説明

検査用微粒子の検査方法及び前記検査用微粒子の検査装置

【課題】 プレート基板上に配列された微粒子の相対的な順序位置を正確に検出することのできる検査装置を提供する。
【解決手段】 プレート基板12に設けられた流路14に微粒子19が挿入されている。微粒子19は表面にプローブが付着されている検査用微粒子19aと検査開始点を設定するための基準点微粒子19bとからなっている。基準点微粒子19bを検出した時点でレーザ光24の相対移動距離をリセットし、基準点微粒子19bの位置を検査開始点としてレーザ光24の相対移動距離Lを測定することにより、公差の累積を抑えて基準点微粒子19bからの検査用微粒子19aの推測位置と実際の位置のずれを抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血液検査、尿検査、あるいはDNA検査を医療機関や個人などで行なうことが可能な簡易な検査用微粒子の検査方法及び前記検査用微粒子の検査装置に係わり、特に、検査用微粒子の基準点からの位置を正確に算出できる検査用微粒子の検査方法及び前記検査用微粒子の検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、血液や尿など、人体からの採取物に対する検査用のチップの開発が盛んになっている。例えば、DNAチップは、ガラスなどの基板上に多種類のDNA断片(プローブあるいは試薬と称する)を貼り付けた物で、人から採取した遺伝子(検体,あるいはターゲットと称する)の中から特定の遺伝子(がん遺伝子など)を一度に複数種検出することが出来る。
【0003】
従来、試験管とスポイト、あるいは攪拌機等で行なわれていた生体分子の検出を前記チップ上で行なうことで、高速度で検査することができ、また検査工程の簡略化を測ることが可能であると考えられ、注目を浴びている。
【0004】
ところで検査チップは、現在、研究用チップとして大学や研究機関向けに開発されているのが主流であるが、将来的には、医療機関や個人向けへの簡易な検査チップが商品化されることが期待される。
【0005】
前記検査チップは、例えば溝形状で形成された流路等を有するプレート基板(検査用基体)と前記プレート基板上に重ねられて前記プレート基板に接合される蓋体とで構成される。
【0006】
検査方法は、前記流路内に特定の塩基配列を有するプローブを配置し、前記流路内に人体から採取したDNA(検体)に蛍光色素などの標識を付加した上で流す。そして検体中に前記プローブと相補的な塩基配列を有するDNAが存在すると前記プローブとハイブリダイゼーション反応して捕らえられる。
【0007】
例えば、前記プローブは前記検体に付加された蛍光色素とは発光波長の異なる蛍光色素によって識別可能であり、どのプローブに前記検体のDNAがハイブリダイゼーション反応したかを検出することによって検体中に含まれるDNAの塩基配列を特定することができる。
【0008】
図5は溝2a内部に複数個の微粒子1が1列に並べられたプレート基板2の平面図である。溝2aは検体を含む溶液が流れる流路となっており、前記流路の上流側に流入口2bが下流側に流出口2cが凹形状に形成されている。流入口2bから、人から採取したDNAなどの検体を含む溶液を注入し、溝2a内部に流す。このとき前記検体の中に、微粒子1に固定されたプローブと相補的なDNAが存在すれば、前記プローブとDNAとがハイブリダイゼーション反応を起こして固定される。各微粒子1に対して蛍光強度の測定を行なえばDNAが捕捉されたか否かを容易に判断できる。
【0009】
図6は従来の蛍光検出装置を示す概念図である。プローブは樹脂やガラスなどからなる直径100μm程の微粒子1に固定されており、この微粒子1はプレート2に形成された溝2aの内部に配列されている。レーザ光源3が発するレーザ光4がミラー5及びレンズ6を介して、プレート2上の微粒子1に照射され、微粒子1中の蛍光色素またはプローブとハイブリダイズした検体標識用の蛍光色素を励起する。励起された蛍光色素からは蛍光色素に特有の波長の蛍光Rが発光し、この蛍光Rをレンズ6、ミラー5、フィルタ7を介して検出装置8によって検出する。ミラー5及びレンズ6は移動板9に固定されている。移動板9はカム10及び伝達部材11の回転に伴って水平方向に等速度で移動し、移動板9、ミラー5及びレンズ6の水平移動に伴って、レーザ光4が溝2a内部に配列された微粒子1を順に走査していく。
【0010】
このような、DNAの検出方法及び検出装置は特許文献1(特開2000−346842号公報)に記載されている。
【特許文献1】特開2000−346842号公報(図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
微粒子1の直径は100μm程度であるが、実際には微粒子1ごとに公差を有している。このため、以下に示すような問題が生じる。
【0012】
前述した蛍光反応により検体DNAが検出されたとき、検体DNAがどんなプローブと結合したのかを知る必要がある。プローブは微粒子1に固定されており、この微粒子1を蛍光色素(検体DNA標識用の蛍光色素とは異なる蛍光波長のもの)で標識することによって、どのプローブがどの微粒子に固定されているかを認識することができる。従って、検出された検体DNAが溝部2a内部に配列された微粒子1のうちどの微粒子1に捕捉されたのかがわかれば、その検体DNAがどのプローブと相補的な配列を有しているのかがわかる。
【0013】
このため、レーザ光4が微粒子1を順に走査しているときに、どの微粒子を走査しているのかをつねに把握している必要がある。
【0014】
図6に示される蛍光検出装置の移動板9は等速度で水平移動している。移動距離を微粒子の平均直径で割ると現在走査している微粒子が検査開始点の微粒子から何番目に位置しているかを推測することが可能である。例えば、移動板9の水平移動速度をv、測定開始点の微粒子を走査してからの経過時間をΔtとすると測定開始点の微粒子を走査した後のレーザ光4の移動距離LはL=vΔtである。図7(a)に示されるように、微粒子の直径が均一であり、平均直径ADと各微粒子の直径が等しいときには、移動距離Lを平均直径ADで割って推測したレーザ光4が走査している微粒子Tの位置(測定開始点の微粒子Sから何番目の微粒子であるか)と実際の位置は一致する。
【0015】
しかし、微粒子の直径には公差があるため、推測値と実際に走査している微粒子の相対位置が異なる場合が発生する。微粒子の直径にばらつきがあるとき、例えば図7(b)ではレーザ光4の移動距離Lを微粒子の平均直径で割って算出した走査中の微粒子Tの推測位置は測定開始点の微粒子Sから6番目となるが、図7(b)では微粒子Sと微粒子Tの間に平均直径ADよりも小さな直径の微粒子が多く存在しているので実際には7番目の微粒子を走査している。逆に微粒子Sと微粒子Tの間に平均直径ADよりも大きな直径の微粒子が多く存在していると、微粒子Tの推測位置は実際の位置よりも大きくなる。
【0016】
また、従来は測定開始点の微粒子の指標がなく、測定開始点を正確に把握することも困難であった。
【0017】
現在レーザ光が走査している微粒子の位置の推測値と実際の位置がずれてレーザ光が走査している微粒子の位置が把握できなくなると、蛍光によって検体DNAが微粒子に固定されているプローブと結合したことが検出されても、検出された検体DNAがどのプローブと結合したのかがわからなくなり、検体DNAの塩基配列が特定できなくなる。
【0018】
本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、検査用微粒子の基準点からの位置を正確に算出できる検査用微粒子の検査方法及び前記検査用微粒子の検査装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の検査用微粒子の検査方法は、流路と、前記流路の上流側に位置する流入口と、前記流路の下流側に位置する流出口とを有する検査用基体の前記流路内部に、基準点微粒子を配置し、前記基準点微粒子の下流側に複数個の前記検査用微粒子を配列し、
前記基準点微粒子を識別して検査開始点を設定した後、検査手段により前記検査用微粒子の状態を調べることを特徴とするものである。
【0020】
本発明では、流路内部に配列させる微粒子を測定開始点の指標となる前記基準点微粒子と検査を行うための検査用微粒子の2種を有するものとしている。前記基準点微粒子を検査開始点の指標とすることにより、前記基準点微粒子の下流側に配列された前記検査用微粒子の前記基準点微粒子からの相対位置を正確に特定することが可能になる。
【0021】
本発明では、前記流路内に前記基準点微粒子の下流側に複数個の前記検査用微粒子が配列されている微粒子群を上流から下流にかけて複数配置することが好ましい。
【0022】
微粒子の直径のばらつきによって生じる検査用微粒子の推測位置と実際の位置のずれは前記基準点微粒子からの相対距離が大きくなるほど発生しやすい。本発明は配列された前記検査用微粒子の間に前記基準点微粒子を複数個挿入することにより、検査用微粒子の推測位置と実際の位置のずれを抑えることができる。また、一つの流路内に種類の異なる検査用微粒子を配列するときに、前記基準点微粒子によって異なる前記検査用微粒子を区分けすることができる。
【0023】
本発明では、前記微粒子の状態を調べる前記検査手段は、例えば蛍光、リン光、赤外線、紫外線、可視光線などを検出分析する分光学的手段である。
【0024】
なお、前記検査用微粒子と前記基準点微粒子を検出するために、前記検査用微粒子と前記基準点微粒子のいずれか一方または両方に発光色素を塗布又は含有させることが好ましい。
【0025】
このとき、前記検査用微粒子に塗布又は含有させる発光色素と前記基準点微粒子に塗布又は含有させる発光色素の発光波長を異ならせることにより、前記検査用微粒子と前記基準点微粒子を識別することができる。
【0026】
さらに、前記検査用微粒子に前記微粒子群ごとに異なる発光波長の発光色素を塗布または含有させることにより、前記検査用微粒子を前記微粒子群ごとに識別することができる。
【0027】
本発明では、前記発光色素として蛍光色素を用いることが好ましい。
前記検査用微粒子には特定の検体を捕捉するプローブを結合させることが好ましい。特定の検体を捕捉するプローブとは、例えば検体がDNAやRNAであるときには相補的な配列を持つDNA断片であり、検体がたんぱく質であるときには特異的に吸着する抗体である。あるいはクロマトグラフィの原理を用いて、イオン性分子や糖鎖を検出する検査用微粒子を構成することもできる。
【0028】
本発明では、前記基準点微粒子を識別して検査開始点を設定した後、前記検査手段又は前記検査用基体を前記流路と平行方向に移動させ、前記検査開始点からの前記検査手段の相対移動距離を算出することにより、検査開始点からの前記相対移動距離を正確に測定できる。
【0029】
また前記相対移動距離を前記検査用微粒子の平均直径で除算することにより前記検査開始点から前記検査手段の現在位置までに存在する検査用微粒子の数を算出することが好ましい。
【0030】
前記相対移動距離は前記基準点微粒子から走査中の検査用微粒子までの相対距離である。本発明では、前記基準点微粒子から走査中の検査用微粒子までの相対距離に基づいて、前記検査用微粒子の位置を推測するので公差の累積を抑えて、検査開始点からの前記走査中の検査用微粒子の位置を正確に推測することが可能になる。
【0031】
また、本発明の検査装置は、流路と、前記流路の上流側に位置する流入口と、前記流路の下流側に位置する流出口とを有する検査用基体と、前記流路内部に配列された複数個の微粒子を有し、前記微粒子は検査用微粒子と基準点微粒子からなり、前記基準点微粒子の下流側に複数個の前記検査用微粒子が配列されており、
さらに、前記基準点微粒子を識別して検査開始点を設定する制御手段及び前記微粒子の状態を調べる検査手段を有していることを特徴とするものである。
【0032】
前記流路内には前記基準点微粒子の下流側に複数個の前記検査用微粒子が配列されている微粒子群が上流から下流にかけて複数配置されていることが好ましい。
【0033】
前記検査手段は例えば蛍光、リン光、赤外線、紫外線、可視光線などを検出分析する分光学的手段によって前記微粒子の状態を検出することが好ましい。
【0034】
前記微粒子には発光色素が塗布又は含有されていることが好ましい。
特に、前記検査用微粒子に塗布又は含有されている発光色素と前記基準点微粒子に塗布又は含有されている発光色素は発光波長が異なることが好ましい。
【0035】
さらに、前記検査用微粒子には前記微粒子群ごとに異なる発光波長の発光色素が塗布または含有されていることが好ましい。
【0036】
前記発光色素は例えば蛍光色素である。
前記微粒子には特定の検体を捕捉するプローブが結合していることが好ましい。
【0037】
前記検査手段又は前記検査用基体を、前記流路に平行な方向に移動させる移動手段を有していることが好ましい。
【0038】
このとき、前記検査開始点が設定された後、前記検査手段の前記検査用基体上前記流路方向への相対移動距離を算出する演算手段が、前記制御手段に接続されていることにより、前記基準点微粒子から走査中の検査用微粒子までの相対距離を算出することができる。
【0039】
また、前記演算手段が前記相対移動距離を前記検査用微粒子の平均直径で除算することにより、前記検査開始点から前記検査手段の現在位置までに存在する検査用微粒子数を算出することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明では、流路内部に配列させる微粒子を測定開始点の指標となる前記基準点微粒子と検査を行うための検査用微粒子の2種を有するものとしている。前記基準点微粒子を検査開始点の指標とすることにより、前記基準点微粒子の下流側に配列された前記検査用微粒子の前記基準点微粒子からの相対位置を正確に特定することが可能になる。
【0041】
また、前記流路内に前記基準点微粒子の下流側に複数個の前記検査用微粒子が配列されている微粒子群を上流から下流にかけて複数配置すること、すなわち配列された前記検査用微粒子の間に前記基準点微粒子を複数個挿入することにより、微粒子の直径のバラツキによる検査用微粒子の推測位置と実際の位置のずれを抑えることができる。また、一つの流路内に種類の異なる検査用微粒子を配列するときに、前記基準点微粒子によって異なる前記検査用微粒子を区分けすることができる。
【0042】
また、本発明では、前記基準点微粒子から走査中の検査用微粒子までの相対距離に基づいて前記検査用微粒子の位置を推測するので公差の累積を抑えて、検査開始点からの前記走査中の検査用微粒子の位置を正確に推測することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
図1は検査用のプレート基板(検査用基体)の外観部分斜視図、図2は図1に示された検査用プレートの平面図、図3は本発明の検査装置の実施の形態を示す概念図、図4は本発明の検査装置及び検査方法を用いて検査用微粒子の基準点微粒子(検査開始点)からの相対位置を検出する方法を説明するための概念図である。
【0044】
図1に示す検査用プレートPは、例えば人体から血液や尿などを採取し、これら採取物(検体)を、所定の試薬などと反応させて所定の検査を行なうためのものである。検査用プレートを例えばDNAチップとして用いる場合には、採取した血液に所定の処理を施して使用する。
【0045】
検査用プレートPは、幅方向(図示X1−X2方向)の両端から直角に長さ方向(図示Y1−Y2方向)に延びる所定の厚みを有した略直方形状であるが、略直方形状以外の形状であってもかまわない。
【0046】
検査用プレートPは、プレート基板(検査用基体)12と蓋体13とで構成される。プレート基板12及び蓋体13は、ガラスや樹脂などで形成されたものである。プレート基板12及び蓋体13は所定の蛍光強度を有する材質で形成される。特に検査用プレートPをDNAチップやプロテインチップ等として用いる場合には、検査用プレートPはほぼ透明色の低蛍光性で、耐薬品性等に優れた材質であることが好ましく、例えば石英ガラス、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などで形成される。
【0047】
検査用プレートPが樹脂で形成されるときは、射出成形によって検査用プレートPを成形することが好ましく、場合によっては熱プレスを施して、検査用プレートPのプレート基板12の上面12aに形成される溝部を高アスペクト比のものとして成形する。また検査用プレートPがガラスで形成されるときは、熱プレスにより成形する。
【0048】
図1,図2に示すプレート基板12の上面12aには、一本の流路14が凹形状で形成されている。流路14のY1側は検体等の液体が流路14内を流れる上流側に位置し、Y2側は検体等の液体が流路14内を流れる下流側に位置する。
【0049】
図1,図2に示すように流路14の上流側(図示Y1側)には流路14と連結する流入口15が凹形状で形成されている。図1に示すように、蓋体13には、流入口15と対向する位置に、蓋体13の上面から下面にかけて貫通した開口部13aが設けられており、開口部13aからプローブや検体等の物質を流入口15内に入れることが可能になっている。
【0050】
図1,図2に示すように流路14の下流側(図示Y2側)には流路14と連結する流出口16が凹形状で形成されている。図1に示すように、蓋体13には、流出口16と対向する位置に、蓋体13の上面から下面にかけて貫通した開口部13bが設けられており、流出口16に到達した検体やプローブ等の物質を開口部13bから排出することが可能になっている。
【0051】
図1,図2に示すように流路14は図示X1−X2方向に所定の幅寸法を有し図示Y1−Y2方向に向けて延びる矩形状で形成されている。一方、流入口15及び流出口16は、その平面形状が略円形状に形成され、流入口15及び流出口16の最大幅寸法は流路14の幅寸法よりも大きく形成されている。ただし流路14、流入口15及び流出口16の形状は図1,図2のものに限られず他の形状であってもよい。
【0052】
なお基本的に流路14は、単数あるいは複数の物質を上流側(図示Y1側)から下流側(図示Y2側)にかけて流したり、あるいは流している間に複数の物質どうしを混合させる機能を有し、一方、流入口15は単数あるいは複数の物質を注入して流路14へ送り込んだり、あるいは複数の物質どうしを混合させる機能を有し、また流出口16は、単数あるいは複数の物質を排出したり、あるいは複数の複数の物質どうしを混合させる機能を有するものであり、使用態様によって、流路14、流入口15及び流出口16の使われ方は異なる。
【0053】
図1に示す検査用プレートPでは、流路14は、検体を流すとともに、流している間に検体とプローブとが反応をしたか否かを測定する測定領域であり、流入口15は検体とプローブとを注入する領域であり、流出口16は検体を排出する領域として機能する。
【0054】
図1に示す開口部13aから流入口15→流路14へ向けて多数の微粒子19が挿入される。微粒子19はガラスや樹脂などで形成された球状のものである。
【0055】
微粒子19は表面にプローブが付着されている検査用微粒子19aと検査開始点を設定するための基準点微粒子19bとからなっている。本実施の形態では、前記基準点微粒子19bの下流側に複数個の前記検査用微粒子19aが配列されている微粒子群G1、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8、G9が前記流路14内の上流から下流にかけて配置されている。
【0056】
特定の検体を捕捉するプローブとは、例えば検体がDNAやRNAであるときには相補的な配列を持つDNA断片であり、検体がたんぱく質であるときには特異的に吸着する抗体である。あるいはクロマトグラフィの原理を用いて、イオン性分子や糖鎖を検出する検査用微粒子を構成することもできる。
【0057】
前記検査用微粒子19aに塗布又は含有させる蛍光色素と前記基準点微粒子19bに塗布又は含有させる蛍光色素の発光波長を異ならせることが好ましい。
【0058】
また、各検査用微粒子19aと各基準点微粒子19bは微粒子群G1、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8、G9のいずれかに属している。検査用微粒子19aと基準点微粒子19bには、属している微粒子群ごとに特有の発光波長の蛍光色素を塗布または含有させることが好ましい。これによって、それぞれの検査用微粒子19aと基準点微粒子19bが微粒子群G1、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8、G9のうちどの微粒子群に属しているかを識別することができる。
【0059】
図1に示す開口部13aから、人から採取したDNAなどの検体を流入口15→流路14へ向けて流す。検体中に前記プローブと相補的な塩基配列を有するDNAが存在すると前記プローブとハイブリダイゼーション反応して捕らえられる。
【0060】
例えば、前記プローブは前記検体に付加された蛍光色素とは発光波長の異なる蛍光色素によって識別可能であり、どのプローブに前記検体DNAがハイブリダイゼーション反応したかを検出することによって検体中に含まれるDNAの塩基配列を特定することができる。
【0061】
蛍光強度は図3に示す小型のCCDカメラ(検出手段)28などで測定でき、蛍光強度から看者がある特定の病気(例えば癌など)を発症していないか否かを診断することが出来る。
【0062】
ここで各寸法について説明すると、流路14の幅寸法T1及び高さ寸法Hは、50μm〜100μm程度で形成される。検査用微粒子19aと基準点微粒子19bの平均直径は50μm〜100μmであり、公差は±5〜10%である。
【0063】
図3は本発明の検出装置の実施の形態を示す概念図である。本実施の形態の検出装置はプレート基板12の流路14内部に配列された微粒子19にレーザ光を照射するものである。
【0064】
レーザ光源23が発するレーザ光24がミラー25及びレンズ26を介して、プレート基板12上の微粒子19に照射され、微粒子19中の蛍光色素またはプローブとハイブリダイズした検体に結合している検体標識用の蛍光色素を励起する。プレート基板12は図1及び図2に示されたものであり、微粒子19は図2に示されたように微粒子群G1、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8、G9が前記流路14内の上流から下流にかけて配置されているものである。微粒子群G1、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8、G9は、基準点微粒子19bの下流側に複数個の前記検査用微粒子19aが配列されているものである。
【0065】
励起された蛍光色素からは蛍光色素に特有の波長の蛍光Rが発光し、この蛍光Rをレンズ26、ミラー25、フィルタ27を介してCCDカメラ28によって検出する。ミラー25及びレンズ26は移動板(移動手段)29に固定されている。移動板29はカム30及び伝達部材31の回転に伴って水平方向に等速度で移動し、移動板29、ミラー25及びレンズ26の水平移動に伴って、レーザ光24が流路14内部に配列された微粒子19を順に走査していく。なお、本実施の形態では検査手段のミラー25及びレンズ26を移動板29によって流路14に平行な方向に移動させているが、プレート基板12を流路14に平行な方向に移動させてもよい。
【0066】
本発明の検査装置では、微粒子19のなかから基準点微粒子19bを識別して検査開始点を設定する制御手段32がCCDカメラ28に接続されている。
【0067】
制御手段32は基準点微粒子19bと検査用微粒子19aの蛍光波長の違いなどを検出して基準点微粒子19bを検査用微粒子19aから区別する。また、制御手段32には演算手段33が接続されている。演算手段32は、基準点微粒子19bを認識して検査開始点を設定した後、ミラー25及びレンズ26並びにレーザ光24がプレート基板12上を流路方向(図示Y2方向)に移動した相対移動距離を算出するものである。
【0068】
本発明では、基準点微粒子19bを検査開始点の指標とすることにより、基準点微粒子19bの下流側に配列された検査用微粒子19aの基準点微粒子19bからの位置を正確に特定することが可能になる。
【0069】
プローブによって捕捉された検体DNAが蛍光反応によって検出されたとき、この検体DNAがどんなプローブと結合したのかを知る必要がある。例えば蛍光色素(検体DNA標識用の蛍光色素とは異なる蛍光波長のもの)で標識することによって検査用微粒子19aを識別でき、その検査用微粒子19aに固定されているプローブの種類を認識することができる。従って、検出された検体DNAが流路14内部に配列された検査用微粒子19aのうちどの検査用微粒子19aに捕捉されたのかがわかれば、その検体DNAがどのプローブと相補的な配列を有しているのかがわかる。
【0070】
このため、レーザ光24が微粒子19を順に走査しているときに、どの微粒子19を走査しているのかをつねに把握している必要がある。
【0071】
図3に示される蛍光検出装置の移動板29は等速度で水平移動している。図4に示すように、例えば、移動板29の水平移動速度をv、測定開始点の微粒子を走査してからの経過時間をΔtとすると測定開始点の微粒子を走査した後のレーザ光24の相対移動距離LはL=vΔtである。本発明では、基準点微粒子19bを認識して検査開始点を設定した後、この検査開始点(基準点微粒子19bの位置)からの相対移動距離Lを微粒子19の平均直径ADで割ることにより、現在走査している検査用微粒子19aが検査開始点の微粒子(基準点微粒子19b)から何番目に位置しているかを推測する。
【0072】
微粒子19の直径のばらつきによって生じる検査用微粒子19aの推測位置と実際の位置のずれは基準点微粒子19bからの距離が大きくなるほど発生しやすい。本実施の形態では、基準点微粒子19bを検出した時点でレーザ光24の相対移動距離をリセットし、基準点微粒子19bの位置を検査開始点としてレーザ光24の相対移動距離Lを測定する。本実施の形態のように、検査用微粒子19aの間に基準点微粒子19bを複数個挿入することにより、レーザ光24の相対移動距離Lが大きくなる前にリセットして測定しなおすことができるので、公差の累積を抑えて基準点微粒子19bからの検査用微粒子19aの推測位置と実際の位置のずれを抑えることができる。また、基準点微粒子19bによって検査用微粒子19aを結合しているプローブの種類ごとに区分けすることができる。
【0073】
本発明では、現在レーザ光が走査している微粒子19の位置を正確に把握することが可能になるので、蛍光によって検体DNAが検査用微粒子19aに固定されているプローブと結合したことが検出されたときに、検出された検体DNAがどのプローブと結合したのかを正確に把握することが可能になる。従って、検体DNAの塩基配列を正確に特定することができる。
【0074】
なお、本実施の形態では、基準点微粒子19b及び検査用微粒子19aを識別するために基準点微粒子19b及び検査用微粒子19aを蛍光標識しそれぞれの蛍光波長の違いによって微粒子の識別を行った。ただし、基準点微粒子19b及び検査用微粒子19aの識別は、リン光、赤外線、紫外線、可視光線などの標識を利用してもよい。
【0075】
また、基準点微粒子19b及び検査用微粒子19aを蛍光、リン光、赤外線、紫外線、可視光線の波長ではなく光線の強度によって識別することもできる。このときは、例えば検査用微粒子19aと基準点微粒子19bには蛍光色素を異なる割合で配合する。
なお、検体DNAの標識をリン光、紫外線によって行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に用いる検査用プレートの斜視図、
【図2】本発明に用いる微粒子が配列された検査用プレートの平面図、
【図3】本発明の検査装置の実施の形態を示す概念図、
【図4】検査中の微粒子の状態を示す模式図、
【図5】従来発明の微粒子が配列された検査用プレートの平面図、
【図6】従来の検査装置の概念図、
【図7】(a)は直径に公差がない理想的な検査中の微粒子の状態を示す模式図、(b)は直径に公差を有する現実の検査中の微粒子の状態を示す模式図、
【符号の説明】
【0077】
12 プレート基板
14 流路
15 流入口
16 流出口
19 微粒子
19a 検査用微粒子
19b 基準点微粒子
23 レーザ光源
24 レーザ光
28 CCDカメラ
29 移動板
32 制御手段
33 演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路と、前記流路の上流側に位置する流入口と、前記流路の下流側に位置する流出口とを有する検査用基体の前記流路内部に、基準点微粒子を配置し、前記基準点微粒子の下流側に複数個の前記検査用微粒子を配列し、
前記基準点微粒子を識別して検査開始点を設定した後、検査手段により前記検査用微粒子の状態を調べる検査方法。
【請求項2】
前記流路内に前記基準点微粒子の下流側に複数個の前記検査用微粒子が配列されている微粒子群を上流から下流にかけて複数配置する請求項1記載の検査方法。
【請求項3】
前記微粒子の状態を調べる前記検査手段が分光学的手段である請求項1または2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記検査用微粒子と前記基準点微粒子のいずれか一方または両方に発光色素を塗布又は含有させる請求項3に記載の検査方法。
【請求項5】
前記検査用微粒子に塗布又は含有させる発光色素と前記基準点微粒子に塗布又は含有させる前記発光色素の発光波長を異ならせる請求項4記載の検査方法。
【請求項6】
前記検査用微粒子に前記微粒子群ごとに異なる発光波長の前記発光色素を塗布または含有させる請求項4または5に記載の検査方法。
【請求項7】
前記発光色素として蛍光色素を用いる請求項4ないし6のいずれかに記載の検査方法。
【請求項8】
前記検査用微粒子には特定の検体を捕捉するプローブを結合させる請求項1ないし7のいずれかに記載の検査方法。
【請求項9】
前記基準点微粒子を識別して検査開始点を設定した後、前記検査手段又は前記検査用基体を前記流路と平行方向に移動させ、前記検査開始点からの前記検査手段の相対移動距離を算出する請求項1ないし8のいずれかに記載の検査方法。
【請求項10】
前記相対移動距離を前記検査用微粒子の平均直径で除算することにより前記検査開始点から前記検査手段の現在位置までに存在する検査用微粒子の数を算出する請求項9記載の検査方法。
【請求項11】
流路と、前記流路の上流側に位置する流入口と、前記流路の下流側に位置する流出口とを有する検査用基体と、前記流路内部に配列された複数個の微粒子を有し、前記微粒子は検査用微粒子と基準点微粒子からなり、前記基準点微粒子の下流側に複数個の前記検査用微粒子が配列されており、
さらに、前記基準点微粒子を識別して検査開始点を設定する制御手段及び前記微粒子の状態を調べる検査手段を有していることを特徴とする検査装置。
【請求項12】
前記流路内には前記基準点微粒子の下流側に複数個の前記検査用微粒子が配列されている微粒子群が上流から下流にかけて複数配置されている請求項11記載の検査装置。
【請求項13】
前記検査手段は分光学的手段によって前記微粒子の状態を検出する請求項11または12に記載の検査装置。
【請求項14】
前記微粒子には発光色素が塗布又は含有されている請求項13に記載の検査装置。
【請求項15】
前記検査用微粒子に塗布又は含有されている前記発光色素と前記基準点微粒子に塗布又は含有されている前記発光色素は発光波長が異なる請求項14に記載の検査装置。
【請求項16】
前記検査用微粒子には前記微粒子群ごとに異なる発光波長の前記発光色素が塗布または含有されている請求項14または15に記載の検査装置。
【請求項17】
前記発光色素は蛍光色素である請求項14ないし16のいずれかに記載の検査装置。
【請求項18】
前記微粒子には特定の検体を捕捉するプローブが結合している請求項11ないし16のいずれかに記載の検査装置。
【請求項19】
前記検査手段又は前記検査用基体を、前記流路に平行な方向に移動させる移動手段を有している請求項11ないし18のいずれかに記載の検査装置。
【請求項20】
前記検査開始点が設定された後、前記検査手段が前記検査用基体上を前記流路方向に移動した相対移動距離を算出する演算手段が、前記制御手段に接続されている請求項11ないし19のいずれかに記載の検査装置。
【請求項21】
前記演算手段が、前記相対移動距離を前記検査用微粒子の平均直径で除算することにより、前記検査開始点から前記検査手段の現在位置までに存在する検査用微粒子数を算出する請求項20に記載の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−53050(P2006−53050A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235035(P2004−235035)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】