説明

検査用試料作製方法

【課題】検査用試料の作製において、所望の観察箇所のみを取り出すとともに、比較的簡易な作業でかつ可及的に観察箇所の損傷を抑えることができるようにする。
【解決手段】ダイシングテープ3に貼着された状態で板状物1の形状を維持したまま、観察領域200の周囲に観察面である第一の側面201を形成して観察部を形成し、第一の側面201に平行な第二の側面210をフルカットで切削し、第二の側面210に垂直な第三の側面211をハーフカットで切削し、ハーフカットにより残留した残留部92に外力を加えて検査用試料に分割するように構成し、極小サイズの検査用試料を作製する場合においても熟練した手作業等を不要とし、観察側面の損傷を可及的に防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡による観察の対象となる検査用試料を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子製造工程では、定期的又は定量数ごとにウェーハやデバイスを抜き取って特定領域の検査を行ったり、不良が発生した段階で不良箇所の有無の検査を行ったりしている。かかる検査においては、近年の半導体素子の高集積化に伴い、超微細な解析が必要となってきており、観察分解能の高い透過型電子顕微鏡(TEM)が用いられている。
【0003】
TEMによる検査対象となる検査用試料を作製する方法としては、特許文献1に記載されているように、集束イオンビーム(FIB)加工により観察領域を厚さ0.1mm程度に薄化する方法がある。この方法では、観察領域近傍を、最終的にはTEMの試料室に挿入可能な短冊状ペレットに切り出し、その短冊状ペレットの中の観察領域(主に回路が形成された上面側)近傍の厚みが0.1mm程度となるようにFIB加工を施し、TEM試料を作製する。
【0004】
短冊状ペレットは、最初にウェーハの観察すべき特定領域又は不良箇所を含む比較的大きいサイズ(例えば10mm角)の切り片を切削により切り出し、この切り片から再度切削により観察領域を含む短冊状ペレット(例えば3mm×0.3mm、厚さ:0.7mm)を切り出すことにより形成される。以上のように、FIB加工を行う前に複数回の切削により観察領域を薄化することで、FIB加工の所要時間を大幅に短縮することができるため、FIB加工の前処理として切削による加工が広く行われている。
【0005】
切削による加工工程において、一度比較的大きいサイズの切り片を切り出してから短冊状ペレットを切り出すのは、短冊状ペレットのサイズが例えば(3mm×0.3mm×0.7mm)程度と小さいことから、短冊状ペレットの切り出し時は、ホットメルトタイプの接着剤等を介して剛性板に切り片を固定して切削を行う必要があるからである。すなわち、観察領域の厚さが数十μmとなるように溝入れ加工を行い、ついで、観察領域近傍を(3mm×0.3mm×0.7mm)程度の厚みの短冊状ペレット形状に切削し、その後、ホットメルトタイプの接着剤を溶かして剛性板から短冊状ペレットを取り外すことで、短冊状ペレットの切り出しを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−338020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来の切削による検査用試料作製においては、ホットメルトタイプの接着剤を使用すること及び短冊状ペレットが小さく薄いことに起因して、熟練した手作業を要し、作業自体が煩雑であった。また、ホットメルトタイプの接着剤を使用しているため、接着剤洗浄の際に観察領域が欠けたり破損したりするという不具合も生じていた。
【0008】
さらに、ウェーハの特定領域または不良箇所は数点であり、そのたった数点の観察のためにウェーハを分断し、本来は製品となるべき観察領域以外の部分を廃棄せざるを得なくしているという問題もある。特に、付加価値の高いデバイスが多く搭載されたウェーハを、数箇所の検査のために切断等で分離して廃棄することは非常に不経済であった。
【0009】
本発明は、上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、検査用試料の作製において、所望の観察箇所のみを取り出すとともに、比較的簡易な作業でかつ可及的に観察箇所の損傷を抑えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、板状物の表面側内部の観察領域を透過顕微鏡で観察するための観察側面を有する観察部及び該観察部を支持する支持部からなる検査用試料を作製する検査用試料作製方法に関するもので、板状物の裏面側をダイシングテープに貼着する貼着工程と、貼着工程の後に、円環形状の切削ブレードを板状物の表面から少なくとも観察領域が存在する位置より深く切り込ませ、観察領域を挟んで所定間隔をあけて平行な一対の第一の切削溝を形成し、観察部の観察側面として形成する第一の側面形成工程と、第一の側面形成工程の後に、第一の切削溝内において観察側面に平行な方向に板状物の表面からダイシングテープの厚さ方向中間部まで切削ブレードを切り込ませ、所定間隔よりも広い間隔をあけて観察領域を挟んで一対の第二の切削溝を形成し、観察側面と平行な支持部の第二の側面を形成する第二の側面形成工程と、第二の側面形成工程の後に、切削ブレードを板状物の表面から切り込ませ板状物の裏面から所定厚さの板状物を残留させて、観察領域を挟んで第二の切削溝に交差する一対の第三の切削溝を形成し、支持部の第三の側面を形成する第三の側面形成工程と、第三の側面形成工程後に、第三の側面形成工程で残留した板状物に外力を加えて検査用試料を分割する分割工程とを含む。
【0011】
上記検査用試料作製方法において、第二の側面形成工程と第三の側面形成工程の少なくとも一方の工程において、片側面から他側面に向かって傾斜するテーパ状の外周面を有し片側面が他側面より大径に形成された切削ブレードを用い、片側面を用いて観察領域側に第二の側面と第三の側面の少なくとも一方を形成することが望ましい。また、一対の第一の切削溝間の所定間隔は、5μm乃至20μmとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ダイシングテープに貼着された状態で板状物の形状を維持したまま、観察領域の周囲に観察面である第一の側面を形成して観察部を形成し、第一の側面に平行な第二の側面をフルカットで切削し、第二の側面に垂直な第三の側面をハーフカットで切削し、ハーフカットにより残留した第二の側面に残留部に外力を加えて検査用試料に分割するように構成したため、極小サイズの検査用試料を作製する場合においても熟練した手作業等を不要とし、観察側面の損傷を可及的に防ぐことができる。また、所望の観察箇所のみを取り出すことができるため、それ以外の領域を廃棄せずに済む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】板状物がダイシングテープを介してフレームに支持された状態を示す斜視図である。
【図2】検査用試料の一例を示す斜視図である。
【図3】第一の側面形成工程の状態を示す斜視図である。
【図4】第一の側面形成工程の状態を略示的に示す断面図である。
【図5】第二の側面形成工程の状態を示す斜視図である。
【図6】第二の側面形成工程の状態を略示的に示す断面図である。
【図7】第三の側面形成工程の状態を示す斜視図である。
【図8】第三の側面形成工程の状態を略示的に示す断面図である。
【図9】分割工程の状態を略示的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図1に示す板状物1から図2の検査用試料2を切り出して作製する方法について説明する。図1に示す板状物1は半導体ウェーハであり、その表面10には、ストリート11によって区画されて複数の電子回路12が形成されている。表面10に形成された電子回路12の内部には、透過顕微鏡によって観察される観察領域200が存在する。
【0015】
図2に示す検査用試料2は、図1に示した電子回路12から観察領域200を含めて切り出されるものであり、観察対象となる観察領域200を含む観察部20と、観察部20より厚く形成され観察部20を支持する支持部21とから構成されている。板状物1は半導体ウェーハであるため、その観察領域200は、図1に示した電子回路12の欠陥箇所または特定領域である。なお、板状物がCDやDVD等のガラス円盤である場合における観察領域は、記録面の欠陥箇所または特定領域である。観察部20は、第一の側面201を有している。この第一の側面201は、観察領域200を含み、観察側面となるものである。一方、支持部21は、第一の側面201と平行な方向に形成された第二の側面210と、第三の側面211とを有している。観察部20の水平方向の厚さAは例えば5〜20μm、鉛直方向の高さBは例えば0.01〜0.05mmである。支持部21の水平方向の厚さCは例えば0.1〜0.5mm、水平方向の長さDは例えば1.5〜5mmである。また、検査用試料2の鉛直方向の高さEは例えば1.5〜5mmである。なお、観察部20及び支持部21の厚さ、高さ、長さ等の値は、上記の例には限定されない。
【0016】
(1)貼着工程
最初に、図1に示すように、板状物1の裏面13をダイシングテープ3に貼着し、ダイシングテープ3の周縁部にリング状に形成されたフレーム4を貼着し、板状物1がダイシングテープ3を介してフレーム4に支持された状態とする。
【0017】
(2)第一の側面形成工程
図3及び図4に示すように、回転する切削ブレード5を、観察領域200の両側において、少なくとも板状物1の表面10から観察領域200が存在する位置よりも深く切り込ませ、図4に示すように、観察領域200の近傍かつ両側に一対の第一の切削溝6を形成する。切削ブレード5は、例えば厚みが0.2mmで円環形状でかつ外周面50が平面状に形成されており、これに対応して、第一の切削溝6は、底面が水平面、側面が鉛直面に形成される。この2つの第一の切削溝6は、観察領域200を挟んで2つの第一の切削溝6の間に所定間隔Aをあけて平行に形成する。所定間隔Aは、5〜20μm程度である。また、第一の切削溝6の深さは0.01〜0.05mm程度である。一対の第一の切削溝6を構成する側面のうち、観察領域200に近い2つの側面が、図2にも示した第一の側面201、すなわち観察側面となる。
【0018】
(3)第二の側面形成工程
次に、第一の切削溝6の内部において、図5及び図6に示すように、第一の側面201に平行な方向に、板状物1の表面10からダイシングテープ3の中間部に達するように切削ブレード7を切り込ませてフルカットを行う。このとき、前記第一の切削溝間の所定間隔Dよりも広い間隔をあけて、観察領域200を挟んだ状態で一対の第二の切削溝8を形成する。
【0019】
図6に示すように、切削ブレード7として、片側面70から他側面71に向かって傾斜するテーパ状の外周面72を有し、片側面70が他側面71より大径に形成され、外周部分の断面がVの字の片側の形状に形成されたいわゆる片Vブレードを使用すると、第二の切削溝8は、ダイシングテープ3の内部に頂点80を有する断面三角形状に形成される。切削ブレード7の厚みは例えば1mmである。この断面形状における頂点80の内角は、45〜60度程度である。2つの第二の切削溝8は、観察領域200に近い2つの側面が鉛直面となり、この鉛直面が、図2にも示した第二の側面210となる。第二の側面210は、第一の側面201と平行に形成されている。一方、観察領域200から遠い方の2つの側面は斜面81となる。
【0020】
(4)第三の側面形成工程
つぎに、図7及び図8に示すように、板状物1を90度回転させる。そして、切削ブレード7を板状物1の表面10から第二の切削溝8と交差する方向に切り込ませ、第二の切削溝8と交差し板状物1の裏面13にまで達しない一対の第三の切削溝9を形成しハーフカットを行う。切削ブレード7として、第二の側面形成工程と同様にいわゆる片Vブレードを使用すると、第三の切削溝9は、板状物1の内部に頂点90を有する断面三角形状に形成される。この断面形状における頂点90の内角は、45〜60度程度である。2つの第三の切削溝9は、観察領域200に近い2つの側面が鉛直面となり、この鉛直面が、図2にも示した第三の側面211となる。第三の側面211は、第二の側面210と直角に交差している。一方、観察領域200から遠い方の2つの側面は斜面91となる。第三の切削溝9の底である頂点90と板状物1の裏面13との高さの差、すなわち切削ブレード7によって切削されずに残留した部分である残留部92は、所定厚さTを有する。残留部92の所定厚さTは、例えば0.03〜0.1mmである。
【0021】
(5)分割工程
第三の側面形成工程で残留した残留部92に外力を加えると、第三の切削溝9に沿って外力切断部93において切断され、図2に示した検査用試料2が形成される。ここで用いる外力としては、例えば、ダイシングテープ3の裏面側からダイシングテープ3とともに、残留部92を含む検査用試料2に相当する部分を下方から突き上げる力がある。
【0022】
また、第二の側面形成工程または第三の側面形成工程において、いわゆる片Vブレードを用いた場合は、図9に示すように、第二の切削溝8または第三の切削溝9に、ピンセットPを挿入することができる。したがって、第二の切削溝8または第三の切削溝9にピンセットPを挿入し、第二の側面210または第三の側面211をピンセットPでつかんでピックアップする力を外力とし、これによって検査用試料2を作製することができる。
【0023】
なお、第二の側面形成工程または第三の側面形成工程において、片Vブレードではなく、外周面が平面状に形成された厚みのあるブレードを使用した場合においても、ピンセットPを挿入できるだけの切削溝を形成することができるが、その場合は、切削時の切削抵抗が大きくなり、チッピングが生じやすくなるため、片Vブレードを使用することが望ましい。
【0024】
以上のように、第三の側面形成工程において残留部92を形成してハーフカットし、分割工程において残留部92に外力を加えるようにすると、最初から最後まで板状物1がダイシングテープ3に支持されたままの状態で検査用試料2を作製することができる。したがって、ホットメルトタイプの接着剤や剛性板等は不要となり、極小サイズの検査用試料を作製する場合においても熟練した手作業等が必要とされず、作業を簡略化することができる。また、接着剤を使用しないことで、接着剤除去のための超音波洗浄等も不要となるため、洗浄により検査用試料が損傷するということもない。さらに、所望の観察領域のみを切り出すことができ、板状物の他の部分を廃棄する必要もない。
【0025】
なお、本実施形態では、第二の側面形成工程、第三の側面形成工程の双方において片Vブレードを使用したが、いずれか一方の工程において片Vブレードを使用すれば、検査用試料22をピックアップすることができる。
【符号の説明】
【0026】
1:板状物
10:表面 11:ストリート 12:電子回路
13:裏面
2:検査用試料
20:観察部 200:観察領域 201:第一の側面
21:支持部 210:第二の側面 211:第三の側面
3:ダイシングテープ 4:フレーム
5:切削ブレード 50:外周面 6:第一の切削溝
7:切削ブレード 70:片側面 71:他側面 72:外周面
8:第二の切削溝 80:頂点 81:斜面
9:第三の切削溝 90:頂点 91:斜面 92:残留部 93:外力切断部
P:ピンセット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状物の表面側内部の観察領域を透過顕微鏡で観察するための観察側面を有する観察部及び該観察部を支持する支持部からなる検査用試料を作製する検査用試料作製方法であって、
該板状物の裏面側をダイシングテープに貼着する貼着工程と、
該貼着工程の後に、円環形状の切削ブレードを該板状物の表面から少なくとも該観察領域が存在する位置より深く切り込ませ、該観察領域を挟んで所定間隔をあけて平行な一対の第一の切削溝を形成し、該観察部の観察側面として形成する第一の側面形成工程と、
該第一の側面形成工程の後に、該第一の切削溝内において該観察側面に平行な方向に該板状物の表面から該ダイシングテープの厚さ方向中間部まで該切削ブレードを切り込ませ、該所定間隔よりも広い間隔をあけて該観察領域を挟んで一対の第二の切削溝を形成し、該観察側面と平行な該支持部の第二の側面を形成する第二の側面形成工程と、
該第二の側面形成工程の後に、該切削ブレードを該板状物の表面から切り込ませ該板状物の裏面から所定厚さの板状物を残留させて、該観察領域を挟んで該第二の切削溝に交差する一対の第三の切削溝を形成し、該支持部の第三の側面を形成する第三の側面形成工程と、
該第三の側面形成工程後に、該第三の側面形成工程で残留した該板状物に外力を加えて該検査用試料を分割する分割工程と
を含む検査用試料作製方法。
【請求項2】
前記第二の側面形成工程と前記第三の側面形成工程の少なくとも一方の工程において、片側面から他側面に向かって傾斜するテーパ状の外周面を有し該片側面が該他側面より大径に形成された切削ブレードを用い、該片側面を用いて前記観察領域側に該第二の側面と該第三の側面の少なくとも一方を形成する、
請求項1に記載の検査用試料作製方法。
【請求項3】
前記一対の第一の切削溝間の所定間隔は、5μm乃至20μmである、
請求項1又は2に記載の検査用試料作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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