説明

検査システム及び動作方法

【課題】高調波励起技法のMFPA機能を提供するような検査時間がより迅速でありかつ励起源が比較的低コストである検査システムを提供する。
【解決手段】対象物を検査するための方法を提供する。本方法は、パルス状励起信号を対象物に印加する工程と、該パルス状励起信号に対する過渡応答信号を検出する工程と、を含む。本方法はさらに、該過渡応答信号を複数の直交関数とコンボリューションさせ複数の直交成分を生成する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的には検査システムに関し、またさらに詳細には、対象物内の欠陥検出のためのパルス状うず電流検査システム(pulsed eddy current inspection system)に関する。
【背景技術】
【0002】
腐食/クラックの検出は、金属製その他の導電性の構成要素及びシステム(例えば、航空機の機体や石油パイプラインなど)においてその構造上の完全性を保証するために望ましいものである。非破壊的評価(NDE)技法は、こうした構成要素やシステムに対する検査を追求している。金属製の機体構成要素を検査するためにはうず電流検査技法が利用されることが多い。異なる深さにおいて腐食の有無を検査するには、マルチ周波数検査を実施することが望ましい。さらに、強力なマルチ周波数/位相解析(MFPA)方式に至るように信号対雑音比を増大させると共に欠陥検出を向上させるためにうず電流応答に対する追加的な位相解析が利用されることもある。しかし、MFPA機能を備えた従来のうず電流検査システムでは典型的には、対象物内部の異なる深さを検査するごとに励起周波数を変更することによる一連の励起を用いた高調波励起技法が利用される。したがって、これらの技法を用いて検査データを収集するには時間がかかる。さらに、高調波励起技法で用いられる励起源はかなり高価となることがある。
【0003】
パルス状うず電流(pulsed eddy current:PEC)は励起パルスがマルチ周波数である性質を用いて構成要素を検査することから、PECシステム(PEC)検査は可能な解決法の1つである。さらに、このPEC応答に対して時間領域解析技法が適用される。周知の幾つかのPEC検査システムは、最大値ピークまでの時間、曲線のゼロ交差までの時間などの単一データ点、または同様の技法を用いてPEC応答曲線を特徴付けする。さらに、かなり厚みのある対象物を検査するには該対象物の異なる層に対応するデータ点を取得するために多数の時間ウィンドウが利用される。しかしながらこの技法では、対象物内のより深くにある欠陥に対応する信号に対する信号対雑音比が低くなり望ましくない。別のあるPEC検査システムはより妥当なノイズ抵抗性を得るために過渡的信号に対するフィルタ及び時間平均を利用する。しかしこれらのシステムはある特定の用途に合わせてチューニングさせるのが典型的であり、高調波励起を用いるEC方法ほど総合的でない。さらにこうしたシステムは、NDE団体によって採用されて検査者に広く使用されていると共に、多種多様な産業用途における自動式検査システムである高調波励起解析を用いる従来のEC方法との共通性を欠いている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、高調波励起技法のMFPA機能を提供するような検査時間がより迅速でありかつ励起源が比較的低コストである検査システムを開発することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
簡単に言うと、本発明の一実施形態では、対象物を検査するための方法を提供する。本方法は、パルス状励起信号を対象物に印加する工程と、該パルス状励起信号に対する過渡応答信号を検出する工程と、を含む。本方法はさらに、該過渡応答信号を複数の直交関数とコンボリューションさせ複数の直交成分を生成する工程を含む。
【0006】
別の実施形態では、対象物を検査するための方法を提供する。本方法は、パルス状励起信号を対象物に印加する工程と、該パルス状励起信号に対する過渡応答信号を検出する工程と、該過渡応答信号を複数の関数とコンボリューションさせ複数の直交成分を生成する工程と、を含む。該関数は、三角波、矩形波、台形波及びこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0007】
別の実施形態では、検査システムを提供する。本検査システムは、パルス状励起信号を供給するように構成されたパルス発生器と、パルス状励起信号を受信すること、電磁波フラックスをテスト対象物内に送信すること、及び対象物内の過渡的電磁波フラックスを検知して出力信号を発生させることを実施するように構成された探触子と、を含む。本検査システムはさらに、探触子からの出力信号をディジタル化しディジタル化した過渡応答信号を供給するように構成されたアナログ対ディジタル変換器と、複数の直交成分を生成するようにディジタル化した過渡応答信号を複数の直交関数とコンボリューションするように構成されたプロセッサと、を含む。
【0008】
別の実施形態では、検査システムを提供する。本検査システムは、パルス状励起信号を供給するように構成されたパルス発生器と、パルス状励起信号を受信すること、電磁波フラックスをテスト対象物内に送信すること、及び対象物内の過渡的電磁波フラックスを検知して出力信号を発生させることを実施するように構成された探触子と、を含む。本検査システムはさらに、探触子から出力信号を受け取ること、及び複数の直交成分を生成するように該出力信号を複数の直交関数とコンボリューションすることを実施するように構成された少なくとも1つの積分器を含む。該関数は、三角波、矩形波、台形波及びこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に関するこれらの特徴、態様及び利点、並びにその他の特徴、態様及び利点については、同じ参照符号が図面全体を通じて同じ部分を表している添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むことによってより理解が深まるであろう。
【0010】
詳細には以下で検討することにするが、本発明の実施形態は、検査時間が比較的迅速であるマルチ周波数/位相解析(MFPA)機能を提供する検査システムを提供するように機能する。具体的には本発明は、対象物に対する単一の走査から多くの周波数に対応する画像の作成を容易にし、これにより対象物の複数の層内にある欠陥検出を可能にする。ここで図面を参照すると、図1は、探触子14を介して対象物12を検査するためのパルス状うず電流検査システム10を表している。検査システム10は、探触子14にパルス状励起信号を供給するように構成されたパルス発生器16を含む。さらに探触子14は、対象物12内に電磁波フラックスを送信し、対象物12内の過渡的電磁波フラックスを検知してその出力信号18を発生するように構成されている。パルス状の励起によってテスト対象物12内にレンジが広い周波数(f)が導入される。さらに検査システム10は、探触子14からの出力信号18をディジタル化し、参照番号22で表したようなディジタル化した過渡応答信号をプロセッサ24に供給するように構成されたアナログ対ディジタル変換器20を含む。
【0011】
本発明の処理タスクの実行に関して本発明がある特定のプロセッサに限定されることがないことに留意すべきである。本明細書で使用している「プロセッサ」という用語は、本発明のタスクの実行に必要な算出すなわち計算を実行することが可能な任意の機械を意味するように意図している。「プロセッサ」という用語は構造化された入力を受け付けること、並びにこの入力を所定の法則に従って処理して出力を生成することが可能な任意の機械を意味するように意図している。さらに、本明細書で使用する場合の「ように構成され(configured to)」という表現は、そのプロセッサが、当業者であれば理解するであろうような本発明のタスクを実行するためのハードウェアとソフトウェアの組み合わせを装備していることを意味していることに留意すべきである。
【0012】
プロセッサ24は、ディジタル化した過渡応答信号22を多数の直交関数とコンボリューションし、以下でより詳細に記載するような多数の直交成分を生成するように構成されている。一実施形態では、その直交関数は正弦関数及び余弦関数を含む。ある種の実施形態では、その探触子14は2次元機械式ラスタスキャナ(図示せず)に装着させ、該スキャナによる制御に従って対象物14全体に及ぶ異なる位置から過渡応答を取得することがある。この例示的実施形態では、プロセッサ24は、この直交成分を用いて機械式スキャナにより制御された探触子位置に対応した多数の線形プロフィールを生成するように構成される。さらにプロセッサ24と結合させたディスプレイ28を介して、この線形プロフィールの2次元プロットをユーザに利用可能とさせることがある。ディジタル化した過渡応答信号22をコンボリューションするため並びに直交成分から線形プロフィールを作成するために、プロセッサ24はディジタル式またはアナログ式の埋め込み型信号処理を備えた計算アルゴリズムを含むことがあることは当業者であれば理解されよう。
【0013】
図2は、本発明に関する別のパルス状うず電流検査システム40の実施形態の模式図である。動作時において探触子14はパルス発生器16からパルス状励起信号を受信し、対象物12内の過渡的電磁波フラックスから出力信号42を生成する。図示した実施形態では、検査システム40は、探触子14から出力信号42を受け取り、この出力信号42を多数の関数とコンボリューションして複数の直交成分を生成するように構成させた多数の積分器(参照番号44、46及び48で示す)を含んでいる。さらにある種の実施形態では、その積分器44、46及び48は、出力信号42を多数の周波数でコンボリューションして対象物12内のそれぞれの深さに対応する複数の直交成分を生成するように構成されている。こうした関数の非限定の例には、正弦波、三角波、矩形波、台形波、その他が含まれる。図示した実施形態では、その検査システム40は3つの積分器を含む。しかし積分器は、これより多くの数とすることやこれより少ない数とすることも想定され得る。図1の実施形態の場合と同様に、検査システム40はさらに、直交成分から作成された複素面内の線形プロフィールのXYスキャッタプロットを表示するように構成させたディスプレイ50を含む。ここで図2を参照しながら記載した実施形態は、ディジタル式またはアナログ式の埋め込み型処理を備えたフロントエンド電子機器と一体に実現させる得るので有益である。このため図示した実施形態は、高速ディジタイザーの使用を要することなく、あるいは正弦関数や余弦関数などのより複雑な関数に関連した数学的演算を実行するのに必要なコンピュータ能力を伴うことなくMFPAの実現を容易にしている。この集積回路電子機器を介したハードウェア実現形態によりMFPA計算の信号処理速度が大幅に向上する。
【0014】
図3は、図1または2の検査システムを用いて対象物を検査するための方法60を表した流れ図である。図示したように、パルス状励起信号が対象物に印加される(工程62)。工程64では、このパルス状励起信号に対応する過渡応答信号が検出される。この過渡応答信号は直交関数とコンボリューションされ(工程66)、工程68で示したように直交成分が生成される。例示的な一実施形態では、その直交関数は正弦関数及び余弦関数を含む。より具体的な実施形態では、その正弦関数が離散正弦変換の形態をとり、かつその余弦関数は離散余弦変換である。これらの例は例証のためのものであり限定を意味しない。より一般的に、直交関数(複素数の場合には、ユニタリー関数とも呼ぶ)は、次式の一般条件を満足するa≦x≦bで規定された任意の関数φとすることができる。
【0015】
【数1】

上式において、δijはi=jの場合にσij=1また、i≠jの場合に0であり、かつ*は複素共役である。
【0016】
過渡応答信号から生成した直交成分は対象物内の欠陥の有無を表している。さらにある種の実施形態では、直交成分を用いXYスキャッタプロット(複素面軌道またはリサージュ)を作成するように複素面内でグラフ化することによって多数の線形プロフィールが作成される。一実施形態では、その複素面はインピーダンス面である。具体的には、ある選択した周波数に関してインピーダンス面上でベクトル軌跡の実数成分と虚数成分をマッピングするために離散変換が利用される。一実施形態では、初期時間(T)と正弦関数のゼロ位置の間の差に基づいて過渡応答に関する位相シフト(φ)が決定される。さらに、この位相シフト(φ)を用いて線形プロフィールまたはXYスキャッタプロットが調整されることがある。工程70では、直交成分に基づいて欠陥検出が実行される。過渡応答信号からの直交成分の生成及び該成分に基づく欠陥検出について図4〜8を参照しながら以下で説明することにする。
【0017】
図4は、図1の検査システム10を用いて得た過渡応答信号を表したグラフ80である。図示した実施形態では、横座標軸が経過時間(t)を表しており、また縦座標軸が振幅を表している。加えられたパルス状励起信号に応答して対象物12(図1参照)から受信した過渡応答信号は参照番号86で示している。この例示的な実施形態では、過渡応答信号86を参照番号88及び90で示した正弦関数及び余弦関数とコンボリューションさせている。図1に示した実施形態では、過渡応答信号86は、該過渡応答信号86の直交関数88、90とのコンボリューションの前にディジタル化される。欠陥検出のための直交成分を生成するための過渡応答信号に対するコンボリューションには多種多様な直交関数を利用できることは当業者であれば理解されよう。
【0018】
この例示的な実施形態では、コンボリューション工程の処理時間(Δt)及び位相シフト(φ)が図4のように示される。処理時間(Δt)はそのコンボリューション工程に対して選択されることがあり、またこの処理時間によって直交成分の基本波周波数(f=1/t)が規定されることに留意すべきである。ある種の実施形態では、その処理時間(Δt)は高調波励起技法の周波数に関する従来式のルックアップ・テーブルを用いて選択されることがある。さらに、過渡応答信号86の位相シフトφは、初期時間(T)及び正弦関数88のゼロ位置92に基づいて決定されることがある。この位相シフトφはさらに、直交関数を用いて作成した2次元プロットまたは線形プロフィールを調整するために利用されることがある。
【0019】
図5は、図4の過渡応答信号86に対して離散変換を実行することによって得られた直交成分100の処理済み信号を表したグラフである。上述したように、図示した実施形態では過渡応答信号86が離散的正弦及び余弦変換によりコンボリューションを受け直交成分が生成される。この例示的な実施形態では、処理済み信号106の直交成分は実数成分(SRe)102と虚数成分(SIm)104とを含む。これら実数成分102と虚数成分104は次式で表される。
【0020】
【数2】

(1)
【0021】
【数3】

(2)
さらに、この直交成分から生成したインピーダンス面軌道(すなわち、リサージュ)を複素面上でグラフ化し直交成分100のXYスキャッタプロットを描出する。別法として、処理済み信号106を複素面上で位相108(角度の尺度)及び長さ(半径の尺度)によって特徴付けすることが可能である。直交成分100の処理済み信号は、過渡応答信号86を第1の周波数(f=1/T)でコンボリューションすることにより得られた信号を表していることに留意すべきである。ある種の実施形態では、そのコンボリューション工程は、対象物のそれぞれの深さ(Δz)にその各々が対応している直交成分組を生成するために次式で表される多数の周波数にわたって反復させることがある。
【0022】
【数4】

(3)
多層性の対象物の欠陥検出のための直交成分組の生成については図9及び10を参照しながら以下で説明することにする。
【0023】
図6は、図1の検査システム10を用いて得られた単一周波数に関する対象物の2次元走査画像110である。図示した実施形態では、2次元機械式スキャナ(図示せず)を用いて画像110を取得している。この走査で使用した対象物12は、以下の図9で図示するような異なる層内に幾つかの人工的なキズを配置させたアルミニウム板の多層スタックである。図示した実施形態では、2次元走査画像110は単一周波数に関して探触子14(図1参照)から取得した過渡応答信号から計算した直交成分の長さを表している。対象物内の無欠陥の領域を参照番号112で表している。上述したように、過渡応答信号86(図4参照)を直交関数とコンボリューションして直交成分を生成する。図示した実施形態では、信号86を正弦及び余弦関数とコンボリューションして直交成分が生成される。2次元画像110は、2次元走査における探触子の各位置に対する正弦関数とのこうしたコンボリューションの結果である。さらに図7に示すように、こうした直交成分を用いて2次元走査から線形プロフィールが作成される。
【0024】
図7は、2次元走査110の中心を横切る水平線内の各位置に関して取得した過渡応答信号を正弦及び余弦関数とコンボリューションすることによって得られた対象物の線形プロフィール120を表したグラフである。図示した実施形態では、横座標軸が探触子の位置を表しており、また縦座標軸が直交成分の振幅を表している。さらに、正弦及び余弦変換によってそれぞれ計算した対象物の異なる層内にある欠陥を示す線形プロフィールを参照番号122及び124で表している。さらに、これらの線形プロフィール122及び124を図8に示すように複素面上でグラフ化している。図8は、図7の線形プロフィールを複素面132で表したグラフ130である。この実施形態では、図7の線形プロフィール120からの直交成分122及び124の各対が、複素面132の水平座標(124)及び垂直座標(122)によって表されている。この実施形態では、対象物の異なる層内にある欠陥を複素面132上で参照番号134で表している。具体的には、異なる層内に位置する欠陥が複素面132上で異なる長さ及び位相を有するように表される。ある種の実施形態では、検査対象物内の欠陥の有無を表すように、あるいは欠陥の深さを表すように欠陥指示134の位相値を用いることが可能である。さらに、過渡応答信号86(図4参照)のコンボリューションに関する時間間隔を変更することによってマルチ周波数解析を実行することがある。この実施形態では、コンボリューションの時間間隔及び位相シフトを調整し、複素面132上への線形プロフィールの描画を介して複数の層内で対象物のキズを検出することがある。例えば、対象物内のより深い位置にある欠陥を検出するために、比較的長い処理時間が選択されることがある。マルチ周波数解析を介した多層性の対象物の欠陥の検出については、図9及び10を参照しながら以下で説明することにする。
【0025】
図9は、パルス状うず電流検査探触子14及び多層性の対象物142の模式図140である。図示したように、対象物142は参照番号144、146、148、150及び152で表すような多数の層を含んでいる。層144、146、148、150及び152は参照番号154、156、158及び160で表すような欠陥を含むことがある。動作時において、層144、146、148、150及び152内における欠陥154、156、158及び160の有無、あるいはリフトオフ153の存在を検出するコンボリューションのための時間間隔を変化させることによってマルチ周波数解析を実行することがある。上述したように、探触子14からの過渡応答を複素面描出に変換した後に154、156、158及び160などのキズを検出し視覚化するために振幅/位相解析が利用されることがある。動作時において、ある特定の層内のキズを視覚化するように処理時間間隔及び位相シフトパラメータが調整されることがある。ある種の実施形態では、ある特定の層内に位置する欠陥からの信号を最大化するように較正試料の組が利用されることがある。さらにある種の実施形態では、単一走査からのこうした画像に対するリアルタイム処理のために幾つかの層に対する画像を同時に作成するように処理パラメータの組が利用されることがある。
【0026】
図10は図9の多層性対象物142の異なる層に対応する画像170を表している。図示したように、2次元走査画像172は探触子14が取得した第1の層144に対応するリフトオフ・レファレンスの指示174を含む。この例示的な実施形態では、マルチ周波数解析を利用して後続の層146、148、150及び152内の欠陥を検出している。例えば、層146に対応する画像176は、層146内の欠陥154に関する指示178を含む。同様に、層148に対応する画像180は、層148内の欠陥156に関する指示182を含む。さらに、画像180はまた層150内の欠陥158に対応するものなどこれより深い層内の欠陥の指示184を含むこともある。さらに、図示したように、層150に対応する画像186は、欠陥158に対応する指示184と、層148内の欠陥156に対応する指示182と、を含む。さらに、画像186はさらに、層152内の欠陥160に対応する指示188も含む。同様に、層152に対応する画像190は、欠陥160に対応する応答188を、欠陥158に対応する指示184と一緒に含む。したがって、浅い欠陥に対応する指示はより低周波数の画像内に存在することがある。ある種の実施形態では、2枚以上の画像の線形合成を利用して、より深い欠陥の画像内にある浅い欠陥からの指示を減衰させることができる。
【0027】
図示した実施形態では、対象物142にわたる異なる箇所からの過渡応答信号を上述のような複数の直交関数とコンボリューションさせて、異なる層144、146、148、150及び152に対応する画像172、176、180、186及び190を形成させている。このコンボリューション工程は第1の周波数で実行されると共に、複数の周波数にわたって反復させ、対象物142内のそれぞれの深さに対応する複数の直交成分組を生成している。上述したように、これらの直交成分は様々な層内の欠陥の有無を表している。直交成分の実数成分(x成分)と虚数成分(y成分)は位相及び振幅、その他に変換することが可能である。この例示的な実施形態では、直交関数は正弦関数及び余弦関数である。しかし、例えば図2に示した埋め込み電子機器の実施形態に関連して上で検討したように、簡略な別の関数を利用して過渡応答信号をコンボリューションして直交成分を生成することもある。図11〜14は、探触子14から取得した過渡応答信号をコンボリューションするために利用できる例示的な関数を表している。
【0028】
図11及び12に示したように、過渡応答信号とコンボリューションするための正弦または余弦関数202を近似するために参照番号204及び206で表したような矩形関数を用いることがある。同様に、過渡応答信号をコンボリューションするための正弦または余弦関数202を近似するために図13及び14に示すような三角関数208または台形関数210を利用することもある。対象物内の欠陥を表す直交成分を生成するように過渡応答信号をコンボリューションするには別の多くの関数を用い得ることは当業者であれば理解されよう。図11〜14に示した比較的簡単な関数は例えば、図2を参照しながら上述した埋め込み式電子機器の実施形態と共に利用される。
【0029】
本明細書の上で記載した方法及びシステムの様々な態様は、航空宇宙産業及び石油ガス産業などの様々なNDT用途で有用性を有する。上述した方法及びシステムによれば、うず電流センサからの過渡的うず電流応答を利用するマルチ周波数/位相解析(MFPA)を介して構成要素内の欠陥検出が可能となる。具体的には、本方法及びシステムは単一の2次元走査を利用して幾つかの周波数に関する画像を作成し、対象物の様々な層内における欠陥検出を可能にしている。これらの方法及びシステムは、より高速の検査時間及び比較的低コストの励起源を提供する一方、対象物内のより深い欠陥に対応する信号の信号対雑音比を比較的高くするので有利である。さらに、上述のように過渡応答を処理しさらに複素面内で直交成分を画像化する方法によって、高調波励起による目下のECシステムで既に利用されている強力なツールを提供することができる。既存のECシステムのオペレータは、様々な欠陥に対する複素面軌道(リサージュ)の描出の作業を行う訓練を受けており、そのユーザマニュアル内にリサージュの解釈が含まれている。PEC応答に関する上述した処理は、既に開発済みでありかつ広く採用されているEC撮像の規約の利点を利用できるという恩恵がある。
【0030】
本発明のある種の特徴についてのみ本明細書において図示し説明してきたが、当業者によって多くの修正や変更がなされるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神の範囲に属するこうした修正や変更のすべてを包含させるように意図したものであることを理解されたい。また、図面の符号に対応する特許請求の範囲中の符号は、単に本願発明の理解をより容易にするために用いられているものであり、本願発明の範囲を狭める意図で用いられたものではない。そして、本願の特許請求の範囲に記載した事項は、明細書に組み込まれ、明細書の記載事項の一部となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の例示的な一実施形態によるパルス状うず電流検査システムの模式図である。
【図2】本発明のパルス状うず電流検査システムの別の実施形態の模式図である。
【図3】図1または2の検査システムを用いて対象物を検査するための方法を表した流れ図である。
【図4】図1の検査システムを用いて取得した過渡応答信号及び例示的な直交関数を表したグラフである。
【図5】図4の過渡応答信号の離散変換を実行することにより得られた処理済み信号を複素面上に表したグラフである。
【図6】図1の検査システムを用いて得られた単一周波数に関する対象物の2次元走査画像である。
【図7】図6の2次元走査から単一水平線に関して計算して、過渡応答信号を正弦及び余弦関数とコンボリューションすることによって得られた線形プロフィールを表したグラフである。
【図8】図7の線形プロフィールを複素面内に表したグラフである。
【図9】パルス状うず電流検査探触子及び多層性の対象物の模式図である。
【図10】図9の多層性の対象物の異なる層に対応する画像である。
【図11】図4の過渡応答信号をコンボリューションするために利用される例示的な一関数を表したグラフである。
【図12】図4の過渡応答信号をコンボリューションするために利用される別の例示的な関数を表したグラフである。
【図13】図4の過渡応答信号をコンボリューションするために利用される別の例示的な関数を表したグラフである。
【図14】図4の過渡応答信号をコンボリューションするために利用される別の例示的な関数を表したグラフである。
【符号の説明】
【0032】
10 PEC検査システム
12 対象物
14 探触子
16 パルス発生器
18 応答信号
20 ADC
22 ディジタル化された信号
24 プロセッサ
26 2次元プロット
28 ディスプレイ
40 PEC検査システム
42 応答信号
44 積分器
46 積分器
48 積分器
50 処理済み信号
60 検査処理過程
62 処理工程
64 処理工程
66 処理工程
68 処理工程
70 処理工程
80 PEC応答及び変換関数
82 時間
84 振幅
86 PEC応答信号
88 正弦関数
90 余弦関数
100 複素面上の処理済み信号
102 実数成分
104 虚数成分
106 処理済み信号
108 位相
110 2d走査
112 無欠陥の領域
120 欠陥の線形プロフィール
122 正弦変換で計算した線形プロフィール
124 余弦変換で計算した線形プロフィール
130 複素面上の線形プロフィール
132 複素面
134 単一周波数のプロフィール
140 多層性対象物向けの検査システム
142 対象物
144 層
146 層
148 層
150 層
152 層
154 欠陥
156 欠陥
158 欠陥
160 欠陥
170 様々な層に対応する画像
172 第1の層に対応する画像
174 2d走査
176 第2の層に対応する画像
178 第2の層内の欠陥に対応する応答
180 第3の層に対応する画像
182 第3の層内の欠陥に対応する応答
184 第4の層内の欠陥に対応する応答
186 第4の層に対応する画像
188 第5の層内の欠陥に対応する応答
190 第5の層に対応する画像
202 正弦または余弦関数
204 矩形関数
206 矩形関数
208 三角関数
210 台形関数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を検査するための方法であって、
パルス状励起信号を対象物に印加する工程と、
前記パルス状励起信号に対する過渡応答信号を検出する工程と、
複数の直交成分を生成するように前記過渡応答信号を複数の直交関数とコンボリューションさせる工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記直交成分を用いて複数の線形プロフィールを作成する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記線形プロフィールを複素面内にグラフ化する工程をさらに含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記直交関数は正弦関数及び余弦関数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記コンボリューション工程が第1の周波数f=1/Tで実施されており、また前記コンボリューション工程は複数の周波数{f=1/T、...、f=1/T}にわたって反復されて複数の直交成分組が生成されていると共に、該直交成分組の各々は対象物内のそれぞれの深さΔzに対応している、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記直交成分は対象物内の欠陥の有無を表している、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
対象物を検査するための方法であって、
パルス状励起信号を対象物に印加する工程と、
前記パルス状励起信号に対する過渡応答信号を検出する工程と、
複数の直交成分を生成するように前記過渡応答信号を複数の関数とコンボリューションさせる工程であって、該関数は三角波、矩形波、台形波及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるコンボリューション工程と、
を含む方法。
【請求項8】
パルス状励起信号を供給するように構成されたパルス発生器(16)と、
前記パルス状励起信号を受信すること、テスト対象物(12)内に電磁波フラックスを送信すること、並びに該対象物(12)内の過渡的電磁波フラックスを検知して出力信号(18)を生成することを実施するように構成された探触子(14)と、
前記探触子(14)からの出力信号(18)をディジタル化しディジタル化した過渡応答信号(22)を供給するように構成されたアナログ対ディジタル変換器(20)と、
複数の直交成分(26)を生成するように前記ディジタル化した過渡応答信号を複数の直交関数とコンボリューションするように構成させたプロセッサ(24)と、
を備える検査システム(10)。
【請求項9】
パルス状励起信号を供給するように構成されたパルス発生器(16)と、
テスト対象物(12)内に電磁波フラックスを送信すること、並びに該対象物(12)内の過渡的電磁波フラックスを検知して出力信号(42)を生成することを実施するように構成された探触子(14)と、
前記探触子(14)からの出力信号(42)を受信すること、並びに複数の直交成分を生成するように該出力信号(42)を複数の直交関数とコンボリューションすることを実施するように構成させた少なくとも1つの積分器(44)であって、該関数は三角波、矩形波、台形波及びこれらの組み合わせからなる群より選択される積分器(44)と、
を備える検査システム(10)。
【請求項10】
対象物を検査するための方法であって、
パルス状励起信号を対象物に印加する工程と、
前記パルス状励起信号に対する過渡応答信号を検出する工程と、
複数の直交成分を生成するように前記過渡応答信号を正弦関数及び余弦関数とコンボリューションさせる工程と、
前記直交成分を用いて対象物内の欠陥を検出する工程と、を含んでおり、
前記直交成分は実数成分(x成分)、虚数成分(y成分)、位相、振幅及びこれらの組み合わせからなる群より選択される方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−46121(P2008−46121A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204263(P2007−204263)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】