一方向性補強要素の材料構造を備え、ポリオレフィン補強要素の弾性率は少なくとも60GPaである。本発明はさらに、かかる植込み型弁の製造方法に関する。この弁は製造が容易であり、且つ耐久性が向上している。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、植込み型弁プロテーゼ及びかかる植込み型弁プロテーゼの製造方法に関する。
【0002】
植込み型弁プロテーゼは、例えば、人間又は動物の体内、特に血管内又は血管近傍における一方向性の弁プロテーゼとして用いられ得る。好適な弁プロテーゼは、容易に開放し、血流の乱流を全く又はほとんど引き起こさず、且つ逆流を回避する必要がある。
【0003】
人口が高齢化し、福祉事業が増大するにつれ、心臓血管手術及びその関連製品に関する要求が高まっている。また、寿命が延び、身体活動が増しているため、人の体そのものの要求も高まる傾向にある。このように、心臓弁プロテーゼなどの心臓血管関連製品に課される負荷条件に関する要件は、大きさの点でも、さらにサイクル数の点でも、高まっている。典型的には、心臓の弁小葉は終生にわたり莫大な回数の負荷サイクルを受ける。従って耐久性は重要な要件である。
【0004】
一つの植込み型弁プロテーゼが、オランダ国特許第1008349号明細書に記載されている。このオランダ国特許第1008349号明細書の弁プロテーゼは、多数の弁リーフレットを支える支持構造を備える。弁リーフレットは、リーフレットに生じる応力要件に応じ、補強用繊維をマンドレル上に特定の方向に巻回することにより作製される。繊維は最大応力線に正確に従い位置決めしなければならないため、この公知の弁プロテーゼは製造が困難で、且つ応力を受け入れるために多数の巻回層を使用することから、質量が増加する。さらに、この公知の弁プロテーゼは、特に昨今の植込み型弁プロテーゼに課される要件の高まりを考えると、その耐久性に関してさらなる向上の余地がある。
【0005】
別の植込み型弁プロテーゼが、米国特許第6,726,715号明細書から公知である。オランダ国特許第1008349号明細書と同じく、当該開示の弁プロテーゼは、繊維をリーフレットにおける応力線に従う向きに置いて補強されたリーフレットを備える。このようにすることで、局所的な応力のばらつきが相殺される。米国特許第6,726,715号明細書によるこの弁プロテーゼは、とりわけ製造が困難である点で、オランダ国特許第1008349号明細書の弁プロテーゼと同じ欠点を有する。
【0006】
国際公開第2004/032987号パンフレットは、ポリマー成分の少なくとも3つの層がサンドイッチ状の構造に配置され、そのうち中間層のポリマー成分が他のポリマー成分より短い鎖長を有する医療装置に関する。心臓弁は、そのサンドイッチ構造の一つの可能な応用として記載されている。
【0007】
従って本発明の目的は、製造が容易であり、さらに先行技術と比べて等しいか、又は向上した耐久性を示す植込み型弁プロテーゼを提供することである。本発明の別の目的は、かかる改良された弁プロテーゼの製造方法を提供することである。
【0008】
この目的は、少なくとも1つの弁リーフレットと、場合により少なくとも1つの弁リーフレット用の支持構造とを備える植込み型弁プロテーゼであって、少なくとも二方向に延在する、延伸超高分子量ポリオレフィンの一方向性補強要素の材料構造で作製された弁プロテーゼを提供することにより達成され、ここでポリオレフィン補強要素の弾性率は少なくとも60GPaである。記載される「二方向性の」材料構造を使用することにより、本発明に係る弁プロテーゼは製造が容易である。さらに、この弁プロテーゼは耐久性の向上を示す。高い弾性率は通常、より脆性の高い材料と関連し、ひいては被る応力レベルが高くなるために好ましくない耐久性、特に耐疲労性がもたらされることが知られており、従ってこれは意外である。
【0009】
「二方向性」は、本明細書では、補強要素が少なくとも二方向、例えばある(曲)平面若しくは表面において少なくとも二方向に配向されているか、又は場合によりマトリックス材料中にある別の三次元構造において、例えば2、3、4、5、6、7、8又はさらにそれ以上の方向に配置されていることを意味する。
【0010】
ポリオレフィンの弾性率は、ASTM D2256規格に従い計測する。計測される弾性率は、ASTM D2256のセクション16に記載されるとおりの初期弾性率である。好ましくは、ポリオレフィン補強要素の弾性率は少なくとも65GPaであり、より好ましくは少なくとも80GPaである。最大弾性率は、弁プロテーゼにおける適用性よりむしろ、ポリオレフィン要素の生産技術によって制限される。これまでのところ、優れた弁を作製するための上限弾性率には達していない。
【0011】
本発明に係る弁プロテーゼは、少なくとも二方向に延在する一方向性補強要素の材料構造を備える。かかる材料構造は、弁プロテーゼの製造中に作製されてもよく、又は好ましくは、半製品として予め作製されてもよい。本発明に係る弁プロテーゼは、かかる比較的単純な材料構造を用いることが可能となり、しかし良好な耐久性はなお示すため、特に有利である。このように、製造の容易さが長期性能と組み合わされる。
【0012】
本発明に係る弁プロテーゼは、好ましくは先行技術と比べて疲労強度の向上を示すため、血管などの特定の用途において、同様の疲労強度に対してより薄肉の弁リーフレットを設計することができる。これにより質量の増加分が抑えられる。
【0013】
本発明に係る弁プロテーゼの第1の実施形態において、補強要素の厚さは40μm未満、より好ましくは30μm未満、最も好ましくは20μm未満である。この好ましい実施形態に係る弁プロテーゼは、良好な変形性と疲労抵抗との組み合わせを示す。弁、特に弁リーフレットにおいて厚さの薄い補強要素を使用する別の利点は、高い表面平滑度が実現され得ることであり、これは弁周囲の乱流レベルを低下させ、従って血液凝固のリスクが減少するという利益をもたらす。
【0014】
好ましい実施形態において、材料構造は複数の重ね合わされた多層状の材料シートを含み、それらのシートは延伸超高分子量ポリオレフィン単層が圧密化された積層体を含み、ここで積層体内の2つの連続する単層の延伸方向は異なる。これは、隣接する単層(の組)の一部が確かに異なる延伸方向を有する限り、いくつかの連続した単層が同じ延伸方向を有する状況を除外するものではないことに留意しなければならない。従って、5層の積層体で層3と層4とが同じ延伸方向を有し、その延伸方向が層2と異なるものは、本発明の実施形態であるといえる(層1及び層5の向きとは無関係)。しかしながら、好ましい実施形態では、連続する単層(の組)のほとんど、例えば50%より多い、好ましくは75%より多い、最も好ましくは90%より多い単層(の組)が、異なる延伸方向を有する。本願に関連して単層とは、同じ方向に整列した複数の延伸ポリオレフィンの一方向性補強要素を備える層を意味する。
【0015】
別の好ましい実施形態において、材料構造は少なくとも1つの材料シートを含み、この少なくとも1つの材料シートは延伸補強要素の織布を含む。さらに別の好ましい実施形態において、材料構造は延伸補強要素の編上げブレードを含む。ブレード中の繊維方向は軸方向の伸長によって容易に変化することができ、リーフレット、特に三尖弁プロテーゼのリーフレットにおける応力に適応し易い傾向を有する。さらに、編組及び織布の取扱適性は一方向性単層の取扱適性より良好であると分かったことから、より柔軟性が高く低コストの製造加工がもたらされる。
【0016】
極めて好ましい実施形態において、材料構造は、延伸超高分子量ポリオレフィンの補強要素の1つの織布又は編上げブレードからなる。織布は、例えば、少なくとも二方向に配列された一方向性補強要素を有する機械的に組み上げられた一体構造を形成する3D織物又は編組であってもよい。材料構造はまた、例えば、織布の(wowen)、不織布の、編み上げられた、編み組みされた、若しくは織り上げられた構造(例えば多数のUHMWPE UDテープを一体に編み上げたもの)であっても、又は一体構造を作り出すこれらの技術の任意の組み合わせにより形成された材料構造であってもよい。多層状構造の層剥離が防止され、又はそのリスクが低減されるため、これは極めて好ましい。
【0017】
構造がUHMWPE層間に軟質材料が配置されたサンドイッチ構造を備えると、軟層の破損又は軟層とUHMWPE層の一方との間の界面の破損により弁構造体に層剥離が生じる傾向があることが分かったため、構造はそれを含まないことが極めて好ましい。
【0018】
材料構造が、マトリックスバインダーに埋設された複数の延伸ポリオレフィン補強要素を備える場合、有利である。バインダーはポリオレフィン補強要素を全体として、又は一部のみ封入することができ、それにより弁リーフレットの取扱時及び製造時に材料構造を保持する。バインダーは、例えば、溶融することでポリオレフィン補強要素を少なくとも部分的に被覆するフィルムとして、横方向接着ストリップとして、若しくは横方向補強要素として、又は液体中にポリマー材料が溶融、溶解若しくは分散した形態のポリマーマトリックスによる補強要素の含浸及び/又は埋設によるなど、様々な形態又は方法で適用することができる。好ましい実施形態において、バインダーはポリマーマトリックス材料であり、熱硬化性材料若しくは熱可塑性材料、又はそれら二つの混合材であってもよい。熱硬化性材料が利用される場合、熱硬化性材料は好ましくは、最終産物において少なくとも部分的に硬化され、好ましくは完全に硬化される。マトリックスバインダーはまた、布の補強体より融点が低い繊維として加えてもよく、ひいては弁の成形中にUHMWPEを溶融し、少なくとも部分的に湿潤させることが可能となる。マトリックス材料の破断点伸びは、好ましくはポリオレフィン繊維の伸びより高い。マトリックス材料が熱硬化性ポリマーである場合、好ましくは、ビニルエステル、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂又はフェノール樹脂が選択される。マトリックス材料が熱可塑性ポリマーである場合、好ましくは、ポリウレタン、ポリビニル、ポリアクリル酸、ポリオレフィン及び/又はポリイソプレン−ポリエチレン−ブチレン−ポリスチレンブロック共重合体若しくはポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロック共重合体などの熱可塑性エラストマーブロック共重合体が選択される。好ましくは、単層中のバインダーの量は、30重量%以下、より好ましくは25、20又はさらには15重量%以下である。
【0019】
材料構造の補強要素は、繊維、一方向配向テープ、二方向配向若しくは多方向配向テープ、フィルム又はそれらの組み合わせを含んでもよい。一方向性テープ又はフィルムとは、本願との関連では、好ましい高分子鎖配向を1つの方向、すなわち延伸方向に示すテープ又はフィルムを意味する。かかるテープ及びフィルムは延伸、好ましくは一軸延伸によって製造されてもよく、その場合、異方性の機械的特性を呈し得る。
【0020】
要素は様々な技術により作製することができる。以下に3つの技術を挙げる。
【0021】
第1の好ましい技術は、繊維要素の溶融加工によるものである。好ましくは30,000〜70,0000の数平均分子量(Mn)を有する直鎖状ポリエチレンが選択されるべきであり、且つ好ましくは重量平均分子量(Mw)とMnとの比が値2を超えてはならない。従って、好ましくはMw/Mn<2である。Mnがより低い範囲にある場合に、対応してより高い比となり得る。しかしながら、強い要素を作製するには、より高い範囲が好ましい。高いMn値により高い強度値が可能であり、次に加工を考慮すると低いMw/Mn比が必要である。最適な条件は、単に実験を行うことで見出すことができる。押出機で溶融した後、一組のオリフィスを通じて材料を送り込み、溶融工程で延伸することにより最初の伸長が実現される。続いてより高い、但し融点未満の温度で繊維を延伸して、引張り強さを増加させる。
【0022】
第2のより好ましい技術は、いわゆる絡み合い高分子の固体状態加工によるものである。かかる絡み合い高分子の例は、国際公開第93/1518号パンフレット(参照により本明細書に援用される)に提供されている。かかる粉末を強力部材に加工する例が、欧州特許第1627719号明細書7頁41行目〜8頁15行目(参照により本明細書に援用される)に提供されている。欧州特許第1627719号明細書と本明細書の部材との違いは、欧州特許第1627719号明細書の部材が弾道体用であることである。本願に対する幅はより狭いものであるように選択され得る。しかしながら、この方法における本質的な変更は必ずしも必要でない。
【0023】
第3の最も好ましい技術は、いわゆるゲル紡糸である。これに関して多くの刊行物を利用することが可能である。一例は、国際公開第2005/066401号パンフレット(参照により本明細書に援用される)である。
【0024】
製造されたフィルムの延伸、好ましくは一軸延伸は、当該技術分野において公知の手段により実施することができる。かかる手段としては、好適な延伸単位に対する押出伸張及び引張伸張が含まれる。伸張はまた、−特に伸張される部材が一方向性でない場合−二軸又は多軸であってもよい。高い機械的強度及び剛性を達成するため、延伸は多段階で実施され得る。
【0025】
材料構造における補強要素の強度は、特に、それを作製するポリオレフィン、繊維の製造方法及びその(一軸)伸張比に依存する。繊維方向に計測した補強要素の引張り強さは、好ましくは少なくとも0.9GPaであり、より好ましくは少なくとも1.2GPaであり、さらにより好ましくは少なくとも1.5GPaであり、さらにより好ましくは少なくとも1.8GPaであり、さらにより好ましくは少なくとも2.1GPaであり、最も好ましくは少なくとも3GPaである。材料構造の強度は、概して材料構造中の補強要素の体積分率に依存し得る。
【0026】
さらに別の好ましい実施形態において、本発明に係る弁プロテーゼは実質的にマトリックスバインダーを含まない。かかる実施形態は、より少ない材料で同じ機械的性能を有するためより効果的である。さらに、この実施形態によると血液適合性が向上する。マトリックスバインダーが用いられない場合、ポリオレフィン繊維は好ましくは最終製品の製造中に部分的に融着され得る。
【0027】
繊維、一方向配向テープ及びフィルムは、好ましくは超高分子量ポリエチレンを含む。超高分子量ポリエチレンとしては、直鎖状又は分枝鎖状、好ましくは直鎖状ポリエチレンが使用され得る。本明細書において直鎖状ポリエチレンとは、100個の炭素原子につき側鎖が1個未満、好ましくは300個の炭素原子につき側鎖が1個未満のポリエチレンを意味するものと理解される;側鎖又は分枝鎖は、概して少なくとも10個の炭素原子を含む。側鎖は、好適には、例えば欧州特許第0269151号明細書に記載されるとおり、2mm厚の圧縮成形フィルムに対するFTIRにより計測され得る。直鎖状ポリエチレンは、さらに、それとの共重合性を有する最高5mol%の1つ又は複数の他のアルケン、例えば、プロペン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテン、オクテンを含んでもよい。好ましくは、直鎖状ポリエチレンはモル質量が高いもので、固有粘度(IV、135℃のデカリン中の溶液に対して測定)が少なくとも4dl/g;より好ましくは少なくとも8dl/g、最も好ましくは少なくとも10dl/gである。かかるポリエチレンは、超高分子量ポリエチレン、UHMWPEとも称される。好ましい超高分子量ポリエチレンフィルムの場合、延伸は典型的には多数の延伸ステップにより一軸で実施される。第1の延伸ステップは、例えば延伸係数が3となるまで延伸させるステップを含み得る。複数回の延伸により、典型的には最高120℃までの延伸温度に対して延伸係数は9となり、最高140℃の延伸温度に対して延伸係数は25となり、及び最高150℃及びそれ以上の延伸温度に対して延伸係数は50となる。高温での複数回の延伸により、延伸係数は約50以上に達し得る。その結果、高い強度のテープがもたらされ、従って超高分子量ポリエチレンのテープについて、3GPaより高い強度が達成され得る。
【0028】
材料構造、特に弁リーフレットにおける材料構造の厚さは、広い範囲で異なり得る。しかしながら、好ましくは材料構造の厚さは、50〜500μm、より好ましくは80〜400μm、最も好ましくは150〜250μmの範囲である。かかる厚さにより、最小限の労力しか要さず、且つ逆流(望ましくない方向の血流)が最小限に抑えられた、弁リーフレットの効果的な開閉が可能となる一方で、十分な耐久性は維持される。
【0029】
好ましい実施形態において、少なくとも1つの弁リーフレットは支持構造の少なくとも一部と一体化して形成される。少なくとも二方向に延在する補強要素を備える半製品の形態の材料構造を使用することにより、種々の設計要件を有する構造を容易に一体化することが可能となる。支持構造とリーフレットとを一体化すると、それら二つの間に耐久性のある連結が設けられる。
【0030】
別の好ましい実施形態において、本発明に係る弁プロテーゼの支持構造(ステントとも称される)は硬質部材を含み、より好ましくは環状である。支持構造の作製に好適な材料としては、硬質ポリマー、繊維強化ポリマー、金属及びそれらの合金、セラミック並びにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
好適な硬質ポリマーとしては、Delrin(登録商標)及びCelcon(登録商標)などのポリアセタール、デキストロプラスト(dextroplast)、ポリウレタン、ポリエチレン、ゴム、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、並びにポリエーテルイミドが挙げられる。好適な金属としては、ステンレス鋼、チタン、コバルト合金、例えば、Elgiloy(登録商標)、コバルト−クロム−ニッケル合金、及びニッケル−コバルト−クロム−モリブデン合金のMP35N、並びにニッケル−チタン合金のNitinol(登録商標)などの生体適合性金属が挙げられる。加えて、ステントは、熱分解炭素、炭化ケイ素又は金属炭化物などのセラミック材料、ヒドロキシアパタイト及びアルミナから製造することができる。好適なステントはまた、グラファイトなどの炭素から製造することもできる。
【0032】
好ましくは、支持構造は少なくとも部分的には、ニッケル−チタン合金のNitinol(登録商標)などの、超弾性材料としても、並びに形状記憶合金としても利用可能な超弾性合金、又は形状記憶合金から作製される。かかる支持構造により、弁プロテーゼを体内の所望の位置に容易に挿入することが可能となる。挿入前、支持構造は第1の(比較的低い)温度とされ、その温度では圧縮した構成を有する。この圧縮した構成により、用いる侵襲的手術が最小限に抑えられ、支持構造(及びリーフレット)を体内に容易に挿入することが可能となる。支持構造を位置決めすると、体温によって形状記憶合金が加温され、相が変化し、それによりその形状が変化する。例えばNitinol(登録商標)については、相の変化はオーステナイト相とマルテンサイト相との間で起こり得る。結果として支持構造が拡張し、それにより周囲組織を締め付ける力が生じる。別の構成では、Nitinol(登録商標)は超弾性であり、約10%の材料歪みに至るまで変形することができ、従って弁を圧縮した形状に変形させることが可能であり、しかし配置後にはなお弾性によって最終形状に展開されることができる。
【0033】
本発明はまた、植込み型弁プロテーゼの製造方法にも関し、この方法は、
(a)少なくとも二方向に延在する、延伸超高分子量ポリオレフィンの一方向性補強要素の材料構造を提供するステップであって、ポリオレフィン補強要素の弾性率が少なくとも60GPaである、ステップと、
(b)弁プロテーゼの少なくとも一部の形態である材料構造を成形するステップと、
(c)高温及び高圧下で材料構造を圧密化するステップと、
を含む。
【0034】
好ましくは、これらの方法ステップは、弁プロテーゼの精密な個別製造を可能とするため所定の順序で適用される。しかしながら、これは必須ではなく、方法ステップは逆順になってもよい。例えば、まず材料構造を圧密化し、その後、例えば余剰の材料を取り除くことによって弁プロテーゼの少なくとも一部を成形することも可能である。
【0035】
圧密化は、好適には液圧プレスで行われ得る。圧密化とは、材料構造(の少なくとも一部)が比較的強固に密着して1つの単位体を形成することを意味するように意図される。圧密化する間の温度は、概してプレス温度により制御される。最低温度は、概して適当な圧密化速度が達成されるように選択される。これに関して80℃が好適な下限温度であり、好ましくはその下限は少なくとも100℃、より好ましくは少なくとも120℃、最も好ましくは少なくとも140℃である。最高温度は、延伸ポリオレフィン補強要素が例えば溶融によってその高い機械的特性を失う温度より低く選択される。好ましくはその温度は、延伸ポリオレフィン補強要素の溶融温度より少なくとも5℃、好ましくは少なくとも10℃、さらにより好ましくは少なくとも15℃低い。延伸ポリオレフィン補強要素が明確な溶融温度を示さない場合、溶融温度の代わりに、延伸ポリオレフィン補強要素がその機械的特性を失い始める温度が読み取られなければならない。好ましい超高分子量ポリエチレンの場合、概して149℃より低い温度、好ましくは145℃より低い温度が選択され得る。好ましくは圧密化する間の圧力は、少なくとも7MPa、より好ましくは少なくとも15MPa、さらにより好ましくは少なくとも20MPa、最も好ましくは少なくとも35MPaである。最適な圧密化時間は、概して温度、圧力及び厚さなどの条件に依存して5〜120分間の範囲であり、ルーチンの実験を通じて検証することができる。
【0036】
好ましくは、高温で圧縮成形した後の冷却も同様に圧力下で実施される。圧力は、好ましくは弛緩を防止するため、少なくとも温度が十分に下がるまで維持される。その温度は当業者により設定され得る。
【0037】
本発明に係る方法の別の好ましい実施形態において、ポリマーは、より好ましくは材料構造の圧密化の前に材料構造に適用される。ポリマーを圧密化前に材料構造に適用する利点は、それが少なくとも部分的に補強要素に含浸され、それにより材料構造の密着性の向上、ひいては耐久性の向上がもたらされることである。
【0038】
ここで、以下の図により本発明をさらに明らかにするが、しかしながらそれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1a】図1aは、本発明に係る弁プロテーゼを作製するための装置の断面を概略的に表し、装置は開放された状態にある。
【図1b】図1bは、本発明に係る弁プロテーゼを作製するための装置の断面を概略的に表し、装置は閉鎖された状態にある。
【図2】図2は、図1aの装置の詳細斜視図を概略的に表す。
【図3】図3は、本発明に係る心臓弁プロテーゼの内部体積を表す硬質モールドを概略的に表す。
【図4】図4は、図1の装置及び図3の硬質モールドを使用して製造された本発明に係る半製品心臓弁プロテーゼを概略的に表す。
【図5a】図5aは、本発明に係る心臓弁プロテーゼを概略的に表し、リーフレットはほぼ開放された位置にある。
【図5b】図5bは、本発明に係る心臓弁プロテーゼを概略的に表し、リーフレットは閉鎖された位置にある。
【0040】
図1aを参照すると、本発明に係る弁プロテーゼを製造するための装置1の例が示される。装置1は箱状ホルダ2を備え、クロージャ4を備える。ホルダ2内に、製造される弁の内側の形状を画定する硬鋼で作製された内側モールド10が提供される。内側モールド10の周囲にゴムモールド(8、12)が提供される。ホルダ2及びクロージャ4がゴムモールド(8、12)を取り囲み、それを加圧する。ホルダ2は鋼壁3を備え、一体化した加熱素子(図示せず)を備える。クロージャ4もまた鋼製で、一体化した加熱素子(図示せず)を備える。クロージャ4は、ホルダ2の内側空間5に部分的に嵌入する寸法を有する。クロージャ4には、ホルダ2の鋼壁3の内側ねじ切り部7に対応してクロージャ4をホルダ2に取付けるためのボルト孔6が提供される。下側ゴムモールド半体8は、ホルダ2の内側空間5の底面9に位置決めされる。上側モールド半体12は、下側モールド半体8の上に位置決めされる。双方のゴムモールド半体(8、12)が、材料構造として中空ブレード11を備える硬質モールド10を取り囲む。
【0041】
ここで図1bを参照すると、クロージャ4をホルダ2の内側空間5内に、それが上側モールド半体12と接触するまで降下させることにより、ゴムモールド(8、12)が加圧される。ボルト13がクロージャ4のボルト孔6に挿通され、部分的にホルダ2の鋼壁3のねじ切り部7内に配置される。
【0042】
好ましい実施形態において、下側及び上側モールド半体(8、12)は以下のとおり製造される。ホルダ2に、Dow Corningからの二液型硬化性シリコーンゴム樹脂Silastic(登録商標)MRTVシリコーンゴムを途中まで充填する(図2を参照)。次に硬質モールド10を、ホルダ2の壁3に接続された熱電対(図示せず)からそれを懸下することにより、下側モールド半体8のまだ硬化していないゴム内に途中まで入れる。硬質モールド10を離型剤で処理する。下側モールド半体8が硬化した後、下側モールド半体8から硬質モールド10を取り出し、再び元の位置に戻す。次に別の離型剤層を適用する。続いて、硬質モールド10が下側モールド半体8上に位置決めされた状態でゴム混合物のさらなる分量を下側モールド半体8の上面に適用し、上側モールド半体12を形成する。十分なゴムを適用することで、クロージャ4がホルダ2の内側空間5内に挿入されたときに、それが下側及び上側モールド半体(8、12)に対して十分な圧力を及ぼすことを確実にする。上側モールド半体12を硬化させた後、下側及び上側モールド半体(8、12)、並びに硬質モールド10を引き離し、残った離型剤を全て取り除く。必要であれば、例えばナイフによって材料の一部を切り取ることにより、硬質モールド10によって形成されるとおりの下側及び上側モールド半体(8、12)内のゴムキャビティを拡げてもよい。
【0043】
様々な弁の設計が当該技術分野において公知である。以下の節では、好ましい一実施形態について詳細に記載するが、しかしながら、それに基づけば、当業者は公知の製造方法を本発明の製造方法に適合させることができるであろう。
【0044】
本発明に係る弁の一製造方法では、下側モールド半体8をホルダ2の底面9に配置する。長手方向軸と±45°の角度をなす向きのストランド(110、111)であって、市販のDyneema(登録商標)SK75繊維から作製されたストランドを有する直径2cmの中空ブレード11を、図1及び図3に示されるとおり、硬質モールド10に被せて引き上げる。ストランド(110、111)の形態の補強要素は2つの方向に延在する。第1のストランド系110は、第2のストランド系111に対して約90°の角度で延在する。内側モールド10は、製造される弁の内側の形状を画定する。図3において、硬質モールド10は、部分的に図示されたブレード11により被覆されている。硬質モールドは、管状部分20と、長手方向中心軸22を有する星型部分21とを備える。星型部分21は、長手方向中心軸22に向かって湾曲した3つの表面23を備える。モールド10の3つの表面23は、弁プロテーゼの製造中、そのリーフレットの支持体となる。硬質モールド10の管状部分20は弁プロテーゼの最終形態の寸法を越えて延在し、それによりブレード11を容易に位置決めすることが可能となる。モールド10の両端に約2mmの余分な材料を残す。次にMylar(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(図示せず)をブレード11に被せて置く。次に、ブレード11、及びMylarフィルムにより被覆された硬質モールド10のアセンブリを、下側モールド半体8のモールドキャビティ内に置く。続いて、クロージャ4を上側モールド半体12と接触させるようにして上側モールド半体12及びクロージャ4を重ねて置く。ボルト13を嵌めて締め付け、モールド半体(8、12)に30MPaを超える推定圧力を加える。ボルト13を締め付けた後、加熱システムのスイッチを入れる。加熱システムは、硬質モールド10内に145℃の温度が生じるように制御する。硬質モールド10内の温度は熱電対で計測する。硬質モールド10を145℃の温度に1時間供したところで加熱のスイッチを切る。弁を含む装置全体を1日冷却させるとともに、次に開型した。次に成形した弁プロテーゼの表面及び裏面を慎重にエッジトリミング加工し、余分な材料を全て取り除く。エッジトリミング加工は、硬質モールド10が中にあるままの状態で、極めて鋭利な剃刀刃を使用し、鋸引きの動きをしながら行う。鋭利さ及び鋸引きの動きは、Dyneema(登録商標)SK75繊維の切断抵抗を考慮すると必須である。最後に、弁プロテーゼを硬質モールド10から引き剥がすことによって型から取り出す。上述の成形加工において、個々のDyneema(登録商標)繊維は弁プロテーゼの形状に一体に融着した。
【0045】
好ましい実施形態において、モールド内での材料構造の成形は、主に、又は(好ましくは)唯一、クリープ成形法によって行われる。これによって構造にリップルが形成されるリスクが低減し、ひいてはリップルが形成され得る従来の成形法と比べてより均一な構造及び滑らかな表面がもたらされる。
【0046】
本発明に係る弁の別の実施形態は上記と同様の手順を用いて作製し、違いは、ブレード11をMylar(登録商標)フィルムで被覆する前に、ブレード11の周囲に厚さ10μmの低密度ポリエチレンフィルムを適用したことである。温度は、低密度ポリエチレンフィルムを溶融して、それによりブレード11の繊維を含浸するのに十分な135℃に設定した。
【0047】
離型後、管状部分20の余分な材料を全て取り除き、そこに支持構造を取り付ける。図5aを参照すると、弁プロテーゼ40は、市販のニッケル−チタン合金であるNitinol(登録商標)製の環状支持構造43を備える。弁プロテーゼ40は、ブレード11から成形されるとおりの、支持構造43近傍の一体化部分である3つのリーフレット44をさらに備える。ブレード11は縫合糸(図示せず)によって支持構造43に固定される。
【0048】
図la及び図1bの装置1並びに図3の硬質モールド10を使用して製造された本発明に係る半製品心臓弁プロテーゼ30が、図4に示される。半製品心臓弁プロテーゼ30は、管状部分31と星型部分32とを含み、それらはストランド(110、111)を有するブレード11により一体形成される。星型部分32は、長手方向中心軸34に向かって湾曲した3つの表面33を含み、それらの表面33が半製品心臓弁プロテーゼ30のリーフレットを形成する。半製品心臓弁プロテーゼ30は、管状部分31の短縮並びに支持構造の追加など、さらなる加工ステップを必要とし得る。
【0049】
図5a及び図5bは、図4の半製品プロテーゼから製造された本発明に係る心臓弁プロテーゼ40を示す。心臓弁プロテーゼ40は、例えばホットナイフを使用することにより半製品心臓弁プロテーゼ30の管状部分31を短くし、その管状部分41の短くした端部に支持構造43を固定することにより得られる。弁プロテーゼ40は、例えば市販のニッケル−チタン合金であるNitinol(登録商標)製の環状支持構造43を備える。弁プロテーゼ40は、ブレード11から成形されるとおりの、支持構造43の近傍でそれら自体につながる弁の一体化部分である3つのリーフレット44をさらに備える。ブレード11は縫合糸(図示せず)によって支持構造31に固定される。当業者には、1つ、2つ、4つ、5つ、6つ又はさらにそれ以上など、他の数のリーフレット44も用いられ得ることは明らかである(図示せず)。
【0050】
事実上、この弁プロテーゼ40は星型部分42を形成する三尖弁形状の折り畳まれた壁を有する管である。リーフレット44は端部に向かう軽い圧力で容易に開放される。しかしながら、他方の方向の圧力によっては閉鎖する圧力が高まり、従って逆流が防止され得る。
【0051】
図5aでは、媒体が矢印A1に従う方向に流れるときの、開放された位置にあるリーフレット44が図示される。
【0052】
図5bは図5aの弁プロテーゼ30を示すが、ここではリーフレット44は閉鎖された位置にある。これは、媒体が矢印A2に従う方向に弁プロテーゼ40に向かって流れる結果である。図5aのリーフレット44は支持構造と比べて僅かに図4の半製品心臓弁プロテーゼ30の中心長手方向軸34に近付くように延在して構成されるため、媒体が矢印A2に従う方向に流れる結果としての小さい圧力差によりリーフレット44は互いに向かって押し付けられ、従って弁プロテーゼ40が閉鎖され、媒体が矢印A2に従い弁プロテーゼ40中を通って流れることが防止される。
【0053】
この弁は、望ましい流れ方向では僅かな圧力でもこの実施形態の開放を引き起こし得る一方、圧力が逆転した場合には直ちに閉鎖された位置に至り得るため、好ましくは閉鎖された位置における形状と一致して製造され、それにより逆流の回避が促進される。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの弁リーフレット(44)を備え、且つ少なくとも二方向に延在する、延伸超高分子量ポリオレフィンの一方向性補強要素の材料構造(11、110、111)で作製された植込み型弁プロテーゼ(40)であって、前記ポリオレフィン補強要素の弾性率が少なくとも60GPaである、弁プロテーゼ。
【請求項2】
前記少なくとも1つの弁リーフレット用の支持構造(31、43)をさらに備える、請求項1に記載の弁プロテーゼ。
【請求項3】
前記補強要素(11、110、111)の厚さが40μm未満、より好ましくは30μm未満、最も好ましくは20μm未満である、請求項1又は2に記載の弁プロテーゼ。
【請求項4】
前記材料構造が、前記延伸超高分子量ポリオレフィンの補強要素(110、111)の少なくとも1つの織布又は編上げブレード(11)を含み、好ましくは前記材料構造が前記延伸超高分子量ポリオレフィンの補強要素(110、111)の1つの織布又は編上げブレード(11)からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の弁プロテーゼ。
【請求項5】
前記材料構造が複数の重ね合わされた多層状の材料シート(11)を含み、前記シートが、前記延伸超高分子量ポリオレフィンの補強要素の単層が圧密化された積層体を含み、前記積層体内の2つの連続する単層の延伸方向が異なる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の弁プロテーゼ。
【請求項6】
前記補強要素(110、111)が繊維及び/又はテープを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の弁プロテーゼ。
【請求項7】
本質的にマトリックスバインダーを含まない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の弁プロテーゼ。
【請求項8】
前記材料構造(11)が、マトリックスバインダーに埋設された複数の補強要素(110、111)を備える、請求項1〜7のいずれか一項に記載の弁プロテーゼ。
【請求項9】
前記ポリオレフィンがポリエチレンを含み、好ましくは前記ポリオレフィンがUHMWPEを含み、より好ましくは前記ポリオレフィンが実質的にUHMWPEである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の弁プロテーゼ。
【請求項10】
前記材料構造の厚さが50〜500μm、好ましくは80〜400μm、最も好ましくは150〜250μmである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の弁プロテーゼ。
【請求項11】
前記少なくとも1つの弁リーフレット(44)が前記支持構造(31、43)の少なくとも一部と一体形成される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の弁プロテーゼ。
【請求項12】
前記支持構造(43)が、少なくとも部分的に形状記憶合金又は超弾性合金で作製される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の弁プロテーゼ。
【請求項13】
植込み型弁プロテーゼ(40)の製造方法であって、
(a)少なくとも二方向に延在する、延伸超高分子量ポリオレフィンの一方向性補強要素(110、111)の材料構造(11)を提供するステップであって、前記ポリオレフィン補強要素の弾性率が少なくとも60GPaである、ステップと、
(b)前記弁プロテーゼ(40)の少なくとも一部の形態である前記材料構造(11)を成形するステップと、
(c)高温及び高圧下で前記材料構造を圧密化するステップと、
を含む、方法。
【請求項14】
マトリックスバインダーが前記材料構造に適用され、高温及び高圧下でそれと圧密化される、請求項14に記載の方法。
【請求項15】
心臓弁プロテーゼである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の弁プロテーゼ。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2012−500074(P2012−500074A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523420(P2011−523420)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060729
【国際公開番号】WO2010/020660
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】