説明

検査チップ及び検査チップシステム

【課題】多数の送液処理を迅速に且つ正確に行うことができる検査チップを提供する。
【解決手段】検査チップは、互いに異なる種類のプローブが固定された複数のビーズを収容するための反応流路と、エヤギャップを介して互いに隔てられた複数の液を保持するための第1及び第2の液溜め流路と、を含む1本の連続した流路を有する。圧力差を利用して一方の液溜め流路から反応流路を通過して他方の液溜め流路に液を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペプチド、タンパク質、DNA、RNA等の生体物質を検出するための検査チップ及びそれを用いた検査チップシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムの塩基配列の解読が終了し、生体をDNAレベルで理解し、生命現象の理解や病気の検査に活用しようとする動きが活発化してきている。そのためには、遺伝子型や細胞内での遺伝子の発現状況の違いを同時に多数判別し、各疾病間あるいは個人間で比較することが重要である。遺伝子の発現状況を調べる有力な方法として、スライドガラス等の固体表面上に数多くのプローブを数種類に区分けしたプローブチップ、又は、DNAチップ、さらには、プロテインチップが用いられている。
【0003】
このようなチップを作る技術には、光化学反応と半導体工業で広く使用されるリソグラフィー技術を用いて、スライドガラス上に区画された多数のセルに、設計された配列のオリゴマーを1塩基ずつ合成していく方法(非特許文献1)、複数種プローブを各区画に1つ1つ植え込んでいく方法(非特許文献2)等がある。
【0004】
一方、プローブを固定した微粒子(ビーズ)を多数用意し、これらの中から数種のビーズを集めることで、生体物質検査チップを作成する方法が提案されている(特許文献1)。この方法では、溶液中の化学反応を利用してプローブを固定するから、ビーズ毎にプローブ密度にばらつきのないプローブチップを作成することができる。従って、高精度の検査チップを構成することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−243997号公報
【非特許文献1】Sience 251、767−773(1991)
【非特許文献2】Anal.Chem.69、543−551(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された検査チップを用いると、多数の種類のDNAを同時に検出することができる。しかしながら、DNAの検出には、前処理工程、ハイブリダイゼイション反応工程、洗浄工程等の多数の工程を実行する必要がある。更に、洗浄工程にて使用する洗浄液の種類と数は、サンプル毎に異なる。従って、多数の送液処理を迅速に且つ正確に行う必要がある。
【0007】
本発明の目的は、多数の送液処理を迅速に且つ正確に行うことができる検査チップ及び検査チップシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、検査チップは、互いに異なる種類のプローブが固定された複数のビーズを収容するための反応流路と、エヤギャップを介して互いに隔てられた複数の液を保持するための第1及び第2の液溜め流路と、を含む1本の連続した流路を有する。
【0009】
圧力差を利用して一方の液溜め流路から反応流路を通過して他方の液溜め流路に液を移動させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、多数の送液処理を迅速に且つ正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1を参照して本発明による生体物質検査システムの例を説明する。本例の生体物質検査システムは、検査チップを挿入するためのチップ取り入れ窓101、蛍光強度を計測するために検査チップを配置する光学ステージ102、検査チップを移動させる移動ステージ103、ハイブリダイゼイション反応を行うために検査チップを配置する反応ステージ104、検査チップ内にて送液を行うためのバルブ105及びポンプ113、電源106、モータドライバ107、制御基板108、情報アクセスパネル109、及び、蛍光強度を計測するための光学系を有する。光学系は、レーザ光源110、集光レンズ、ミラー114、受光素子111、112等の多くの光学部品を含む。
【0012】
モータドライバ107及び制御基板108は、移動ステージ103、バルブ105及びポンプ113を操作するために使用される。電源106は各種部品に電気を供給する。情報アクセスパネル109は、計測条件の入力ならびに、計測結果の出力に使う。
【0013】
本発明による生体物質検査システムはDNA、RNA、タンパク質、ペプチド等の生体関連物質の検出が可能であるが、以下にDNAを検出する場合を例に説明する。
【0014】
先ず、チップ取り入れ窓101から検査チップを挿入する。検査チップ内には、プローブを固定したビーズが装填されており、更に、蛍光標識されたDNAを含むサンプル、プレハイブリ液、洗浄液等が収容されている。検査チップの構造の詳細は後に説明する。次に、移動ステージ103によって、検査チップを反応ステージ104に搬送する。反応ステージ104にて、検査チップ内にて、プレハイブリ液を、プローブを固定したビーズに通過させ、プレハイブリダイゼイションを起こさせる。
【0015】
次に、DNAを含むサンプル液を、プローブを固定したビーズに通過させ、ハイブリダイゼイションを起こさせる。ハイブリダイゼイションによってサンプル中のDNA断片はプローブのDNAと相補鎖結合する。ハイブリダイゼイション終了後、未反応のDNAを除去するために、ビーズを複数種類の洗浄液によって洗浄する。サンプル液及び洗浄液の送液は、ポンプ113及びバルブ105を用いる。このような送液の詳細は後に詳細に説明する。
【0016】
洗浄終了後、移動ステージ103によって検査チップを光学ステージ102まで移動させる。光学ステージ102にて、レーザ光源110からのレーザは、レンズによって集光されてからプローブに照射される。プローブに捕獲されたサンプル中のDNAは蛍光標識されているから、レーザが照射されると蛍光を発する。この蛍光はフィルターにより波長選択され光検出器により検出される。光検出器として、CCDカメラやフォト・マルチプレクサが用いられる。光検出器によって得られた画像は情報アクセスパネル109に表示される。
【0017】
ビーズは、検査チップ内の流路に沿って並べられて配置されている。ビーズ毎に異なるプローブが固定されている。従って、流路におけるビーズの位置によって、プローブの種類が特定される。ビーズの位置を検出するためにビーズ自身にも蛍光標識が付されてよい。ビーズからの蛍光を計測するには、受光素子であるAPD(アバランシェ・フォト・ダイオード)が用いられる。APDは、ビーズからの蛍光とDNAからの蛍光を波長分離する。APDを用いる代わりにCCDカメラを用いてもよい。CCDカメラは、APDのように波長分離を行わないが、ビーズの位置検出を行うことができる。APDよりも高感度な受光素子であるPMT(フォト・マルチプレクサ)を用いてもよい。波長分離は、ダイクロイック・ミラーを用いることにより可能である。
【0018】
図2を参照してDNAを検出する手順の概略を説明する。DNAを検出する手順は、次の5つの工程、即ち、「前処理工程」、「プレハイブリ工程」、「反応工程」、「洗浄工程」、「検出工程」を含む。前処理工程では、生体よりDNAを抽出し、それに蛍光標識を付する。こうして、DNAを含むサンプルが準備される。プレハイブリ工程では、プレハイブリ液とプローブのDNAをプレハイブリダイゼイションさせる。反応工程では、サンプル液のDNAとプローブのDNAをハイブリダイゼイションさせる。洗浄工程では、未反応のDNAを洗浄する。検出工程では、プローブに捕捉されたDNAからの蛍光を検出する。
【0019】
図3を参照して、検査チップ内に装填されているビーズを説明する。図示のように、プローブが固定されたビーズ1は、検査チップに形成された反応流路2内に配置されている。ビーズ1の作成方法は特許文献1に記載されており、ここではその説明を省略する。図示の例では、球形のビーズが装填されているが、矩形あるいは他の形状のビーズを用いてもよい。ビーズの寸法は、1〜300ミクロン程度であるが、本例では、100ミクロンの球形ビーズを用いた場合を説明する。ビーズの材質は、ガラスあるいはプラスチックが普通であるが金等の金属も可能である。ここではガラスを用いたものについて説明を行う。
【0020】
ビーズは、反応流路2にて、1次元的、2次元的、又は、3次元的に保持される。図3は3次元的に保持されている場合を示す。
【0021】
反応流路2は、キャピラリーのような円管状の流路であってよいが、好ましくは、ガラス基板上に形成されたシリコン樹脂の一種であるPDMS(Polydimethylsiloxane、(C26SiO)n)からなる流路であってよい。PDMSを流路の材料として用いる利点として以下の3点がある。第1に、型を作ってしまえば、流路の形成は非常に簡単で、かつ安価である。第2に、キャピラリーとは異なり、多様な形状の流路を形成することができる。即ち、複雑な形状及び断面の流路を簡単に形成することができる。第3に、光学的な特性が優れている。即ち、自家蛍光が非常に小さいから、DNAの蛍光強度を計測する場合に誤差又はノイズが小さくなる。以下に、反応流路2は、PDMSによって形成されているものとして、説明する。尚、流路の材料としてはPDMSの他に、ガラス、硬質樹脂、及び、シリコンを用いることも可能である。
【0022】
図4は、本発明による検査チップを使用してDNAを検出する手順を説明する。ここでは、既に前処理工程が終了しているものとする。まずプレハイブリ工程では、プレハイブリ液をプローブが固定されたビーズが装填された流路を往復させる。それによってプレハイブリダイゼイションを行う。次に反応工程では、DNAを含むサンプル液を、プローブが固定されたビーズが装填された流路を往復させる。それによって、サンプル液のDNAとプローブのDNAがハイブリダイゼイションする。第1〜第3洗浄工程では、洗浄液を、プローブが固定されたビーズが装填された流路を往復させる。それによって未反応のDNAが洗浄され除去される。3つの洗浄工程では異なる洗浄液が使用される。検出工程では、ビーズにレーザ光を照射し、プローブに捕捉されたDNAからの蛍光を検出する。
【0023】
図5を参照して本発明による検査チップ30の構造を説明する。本例の検査チップ30は、第1の搬送ポート3c、第1の液溜め流路3、第1のエア溜め流路3b、反応流路2、第2のエアエア溜め流路4b、第2の液溜め流路4、及び、第2の搬送ポート4cを有する。第1の搬送ポート3cから第2の搬送ポート4cまで1本の連続した管によって形成されている。しかしながら内径は一定ではない。例えば、エア溜め流路3b,4b及び反応流路2の内径は、液溜め流路3,4の内径より小さい。反応流路2内には互いに異なる種類のプローブが固定された複数のビーズ1が格納されている。
【0024】
液溜め流路3,4はプレハイブリ液、サンプル液、及び、洗浄液を収容する。本例の検査チップは、図4に示したような、3回の洗浄工程を行うように構成されており、液溜め流路に収容する洗浄液は3種類となる。使用する洗浄液の種類の数は、検査対象により異なる。
【0025】
液溜め流路3,4の内端には、それぞれ液検知部3a,4aが設けられている。液検知部3a,4aの両側には、発光部と受光部からなる光センサ(図示なし)が設けられてよい。光センサによって、液検知部3a,4aを液が通過したか否かが検出される。液検知部3a,4aは液溜め流路内の液が見えるように透明な材料によって構成される。
【0026】
エア溜め流路3b,4bは、液溜め流路3,4と反応流路2の間の送液を安定化するために設ける。エア溜め流路3b,4bの機能は後に説明する。
【0027】
搬送ポート3c,4cは、液を搬送するときに使用する。搬送ポート3c,4cの一方に高圧を印加し、他方を大気に開放することによって、送液を行う。送液は、圧力差を利用して行うため、搬送ポート3c,4cの一方に高圧を印加し、他方に低圧を接続してもよい。検査チップを図1の生体物質検査システムに装着したとき、搬送ポート3c,4cの切り替えは、バルブ105を切り替えることにより行う。
【0028】
本例によると、各液溜め流路3,4に、複数の異なる液を同時に保持する。液と液の間にエヤギャップを設ける。エヤギャップを設けることによって、隣接する2つの液の混合が防止される。各液は、両側の、即ち、前後のエヤギャップに挟まれて保持され、その状態で液溜め流路3,4からエア溜め流路3b,4bへ移動し、更に反応流路2内に移動する。エヤギャップが液溜め流路3からエア溜め流路3bに移動すると、内径が小さくなるため、エヤギャップの長さが長くなる。エヤギャップが、反応流路2から、エア溜め流路4bを経由して液溜め流路4に移動すると、エヤギャップの長さは短くなる。
【0029】
本例では、各エア溜め流路3b,4bの容積が、1つのエヤギャップの体積より大きくなるように、エア溜め流路3b,4bの寸法及び径を設定する。従って、1つのエヤギャップが、エア溜め流路3b、反応流路2、及び、エア溜め流路4b内を同時に占有することはない。また、エア溜め流路3b,4bの圧力損失が、反応流路2の圧力損失と略同一になるように、エア溜め流路3b,4bの寸法及び径を設定する。
【0030】
一般に、反応流路2内はビーズが充填されており、圧力損失は大きい。エア溜め流路3b,4bの圧力損失が小さいと、エア溜め流路3b,4bと反応流路2の間で、圧力損失の急激な変化が起きる。例えば、エア溜め流路3bから反応流路2内に液が入るとき、液と共に移動しているエヤギャップは圧縮される。逆に、反応流路2からエア溜め流路4bに液が移動するとき、液と共に移動しているエヤギャップは膨張する。このような圧縮及び膨張は、安定した送液を妨げる。本例ではエア溜め流路3b,4bの圧力損失を反応流路2の圧力損失と略同一とすることにより、圧力損失の急激な変化が起きない。そのため、安定した送液が実現できる。
【0031】
次に、図6を参照して本発明による検査チップの操作方法を説明する。図6(a)は、第1の液溜め流路3に、第3洗浄液605、第2洗浄液604、第1洗浄液603、及び、プレハイブリ液602が、順番に、充填されている状態を示す。反応流路2に近い側に第3洗浄液605が配置され、第1の搬送ポート3cに近い側にプレハイブリ液602が配置されている。隣接する液の間にはエアギャップ600が挿入されている。尚、液溜め流路3,4における空の箱は、液が充填されていない状態を表わす。
【0032】
ユーザが、このように、液を第1の液溜め流路3に充填してもよいが、予めこのような液が装填されている検査チップを用いてもよい。
【0033】
次に、図6(b)に示すように、ユーザは、第1の搬送ポート3cを介して、第1の液溜め流路3内に、サンプル液601を充填する。このときサンプル液601とプレハイブリ液602の間にエアギャップ600が挟まれる。サンプル液601を充填することによって、第3洗浄液605、第2洗浄液604、第1洗浄液603、及び、プレハイブリ液602は、反応流路2の方向に移動する。こうして、第1の液溜め流路3に、第3洗浄液605、第2洗浄液604、第1洗浄液603、プレハイブリ液602及びサンプル液601が充填される。但し、隣接する液の間には、エアギャップ600が挿入されている。図6(b)の状態の検査チップを図1に示した生体物質検査システムに搭載する。
【0034】
第1の搬送ポート3cに高圧を印加し、第2の搬送ポート4cを大気開放する。それによって、図6(c)に示すように、第1の液溜め流路3内の第3洗浄液605、第2洗浄液604、及び、第1洗浄液603が、順に、反応流路2を通過し、第2の液溜め流路4内に移動する。第3洗浄液605、第2洗浄液604、及び、第1洗浄液603が、第1の液溜め流路3から反応流路2を経由して第2の液溜め流路4内に移動しても、隣接する液の間のエヤギャップ600は、そのまま液と共に移動する。従って、隣接する液が混合することはない。
【0035】
先ず、プレハイブリ工程を実行する。第1の搬送ポート3cに高圧を印加し、第2の搬送ポート4cを大気開放する。図6(d)に示すように、第1の液溜め流路3内のプレハイブリ液602が反応流路2を通過する。それによってプレハイブリダイゼイションが起きる。反応流路2を通過したプレハイブリ液602は、第2の液溜め流路4内に移動する。
【0036】
次に、反応工程を実行する。第1の搬送ポート3cに高圧を印加し、第2の搬送ポート4cを大気開放する。第1の液溜め流路3内のサンプル液601が反応流路2を通過する。それによって、サンプル液のDNAとプローブのDNAがハイブリダイゼイションする。反応流路2を通過したサンプル液601は、第2の液溜め流路4内に移動する。
【0037】
次に、図6(e)に示すように、第2の搬送ポート4cに高圧を印加し、第1の搬送ポート3cを大気開放する。それによって、第2の液溜め流路4のサンプル液601が反応流路2を通過する。それによって、サンプル液のDNAとプローブのDNAがハイブリダイゼイションする。次に、図6(f)に示すように、第1の搬送ポート3cに高圧を印加し、第2の搬送ポート4cを大気開放する。それによって、第1の液溜め流路3内のサンプル液601が反応流路2を通過する。それによって、サンプル液のDNAとビーズに固定されたプローブがハイブリダイゼイションする。こうして、サンプル液601を、所定の回数、反応流路2を往復させる。
【0038】
図6(g)に示すように、第2の液溜め流路4内に、第3洗浄液605、第2洗浄液604、第1洗浄液603、プレハイブリ液602及びサンプル液601が充填されているとき、第2の搬送ポート4cに高圧を印加し、第1の搬送ポート3cを大気開放する。先ず、第2の液溜め流路4内のサンプル液601が反応流路2を通過し、最後のハイブリダイゼイションを行う。次に第2の液溜め流路4内のプレハイブリ液602が反応流路2を通過する。こうして、図6(h)に示すように、第2の液溜め流路4のサンプル液601及びプレハイブリ液602が第1の液溜め流路3内に移動する。
【0039】
次に洗浄工程を実行する。第2の搬送ポート4cに高圧を印加し、第1の搬送ポート3cを大気開放する。図6(i)に示すように、第2の液溜め流路4内の第1洗浄液603が反応流路2を通過し、第1の液溜め流路3内に移動する。それによって、第1洗浄工程が行われる。同様に、第2の搬送ポート4cに高圧を印加し、第1の搬送ポート3cを大気開放する。図6(j)に示すように、第2の液溜め流路4内の第2洗浄液604が反応流路2を通過し、第1の液溜め流路3内に移動する。それによって、第2洗浄工程が行われる。第2の搬送ポート4cに高圧を印加し、第1の搬送ポート3cを大気開放する。図6(k)に示すように、第2の液溜め流路4内の第3洗浄液605が反応流路2を通過し、第1の液溜め流路3内に移動する。それによって、第3洗浄工程が行われる。こうして、第1、第2、及び第3洗浄工程を行うことによって、ビーズに付着した未反応DNAが洗い流される。こうして洗浄工程が終了すると、検査工程が実行される。
【0040】
図6では、エア溜め流路3b,4bは図示されていない。しかしながら、実際には、第1の液溜め流路3内の液が反応流路2を経由して第2の液溜め流路4内に移動するとき、エア溜め流路3b,4bを通過する。逆に、第2の液溜め流路4内の液が反応流路2を経由して第1の液溜め流路3内に移動するとき、エア溜め流路4b,3bを通過する。
【0041】
液が移動するとき、その前後のエヤギャップも移動する。本例によると、エアギャップの容量よりもエア溜め流路3,4の容積のほうが大きい。従って、1つのエアギャップが、エア溜め流路3,4及び反応流路2を同時に占有することはない。
【0042】
また、エア溜め流路3b,4bの圧力損失は、反応流路2の圧力損失に略等しいように、設定する。本例によると、圧力損失の急激な変化はないから、エア溜め流路3b,4bから反応流路2内に移動するエアギャップの圧縮と、反応流路2からエア溜め流路3b,4bに移動するエアギャップの膨張を回避することができる。従って、安定した送液を行える。
【0043】
また、隣接する液体の間にエアギャップを入れることにより、液検知部3a,4aにおける送液の検出が容易となる。例えば、サンプル液などの液体とエアギャップの気体の光学的な透過率又は反射率の差異を利用して、送液の検出を行うことができる。
【0044】
本例によると、検査工程が終了後、検査チップは、そのまま廃棄される。即ち、サンプル液、ハイブリ液、及び洗浄液の廃液は、検査チップ内に保持されたまま、廃棄される。従って、これらの廃液の廃棄を安全にかつ簡単にできる。
【0045】
本例によると、一対の搬送ポートの一方に高圧を印加し、他方を大気開放するだけで、検査チップ内の全ての液を、順に送液できる。従って、検査チップを移動させるための移動機構が不要であり、生体物質検査チップシステムの小型化が可能となる。
【0046】
図6の例では、サンプル液601、プレハイブリ液602、及び洗浄液603,604,605を第1の液溜め流路3から第2の液溜め流路4に搬送し、それを第1の液溜め流路3に戻した。即ち、往復送液を行っている。しかしながら、必要に応じて一方向の送液であってもより。例えば、プレハイブリ液602、サンプル液601、第1洗浄液603、第2洗浄液604、第3洗浄液605、を、この順に、第1の液溜め流路3に装填する。プレハイブリ液602が反応流路2に最も近く、第3洗浄液605が反応流路2から最も遠くに配置する。次に、第1の搬送ポート3cに高圧を印加し、第2の搬送ポート4cを大気開放する。先ず、プレハイブリ液602が、反応流路2を通過し、第2の液溜め流路4に移動する。次に、サンプル液601が、反応流路2を通過し、第2の液溜め流路4に移動する。同様に、第1洗浄液603、第2洗浄液604、及び、第3洗浄液605が、順に、反応流路2を通過し、第2の液溜め流路4に移動する。こうして、一方向の送液によってハイブリダイゼイションを実行することができる。
【0047】
図7及び図8を参照して説明する。図7は本例の生体物質検査チップシステムの流体制御機構の概略を示し、図8は流体制御機構の動作の流れ図を示す。ここでは、流体制御機構を用いて、図6を参照して説明したハイブリダイゼイションを行う場合を説明する。図7に示すように、本例の流体制御機構は、圧力源40、バルブ41,42,43L,43R、配管45,46L,46R,47L,47Rを有する。図7では、検査チップ30内の反応流路2、液溜め流路3,4、搬送ポート3c,4c、液検知部3a,4aのみが模式的に図示されている。検査チップ30内の液検知部3a,4aの上側には、それぞれ発光部23a,24aが配置され、下側には受光部23b,24bが配置されている。
【0048】
送液中、バルブ41は、圧力源40を配管45に接続する。バルブ42は、配管45を配管46L,46Rの一方に接続する。バルブ43Lは、2つの配管46L,47Lを互いに接続し、又は、両者を大気に接続する。バルブ43Rは、2つの配管46R,47Rを互いに接続し、又は、両者を大気に接続する。配管47Lは第1の搬送ポート3cに接続され、配管47Rは第2の搬送ポート4cに接続されている。
【0049】
先ず、往方向の送液を行う。図8に示すように、ステップS1にて、バルブの切り替えを行う。バルブ42によって、配管45を配管46Lに接続し、バルブ43Lによって、配管46Lを配管47Lに接続する。それによって、圧力源40は第1の搬送ポート3cに接続される。バルブ43Rによって配管46R、47Rを大気に開放する。それによって、第2の搬送ポート4cは、大気に接続される。
【0050】
ステップS2にて、送液を開始する。圧力源40からの圧力は、配管45,46L,47Lを経由して第1の搬送ポート3cに印加される。それによって、図6(c)に示したように、液溜め流路3内の第3洗浄液605、第2洗浄液604、及び、第1洗浄液603が、順に、反応流路2を通過し、第2の液溜め流路4内に移動する。
【0051】
ステップS3にて、液センサは、全ての液が、液検知部3a,4aを通過したか否かを判定する。全ての液が通過していない場合には、ステップS2に戻り、残りの液、即ち、プレハイブリ液602、及び、サンプル液601を送液する。全ての液が通過した場合には、ステップS4に進み、送液を停止する。バルブ43Lを切り替えることによって、配管46L,47Lを大気に開放する。それによって第1の搬送ポート3cが大気開放される。このようにして往方向の送液が行われる。
【0052】
ステップS5にて、往復指定回数が設定されているか否かを判定する。往復指定回数が設定されていない場合には、処理を終了する。往復指定回数が設定されている場合には、ステップS1に戻る。
【0053】
ステップS1にて、バルブの切り替えを行う。バルブ42によって、配管45を配管46Rに接続し、バルブ43Rによって、配管46Rを配管47Rに接続する。それによって、圧力源40は第2の搬送ポート4cに接続される。バルブ43Lによって配管46L,47Lを大気に開放する。それによって、第1の搬送ポート3cは、大気に接続される。ステップS2にて、送液を開始する。圧力源40からの圧力は、配管45,46R,47Rを経由して第2の搬送ポート4cに印加される。それによって、図6(e)及び図6(f)に示したように、第2の液溜め流路4内のサンプル液は、反応流路2を通過し、第1の液溜め流路3内に移動する。
【0054】
ステップS3にて、液センサはサンプル液が液検知部4aを通過したか否かを判定する。サンプル液が通過していない場合には、ステップS2に戻り、送液を継続する。サンプル液が通過した場合には、ステップS4に進み、送液を停止する。バルブ43Rを切り替えることによって、配管46R,47Rを大気に開放する。このようにして復方向の送液が行われる。ステップS5にて、指定された往復指定回数が行われた場合には、処理を終了する。
【0055】
本例では、液センサによって液が液検知部を通過したか否かを判定しながら、送液の制御を行う。従って、検査チップ内の液を人が観察することなしに、ハイブリダイゼイションを正確に行うことが可能となる。
【0056】
以上、説明したように本発明によれば、プローブを固定したビーズを用いた検査チップにおいて、流路に、液検知部を設けてサンプルや洗浄液等の液体の通過を検出しながら流動制御する。従って、検査チップにおける液体の流動制御を正確に行うことが可能となり、チップ内でのサンプル反応量や洗浄量の安定性を向上することができる。
【0057】
以上本発明の例を説明したが本発明は上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々は変更が可能であることは当業者に容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明による生体物質検査システムの概略図である。
【図2】DNA検査工程の一つの例を示す図である。
【図3】プローブが固定されたビーズが配置された流路を示す斜視図である。
【図4】本発明による検査チップを用いたDNA検査の工程の一つの例を示す図である。
【図5】本発明の検査チップの上面図である。
【図6】本発明の検査チップを用いて反応・洗浄工程を実行する方法を説明するための説明図である。
【図7】本発明の実施例の生体物質検査システムの流体制御機構の構成図である。
【図8】本発明の実施例の生体物質検査チップの流体制御機構の動作の流れ図である。
【符号の説明】
【0059】
1…ビーズ(微粒子)、2…反応流路、3…液溜め流路、4…液溜め流路、3a、4a…液検知部、3b,4b…エア溜め流路、3c,4c…搬送ポート、23a,24a…発光部、23b,24b…受光部、30…チップ、40…圧力源、42,43L,43R…バルブ、45,46L,46R,47L,47R…配管、101…チップ取り入れ窓、102…光学ステージ、103…移動ステージ、104…反応ステージ、105…バルブ、106…電源、107…モータドライバ、108…制御基板、109…情報アクセスパネル、110…レーザ光源、111,112…受光素子、113…ポンプ、114…ミラー、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる種類のプローブが固定された複数のビーズを収容するための反応流路と、エヤギャップを介して互いに隔てられた複数の液を保持するための第1及び第2の液溜め流路と、を含む1本の連続した流路を有し、圧力差を利用して上記第1及び第2の液溜め流路の一方から上記反応流路を通過して上記第1及び第2の液溜め流路の他方に液を移動させるように構成されていることを特徴とする検査チップ。
【請求項2】
請求項1記載の検査チップにおいて、上記反応流路と上記第1及び第2の液溜め流路の間に、それぞれ第1及び第2のエア溜め流路が設けられ、該エア溜め流路の圧力損失は、上記反応流路の圧力損失に略等しいことを特徴とする検査チップ。
【請求項3】
請求項2記載の検査チップにおいて、上記エア溜め流路の容積は上記エヤギャップの体積より大きいことを特徴とする検査チップ。
【請求項4】
請求項1記載の検査チップにおいて、上記流路の両端に搬送ポートが設けられ、該搬送ポートの一方に高圧を印加し、他方に低圧を印加することによって、上記圧力差を生成することを特徴とする検査チップ。
【請求項5】
請求項1記載の検査チップにおいて、上記第1及び第2の液溜め流路の一方に、洗浄液、及び、プレハイブリ液が充填されていることを特徴とする検査チップ。
【請求項6】
請求項1記載の検査チップにおいて、上記液溜め流路には、上記ユーザによって装填されたサンプル液が保持されていることを特徴とする検査チップ。
【請求項7】
請求項1記載の検査チップにおいて、上記流路の少なくとも一部はPDMSによって形成されていることを特徴とする検査チップ。
【請求項8】
互いに異なる種類のプローブが固定された複数のビーズを収容するための反応流路とエヤギャップを介して互いに隔てられた複数の液を保持するための第1及び第2の液溜め流路とを含む1本の連続した流路を有する検査チップと、上記反応流路に液が送液されたか否かを検出するための液検出装置と、圧力源と、上記検査チップに上記圧力源からの圧力を接続するための制御装置と、を有する検査チップシステムにおいて、上記制御装置は、上記液検出装置によって検出された液検出信号に基いて上記圧力源からの圧力によって形成された圧力差を利用して上記第1及び第2の液溜め流路の一方から上記反応流路を通過して上記第1及び第2の液溜め流路の他方に液を移動させるように構成されていることを特徴とする検査チップシステム。
【請求項9】
請求項8記載の検査チップシステムにおいて、洗浄液、プレハイブリ液及びサンプル液を、この順で、上記第1の液溜め流路から上記反応流路を通過して上記第2の液溜め流路に移動させ、次に、上記サンプル液、プレハイブリ液及び洗浄液を、この順で、上記第2の液溜め流路から上記反応流路を通過して上記第1の液溜め流路に移動させるように構成されていることを特徴とする検査チップシステム。
【請求項10】
請求項8記載の検査チップシステムにおいて、上記プレハイブリ液、サンプル液及び洗浄液を、この順で、上記第1の液溜め流路から上記反応流路を通過して上記第2の液溜め流路に移動させるように構成されていることを特徴とする検査チップシステム。
【請求項11】
互いに異なる種類のプローブが固定された複数のビーズを収容するための反応流路と、該反応流路の両側に設けられた第1及び第2の液溜め流路と、を含む1本の連続した流路を有し、圧力差を利用して送液するように構成された検査チップを用いてハイブリダイゼイションを行うハイブリダイゼイション実験方法において、
上記第1の液溜め流路にエヤギャップを介して互いに隔てられるように洗浄液、プレハイブリ液及びサンプル液を、この順で、上記反応流路に近いほうから配置することと、
上記洗浄液、上記プレハイブリ液及び上記サンプル液をこの順で上記第1の液溜め流路から上記反応流路を経由して上記第2の液留め流路への往路を移動させることと、
上記サンプル液、上記プレハイブリ液及び上記洗浄液をこの順で上記第2の液溜め流路から上記反応流路を経由して上記第1の液留め流路への復路を移動させることと、
を含むハイブリダイゼイション実験方法。
【請求項12】
請求項11記載のハイブリダイゼイション実験方法において、
上記往路の移動と上記復路の移動の間に、
上記サンプル液を上記第2の液溜め流路から上記反応流路を経由して上記第1の液留め流路に移動させることと、
上記サンプル液を上記第1の液溜め流路から上記反応流路を経由して上記第2の液留め流路に移動させることと、
を含むことを特徴とするハイブリダイゼイション実験方法。
【請求項13】
互いに異なる種類のプローブが固定された複数のビーズを収容するための反応流路と、該反応流路の両側に設けられた第1及び第2の液溜め流路と、を含む1本の連続した流路を有し、圧力差を利用して送液するように構成された検査チップを用いてハイブリダイゼイションを行うハイブリダイゼイション実験方法において、
上記第1の液溜め流路にエヤギャップを介して互いに隔てられるようにプレハイブリ液、サンプル液及び洗浄液をこの順で上記反応流路に近いほうから配置することと、
上記プレハイブリ液、サンプル液及び洗浄液をこの順で上記第1の液溜め流路から上記反応流路を経由して上記第2の液留め流路へ移動させることと、
を含むハイブリダイゼイション実験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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