説明

検査装置

【課題】検査対象物に存在する孔の検出精度を向上させること。
【解決手段】本発明の実施形態における検査装置は、検査容器の内部に設置された缶体を検査して、缶体に存在する孔の有無を検出する。このとき、検査装置は、缶体の内部空間に設置されたスピーカ40から特定周波数の音波を出力させ、マイクロフォン30により検出させる。検査装置における孔検出部10において、スピーカ40から出力させた音波を示す電気信号と、マイクロフォン30により検出された音波から変換された電気信号と同期検波させる。これにより、検査装置は、缶体を透過した音波の影響をほとんど受けずに、孔を通過した音波の振幅成分を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象物を貫通する孔の有無を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一斗缶、ドラム缶などの缶体の製造時において、缶体に微細な孔が存在してしまう場合がある。そのため、缶体を検査する検査装置を製造ラインに設けることにより、孔が存在する缶体は、不良品として製造工程から除去される。このような検査装置の例として、特許文献1には、缶体内部において検査音を発生させて、孔から缶体外部に漏れる検査音を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−110329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
缶体内部の検査音は、缶体自体をも振動させることになる。この缶体自体の振動により缶体の外部にも音波が透過する。缶体に存在する孔が小さくなるほど、缶体自体の振動により外部に透過した音波により孔から漏れた検査音がマスクされてしまう。このように検査音がマスクされてしまうと、検査音の検出ができなくなるため、小さい孔は検出できず、検出精度の向上が望まれていた。
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、検査対象物に存在する孔の検出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、検査対象物を検査して、貫通する孔の有無を判定する検査装置であって、特定周波数の第1の電気信号を生成する生成手段と、前記生成された第1の電気信号を音波に変換して出力するスピーカと、前記検査対象物を透過した前記音波を検出する位置に配置され、当該検出した音波を第2の電気信号に変換して出力するマイクロフォンと、前記第1の電気信号に対して、前記マイクロフォンと前記スピーカとの位置関係に応じて決められた量の移相処理を施して出力する移相部と、前記移相部から出力された第1の電気信号と、前記マイクロフォンから出力された第2の電気信号とを乗算した乗算信号を出力する乗算部と、前記乗算信号の直流成分の信号レベルが予め決められた検出レベルを越えた場合に、前記検査対象物に前記孔が存在すると判定する判定部とを具備することを特徴とする検査装置を提供する。
【0006】
また、別の好ましい態様において、前記マイクロフォンは、複数設けられ、前記移相部は、前記複数のマイクロフォンの各々に対応した量の移相処理を施した第1の電気信号を、各マイクロフォンに対応して出力し、前記乗算部は、前記移相部から出力された第1の電気信号と、当該第1の電気信号に対応するマイクロフォンから出力された第2の電気信号とを乗算した前記乗算信号を、当該マイクロフォンに対応して出力することを特徴とする。
【0007】
また、別の好ましい態様において、内面が吸音材により構成された部材により、前記複数のマイクロフォンの各々が互いに異なる筒状の空間内に位置するように仕切る仕切部材をさらに具備し、前記筒状の空間は、前記マイクロフォンから前記検査対象物に向けて延びていることを特徴とする。
【0008】
また、別の好ましい態様において、前記検査対象物が内部の空間に配置され、内面に吸音材を有する検査容器をさらに具備し、前記検査対象物が前記内部の空間に配置された状態において、前記内部の空間は、前記検査対象物によって前記スピーカが位置する第1の空間と前記マイクロフォンが位置する第2の空間とに分離されることを特徴とする。
【0009】
また、別の好ましい態様において、前記検査対象物は缶体であり、前記缶体の内部空間が前記第1の空間となり、前記缶体の外面と前記検査容器の内面とに挟まれる空間が前記第2空間となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、検査対象物に存在する孔の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態における検査装置の構成を説明する図である。
【図2】本発明の実施形態における検査容器へ缶体が収容される状態を説明する図である。
【図3】図2(b)に示す矢視III−III方向から見た検査容器および缶体の断面図である。
【図4】本発明の実施形態における孔検出部の構成を説明するブロック図である。
【図5】本発明の変形例1における仕切部材の構成を説明する図である。
【図6】本発明の変形例2における検査対象物と検査容器との関係を説明する図である。
【図7】本発明の変形例3における検査容器へ缶体が収容される状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
図1は、本発明の実施形態における検査装置1の構成を説明する図である。検査装置1は、検査対象物の一例である缶体50(図2参照)を検査して、缶体50に存在する孔を検出する装置である。検査装置1は、検査対象物である缶体50を収容する概ね直方体の形状をしている検査容器20と、検査容器20に収容された缶体50に存在する孔を検出するための構成を有する孔検出部10を具備する。
[検査容器20の構成]
【0013】
図2は、本発明の実施形態における検査容器20へ缶体50が収容される状態を説明する図である。検査容器20は、缶体50を覆う蓋部21と、缶体50が設置される設置台22とを有している。蓋部21の内面側には、複数のマイクロフォン30(マイクロフォン30−1、30−2、・・・(以下、それぞれを区別する必要が無い場合には、マイクロフォン30という))が設けられている。図2、図3においてはマイクロフォン30と記載している。設置台22には、スピーカ40が設けられている。
【0014】
マイクロフォン30は、特定周波数(この例においては、40kHz)を含む帯域の音波(以下、「音波」とは、可聴帯域以外の超音波も含まれるものとする)を検出し、電気信号に変換して出力する。マイクロフォン30は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて作製されたいわゆるシリコンマイクなどを用いてもよい。
スピーカ40は、入力された電気信号を音波に変換して出力する。この例においては、スピーカ40は、上記の特定周波数の音波を周囲に向けて出力することができる構成になっている。なお、特定周波数とは、上記のように可聴帯域以外の周波数に限らず、可聴帯域の周波数であってもよい。
【0015】
図2(a)に示すように、缶体50は、設置台22に設置される。このとき、缶体50の内部に内容物などを導入するために設けられている開口部から、缶体50により構成される内部の空間(以下、単に缶体50の内部空間という)にスピーカ40が導入される。このように缶体50の内部空間に導入されたスピーカ40は、この例においては、缶体50の内部空間中央部に位置するように構成されている。スピーカ40が缶体50の内部空間に導入された後、缶体50の開口部は塞がれるようになっている。なお、スピーカ40の位置は、必ずしも缶体50の内部空間中央部でなくてもよい。
【0016】
続いて、図2(b)に示すように、缶体50を覆うように蓋部21が被せられる。このようにして、缶体50は、検査容器20の内部空間に配置され、缶体50の内部空間にスピーカ40が設置され、蓋部21の内面側に設けられた複数のマイクロフォン30に囲まれた状態となる。この状態において、複数のマイクロフォン30は、収音方向が缶体50を向くように構成されている。
【0017】
検査容器20(蓋部21および設置台22)の内面側は、この例においては吸音材に覆われている。吸音材に覆われることにより、缶体50と検査容器20との間による音波の多重反射が防止される。そのため、缶体50のうち、ある特定のマイクロフォン30の近傍部分を透過、または近傍部分の孔を通過した音波以外の音波が、その特定のマイクロフォン30に到達しにくくなる。
【0018】
図2(b)に示す状態のように、検査対象物である缶体50により検査容器20の内部の空間が、スピーカ40が位置する空間(缶体50の内部空間)と、マイクロフォン30が位置する空間(缶体50の外面と検査容器20の内面とに挟まれる空間)とに分離された状態において、検査装置1は、検査容器20内部に設置された缶体50の検査を開始する。検査装置1は、図2(b)に示す状態になったら自動的に検査を開始してもよいし、図示しない操作部への利用者の操作に応じて開始してもよい。
【0019】
図3は、図2(b)に示す矢視III−III方向から見た検査容器20および缶体50の断面図である。上述したように、蓋部21の内面側には複数のマイクロフォン30が設置され、缶体50の周りを囲むようになっている。
後述するようにして、スピーカ40に電気信号が入力されると、スピーカ40から出力される音波は周囲に広がり、缶体50に到達すると缶体50を振動させることにより、その一部が透過してマイクロフォン30に検出される。また、図3に示すように、缶体50に孔51が存在する場合には、スピーカ40から出力された音波は、孔51を通過してマイクロフォン30に検出される。缶体50の孔51を通過した音波(例えば、図3におけるw1)、および、缶体50を透過した音波(例えば、図3におけるw2)は、これらの音波が到達する部分の近傍におけるマイクロフォン30によって検出される。
【0020】
[孔検出部10の構成]
図4は、本発明の実施形態における孔検出部10の構成を説明するブロック図である。孔検出部10は、缶体50の検査が開始されると動作する構成である。孔検出部10は、信号生成部101および報知部102を有し、さらに、各マイクロフォン30(マイクロフォン30−1、30−2、…を総称してマイクロフォン30という)に対応した検出部100(検出部100−1、100−2、…を総称して検出部100という)を有する。このように、孔検出部10は、マイクロフォン30の数の検出部100を有している。
【0021】
信号生成部101は、スピーカ40から出力させる音波の波形となる電気信号を生成して出力する。この例においては、信号生成部101は、スピーカ40から特定周波数(この例においては40kHz)の音波を予め決められた時間(この例においては、0.375m秒(15周期分))にわたって出力させるための電気信号を生成する。
【0022】
このように、一定時間より短い時間で音波を発生させた場合には、缶体50の内面における音波の反射の影響を除去することができる。一定時間とは、例えば、スピーカ40から出力された音波が最初に孔51に到達してから、別の行路を通った一次反射音波のうち最初の一次反射音波が孔51に到達するまでの時間とするのが望ましい。例えば、缶体50の内面の一辺が238mmであり、スピーカ40が缶体50の内部空間の中心に位置する場合には、スピーカ40から孔51までの長さは119mmである。また、一次反射音波の行路で孔51までの最短の長さは、119×51/2mmであるから、これらの行路差と音速とから算出されるように、一次反射音波は、最初に孔51に到達する音波から約0.43m秒遅れて到達する。したがって、上記の一定時間は、この0.43m秒とすればよい。
【0023】
なお、音波は一定時間以上の長さで出力されてもよく、この場合には、以下に説明する検出部100において電気信号に対して行う処理を、信号生成部101から出力されてから上記一定時間経過するまでの電気信号に限定して処理することが望ましい。
【0024】
続いて、検出部100について説明する。ここでは、マイクフォン30−1に対応する検出部100−1について代表して説明する。なお、マイクロフォン30−2、30−3・・・に対応する検出部100−2、100−3、・・・については、検出部100−1と同様の構成を有するため、説明を省略する。
【0025】
マイクロフォン30−1に対応する検出部100−1は、移相部110−1、乗算部120−1、LPF(ローパスフィルタ)130−1および判定部140−1を有している。なお、以下の説明において、検出部100−1、100−2、・・・をそれぞれ区別しない場合には、検出部100といい、移相部110、乗算部120、LPF130、判定部140についても同様である。
【0026】
移相部110−1は、信号生成部101から出力された電気信号に対して、移相処理を施して出力する。この移相処理により変化する電気信号の位相は、スピーカ40とマイクロフォン30−1との位置関係に応じて予め決められている。この移相処理は、信号生成部101から出力された電気信号が示す音波の位相と、マイクロフォン30−1により検出される音波のうち缶体50の孔を通過した音波の位相とが合うように調整して、検出部100−1において同期検波するための処理である。
【0027】
そのため、移相処理により移相される量は、スピーカ40から出力された音波が缶体50の孔を通過してマイクロフォン30−1において検出されるまでの時間、すなわち、スピーカ40とマイクロフォン30−1との距離(位置関係)に応じて決められる。
なお、その他のマイクロフォン30、例えばマイクロフォン30−2に対応する検出部100−2における移相部110−2には、スピーカ40とマイクロフォン30−2との位置関係に応じて決められた量が、移相処理により移相される量として設定される。
【0028】
乗算部120−1は、移相部110−1によって移相処理が施されて出力される電気信号と、マイクロフォン30−1から出力される電気信号とを乗算した乗算信号を出力する。
LPF130−1は、乗算部120−1から出力された乗算信号のうち、直流成分を抽出して出力するローパスフィルタである。
判定部140−1は、LPF130−1から出力された乗算信号の直流成分の信号レベルが予め決められた検出レベルを越えた場合に、缶体50のうちマイクロフォン30−1の近傍において孔が存在すると判定する。そして、判定部140−1は、判定結果を示す判定情報を出力する。
以上が、検出部100−1の構成についての説明である。
【0029】
報知部102は、検出部100−1、100−2、・・・における判定部140−1、140−2、・・・から出力される判定情報を取得して、いずれかの判定情報において孔が存在する判定結果を示す場合には、缶体50を検査した結果として缶体50に孔が検出されたことを報知する。報知の態様としては、表示画面に缶体50の検査結果を表示してもよいし、音、振動、匂いなど、検査者が認識可能なものであれば、どのようなものであってもよい。なお、指示された缶体50を製造ラインから除去する装置に対して、報知部102は、上記の報知とともに、または報知に代えて、孔が存在する検査結果が得られた缶体50を製造ラインから除去する指示をするようにしてもよい。
【0030】
また、報知部102は、マイクロフォン30と缶体50との位置関係を記憶しておき、以下の処理をしてもよい。報知部102は、孔が存在する判定情報について、これが出力された検出部100に対応するマイクロフォン30の位置を特定する。そして、報知部102は、特定した位置と対応する部分の缶体50を示す表示などにより、缶体50のうち、どの部分に孔が存在するかを示す報知を行ってもよい。
以上が、孔検出部10の構成についての説明である。
【0031】
[孔検出原理]
次に、孔検出部10における孔の検出原理について説明する。まず、スピーカ40から出力される音波について、移相部110において移相処理された音波を示す電気信号をsin(ωt)とする。マイクロフォン30において検出される音波のうち、孔51を通過した音波w1が示す電気信号をAsin(ωt)、缶体50を透過した音波w2が示す電気信号をBsin(ωt+θ)とする。すなわち、マイクロフォン30において検出される音波はAsin(ωt)+Bsin(ωt+θ)と表される。
【0032】
音波w2が示す電気信号におけるθは、缶体50を透過するときに変化する位相を示す。音波w1は、孔51を通過するときに位相はほとんど変化しないため、θは、音波w1と音波w2との位相差に対応する。音波w2の缶体50への入射波は音圧pi、粒子速度vi、缶体50からの反射波は音圧pr、粒子速度vr、缶体50を透過する透過波は音圧pt、粒子速度vt、缶体50は面密度m、粒子速度vw、機械インピーダンスZw、空気の密度ρ、音速cとすると、以下の関係式を満たす。
(pi+pr)−pt=Zw・vw = jωm・vw
vw = vi−vr = vt
vi = pi/ρc、vr = pr/ρc、vt =pt/ρc
したがって、
pi=pt・(1+jωm/2ρc)
となる。
【0033】
ここで、缶体50が、厚さ0.32mmのスチール(密度が7800kg/m)で構成されているとすると、音波の周波数が1kHzで音圧ptの「実数部:虚数部」が概ね「1:19」となり、音圧piと音圧ptとの位相差はほぼ90°となる。さらに音波の周波数が高くなれば、位相差は、より90°に近づくことになる。
【0034】
乗算部120から出力される乗算信号は、以下に示す式により表される。
sin(ωt)×{Asin(ωt)+Bsin(ωt+θ)}
= Asin(ωt)+Bsin(ωt)sin(ωt+θ)
= (A/2){1+cos(2ωt)}+(B/2){cos(θ)+cos(2ωt+θ)}
= (A/2)+(B/2)cos(θ)+(A/2)cos(2ωt)+(B/2)cos(2ωt+θ)
となる。
【0035】
この乗算信号からLPF130における処理により直流成分を抽出して得られる信号の信号レベルSLは、以下の式で表される。
SL=(A/2)+(B/2)cos(θ)
【0036】
ここで、上述のとおりθはほぼ90°であるから、第2項はほぼ「0」となり、信号レベルSL=A/2となる。すなわち、上述に示す孔検出部10において同期検波をすることで、音波w2における振幅Bの影響をほとんど受けずに、音波w1の振幅Aに応じた信号レベルSLの信号を判定部140において得ることができる。
【0037】
したがって、缶体50に孔が存在しない場合には、音波w1はマイクロフォン30に到達しないから、A=0、すなわち、信号レベルSLは「0」となる。そのため、判定部140は、検出レベルを「0」として、信号レベルSLが「0」でない場合には、缶体50に孔が存在すると判定すればよい。なお、判定部140は、測定ノイズなどを考慮して、信号レベルSLが予め決められた値として決められた検出レベルを超えた場合に、缶体50に孔が存在すると判定してもよい。
【0038】
このように、検査装置1は、検査容器20の内部に設置された缶体50を検査して、缶体50に存在する孔の有無を検出する。このとき、検査装置1は、缶体50の内部空間に設置されたスピーカ40から特定周波数の音波を出力させ、マイクロフォン30により検出させる。検査装置1における孔検出部10において、スピーカ40から出力させた音波を示す電気信号と、マイクロフォン30により検出された音波から変換された電気信号と同期検波させる。これにより、検査装置1は、缶体50を透過した音波w2の影響をほとんど受けずに、孔を通過した音波w1の振幅成分を得ることができる。
【0039】
<変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな態様で実施可能である。
[変形例1]
上述した実施形態において、缶体50を透過する音波がマイクロフォン30に到達するときに、缶体50とマイクロフォン30との最短距離で到達する音波以外の斜め方向からの音波についてもマイクロフォン30において検出される場合には、以下に示すような仕切部材を各マイクロフォン30に対応した位置に設けてもよい。このように構成することにより、缶体50の振動により透過した音波が斜め方向からマイクロフォン30に到達しないようにすることができる。
【0040】
図5は、本発明の変形例1における仕切部材25の構成を説明する図である。図5(a)は、図3に示す場合と同様の方向からみた場合の検査容器20Aの蓋部21と缶体50との間を拡大して示した図である。図5(b)は、図5(a)に示す矢視V−V方向にみた場合の断面図である。仕切部材25は、内面が吸音材により構成された部材であり、図5に示すように、蓋部21に接続され、複数のマイクロフォン30の各々が互いに異なる筒状の空間に位置するように仕切る。
【0041】
仕切部材25が構成する筒状の空間は、マイクロフォン30から缶体50に向けて延びた構成になっている。この筒状の空間は、角柱形状であり、この例においては、底面は正方形であり、一辺の長さがW、筒の缶体50側の先端からマイクロフォン30までの長さがD、筒の先端から缶体50までの距離がGである。この場合には、缶体50からマイクロフォン30まで最短で到達する音波の行路Lと斜めから到達する最長の行路Laの行路差ΔLは、以下の式で表される。
ΔL = (D+G)(1/(sin(α)−1))
tan(α)=D/(W/2)
【0042】
具体的な数値として、W=25mm、G=25mm、D=250mmとすると、ΔL=0.34mmとなる。スピーカ40から出力される音波の特定周波数が20kHzとした場合には、行路Laを通った音波と行路Lを通った音波との位相差は7.2°である。そのため、判定部140に入力される信号の信号レベルSLには、行路Lの音波だけの場合と比べて缶体50を透過した音波の成分が含まれ、完全には除去されないことになるが、cos(90°−7.2°)=0.125であるから、少なくとも18dB以上の低減効果は認められることになる。
【0043】
[変形例2]
上述した実施形態において、検査対象物は、缶体50であったが、容器となる形状ではなく板状の部材であってもよい。この場合には、図6に示すように、検査容器20Bの蓋部21Bを構成すればよい。
【0044】
図6は、本発明の変形例2における検査対象物50Bと検査容器20Bとの関係を説明する図である。図6は、図3に示す場合と同様の方向からみた場合の検査容器20Bの蓋部21Bと板状の部材である検査対象物50Bとの間を拡大して示した図である。蓋部21Bは、検査対象物50Bを保持する保持部210Bを有している。検査対象物50Bが保持部210Bによって蓋部21Bに保持されると、検査容器20Bの内部の空間は、スピーカ40が位置する空間と、マイクロフォン30が位置する空間とに分離される。
この状態において、孔検出部10は、スピーカ40から音波を出力させて、マイクロフォン30により検査対象物50Bを透過した音波、および孔51Bを通過した音波を検出することにより、検査対象物50Bにおける孔51Bの存在の有無を判定することができる。
【0045】
なお、検査容器20Bは、必ずしも密閉された空間を内部に構成しなくてもよい。すなわち、スピーカ40から出力された音波が検査対象物を透過して、透過した音波がマイクロフォン30において検出されるような位置関係に構成されていればよい。
【0046】
[変形例3]
上述した実施形態においては、缶体50の下面側(設置台22側)にはマイクロフォン30が設けられていなかったが、マイクロフォン30が設けられた構成としてもよい。この場合の構成について、図7を用いて説明する。
【0047】
図7は、本発明の変形例3における検査容器20Cへ缶体50が収容される状態を説明する図である。図7は、実施形態における図2に対応する図である。図7(a)に示すように、缶体50は、その下面側と設置台22Cとが接しないように、設置台22Cの上面に設けられた支柱221により支持される。図7(b)に示すように、蓋部21Cが缶体50を覆うように被せられたときに、缶体50の下面と設置台22Cの上面との距離が、缶体50の上面(または側面)と蓋部21Cとの距離とほぼ同じになることが望ましい。
【0048】
また、設置台22Cには、複数のマイクロフォン30が設けられている。これらのマイクロフォン30は、缶体50が支柱221により支持された状態において、収音方向が缶体50を向くように構成されている。図7(b)に示す状態において、検査装置1は、実施形態と同様に缶体50を検査して、缶体50に存在する孔の有無を検出する。この構成によれば、缶体50の下面側における孔の有無についても検出することができる。
【0049】
[変形例4]
上述した実施形態において、音波を検出するマイクロフォン30は、複数設けられていたが、単数であってもよい。孔検出部10は、単数のマイクロフォン30であっても、そのマイクロフォン30の近傍における検査対象物に存在する孔の有無を検出することができる。
【0050】
[変形例5]
上述した実施形態においては、缶体50を透過する音波w2は、缶体50の透過により、変化する位相θは、概ね90°であったが、必ずしも90°にならなくてもよい。すなわち、90°であるのは理想的な場合であって、缶体50の材質、スピーカ40から出力される音波における特定周波数の設定内容などの影響により、変化する位相θが60°であったとしても、信号レベルSLのうち、音波w2の振幅に応じたレベルをcos(60°)=1/2に低減することができるから、孔検出部10の構成を用いない場合に比べて、孔の検出精度は向上する。
【0051】
[変形例6]
上述した実施形態においては、スピーカ40から出力される音波の特定周波数は、一つの周波数として決められていたが、複数の周波数を特定周波数としてもよい。この場合には、孔検出部10は、信号生成部101において生成する電気信号の周波数を、時系列に分割して切り替えて、それぞれの周波数の音波を用いて、孔の検出を行うようにしてもよい。
【0052】
そして、判定部140は、複数の周波数の全てにおいて孔が存在すると判定した場合に、孔が存在する判定結果を示す判定情報を出力してもよい。なお、判定部140は、いずれかの周波数において孔が存在すると判定した場合に、孔が存在する判定結果を示す判定情報を出力するようにしてもよい。
【0053】
[変形例7]
上述した実施形態においては、孔検出部10は、ハードウエアの構成として説明したが、コンピュータが特定のプログラムを実行することによって実現してもよい。この場合には、スピーカ40およびマイクロフォン30と接続するインターフェイスを有するコンピュータに、この特定のプログラムをインストールしておく。そして、コンピュータのCPUなどを有する制御部は、特定のプログラムを実行して、孔検出部10の各構成をソフトウエアの構成として実現する。そして、コンピュータの制御部は、インターフェイスを解してスピーカ40に電気信号を出力し、マイクロフォン30から電気信号を取得して、ソフトウエアの構成として実現されている孔検出部10の乗算部120に出力するようにすればよい。
【符号の説明】
【0054】
1…検査装置、10…孔検出部、20,20A,20B,20C…検査容器、21,21A,21B,21C…蓋部、22,22C…設置台、25…仕切部材、30,30−1,30−2,・・・…マイクロフォン、40…スピーカ、50…缶体、50B…検査対象物、51,51B…孔、100−1,100−2,・・・…検出部、101…信号生成部、102…報知部、110−1,110−2,・・・…移相部、120−1,120−2,・・・…乗算部、130−1,130−2,・・・…LPF、140−1,140−2,・・・…判定部、210B…保持部、221…支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を検査して、貫通する孔の有無を判定する検査装置であって、
特定周波数の第1の電気信号を生成する生成手段と、
前記生成された第1の電気信号を音波に変換して出力するスピーカと、
前記検査対象物を透過した前記音波を検出する位置に配置され、当該検出した音波を第2の電気信号に変換して出力するマイクロフォンと、
前記第1の電気信号に対して、前記マイクロフォンと前記スピーカとの位置関係に応じて決められた量の移相処理を施して出力する移相部と、
前記移相部から出力された第1の電気信号と、前記マイクロフォンから出力された第2の電気信号とを乗算した乗算信号を出力する乗算部と、
前記乗算信号の直流成分の信号レベルが予め決められた検出レベルを越えた場合に、前記検査対象物に前記孔が存在すると判定する判定部と
を具備することを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記マイクロフォンは、複数設けられ、
前記移相部は、前記複数のマイクロフォンの各々に対応した量の移相処理を施した第1の電気信号を、各マイクロフォンに対応して出力し、
前記乗算部は、前記移相部から出力された第1の電気信号と、当該第1の電気信号に対応するマイクロフォンから出力された第2の電気信号とを乗算した前記乗算信号を、当該マイクロフォンに対応して出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
内面が吸音材により構成された部材により、前記複数のマイクロフォンの各々が互いに異なる筒状の空間内に位置するように仕切る仕切部材をさらに具備し、
前記筒状の空間は、前記マイクロフォンから前記検査対象物に向けて延びている
ことを特徴とする請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記検査対象物が内部の空間に配置され、内面に吸音材を有する検査容器をさらに具備し、
前記検査対象物が前記内部の空間に配置された状態において、前記内部の空間は、前記検査対象物によって前記スピーカが位置する第1の空間と前記マイクロフォンが位置する第2の空間とに分離される
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の検査装置。
【請求項5】
前記検査対象物は缶体であり、
前記缶体の内部空間が前記第1の空間となり、前記缶体の外面と前記検査容器の内面とに挟まれる空間が前記第2空間となる
ことを特徴とする請求項4に記載の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−112713(P2012−112713A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260247(P2010−260247)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】