説明

検査用マイクロチップおよびそれを用いた検査装置

【課題】 検査用マイクロチップの流路に設けられた送液制御部において、上流側の大径の流路から、小径の送液制御通路に至る流路入り口に、気泡が集積して、流路入り口を閉塞することがなく、液体の通過を一時停止して、所定の圧力で適切な時期に液体を通過することができ、しかも、気泡を下流側に通過させることなく、これによって、送液制御部の精度が高く、正確な検査を実施でき、信頼性に優れる検査用マイクロチップおよびそれを用いた検査装置を提供する。
【解決手段】 流路には、上流側から下流側への正方向への送液圧力が所定圧力に達するまで、液体の通過を遮断し、所定圧以上の送液圧力が加わることにより、液体を通過させるように構成した送液制御部を備え、送液制御部には、流路内を流れる液体中の気泡を下流側に流れないように気泡を捕捉し、液体のみを通過させる気泡捕捉手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、遺伝子検査などにおいて、マイクロリアクタとして利用可能な検査用マイクロチップおよびそれを用いた検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段、例えば、ポンプ、バルブ、流路、センサーなどを、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使して微細化することによって、1チップ上に集積化したシステムが開発されている。
【0003】
このようなシステムは、μ−TAS(Micro total Analysis System)、バイオリアクタ、ラブ・オン・チップ(Lab−on−chips)、バイオチップとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産製造分野などでその応用が期待されている。
【0004】
特に、遺伝子検査の場合のように、煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化されたミクロ化分析システムは、コスト、必要試料量、所要時間などの低減ができるだけでなく、時間と場所を選ばない分析が可能であり、その効果は非常に大きいものである。
【0005】
この場合、臨床検査を始めとする各種検査を行う現場では、場所を選ばず、迅速に結果を出すことができるチップタイプのマイクロリアクタを用いた測定の際にも、その定量性、解析の精度などが重要視されている。
【0006】
しかしながら、このようなチップタイプのマイクロリアクタのような分析チップでは、そのサイズ、形態の点から厳しい制約があるため、シンプルな構成で、高い信頼性の送液システムを確立することが課題となる。そのため、精度が高く、信頼性に優れるマイクロ流体制御素子が求められている。本発明者等は、特許文献1(特開2001−322099号公報)、特許文献2(特開2004−108285号公報)において、既に、このような要求を満足するマイクロ流体制御素子として好適なマイクロポンプシステムを提案している。
【0007】
また、特許文献3(特願2004−138959号)において、本発明者等は、検体を収容する検体収容部と、試薬が収容される試薬収容部と、検体収容部に収容された検体と、試薬収容部に収容された試薬とを合流させて、所定の反応処理を行う反応流路を有する反応部と、反応部の反応で得られた反応処理物質に対して、所定の検査を行う検査流路を有する検査部とを備え、これらの検体収容部と、試薬収容部と、反応部と、検査部とが一連の流路で、上流側から下流側に連続的に流路によって接続された検査用マイクロチップ(マイクロリアクタ)を、既に提案している。
【0008】
この特許文献3(特願2004−138959号)のマイクロリアクタには、その流路に、図8に示したような送液制御部113が多数設けられている。この送液制御部113は、上流側から下流側への正方向への送液圧力が所定圧力に達するまで、液体の通過を遮断し、所定圧以上の送液圧力が加わることにより、液体を通過させるように構成されている。
【0009】
すなわち、この送液制御部113は、上流側の流路115と下流側の流路115とを連通し、これらの流路115よりも流路断面積が小さい送液制御通路(流路径を絞った部分
)151を備えており、これにより、上流側の流路115からこの送液制御通路(絞り流路)151に達した液体が、他端側へ通過することを規制している。
【0010】
液体を、断面積の小さい(小径の)送液制御通路の端部151aから下流側の断面積の大きい(大径の)流路115へ押し出すには、表面張力のために、所定の送液圧力が必要である。従って、このような送液制御部113を、検査用マイクロチップの流路の所定の箇所に配設して、図示しないマイクロポンプからのポンプ圧を制御することによって、液体の停止と通過を制御することができる。
【0011】
従って、例えば、流路の所定箇所において、液体の移動を一時停止しておき、所定のタイミングで、下流側の流路へ送液を再開することができるようになっている。なお、送液制御通路113の内面が親水性の材質で形成されている場合には、送液制御通路113の内面に、撥水性のコーティング、例えば、フッ素系のコーティングを施すことが望ましい。
【0012】
このように、上流側の流路115と下流側の流路115とを連通し、これらの流路よりも流路断面積が小さい送液制御通路151を備えることによって、送液のタイミングを制御することができるように構成されている。
【特許文献1】特開2001−322099号公報
【特許文献2】特開2004−108285号公報
【特許文献3】特願2004−138959号
【非特許文献1】「DNAチップ技術とその応用」、「蛋白質 核酸 酵素」43巻、13号(1998年)君塚房夫、加藤郁之進、共立出版(株)発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、このような従来の検査用マイクロチップでは、液体中に気泡が存在する場合には、図9に示したように、上流側の大径の流路115から、小径の送液制御通路151に至る流路入り口115aに、気泡Kが集積して、流路入り口115aを閉塞することになる。
【0014】
このため、液体を上流側の大径の流路115から、小径の送液制御通路151を介して、下流の大径の流路115に液体を通過させるには、設定圧力以上のマイクロポンプ圧力が必要となり、精密な送液制御ができないことになる。
【0015】
従って、例えば、試薬と検体とが、適切な時期に合流せず、また、所定の混合比率で合流して反応しないことになるなど、所定の検査を正確に行えないことになるおそれがある。
【0016】
また、流路入り口115aを閉塞していた気泡Kが、いっきに上流側の大径の流路115から、小径の送液制御通路151を介して、下流の大径の流路115に流れることがあり、試薬、例えば、検出対象である遺伝子に特異的にハイブリダイゼーションするビオチン修飾したキメラプライマーと、検体とがこの気泡の作用によって、結合するのが阻害されることになって、検査部において所期の検査を実施できないことになるおそれがある。
【0017】
本発明は、このような現状に鑑み、検査用マイクロチップの流路に設けられた送液制御部において、上流側の大径の流路から、小径の送液制御通路に至る流路入り口に、気泡が集積して、流路入り口を閉塞することがなく、液体の通過を一時停止して、所定の圧力で適切な時期に液体を通過することができ、しかも、気泡を下流側に通過させることなく、これによって、送液制御部の精度が高く、正確な検査を実施でき、信頼性に優れる検査用
マイクロチップおよびそれを用いた検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、前述したような従来技術における課題及び目的を達成するために発明されたものであって、本発明の検査用マイクロチップは、
検体を収容する検体収容部と、
試薬が収容される試薬収容部と、
前記検体収容部に収容された検体と、試薬収容部に収容された試薬とを合流させて、所定の反応処理を行う反応流路を有する反応部と、
前記反応部の反応で得られた反応処理物質に対して、所定の検査を行う検査流路を有する検査部とを備え、
これらの検体収容部と、試薬収容部と、反応部と、検査部とが一連の流路で、上流側から下流側に連続的に流路によって接続された検査用マイクロチップであって、
前記流路には、上流側から下流側への正方向への送液圧力が所定圧力に達するまで、液体の通過を遮断し、所定圧以上の送液圧力が加わることにより、液体を通過させるように構成した送液制御部を備え、
前記送液制御部には、流路内を流れる液体中の気泡を下流側に流れないように気泡を捕捉し、液体のみを通過させる気泡捕捉手段を備えることを特徴とする。
【0019】
このように構成することによって、流路に形成した送液制御部の気泡捕捉手段によって、流路内を流れる液体中の気泡が、下流側に流れないように捕捉されることになる。従って、下流の大径の流路に流れることがなく、例えば、試薬と検体との反応が気泡の作用によって阻害されることがないので、検査部において所期の検査を正確に実施することができる。
【0020】
また、流路に形成した送液制御部の気泡捕捉手段によって、所定圧以上の送液圧力が加わることにより、液体のみを通過させることができるので、液体の移動を一時停止しておき、所定のタイミングで下流側の流路へ送液することができ、液体の停止と通過を正確に制御することができる。
【0021】
従って、例えば、試薬と検体とが、適切な時期に合流し、また、所定の混合比率で合流して反応することになり、送液制御部の精度が高く、正確な検査を実施でき、信頼性に優れる検査用マイクロチップを提供することができる。
【0022】
また、本発明の検査用マイクロチップは、前記送液制御部が、上流側の流路と下流側の流路とを連通し、これらの流路よりも流路断面積が小さい送液制御通路を備えることを特徴とする。
【0023】
このように構成することによって、断面積の小さい(小径の)送液制御通路から下流側の断面積の大きい(大径の)流路へ押し出すには、表面張力のために、所定の送液圧力が必要である。従って、このような送液制御部を、検査用マイクロチップの流路の所定の箇所に配設して、マイクロポンプからのポンプ圧を制御することによって、液体の停止と通過を制御して、送液のタイミングを制御することができる。
【0024】
これにより、例えば、試薬と検体とが、適切な時期に合流し、また、所定の混合比率で合流して反応することになり、所定の検査を正確に実施することができる。
また、本発明の検査用マイクロチップは、前記送液制御部の気泡捕捉手段が、前記送液制御通路と上流側の流路との間に配設され、前記送液制御通路の断面積よりも大きな断面積を有する緩衝通路から構成されていることを特徴とする。
【0025】
このように構成することによって、送液制御通路と上流側の流路との間に、送液制御通路の断面積よりも大きな断面積を有する緩衝通路が設けられているので、上流側の流路を流れる流体中に含まれる気泡が、上流側の流路の下流側端部に集積したとしても、緩衝通路の入り口で捕捉され、しかも、緩衝通路が大きな断面積を有するので、気泡の周囲に液体の流路が確保されることになる。
【0026】
従って、所定の圧力で、上流側の流路の液体が、送液制御通路を介して、下流側の流路に流れることになり、マイクロポンプからのポンプ圧を制御することによって、液体の停止と通過を制御して、送液のタイミングを制御することができる。
【0027】
これにより、例えば、試薬と検体とが、適切な時期に合流し、また、所定の混合比率で合流して反応することになり、所定の検査を正確に実施することができる。
また、このように、上流側の流路を流れる流体中に含まれる気泡が、上流側の流路の下流側端部に集積したとしても、緩衝通路の入り口で捕捉されるので、気泡が大径の流路にいっきに流れることがない。従って、試薬と、検体とがこの気泡の作用によって、反応するのが阻害されることがなく、検査部において所期の検査を正確に実施できることになる。
【0028】
また、本発明の検査用マイクロチップは、前記緩衝通路が、前記上流側の流路の幅と略同一の幅を有することを特徴とする。
このように構成することによって、送液制御通路と上流側の流路との間に設けられた緩衝通路が上流側の流路の幅と略同一の幅を有するので、緩衝通路の入り口で捕捉された気泡の周囲に、すなわち、幅方向の両端部に液体の流路が確保されることになる。
【0029】
従って、所定の圧力で、上流側の流路の液体が、送液制御通路を介して、下流側の流路に流れることになり、マイクロポンプからのポンプ圧を制御することによって、液体の停止と通過を制御して、送液のタイミングを制御することができる。
【0030】
これにより、例えば、試薬と検体とが、適切な時期に合流し、また、所定の混合比率で合流して反応することになり、所定の検査を正確に実施することができる。
また、本発明の検査用マイクロチップは、前記緩衝通路が、前記上流側の流路の深さよりも、浅い深さを有することを特徴とする。
【0031】
このように緩衝通路が、上流側の流路の深さよりも、浅い深さを有するので、上流側の流路を流れる流体中に含まれる気泡が、上流側の流路の下流側端部に集積したとしても、緩衝通路の入り口でより確実に捕捉されることになって、気泡が大径の流路にいっきに流れることがない。従って、試薬と、検体とがこの気泡の作用によって、反応するのが阻害されることがなく、検査部において所期の検査を正確に実施できることになる。
【0032】
また、本発明の検査用マイクロチップは、前記検体収容部が、検体と検体前処理液を合流させて、検体前処理を行う検体前処理部を備えることを特徴とする。
このように構成することによって、例えば、分析対象物(アナライト)の分離または濃縮、除タンパクなどの検体に対して増幅反応に適した前処理を行うことができ、効率良く且つ迅速に、所定の検査を実施することが可能な検査用マイクロチップを提供することができる。
【0033】
さらに、本発明の検査装置は、上記の検査用マイクロチップを脱着自在に装着して、検査用マイクロチップの検査部における検査を実施するように構成したことを特徴とする。
このように構成することによって、携帯に便利で、取り扱いに優れた検査用マイクロチップを検査装置に装着するだけで、特別な技術、複雑で煩雑な操作を必要とすることなく
、正確にかつ迅速に所定の検査を実施することが可能である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、流路に形成した送液制御部の気泡捕捉手段によって、流路内を流れる液体中の気泡が、下流側に流れないように捕捉されることになる。従って、下流の大径の流路に流れることがなく、例えば、試薬と検体とが反応するのが気泡の作用によって、阻害されることなく、検査部において所期の検査を正確に実施することができる。
【0035】
また、流路に形成した送液制御部の気泡捕捉手段によって、所定圧以上の送液圧力が加わることにより、液体のみを通過させることができるので、液体の移動を一時停止しておき、所定のタイミングで、下流側の流路へ送液を再開することができ、液体の停止と通過を正確に制御することができる。
【0036】
従って、例えば、試薬と検体とが、適切な時期に合流し、また、所定の混合比率で合流して反応することになり、送液制御部の精度が高く、正確な検査を実施でき、信頼性に優れる検査用マイクロチップを提供することができる。
【0037】
また、本発明によれば、携帯に便利で、取り扱いに優れた検査用マイクロチップを検査装置に装着するだけで、特別な技術、複雑で煩雑な操作を必要とすることなく、正確にかつ迅速に所定の検査を実施することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいてより詳細に説明する。
図1は、本発明の検査用マイクロチップと、検査用マイクロチップを脱着自在に装着する検査装置本体から構成される本発明の検査装置の実施例を示す斜視図、図2は、図1の検査用マイクロチップに形成された流路全体のみを示す上面図、図3は、図2の流路の試薬収容部を示す部分拡大図、図4は、図2の流路の試薬収容部から分岐した流路の全体を示す部分拡大図である。
【0039】
図1において、1は、全体で、本発明の検査装置を示しており、検査装置1は、検査用マイクロチップ2と、この検査用マイクロチップ2を脱着自在に装着して、所定の検査を実施する検査装置本体3とを備えている。
【0040】
検査用マイクロチップ2は、図1に示したように、略矩形のカード形状であり、例えば、樹脂、ガラス、シリコン、セラミックスなどで作製される一枚のチップから構成されるものである。
【0041】
そして、検査用マイクロチップ2内には、図2に示したように、一連の流路が形成されている。
なお、以下の説明については、遺伝子検査用の検査用マイクロチップ2を例にして、説明するが、もちろん、検査用マイクロチップ2は、これに限定されるものではなく、様々な検体を検査するために用いられるものである。また、以下に述べる流路構成については、その配置、形状、寸法、大きさなどは、検体の種類、検査項目などに応じて、種々変更可能である。
【0042】
すなわち、この実施例の検査用マイクロチップ2は、ICAN法(Isothermal chimera primer initiated nucleic acid amplification )により増幅反応を行うものであり、検査用マイクロチップ2内で、血液もしくは喀痰から抽出した検体と、検出対象である遺伝子に特異的にハイブリダイゼーションするビオチン修飾したキメラプライマー、鎖置換活性を有するDNA
ポリメラーゼ、およびエンドヌクレアーゼを含む試薬とにより、遺伝子増幅反応を行うものである(特許第3433929号参照)。
【0043】
そして、反応液は、変性処理した後にストレプトアビジンを吸着させた流路に送液され、増幅された遺伝子が流路に固定化される。
次に、末端をフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で修飾したプローブDNAと、固定化した遺伝子とをハイブリダイゼーションさせる。そして、FITC抗体で表面を修飾した金コロイドを、固定化した遺伝子にハイブリダイズしたプローブに吸着させ、金コロイドの濃度を光学的に測定することにより、増幅された遺伝子を検出するものである。
【0044】
図1に示した検査用マイクロチップ2は、樹脂製の一枚のチップからなり、血液などの検体を注入することにより、検査用マイクロチップ2内で、遺伝子増幅反応およびその検出を自動的に行い、多項目について同時に遺伝子診断ができるように構成されている。
【0045】
検査用マイクロチップ2は、例えば、縦横の長さが数cmのチップに、2〜3μl程度の血液検体を滴下するだけで、図1に示した検査装置本体3に、検査用マイクロチップ2を装着することによって、増幅反応とその検出ができるようになっている。
【0046】
検査用マイクロチップ2には、図2に示したように、遺伝子増幅反応に用いる試薬を収容する試薬収容部18が形成されている。
すなわち、図3に示したように、検出対象である遺伝子に特異的にハイブリダイゼーションするビオチン修飾したキメラプライマー、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼ、およびエンドヌクレアーゼなどの試薬が、試薬収容部18a、18b、18cに収容されている。
【0047】
この場合、これらの試薬収容部18a、18b、18cには、場所や時間を問わず迅速に検査ができるように、予め試薬が収容されていることが望ましい。検査用マイクロチップ2内に内蔵される試薬類などは、蒸発、漏失、気泡の混入、汚染、変性などを防止するため、その試薬収容部18a、18b、18cの表面が密封処理されている。
【0048】
さらに、検査用マイクロチップ2の保管時に、試薬収容部18a、18b、18cから試薬が微細流路内に勝手に漏出して試薬が反応してしまうことなどを防止するために、冷蔵条件下では、固化もしくはゲル化しており、使用時、検査に適した温度にすると、融解し流動状態となる物質、例えば、油脂などの封止材により封入されていることが望ましい。
【0049】
そして、これらの試薬収容部18a、18b、18cの上流側にはそれぞれ、マイクロポンプ11が、ポンプ接続部12で接続されている。これらのマイクロポンプ11により、試薬収容部18a、18b、18cから、下流側の流路15aへ試薬が送液されるようになっている。
【0050】
なお、この場合、マイクロポンプ11としては、検査用マイクロチップ2とは別途の検査装置本体3に組み込まれており、検査用マイクロチップ2を検査装置本体3に装着することによって、ポンプ接続部12から検査用マイクロチップ2に接続されるようになっている。しかしながら、マイクロポンプ11を検査用マイクロチップ2の流路に予め組み込んでおくことも可能である。
【0051】
また、このようなマイクロポンプ11として、ピエゾポンプを用いるのが望ましい。図5(a)は、ピエゾポンプを用いたマイクロポンプ11の一例を示した断面図、図5(b
)は、その上面図である。
【0052】
このマイクロポンプ11には、第1液室48と、第1流路46と、加圧室45と、第2流路47と、第2液室49が形成された基板42を備えている。そして、この基板42上に積層された上側基板41と、上側基板41上に積層された振動板43と、振動板43の加圧室45と反対側に積層された圧電素子44と、圧電素子44を駆動するための駆動部(図示せず)とが設けられている。
【0053】
図5(c)は、このマイクロポンプ11の他の実施例を示した断面図である。この実施例では、マイクロポンプ11を、シリコン基板71と、圧電素子44と、図示しないフレキシブル配線から構成している。シリコン基板71は、シリコンウエハを公知のフォトリソグラフィー技術により所定の形状に加工したものであり、エッチングにより加圧室45と、ダイヤフラム43と、第1流路46と、第1液室48と、第2流路47と、第2液室49が形成されている。第1液室48には、ポート72が、第2液室49には、ポート73がそれぞれ設けられ、このポートを介して検査用マイクロチップ2のポンプ接続部12と連通するように構成されている。
【0054】
このように構成されたマイクロポンプ11によれば、ポンプの駆動電圧と周波数を変えることによって、液体の送液方向、送液速度を制御できるようになっている。
このように構成されるマイクロポンプ11によって、図3に示したように、試薬収容部18a、18b、18cから、送液制御部13を介して、下流側の流路15aへ試薬が送液され、流路15a内で混合状態が安定した後に、試薬混合液が、3本に分岐した流路15b、15c、15dへ送液されるようになっている。
【0055】
すなわち、流路15bは、図2に示した左側の流路を構成する検体との反応、検出系へ連通している。また、流路15cは、図2の中央の流路を構成するポジティブコントロールとの反応、検出系へ連通している。さらに、流路15dは、図2の右側の流路を構成するネガティブコントロールとの反応、検出系へ連通している。
【0056】
以下については、図2および図4を参照して、流路15bの流路について主として説明する。
流路15bに送液された試薬混合液は、図4に示したように、貯留部17aに充填される。なお、貯留部17aの上流側の逆流防止部(逆止弁)16と、下流側の送液制御部13aとの間で、試薬充填流路が構成され、駆動液を送液するマイクロポンプ11に連通する分岐流路に設けられた送液制御部13bとともに、試薬定量部を構成している。
【0057】
すなわち、試薬定量部は、図6に示したように、逆支弁から構成される逆流防止部16と、送液制御部13aとの間の流路(試薬充填流路15a)には、所定量の試薬混合液が充填される。また、この試薬充填流路15aから分岐し、駆動液を送液するマイクロポンプ11に連通する分岐流路15bが設けられている。
【0058】
そして、試薬の定量送液は、次のように行われる。最初に、逆流防止部16側から、送液制御部13aから先へ試薬31が通過しない送液圧力で、試薬充填流路15aに試薬31を供給することにより試薬31を充填する。
【0059】
次に、送液制御部13aから先へ試薬31が通過することを許容する送液圧力で、マイクロポンプ11により、分岐流路15bから試薬充填流路15aに向かう方向へ、駆動液25を送液することにより、試薬充填流路15a内に充填された試薬31を送液制御部13aから先へ押し出し、これにより試薬31を定量的に送液する。
なお、試薬充填流路15aに、大容積の貯留部17aを設けることによって、定量のバラ
ツキが小さくなるようになっている。
【0060】
一方、図4に示したように、血液もしくは喀痰から抽出した検体は、検体収容部20から注入され、貯留部17bに充填されるようになっている。なお、この検体収容部20は、図示しないが、検体と検体前処理液を合流させて、検体前処理を行う検体前処理部を備えるようにしても良い。
【0061】
そして、この検体収容部20は、上記の試薬定量部とほぼ同じ機構で、マイクロポンプ11により、検体が定量に充填され、後続する流路15eへ定量送液されるようになっている。
【0062】
すなわち、貯留部17aに充填された検体と、貯留部17bに充填された試薬混合液は、Y字流路を介して、流路15eに送液され、この流路15e内で混合およびICAN反応が行われる。
【0063】
なお、検体と試薬との送液は、例えば、交互に各マイクロポンプ11を駆動して、流路15eへ輪切り状に検体と試薬混合液とを交互に導入し、迅速に検体と試薬とが拡散、混合するようにすることが望ましい。
【0064】
また、図4に示したように、停止液収容部21aには、予め反応停止液が収容されており、マイクロポンプ11により、反応停止液を流路15fに送液して、ビオチン修飾したプライマーを用いて増幅反応させた後の反応液と停止液とを混合することにより、増幅反応が停止されるようになっている。
【0065】
次に、図4に示したように、反応停止処理を行った混合液に対して、変性液収容部21bの変性液を流路15gで混合して、増幅された遺伝子を一本鎖に変性させる。その後、得られた処理液を目的物質検出用およびインターナルコントロール検出用の2つの検出部22a,22bに分割して送液する。これによって、一本鎖に変性された遺伝子は、検出部22a,22bに吸着されたストレプトアビジンにより検出部22a,22bに固定化される。
【0066】
この検出部22a,22bに、洗浄液収容部21dに収容された洗浄液を流して洗浄した後、ハイブリダイゼーションバッファー収容部21cに収容されたバッファーと、プローブDNA収容部21f(インターナルコントロール用プローブDNA収容部21g)に収容された、末端をFITCで蛍光標識したプローブDNAとを送液して、検出部22a,22bに固定化された一本鎖の増幅遺伝子にプローブDNAをハイブリダイズさせる。なお、一本鎖の増幅遺伝子を検出部22a,22bに固定化する前の段階で一本鎖の増幅遺伝子にプローブDNAをハイブリダイズさせるようにしてもよい。
【0067】
次に、検出部22a,22bを洗浄液で洗浄した後、抗FITC抗体で標識した金コロイドの溶液を金コロイド収容部21eから検出部22a,22bへ送液することにより、固定化された増幅遺伝子にFITCを介して金コロイドが結合される。この結合した金コロイドを、例えばLEDから測定光を照射し、フォトダイオード、光電子増倍管などの光検出手段で透過光もしくは反射光を検出することによって、増幅の有無または増幅効率を測定する。
【0068】
なお、図2および図3に示したように、流路15cは、図2の中央の流路を構成するポジティブコントロールとの反応、検出系へ連通しており、流路15dは、図2の右側の流路を構成するネガティブコントロールとの反応、検出系へ連通している。試薬混合液をこれらの流路15c、15dに送液することにより、上述した流路15bの検体の反応、検
出系における場合と同様に、試薬と流路内で増幅反応させた後、プローブDNA収容部に収容されたプローブDNAと流路内でハイブリダイゼーションさせ、この反応生成物に基いて増幅反応が検出されるようになっている。
【0069】
ところで、図2〜図4に示したように、検査用マイクロチップ2の上記したような流路には、上流側から下流側への正方向への送液圧力が所定圧力に達するまで、液体の通過を遮断し、所定圧以上の送液圧力が加わることにより、液体を通過させるように構成した送液制御部13を備えている。
【0070】
このような送液制御部13は、特許文献3(特願2004−138959号)のような構成では、前述したように、液体中に気泡が存在する場合には、図9に示したように、上流側の大径の流路115から、小径の送液制御通路151に至る流路入り口115aに、気泡Kが集積して、流路入り口115aを閉塞することになる。
【0071】
このため、液体を上流側の大径の流路115から、小径の送液制御通路151を介して、下流の大径の流路115に液体を通過させるには、設定圧力以上のマイクロポンプ圧力が必要となり、精密な送液制御ができないことになる。
【0072】
従って、例えば、試薬と検体とが、適切な時期に合流せず、また、所定の混合比率で合流して反応しないことになるなど、所定の検査を正確に行えないことになるおそれがある。
【0073】
また、流路入り口115aを閉塞していた気泡Kが、いっきに上流側の大径の流路115から、小径の送液制御通路151を介して、下流の大径の流路115に流れることがあり、試薬、例えば、検出対象である遺伝子に特異的にハイブリダイゼーションするビオチン修飾したキメラプライマーと、検体とがこの気泡の作用によって、結合するのが阻害されることになって、検査部において所期の検査を実施できないことになるおそれがある。
【0074】
このため、本発明では、送液制御部13を、図7に示したような構成にしている。
すなわち、この送液制御部13は、上流側の流路15と下流側の流路15とを連通し、これらの流路15よりも流路断面積が小さい送液制御通路(流路径を絞った部分)51を備えており、これにより、一端側からこの送液制御通路(絞り流路)51に達した液体が、他端側へ通過することを規制している。
【0075】
そして、図7に示したように、上流側の流路15と、送液制御通路51との間には、流路内を流れる液体中の気泡を下流側に流れないように気泡を捕捉し、液体のみを通過させる気泡捕捉手段50を備えている。
【0076】
この気泡捕捉手段50は、送液制御通路51の断面積よりも大きな断面積を有する緩衝通路52から構成されている。
また、この緩衝通路52は、図7(a)に示したように、上流側の流路15の幅と略同一の幅を有するものであり、上流側の流路15の深さDよりも、浅い深さdを有するように形成されている。
【0077】
このように構成することによって、送液制御部13では、液体中に気泡が存在する場合に、図7の点線で示したように、上流側の大径の流路15から、緩衝通路52の流路入り口52aに、気泡Kが集積しても、流路入り口52aには、図7(b)に示したように、緩衝通路52が大きな断面積、すなわち、緩衝通路52が上流側の流路15の幅と略同一の幅を有するので、気泡のKの周囲に、すなわち、幅方向の両端部に液体の流路52b、52c(矢印A)が確保されることになる。
【0078】
従って、所定の圧力で、上流側の流路15の液体が、送液制御通路51を介して、下流側の流路15に流れることになり、マイクロポンプからのポンプ圧を制御することによって、液体の停止と通過を制御して、送液のタイミングを制御することができる。
【0079】
これにより、例えば、試薬と検体とが、適切な時期に合流し、また、所定の混合比率で合流して反応することになり、所定の検査を正確に実施することができる。
また、このように緩衝通路52が、上流側の流路15の深さDよりも、浅い深さdを有するので、図7(b)に示したように、上流側の流路15を流れる流体中に含まれる気泡が、上流側の流路15の下流側端部に集積したとしても、緩衝通路52の流路入り口52aで確実に捕捉されることになって、気泡が大径の流路15にいっきに流れることがない。
【0080】
従って、試薬、例えば、検出対象である遺伝子に特異的にハイブリダイゼーションするビオチン修飾したキメラプライマーと、検体との反応がこの気泡の作用によって阻害されることがなく、検査部において所期の検査を正確に実施できることになる。
【0081】
なお、この場合、上記の気泡捕捉作用などを考慮すれば、緩衝流路52の深さdは、上流側の流路15の深さDに対して、0.75D以下、好ましくは、0.5Dの深さとするの
が望ましい。好適には、緩衝通路52の深さdは、下流の送液制御通路51と略同一の深さとするのが望ましい。
【0082】
また、上記の気泡捕捉作用などを考慮すれば、緩衝通路52の幅wは、上流側の流路15の幅Wと略同一であるのが望ましいが、緩衝通路52の幅wは、上流側の流路15の幅Wに対して、0.5W以上、好ましくは、W以上の幅とするのが望ましい。
【0083】
さらに、上記の気泡捕捉作用などを考慮すれば、緩衝通路52の長さLは、1μm〜5
mm、好ましくは、10〜500μmの長さとするのが望ましい。
以上、本発明の好ましい実施の態様を説明してきたが、本発明はこれに限定されることはなく、例えば、上記実施例では、遺伝子検査用の検査用マイクロチップとしてICAN法について説明したが、その配置、形状、寸法、大きさなどは、検体の種類、検査項目などに応じて、種々変更可能であるなど本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、本発明の検査用マイクロチップと、検査用マイクロチップを脱着自在に装着する検査装置本体から構成される本発明の検査装置の実施例を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1の検査用マイクロチップに形成された流路全体のみを示す上面図である。
【図3】図3は、図2の流路の試薬収容部を示す部分拡大図である。
【図4】図4は、図2の流路の試薬収容部から分岐した流路の全体を示す部分拡大図である。
【図5】図5(a)は、ピエゾポンプを用いたマイクロポンプ11の一例を示した断面図、図5(b)は、その上面図、図5(c)は、マイクロポンプ11の他の実施例を示した断面図である。
【図6】図6は、試薬定量部の構成を示した概略上面図である。
【図7】図7(a)は、本発明の検査用マイクロチップ2の送液制御部13の上面図、図7(b)は、その厚さ方向の断面図である。
【図8】図8は、従来の検査用マイクロチップの送液制御部の上面概略図である。
【図9】図9は、従来の検査用マイクロチップの送液制御部の送液状態を示す上面概略図である。
【符号の説明】
【0085】
1 検査装置
2 検査用マイクロチップ
3 検査装置本体
11 マイクロポンプ
12 ポンプ接続部
13 送液制御部
13a 送液制御部
13b 送液制御部
15 流路
15a〜15g 流路
16 逆流防止部(逆止弁)
17a 試薬貯留部
17b 検体貯留部
18 試薬収容部
18a〜18c 試薬収容部
20 検体収容部
21a 反応停止液収容部
21b 変性液収容部
21c ハイブリダイゼーションバッファー収容部
21d 洗浄液収容部
21e 金コロイド収容部
21f プローブDNA収容部
21g インターナルコントロール用プローブDNA収容部
21h ポジティブコントロール収容部
21i ネガティブコントロール収容部
21j バッファー収容部
22a 検出部
22b 検出部
23 廃液貯留部
25 駆動液
31 試薬
41 上側基板
42 基板
43 振動板(ダイヤフラム)
44 圧電素子
45 加圧室
46 第1流路
47 第2流路
48 第1液室
49 第2液室
50 気泡捕捉手段
51 送液制御通路
52a 流路入り口
52b 流路
52 緩衝通路
71 シリコン基板
72、73 ポート
113 送液制御部(送液制御通路)
115a 流路入り口
115 流路
151a 端部
151 送液制御通路
K 気泡


【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を収容する検体収容部と、
試薬が収容される試薬収容部と、
前記検体収容部に収容された検体と、試薬収容部に収容された試薬とを合流させて、所定の反応処理を行う反応流路を有する反応部と、
前記反応部の反応で得られた反応処理物質に対して、所定の検査を行う検査流路を有する検査部とを備え、
これらの検体収容部と、試薬収容部と、反応部と、検査部とが一連の流路で、上流側から下流側に連続的に流路によって接続された検査用マイクロチップであって、
前記流路には、上流側から下流側への正方向への送液圧力が所定圧力に達するまで、液体の通過を遮断し、所定圧以上の送液圧力が加わることにより、液体を通過させるように構成した送液制御部を備え、
前記送液制御部には、流路内を流れる液体中の気泡を下流側に流れないように気泡を捕捉し、液体のみを通過させる気泡捕捉手段を備えることを特徴とする検査用マイクロチップ。
【請求項2】
前記送液制御部が、上流側の流路と下流側の流路とを連通し、これらの流路よりも流路断面積が小さい送液制御通路を備えることを特徴とする請求項1に記載の検査用マイクロチップ。
【請求項3】
前記送液制御部の気泡捕捉手段が、前記送液制御通路と上流側の流路との間に配設され、前記送液制御通路の断面積よりも大きな断面積を有する緩衝通路から構成されていることを特徴とする請求項2に記載の検査用マイクロチップ。
【請求項4】
前記緩衝通路が、前記上流側の流路の幅と略同一の幅を有することを特徴とする請求項3に記載の検査用マイクロチップ。
【請求項5】
前記緩衝通路が、前記上流側の流路の深さよりも、浅い深さを有することを特徴とする請求項2から3のいずれかに記載の検査用マイクロチップ。
【請求項6】
前記検体収容部が、検体と検体前処理液を合流させて、検体前処理を行う検体前処理部を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の検査用マイクロチップ。
【請求項7】
請求項1から5に記載の検査用マイクロチップを脱着自在に装着して、検査用マイクロチップの検査部における検査を実施するように構成したことを特徴とする検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−266924(P2006−266924A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86682(P2005−86682)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】