説明

検査素子、検査キット、検査装置、および検査方法

【課題】本発明の実施形態は、測定精度が高く、且つ検査時間が短い検査素子、検査キット、検査装置、および検査方法を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、透光性を有する基部と、前記基部の主面に互いに距離をあけて配設された一対の光学要素部と、前記基部の主面に設けられた光導波路部と、前記光導波路部の前記基部が設けられた側とは反対側の主面であって、前記光学要素部同士の間に設けられた検出部と、一端が前記検出部の主面より突出して設けられた枠状の保持部と、を備え、前記検出部は、発色剤と、前記発色剤を保持する膜形成体と、を有することを特徴とする検査素子が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、検査素子、検査キット、検査装置、および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明シート上に発色部、反射部、反応部、展開部が順次積層された構成を有する検査素子が知られている。
この様な検査素子においては、乾燥状態の試薬類を含んだ反応部に検体液を導入し、検体液と試薬類とが反応して生成された反応生成物を発色剤に導入することで生じる吸光度変化量を測定するようにしている。
【0003】
この場合、測定対象が酵素であり、その活性を定量化するような場合には、反応部に複数の試薬類を多量に含ませる必要がある。そのため、散乱体が形成されて吸光度変化量の測定誤差が大きくなったり、反応生成物などの拡散速度が遅くなり検査時間が長くなったりするおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−266795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、測定精度が高く、且つ検査時間が短い検査素子、検査キット、検査装置、および検査方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、透光性を有する基部と、前記基部の主面に互いに距離をあけて配設された一対の光学要素部と、前記基部の主面に設けられた光導波路部と、前記光導波路部の前記基部が設けられた側とは反対側の主面であって、前記光学要素部同士の間に設けられた検出部と、一端が前記検出部の主面より突出して設けられた枠状の保持部と、を備え、前記検出部は、発色剤と、前記発色剤を保持する膜形成体と、を有することを特徴とする検査素子が提供される。
【0007】
また、他の実施形態によれば、上記の検査素子と、測定対象となる酵素に対する基質と、緩衝液と、を含む溶液と、を備えたことを特徴とする検査キットが提供される。
【0008】
また、他の実施形態によれば、上記の検査素子と、測定対象となる酵素に対する基質と、緩衝液と、を備えたことを特徴とする検査キットが提供される。
【0009】
また、他の実施形態によれば、上記の検査素子に設けられた一方の光学要素部に光を入射させる投光部と、他方の光学要素部からの光を受光して光の強度に応じた電気信号に変換する受光部と、を備えたことを特徴とする検査装置が提供される。
【0010】
また、他の実施形態によれば、少なくとも測定対象となる酵素に対する基質と、緩衝液と、前記酵素を含む検体液と、を混合し、上記の検査素子に設けられた保持部の内部に前記混合された液体を所定量供給し、前記検査素子の検出部に設けられた発色剤が発色することで生じる吸光度変化量を求め、前記吸光度変化量に基づいて酵素活性を求めること、を特徴とする検査方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態に係る検査素子について例示をするための模式断面図である。
【図2】反応の様子を例示するための模式図である。
【図3】吸光度の経時的な変化を例示するための模式グラフ図である。
【図4】酵素活性(ALT(GPT)活性)と吸光度変化量との関係を例示するための模式グラフ図である。
【図5】本実施の形態に係る検査装置について例示をするための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本実施の形態に係る検査素子について例示をするための模式断面図である。
図1に示すように、検査素子1には、基部2、光導波路部3、光学要素部4、検出部5、保持部6、保護部7が設けられている。
【0013】
基部2は、平板状を呈し、透光性の材料から形成されている。基部2は、例えば、ガラス(例えば、無アルカリガラス)または石英などから形成されるものとすることができる。光導波路部3は、基部2より高い屈折率を有し、基部2の一方の主面上に設けられている。すなわち、光導波路部3は、基部2の主面と、後述する一対の光学要素部4と、を覆うように設けられている。光導波路部3は、高分子樹脂などから形成され、3μm〜300μmの範囲で設定されるほぼ均一な厚みの膜状体とすることができる。
【0014】
光学要素部4は、基部2の光導波路部3が設けられた側の主面の両端部付近に一対設けられている。すなわち、光学要素部4は、基部2の主面に互いに距離をあけて一対配設されている。図1に例示をした光学要素部4は、光導波路部3に光を導入、出射させる際に回折格子として機能する。そのため、光学要素部4は、基部2より高い屈折率を有し所定のピッチ寸法で格子状に設けられている。例えば、光学要素部4は、ピッチ寸法を1μmとし、格子状に設けられたものとすることができる。ただし、ピッチ寸法はこれに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0015】
光学要素部4は、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛、ニオブ酸リチウム、ガリウム砒素(GaAs)、インジウム錫酸化物(ITO)、ポリイミドなどから形成されるものとすることができる。なお、回折格子として機能する光学要素部4を例示したが、光を光導波路部3内に導入させることができる光学要素を適宜選択することができる。例えば、光学要素部は、光導波路部3に光を導入、出射させる際にプリズムとして機能するものとすることができる。
【0016】
検出部5は、膜状を呈し、光導波路部3の基部2が設けられた側とは反対側の主面の中央部分に設けられている。すなわち、検出部5は、光導波路部3の基部2が設けられた側とは反対側の主面であって、光学要素部4同士の間に設けられている。検出部5は、発色剤と発色剤を保持する膜形成体とを有するものとすることができる。
膜形成体は、多孔質組織を有するものとすることができ、多孔質組織内の空孔に発色剤を保持するようにしたものなどを例示することができる。膜形成体の材料としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)やポリエチレングリコール(PEG)などを例示することができる。
検出部5は、例えば、水とアルコールなどの水溶性有機溶媒との混合溶媒に、発色剤、造膜用高分子などを均質に混合した前駆溶液を膜状に乾燥させることで形成するようにすることができる。
【0017】
反応生成物として過酸化水素などの過酸化物が生成される場合には、検出部5に含まれる発色剤をベンジジン系発色剤とすることができる。ベンジジン系発色剤としては、例えば、4−クロロ−1−ナフトール、3,3’−ジアミノベンジジン、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(以下、適宜、TMBZと称する)、TMBZの塩酸塩(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン・2HCl・2H2O)などを例示することができる。この場合、水への溶解度が低く、生体への有害性が極めて低いTMBZを用いるようにすることもできる。
また、反応生成物としてNADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)などが生成される場合には、検出部5に含まれる発色剤をテトラゾリウム塩などとすることができる。
【0018】
ここで、検出部を膜形成体と発色剤と試薬類とから形成されるものとすれば、検体液を検出部に供給するだけで検査を行うことができる。
この場合、酵素活性を定量化するような反応系においては、2段階以上の素反応を経て最終的に生成された物質を定量する必要がある。
そのため、複数の試薬類を高濃度で用いることになり、複数の試薬類を検出部に含ませることが必要となる。
しかしながら、複数の試薬類を検出部に含ませるようにすることは困難である。
何故なら複数の試薬類を検出部に含ませることができたとしても試薬類の量が多いので、試薬類が結晶化、析出するなどして散乱体が形成されるおそれがある。そして、散乱体が形成されると後述する吸光度変化量の測定において測定誤差が大きくなるおそれがある。
【0019】
また、この様な検出部とすれば、検体液に元々含まれる水分が反応場となり各素反応が進行することになる。そのような場合には、溶媒の粘性などによって変化する反応生成物の拡散速度の影響によって反応速度も変化することが想定され、複数の素反応をトータルした反応速度は検体の個体差による影響を少なからず受けることが予想される。そのため、反応生成物の拡散速度が遅くなり検査時間が長くなるおそれがある。また、発色剤と複数の試薬類とを含む検出部とすれば、検査素子の大型化を招くことにもなる。
【0020】
そのため、本実施の形態においては、検出部5を発色剤と発色剤を保持する膜形成体とから形成されたものとしている。そして、測定対象となる酵素に対する基質、素反応をさせる際に用いられる試薬類は後述する溶液に含ませるようにし、この溶液を反応場としている。なお、この溶液に関する詳細は後述する。
【0021】
また、検出部5を膜形成体と発色剤と発色反応促進剤とから形成されたものとすることもできる。すなわち、検出部5は、発色反応促進剤をさらに有し、膜形成体により発色剤と発色反応促進剤とが保持されたものとすることもできる。この場合、発色剤の他に発色反応促進剤が加えられることになるが、複数の試薬類を検出部に含ませる場合と比べてその量が少ないため前述した問題の発生を抑制することができる。ただし、検出部5を形成する際に用いられる前駆溶液中に発色反応促進剤を溶解させた際に、発色反応促進剤の活性が低下しないものとすることが好ましい。
【0022】
反応生成物として過酸化水素などの過酸化物が生成される場合には、例えば、発色反応促進剤をペルオキシダーゼ(POD)などとすることができる。
反応生成物としてNADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)などが生成される場合には、例えば、発色反応促進剤をジアホラーゼなどとすることができる。
なお、発色剤、発色反応促進剤は例示をしたものに限定されるわけではなく、測定対象に応じて適宜変更することができる。
【0023】
この場合、検体液に元々含まれる水分を反応場とする場合と比べて、検出部5の上方に保持する溶液の量が多くなる。そのため、保持部6を設けることで検出部5の上方に所定量の溶液が保持できるようになっている。
保持部6は、枠状を呈し、検出部5を囲むようにして設けられている。保持部6の一方の端部は光導波路部3の主面に液密に設けられ、他方の端部は検出部5の主面から突出するようにして設けられている。そのため、検出部5の上方に後述する溶液を保持する保持空間6aが形成されることになる。
【0024】
この場合、保持部6により保持される液の体積を所定の値以上とすることが好ましい。 本発明者らの得た知見によれば、保持部6により保持される液の体積を10μL(マイクロリットル)以上とすることが好ましい。
そのため、保持空間6aの体積は10μL(マイクロリットル)以上とすることができる。すなわち、保持部6の一端は、検出部5の上方に10μL以上の体積の空間(保持空間6a)が形成されるように検出部5の主面より突出している。
【0025】
保護部7は、光導波路部3の両端部であって光学要素部4が形成されている領域に対向する部分を覆うようにして設けられている。すなわち、保持部6の外側の光導波路部3の主面を覆うようにして設けられている。
保護部7は、光導波路部3を形成する材料よりも低屈折率の材料から形成されている。また、保持部6に保持される液に対する耐性の高い材料から形成されている。保護部7は、例えば、フッ素樹脂などから形成されるものとすることができる。
【0026】
本実施の形態によれば、後述する溶液中に測定対象となる酵素に対する基質や試薬類を含ませるようにしている。そのため、酵素活性を定量化する場合のように複数の試薬類を高濃度で用いることが必要となる場合であっても測定精度を向上させることができ、且つ検査時間を短縮することができる。また、検出部5を大型化することなく対応することができる。
すなわち、溶液を反応場とすることができるので、試薬類の量が多い場合であっても試薬類が結晶化、析出するなどして散乱体が形成されることを抑制することができる。そのため、測定精度を向上させることができる。
また、溶液を反応場とすることができるので、溶媒の粘性などによって変化する反応生成物の拡散速度の影響を抑制することができる。そのため、反応生成物の拡散速度を速くすることができるので、酵素活性に関する検査の時間を大幅に短縮することができる。
また、検出部5には、発色剤、または発色剤と発色反応促進剤が含まれているだけのため、測定対象となる所定の酵素に対して検査素子1の共通化を図ることができる。
【0027】
次に、本実施の形態に係る検査キットについて例示をする。
本実施の形態に係る検査キットは、前述した検査素子1と、少なくとも測定対象となる酵素に対する基質と緩衝液とを含む溶液と、を個別に備えたキットとすることができる。 なお、溶液を構成する要素(例えば、測定対象となる酵素に対する基質、素反応をさせる際に用いられる試薬類、緩衝液など)が個別に組み合わされたものが溶液の代わりに備えられたキットとすることもできる。例えば、前述した検査素子1と、測定対象となる酵素に対する基質と、緩衝液と、を個別に備えたキットとすることもできる。また、素反応をさせる際に用いられる試薬類をさらに備えたものとすることもできる。
【0028】
緩衝液は、測定対象となる酵素に対する基質、素反応をさせる際に用いられる試薬類を溶解させるために用いられる。この場合、緩衝液は、試薬類などの活性の低下抑制の観点から有機溶剤でないものとすることが好ましい。ただし、緩衝液は、試薬類などの活性が保たれる程度に有機溶剤を含んだものとすることができる。
【0029】
また、緩衝液は、水素イオン指数(pH)の変動を抑制することができるものであることが好ましい。
この場合、緩衝液の水素イオン指数は、pH3.5〜10.0、好ましくはpH4.5〜9.0の範囲となるようにすることができる。
【0030】
緩衝液は、例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液、各種グッド緩衝液などとすることができる。
例えば、緩衝液は、フタル酸水素カリウム/水酸化ナトリウム緩衝液、クエン酸二ナトリウム/塩酸緩衝液、クエン酸二水素カリウム/水酸化ナトリウム緩衝液、コハク酸/四ホウ酸ナトリウム緩衝液、クエン酸水素カリウム/四ホウ酸ナトリウム緩衝液、リン酸水素二ナトリウム/クエン酸緩衝液、酢酸ナトリウム/塩酸緩衝液、酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液などとすることができる。
【0031】
溶液は、測定対象となる酵素に対する基質の他に、素反応をさせる際に用いられる試薬類を緩衝液にさらに溶解させたものとすることもできる。すなわち、溶液は、素反応をさせる際に用いられる試薬類をさらに含んだものとすることもできる。
【0032】
また、検体液中に含まれる測定対象となる酵素以外の物質によって、素反応が過大となり、あるいは素反応が阻害されるような場合には、その影響を最小限化するための添加剤をさらに追加することもできる。
【0033】
この場合、素反応をさせる際に用いられる試薬類は、測定対象となる酵素に応じて適宜選択するようにすることができる。
表1は、測定対象となる酵素に対する基質、素反応をさせる際に用いられる試薬類、発色剤、発色反応促進剤を例示するためのものである。
【表1】

図2は、反応の様子を例示するための模式図である。
なお、図2は、一例として、3段階の反応を経て反応生成物が生成される場合を例示するものである。
測定対象となる酵素を含む検体液が溶液中に導入されると、表1の上段から順に素反応が進行し、反応生成物(表1、図2に例示をしたものでは生成物3)が生成される。
すなわち、測定対象となる酵素と測定対象となる酵素に対する基質とが反応して生成物1が生成される。次に、生成された生成物1と試薬1とが反応して生成物2が生成される。次に、生成された生成物2と試薬2とが反応して生成物3(反応生成物)が生成される。そして、生成された生成物3(反応生成物)により発色剤が発色する。この際、発色反応促進剤により発色剤の発色が促進される。
【0034】
例えば、反応生成物として過酸化水素(H)が生成される場合には、生成された過酸化水素(H)とペルオキシダーゼ(POD)とが反応してラジカル酸素原子(O)が生成される。この生成されたラジカル酸素原子(O)により発色剤が酸化され、例えば、TMBZの−NH基が=NH基に酸化され、青緑色に発色し、さらに不溶化して検出部5の表面に沈澱する。
この発色により生じる吸光度変化量を測定することで酵素活性を定量化することができる。
【0035】
図3は、吸光度の経時的な変化を例示するための模式グラフ図である。
図3に例示をしたものにおいては、市販の標準血清(リキッドアブノーマル、デンカ生研(株))を0.2Mリン酸バッファ(pH6.2)で20倍あるいは100倍に希釈した液に、ALT(GPT)に対する基質であるL−アラニン、α-ケトグルタル酸を最終濃度で200mM、素反応をさせる際に用いられる試薬類であるピルビン酸オキシダーゼを最終濃度で10mM添加した。また、酵素活性が2U/L、0.4U/Lとなるように混合したものを用いた。なお、酵素活性が0U/Lの液(ブランクの液)は、血清の代わりに同量の生理食塩水を用いた液とした。
【0036】
図3から分かるように、保持空間6aに酵素活性が0U/Lの液を供給してから30秒程度で吸光度の変化率が概ね一定になる。
そこで、液供給から30秒後における吸光度と、60秒後における吸光度との差から、吸光度変化量ΔAと酵素活性(ALT(GPT)活性)との関係を求めるようにした。
【0037】
図4は、酵素活性(ALT(GPT)活性)と吸光度変化量との関係を例示するための模式グラフ図である。
図4に示すように、酵素活性(ALT(GPT)活性)と吸光度変化量との間には所定の関係がある。そのため、発色により生じる吸光度変化量を測定することで酵素活性を定量化することができる。この場合、各酵素における酵素活性と吸光度変化量との関係を予め求めて検量線としておけば、吸光度変化量の測定値から各酵素における酵素活性を容易に定量化することができる。
【0038】
また、液供給から30秒後における吸光度と、60秒後における吸光度との差から、吸光度変化量を求めればよいので、60秒程度で酵素活性を定量化することができる。そのため、酵素活性に関する検査の時間を大幅に短縮することができる。
【0039】
本実施の形態によれば、溶液中に測定対象となる酵素に対する基質や試薬類を含ませることができる。そのため、酵素活性を定量化する場合のように複数の試薬類を高濃度で用いることが必要となる場合であっても測定精度を向上させることができ、且つ検査時間を短縮することができる。また、検出部5を大型化することなく対応することができる。
すなわち、溶液を反応場とすることができるので、試薬類の量が多い場合であっても試薬類が結晶化、析出するなどして散乱体が形成されることを抑制することができる。そのため、測定精度を向上させることができる。
また、溶液を反応場とすることができるので、溶媒の粘性などによって変化する反応生成物の拡散速度の影響を抑制することができる。そのため、反応生成物の拡散速度を速くすることができるので、酵素活性に関する検査の時間を大幅に短縮することができる。
また、検出部5には、発色剤、または発色剤と発色反応促進剤が含まれているだけのため、測定対象となる所定の酵素に対して検査素子1の共通化を図ることができる。
【0040】
次に、本実施の形態に係る検査装置について例示をする。
図5は、本実施の形態に係る検査装置について例示をするための模式図である。
図5に示すように、検査装置100には、検査部20、溶液反応部30、制御部40が設けられている。
【0041】
検査部20は、前述した検査素子1を着脱可能となっている。
この場合、検査素子1は、使い捨てとすることができ、検査毎に交換されるものとすることができる。
検査部20には、投光部21、受光部22が設けられている。すなわち、検査素子1に設けられた一方の光学要素部4に光を入射させる投光部21と、他方の光学要素部4からの光を受光して光の強度に応じた電気信号に変換する受光部22と、が設けられている。 投光部21は、例えば、レーザダイオードなどとすることができる。受光部22は、例えば、フォトダイオードなどとすることができる。
【0042】
投光部21は、一方の光学要素部4に光を入射させることができる位置に設けられている。受光部22は、他方の光学要素部4からの光を受光することができる位置に設けられている。
ここで、投光部21から出射し基部2を介して光学要素部4に入射した光は、光学要素部4と光導波路部3との界面で回折され、さらに光導波路部3と基部2および検出部5との界面で複数回反射しながら伝播する。この様に入射した光は、光導波路部3内を反射して伝搬するが、その際、エバネッセント波(evanescent wave)が生じる。エバネッセント波とは、光が光導波路部3と外部との界面において全反射する際、その界面に発生して表面だけを伝わる電磁波をいう。このエバネッセント波が到達する距離は、光導波路部3の表面から波長程度(1μm以下)の長さである。
【0043】
そして、エバネッセント波が光導波路部3と検出部5との界面において屈折する際に、前述した検出部5の発色剤が発色することで生じる吸光度変化量に応じてエバネッセント波が吸収される。
この様にして光導波路部3内を伝播した光は、他方の光学要素部4から基部2を介して外部に出射される。外部に出射された光は、受光部22により受光され、受光された光の強度に応じた電気信号に変換される。変換された電気信号は、制御部40に送られる。
【0044】
この場合、受光部22により受光される光の強度は、検出部5の発色剤が発色することで生じる吸光度変化量に応じて変化した値(エバネッセント波の吸収に応じて変化した値)となるので、その変化率などから酵素活性を定量化することができる。
【0045】
溶液反応部30には、供給部31、溶液収納部32、検体液収納部33、混合部34が設けられている。
供給部31には、ノズル31aが設けられ、ノズル31aには可撓生の配管31cを介してポンプなどの吸引部31bが接続されている。また、図示しない移動部によりノズル31aの位置を変化させることができるようになっている。この場合、図中の破線に示すようにノズル31aを移動させて、溶液収納部32、検体液収納部33、混合部34、保持空間6aにおいて溶液などの液体の吸引、吐出をさせることができるようになっている。
【0046】
溶液収納部32は、前述した溶液を収納する。例えば、測定対象となる酵素に対する基質を緩衝液に溶解させたもの、測定対象となる酵素に対する基質と素反応をさせる際に用いられる試薬類を緩衝液に溶解させたものなどを収納する。
検体液収納部33は、測定対象となる酵素を含む検体液を収納する。例えば、希釈された血液や血清などの検体液を収納する。
【0047】
混合部34には、収納部34aと攪拌部34bが設けられている。
収納部34aには、供給部31により所定量の溶液と、検体液とが供給され、攪拌部34bにより溶液と検体液とが攪拌される。
すなわち、混合部34は、少なくとも測定対象となる酵素に対する基質と、緩衝液と、酵素を含む検体液と、を混合する。
【0048】
制御部40は、検査部20、溶液反応部30に設けられた各要素の動作を制御する。また、受光部22から送られてきた電気信号に基づいて、酵素活性を定量化する。
【0049】
この場合、以下の(1)式により所定の時間後の吸光度Aを演算し、さらに吸光度変化量ΔAを演算するようにすることができる。例えば、(1)式により液供給から30秒後における吸光度A(30)と、60秒後における吸光度A(60)とを演算し、さらに吸光度A(30)と吸光度A(60)との差から吸光度変化量ΔAを演算するようにすることができる。
そして、前述したように、予め求められた検量線などに基づいて、吸光度変化量ΔAから酵素活性を求めるようにすることができる。
【0050】
A(t1)=−log(I(t1)/I(t0)) ・・・(1)
ここで、A(t1)はt=t0を初期値とした場合のt1秒後の吸光度、I(t0)は時間t0における光検出強度(例えば、受光部22の出力値)、I(t1)はt=t0を初期値とした場合のt1秒後の光検出強度(例えば、受光部22の出力値)である。
【0051】
次に、検査装置100の作用について例示をする。
まず、作業者などにより溶液収納部32に溶液が供給され、検体液収納部33に希釈された血液や血清などの検体液が供給される。また、検査部20に検査素子1が装着される。
【0052】
次に、図示しない移動部によりノズル31aを移動させて、ノズル31aの先端部を溶液収納部32内の溶液中に入れる。そして、吸引部31bを作動させることで所定量の溶液を吸引する。
次に、図示しない移動部によりノズル31aを移動させて、ノズル31aの先端部を収納部34a内に入れる。そして、吸引部31bを作動させることで溶液を収納部34a内に吐出する。
【0053】
次に、図示しない移動部によりノズル31aを移動させて、ノズル31aの先端部を検体液収納部33内の検体液中に入れる。そして、吸引部31bを作動させることで所定量の検体液を吸引する。
次に、図示しない移動部によりノズル31aを移動させて、ノズル31aの先端部を収納部34a内に入れる。そして、吸引部31bを作動させることで検体液を収納部34a内に吐出する。
【0054】
収納部34a内に所定量の溶液と検体液とが供給されると、検体液に含まれる酵素と、溶液に含まれる測定対象となる酵素に対する基質や試薬類との素反応が進行し、反応生成物が生成される。この際、攪拌部34bにより溶液と検体液とが攪拌されることで素反応の進行が促進される。
【0055】
次に、図示しない移動部によりノズル31aを移動させて、ノズル31aの先端部を収納部34a内の液体中に入れる。そして、吸引部31bを作動させることで所定量の液体を吸引する。この場合、この液体には生成された反応生成物が含まれている。
次に、図示しない移動部によりノズル31aを移動させて、ノズル31aの先端部を保持空間6aの直上に位置決めする。そして、吸引部31bを作動させることで反応生成物が含まれている液体を保持空間6a内に吐出する。保持空間6a内に吐出された液体に含まれている反応生成物により検出部5に設けられた発色剤が発色する。この際、発色反応促進剤が含まれている場合には発色反応促進剤により発色剤の発色が促進される。
【0056】
次に、投光部21からレーザ光などの光を出射させ、光導波路部3内を反射して伝搬させることでエバネッセント波を発生させる。そして、エバネッセント波が光導波路部3と検出部5との界面において屈折する際には、前述した検出部5の発色剤が発色することで生じる吸光度変化量に応じてエバネッセント波が吸収される。
【0057】
光導波路部3内を伝播した光は、他方の光学要素部4から基部2を介して外部に出射され、受光部22により受光される。受光部22により受光された光の強度は、検出部5の発色剤が発色することで生じる吸光度変化量に応じて変化した値となるので、その変化率などから酵素活性を定量化する。
【0058】
なお、前述したものの場合には、測定対象となる酵素に対する基質を緩衝液に溶解させたものや、測定対象となる酵素に対する基質と素反応をさせる際に用いられる試薬類を緩衝液に溶解させたものを溶液収納部32に収納する場合を例示したがこれに限定されるわけではない。例えば、測定対象となる酵素に対する基質、素反応をさせる際に用いられる各試薬類をそれぞれ緩衝液に溶解させたものを個別に収納し、供給部31により各溶液を収納部34aに個別に供給するようにしてもよい。
【0059】
また、溶液反応部30は必ずしも必要ではなく、例えば、作業者が前述した溶液と検体液とを混合させて、生成された反応生成物を含む液体を保持空間6a内に供給するようにしてもよい。
また、制御部40も必ずしも必要ではなく、例えば、受光部22から送られてきた電気信号を別途設けられた演算手段などで演算するようにしてもよい。
【0060】
また、ノズル31aの内部や可撓生の配管31cの内部などを洗浄する洗浄手段を適宜設けるようにすることができる。例えば、洗浄水などを吸引させてノズル31aの内部や可撓生の配管31cの内部などを洗浄したり、可撓生の配管31cに洗浄水などを導入してノズル31aの内部や可撓生の配管31cの内部などを洗浄したりすることができる。
【0061】
本実施の形態によれば、溶液中に測定対象となる酵素に対する基質や試薬類を含ませることができる。そのため、酵素活性を定量化する場合のように複数の試薬類を高濃度で用いることが必要となる場合であっても測定精度を向上させることができ、且つ検査時間を短縮することができる。また、検出部5を大型化することなく対応することができる。
すなわち、溶液を反応場とすることができるので、試薬類の量が多い場合であっても試薬類が結晶化、析出するなどして散乱体が形成されることを抑制することができる。そのため、測定精度を向上させることができる。
また、溶液を反応場とすることができるので、溶媒の粘性などによって変化する反応生成物の拡散速度の影響を抑制することができる。そのため、反応生成物の拡散速度を速くすることができるので、酵素活性に関する検査の時間を大幅に短縮することができる。
また、検出部5には、発色剤、または発色剤と発色反応促進剤が含まれているだけのため、測定対象となる所定の酵素に対して検査素子1の共通化を図ることができる。
【0062】
次に、本実施の形態に係る検査方法について例示をする。
本実施の形態に係る検査方法においては、前述した検査素子1、検査キット、検査装置100を用いることができる。
ここでは一例として、前述した検査キットを用いる場合を例示する。
まず、前述した溶液を分注する。
この場合、溶液は、少なくとも測定対象となる酵素に対する基質が緩衝液に溶解されたものとすることができる。また、溶液は、測定対象となる酵素に対する基質の他に、素反応をさせる際に用いられる試薬類を緩衝液にさらに溶解させたものとすることもできる。また、検体液中に含まれる測定対象となる酵素以外の物質によって、素反応が過大となり、あるいは素反応が阻害されるような場合には、その影響を最小限化するための添加剤をさらに追加することもできる。
溶液を構成する要素(例えば、測定対象となる酵素に対する基質、素反応をさせる際に用いられる試薬類、緩衝液など)が個別に組み合わされたものが溶液の代わりに備えられたキットである場合には、これらを用いて溶液を作成する。
【0063】
次に、溶液に検体液を導入する。
検体液は、例えば、測定対象となる酵素が含まれた血液や血清などを所定の倍率に希釈したものとすることができる。
溶液に検体液を導入すると、素反応が進行して反応生成物が生成される。
この場合、溶液に検体液を導入した後に攪拌することで、素反応の進行を促進させるようにすることができる。
【0064】
次に、反応生成物が含まれている液体を検査素子1の保持空間6a内に所定量供給する。この反応生成物により検出部5に設けられた発色剤が発色する。この際、発色反応促進剤が含まれている場合には発色反応促進剤により発色剤の発色が促進される。
【0065】
次に、発色剤が発色することで生じる吸光度変化量を求め、予め求められた検量線などに基づいて、吸光度変化量から酵素活性を求める。
吸光度変化量は、例えば、前述した検査部20を用いて光検出強度を検出することで吸光度を求め、所定の時間における吸光度の差から求めるようにすることができる。
すなわち、少なくとも測定対象となる酵素に対する基質と、緩衝液と、酵素を含む検体液と、を混合し、検査素子1に設けられた保持部6の内部に混合された液体を所定量供給し、検査素子1の検出部5に設けられた発色剤が発色することで生じる吸光度変化量を求め、吸光度変化量に基づいて酵素活性を求めるようにすることができる。
なお、吸光度変化量の演算、検量線に基づいて吸光度変化量から酵素活性を求めることなどは、前述したものと同様のため詳細な説明は省略する。
【0066】
本実施の形態によれば、溶液中に測定対象となる酵素に対する基質や試薬類を含ませることができる。そのため、酵素活性を定量化する場合のように複数の試薬類を高濃度で用いることが必要となる場合であっても測定精度を向上させることができ、且つ検査時間を短縮することができる。
すなわち、溶液を反応場とすることができるので、試薬類の量が多い場合であっても試薬類が結晶化、析出するなどして散乱体が形成されることを抑制することができる。そのため、測定精度を向上させることができる。
また、溶液を反応場とすることができるので、溶媒の粘性などによって変化する反応生成物の拡散速度の影響を抑制することができる。そのため、反応生成物の拡散速度を速くすることができるので、酵素活性に関する検査の時間を大幅に短縮することができる。
【0067】
以上、実施の形態について例示をした。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。
前述の実施の形態に関して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、または、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
例えば、検査素子1、検査キット、検査装置100が備える各要素の形状、寸法、材質、配置、数などは、例示をしたものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0068】
1 検査素子、2 基部、3 光導波路部、4 光学要素部、5 検出部、6 保持部、6a 保持空間、20 検査部、21 投光部、22 受光部、30 溶液反応部、31 供給部、31a ノズル、31b 吸引部、32 溶液収納部、33 検体液収納部、34 混合部、34a 収納部、34b 攪拌部、40 制御部、100 検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する基部と、
前記基部の主面に互いに距離をあけて配設された一対の光学要素部と、
前記基部の主面に設けられた光導波路部と、
前記光導波路部の前記基部が設けられた側とは反対側の主面であって、前記光学要素部同士の間に設けられた検出部と、
一端が前記検出部の主面より突出して設けられた枠状の保持部と、
を備え、
前記検出部は、発色剤と、前記発色剤を保持する膜形成体と、を有することを特徴とする検査素子。
【請求項2】
前記保持部の一端は、前記検出部の上方に10μL以上の体積の空間が形成されるように前記検出部の主面より突出したこと、を特徴とする請求項1記載の検査素子。
【請求項3】
前記検出部は、発色反応促進剤をさらに有し、前記膜形成体により前記発色剤と前記発色反応促進剤とが保持されたことを特徴とする請求項1または2に記載の検査素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の検査素子と、
測定対象となる酵素に対する基質と、緩衝液と、を含む溶液と、
を備えたことを特徴とする検査キット。
【請求項5】
前記溶液は、素反応をさせる際に用いられる試薬類をさらに含んだこと、を特徴とする請求項4記載の検査キット。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の検査素子と、
測定対象となる酵素に対する基質と、
緩衝液と、
を備えたことを特徴とする検査キット。
【請求項7】
素反応をさせる際に用いられる試薬類をさらに備えたこと、を特徴とする請求項6記載の検査キット。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の検査素子に設けられた一方の光学要素部に光を入射させる投光部と、他方の光学要素部からの光を受光して光の強度に応じた電気信号に変換する受光部と、を備えたことを特徴とする検査装置。
【請求項9】
少なくとも測定対象となる酵素に対する基質と、緩衝液と、前記酵素を含む検体液と、を混合する混合部をさらに備えたこと、を特徴とする請求項8記載の検査装置。
【請求項10】
少なくとも測定対象となる酵素に対する基質と、緩衝液と、前記酵素を含む検体液と、を混合し、請求項1〜3のいずれか1つに記載の検査素子に設けられた保持部の内部に前記混合された液体を所定量供給し、前記検査素子の検出部に設けられた発色剤が発色することで生じる吸光度変化量を求め、前記吸光度変化量に基づいて酵素活性を求めること、を特徴とする検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−55257(P2012−55257A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203118(P2010−203118)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】